• 検索結果がありません。

1.法制度や定型的な対処方法の整備状況について

① インターネットに関連する著作権保護の法制度について

中国では、2001 年現行著作権法の改正まで、インターネットに関連する著作権に対して は、改正前の旧著作権法第10条第1項第5号の包括的な規定により、保護していました。

実務上も、中国の人民法院は当該規定に基づき情報ネットワーク伝送権を保護してきました。

インターネットに関連する著作権に関わる紛争の審理方法を明確にするため、2000 年 12 月21 日に最高人民法院が「最高人民法院のコンピュータネットワーク上の著作権紛争事件 の審理における法律の適用についての若干の問題に関する解釈」(以下「司法解釈」という)

を公布しました。現行著作権法の施行を受けて、司法解釈は、2003年12月23日に、若干 の修正が行われました。

2001年現行著作権法は、その第10条第1項第12号において、新たに情報ネットワーク 伝送権を追加し、法律の形で、インターネットに関連する著作権に対する保護を規定しまし た。

2001年現行著作権法第58条では、情報ネットワーク伝送権(即ち有線又は無線方式によ り公衆に著作物を提供し、公衆に自らが選定した時間、場所で著作物を入手させるようにす る権利)の保護弁法は国務院が別途規定すると定めていますが、国務院から保護弁法がなか なか公布されませんでした。このような状況の下で、中国国家版権局及び情報産業部は2005 年4月30日に「インターネット著作権行政保護弁法」(2005年5月30日施行)を公布し ました。

さらに、2005年10月13日、国家版権局は、「情報ネットワーク伝送権保護条例」(草案)

を公表し、その修正意見を求めて、情報ネットワーク伝送権保護に関する立法の準備を進め ています。当該「情報ネットワーク伝送権保護条例」(草案)は、主に当該権利の内容及び権 利制限、インターネット著作権侵害事件におけるインターネット接続サービス提供者(ISP)

の行政責任、免責事項等を定めています。なお、同「情報ネットワーク伝送権保護条例」は、

2006年に公布される見込みであるようです。

機等の設備の所在地を含みます。権利侵害地又は被告住所地の確定が困難な場合は、原告が 権利を侵害する内容を発見したコンピュータ端末機等の設備の所在地を権利侵害行為地とみ なすことができます。

(b) インターネットサービスプロバイダ(ISP)の責任(第Ⅱ章2の①を参照)

イ 民法通則第130条所定の共同権利侵害責任(第4条及び第5条)

ロ 民法通則第106条所定のその他法定民事権利侵害責任(第6条)

ハ 著作権法第47条第6項所定の権利侵害行為による責任(第7条)

(c) ISPの免責要件

著作権者は、権利侵害を発見し、ISP に警告書を提出し、又は権利侵害行為者のインター ネット登録資料を請求する場合、著作権権利証明書及び権利侵害証明などを提出する必要が あります。かかる証明書類を提出しなかった場合、ISP は、何等かの措置を取る責任を負い ません。

(d) 損害賠償額の算定方法

以前は「司法解釈」に損害賠償額の算定に関する規定がありましたが、改正後の著作権法 が著作権侵害の損害賠償額の算定方法について明確な規定を設けたため、上記司法解釈は、

2003年の修正のときに、原解釈の第9条及び第10 条の損害賠償責任に関する規定を削除 しました。従いまして、情報ネットワーク伝送権の侵害行為の民事損害賠償額の算定は、著 作権法所定の基準(第48 条)に従うものとなりました。即ち、情報ネットワーク伝送権の 侵害行為の民事賠償責任は、その著作権侵害による損害賠償責任と同様となります。その損 害賠償額の算定は、以下のとおりです。

イ 実際損失賠償の方式

被害者が権利侵害された期間において権利侵害により蒙った実際の損失(直接経済損 失及び間接経済損失の合計)が賠償額になります。かかる損失には、被害者が権利侵害 行為を阻止するために支払った合理的な費用が含まれます。

この場合、著作権者は実際の損害につき立証責任を負います。

ロ 権利侵害者の収益

実際損失の計算が困難である場合、権利侵害者が権利侵害となる行為を行っていた期 間においてその行為により取得した利益が賠償額になります。

同様に、著作権者は立証責任を負います。

ハ 上記2つの方法で、権利侵害者が権利侵害により取得した利益又は被害者が権利侵害 により蒙った損失を確定することができない場合、人民法院は、権利侵害行為の状況(主 観性、期間、性質等)に基づき、50万人民元以下の賠償判決を下すことができます。

B 2005年4月30日に中国国家版権局及び情報産業部が公布した「インターネット著 作 権行政保護弁法」の内容。

(a) 規範対象

インターネット情報サービス活動において、インターネットのコンテンツ提供者の指令に 基づき、インターネットを通じて自動的に作品や録音・録画製品などの内容をアップロード、

保存、リンク、検索するなどの機能を提供し、かつ保存または発信する内容にいかなる編集 や修正、選択をも行わない行為が適用対象とされています。

但し、インターネット情報サービス活動において、インターネットのコンテンツを直接提 供する行為には、著作権法を適用します。

また、実演者、録音・録画制作者等の著作隣接権者が、インターネットを通じて大衆に対 して、その実演したもの、または録音・録画製品を発信する権利の行政保護に関しても、こ の行政保護弁法を適用します。

(b) 管轄

インターネット情報サービス活動における情報ネットワーク伝送権の侵害行為は、権利侵 害行為の発生地の著作権行政管理部門が管轄します。権利侵害行為の発生地には、インター ネット情報サービス活動のサーバー等の設備の所在地が含まれます。

(c) 通知

著作権者がインターネットで伝播された内容が自分の著作権を侵害しているのを発見し、

ISP またはそれが委託したその他の機構に対して通知を送付した後、ISP は速やかに関連内 容の削除措置を取り、かつ著作権者の通知を6ヶ月間保存しておかなければなりません。

(d) 逆通知

ISP が著作権者の通知に基づいて関連内容を削除した場合、インターネットのコンテンツ 提供者は、ISP と著作権者に対して、削除された内容は著作権を侵害していないことを説明 する逆通知を出すことができます。逆通知が出された後、ISP は削除された内容を復旧させ ることができ、またこの復旧行為に対して行政法律上の責任は負いません。

(e) 行政処罰

著作権行政管理部門は、インターネット情報サービス活動における情報ネットワーク伝送 権の侵害行為に対して「著作権行政処罰実施弁法」を適用し、以下の行政処罰を行うことが できます。

ホ 権利侵害複製品を製作するために主として用いた材料、道具及び設備等の没収 ヘ 法律、法規及び規章20が規定したその他の行政処罰

また、ISP が、インターネットのコンテンツ提供者がインターネットを通じて他人の著作 権を侵害すると知りながら、またはそれと知らずとも著作権者の通知を受け取った後に関連 の内容を削除する措置を取らず、同時に社会公共の利益を損なった場合、著作権行政管理部 門は「中華人民共和国著作権法」第47 条の規定に基づいて、権利侵害行為の停止を命じ、

また以下の行政処分を行うことができます。

イ 違法所得の没収。

ロ 不法経営金額の 3 倍以下の過料に処します。不法経営金額を計算し難い場合は、10 万元以下の過料に処することができます。

なお、不法経営金額とは、権利侵害行為者が知的財産権侵害行為において製造、貯蔵、運 送または販売する権利侵害製品の価値を指します。既に販売した権利侵害製品の価値は、実 際販売した価格に従い計算されます。製造、貯蔵、運送または未販売の権利侵害製品の価値 は、表示価格または調べて明らかになった権利侵害製品の実際販売平均価格に従い計算され、

表示価格がなく、または調べても実際販売価格を明らかにしない権利侵害製品については、

権利侵害製品の市場中間価格に従い計算されます。(「最高人民法院及び最高人民検察院によ る知的財産権侵害における刑事事件の処理についての具体的な法律適用に関する若干問題の 解釈」第12条)21

ISP が著作権者の通知を受領した場合には、その提供した情報の内容及びその発表時間、

インターネットアドレスまたはドメインネームを記録し、インターネットのコンテンツ提供 者の接続開始時間、ユーザーシリアルナンバー、インターネットアドレスまたはドメインネ ーム、ダイヤルアップ接続用電話番号等の情報も併せて記録しなければなりません。ISPは、

これを60 日間保存し、著作権行政管理部門の取調べがあった場合には提供しなければなり ません。これを怠った場合、国務院情報産業主管部門または省、自治区、直轄市の電信管理 機構が警告し、状況に応じて、3万元以下の過料を併科することができます。

ISP の行為が犯罪を構成する疑いがあることを発見した場合、著作権行政管理部門は、国 務院の「行政法執行機関の犯罪嫌疑事件移送の規定」に照らして事件を司法部門へ移送し、

法に基づいて刑事責任を追及させなければなりません。

20 規章とは、国務院各部門、委員会、中国人民銀行、審計署及び各省、自治区、直轄市及び比較的大きい 市等の地方政府が制定する法令をいいます。(中国「立法法」第2条第2項、第71条、第73条)

21 同司法解釈の「不法経営金額」の計算方法は、人民法院が刑事事件を審理する際に適用する基準であり、

人民法院の範囲内で法的拘束力を有します。実務上、行政機関はこのような最高人民法院の司法解釈を参考 することはありますが、法律上、行政機関は最高人民法院の司法解釈に拘束されるわけではありません。

関連したドキュメント