本章では 、白山国 立公園の別当出 合登 山口で登山者を 対象 に実施したアン ケー ト 調査についてま とめ た。調査票の回 収数 は無効回答
18
部を含 め405
部であった。仮 想 評 価 法 を 用 い て 白 山 の 登 山 道 か ら 見 る こ と の で き る 高 山 植 物 を 貨 幣 評 価 し た 結果、中央 値は
846
円、平均値(最大 提 示額で裾切り )は896
円であった 。この推 定 結 果 か ら 、 白 山 の 年 間 登 山 者 数 を5
万 人 と し て 年 間 便 益 に 換 算 す る と そ れ ぞ れ4230
万円と4480
万円である。つま り、 登山者は白山の 高山 植物保全に対し て年 間4000
万円以上の便益 を認識している こと になる。これを白山国立 公園 の国直轄事業費(2010 年から
2018
年まで の年平均1
億3000
832.1
648.9
466.7
609.5
847.4
583.1
333.3
684.4
300 400 500 600 700 800 900
支払意志額
知識の獲得過程
変数 係数 t値 p値
constant 15.553547 17.886432 1.062E-50 ***
ln(Bid) -2.279223 -17.98097 3.381E-51 ***
how to -0.028085 -0.538705 0.5904448
n 338
対数尤度 -409.8905
( 円 )
44
万円)37と比較すると、推定した 年間便 益は その
3
割に相当 する 金額であ る。また、仮 想 評 価 法 で 設 定 し た シ ナ リ オ に お け る 協 力 金 を 一 切 支 払 い た く な い と い う 登 山 者は少数であり 、多 くの登山者が高 山植 物保全に協力的 であ ることも確認す るこ と ができた。
次に、支払 意志額 と 登山者がもつ 高山 植物に関する 知 識に ついて 、統計 分析し た 結果、知識の 量と支 払意志額の間に は有 意な関係が見ら れた 。植物の名前 や特徴 に 詳しいほど 、提示し た支払意志額を 承諾 する上限が上が る傾 向にあることが 確認 さ れ た 。 し か し そ の 知 識 に は 偏 り が あ り 、 名 前 を 回 答 し た 登 山 者 は 多 く み ら れ た が 、 特徴について知 って いる登山者は少 数で あった。
最後に知識の 獲得 過程に関して は 、支 払意志額との間 には 有意な関係は見 られ な かった。高山 植物に 関する知識の 獲 得過 程としては、植物に 詳しい友達から 学ん だ 人や独学でイン ター ネットや図鑑か ら学 んだ人、施 設の展示 物等から学ぶ 登 山者 が 多く見られた。しか し、知識の獲得 過程 と知識量に関し ても 、目立った特徴 は確 認 することはでき なか った。
37 環 境 省 資 料 よ り 筆 者 計 算 。2009年 以 前 の 資 料 は 見 当 た ら な か っ た 。
環 境 省 自 然 公 園 等 事 業 費 事 業 実 施 箇 所: https://www.env.go.jp/nature/park/koufukin/ (access ed 2019.1.14)
45
第
6
章.
考察前章では、白山国 立公園の別当出 合登 山口にて実施し たア ンケート調査の 結果 に ついてまとめた。本章 では、本研究で算 出し た支払意志額 と 知識 との関係につい て 、 既存研究を基に 考察 する。
1.
他の国立公園における入域料 評価との比較白山国立公園にお いて、本研究で 算出 した高山植物保 全に 対する登山者の 支払 意 志額は、中 央値で
846
円、平均値(最大 提 示額で裾切り )で896
円であった 。本研 究で算出した金 額は 、別当出合登 山口に て、高山植物 保全な いしは環境保全 活動 の 協力金を入域料 とし て、任意で徴収 する ことを仮定して 算出 したものである 。同様に、吉田(2015)は屋久島、白 神山地(国立公園に 指定は されていない )、知 床、小笠原諸島、富 士山 の入域料に つい て、仮想評価法を用 いて 評価してい る。そ の研究では 、上記の 世界遺産地域に おい て入域料の支払 いが 義務付けられた と仮 定 した場合の支払 意志 額を 全国規模で 尋ね ており、その中央値 は
1,125~ 1,569
円、平均値は
2,200~ 2,890
円であったと報 告し ている。また、釧路 湿原においては 、公 園の 利 用 料 金 が 任 意 で 徴 収 さ れ て い る と 仮 定 し た と き の 支 払 意 志 額 を 訪 問 者 に 尋 ね 、 中央値は
2,398
円、平均値は4,405
円であ ったという報告 もあ る(栗山, 1998: 67)。
これらの既存 研究 で 共通する結論 は、公園内の生態系 保全 に 入域料が使用 され る ことを、利用者 が最 低でも
1,000
円以上に評価している こと である。 また、 それ ら の 支 払 意 志 額 を 増 加 さ せ る 要 因 は 、 対 象 地 へ の 訪 問 経 験 の 豊 富 さ と ( 吉 田, 2015:
204-206)、生態 系へ の関心や知識 だ と分 析されている( 栗山 , 1998: 67)。そこで、
本研究の結果と これ らの要因につい て 比 較し、考察する 。
まず、本ア ンケー ト調査 では、対象地 への訪問経験が 支払 意志額を増加さ せる と いう吉田(2015)の 分析とは異なる 結果 が確認された。 白山 登山の経験者 ( 訪問
2
回目以上)は回 答者 全体の57%であった が、初めての登 山者 の支払意志額の 平均 と
比 較 し て 高 い と は 言 え ず 、 登 山 経 験 は 支 払 意 志 額 決 定 の 規 定 因 と は な ら な か っ た 。 これは、登 山目的を 達成するための 最低 限の金額を入山 料と して支払 いたい とい う 意向だと考えら れる 。なぜなら、表5-2
に示すように、回答 者の登山目的が 分か れ ており、必ずし も白 山国立公園の自 然環 境に 関わるわけ では ないからである 。一方、今回の結 果は、関心や知識があ れば 支払意志額が増 加す る という栗山(1998)
の分析を支持す る結 果となった。本研究 では、高山植 物の知 識をクイズ形式 で尋 ね ることで、登 山者の もつ知識を定量 化し たが、知識の 量と支 払意志額の間に は有 意 な関係性(フル モデ ル分析
; t=3.0, p< 0.01)を確認することが できた。つまり 、高
山植物に関して 詳し いほど、高額な 支払 意志額を 示す傾 向が ある。46
しかし、前 述した既存 研究で示されて いる 金額は 中央値で
1,125
円から2,398
円、平均値で
2,200
円か ら4,405
円であり、 いずれも本研究 で示 した 中央値846
円、平均値
896
円よりも高 額であ った。そ の理 由は 以下の2
つ だと 考える。まず
1
つ目は 、前述 した既存研究は 釧路 湿原を除いて 、世界 遺産を対象にし てい ることである 。世界 遺産は人類全体 の 遺 産として認識さ れて いるため、支 払意志 額 も高額になる傾 向が あると考えられ る 。2
つ目は、白山の特 徴が十分に認識 され ていな い可能性 があ ること である。 白山 国立公園は普通 地域 を持たない公園 であ り、言い換え れば、特別地域のみで 指定 さ れた原生的な自 然環 境 であるといえ る。また、白山国 立公園 の特別保護地区 の面 積割合は
34%であり、全国立公園のう ち 5
番目の広さであ る。 これは、上述の 既存 研究で研究対象と され ている小笠原、屋久 島、富士山、釧路湿 原の特別保護地 区の 面 積よりも広く 、面積 割合も 大きい 。関心 や知識があれば 支払 意志額が増加す るこ と は、登山者の 高山植 物の知識量を定 量化 することで 確認 でき たが、その こ とに詳 し い登山者の数は 少な く、登山目的 の多様 化に見られるよ うに 、高山植物を 含め自 然 環境への関心の 薄さ が 課題であると 考え られる 。
このことから 、第
3
章で述べたよう に、保護対象 種の希 少性 を理解すること が意 志の決定に影響 があ るとすれば 、白山国 立公園の 高山植 物の 貴重さ を伝える こと が、保全意識の向上 に有 効だと 考えられ る。つまり、高山 植物の 保全への支持を 高め る に は 、 白 山 の 高 山 植 物 に つ い て の 理 解 を 促 進 す る 手 段 が 有 効 だ と い う こ と で あ る 。
ま た 、 名 前 と 特 徴 そ れ ぞ れ の 正 答 数 と 支 払 意 志 額 の 関 係 を 分 析 す る と 、
10%有 意
水準ではあるが、名 前の 正答率の方 が支 払意志額への影 響が 強かった 。つまり 、「特 定の高山植物の 存在 の認知」に関する知 識の方が、「高 山植物 の詳しい生態」に関 す る知識に比べて 、高 山植物保全に対 する 支払意志額を増 加さ せる可能性が高 いと 考 えられる。この結果 から、例えば、クロ ユリは登山者の 大部 分が知っている が、よ り多種の高山植 物の 名前などの周知 を図 る方が、支 払意志額 の決定に影響す る可 能 性 が 考 え ら れ る 。 ま た 、 知 識 よ り も 周 知 が 有 効 で あ れ ば 、 い わ ゆ る 「 ゆ る き ゃ ら 」 等にクロユリを 変換 して周知させる 方法 もあるだろう。また、本アン ケート 調査 の結果によ れば 、提示した支 払意志 額を全て拒否し た登 山者は、表
5-3
に示すように全体の およ そ7%と少数であった 。この結果 は、高山 植
物保全に対する 協力 金徴収に協力的 だと いうことであり 、上 記の既存研究を おお む ね支持するもの とな った。登山目 的に関 わらず協力的な 傾向 が見られるため 、自 然 観賞を目的とし ない 登山者に対して も、積極的に高山植 物の 価値を伝え理解 を促 し、関心を集めるこ とに よって、本 研究の提 示額よりも高額 な支 払い金額 が容認 され る ものと考えられ る。
47
2.
知識の獲得過程に関する考察「国内旅行の情 報 収集」について、株 式会社
JTB
は2018
年5
月7
日か ら14
日ま で、ウェブアン ケート 調査を実施した38。その 結果によれば、有効回 答1367
のうち、旅行前の情報の 入手 方法として最も 多い のが、「
WEB
サイト 」で全体の85%、次に
「ガイドブック」で 全体の
75%、「旅行会 社」で全体の 44%と続き、多くがインター
ネットや雑誌か ら情 報を得ている 。一方 で、旅行中の 情報の 入手方法として 最も 多 いのは、「WEB
サイト 」で全体 の66%、次に「ガイドブ ック」で 全体の 63%で旅行前
と同様の傾向だ った が、その次には「ホテ ルフロント」で全体 の42%、
「観光案 内所 」で全体の
40%と続き、旅行前と比較 する と、人から情報 を得 ている割合が増 加し て
いる。
本 研 究 で 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 で は 、 高 山 植 物 に 関 す る 知 識 は 、「 友 達 か ら 教 わる」が全 体の
24%で最も多く、次に「 独 学で学ぶ」が全体の 19%、
「 山小屋など の 施設で学ぶ」が 全体 の18%という結果と なった。 特に 18%の現地の山小屋で 学ぶ 登
山者に対して 、白山 の山小屋の現場 での 学習条件を変え るこ とは効果的だと 考え ら れる。しかし 、一般 に山小屋には登 山や 天候情報が主に 掲示 されており、高 山植 物 の情報について は必 ずしも優先され ては いない。しかし 、各 掲示や案内に、クロ ユ リなどの高山植 物を 登場させるなど の工 夫はできるはず であ り、その効 果がある 程 度は期待できる とい う結果となった 。白山では表
5-2
に示すように、4
人以 上のグループで の登 山者が53%を占めて い
る。このことか ら、高山植物につい て友 達から教わ った とい う登山者は、グ ルー プ のメンバーに高 山植 物について よく 知る 人が存在し 、その人 から知識を得て いる 可 能性がある。な ぜな ら、アンケート 調査 票回収の際に、一定 の回答者からそ の旨 を 聞いたからであ る。また、松村・谷村(2005: 516)は人が集団 行動をする際 に 、他 人の考えや行動 を 知 る こ と が 、 環 境 保 全 に 対 す る 意 識 や 行 動 の 変 容 に 影 響 す る こ と を 分 析 し て い る 。 これを踏まえる と、複数で登山をす る グ ループ登山の 場 合は 、誰かが積極 的に自 然 について解説し たり 、環境に配慮 した行 動を見せ たりす るこ とで、残りの メンバ ー に影響を与えら れる ことも考えられ る。
このことから 、本研 究では、知識 の獲得 過程と支払意志 額の 関係に有意な差 は見 られなかったが (フ ルモデル分析
; t=-0.54, p> 0.5)、複数人 で 登山をするので あれ
ば、環境保全 に関心 があるメンバー の存 在が、全体の 保全意 識を高める上で 重要 で あり、支払意志 額に 影響を与えてい る 可 能性がある。
38 JTB 「 国 内 旅 行 の 情 報 収 集 」 に つ い て: http://www.jtb.co.jp/myjtb/jlabo/miru/kekka_real_18 0507.asp (accessed 2019.1.25)