非 情 成 仏 論
~
『 即 身 義 愚 草
』 の 教 説 を 中 心 と し て
~
一
、 は じめ に 中 性 院頼 瑜
( 一 二 二 六
~ 一 三
〇 四
) は
、 高野 山 に お い て 真 言 教 学 の 復 興 に 努め
、新 義 真 言 教 学の 構 築 に 大 き く 貢 献 し た 学 僧 で あ る。 頼 瑜 が非 情 成 仏 を 論 ず る 著 作 と し て は
、『 真 俗雑 記 問 答 鈔
』・
『 即 身 成 仏 義 顕 得 鈔』
( 以下
『 顕 得鈔
』)
・『 即 身成 仏 義 愚 草
』( 以 下『 即 身 義 愚草
』)
・1
『 釈 摩 訶 衍論 開 解 鈔
』・
『釈 摩 訶 衍 論 愚 草
』が 挙 げ られ る。
『 真 俗 雑 記 問 答鈔
』と は
、事 相・ 教 相 に 亘 っ て 数 多 く の 幅 広 い 著 作 を 残 した 頼 瑜 が
、そ の 折 々 に 書 き 留 めた 雑 多 な 記 事 を 集 成 し た 書 で あ る
。2 ま た
、『 顕 得 鈔』
・
『 釈 摩訶 衍 論 開 解 鈔
』 は
、 そ れ ぞ れ
『 即 身成 仏 義
』・
『 釈 摩 訶 衍 論
』 の 随 文 判 釈 書 で あ る
。 そ し て、
『 愚 草
』と 名の つ く 頼 瑜 の 著 作 は
、『 大 日経 疏
』や
『釈 摩 訶 衍 論
』、 空 海 の 主 要 著 作 に 対 し
、伝 法 会 談 義 に 際 し て な さ れ た 論 義 を 編集 し た も の で あ る と さ れ て い る
。3
つ ま り
、
『 愚 草』 に み ら れ る 教 説 の す べ て が 頼 瑜 の教 説 で あ る と は 言 い 切 れ な い こ と に 注意 す べ き で あ る。 但 し
、『 愚 草
』の 記 述 と 他 の 頼 瑜 の 著 作に お け る 主 張 と が
、大 き く 異 な っ て い ると も 考 え難 い こ と は 言 う ま で も な か ろ う
。 こ の 非情 成 仏 を 扱 っ た 著 作 の 中
、特 に 注 目し たい の が『 即 身 義 愚 草
』で あ る
。『 即 身義 愚 草
』 は上 本
・ 上 末
・ 下 本
・ 下 末 の 四 巻 で 構成 さ れ
、 合 計 五 十 三 の 問 答 が 収 録さ れ て い る
。 こ の 中
、 非 情 成 仏 を 扱 う
「 今 宗 意
、 草 木 非 情 可
レ
許
二
発 心
・ 修 行 義
一
耶
」 と い う 両 方 論 義 の 問 答 は、 下 本 の 最 初 の 問 答 で あ る
。 こ の 問答 で 問 題 と さ れ る の は
、「 草 木( 非 情
)に も 発 心・ 修 行 の 義 が あ る か 否 か
」で あ り
、 空 海 の著 作
( 現 在 で は 偽 撰 と さ れ る 著 作 も含 ま れ る
) や
『 大 日 経 疏
』 以 外 にも
、 多 く の 経 典・ 論 書 を 参 考 に し て 論 義 が 構 成 さ れ て い る
。
『 愚草
』と 呼 ば れ る 著 作 群 に は 各 問 答 の 後 に
、 参 考 にし た 経 典・ 論 書 を 一 括 し て 載 せ る とい う 特 徴( 便 宜 上「 資料 編
」と す る
)が あ る が、 こ の「 資 料 編
」を 見 るこ と か ら も 参 考 に し た 経 典・ 論 書 の 多 さ を 確 認 す る こ と が で き よ う。 そ の 内容 は 以 下 の 如 く で あ る
。
4
①
『 秘蔵 宝 鑰
』
②
『 四 種 曼荼 羅 義 口 決
』( 二 文 を 引 く
)
③
『 秘蔵 記
』
④
『 菩 提 心義 抄
』( 五 文 を 引 く
)
⑤
『 吽字 義
』
⑥
『 大 経 要義 鈔
』
⑦
『 大日 経 供 養 次 第 法 疏
』
⑧
『 大 日 経疏
』( 二 文 を 引 く
)
⑨
『 金剛 頂 経 開 題
』
⑩
『 止 観 輔行 伝 弘 决
』
⑪
『 宗鏡 録
』
⑫
『 払 惑 袖中 策
』
⑬
『 大宝 積 経
』
⑭
『 授 決 集』
⑮
『 涅槃 経
』「 梵 行 品
」
⑯
『 涅 槃 経 疏
』
⑰ 道 暹『 涅 槃 経 疏 私 記
』
⑱
『 十 住 心論
』( 書 名 を 挙 げ る の み
。)
⑲
『 秘宗 教 相 鈔
』( 書 名 を 挙 げ る の み
。)
126
こ の 中で
、『 菩 提 心 義 抄
』 か ら 五 文 も の 引 用 が なさ れ て い る こ と に 注 目 し た い
。『 菩 提心 義 抄
』の 撰 者 で あ る 安 然( 八 四 一~ 八 八 九
~
、一 説 九 一 五 没
)は
、台 密 の 大 成 者 と 目 さ れ
、 ま た 既述 の 通 り
、 非 情 が 発 心
・ 修 行 し て 成仏 す る こ と を 積 極 的 に 論 じ た 人 物で も あ る
。 こ の 安 然の
『 菩 提 心義 抄
』に お け る 教 説 は、
「 資 料 編
」の み な ら ず
、問 答 中 に も 度 々 引 か れ て い る ので あ り
、 頼 瑜 が 非 情 成 仏 説 を 構 築 する に 当 た っ て
、 安 然 教 学 か ら 何 らか の 影 響 を 受 け た こと が 推 測 さ れ る の で あ る
。 そ こ で、
『 即 身 義 愚 草
』 に 説 か れ る 非 情 成 仏 説 を、
『 真俗 雑 記 問 答 鈔
』・
『 顕 得 鈔
』 と 比 較 し な がら
、 頼 瑜 の 非 情 成 仏 説 の 構 築 に
、 安然 教 学 が 如 何 に 関 わ っ て い る の かを 考 察 し て み た い
。5
ま た
、そ の 頼 瑜 の 教 説 と
、 平 安院 政 期 の 実 範
(
?
~ 一 一 四 四)
・ 重 誉
(
?
~ 一一 四 三
)、 及 び 道 範
( 一 一 七 八
~ 一 二 五 二
) の 教 説 との 相 違 に つ い て も 少 し く 検 討 し てみ た い
。
6
二、 問 答 の内 容
「 今宗 意
、 草 木 非 情 可
レ
許
二
発 心
・ 修 行 義
一耶
」 の 問 答 は
、 問、 所 引 経 文
、我 即 同
二
心 位
一
。 一切 処 自 在 普 遍
二
於 種 種 有 情 及 非 情
一 文
。尓 者
、 今宗 意 有情
・ 非 情 倶 可
レ
許
二
発 心
・ 修 行 義
一乎
。
7
と い う問 者 の 質 問 に 対 し て
、「 答
、宗 意 可
レ
許 也
。8
」と 答 者 が 答 える こ と か ら 始 ま る
。「 所 引 経 文」 と い う の は
、『 即 身 成 仏義
』に 引 か れ る『 大 日 経
』巻 五 の 文 で あ る
。問 者 は
、こ の
『 大 日経
』 の 文 に 拠 る な ら ば
、 有 情 と 非 情と に 共 に 発 心
・ 修 行 の 義 が あ る のか と 問 い
、 そ れ に 対し て 答 者 は
、 共 に 発 心
・ 修 行 の 義 が有 る と 答 え る
。 こ れ が 初 重 の 問 答で あ り
、 答 者 は 二 重以 下 の 問 答 に お い て も
、 こ の
「 有 情・ 非 情 に 共 に 発 心
・ 修 行 の 義 が 有る
」と い う 主 張 を 変え る こ と は 無 い
。 尚
、 こ の 質 問 の 時点 で
、 問 者 も 既 に 非 情 が 成 仏 す るこ と は 認 め て い る こと を 一 言 付 し て お き た い
。 こ の 問 答は
、 非 情 が 成 仏 す る こ と を 前 提 とし て い る の で あ り
、そ の う え で
、 非 情 に 発 心
・ 修 行 す る義 が あ る か 否 か を 問 う て い る の であ る
。 こ の初 重 に お け る 答 者 の 主 張 に 対 し
、 問者 は 矛 盾 す る 主 張
、 す な わ ち こ の問 答 に お い て は「 有 情・ 非 情 共 に発 心
・修 行 の 義 が 有 る
」と い う 主 張 と
、「 非 情 の発 心
・修 行 の 義 を 認 め な い
」と い う 主 張 そ れ ぞ れ の 根 拠 を 示 し
、こ の 矛 盾 を ど の よ う に 解 決 す る のか と 問 う の で あ る
。二 重 の 問 答 は 以 下 の 如 く で あ る
。 問、 若 云
レ
許 者
、有 情
・ 非 情 差 別 元 依
二情 識 有 無
一
也
。 有 情 其義 可
レ
然
。 非 情 既 無
二
情識
一。 何 有
二
発 心・ 修 行義
一
乎。 就 中
、有 情 是 造 業 感 果身 最 可
レ
有
二
発 心・ 修 行 義
一
。流 転
・ 還滅 相 対 法 故
。 然 非情 既 闕
二此 義
一
。 何 論
二発 心
・ 成 仏 義
一
乎
。是 以 竜 猛 論 中 挙
二
即 身 成 仏 之 依 身
一
云
、 父 母 所 生 身 速 証
二
大 覚 位
一文
。 宗 家 不
レ
転
二
肉 身
一
得
二
無 漏 法
一
判
。 可
レ
知
。 非情 是 非
二
発 心
・ 成 仏 之 体
一
云 事
。
9
こ の よう に
、 問 者 は 非 情 に は 情 識 が 備 わ って お ら ず
、 ま た 竜 猛 の 論
(『 菩 提 心 論』
) と空 海
( 宗家
) の 判
(『 大 日 経 開 題
』) を 根 拠 と し て、 非 情に は 造 業 感 果 の 義 が 無 い と す る
。 こ の
、
① 非 情に は 情 識 が 備 わ っ て い な い
127
② 非 情に は 造 業 感 果 の 義 が 無 い と い うこ と が
、 問 者 が 非 情 の 発 心
・ 修 行 の義 を 認 め な い 立 場 に お け る 主 張 であ る
。 尚
、 こ の
「 情識
」・
「 造 業 感 果
」 の 二 難 は
、 重 誉
『秘 宗 教 相 鈔
』 巻 七
「 草 木 等 成 仏
・不 成 仏 第 二 十 五
」の 問 答 に お け る「 問
」に も 提 示 さ れ て い る が
10
、こ の「 問
」で は
、こ の 二 難 に よ っ て 非 情 が成 仏 し な い こ と を 主 張 し て い る の であ り
、 頼 瑜 の 問 答 に お け る 問 者 の主 張 と 重 誉 の
「 問
」と で は 前 提
、 す な わ ち 問 者 が
「 非 情の 成 仏 を 認 め る か 否 か
」 と い う 点が 相 違 し て い る こ とに 注 意 す べ き で あ ろ う
。 一 方 で、
若云
レ
尓 者
、下 釈 云
、諸 顕 教 等 以
二
四 大
一
為
二
非 情
一
、密 教即 説
レ
此 為
二
如 来 三 摩 耶 身
一 文
。 既簡
二
顕 非 情
一
云
二
三 摩 耶 身
一
。 寧 非
レ許
二
修 行
・ 成 仏 義
一
乎
。 如 何
。
11
と『 即身 成 仏 義
』を 根 拠 と し て
、「 密 教 に お い て 非 情 とは 如 来 の 三 昧 耶 身 で あ る
」と 主 張 し
、 非 情 にも 発 心・ 修 行 の 義 があ ると す る
。以 上 の よ うに
「 若 云
レ
尓 者
」の 前 後 で は 問 者 の 主 張 が 入 れ替 わ っ て い る こ と が 理 解 さ れ る で あろ う
。 こ れ が 両 方 論 義 の 特 徴 で あり
、 こ の 両 方 論 義 が『 即 身 義 愚 草
』 の 中 で 最 も 多 い 論 義形 態 で あ る
。
1 2
こ の問 者 の 矛 盾 す る 主 張 に 対 し
、 答 者 はあ く ま で も 非 情 の 発 心
・ 修 行 の 義を 認 め る 立 場 を と るの で あ る が
、 非 情 の 発 心
・ 修 行 義 を認 め な い 主 張 に 対 し て は
、 会 通 す る こと に よ っ て こ の矛 盾 を 解 決 し て い く の で あ る
。 以 降は こ の 矛 盾 に 対 す る 会 通 が 問 答 の中 心 と な っ て い く
。 尚、 こ の『 即 身 義 愚 草
』と 同 様 の 問 答 が
、『 真 俗 雑 記 問 答 鈔』 巻 一
・巻 五
・巻 一
〇 に も み ら れ る。 こ れ ら の 問 答 に お い て も
、 頼 瑜 は一 貫 し て 非 情 の 発 心
・ 修 行 の 義 を認 め る 立 場 を と る こと が 確 認 さ れ る の で あ り
、 頼 瑜 は あく ま で も
「 非 情 が 発 心
・ 修 行 す る」 と い う 立 場 に 立 って い る の で あ る
。『 真 俗 雑 記 問 答 鈔
』 の 教説 に つ い て は 改 め て 後 述 す る こ とと す る
。 但 し、
『 顕 得 鈔
』巻 中 にお い て
、『 即 身 成 仏 義
』の
「 諸 顕 教 等 以
二
四大
一
為
二
非 情
一
、密 教 即 説
レ此 為
二
如 来 三 摩 耶 身
一
。
1
」3
と い う 文 を 註 釈 す る に 当 たっ て は、 諸 顕 教 中 等 者
、 有 疑 云
、 天 台
・ 華 厳 盛 談
二
非 情 成 仏 義
一
、 三 乗
・ 一 乗 同 述
二
色 心 不 二旨
一
。何 為
二
密 宗 超 絶 義
一
耶
。私 云
、且 論
二
成 仏
一
、麁 分有
レ
四
、細 分 六 重
。…
…( 中 略
)…
… 四
、有 情
・ 非 情 倶成 仏 也
。 就 中 有
レ
三
。一 天 台
、 事 理 相 即 而 雖
レ
論
二成 仏
一、 以
レ
理 為
レ
本。
…
…( 中 略
)…
… 二 華 厳
、事 理 鎔 融 而 雖
レ
談
二
成仏
一
、以
レ
事 為
レ宗
。…
…( 中 略
)
…
… 三真 言
、 三 密 相 応 而 明
二
成 仏
一
。
14
と
、 非情 成 仏 に つ い て は 論 ず る も の の
、 非情 の 発 心
・ 修 行 の 義 に つ い て は 触れ ら れ て い な い
。 三、
問 答 の特 徴 さ て、 答 者 は
、 非 情 の 発 心
・ 修 行 の 義 を認 め る 根 拠 と し て
、 前 述 し た
「 密教 に お い て 非 情 と は如 来 の 三 昧 耶 身 で あ る
」 と 主 張 す る『 即 身 成 仏 義
』 の 他 に
、 大師 秘 蔵 記 中
、 立
二
一 ヶ 篇 目
一
成
二
草木 成 仏 義
一 矣
。
1 5
更 に は、 轄字 義 云
、 法 身 三 密 不
レ
簡
二
瓦 石
・ 草 木
一何 処不
レ
遍
文
。 既 草 木 具
二
三 密
一
。 豈無
二発 心
・
128
修行 義
一
乎
。
1 6
と あ るよ う に
、『 秘 蔵 記
』・
『 吽 字 義
』 にも そ の根 拠 を 見 出 し て い る
。『 秘 蔵 記
』 の 篇 目 と は 以 下 の記 述 で あ る
。 法身 微 細 身
、 五 大 所 成
。 虚 空 亦 五 大 所 成
。草 木 亦 五大 所 成
。 法 身 微 細 身
、 虚 空 乃 至 草 木、 一 切 処 無
レ
不
レ
遍
。 是 虚 空
・ 是 草 木 即 法 身。 於
二肉 眼
一
雖
レ
見
二
麁 色 草 木
一
、 於
二
仏 眼
一微 細 之 色
。 是 故
、 不
レ
動
二
本 体
一称
レ仏 無
二
妨 礙
一
。
1 7
こ の
『秘 蔵 記
』・
『 吽 字 義
』 の 文 は
、 実 に は法 身 と 非 情 と を 平 等 に み る 記 述 であ り
、 積 極 的 に 非 情が 発 心・ 修 行 す る こ と を 説 い た も の で は ない た め
、問 題 を 存 し な い と は い え な い が
、 い ず れに せ よ 頼 瑜 が こ れ ら を 根 拠 と し て
、非 情 の 発 心
・ 修 行 の 義 を 認 め て いる の で あ る
。 尚、
『 真 俗 雑 記 問 答 鈔
』巻 一
18
で は
、『 吽 字 義
』の
「 草 木 也 成
、何 況 有 情
。」
・「 水 外 無
レ
波
。 心 内 即境
。草 木 無
レ
仏
、波 則 無
レ
湿
。」 と い う 論 文 を 引 用 し て
、非 情 に 発 心・ 修 行 の 義 を 認め る 根 拠と し て い る
。
1 9
以 上 のよ う に
、 根 拠 と す る 文 に 問 題 が 無 いわ け で は な い が
、 頼 瑜 が 非 情 成 仏を 論ず る に 当 た って は
、 既 述 し た 実 範 や 重 誉 と 同 様 に、 空 海 の 教 説 に 依 っ て 非 情 に 発 心・ 修 行 の 義 が 有 る こと を 主 張 す る の で あ る
。 一 方で
、 問 者 は
、 非 情 の 発 心
・ 修 行 の 義を 認 め な い 根 拠 と し て
、 先 述 の
「情 識 が 備 わ っ て い ない
」・
「 造 業 感 果 の 義 が 無い
」と い う も の の 他 に も
、以 下 の 根 拠 を 主 張 す る の で あ る
。
切
二草 木 等
一
可
レ
成
二
悪 業
一
。 若 尓 切
二草 木 等
一
造
二
住 持 四 曼
一
、 豈 為
二
悪 趣業 因
一乎
。
2 0
こ の 文の 中
、「 住 持 四 曼
」 の 解 釈 が や や 難 解 で ある が
、 聖 憲
( 一 三
〇 七
~ 一 三 九 二)
『大 疏 百 条第 三 重
』の
「 絵 木 法 然
」の 問 答 中 に、
「住 持 四 曼 形 像 四 曼 也
2 1
」と あ り
、彫 刻 さ れ た 仏 像 等を 指 し て い る の だ と 考 え ら れ る
。 つま り 草 木 に 発 心
・ 修 行 の 義 が あ るな ら ば
、 草 木 を 切 るこ と は 悪 業 を 成 ず る こ と で あ る が
、草 木 を 切 っ て 住 持 四 曼 を 造 る こ とが 悪 業 の 因 と は な らな い た め
、 草 木 に は 発 心
・ 修 行 の 義は 無 い
、 と 難 じ て い る の で あ る
。 以 上 の問 者 が 挙 げ た
「 情 識 が 備 わ っ て い ない
」・
「 造 業 感 果 の 義 が 無 い
」・
「 草木 を伐 採 し て も 悪業 を 生 じ な い
」 と い う 非 情 の 発 心
・修 行 の 義 を 認 め な い 三 つ の 根 拠 につ い て
、 答 者 は そ れぞ れ 会 通 し て 解 決 を 図 る の で あ る
。 情 識の 有 無 に つ い て
、 答 者 は
、 三世 間 皆 六 大 所 成 故
、情
・非 情 同 雖
レ
有
二
発 心・ 修 行 義
一
、増 相・ 減 相 異 故 且 分
二
情・ 非 情別
一
也
。
非 情 五 大 増
。 有 情 識 大増
。識 大 既 遍
二
非 情
一
、 豈 無
二
心 識
一
乎
。
22
と し て、 三 種 世 間 は 六 大 の 所 成 で あ る た め、 非 情 に も 発 心
・ 修 行 の 義 が あ ると す る の で あ る
。 有情
・ 非 情 と 分 け る の は 増 相
・ 減 相 の異 が あ る た め で あ り
、 五 大 増 が 非情
、 識 大 増 が 有 情 であ る
、 と し て 六 大 縁 起 説 を 用 い て 問者 の 難 を 退 け て い る の で あ る
。 尚
、『 真 俗 雑記 問 答 鈔
』巻 一
〇 に も「 情
・非 情 不 同
、且 約
二
増 相・ 減 相
一
論
レ
異 也
。所 以 非 情 五 大増 也
。有 情 識 大 増 也
。2 3
」と あ る よ う に
、『 即 身 義 愚草
』と 同 様 に
、「 非 情 は 五 大 増
、 有 情 は識 大 増
」 と 主 張 し て い る の で あ る
。 こ の 六大 縁 起 説 に 立 脚 し た 主 張 は
、 既 述 した 実 範
・ 重 誉 の 教 説 に も 説 か れ てい るの で あ り
、東 密 に お い て 非 情 成 仏 を 論ず る 際 に
、『 即 身 成 仏義
』の
「 六 大能 生
二
一 切
一
。何 以 得
レ知
。 謂 心 王者 識 大
、 摂
二
持 四 界
一者 四 大
、 等
二
虚 空
一
者 空 大
。此 六 大 能 生
。…
…
( 中 略
)
…
… 以
二
六 大
一為
二
能 生
一
、以
二
四 法 身・ 三 世 間
一
為
二
所 生
一
。2 4
」と い う 教 説 が 重 要視 され て い た こ と が 改 めて 理 解 さ れ る の で あ る
。