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子どもや親の言動の背景にある SOS を受け止め、早めに対応を

 夏休みに入り、R町の児童館は、いつも以上に子どもたちの出入りが多 くなりました。そんな中、興奮した様子で児童館にやってきたのは小学3 年生の圭くんの両親です。圭くんがいじめにあっている、と訴えてきたの です。対応した児童厚生員の安田さんに、圭くんのお母さんは言いました。

「今、わが家は大変。圭がいじめの鬱憤ばらしで妹を叩いたり蹴ったりして いる」。お父さんも続けます。「いじめを見て見ぬふりなのか。職員は何を してる」。児童館への非難を次々と口にするのでした。

 両親が帰ったあと、安田さんたちはこの件について話し合いました。

 児童館内の放課後児童クラブで圭くんは、同学年の同じ顔ぶれの男の子 たちといつも一緒にいます。7人のグループで、いわゆる“つるんでいる”

といった関係です。そして、互いにちょっかいを出したりしては、へらへ

子どもたちの行動を注意深く観察

遊びの悪ふざけと区別がつきにくい「いじめ」。そのいじめの芽 を察知したとき、児童館はどうすればいいでしょう。また、いじ めの背景に見え隠れする家庭の問題や養育不安を抱える保護者に 対し、児童館ができることは?

ソーシャルワーク実践課題

R児童館の取組み例

事例⑤

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らと笑いあったりしています。そうした7人の子どもたちの行動に幼稚さ は感じられるものの、それがいじめなのかどうか、職員たちには判断でき ませんでした。

 ともあれ、今後はこれまでにも増して子どもたちの行動を注意深く観察 すること。と同時に、夏休みの長い期間、職員たちの時差勤務もあり、子 どもたちのことで見えていないことはないか、職員同士、常に意見を交換し、

情報を共有することを確認し合いました。

 

 つかまえたクモを襟元から入れる。スボンを下げる��。7人の男子た ちは、そんないたずらや悪さを仲間の誰かにしては、はしゃいでいます。

彼らの関係は、いつも決まった一人をターゲットにするというわけではな く、やったり、やられたり。圭くんの両親が訴えてきたように、圭くんが いじめを受けている様子はとくにありません。逆に、圭くんがいたずらを しかけることも多いのです。7人が絡みあって悪ふざけをし、そしてまた、

やる側もやられている側も、楽しんでいるようにも見えます。けれど、日々 観察するうちに職員たちは、こうした関係に“危なさ”を感じました。メ ンバーの中には発達障がいのある子もいます。その子が嫌がることをして 興奮させ、それを面白がっているのもよくない兆候です。今は遊びの感覚 かもしれない。けれど、このままエスカレートしていけばどうなるのか。

やがて深刻ないじめに発展するのでは��。

 また、安田さんが気になったのは、時として、彼らがわざと悪ふざけを し、職員がその対応に追われるのを喜んで見ているように思えることでし た。職員の気を引こうとしてやっているのか。職員に関わってもらうことで、

甘えようとしているのか。これは子どもたちだけの問題ではない。安田さ んたちは、子どもたちと親との関係にも目を向けました。

 7人の家庭環境は、両親が揃っている子が圭くんを含め2人。あとは、

母子家庭で父親ではない男性が同居中だったり。また、両親はいるものの、

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危険な兆候を見逃さない

養育は親せきにまかせ、週末だけ親が家に帰ってくるという子もいます。

そして、発達障がいのある子は、親がそのことを認めようとしません。

 安田さんたちが心がけたのは、根気よく子どもたちに声をかけ、話し合 うことでした。仲間との遊びについて。やっていいこと悪いこと。相手の 気持ちになって物事を考えることの大切さ。さらに、家でのことなど。そ うして話をするうち、ぽろぽろと涙を流しながら、いつも家に一人ぽっち でいることや、母親に殴られたことなどを打ち明ける子も出てきました。

 家庭の状況、親との関係──そうしたものを紐解いていくうちに、それ ぞれの子どもたちが抱えた複雑な家庭環境による不安定な心理や、親に甘 えられない実情が少しずつ見えてきました。そこで、親に対しても、安田 さんたちは積極的に声をかけ、話をするようにしました。子どもを迎えに 来たとき、子どもたちの様子を伝えたり、迎えに来ても車の中で待ってい るだけで、児童館の敷地内に一歩も入ろうとしないお母さんには、「館内で お待ちになりませんか」と声をかけ、話す機会をつくりました。そうした ことが度重なるうち、保護者から「先生!」と呼びかけてくれるようになり、

家での子どもの様子、自分の思いを話すようになりました。親自身が養育 に不安を感じていることなども少しずつ見えてきたのです。

 そんなある日、児童館にやってきた圭くんのお母さんが、安田さんの前 でいきなり、「私、あの子のことを愛せないの!」と言って泣き出しました。

あとは堰を切ったように、自分の生い立ち、圭くんが生まれても抱けなかっ たこと、下の子はかわいいと感じられ、一緒に寝たりするのに、圭くんに は添い寝もしたことがないことを、オイオイ泣きながら話すのです。

 お母さんの告白に、安田さんたちは、圭くんが家で妹に暴力をふるった りすることや、両親の苛立ちの原因の一端が理解できた気がしました。ひ と通り話し終えたお母さんの表情は、どこか晴れ晴れとしているようでし た。心に抱えていた思いを吐き出したことで、親子関係がいい方向に一歩

子どもと、親と、根気よく話し合う

いじめを心配する保護者支援 事例⑤

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 夏休みが終わっても、7人の3年生男子の絡み合うような関係は相変わ らずでした。小学校からの下校中も、相手が嫌がることを互いにし合って いると他の子から聞いた安田さんは、「自分たちの目が行き届かないところ もある。児童館だけの問題じゃない」と小学校にも連絡をし、協力を得る ことにしました。悪ふざけがいじめになり、深刻化する前に、その芽を摘 んでおかなければと考えたのです。

 児童館からの要請に、小学校側からは子どもたちのクラス担任の先生が 児童館を訪れ、職員たちと話し合いの場をもってくれました。そして、小 学校内でも子どもたちに注意の目を向けること、児童館と情報のやりとり をすることを決めました。母親と個々に面接し、それぞれが抱える養育の 悩みに応じて相談機関につなげることも約束してくれました。

 児童館でも、お母さん同士が話し合いをする機会をつくりました。とい うのも、圭くんの両親が、圭くんがいじめにあっていると思い込んでいた ように、他のお母さんの間でも、「うちの子は無理に仲間に入れられている」

「あの子が悪い」といった誤解が生じていたのです。そこで、子どもたちは 本当は仲がいいこと、ただ、悪ふざけが過ぎることもあるなど、状況を理 解してもらいたかったのです。

 話し合いの場は、子どものお迎えが重なったとき、時間をとってもらいま した。7人の子どもたちの母親全員が一度に集まることは難しいので、その つど、居合わせたお母さんたちに声をかけ、それを何度か繰り返しました。

 話す機会を重ねたおかげか、その後、お母さんたち同士が親しげに会話 を交わすことも多くなりました。子どもを気にかける態度が見え始めた頃 になると、子どもたちも少しずつですが、落ち着いてきたようです。安田 さんは、子どもたちの問題行動も、圭くんのお母さんのような児童館への 非難も、助けを求める SOS だと考えています。そして、これからも児童館 の職員として、子どもや保護者が無意識に発する SOS を、大事に受け止め

学校との連携で、いじめの芽を摘む

児童館だから できることが あります。

時に、注意も 必要です。

A

B

いじめを心配する保護者支援 事例⑤

 「児童館弁慶」という言葉があります。家や学校ではお となしくていい子が、児童館では、仲間と騒いだり、乱 暴な行動をする。安心しているから「地」を出している わけで、その分、児童館ではその子の本来の姿や抱えて いる問題を見つけやすい、とも言えます。

 この事例では、職員は子どもたちの言動を注意深く観 察し、背景にあるものを探ろうとします。ストレスの原因 になっているものは子ども集団か、学校か、家庭か。こ の視点は、いじめの芽を摘むために欠かせません。子ど もたちがわざと職員の前で悪ふざけをするのも、事例の 中で指摘があるように、親に甘えられないことの反映で しょう。

 この事例から感じたのは、職員たちが、本当によく「話 を聴いている」こと。子どもと話をし、お母さんたちに 積極的に声をかけて話を聞き……。相手の話を聞くこと は、問題解決の第一歩です。この事例では、それがいい 結果につながっているようですが、注意しておかなくて ないけないこともあります。

 心の傷が深い場合、話すことで心のフタを開けたとた ん、これまで閉じ込めていた痛みや苦しみがあふれだし、

自分の感情をコントロールできなくなることがあります。

解 説

解説:大竹先生

 いじめと保護者の問題、2つの課題が密接にから んでいる事例です。危うい子どもたちの行動、誤解 をもとに理不尽な怒りをぶつけてくる保護者……。

それを「SOS」の発信と受け止め、児童館全体でケー スワークの原則やグループワークの原則に従い取り 組んだ姿勢は素晴らしいと思います。

できる

「いじめを心配する保護者支援」

の事例について

「聴く」ということ

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