本稿では、外国人住民が居住し、最近 5 年間(2015~2019 年)に水害被害が あった地方自治体 1030 団体を対象とし、外国人住民に対する水害対策に関する 調査票調査の分析結果を述べてきた。最後に本調査による知見とそれを踏まえ た、外国人住民に対する災害対策についての課題を述べておきたい。
第一に、外国人住民が存在し、水害経験がある自治体の全国調査の結果から自 治体における外国人住民への水害対策は、一般住民や高齢者、障害者等の災害弱 者を対象とした対策よりも優先順位が低く捉えられていると考えられ、積極的に 行われていないことが見いだせた。特に自治体の外国人住民への水害対策は、何 も行っていない自治体が約半数を占めていた。また、人口規模が小さく、外国人 比率 1%未満の自治体は、水害の予防策の実施率が低い傾向がみられた。一方、
多言語ハザードマップの作成や外国人住民を交えた防災訓練等を積極的に行われ ている自治体もあり、自治体による地域差がみられた。また、先行研究において 多言語ハザードマップは、「読図」の観点から様々な課題が残ると指摘されてい る。だが、本調査では、水害経験をした市区町村でも約 8 割は多言語ハザード マップを作成しておらず、今後も作成する予定がないことが明らかとなり、新た な課題ともいえる。
第二に、水害発生時の自治体の対応は、日本人住民への「災害情報や避難」情 報発信は積極的に行われているが、外国人住民への多言語による避難勧告などは ほぼ行われていないことがわかった。また、水害後外国人住民への新たな施策の 作成又は既存の施策の修正について、多言語による看板設置や防災ブックの作 成、地域防災計画の修正等を実施する自治体はわずかに存在しているのみであっ た。外国人住民は障がい者や高齢者などと同様に災害時に情報が伝わらない「災 害弱者」と定位されるが、その改善は道半ばであるといえる。水害は、発災前か らどのような被害に遭うかある程度わかることから、事前の注意喚起が重要であ る。水害発生時に多言語による情報提供を行う必要があり、注意喚起の文例で定 型的なものを用い、事前に多言語化する準備をしておくべきであろう。日本語を
十分理解できない外国人住民にとって、水害発生時に被害状況や避難指示等の情 報を得ることができないことは恐怖であり、人の生死を分ける重要なものである ため今後早急に改善する必要性がある。特に外国人住民にとって「やさしい日本 語」による情報発信は、命に係わる情報が得ることができる重要な手段の一つで あるため、今後より普及させるべきであろう。
第三に、自治体は、外国人住民も参加している自主防災組織の存在についてほ ぼ認識しておらず、外国人住民への積極的な参加を促すことも行っていないこと から自主防災組織との関わりがほぼないことがわかった。しかし、自主防災組織 は、地域住民とのつながりで自治体の対応が行き届かない部分を周辺住民で助け 合うことができ、外国人住民は災害時において今後新たな担い手となる可能性も ある。自治体は、地域住民と外国人住民がともに日頃から防災について考える機 会(防災訓練や防災ワークショップ等)を設けたり、自治体以外に外国人住民施 策に関わる外部団体との連携をして平時から外国人住民と地域住民とのコミュニ ケーションを作ったりすることで、災害時に地域社会での「つながり」をつくる 試みが必要となるだろう。
以上の調査結果より、外国人住民への防災対策の積極性について、その地域差 は自治体の財政や人材、ノウハウの不足等によるものもあるが、自治体自身の防 災意識の差も大きいと思われる。日本人に対する防災対策も十分に行えない中 で、外国人住民の防災対策を充実することは難しいともいえる。しかし、一般住 民と外国人住民との防災対策を別々のものとして捉えるのではなく、普遍的な対 策として位置付けることで、日本人にとってさらに有効な防災対策となるのでは ないかと考えられる。
今回の調査で自治体は、外国人住民への防災対策をほとんど行っておらず、対 策内容にも地域差があることが明らかとなった。今後の研究では、自治体が外国 人防災対策を活動的に行えない要因について調査、分析を行う必要がある。ま た、外国人住民も参加している自主防災組織に対する調査を行う必要がある。例 えば、外国人住民が自主防災組織に参加しない理由、自治体がどのようなサポー トを行えば参加しやすいのか、また自主防災組織は外国人住民が参加することを どのように思い、自治体にサポートしてもらいたい内容についてそれぞれ調査を
行い、自主防災組織に積極的に参加できるような対策を検討する必要がある。
付 記
本稿は、正島美智子が 2020 年 7 月に法政大学大学院公共政策科に提出した修士論文「水害 に対する地方自治体の外国人支援に関する実証的研究」で実施された調査報告を元にしている。
なお、調査票調査実施にあたっては、科研費(16H02039)を一部用いている。
引用文献
片田敏ほか,2004,「洪水ハザードマップの住民認知とその促進策に関する研究」『水工学論文 集』48: 433
-438.
片岡博美,2009,「外国籍住民に対する防災・災害情報の提供に関する一考察
―外国籍住民 を交えた「自助」「共助」「公助」の枠組みを探る」『生駒経済論叢』7(1): 547
-568.
片岡博美,2016,「地域防災の中の「外国人」:エスニシティ研究から「地域コミュニティ」を 問い直すための一考察」『地理空間』9(3): 285
-299.
金井昌ほか,2017,「ハザードマップの閲覧率・保管率に関する基準の検討」『災害情報(日本 災害情報学会誌)』15: 233
-243.
田中孝宣,2014,「首都直下地震を想定した在日外国人の情報ニーズ :4 か国の外国人を対象 にしたグループインタビューより」『放送研究と調査』64(9): 2
-17.
横田宗親,2018,「自治体等による災害時の外国人支援に向けた取組の支援について」『月刊消
防』,40,44
-51.
No都道府県自治体名事業1実施主体1事業内容1成果1事業2実施主体2事業内容2成果2事業3実施主体3事業内容3成果3 1北海道 釧路市役 所 外国人向け災 害時情報提供 アプリの周知 環境庁が奨励同アプリを市HP及び 観光協会HPに掲載 2北海道
上川町役 場 上川町情報配 信システム事 業
上川町
各施設に設置したデジ タルサイネージでの防 災情報の多言語化
3青森県
青森市役 所 避難住所標識 版等の整備
・ 更新
青森市総務部 危機管理課 避難所標識版、海抜表 示に英語訳を掲載 多言語対応の スマホ向けア プリ制作のた めの情報提供 青森市総務部 危機管理課 ファーストメ ディア㈱へ避難 所の情報を提供
4宮城県
仙台市役 所 仙台市災害多 言語支援セン ター 仙台市交流企 画課
(設置)、
(公財)仙台 観光国際協会 (運営)
災害時に必要な情報を 収集し、多言語化して 提供するほか、外国語 による相談の受付、避 難所巡回等を行う 東日本大震災時およ び平成27年9月の 台風18号接近時に
多言語支援センター が設置された。
災害時言語ボ ランティアの 募集・研修 仙台市交流企 画
課、((公
財)仙台観光 国際協会への 委託事業)
災害時に多言語 での情報発信を 行う災害時言語 ボランティアの 募集・管理 登録者数72名 (令和元年5月 31日現在)
外国人住民へ の防災啓発
(公財)仙台 観光国際協会
大学や日本語学 校、日本語教室で の防災に関するオ リエンテーション 実施、町内会など と連携した防災講 座、防災訓練の実 施、市内大学に在 籍する外国人住民 のための防災訓練 等の実施等 左記事業を随 時実施
5茨城県
常総市役 所 災害情報の多 言語化 常総市防災危 機管理課 災害に関する情報を外 国語で確認できる防災 ポータブルサイト開設
英語、ポルトガル
語、スペイン語で防 災無線などの情報を 確認できるように なった。
6栃木県
鹿沼市役 所
HP上で鹿沼
の暮らしガイ ド(動画)
鹿沼市危機管 理課
、鹿沼市 国際交流協会 日本で起こり得る災害 や避難所等について多 言語で動画を作成 日本で起こり得る災 害や避難所等につい て伝えることができ る
7埼玉県
さいたま 市役所 総合防災訓練 への外国人市 民の参加
(公社)さいたま観光
国際協会、国際交流セ ンターを通じて募集
平成30年度は12名
参加、応急救急手当 訓練等、様々な防災 体験に参加した。
8埼玉県
越谷市役 所 外国人市民の ための防災訓 練 越谷市市民活 動支援課 外国人市民を対象に防 災をテーマに講座を行 う
参加者は50名程度
であり、非常食作り やクロスロードを通 じて防災への理解を 高めた。
9埼玉県
加須市役 所
避難所運営加須市
コミュニケーション支 援ボード 避難所運営訓練で情 報の共有と図上訓練 を実施し、いざとい う時のために備えて いる
避難所運営加須市HOG訓練
避難所運営訓練 で情報の共有と 図上訓練を実施 し、いざという 時のために備え ている
啓発事業
加須市、不動 国高校 防災ガイド(震災 対策)の一部の英 語版の作成と周知 庁舎に置いて おき、なくな り次第補充し ている
10埼玉県
富士見市 役所 外国人向け地 域防災計画ガ イドを作成 富士見市安心 安全課 外国人向けに防災に備 えて行ってもらいたい ことをまとめたガイド ブックを作成した。
[付録1] 地方自治体による外国人住民に対する防災施策一覧