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自らを取り戻し、連帯していく場の必要性

第 9 章 なぜ「彼ら」はそんなにも語ってくれたのか 109

9.5 自らを取り戻し、連帯していく場の必要性

私は調査に参加しながら「識字のような場」がもっとあればと思った。自分の内にあるしんどさを無防 備に語ることができる場、そしてそれを受け止め、つながっていくことが、そしてもっといえば「連帯」

していくことができる場(人)が必要ではないかと。自分のことを語り、対象化することで自分の立って いるところを確認できる、そしてその背景にある問題もみえてくる、その問題に対しては、一人で向き合 い、闘っていくのではなく、話を聴き、その「しんどさ」を「共有」した人たちが連帯しともに闘ってい く、そのような場が必要なのではないか。

調査協力者の中に、子どもの頃の施設で生活をしていたときの記憶と、今はもはや亡くなってしまった

「自分を捨てた」母親への思いと、さらには「怒り」「うらみ」を抱え込んだまま、それらを背負ったまま 生きてきている人がいた。このような彼だけではなく、聞き取りに協力してくれた多くの人が、多かれ少 なかれ、人にはいえない「重荷」を一人で背負って生きている。このような「彼ら」にとってこそ「識字 のような場」は必要なのではないか。これまで自らを語ること、振り返ること、他者と共有するというこ と、そのような機会と場を持つことがなく、抱えきれないほどのしんどさを「一人で」背負って生きてい る人があまりにも多いからだ。

生活をしていくための仕事やそのための住居などはもちろん必要だ。しかし、それと同じように切れて しまった、削がれてしまった人間関係を紡ぎなおすことも必要ではないかと思う。聞き取りをしてきた人 たちはこれまでさまざまな生き方をしてきている。家族、家族以外の多くの人たちとの、「あたたかな」と まではいかなくとも、それなりの「人とのつながり」があるならばまだいい、そうではなく、一切の人と のかかわりを絶たざるをえないようなところで生きることを強いられている人たちが大勢いる、このこと を知らされた。

こんな感想では甘ったるいかもしれないが、傷ついた人とのつながりや心身に受けた傷や痛み、断たざ

るを得なかった人とのつながりの修復こそ必要なのではないかと思う。そういった場も、支援の中に必要 なのではないだろうか。

資料「生活誌」

ネットカフェ生活者調査

1. 男性 30代前半

派遣会社に登録。携帯電話を持っていないので公衆電話から派遣会社に連絡をする。ミナミのオープン スペース5時間500円というインターネットカフェに泊まっている。深夜2時に入店して朝の7時に出 る。それまではファーストフード店で100円のコーヒーを飲んでいる。なぜこのインターネットカフェを 選んだかというと、仕事場(派遣先)に歩いていけるのと近くに警察があり治安面でも安心なので。この ネットカフェには自分と同じような立場の人が何人かいる。しかし声をかけたことはない。

インターネットカフェでは他の利用者が置き引きされたと2回聞いたことがあるのでなかなか眠れな い。昼間は大阪市内の図書館をまわったり、あまりにも眠れなくてしんどいときは、デパートの洋式トイ レで市販されている眠剤を飲んで「無理矢理」10時間眠ることもある。

食事はファーストフード店で100円のコーヒーを何回か飲む、それ以外は百円ショップで食パンなどを 購入、コンビニで食事を購入することはない。体調のことは心配であるが、国民健康保険の期限はきれて いる。よく下痢をするので「正露丸」は常備薬、「自己管理が大事」なのでサプリメント(ビタミン剤な ど)を購入して飲んでいる。

最後に仕事に行ったのは2007年4月、食品製造会社。ここは1ヶ月続いていた。日給7,200円で交通 費は自分持ちなので手取り6,800円だった。最後の日に熱した食品を足にかけてしまい翌日から仕事にい けなくなった。

この時点で貯金は7万円あった。仕事にいけなくなって数日してから火傷のことで西成労働福祉セン ターに相談、大阪社会医療センター受診をすすめられ、生活に困っているのであれば大阪市立更生相談所 に行くように言われ、三徳ケアセンターに泊まる。その後大阪市立更生相談所からNPO釜ヶ崎お仕事支 援部を紹介され求職相談に来る。

しかし仕事が見つからず貯金を食いつぶし、現在所持金は1,200円。

仕事があるときで1ヶ月約12〜15万円の収入、宿泊代が約2万円、食費は1.5万円、携帯電話代が0.5 万円、それ以外にもサプリメント購入代数千円、交通費や仕事に必要な物の購入する費用などもかかる。

何に使っているかわからないが、タバコもお酒もギャンブルもしないがあまり残らない。

実家に両親は健在であるが、30歳を過ぎた男が面倒をみてくれと言うわけにはいかない。

山口県出身。高校を卒業して地元の警備会社に就職。雇用保険、年金はあった。2年でその仕事を辞め てアルバイトの仕事を転々としていた。この間のことは話をしてもらえず。ただ24、5歳で免許取消しさ れている。

27歳で初めて大阪に来る。しかし大阪でうまくいかず、すぐに実家(山口)に戻る。実家にもどってか らアルバイトをして給料16.8万円もらっていた。28歳のとき荷物を実家に置いて当面必要な衣類などを もって再び大阪へ出てくる。

テレビなどであいりん地区のことは知っていた。あいりん地区の敷金なし、家賃2.3万円のアパートに 入居、北区の人材派遣会社に登録していた。

いろいろな職種の仕事をした。一番賃金がよかったのは携帯の組立(10,500円/日給)、それ以外にも引 越し、冷凍庫内作業、ビデオの組立・洗浄、製本の仕事など。日給がもっとも安かったのは3時間で3,800 円。派遣会社から仕事を紹介してもらえないときは、労働福祉センターから飯場に行った。毎日仕事をし

ているにもかかわらず、服代、寮代などで2万円の赤字になり、交通費だけ貸してやると言われて飯場か ら出てきた。

しかしその派遣会社に登録する人が多くなり、仕事がまわってこなくなりはじめる。派遣会社に仕事の 申込をするのは前日の午後3〜6時、その間こちらから電話をかけて仕事を紹介してもらう。できれば毎 日仕事があるところを紹介してほしいと会社に言うと人間関係が大変な職場にまわされたりして嫌がら せをされたこともある。人材派遣会社から紹介された会社から靴・手袋・作業着などが必要ということで

6,000円購入したが1日だけしか仕事がなかったこともあった。大阪府北部にある工場に仕事にいったと

き、現場まで交通手段がないのでタクシーを使ったら交通費が1万円を超えたこともあった。このときは 交通費の半分を返してもらったが、ひどいときなど現場まで行って仕事がキャンセルになったので別の現 場に行ってほしいと言われ、仕事もせず交通費だけ自己負担することもあった。「立場的に弱く、仕事を せかされるのは仕方がない」。

仕事が減少してきて、家賃を払う分だけのお金はあったが、これから仕事がなくなったらどうしようと いうことで余裕がなくなってきて、家賃1ヶ月分を滞納、大家と交渉して家賃を待ってもらうようにし た。しかしある日仕事から帰ってきたら、勝手に部屋の鍵が開いており、荷物はなくなり、大家からのメ モ(家賃を支払うまでは荷物は預かるという内容のもの)があった。すぐに大家に、「これはひどいので はないか」と電話をする。その日の午後、2人の男性が部屋にきて扉をガンガンたたき、「昼間えらい口の ききかたしたらしいな」と言われ、結局家賃滞納分を支払って、2006年夏ごろ部屋をでた。

その後はインターネットカフェとドヤで寝泊りをする。お風呂に入って洗濯するときはドヤ、それ以外 はほとんどインターネットカフェで泊まる生活をしている。

仕事の減少、先行きの不安から部屋は借りていない。部屋を借りるお金があったのだが、当面の生活費 が必要だったので部屋を借りることはしなかった。また、家賃を滞納して勝手に退去させられるのもしん どいと思っている。

人材派遣会社に登録していたときは、仕事の後、ハローワークで求職活動をし、賃金を派遣先までもら いに行っていた。希望としては正社員で本が好きなので印刷(製本)関係の仕事を探しているが、免許が ない、住所がないなど条件が合わない、勤務地が遠い(摂津・旭区・東大阪市など)ので交通費、当面の 生活費をどうするか見通しがつかないのでどうすることもできない。

その後、支援が始まる。自立支援センターに過去入所していたことがわかる。

お仕事支援部の内職センターで仕事をする。内職センターでは一生懸命がんばっているものの、作業の スピードアップがなされず、もしかしたら療育手帳を取得できるレベルではないかと考えられる。そし て、住吉・住江公園就労体験事業(1日6,000円+昼食代+交通費、8:30〜17:00(7.5時間)、13日 間×2ヶ月)に参加就労体験事業で貯まったお金をもとにアパートを借り、そこに住民票を設定、療育手 帳B2を取得した。しかし、最後の就労日に姿を現さなかった。彼の部屋に来た郵便物を確認したところ 債務の督促状があった。

2. 男性 50代後半

「冬場寒いのが大変だった」。今いる自立支援センターの近所のネットカフェに泊まっていた。今年に 入ってから2、3月頃、延べで1ヶ月くらい利用していた。いわゆる広義の「ホームレス」状態はおよそ1 年ぐらい。友人に教えてもらってネットカフェを利用していた。そのときの収入源はパチンコ。パチンコ は今日1万円買っても次の日は2万円負けていた。「それほど甘くないから」。お金がなかったり、暖かい