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1. 日本の著作物に対する中国の条約上の関係

日本と中国の条約上の関係を教えて下さい。特に、TRIPS協定、ベルヌ条約、ローマ条約の 規定は、日本と中国の関係においてどのように拘束力を持ちますか。

中国は、1992年10月15日に「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ 改正条約」に、同月30日に「万国著作権条約パリ改正条約」(中国語:世界版権公約)に調 印しましたが、当時の中国の著作権法はこれらの条約の水準に達していませんでした。そこ で中国は、外国著作物の保護については内国著作物の保護とは別の定めをすることによって 条約の要請を満たすこととしました。この目的のため、1992年9月25 日に「国際著作権 条約の実施に関する条例」が国務院令として定められ、同月30 日から施行されました。な お著作隣接権に関しては、中国は、1993年4月30 日に「許諾を得ないレコードの複製か らのレコード製作者の保護に関する条約」(レコード保護条約)に調印しました。

中国は、2001年11月11日にWTO(世界貿易機関)への加盟が承認され、同年12月 11日から加盟の効力が生じました。これに伴って、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協 定」の附属書1Cである「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)が中国 にも発効することになりました。

中国は、従来の内国著作物と外国著作物との間で保護水準の格差が生じているなどの問題 を解消するため、1997年から著作権法の全面改正の作業を行いました。また、WTO加盟に 間に合わせる必要から改正作業が急ピッチで行われるようになり、2001年10月27日、9 期全国人民代表大会常務委員会第24 回会議によって、「『中華人民共和国著作権法』改正に 関する全国人民代表大会常務委員会の決定」が採択・公布され、かつ同日より施行されまし た(現在の中華人民共和国著作権法は、1991年法が2001年10月27日に全面改正された ものであって、2001 年に新たな法律として制定されたものではありませんが、便宜上、改 正後の著作権法を「改正著作権法」と呼ぶことにします。)。

改正著作権法は、外国人の著作権の保護につき、第2条2項で、「その著作者が属する国 又は通常の居所国と中国との間に締結された協定によって、又は共に加盟している国際条約

及び放送機関の保護に関する国際条約」(ローマ条約)に加盟していないものの、既にTRIPS 協定が中国に発効しているため、日本の実演者、レコード製作者及び放送事業者の権利も中 国で保護を受けます。

なお、TRIPS協定の前に、1991年の旧著作権実施条例第46条及び第47条では、外国人 の実演及びレコード製作品を保護する規定があり、また、現行の実施条例では、更に、それ を明確にした上、放送事業者の権利並びに外国人、無国籍者の中国が加盟した国際条約に基 づきその実演、レコード製作品及び放送番組について享有する権利を著作権法により保護す る旨の内容を追加しました。

2. 著作権制度

2-1 著作権法の保護対象物

中国の著作権法で保護される対象物にはどのようなものがありますか。特に、録音、実演、

映像、音楽、ゲームは、どのように保護されますか。日本法と比較して説明してください。

中国著作権法第3条は中国著作権法が保護する著作物(作品)について定めています。中 国著作権法が保護する著作物は、文字による著作物、口述による著作物、撮影による著作物、

映画の著作物、コンピュータソフトウェアなど9種類です。

ここでいう著作物には、次に掲げる形式で創作される文学、美術及び自然科学・社会科 学・産業技術等の著作物が含まれるとされています。産業技術等の著作物が含まれると明 示している点が特徴的です。

① 文字による著作物(例えば小説、詩、論文等)

② 口述による著作物(即興的な講演、授業、法廷弁論等)

③ 音楽、演劇、演芸、舞踊、曲芸芸術による著作物

④ 美術、建築による著作物

⑤ 写真の著作物

⑥ 映画の著作物及び映画の撮影製作に類する方法により創作された著作物

⑦ 工事・建築設計図、製品設計図、地図、見取り図等の図形による著作物及び模型著作 物

⑧ コンピュータソフトウェア

⑨ 法律、行政法規に規定されるその他の著作物

なお、⑨の法律及び行政法規に規定されるその他の著作物とは、主として現代的な技術革 新によって誕生するかもしれないと想定される新たな著作物を指すと言われています。

さらに中国著作権法においては、民間文学及び芸術の著作物(例えば伝説、編年史、神話、

造形美術など)に係る著作権の具体的な保護規則については国務院が別途定めるとされてい ます(第6条)。

上記に例示された著作物の内容は、国務院が2002年8月2日に公布した「中華人民共和 国著作権法実施条例」(2002年9月15日より施行 国務院令(第359号))第4条の規

著作権法第3条の分類項目 実施条例第4条の例示対象物

文字による著作物 小説、詩歌、散文、論文などの文字の形式で表 現された著作物

口述による著作物 即興の演説、授業、法廷弁論などの口頭言語の 形式で表現された著作物

音楽、演劇、演芸、舞踊、曲芸芸術によ る著作物

音楽著作物とは、歌曲、交響楽などの歌唱又は 演奏できる歌詞が付き又は付いていない著作 物。

演劇著作物とは、新劇、歌劇、地方劇などの舞 台での実演に供する著作物。

演芸著作物とは、漫才、語り物、太鼓伴奏の伝 統歌謡、講談などの口演を主要な形式として演 じられる著作物。

舞踊著作物とは、連続した動作、姿勢、及び表 情などで思想感情を表現する著作物。

雑技芸術著作物とは、雑技、手品、曲芸などの 体の動作及び技巧で表現された著作物。

美術、建築による著作物 美術著作物とは、絵画、書道、彫塑などの線、

色彩又はその他の方法で構成される審美的意義 を有する平面的又は立体的な造形芸術著作物。

建築著作物とは、建築物又は構築物の形式で表 現される審美的意義を有する著作物。

撮影による著作物 撮影著作物とは、器械を利用し、感光材料上に 客観的物体の形象を記録する芸術著作物。

映画著作物及び映画の撮影製作に類す る方法により創作された著作物

映画著作物及び映画撮影に類似した方法により 創作された著作物とは、一定の物質上に製作し たもので、音声を伴い又は音声を伴わない一連 の画面で構成され、且つ、適当な装置を利用し て上映又はその他の方式により伝達される著作 物。

工事・建築設計図、製品設計図、地図、

見取り図等の図形による著作物及び模 型著作物

図形著作物とは、施工又は生産のために作成さ れた工事設計図、製品設計図、及び地理的現象 を表し、又は事物の原理若しくは構造を説明し た地図又は見取図などの著作物。

模型著作物とは、展示、実験又は観測などの用 途のために、物体の形状及び構造のとおりに、

一定の比率によって作られた立体著作物。

コンピュータソフトウェア (「コンピュータソフトウェア保護条例」所定 のもの)

法律、行政法規に規定されるその他の著 作物

保護されない対象について教えてください。

著作権法第4条及び第 5条は、著作物の権利対象から除外されるものを列挙しています。

次の物に関しては、著作権を主張できないとされています。著作権財産権のほか、著作者人 格権の存在も否定されています。

(1) 法によりその出版及び伝達が禁止されている著作物

(2) 法律、法規及び国家機関の決議、決定、命令、その他立法、行政、司法的性質を有する 文書、並びにそれら公文書の正式訳文

(3) 時事報道(新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどのメディアを通じて報道される単なる事実 のニュース)(著作権法実施条例第5条の(1))

(4) 暦法、汎用的数表、汎用的表及び公式

2-2 著作権の主体

著作権者の定義について教えてください。

(1) 著作権帰属の原則(著作権法第11条)

著作権の帰属に関する原則は、次のとおりです。

(一) 著作権法に別段の定めがある場合を除き、著作物の著作権は、その著作者に帰属

します。

(二) 著作物の著作者は、その著作物を創作した国民(公民)とします。

法人又は法人格を有しない団体の意図に従い、かつ、そのような法人又は団体の監督及び 責任の下に著作物が創作される場合には、そのような法人又は法人格を有しない団体が、そ の著作物の著作者とみなされます。

著作物上に氏名が表示される国民(公民)、法人又は法人格を有しない団体は、反対の証拠 がない限り、その著作物の著作者とされます。

(2) 二次的著作物の著作権の帰属(著作権法第12条)

二次的著作物の著作権の帰属につき、著作権法は、次のとおり定めています。

既存の著作物の翻案、翻訳、注釈又は整理により著作物が創作される場合には、このよ うにして創作された著作物の著作権は、翻案者、翻訳者、注釈者又は整理者が享有します。

ただし、これら著作権の行使は、原著作物の著作権を害してはなりません。

(3) 外国人又は無国籍者の著作物の著作権の帰属(著作権法第2条)

外国人、無国籍者の著作物がその著作者が属する国又は通常の居住国と中国との間に締結 された協定によって、又は共に加盟している国際条約によって享有する著作権は、中国著作 権法により保護を受けます。

外国人、無国籍者の著作物であり中国国内で最初に出版されたものは、中国著作権法によ り著作権を受けます。

中国と協議が締結されておらず、又は共に国際条約に非加盟の国家の著作者及び無国籍者 の著作物が、中国が加盟している国際条約の構成国において最初に出版されたとき、若しく は構成国と非構成国において同時に出版されたときは、中国著作権法により保護を受けます。

著作権法第2条の規定により、外国人、無国籍者の著作物は、中国国内の自然人、法人又 はその他の組織の著作物と同様、中国の著作権法の規定に従い、著作権を享受することがで き、著作権法による保護を受けることができます。

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