本章では,Ambainisにより提案された,3次元量子状態を使用した量子コイン 投げを拡張し,n次元量子状態を使った量子コイン投げの提案を行なった.その結 果,AliceとBobのバイアスはそれぞれAlice = 1/4 + (3/4−1/(1 +X)),Bob= 1/4−(3/4−1/(1 +X))という結果が得られた.これは一方のバイアスを犠牲にす ることで,もう一方のバイアスを任意に小さくすることが可能であることを意味 している.さらに,両者のバイアスを= 0とすることはできないが,片方のみな らばバイアスを= 0とすることができることを示している.この結果より,様々 な状況への適用が期待できる.また,X = 1/3としたとき,Alice =Bob= 1/4と なり,Ambainisにより提案されたコイン投げも,特別な場合として提案プロトコ ルに含まれているといえる.
第 5 章
量子秘密分散
本章では,本論文の二つ目の成果である量子秘密分散法について述べる.5.1節
で3.2.3で述べたSmithのプロトコルを基とした提案方法を,5.2節において提案
プロトコルの評価を行い,5.3節において構成法に従い,秘密が量子状態2つであ り,それを4人中3人が持つシェアにより復元できる量子複数秘密分散を構成する.
5.1 提案方式
本節では,複数の秘密の量子状態をもつ量子複数秘密分散法の定義を与えた後,
構成法を示す.
5.1.1 量子複数秘密分散法
量子複数秘密分散法を以下のように定義する.
定義 5 参加者の集合をP,秘密の量子状態の集合を{S1, . . . , Sm}とする.各々の 秘密Siに対し,純粋化に用いた補助系をRi,Access構造をΓiとする.さらに,各 ΓiについてTi ={R1, . . . , Rm} \ {Ri}とする.このとき,任意のi (1≤i≤m)に ついて以下の2つの条件を満たすものを,量子複数秘密分散法と定義する.
1. Recoverability
任意のA∈Γiに対し,I(Ri :TiA) =I(Ri :Si).
2. Secrecy
任意のB ∈Γiに対し,I(Ri :TiB) = 0.
この定義は秘密がひとつの秘密分散法を複数の秘密を持つように拡張したもの である.すなわち,(1)は秘密Siを分散させた量子操作に対し,その逆変換が存 在することを示している.(2)については系Bと標的の秘密以外の補助系Tiを 分散させた量子操作に対して,逆変換が存在しないことを示す[28].また,秘密が S1のみの場合を考えると,その純粋化に用いた補助系はR1のみであり,したがっ てT1 =∅であるので,定義4と一致する.
また,特別なAccess構造を持つ量子複数秘密分散法として,(m, t, d)量子閾値 複数秘密分散法を定義する.
定義 6 秘密状態をm個,シェアをd個とし,そのうち任意のt個以上のシェアを 集めることで全ての秘密の状態を復元できる量子複数秘密分散法を(m, t, d)量子 閾値複数秘密分散法という.
5.1.2 提案法
提案法は既存のMSPを用いた単一秘密の量子秘密分散法[44]を複数秘密分散法 に拡張することにより構成する.シェアの生成は,Smithの方法と同じく,MSP によるFq上の行列Mに対応する等長写像θMにより行う.参加者の部分集合Aに よりj番目の秘密状態の復元を行うときは,Aとgで対応するM の部分行列MA
から,ターゲットベクトルejを作成することにより行う.しかしながら,単一秘 密分散法におけるMSPは,作成できるターゲットベクトルが1つであるため,量 子複数秘密分散法へ単純に適用することはできない.そこで,複数のターゲット ベクトルに適用できるようにMSPを拡張する.しかしながら,MSPで構成され た任意の単一秘密分散法がSecrecyを満たしていたのに対し,量子複数秘密分散法 では,MSPの行列Mの採り方によりSecrecyを満たさない場合が存在する.その 考察は5.2節において行う.なお,本論文で提案するMSPの拡張法により,MSP を用いた古典の単一秘密分散法を,古典複数秘密分散法に拡張することもできる.
しかしながら,量子秘密分散法においては,古典にはない純粋化などの量子操作が
存在する.したがって,それらについても考慮したうえで,拡張する必要がある.
以下では秘密状態がm個あり,それぞれの秘密に関して任意のAccess構造をも つ量子複数秘密分散法を提案する.まず,シェアの生成と配布について述べる.
•ディーラによるシェアの生成及び配付
(1) 複数の秘密の量子状態が正規直交基底|iSj(i∈Fq)で張られる状態空間Sjに より与えられたとする.そのときの各秘密の量子状態の正規直交分解を以下 のようにおく.
ρS1 =
i∈ q
p1i|iS1iS1|, ρS2 =
i∈ q
p2i|iS2iS2|,
... ρSm =
i∈ q
pmi|iSmiSm|.
さらに,秘密情報SjをSjと同じ状態空間Rjで純粋化する.Rjの基底を|iRj とすると,
|RjSj =
i∈ q
pji|iRj ⊗ |iSj
となる.
(2) 状態|REE= 1/
qe−m
a∈ e−mq |a ⊗ |a1を用意する.
(3) ディーラは合成系RSEに対してIR⊗θM :HR⊗ HS⊗ HE → HR⊗ HP を適 用する.すなわち,
(IR⊗θM)(|RS ⊗ |E) = |RP. ここでR=|R1· · ·Rm ⊗ |REとする.
(4) 参加者xkに対して,Mg−1(xk)で生成された系の量子状態を配付する.
なお,以降では簡単化のため,|P| = dであり,k番目の参加者xkに対し,
xk =g(k)であるとする.
1評価におけるエントロピーの計算を簡単にするため純粋化した状態を使用.
• 秘密情報の復元
秘密Sjを復元するAccess構造をΓjとし,A∈Γjとする.V を,M に適用しター ゲットベクトルejを生成する復元行列,すなわち,補題3の(1)を満たす行列 V とし,その等長写像をθV とする.系AにθV を適用することにより,秘密情報 を復元できる.