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条における当事者能力を付与されるべき社団理論の存在意義 が違うのではないかという説明をすれば、これについては十分正当化可能であると思われる。

実体法上の権利能力なき社団の理論は、構成員から離れた社団の独自の財産を作るということに意味があった。

対して 29 条の存在意義はどこにあるのかというと、訴訟法律関係の単純化というところにその意義がある。す なわちすべての権利義務の帰属主体を当事者(被告)として掲げることが不要となり、また帰属主体の変更があっ たとしても、社団自体を当事者とし、より正確に言えばその代表者に機関としての代理行為を認めることによっ て、訴訟の円滑な運用を図ることができるというのが 29 条の趣旨だとすると、こうした趣旨の実現を図ること が望ましい団体であり、かつそれによる弊害が生じない場合に限り、民法でいう社団を超えて広く認められてよ いものであると考えられるのである。具体的にはその団体が少なくとも訴訟の継続中、同一性を持って存続する ということ、社団構成員と社団代表者との間に近しい関係が同定され、団体の組織関係を通じて社団の内部関係 として処理することが可能であること、などは必要となって来るだろうが、こうした細かい要件はひとまずおい て、上に述べたような 29 条の趣旨を考えていくことが大事になってくる。この判例自体には議論があるが、そ の議論を理解するには訴訟担当の理解が必要になるので訴訟担当のところでまた触れることにする。

3.当事者と認められるために②訴訟能力 訴訟能力とは、訴訟当事者として、自ら単独で有効に訴訟行為を行うために必要とされる能力である。その意味 で民法上との関係でも訴訟行為能力といった方がわかりやすいように思うが、一般には訴訟能力と呼ばれている。

この理解には、行為能力を想定するのが一番簡単である。すなわち実体法上行為能力の議論とパラレルに、訴訟 上も自らの利益を実現することができない当事者というのが想定されるのである。こうした自己の利益を適切に 実現、保護できない当事者という者の存在を防止するために、訴訟能力を欠くものは、本人自らあるいは訴訟代 理人を選任して訴訟行為をすることができない、とされている。かわりに、法定代理人によって代理されるとい う制度が準備されている。

禁止される「訴訟行為」について説明すると、申立てなどの訴訟手続き上の行為は当然に含まれるし、これに加 えて、訴訟代理人たる弁護士への訴訟代理権の授与、管轄の合意など、訴え提起前あるいは訴訟手続き外の行為 であっても含まれる。また自ら積極的に訴訟行為を行う場合に限らず、相手方または裁判所の行為を受けること も訴訟行為に含まれることになる。

※ただし、この目的は訴訟能力のない当事者を、訴訟法上の効果発生から保護するためのものであるから、たと えば直接に訴訟法上の効果に結びつかない証人としての証言や、当事者尋問における本人としての陳述などは 可能だし、本人に法的効果が帰属しない、訴訟代理人として他人のためにする訴訟行為も可能である。とはい え弁護士の欠格事由(成年被後見人・被保佐人)に当る可能性はあるが。

40 条文上のルール:28 条

訴訟能力がない者については、28 条に規定がある。

【参照】民事訴訟法第 28 条(再掲)

当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法その他 の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

ここでいう「特別の定め」は、訴訟能力については 31 条から 34 条にかけて存在している。まあこの趣旨は、

訴訟能力の規律は、民法の行為能力の規定に従うということである。すなわち未成年をはじめとする民法上の制 限行為能力者は、訴訟能力に制限を受けることになる。

なお、ここで用語につき注意してほしい点がある。訴訟能力がない場合は、法定代理人によるその能力の補完を 受けることになるが、28 条の条文を見ると「訴訟能力」の次に「訴訟無能力者」の法定代理という記載がある。

民法にも以前は行為無能力という言葉があったが、現在では使われていない。すなわち民法と異なり訴訟法では、

訴訟能力をいっさい持ち得ない者を想定することになる。

ここで訴訟無能力という言葉が使われている以上、裏からいえば、制限行為能力という言葉は訴訟法は知らない ということになる。何故かは次に説明する通りだが、実は訴訟法上は、訴訟能力がアレな人間の行為には「取消 し」だとかそのようなマイルドな解決が望まれず、一律に無効という効果を与えようとするため、「無」能力と 言い切るのである。

一律無効の効果

訴訟能力を欠く者がした訴訟能力の効果に関して、民法の規律に従うまでもなく特別な規定が存在する。31 条 である。

【参照】民事訴訟法第 31 条

未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年 者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りではない

訴訟行為はそれが積み重ねら、判決へつながるという性質がある。そのために、一度行われた訴訟行為について は、効果を確定的なものとする要請が高い。こうした法的安定性の確保の要請からは、制限行為能力者の保護の みを規制の目的とする民法上の行為能力者の規律の目的とは異なり、こうした法的安定性を確保しつつ、訴訟の 円滑な遂行をはかるための規律をする必要がある。そのために採用されたのがこの 31 条である。すなわち、場 合によっては敗訴という重大な結果を生む訴訟行為の性質をも考慮して、定型的な規律を制限行為能力者保護を 基調としてはかることが求められている。

よって、民法上、制限行為能力者のした行為は取り消すことができるとされているが、訴訟法においては一律に 無効とされるのである。これらの者が訴訟行為をすることをいっさい許さないという趣旨である。

無効の例外規定

ただしこの規定には例外がある。それが民訴法 34 条 2 項である。

【参照】民事訴訟法 34 条2項

訴訟能力、法定代理又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った 当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる

訴訟行為の効力を認めても制限行為能力者に害がないといえる場合においては、それを認めることが望ましいこ とになる。そのための手段を 34 条 2 項は用意しているのである。

【事例】XがYに 1000 万の支払いを求めたとき、Yが制限行為能力者(成年被後見人)であったとする。

まず訴状の送達が行われる。訴状の受領も一種の訴訟行為であるから、これを理解していない被後見人が受け取 るのは望ましくない。この場合、法定代理人たる成年後見人が訴状を受け取るということになり、そのために 133 条の訴状の記載事項には、「法定代理人」があるのである。

よって法定代理人の記載が要求されている以上、法定代理人に訴状を送達しなければならないのであるが、その 記載が欠け、本人宛に訴状が送達された場合がありうる。このとき、本人には訴訟能力がないから、受領しても 受領の効力は無効となり、適法な訴訟の継続が進行しないことになる。このままだと、改めて訴状に法定代理人 の記載を補充して、その法定代理人に対する訴状の送達のし直しをする、といったことが必要になる。

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だが、成年被後見人は基本的には本人の近くにいるし、そいつが受領する可能性は高い。その場合に訴状を見れ ば、訴えが提起されたことは十分に知ることができる。

ここで成年被後見人が今一度の送達が不要であるとの意思表示をすれば、つまり追認によって、行為時にさかの ぼって効力を有することになる訳だから、Yの訴状の送達の受領という訴訟行為が遡及的に有効になるのである。

この結果、間違って被後見人に訴状が送達された場合でもその効力が有効になるというのが、34 条 2 項の趣旨 であるということになる。この場合には、改めて訴状を送達し直すということは必要ではなく、訴状の訂正のみ でよい。

訴訟能力の取扱い

少しだけレベルの高い議論を加えておく。

①訴訟能力というのは職権調査事項である。

※なお、当事者適格や当事者能力を含め、多くの訴訟要件は職権調査事項である。

職権調査事項であるから、裁判所は常に訴訟能力があるかどうかということを職権で調査する。かつその場合の 判断資料は、職権探知主義のもとに収集され、裏からいえば弁論主義の適用を受けないということである。この 趣旨は、裁判所は、その訴訟能力に疑いを持った場合は、常に職権でその有無を調査しなければならないという ことである。これによって訴訟能力がないものが訴訟能力を行い、あとで取り消され無効となることを防ぐ、と いうことが期待されているということになる。

②訴訟能力を争われているとき、その判断に必要な限りでその者には訴訟能力が肯定されている

訴訟能力の判断に必要な限りでは、訴訟能力の有無に争いがある者についても、訴訟能力が肯定される。

【事例】XがYに訴訟を提起したが、後に審理の結果Xに訴訟能力がないということがわかった。訴訟要件を欠くとして 訴えを却下された A は、この判断が誤りだと考え、控訴するつもりである。

控訴をして、控訴審で判断をすることも訴訟行為である。つまり、ここで X にはそもそも控訴という訴訟行為が できるかが問題となってしまうのである。だが争わせるくらいはさせるべきだし、訴訟能力について争う以上そ の限りにおいて、適法とされる。

不服申立ての取扱い

控訴というのは不服申し立てであり、判決を求める行為であることはかわらない。第一審では、申立事項として の訴訟上の請求についての審判を求めていた訳だが、控訴審においては原判決の取り消しを求めている。

却下されずに審議に乗った場合を前提に議論するが、その真偽の結果としてやはり第一審判決が正しいというこ とになれば、取り消し要求に理由がない訳であるから控訴棄却ということになる。

他方、調べた結果訴訟能力があるということになれば、原判決を取り消すことになる。控訴認容。原判決を取り 消すと、第一審の判決において求められていた訴えの応答が消えるということになるから、改めて第一審の訴え について応答する必要がある。

このとき、申し立ての却下判決に対して控訴審がそれを破棄し自判してしまうと、本案について原審で審理する ことがなくなり、その分の審理の利益が失われてしまうので、必ず差し戻しが行われる(必要的差戻し)。いずれ にしても訴訟能力の有無について争う限りで、控訴自体が訴訟能力についての理由で却下されることはない。

逆パターンとして、第一審で本案判決が出た場合についても考えておこう。すなわち、第一審では判決が出たも のの、当事者の一方には訴訟能力がなかった場合である。たとえば、Xが訴訟で勝利したが、実はYに訴訟能力 がないということを看過していた場合、Yには訴訟能力がないのだから請求認容判決が出るはずがないとして、

控訴した場合などがある。この場合は実際に Y には訴訟能力がないはずであるが、この場合でも控訴ができる。

このように訴訟能力の有無を争う限りにおいては、あたかも訴訟能力があるかのように扱われることになる。

訴訟能力の有無というのは最終的にしか確定できないために、常に不完全情報のもとで一定の行動を積み重ねて いかなければならない。その場合に、当事者の手続き保障をはかる結果、訴訟能力を争っている限り訴訟能力が 存在するかのように扱える規律が妥当するのである。

あと、気になるのは、最後まで訴訟能力の不存在がわからず、判決が確定してしまった場合はどうなるのかとい うことである。これについては通説は、訴訟能力の欠缺があったとしても、いったん判決がでてそれが確定した 以上、瑕疵が治癒されたもののように扱われるとしている。