本研究の目的は、混合正規分布を使用した階層ベイズモデルを使用することで、顧客 一人ひとりの各カテゴリーに対する慣性/非慣性傾向を推定し、CRMに繋がる戦略提案 を行うことである。
まず、ヘビーユーザーの顧客をスクリーニングによって抽出し、潜在クラスモデルと 混合正規分布を使用した階層ベイズモデルとの比較を行った。潜在クラスモデルによる 分析では、AIC、BIC、CAIC から有効なセグメンテーションは出来なかった。一方、
混合正規分布を使用した階層ベイズモデルによる分析では、顧客一人ひとりの慣性/非 慣性傾向を推定することができ、かつ、的中率も潜在クラスモデルの74.9%から、81.1%
へ増加させることが出来た。
次に、全データによる混合正規分布を使用した階層ベイズモデルによる分析によって、
Bawa(1990)の提案した連続購買回数のみを慣性/非慣性変数として扱うモデルと、それ に購買間隔の影響を加えた変数を慣性/非慣性変数として扱う提案モデルとの比較を行 った。その結果、提案モデルを使用することで、DICが改善されることが分かった。
さらに、顧客を購買回数からヘビーユーザー、ミディアムユーザー、ライトユーザー にグループ分けし混合正規分布を使用した階層ベイズモデル分析で分析を行った。ここ でも、全データによる分析と同様に、Bawa(1990)の提案した連続購買回数のみを慣性/
非慣性変数として扱うモデルと、それに購買間隔の影響を加えた変数を慣性/非慣性変 数として扱う提案モデルとの比較を行った。
ヘビーユーザーは、購買間隔が15日の場合に慣性/非慣性傾向に与える効用への影響 が半分になり、約30日でゼロになる提案モデルが最良であった。各カテゴリーに対す る慣性/非慣性傾向を持つ顧客の割合を見ると、Inertia行動をとる顧客は、日本茶と中 国茶の間に大きな差は無かった。しかし、VS行動やZero-order行動をとる顧客は日本 茶の方が多く、Hybrid 行動をとる顧客は中国茶の方が多い傾向が見られた。また、
Zero-orderでない顧客の割合を見ると、日本茶が59.69%、中国茶が71.3%であり、ス
ーパーマーケットで頻繁に日本茶や中国茶を購入する顧客の多くは、慣性/非慣性傾向 を持っていることが分かる。さらに、約2/3の顧客が、日本茶、中国茶に対して異なる 慣性/非慣性傾向を持つことが分かった。
次に、日本茶に対する慣性/非慣性傾向でセグメンテーションしプロモーションへの 反応を見ると、日本茶に対して Zero-order 行動をとる顧客は日本茶の割引に反応しや すく、Inertia行動・VS行動・Hybrid行動をとる顧客は、日本茶の割引に反応しにく いことが分かった。VS行動をとる顧客が割引にあまり反応しない理由は、前々回選択 したブランドに割引があってもそのブランドを購入しないことが考えられる。そのため、
VS 行動をとる顧客には、前回選択したブランドを把握するだけでなく、それより前に
選択したブランドを把握した上で、割引を実施することが必要であろう。
一方、中国茶に対する慣性/非慣性傾向でセグメンテーションし、中国茶の割引に対 する反応を見ると、日本茶の場合と同様に、Zero-order行動をとる顧客は割引に強く反 応し、VS行動をとる顧客は反応しにくい。しかし、Inertia行動とHybrid行動をとる 顧客は、日本茶の場合と異なり割引に強く反応する。この原因として、スーパーマーケ ットに通うヘビーユーザーにとって中国茶は頻繁に購入するカテゴリーであり、家計に 影響しやすいからこそ、割引に反応する傾向が強いのではないかと考えられる。
また、本研究で使用したモデルでは、顧客一人ひとりのパラメータを推定しており、
かつ、連続購買しているブランドの効用の変化を把握出来るため、これを利用したプロ モーションが可能になる。例えば、他社のブランドを連続購買している顧客に対して、
自社のブランドにスイッチしてもらうために必要な割引率を計算し、その割引をレシー トやクーポンメール等に付与することで、顧客一人ひとりに合わせた効果的なプロモー ション戦略が可能になると考えられる。また、自社のブランドを連続購買している場合、
ブランドスイッチしそうなタイミングで、自社の他ブランドを紹介することで、自社の 顧客として維持出来る可能性もある。
ミディアムユーザーは、購買間隔が20日の場合に慣性/非慣性傾向が与える効用への 影響が半分になり、約35日でゼロになる提案モデルが最良であった。各カテゴリーに 対する慣性/非慣性傾向を持つ顧客の割合を見ると、Zero-order 行動をとる顧客が極端 に増え、ミディアムユーザーの慣性/非慣性傾向を推定することは難しいことが分かっ た。
ヘビーユーザーとミディアムユーザーの購買間隔による慣性/非慣性傾向の逓減スピ ードを比べると、ヘビーユーザーの方が逓減スピードが早いことが分かった。この原因 として、ヘビーユーザーは、前々回と前回の購買間隔が小さいため、前々回の購買機会 における選択ブランドと前回の購買機会における選択ブランドとの記憶が曖昧になり、
逆に、ミディアムユーザーは前々回と前回の購買間隔が大きいため、比較的前回の選択 ブランドを記憶しやすいことが考えられる。
今後の分析モデルの課題として、第1に、購買間隔による慣性/非慣性傾向の逓減ス ピードを顧客別に変化させることが挙げられる。第2に、前々回の選択ブランドの影響 をモデルに加えることが挙げられる。次に、データの課題として、スーパーマーケット とは客層や利用シーンが異なるコンビニや自動販売機等のデータを用いた分析が挙げ られる。また、販売形態に限定されない全購買履歴が蓄積されたデータを用いた分析が 挙げられる。この点に関しては、今後、クレジットカードや携帯電話による低額決済が 普及すれば、全購買履歴の蓄積が容易になるであろう。
参考文献
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謝辞
本論文を作成するにあたり、多くの方からご指導ご協力を頂きましたことをここに感 謝いたします。
特に、指導教員である近藤文代先生には、ご多忙の中、適切なご指示や研究方法への 助言など、丁寧なご指導を頂きました。心から厚く御礼申し上げます。またゼミでご一 緒させていただいたシステム情報工学研究科の加部哲史さんには、多くの参考意見を頂 き、大変お世話になりました。本論文を作成するにあたり、これらの方々のご指導ご協 力が大変大きな力となりましたことを改めてここに感謝いたします。
添付資料1
潜在クラスモデル分析によるパラメータ
以下にセグメント数1〜3の場合のパラメータを載せる。
表A セグメント数1の場合のパラメータ
表B セグメント数2の場合のパラメータ
Segment 1:
Coefficient Estimate t-statistic
j-r1 0.814 16.288
j-r2 -0.021 -13.327
c-r1 0.593 21.017
c-r2 -0.005 -19.647
j-割引率 1.932 0.576
j-エンド -0.142 -0.831
j-チラシ 0.608 2.605
c-割引率 5.312 5.535
c-エンド 0.730 5.181
c-チラシ 0.420 2.290
切片-1 -0.267 -1.932
切片-2 0.103 0.643
切片-3 -1.082 -7.037 切片-4 -0.935 -6.458 切片-5 -1.984 -8.904 切片-6 -0.681 -5.142 切片-7 -1.698 -9.061
Segment 1: Segment 2:
Coefficient Estimate t-statistic CoefficientEstimate t-statistic j-r1 0.714 11.751 j-r1 0.972 11.240 j-r2 -0.019 -9.185 j-r2 -0.025 -9.621 c-r1 0.561 15.032 c-r1 0.629 14.651 c-r2 -0.004 -13.636 c-r2 -0.005 -13.936 j-割引率 2.098 0.447 j-割引率 1.852 0.385 j-エンド -0.122 -0.524 j-エンド -0.167 -0.658 j-チラシ 0.673 2.148 j-チラシ 0.531 1.512 c-割引率 5.707 4.241 c-割引率 4.906 3.573 c-エンド 0.827 4.204 c-エンド 0.628 3.107 c-チラシ 0.463 1.838 c-チラシ 0.373 1.394 切片-1 -0.356 -1.831 切片-1 -0.166 -0.843
切片-2 0.123 0.558 切片-2 0.074 0.312
切片-3 -1.138 -5.283 切片-3 -1.017 -4.617 切片-4 -0.919 -4.609 切片-4 -0.940 -4.459 切片-5 -1.831 -6.359 切片-5 -2.174 -6.144 切片-6 -0.677 -3.696 切片-6 -0.672 -3.504 切片-7 -1.701 -6.546 切片-7 -1.685 -6.220
表C セグメント数3の場合のパラメータ
(j-:日本茶、c-中国茶、r1:連続購買回数の 1 乗、r2:連続購買回数の 2 乗)
日本茶に対する割引がどのセグメントに対しても有意ではない。また、連続購買回数の 値を見ても、どのセグメントもHybrid行動をとる顧客となっており、セグメンテーシ ョン毎の大きな特徴は見受けられなかった。
Segment 1: Segment 2: Segment 3:
Coefficient Estimate t-statistic Coefficient Estimate t-statistic CoefficientEstimate t-statistic
j-r1 1.120 9.403 j-r1 0.907 9.513 j-r1 0.592 9.150
j-r2 -0.028 -8.159 j-r2 -0.023 -7.929 j-r2 -0.015 -6.932
c-r1 0.576 12.067 c-r1 0.538 12.220 c-r1 0.682 12.031
c-r2 -0.004 -11.049 c-r2 -0.004 -11.384 c-r2 -0.005 -11.438
j-割引率 2.323 0.377 j-割引率 1.378 0.228 j-割引率 2.276 0.420
j-エンド -0.098 -0.309 j-エンド -0.174 -0.592 j-エンド -0.146 -0.507
j-チラシ 0.662 1.580 j-チラシ 0.502 1.233 j-チラシ 0.668 1.688
c-割引率 5.497 3.318 c-割引率 5.574 3.404 c-割引率 4.864 2.846
c-エンド 0.713 2.934 c-エンド 0.796 3.311 c-エンド 0.685 2.741
c-チラシ 0.391 1.215 c-チラシ 0.411 1.331 c-チラシ 0.466 1.437
切片-1 -0.201 -0.837 切片-1 -0.277 -1.179 切片-1 -0.302 -1.234
切片-2 -0.063 -0.213 切片-2 0.093 0.338 切片-2 0.231 0.852
切片-3 -0.972 -3.672 切片-3 -1.172 -4.414 切片-3 -1.078 -3.982 切片-4 -0.841 -3.369 切片-4 -1.005 -3.980 切片-4 -0.924 -3.671 切片-5 -2.141 -5.036 切片-5 -1.888 -5.178 切片-5 -1.918 -5.090 切片-6 -0.521 -2.328 切片-6 -0.620 -2.814 切片-6 -0.900 -3.601 切片-7 -1.611 -4.988 切片-7 -1.845 -5.462 切片-7 -1.615 -5.109