第 9 章 Si 基板上 (Ba,Eu)Si 2 S 5 蛍光体層を用いた無機エレクトロルミネッセンス素子の試作 127
9.4 第 9 章まとめ
9.4 第 9 章まとめ
Si基板上チオシリケート蛍光体層の発光素子応用の可能性を示すために本研究で作製した Si基板上
(Ba,Eu)Si2S5蛍光体層を用いた無機EL素子構造を考案した.絶縁破壊防止と素子全体の容量の増加を
期待して,絶縁層であるSiO2層を2つのSi層の間に持つSi基板(Silicon On Insulator: SOI)の上に
(Ba,Eu)Si2S5蛍光体層を作製した.蛍光体層は走査型電子顕微鏡を用いた観察によりサブミクロン粒子
で構成されていることがわかった.また,SOI基板上蛍光体層の断面も観察したところ,蛍光体層の厚さ は2 µmであることが明らかになった.SOI基板上蛍光体層を用いて作製した素子からはPLスペクトル と同様のELスペクトルが得られた.ELスペクトルは(Ba,Eu)Si2S5蛍光体内のEu2+イオンの5d-4f 軌道間遷移に起因する発光であるといえる.Eu2+イオンはホットキャリアによる衝突励起過程を経て発 光していると考えられる.
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第 10 章
結論
本論文ではチオシリケート蛍光体の発光素子への応用を目指して,(Ba,Eu)Si2S5蛍光体に関する研究 および新規希土類チオシリケート蛍光体に関する研究についてその成果を示した.
10.1 (Ba,Eu)Si
2S
5蛍光体に関する研究
第 2章から第 4 章に示した成果は,Si基板上への蛍光体ベースの光源を作製することを目的とし たものである.今回は,より高効率に発光するチオシリケート蛍光体層をSi基板上に作製するために
(Ba,Eu)Si2S5蛍光体粉末の結晶構造と発光特性に関して詳細な報告を行うと共に,Eu賦活バリウムチオ
シリケート蛍光体のSi基板上への作製および評価を行った.各章で得られた成果を以下に示す.
第2章:(Ba,Eu)Si2S5蛍光体粉末の結晶構造
Ba1−xEuxSi2S5(x: Eu濃度)蛍光体粉末の作製法を確立した.BaSi2S5が結晶空間群C2に属する単 斜晶系の結晶であることを初めて明らかにした.また,ユーロピウムチオシリケートの新規結晶相である EuSi2S5結晶を初めて見出した.Ba1−xEuxSi2S5蛍光体についてEu濃度(0≤x≤1)ごとに格子定数 を見積もり,Ba2(1−x)Eu2xSiS4の結果と比較した.格子定数のEu濃度依存性は,先行研究で明らかにし た(Ba,Eu)2SiS4蛍光体 [105]に比べて等方的であり,格子定数の変化率も半分ほど小さいことが明らか になった.BaSi2S5結晶のRaman散乱スペクトルおよび赤外吸収スペクトルを測定することでBaSi2S5
結晶内にアニオン構造としてSi4S104− 構造を含むことを明らかにし,Si4S104− アニオン構造がアルカリ 土類金属チオシリケート結晶内に含まれているという報告を初めて行った.本研究ではBaSi2S5の単結 晶育成は行っておらず,原子座標を精密化するまでは至っていない.しかし,今回明らかにしたSi4S104− 構造の存在は今後の原子座標の精密化において重要な情報になると考えられる.
第3章:(Ba,Eu)Si2S5蛍光体粉末の発光特性
Ba1−xEuxSi2S5蛍光体粉末について0.01 ≤x ≤ 1のPLスペクトルおよびPLEスペクトル測定を 行った.いずれのスペクトルでもEu2+の4f軌道と5d軌道間の電子遷移に起因したブロードなスペクト ルが得られた.内部量子効率の測定も行い,x= 0.01のとき最大値52% を得ることに成功した.この値 は他の緑色蛍光体で報告されている値に近い値であり,実用に供されている蛍光体材料に迫る値である.
Eu濃度xが増加するにつれて内部量子効率は低下していった.これはEuイオン間の交差緩和に起因す る濃度消光の影響によるものだと考えられる.PLピーク波長のEu濃度依存性は複雑な変化を示してお り,Eu濃度がx = 0.01からx = 0.2に増加するにつれて510 nmから523 nmまでレッドシフトし,
間では523 nmから500 nmまでブルーシフトした.発光ピーク波長のシフトについて,時間分解PLス ペクトル測定を解析することによってPLスペクトル内に含まれる2つの発光成分の強度比変化が原因で あると結論付けた.これはBaSi2S5結晶内に異なる2つのBaサイトが存在していることを示唆してお り,第2章の結晶構造評価と合わせて今後行う原子座標の精密化のための重要な情報を発光特性の結果か ら得られた.
第4章: Si基板上Eu賦活バリウムチオシリケート蛍光体の作製
Si基板上にEu賦活バリウムチオシリケート蛍光体を真空蒸着法と真空下での焼成を組み合わせて作製 した.焼成条件は750◦Cで5 h試料入りのアンプルを加熱し,その後12 hかけて室温まで冷却する方法 が適していると結論付けた.粉末X線回折の結果からSi基板上には(Ba,Eu)Si2S5蛍光体が優先的に作 製されることが明らかになった.これは他のバリウムチオシリケートに比べてBaSi2S5内のBaに対する Si比が最も高いためだと考えられる.PLおよびPLEスペクトルの測定から,Si基板上(Ba,Eu)Si2S5
内にはEuが1%程度含まれていると見積もられた.一般的な無機EL素子を参考に,本研究で作製した Si基板上(Ba,Eu)Si2S5蛍光体層を用いた無機EL素子構造を考案した.作製した無機EL素子からは PLスペクトルと同様のELスペクトルが得られた.本研究により,高効率で発光する(Ba,Eu)Si2S5蛍 光体をSi基板上に作製する手法を確立した.