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第三章 詩教育の現代的展開 ‐ことばの身体性に着目して‐

第三節 「のはらうた」の視点から

一 詩集「のはらうた」について

「のはらうた」は、現在までに全4巻が発行されている。作者である工藤直子氏は、こ の本の中では「のはらみんなのだいりにん」という位置にあり、背表紙にある作者名にも

「くどうなおことのはらのみんな」と記されている。「のはらのみんな」が歌ったうたを「く どうなおこ」が書き留めて一冊の本にしたという構成になっている。内容は、うさぎやと かげなどの動物、すみれやきりかぶなどの植物、さらには風や池といった自然までもが擬 人化され、その性質や特徴を捉えた作品が収められている。

その創作過程として工藤氏は「私は『そのものになってみる』という感じで書いていま す」(「子どものこころ詩のこころ」県民大学叢書53、愛知県教育サービスセンター)と語 っている。ときには語り口調で、ときには外から見つめられた視点で、そしてときには読 者に呼びかける文体で、非常に豊かな体裁をとった作品が収められている。また、オノマ トペや言葉のリズムにも工夫が見られ、表現豊かな詩集であるといえる。『のはらうたⅠ』

の冒頭には次のような前書きが添えられている。

「のはらうた」のできたわけ

あるひ のはらむらを さんぽしていますと、かぜみつるくんが みみもとを とお りぬけていきました。とおりぬけながら はなしてくれたことばが、うたのようでした。

「まるで うたみたい」

「そうかいそうかい」

「かきとめておこうか」

「たのむぜ」

かぜは そういって、やまのほうへ はしっていきました。

あるひ やぶのなかで こしをおろしていますと、だれかが スカートをひっぱるの で、だれかとおもったら こねずみしゅんくんです。

どんぐりをかかえて、うたを うたってくれます。

「かきとめておこうか」

「うん、おねがい」

こねずみは そういって、やぶのなかを はしっていきました。

のはらむらのみんなが しゃべるたびに、うたうたびに、わたしは それを かきと めました。

そのうたが たまって ほんになったのが、「のはらうた」です。

のはらむらのみんなは、ひとり1さつずつ このほんをもっています。

へびいちのすけくんは、さんぽのまえに このほんをよむと ぐあいがいいそうです。

みのむしせつこさんは、よいゆめが みられるそうです。

わたしは、せんたくをするとき のはらうたをうたいながらやると、ちょうしがでま す。

あなたもいかがですか?

のはらみんなのだいりにん

くどうなおこ

(『のはらうたⅠ』4~7頁)

この前書きをはじめ、作品は全てひらがな、またはかたかなで書かれており、漢字はひ とつも使われていない。その点について作者の工藤氏は「私の中には日本語を目で読むと き、丸いひらがな、柔らかいひらがなだけで読めるのが好きという気持ちがありました。

だいぶ悩んで、私は全部ひらがなにしたいといいました。それに、漢字を使ってしまうと、

つい熟語、つまり難しい意味が入ってしまう言葉を使いがちになります。それで思い切っ て全部ひらがなにして、後は本の形まで考えました。」(「子どものこころ詩のこころ」)と 語っている。本の形は見開きでA5サイズであり、小さな本である。こうした体裁をふま えると、対象は小さな子どもたちに限られそうなものであるが、その読者層は広く、小さ い子どもとその母親はもちろん、中高生や学校の教師、さらには老年層に至るまで幅広い 支持を受けている。

そして、近年、この「のはらうた」が教育の現場で用いられる実践が増えてきている。「の はらうた」のもつ魅力とその教育的価値について考えてみたい。

二 「のはらうた」を用いた実践

(一)授業実践の分析

ここでは、実際に「のはらうた」を題材として行われた授業記録をもとに、「のはらうた」

を用いてどのような実践が行われているのかをみていく。取り上げた実践は以下のふたつ である。

① 松本太(淑特小学校教諭)実践 対象:小学校二年生

「『のはらうた』で詩を学ぶ」

「学芸国語教育研究 15号」、1997年、東京学芸大学国語科教育研究室発行)

② 長谷川榮子(潮見小学校教諭)実践 対象:小学校四年生

「自然のなかまに呼びかけよう」

『くどうなおこと子どもたち』、井上一郎編、2001年、明治図書)

「のはらうた」の持つ特質上、小学校低学年を対象にした実践が多いようである。高学 年や、中学、高校での実践例がないわけではないが、ここでは「のはらうた」が用いられ る典型的な授業例として上のふたつを取り上げてみた。

※前掲『くどうなおこと子どもたち』には、実践「詩のプロレス大会をしよう」対象は小学校六年生、

実践「自分をつむぐ」対象は中学校三年生、さらに足立悦男氏の研究授業に「『のはらうた』の世界‐アン ソロジーの授業」(国語教育論叢第十一号、2001年、島根大学教育学部国語文学会)、対象は高校一年生な どがある。

実践① 「のはらうた」で詩を学ぶ 松本太実践 対象:小学校二年生 松本氏は詩を学習することの意義として次の三点を挙げる。

①言葉のリズムの美しさ、楽しさに気づくことができる。

②多くの言葉の中から選ばれた、一つ一つの言葉の持つ意味の適切さと広がりに気付 き、考えることができる。

③物事の新しい認識を詩人と共有することができ、世界を広げる事ができる。

(「学芸国語教育研究 第15号」、16頁2~8行目、傍線:引用者、以下同じ)

松本氏の観点は「リズム」「意味」「認識」の三点から詩を見つめたものである。これら を自然に学ぶことのできる実践を考えた末、「のはらうた」実践に至ったという。確かに「の はらうた」は、五七のリズムを基調とする調子のよい作品が多く、動植物や自然の視点か ら歌われた作品は、子どもたちに新たな認識を与えることとなるはずである。その点につ いて松本氏は「そこにうたわれている題材が、今まで思ってもみなかったような新たな認 識の光をあてられている。まさに、低学年児童にとって、『詩』と出会う格好の素材になる 作品である」(16頁24~28行目)と述べている。

学習計画(全五時間)は以下のようである。

第一次 詩と出会う

第一時 「のはらうた」を楽しむ。

第二次 詩を学ぶ

第二時 だれの詩か当ててみよう。

第三時 詩の言葉をあてよう。

第三次 詩を作る

第四時 自分の「てんてんてんのうた」を作る。

第四次 みんなの詩を読みあう。

第五時 級友の「てんてんてんのうた」を読み合う。 (16頁30~39行目)

以下、第一時から第五時までの内容を分析していく。

第一時は、「のはらうた」と出会うことが目的である。教師が「のはらうた」の中から詩 を四つ選び、読み聞かせを行う。その後、それらを印刷したプリントを配布し、自由に黙 読、音読した後、好きな詩を選び音読の練習をしたという。用いられた詩は次の四編であ る。

「こころとあし むかでやすじ」

「ひなたぼっこ つくしてるお」

「おれはかまきり かまきりりゅうじ」

「かんがえごと こねずみしゅん」 (17頁)

子どもたちに特に人気があったのは「かんがえごと」であったという。その作品を以下 に引用する。

かんがえごと こねずみしゅん こねずみは みんな

どんぐりをかじりながら かんがえごとをする

ひとつかじって・・・・なてな?

ふたつかじって・・・・なるほど みっつかじって・・・・そうか よっつかじって・・・・でもね いつつかじって・・・・ええと むっつかじって・・・・しかし ななつかじって・・・・たとえばさ やっつかじって・・・・つまり ここのつかじって・・・・やっぱり とうで とうとう わかった!

きょうは10こかじったので

10こぶん かんがえごとが できた

(『のはらうたⅡ』48~49行目)

「『かんがえごと』では、こねずみがどんぐりをかじりながら首をひねっているところが とてもかわいい。」(18頁7~9行目)というのがその理由だという。子どもたちは作品の描 く世界を想像力豊かに思い描いていることがわかる

第二時の活動内容は「五つの詩を提示。それぞれの詩が『誰』の詩か、内容を読んで詩 の作者をあてる。そして、気に入った詩を音読させた」(18頁14~16行目)というもので ある。教師のねらいとして松本氏は「この学習は『詩』が、対象の特徴を端的に取り出し たものであることを理解させるためにおこなった」(18頁16~18頁)と述べている。

扱われた作品は以下の五つであり、例として「ひととき」が紹介されている。

「こころ (こいぬけんきち)」

「でたりひっこんだり (かたつむりでんきち)」 「ひととき (ありんこたくじ)」

「ひだまり (とかげりょういち)」

「こんなときこそ (もぐらたけし)」

ひととき

なかまと いっしょに あまいもの つまんで おちゃをのむ・・・・

これ さいこう! (18頁)

このうたの作者は「ありんこたくじ」という蟻である。このうたの作者を理解するのに、

子どもたちは苦労しなかったという。「いちにちじゅう はたらいたあと」「あまいもの」

という語句からの連想が働きやすかったのであろう。松本氏は、この他の作品についても

「犬が尾を振る様子をうたった『こころ』や、かたつむりが殻を出入りする様子をうたっ た『でたりひっこんだり』などは日常的な経験の範囲内で、連想が働きやすい」(18 頁 27

~30 行目)と述べる。子どもたちが日常的に捉えている題材の特徴と、工藤直子氏が描い た題材の特徴が重なるので、子どもたちは詩の作者について容易に想像を働かせることが できたのであろう。

第三時は「詩の言葉の一部を空欄とし、前後の文脈から空欄の言葉を考える作業」(19頁 22~23 行目)である。そのねらいとして松本氏は「詩人の作詩作業を追体験させること」

(19頁26~27行目)、「言葉のリズムに気付かせること」(19頁32行目)という二点を挙 げている。用いられた作品は「てんてんてんのうた」という連作である。ここでは紹介さ れているうちのふたつを引用した。( )の付された部分が空欄にされた箇所である。

ほたるまどか

てんてんてん なんじゃらほい ほたるひかって てんてんてん こんやは みずべで (おまつりだ)

おどりあかそう てんてんてん

つばめひとし

てんてんてん なんじゃらほい つばめならんで てんてんてん ながいたびして (ごくろうさん)

おしゃべりはずんで てんてんてん (20頁)

「ほたるまどか」の作品については、ほたるが夜飛んでいる姿や「おどりあかそう」の 言葉に注目させることによって「ぼんおどり」「光のおんど」などの語句があげられたとい う。また、「おまつりだ」という作者と同じ言葉を挙げた子どももいたという。

「つばめひとし」の作品では、空欄部が五音のリズムになることに注目し、「ひとやすみ」

「つかれたね」などの言葉が多くの支持を得たという。松本氏が「特に『つかれたね』は、

お互いが長旅の疲れと無事の到着を祝いあい慰めあっているようで、もともとの『ごくろ うさん』よりもいい、という意見が多かった。『ごくろうさん』では、『ごくろうさん』を 言う話者は疲れていないようだ、という意見だった」(21頁13~18頁)と指摘するように、

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