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第1 社債の管理 1 社債管理補助者

      現行法上,担保付社債を発行する場合には,受託会社を定めなければならないとされてお り(担保付社債信託法第2条),また,無担保社債を発行する場合であっても,原則として,

社債管理者を定め,社債権者の保護のために,社債の管理を行うことを委託しなければなら ないこととされている(会社法第702条本文)。しかし,実際には,我が国において会社が 社債を公募により発行する場合には,例外規定(同条ただし書)に基づき,社債管理者を定 めていないことが多いと指摘されており,その理由として,同法上,社債管理者の権限が広 範であり,また,その義務,責任及び資格要件が厳格であるため,社債管理者の設置に要す るコストが高くなることや,社債管理者となる者の確保が難しいことが指摘されている。も っとも,近年,社債管理者を定めないで発行された社債について,その債務の不履行が発生 し,社債権者に損失や混乱が生ずるという事例が見られたことを契機として,このような社 債について,社債の管理に関する最低限の事務を第三者に委託することを望む声が出てきた と指摘されている。

      このような状況を踏まえ,実務上,社債管理者又は受託会社を定めることを要しない社債 を対象として,社債管理者よりも限定された権限及び機能を有する社債権者補佐人という名 称の社債管理機関を契約に基づいて設置する取組も進められている。しかし,このような契 約のみによる方法によっては,全ての社債権者の代理人として破産手続等において債権の届 出をする場合であっても,個別の社債権者を表示することが必要となり,煩雑であるほか,

社債権者集会の招集を請求した社債権者の委託を受けて会社法第718条第3項の規定によ る裁判所の許可の申立てをすることや裁判所に対して社債権者集会の決議の認可の申立てを することなどの業務を社債権者補佐人が行うことが難しいとされ,立法による措置を講ずる 必要性が指摘されている。

      そこで,試案第1の1においては,社債権者のために社債の管理の補助を行うことを第三 者に委託することができるようにする制度として,社債管理補助者制度を新たに設けるもの としている。

    (1) 社債管理補助者の設置

      試案第1の1(1)において,社債管理補助者は,社債発行会社が社債管理補助者となる者 に社債の管理の補助を行うことを委託することによって設置されるものとしている。社債 管理補助者と社債管理者は,共に社債発行会社が第三者に対して一定の事務を行うことを 委託することによって設置されることにおいて共通する。もっとも,社債管理者制度は,

第三者である社債管理者が社債権者のために社債の管理を行う制度であり,社債管理者は,

社債の管理に必要な権限を包括的に有し,広い裁量をもってそれを行使することが求めら れている。これに対して,社債管理補助者制度は,第三者である社債管理補助者が,社債 権者の破産債権の届出をしたり,社債権者からの請求を受けて社債権者集会の招集をする ことなどにより,社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理が円滑に行わ れるように補助する制度であると位置付けられ,社債管理補助者は,社債管理者よりも裁 量の余地の限定された権限のみを有するものとしている。

    試案第1の1(1)においては,社債管理補助者を設置することができる場合を,社債管理 者又は受託会社を定めることを要しない場合に限定している。これは,社債管理補助者制 度は,社債権者において自ら社債を管理することを前提とする制度であるため,社債管理 補助者を設置することができる場合は,各社債権者において自ら社債を管理することを期 待することができる場合に限定すべきであると考えられるからである。

    (2) 社債管理補助者の資格

    社債管理者の資格要件については,銀行,信託会社及びこれらに準ずるものとして会社 法施行規則第170条で定める者とされている(会社法第703条)。

    社債管理補助者が,委託契約に定める範囲内において,償還金を受領する権限や訴訟行 為をする権限等を有することがあることに照らせば,社債権者のために,受領した償還金 等の管理や訴訟行為等を適切にすることができる者である必要があり,試案第1の1(2) においては,社債管理補助者についても,社債管理者と同様に資格要件を設けるものとし ている。

        もっとも,社債管理補助者は,社債管理者に比べて,社債管理者よりも裁量の余地の限 定された権限のみを有する者であるため,社債管理補助者の資格要件については,社債管 理者の資格要件よりも緩やかなものとしてよいという考え方もある。部会においても,弁 護士や弁護士法人に資格を認めることが考えられるという指摘がされている。そこで,試 案第1の1(2)の(注)においては,例えば,弁護士,弁護士法人その他の者についても社 債管理補助者の資格を付与するものとするかどうかについては,なお検討するものとして いる。

    (3) 社債管理補助者の義務

      試案第1の1(3)においては,社債管理補助者は,公平義務,誠実義務及び善管注意義務 を負うものとしている。

      ア 社債管理補助者に誠実義務や善管注意義務を負わせることに対しては,社債管理者と 同様に,社債管理補助者の設置に要するコストが高くなったり,社債管理補助者となる 者を確保することが難しくなってしまうなどの懸念も指摘されている。しかし,社債管 理補助者は,裁量の余地の限定された権限のみを有する者であり,また,委託契約の定 めにより裁量の範囲を更に限定することもできることから,社債管理者と比べて義務違 反が問われ得る場合は限定的であると考えられる。社債管理補助者は,社債の管理の補 助について委託を受ける以上は,委託者の信頼を裏切ることがないようにこれらの義務 を負うことが相当であると考えられる。

      イ 部会においては,取り分け,社債管理者の誠実義務が厳格に考えられていることから,

社債管理補助者にも誠実義務を認めることが妥当であるかどうかについて議論された。

      社債管理者及び受託会社は,社債の管理に必要な権限を包括的に有し,広い裁量をも ってそれを行使することが求められている。誠実義務の具体的内容は,委託の趣旨に照 らして決定されると考えられるところ,社債管理補助者について,社債管理者よりも裁 量の余地の限定された権限のみを有し,社債権者による社債権者集会の決議等を通じた 社債の管理が円滑に行われるように補助する者と位置付ける場合には,社債管理者と社 債管理補助者に対する委託の趣旨は異なるものとなると考えられる。したがって,誠実 義務について,社債管理者であれば誠実義務違反とされる行為について,社債管理補助 者がこれをした場合に当然に誠実義務違反になるものではないと解される。

      ウ なお,社債管理補助者については,社債管理者と同様に,善意でかつ重大な過失がな い善管注意義務違反に関して事前に免責することなどは認められない。これは,社債管 理補助者は,社債管理者と同様に,当然に適切な社債の管理を行うインセンティブを有 しているものでなく,また,社債発行会社及び社債管理補助者となろうとする第三者が 社債権者のために契約をするという構造上,社債発行会社及び当該第三者の双方が当該 第三者の義務は軽ければ軽いほど良いと考えるおそれもあるからである。

    (4) 社債管理補助者の権限等       ア 試案第1の1(4)①について

      試案第1の1(4)①においては,社債管理補助者が必ず有する権限として,破産手続参 加等をする権限を挙げている。「破産手続参加」,「再生手続参加」及び「更生手続参加」

とは,他人の申立てによって開始された破産手続等において破産債権者等として債権の 届出をすることをいう。

      なお,破産手続参加等をする権限に加えて,社債に係る債権の弁済を受ける権限も,

社債管理補助者が必ず有するものとすることも考えられる。しかし,仮に,社債管理補 助者が社債に係る債権の弁済を受ける権限を有するものとする場合には,社債発行会社 が社債管理補助者に支払をする時点で社債に係る債権の弁済があったものとなるため,

この権限を社債管理補助者に対して付与せずに,社債権者に対して実際に支払をする時 点までは社債に係る債権の弁済はないものとする方が,社債権者にとって有利な場合が

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