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人間の愛着に基づくモチベーションの維持から,インタラクションを持続させるような 人工物を設計するためには,予備実験で観察された以下のような構成を必要とする.

実世界での人間の働きかけが人工物に反映されること

人間の働きかけによる人工物への反映がリアルタイムで人間が認識しやすいこと

対象への愛着が湧くような人工物の扱い方をさせる設定とすること

予備実験1および2で構成された人工物は,被験者のゲームクリアへのモチベーション を維持させるためにバイオフィードバックを用いることとした.しかし,予備実験2で は,被験者に「愛着が湧かない持ち方」をさせたことによってゲームクリアに対するモチ ベーションが極端に減少あるいは消滅しており,モチベーション維持に有効とされたバイ オフィードバックやロボットのモーションが全く意味を持たない結果となった.このこと は,人間のモチベーション維持にバイオフィードバックを使用することは実験的に有効で あったことが確認されたが,それ以上に人間の愛着はモチベーション維持に大きな影響を 与える可能性がある,ということを示唆している.つまり,人間の愛着を引き起こすこと でそれ自体が強いモチベーションとなり,人工物との持続的なインタラクションを可能と すると考えられる.このことから,人間の愛着を引き起こすことができれば,愛着自体が モチベーションとなり得るため,モチベーションの維持に有効とされたバイオフィードバッ

いた.そこで,人間がロボットに触れながらPC画面上の対象に影響を与えること ができ,PC画面上のキャラクタの状態をロボットを介してフィードバックするよう な,実世界指向とすること.

2. 人間の働きかけをリアルタイムかつ人間がわかりやすいように対象へ反映させる機 能:予備実験において,被験者の状態がリアルタイムに対象へ反映されていること を被験者自身が認識しやすいことが被験者の興奮に大きな影響を与えていたことが 確認された.そこで,人工物に対する人間の働きかけがリアルタイムに対象に影響 を与え,その影響が人間がわかりやすいような設定とすること.

3. 対象への愛着が湧くような扱い方をさせる機能:予備実験2では,愛着が湧かない ような持ち方をさせられた被験者が,それが原因で実際に対象に対して愛着が湧か なくなったことが示された.そのため,人間が自然に愛着の湧くような扱い方がで きる人工物の操作方法とすること.

上記の機能を構築した人工物“あるくま”については,次章で詳細に説明を行う.

5.2 人間の愛着を引き起こす人工物 あるくま の概要

そこで,人工物を構築する要素の一つである人間の物理的な働きかけに対して対象が反 応する機能として,人間がロボットに触れながらディスプレイ上のキャラクタに影響を与 えることのできるシステム“あるくま”を構築することとした.“あるくま”(図5.2)はテ ディベア型のロボット[56] (IP ROBOT PHONE,イワヤ株式会社[28],構成:片腕2自 由度×2,首2自由度,計6自由度)をコントローラとし,その入力をディスプレイ上の キャラクタ(図5.2)の動きに反映させるシステムである.また,人間の働きかけをリアル タイムかつ人間がわかりやすいように対象へ反映させる機能として,“あるくま”は,コ ントローラであるロボットの首を動かすことでキャラクタの向きを変えることができ,ロ ボットの腕を動かすことで同様の動きをキャラクタにリアルタイムに反映させることがで きる設定とした.そしてロボットの両腕を交互に縦に振り,ロボットに歩くような動作を 与えることで,キャラクタを歩かせることができる.キャラクタはディスプレイ上に構成 された壁で囲まれた部屋の中に存在しており,部屋の外に出ることができないため,その 中でのみ歩くことができる.また,キャラクタがその部屋の壁や障害物などにぶつかると,

ロボットの両腕にトルクが働き,キャラクタが何かにぶつかったということを知らせる仕 組みとなっている.一般的に「歩く」という行動について連想する身体部分は「足」であ るため,「ロボットの足を動かすことでキャラクタが歩く」という仕組みの方がより直感的 であるといえる.しかし,“あるくま”では交互に腕を振るといった動作によってディスプ レイ上のキャラクタを歩かせる設定とした.その理由としては,対象に対して愛着が湧く ような扱い方をさせる機能を構築させたためである.ここで,人間と人間の自然な行動と して,人間が他者(例えば,よちよち歩きの赤ちゃん)を歩かせようと考えた時に,まず その手をとるということは容易に想像がつく.このような状況下では,人間は他人の足を 直接動かすことは無く,むしろそのような行為は他人にとって強引で,その人を転倒させ てしまう危険性がある.よって,人間がロボットの腕を持って歩かせることで,その人間

PC ROBOT

図5.1: “あるくま”のシステム構成

Figure 5.1: System configuration of Marching Bear

はロボットを強引に扱っていると感じるのではなく,ロボットをまるで人間(例えば,赤 ちゃん)のような存在と感じると期待され,対象への愛着を阻害しない操作が可能となる と考えられる.そしてその結果として,人間の愛着に基づくモチベーションを維持させる ことができ,持続的なインタラクションを構築することができると考えた.さらに,人間 が他者と手をつないで歩く場合,手の振りのリズムを合わせることで,自然と足並みが揃 う.そこで“あるくま”においても,人間がロボットの両腕を自分のリズムで交互に振る ことで,自らの意図した歩行速度,リズムをディスプレイ上のキャラクタに反映できるよ う構成した.

さらに,予備実験1および2で構成された人工物のPC画面上に表示されたフィールド は全て2Dで構成されていたが,“あるくま”では3Dのグラフィックスでディスプレイ上 のフィールドおよびキャラクタを構成することとした.その理由として,人間のより強い 愛着を引き起こすために,実世界での人間の愛着行動を人工的に再現させる必要があり,

理想的なヴァーチャルリアリティ・システムの三要素における「三次元の空間性」を取り 入れたためである.ヴァーチャルリアリティの分野では,ディスプレイ上や遠隔に存在す るロボットなどの現前していない対象を人間がコントローラで操作した場合,現前してい ない空間からの情報を,VRの三要素である「三次元の空間性」,「実時間の相互作用性」

,「自己投射性」を考慮して的確に抽出,生成し,被験者に与えれば,現前しているのと 同等の効果を引き起こし得るとされている[64].三要素のうち「実時間の相互作用性」,

「自己投射性」に関しては,人間のロボットの操作によってディスプレイ上のキャラクタ をリアルタイムかつ直感的に動かすことができる点や,ディスプレイ上のキャラクタの歩 行やそのリズムを誘導させられる点において実現できていると考えられる.

以上のように,“あるくま”は実世界での人間の愛着行動を利用して,人間の対象への愛 着を引き起こす人工物を目指すものである.

図5.2にロボットの関節の構成を示す.ディスプレイ上のキャラクタの歩行動作は,ロ ボットから取得した両肩のX軸角度から計算する設定とした.角度は一秒間に10回の割

合でDegree値として取得し,一方の肩の角度差分が5度以上,もう一方の肩の角度差分

が-5度以上の場合,歩行動作処理を行うこととした.歩行方向は,歩行動作を行っている 時のキャラクタの顔が向いている角度とし,歩行速度は両肩の角度差分の絶対値を平均し た値に比例させた.歩行中のキャラクタの足の角度は-(肩の角度/2)とし,両腕の振りと 足の振りを連動させた自然に歩いているような振る舞いをさせた.また,ロボットの首を 回す(Y軸)ことによってキャラクタの向く方向を変えることができるようにし,首を±

30度以上回すと,キャラクタは一定の速度でY軸回転を行い,首を±30度以内に戻すと 回転は止まるよう設定した.

FRONT SIDE

TOP

120

70

210 60

図5.3: IP ROBOT PHONEの自由度 Figure 5.3: Degree of Freedom of Marching Bear