2.6.6.9.1 抗原性試験
リオシグアトは低分子量の非ペプチド性化合物であることから(2.6.1 参照)、抗原性試験は 実施しなかった。
2.6.6.9.2 免疫毒性試験
反復投与毒性試験において懸念すべき免疫系への影響が認められなかったことから、免疫毒性 に特化した試験は実施しなかった。ラットを用いた 4 週間投与試験(2.6.6.3.2.2 参照)及び 13 週間投与試験(2.6.6.3.2.3 参照)で免疫毒性評価を実施した。この試験において免疫系へ の影響を示唆する所見は認められなかった。
2.6.6.9.3 作用機序に関する試験
2.6.6.9.3.1 成体ラットを用いた骨密度及び骨形態に関する試験
参照項目: 4.2.3.7.3.1 A43289 ラット反復投与毒性試験(2.6.6.3.2 参照)及び幼若ラット試験(2.6.6.7 参照)で述べたよ うに、リオシグアトは反復投与後に成長中の幼若・若齢動物の骨の形態変化を引き起こす。成長
が完了した成人患者集団におけるこれらの所見の意義を評価するために、成体ラットを用いた骨 変化の機序に関する試験を実施し、骨形態、骨長、骨密度及び骨代謝の変化の指標となるバイオ マーカーについて検討した。
この試験では、40 例の成体雄ラット(試験開始時 17 週齢)に 0、10 及び 25mg/kg/日のリオシ グアト(バッチ )を 6 ヵ月間にわたり経口投与した。試験開始段階において最大耐量と 考えられる 50mg/kg/日を高用量として選択した。しかし、リオシグアトの血行動態作用による 全身状態の悪化のために投与 9 日目に用量を 25mg/kg/日に減量した。所見と時間及び週齢との 関係を評価するために、投与 4、8、13 及び 26 週後に各 10 例を屠殺し、骨変化の機序に関する 総合的な情報を得るために、骨形成マーカー(オステオカルシン、カルシトニン)、骨吸収マー カー〔I 型コラーゲン架橋 C-テロペプチド(CTX)、I 型コラーゲン架橋 N-テロペプチド(NTX)、
副甲状腺ホルモン(PTH)〕及び血液中の電解質測定を行った。剖検時に片側の大腿骨を摘出し、
病理組織学的検査を実施した。他側の大腿骨は末梢骨用定量的コンピュータ断層撮影(pQCT)に より骨長及び骨密度(BMD)を測定した。骨幹端の BMD は、大腿骨の遠位関節面から近位側の全 骨長の 13%の位置で測定した。骨幹の BMD は大腿骨の遠位関節面から近位側の全骨長の 50%の 位置で測定した。
大腿骨の病理組織学的評価の結果、中間剖検後及び最終剖検後のいずれにも形態学的変化は認 められなかった。
更に、リオシグアトは大腿骨長(表 2.6.6.9- 1)及び骨幹端骨密度(表 2.6.6.9- 2)に時間 又は用量に関連した作用を示さなかった。投与 13 週に 10mg/kg 群の骨長に統計学的に有意な一 過性の減少(対照群との差は 4.3%)(p<0.001)が認められたが、用量及び時間との関連がな かったため、偶発的なものと考えられた。投与 8 週における 50/25mg/kg 群の全骨幹 BMD に対す る一過性の作用も同様である(表 2.6.6.9- 2)。
表 2.6.6.9- 1 成体ラットを用いた骨変化の機序に関する 26 週間試験における大腿骨長(mm)
Week
0 mg/kg 10 mg/kg 50/25 mg/kga
Mean SD Mean SD Mean SD
4 38.61 0.92 38.39 1.01 38.14 0.83
8 39.45 0.88 39.05 0.88 38.84 0.51
13 41.36 1.06 39.57** 0.74 41.12 1.05
26 41.24 0.81 40.47 1.11 41.45 0.88
** p< 0.01
aThe high dose level of 50 mg/kg was reduced to 25 mg/kg on day 9.
Source: 4.2.3.7.3.1 A43289
大腿骨皮質骨の骨幹の BMD 測定の結果(表 2.6.6.9- 2)、50/25mg/kg 群で投与 4 週以降に約 2~4%のわずかな減少が認められた。この軽度な変化は 26 週間の投与期間全体を通じて認めら れた。投与初期からみられたこの変化は、この群で投与期間の初期にみられた動物の全身状態悪 化を反映したものと考えられる。
骨吸収マーカーには、明確な投与との関連は認められなかった。骨形成マーカーに関しては、
投与群及び対照群共にオステオカルシン濃度が経時的に低下し、週齢に関連した生理的な骨形成 の減速が示唆された。カルシトニンには用量又は時間に関連する変化は認められなかった。
投与 8 週以降の 50/25mg/kg 投与群の血中カルシウム濃度がわずかな低下傾向を示した〔投与 8 及び 13 週に統計学的有意差あり(p<0.05)〕。また、10mg/kg 以上で無機リン(投与 4 週)
及びクロライド(投与 13、26 週)、50/25mg/kg でマグネシウム(投与 4 週)がそれぞれ低下し た。これらはいずれも軽度であり、投与期間との関連(時間依存性)が明らかではなかったこと から、毒性学的に意味はないものと考えられた。
全般的に、成体ラットへのリオシグアトの 26 週間投与は、骨形態、骨密度及び骨関連バイオ マーカーに対して生物学的に意味のある作用を示さなかった。
表 2.6.6.9- 2 成体ラットを用いた骨変化の機序に関する 26 週間試験における骨密度
(mg/cm3)
Week
0 mg/kg 10 mg/kg 50/25 mg/kga
Mean SD Mean SD Mean SD
Total BMD (Metaphysis)
4 592.33 24.86 579.61 33.11 581.68 35.19
8 596.32 29.95 592.02 16.77 562.90** 24.34
13 608.08 25.49 619.64 42.54 630.69 38.83
26 622.38 24.52 604.08 21.87 619.43 49.58
Trabecular BMD (Metaphysis)
4 287.59 26.97 283.53 21.69 276.53 20.25
8 283.74 19.33 267.92 18.04 272.24 23.63
13 270.04 20.21 278.45 25.79 270.48 37.85
26 262.93 13.80 276.71 17.77 277.70 17.73
Cortical BMD (Metaphysis)
4 750.78 32.36 752.81 28.92 757.07 20.05
8 765.38 38.73 765.45 25.81 774.43 35.22
13 784.18 33.57 802.44 52.99 798.41 40.74
26 856.39 41.81 819.39 27.24 815.98 31.66
Cortical BMD (Diaphysis)
4 1454.74 6.05 1452.81 9.13 1424.61** 28.16
8 1468.18 6.03 1461.19 11.94 1412.04** 37.41
13 1483.02 11.39 1469.10 14.27 1436.26** 22.37
26 1496.49 13.13 1492.66 10.92 1465.98** 15.87
** P< 0.01
aThe high dose level of 50 mg/kg was reduced to 25 mg/kg on day 9.
Source: 4.2.3.7.3.1 A43289
2.6.6.9.4 依存性試験
リオシグアトの作用機序が中枢神経系(CNS)に影響するものではないこと、また安全性薬理 試験、単回投与毒性試験、反復投与毒性試験などの非臨床安全性試験で CNS への影響が認められ
なかったことから、依存性試験は実施しなかった。臨床において、CNS 関連の問題となる副作用 は報告されていない。
2.6.6.9.5 代謝物に関する試験
動物及びヒトにおいて、M-1(BAY 60-4552)がリオシグアトの主代謝物であることが確認され た。M-1 は薬理活性を持ち(2.6.2.2.3 参照)、独立した新規化合物として、一時開発を進めて いた。この臨床開発を支持するために、M-1 に関する広範な毒性試験プログラム(表 2.6.6.1-2)を実施し、M-1 の毒性プロファイルを明らかにした。これらの試験結果を以下に要約する。
2.6.6.9.5.1 代謝物 M-1(BAY 60-4552)の単回投与毒性試験
参照項目: 4.2.3.7.5.1 PH-34362 マウス及びラットを用いた単回投与毒性試験を実施した結果、M-1 2000mg/kg の経口投与によ りマウス及びラット共に死亡は認められなかった。また、マウスへの静脈内投与による概略の致 死量(LD50)は 50mg/kg であった。M-1 に特異的な毒性症状は認められなかった。
2.6.6.9.5.2 代謝物 M-1(BAY 60-4552)の反復投与毒性試験
2.6.6.9.5.2.1 マウスを用いた反復投与毒性試験
参照項目: 4.2.3.7.5.2 PH-36240 4.2.3.7.5.3 PH-35973 マウスを用いたがん原性試験の用量選択の根拠となるデータを得るために、マウスを用いた 2 週間パイロット試験(非 GLP)及びマウスを用いた 14 週間用量設定試験を実施した。両試験共 に M-1 を混餌投与した。
2 週間パイロット試験(PH-36240)では、0、150、500 及び 1500ppm の濃度で混餌投与した。
M-1 の忍容性は良好であり、投与に関連した特記すべき所見は認められなかった。
14 週間投与試験(PH-35973)では、M-1 を 0、100、300 及び 1000ppm(1 日用量として、雄で は 166mg/kg まで、雌では 226mg/kg までの用量に相当)の濃度で混餌投与した。
M-1 の忍容性は全般的に良好であった。高用量群の雌で摂餌量の減少と共に赤血球数、ヘマト クリット値及びヘモグロビン濃度の軽度な低下が認められた。
マウスを用いた 14 週間投与試験における主なトキシコキネティクスデータを表 2.6.6.9- 3に 要約する。
表 2.6.6.9- 3 マウス 14 週間混餌投与試験における M-1 の定常状態での曝露量
Males Females
Dose [ ppm] 100 300 1000 100 300 1000
Actual dose [mg/kg] 16.7 50.1 165.6 27.7 84.2 225.6
AUC(0-24) [µg·h/L] 2987 9550 25866 3206 10848 34013
AUC(0-24)/norm [kg·h/L] 0.179 0.191 0.156 0.116 0.129 0.151
Cmax [µg/L] 165 601 1787 215 599 2096
Cmax, norm [kg/L] 0.0098 0.0120 0.0108 0.0078 0.0071 0.0093
Source: 4.2.3.7.5.3 PH-35973
2.6.6.9.5.2.2 ラットを用いた反復投与毒性試験
参照項目: 4.2.3.7.5.4 PH-36027 4.2.3.7.5.5 PH-34599 version 2 4.2.3.7.5.6 PH-35365 4.2.3.7.5.7 PH-35978 4.2.3.7.5.8 PH-35987 4.2.3.7.5.9 PH-35976 強制経口投与による 4 週間、13 週間及び 28 週間反復投与毒性試験を実施した。これらの試験 は主要な反復投与毒性試験としてデザインされたため、ガイドラインで要求されるすべての評価 項目を含めた。
また、ラットを用いたがん原性試験の用量選択の根拠となるデータを得るために、M-1 を混餌 投与した 2 週間パイロット試験及び 13 週間用量設定試験を実施した。
4 週間強制経口投与試験(4.2.3.7.5.5 PH-34599)では、雌雄に 0、4、20 及び 100mg/kg/日の 用量を投与した。20mg/kg 以上の雄及び 100mg/kg の雌に体重増加抑制が認められ、100mg/kg で は摂水量増加も認められた。これらの変化は、M-1 の血行動態作用による血圧低下によるものと 考えられる。その結果として、血中のグルコース及びトリグリセリドの減少、胸腺、前立腺、精 嚢腺及び子宮の相対重量の減少が主に高用量群に認められた。
剖検では、リオシグアトと同様に、高用量群で消化管への影響(消化管の硬度低下)が観察さ れた。
20mg/kg 以上の雄に副腎重量の増加、及び 100mg/kg の雌雄に副腎球状帯の明瞭化/空胞化が 認められた。更に、リオシグアトと同様に大腿骨の成長板の肥厚が高用量群に認められた。
高用量群で腎臓重量の増加、遠位尿細管上皮の軽度~中等度の肥厚及び集合管上皮の軽微な過 形成が観察された。また、雌雄に尿量の増加がみられ、雄で尿中たん白排泄の減少が認められた。
以上の結果より、ラットに 4 週間経口投与したときの無毒性量は、体重増加抑制に基づき、雄 で 4mg/kg/日、雌で 20mg/kg/日と判断された。
ラット 4 週間経口投与毒性試験におけるトキシコキネティクスデータを表 2.6.6.9- 4に要約 する。
表 2.6.6.9- 4 ラット 4 週間経口投与試験における M-1 の定常状態での曝露量
Sex Males Females
Dose [mg/kg] 4 20 100 4 20 100
AUC(0-24) [µg·h/L] 2880 15500 65100 3990 17200 63700
AUC(0-24)/norm [kg·h/L] 0.719 0.775 0.651 0.997 0.858 0.637
Cmax [µg/L] 439 1760 6670 560 1890 6390
Cmax,norm [kg/L] 0.110 0.0880 0.0667 0.140 0.0946 0.0639
Source: 4.2.3.7.5.5 PH-34599
4 週間投与試験で体重増加抑制が認められたことから、13 週間投与試験(4.2.3.7.5.6 PH-35365)で用いる用量は、雄で 0、5、15 及び 50mg/kg/日、雌で 0、10、30 及び 100mg/kg/日を選 択した。
毒性プロファイルは 4 週間投与の場合と同様であり、主に M-1 の血行動態作用による影響が認 められた。15mg/kg 以上の雄に体重増加抑制が認められた。
高用量投与により、腎臓重量の増加と共に腎臓の形態学的変化が顕著に認められた。高用量群 では、4 週間投与試験でみられた遠位尿細管上皮の肥厚が上皮過形成へと進行し、集合管拡張及 び腎乳頭における集合管の上皮過形成の重症度の増加が認められた。加えて、集合管上皮の変性 が認められた。4 週間の回復期間後に、腎臓の変化に回復性は認められなかった(4.2.3.7.5.7 PH-35978)。
高用量群の雌の大腿骨及び脛骨に、成長板の肥厚に加えて骨梁の異常並びに骨幹の過骨症が観 察された。
以上の結果より、ラットに 13 週間経口投与したときの無毒性量は、雄で 5mg/kg/日(体重増 加抑制に基づく)、雌で 30mg/kg/日(腎臓への影響に基づく)と判断された。
ラット 13 週間経口投与試験におけるトキシコキネティクスデータを表 2.6.6.9- 5に要約する。
表 2.6.6.9- 5 ラット 13 週間経口投与試験における M-1 の定常状態での曝露量
Males Females
Dose [mg/kg] 5 15 50 10 30 100
AUC(0-24) [µg·h/L] 5261 16063 51428 5503 47423 82697
AUC(0-24)/norm [kg·h/L] 1.05 1.07 1.03 0.550 1.58 0.827
Cmax [µg/L] 669 1890 5667 748 4952 8606
Cmax,norm [kg/L] 0.134 0.126 0.113 0.0748 0.165 0.0861
Source: 4.2.3.7.5.6 PH-35365
ラットを用いた 28 週間経口投与試験(4.2.3.7.5.9 PH-35976)では、雌雄に 0、3、10 及び 30mg/kg/日の用量を投与した。
毒性プロファイルは短期試験と同様であり、血行動態作用に伴う影響が認められた。特記すべ き影響として、血管の変化(心臓及び膵臓の血管の中膜肥厚、腸間膜静脈の網状変化)が認めら れた。加えて、30mg/kg の雌雄に血小板数の軽度減少が認められた。