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8-1  まとめ

片側2車線以上の高速道路のボトルネック現象に関する調査・研究は、1980 年頃より始めら れ、渋滞発生メカニズムや交通容量について明らかになってきた。しかし、暫定2車線(片側1 車線)の高速道路におけるボトルネック現象や交通容量などについては、それが暫定的・短期的 であるとの従来からの認識により十分に把握されているとは言えない。一方、暫定2車線高速道 路は、供用当初の交通量が少ない期間の初期投資を抑制することを目的としていることから、昨 今の公共投資抑制風潮の中でますます増加の一途を辿っている。これらの背景を踏まえた本研究 は、暫定2車線高速道路のボトルネック現象及び交通容量に関する先駆的な詳細研究である。

本研究から、以下のような成果が得られた。

(1) 高速道路の暫定2車線区間におけるボトルネック現象やボトルネック交通容量に着目し、実 観測データを用いて分析し、a)4車線区間と同様に渋滞発生後のボトルネック交通容量の低 下現象が発生すること、b)交通容量の低下割合が4車線区間と比較して大きいこと、c)交通容 量が4車線区間の1車線当たりの交通容量より小さいことなど、4車線区間と対比しつつ暫 定2車線区間に存在するボトルネック現象の特性を明らかにした。

表 8-1-1  暫定2車線区間と4車線区間のボトルネック交通容量の比較 

(単位:台/時) 

区間 車線 渋滞発生時 交通量

渋滞発生後

捌け交通量 低下割合

暫定2車線区間 走行 1,140 950 -17%

走行 1,280 1,300 1%

追越 1,860 1,480 -20%

2車線合計 3,150 2,780 -12%

4車線区間

1車線当たり 1,580 1,390 -12%

(2) ボトルネックの上流に設置された付加車線がボトルネック容量を増大するまたは渋滞発生を 防ぐメカニズムを示唆し、実データを用いて検証を行った。

(3) 全国の暫定2車線区間における 16 箇所のボトルネック交通容量と道路構造とのデータベー スを整理・分析し、ボトルネック交通容量とボトルネック付近の道路構造との関係を多変量 分析を用いて行い、道路構造によるボトルネック交通容量の確定的マクロ推定手法を提案し た。

 

渋滞発生時交通量=1412.3-84.414×[下流側縦断勾配(%)]-106.85×[トンネル要因(0,1)] 

  渋滞発生後捌け交通量=1247.5‒76.667×[下流側縦断勾配(%)]-161.61×[トンネル要因(0,1)] 

 

 また、観測交通量データを用いて、渋滞発生回数の相対的に多い5箇所の暫定2車線区間ボト ルネックにおける交通容量の確率分布と渋滞発生確率分布の推定手法を提案した。

(4) 車両一台一台の挙動を考慮に入れたミクロな視点より、暫定2車線区間ボトルネックにおけ る渋滞発生時交通量を推定する手法を構築し、その検証を行った。渋滞発生時交通量の推定 に際し、暫定2車線区間ボトルネックに流入する車群に着目し、最初に車群として走行する 車両の走行特性について分析を行い、続いてその知見を元に片側1車線単路区間・付加車線 設置区間・ボトルネックにおける車両挙動をモデル化し、ボトルネックにおける渋滞発生時 交通量を推定するシミュレーションの構築を行った。さらに、構築したシミュレーションの 各モデルの現状再現性を検証した後、シミュレーションを用いて、ボトルネック容量に影響 を与えるボトルネック周辺の道路幾何構造のうち、上流側片側1車線区間長ならびに上流側 付加車線延長に着目して、

1)上流側片側1車線区間長が長くなれば渋滞発生時交通量が小さくなる 2)上流側付加車線延長が長くなれば渋滞発生時交通量が大きくなる という仮説を検証した。 

これより、高速道路暫定 2車線区間におけるボトルネックでは、ボトルネックに到達するま でに車群形成を抑制するような道路構造を設けること、すなわち付加車線設置区間を延伸し、

ボトルネックまでの片側 1車線区間を短くすることが渋滞対策となりうることを示すことが できた。

(5) ボトルネック交通容量推定手法の応用として、顕在化しているボトルネックを解消すること によって発生する潜在的ボトルネックの推定方法及び、本研究で得られたボトルネック交通 容量推定手法により推定した潜在的ボトルネックの交通容量や交通需要パターンを用いた渋 滞予測手法などを提案した。この渋滞予測モデルを東海北陸道の美濃IC〜美並IC間の4車 線化段階供用前後の事例実績とよく一致することを検証した。

(6) 暫定2車線区間のソフト的渋滞対策として、LED標識を用いた渋滞先頭位置の情報提供によ るボトルネック交通容量向上の可能性を現地実験により確認し、そのメカニズムを分析した。

その結果、渋滞先頭付近でLED標識を用いた渋滞先頭位置の情報提供により、昼間の渋滞捌 け交通量に約15%の向上効果が確認され、この効果は片側2車線以上の高速道路より大きい ことが分かった。

(7) また、交通需要の管理(分散・抑制)という観点から、渋滞予測結果またはリアルタイムの 渋滞情報の提供によるピーク時交通需要の分散・抑制を図り、渋滞軽減の可能性について検 討を行い、そのための施策提案を行った。

(8) 暫定2車線高速道路の渋滞対策としては、抜本的には4車線化することが最も有効であるが、

限られた資源を有効に活用するためには、費用対効果を考慮して次のフローに従い対策を実 施することを提案する。また、道路の計画・設計段階においてもボトルネックを作らないよ うな道路構造を採用すると共に、やむを得ないときにはボトルネック上流側に適当な付加車 線を設けることが必要である。

 

 

ボトルネック箇所の交通容量の推定

(渋滞発生時交通量、渋滞発生後捌け交通量)

サグ・トンネルに着目に着目した ボトルネックの抽出

ソフト的渋滞対策

① LED標識による情報提供

(捌け交通量15%向上期待(昼間))

②  交通需要分散

(渋滞情報・予測情報の適切な提供)

ボトルネック付近・上流側への付加車線の設置

(付加車線延長は1,000m以上が望ましい)

4車線化

(4車線化の優先順位は渋滞予測モデルによ るシミュレーションを実行し決定)

暫定2車線高速道路の渋滞対策

費用対効果(B/C)の検証 B:走行時間短縮便益     走行費用減少便益     交通事故減少便益 C:建設費、管理費、金利 料金徴収期間満了(2050年)ま での総便益、総費用を社会的割 引率(4%)を用いて現在価値 に戻して評価

渋滞発生時交通量=

-84.414×[下流側縦断勾配(%)]

-106.85×[トンネル要因(0,1)]

+1412.3

渋滞発生後捌け交通量=

-76.667×[下流側縦断勾配(%)]

-161.61×[トンネル要因(0,1)]

+1247.5

8-2  今後の課題

  今後の課題として、以下のようなことが挙げられる。 

 

(1) 本研究では、全国の暫定2車線高速道路のボトルネックにおける交通容量と道路構造を解析 したが、車両感知器の設置箇所の影響により、分析に用いられるボトルネック数は限定され る。今後、分析サンプル数を増やしてデータを蓄積し更なる分析を進めていくことが必要で ある。

(2) 暫定2車線区間のボトルネック交通容量のミクロ推定手法を提案したが、今後実データを増 やし引き続き検証を進める必要である。

(3) 暫定2車線区間のソフト的渋滞対策として、LED標識を用いた渋滞先頭位置の情報提供によ るボトルネック交通容量の向上効果を現地実験により確認したが、今後、別のボトルネック も含めて同様な実験を行い更に確認していくことが必要である。

(4) ソフト的渋滞対策としてのTDM(交通需要の経路・時間の分散)の実証的研究を続けて行く 必要がある。そのためには、第4章で提案した渋滞発生確率による予測とその情報提供によ るTDMを推進することが必要であると思われる。

参考文献

1)越正毅:高速道路トンネルの交通現象,国際交通安全学会誌,Vol.10 No.1, pp.32-38, 1984.

2)越正毅:高速道路のボトルネック容量,土木学会論文集,第371号/IV-5, pp.1-7, 1986.

3)越正毅,桑原雅夫,赤羽弘和:高速道路のトンネル,サグにおける渋滞現象に関する研究,

土木学会論文集,No.458/4-18, pp.65-71, 1993.1.

4)邢健,越正毅:高速道路のサグにおける渋滞現象と車両追従挙動の研究,土木学会論文集,

No.506/IV-26, pp.45-55, 1995.1.

5)大 口 敬 : 高 速 道 路 サ グ に お け る 渋 滞 の 発 生 と 道 路 線 形 と の 関 係 , 土 木 学 会 論 文 集 , No.524/IV-29, pp.69-78, 1995.10.

6)(社)交通工学研究会,平成7年度〜平成10年度  高速道路の交通容量に関する調査検討 総括報告書(日本道路公団委託),平成11年3月.

7)岡村秀樹,渡辺修治,泉正之:高速道路単路部の交通容量に関する調査研究(上),高速道路 と自動車,第44巻  第2号,2001.2.

8)岡村秀樹,渡辺修治,泉正之:高速道路単路部の交通容量に関する調査研究(下),高速道路 と自動車,第44巻  第3号,2001.3.

9)吉川良一,長浜和実,寒河江克彦:暫定2車線高速道路におけるボトルネック箇所の抽出と 交通容量分析、土木学会第59回年次学術講演会講演集  第Ⅳ部門, CD-ROM, 2004.9.

10)吉川良一,長浜和実,寒河江克彦:東海北陸自動車道における暫定2車線区間の交通容量 に関する検討、第24交通工学研究発表会論文報告集,pp.89-92, 2004.10.

11)吉川良一,長浜和実,寒河江克彦,吉井稔雄,北村隆一:暫定2車線区間のボトルネック 上流の付加車線設置による渋滞軽減効果の検討,第30回土木計画学研究講演集,CD-ROM,

2004.11.

12)塩見康博,吉井稔雄,北村隆一,吉川良一:高速道路片側一車線区間におけるボトルネッ ク現象に関する考察,第25回交通工学研究発表会論文報告集,pp.25-28,2005.10.