4.4-4 4.4.3 解析結果一覧表
4.5 まとめ:有孔木層ウォールの展開
これまでの検討の中で「有孔木層ウォール」には一定の構造性能が期待でき、ロボット アームなどによる切削加工により、多様な切削が実現可能であり、厚さを活かした三次元 的な切削の実施可能性も明らかとなった。
図
4.5-1 ロボットアームなどによる切削加工と 構造実験の様子
その上で、将来的な「有孔木層ウォール」の展開可能性を考えた「桜型開口」をもつ「有 孔木層ウォール」について説明したい。
4.5.1 桜型有孔木層ウォール
このパネルデザインは、正方形と正三角形で充填されたグリッド(ここではこのグリッド を用いた作品を作っているアーティスト野老朝雄氏にちなんでトコログリッドと呼ぶ)を 基準幾何学として採用している。このトコログリッドは、厳格な幾何学性をもちながらも、
一般的な直行グリッドに比べると有機的な揺らぎを見るものに印象付ける。
図
4.5.1-1 トコログリッド
図4.5.1-2 トコログリッド上に桜型を配置
このグリッドの交点から、他の交点に向かって、それぞれ腕を伸ばすような5つの腕を 持つ孔をデザインした。様々なイメージを想起する形状であるがここでは「桜型」と名付
けた。この桜型の孔は一見多様な形状があるようにも見えるが、実際には同じ形状が回転 しているだけである。そのため、この孔を利用する金物、ガラスなどの取り付けを考える 際にも、少ない種類の部品で対応することが考えられる。
図
4.5.1-3
桜型の配置をずらした2つの案(左、中央)と、厚み方向に孔を拡張させた1案(右)この基本グリッドをもとに「各孔をつないで正方形、正三角形の開口」や「有機的な輪 郭をもったより大きな切り欠き」などの展開も可能である。これらの開口は、眺望や通風 を取り込む窓となったり、設備などの貫通などにも利用されることが考えられる。
図
4.5.1-4 有機的な輪郭をもつ開口のイメージ
また、木層ウォールは厚みのある壁であることを活かし、厚み方向にも多様な加工を施 すことが考えられる。今回は桜型の有孔を起点とし、厚み方向に滑らかに広がっていく、
一種の地形のような形状を考えた。デザイン、加工等の時間的な制約もあり、実際の加工 実験では三段階の荒い加工であったが、大きな可能性を感じさせるものであった。
図
4.5.1-5 今回の実験で制作した試験体
図
4.5.1-6 滑らかに広がる孔のイメージ
図4.5.1-7 3D プリンターモデル
4.5.2
有孔木層ウォールの将来展開イメージ前述の「有孔木層ウォール」を用いた将来の応用事例の試設計を行った。
想定条件
構造: 木造三階建、準耐火構造 用途: オフィスや高齢者施設など
パースは木造の構造建て方の状況を想定したものである。今回は検証を行っていないが、
水平力だけではなく鉛直力も負担する「有孔 LVL 壁構造」が可能になると想定して設計を 行っている。
また、桜型の開口をはじめとする開口部に桜型の特注ガラスブロックを組み合わせたり、
板の厚みを利用した板ガラスの取り付け方などを工夫すれば、将来的にはこの「有孔木層 ウォール」が準耐火性能を持った外壁となることも考えられるだろう。
これまでの柱梁といった線材を中心とした木造ではなく、木をたっぷりと用いる LVL な どの厚板材料を用いた建築が創り出すことのできる新しい建築表現の可能性の一つを示す ことができたと考えている。
図