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レッドリスト改訂に当たって全種について検討を行った。鳥類にとって宮城県という狭 い地域だけが生息域となっている種は尐なく,ほとんどが周辺地域,国内及び国外の生息 状況も考慮した。掲載種検討において重要な種は県内で繁殖する留鳥や夏鳥,次いで越冬 する冬鳥,滞在時間の短い旅鳥の順になる。

カテゴリーについては生息地と個体数割合の増減により分類を行った。また,前回情報 不足とした種について,掲載検討を行った。今回は特に海鳥の生息状況を調査し,掲載の 検討を行った。三陸海岸島嶼はウミスズメ類,ウミツバメ類の重要な生息地となっている ことを確認した。

近年,個体数の減尐が顕著なのが夏鳥として県内に渡来するサギ類,ヒクイナ,ヨタカ などが挙げられる。河川や水路の整備が水辺環境に生息するクイナ類の減尐の要因の一つ

と思われる。

また,全体に県内の生息環境の変化が尐ない状況なので,東单アジアなどの越冬地の環 境悪化が懸念される。反対に個体数増加に伴い,掲載見直しの種もあった。

○両生類・爬虫類

前回のレッドリスト掲載種を選定した時と比較して,両生類,爬虫類の県内での生息状 況に大きな変化はなかった。

個別には,『3 調査・検討の結果概要』のニホンアカガエルの項でも触れたように大 規模な農地改良などの進捗で平地性の種の生殖環境の悪化が懸念されていたが,幸いなこ とに,これまでのところ,決定的なダメージを受けるには至っていないようである。

また,カエルツボカビ症の蔓延も心配されたが,日本産の両生類はツボカビに対する耐 性を備えているという研究報告もあり,実際,野外でツボカビ病によると思われるカエル の大量死も報告されていない。

そういった状況の中で,カエル目2種のカテゴリーの見直し(除外を含む)と,カメ目 の目撃情報を踏まえたリストへの新規掲載を行った。

○汽水・淡水魚類

改訂にあたり前回レッドリストとの比較検討,新出現種と干潟・汽水域のハゼ科の評価 に重点を置いている。

なお,カテゴリーの選定,変更については定量的な検討までには至らなかった。

○昆虫類

2001 年に発行された「宮城県の希尐な野生動植物-宮城県レッドデータブック-」により 公表されたレッドリスト(以下、第1次リスト)において,昆虫類は,「絶滅(EX)」5 種,「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」67種,「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」127種,「準絶滅危惧

(NT)」134種,「情報不足(DD)」224種,「要注目種」92種の計649種がリ ストアップされた。今回の改訂作業によって作成された第2次リストでは,第1次リスト からは518種を除外,80種を新規追加し,計211種がリストアップされた。その内 訳は,「絶滅(EX)」5種(増減なし),「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」31種(36種減),

「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」42種(85種減),「準絶滅危惧(NT)」69種(65種減),

「情報不足(DD)」64種(160種減),「要注目種」0種(92種減)であった。

レッドリストを作成するためには,まず地域生物相の解明が必要不可欠である。しかし,

前回のレッドリストにおいては県内の昆虫類に関する十分な調査・検討がされたとは言え ず,膨大な種を抱えていた。その問題点を克服し,実効性あるリストを作成することが今 回の改訂作業に求められた役割であり,そのためには大幅な変更(スリム化)を行う必要 があった。

改訂レッドリスト掲載種を分類群別にみると,コウチュウ目(108種),チョウ目(4 5種),トンボ目(24種),ハチ目(16種),カメムシ目(8種),バッタ目(5種),

アミメカゲロウ目(4種),ゴキブリ目(1種)となった。コウチュウ類の選定種数が突 出しているように見えるかもしれないが,この結果は分類群の大きさをよく反映したもの であるように思われる。その一方で,ハエ目やトビケラ目など,1種もリストアップされ ていない分類群が20目にのぼる。生息状況がよく調べられているトンボ類では掲載種数 が既知種数の約25%という高率であることから,調査が進んでいないマイナーな昆虫目 でもこの程度の種が危機に瀕している可能性もある。

生息場所のタイプ別にみると,里山林を含む森林周辺に生息する種が約30%と最も多 く,次いで池沼・湿原・水田などを含む止水的な環境に生息する種(26%),海浜・河 原の砂地に生息する種(20%),乾性・湿性の草原に生息する種(18%)という順で あった。これらの多くは広い意味での里山で見られる種であり,全体の94%を占めた。

○海岸地域の無脊椎動物類

海岸動物に関しては,評価対象種154種のうち75種がレッドリストに選定された

(「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」4種,「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」16種,「準絶滅危惧(NT)」22 種,「情報不足(DD)」27種,「要注目種」6種)。また,選定が保留されたものは40 種,普通種とされたものは39種となり,他に外来種として12種がリストアップされた。

分類群別の内訳を見ると,刺胞動物のイソギンチャク類が1種,紐形動物のヒモムシ類 が1種,軟体動物の巻貝類が32種,二枚貝類が20種,環形動物の多毛類が5種,星口 動物が1種,ユムシ動物が1種,節足動物のカニムシ類が1種,甲殻類が11種(うち,

カニ類が8種),棘皮動物のヒトデ類が1種,ナマコ類が1種であった。

巻貝類と二枚貝類,そしてカニ類に絶滅が危惧される種類が多く存在するという結果と なったが,これは,他の分類群については調査研究そのものが不足しており,同定の難し さもあって県内における正確な生息情報が限られていることも一因としてあげられる。ま た,2008 年から 2010 年にかけて行われた分科会構成員の合同調査で新たに宮城県に分布 することが確認された種もあるなど,全体的に沿岸域の生物相に関する調査やその記録は 限られているのが現状である。このため,レッドリストの内,情報不足あるいは要注目種 に選定された種が44%にのぼっている。これらの種に加え,選定の過程で「保留」とさ

れた種(40種)については,今後の調査でその動向が把握されれば,カテゴリーの変更,

あるいは新たにレッドリストに加える等の見直しが必要である。

主な生息域が潮下帯や岩礁であるため,広域分布種と考えられる種は尐数しか選定され ていない。具体的には,クロタマキビ,オオウスイロヘソカドガイ,ヒバリガイモドキが 分布单限あるいは分布北限ということで宮城県要注目種に選定され,シコロエガイとイガ イは生息数が尐ないようであるものの情報が限られていることから,情報不足に選定され たのみであり,絶滅危惧や準絶滅危惧に該当する種はいなかった。

レッドリスト種に多く選定された巻貝類,二枚貝類,甲殻類のほとんどが,内湾や潟湖 あるいは河口部の干潟やその周辺を主な生息場所とする種であった。このことは,干潟や その後背地にある塩性湿地,あるいは潮下帯に立地するアマモ場が,人間活動の様々な影 響(堤防の建設,埋立て,河川の汚染など)を受けることで,面積が減尐したり,生息環 境が劣化している現状を反映しているものと考えられる。

内湾の最奥部など潮通しの悪いところには泥分がたまりやすく,泥干潟が形成されるが,

このような環境は尐なくなってきている。そのため,カワグチツボ(絶滅危惧Ⅰ類),サ ザナミツボ(絶滅危惧Ⅰ類),カワアイ(絶滅危惧Ⅱ類),エドカワウミゴマツボ(情報 不足)など,泥分の多い環境に生息する種は,その生息環境が失われる可能性が高い。一 方,潮通しの良いところで,礫混じりの砂泥底に生息するようなバルスアナジャコ(情報 不足)やヒモイカリナマコ(情報不足)もその生息環境が尐なくなってきているようなの で要注意である。特殊な生息場所ということでいえば,ヨシ原の地高が高いところを生息 場所とするヨシダカワザンショウ(絶滅危惧Ⅱ類)や泥岩に穿孔して生息するニオガイ(準 絶滅危惧)なども生息環境が失われることがその種の絶滅につながることになる。干潟の 上部にみられる打上げ物の下に生息する,ヤマトクビキレガイ(準絶滅危惧),ナギサノ シタタリ(絶滅危惧Ⅱ類),クビキレガイモドキ(絶滅危惧Ⅱ類)はこれまであまり注目 されてこなかった生息環境であるが,最近の調査で尐数が生息していることが判明したば かりであり,生息場所そのものの保全が個体群の維持に欠かせない。アカイソガニ(情報 不足)は波しぶきのかかる転石海岸に棲み,満潮線付近の石の下に生息するので,やはり 生息場所がきちんと維持されるかどうかに左右される生活をしていることになる。

上記のような生息場所の物理環境の特性に加えて,塩分環境が問題になるような種も存 在する。イトメ(準絶滅危惧)やシダレイトゴカイ(準絶滅危惧)などは汽水環境に適応 した種で,塩分が海水と同程度になるような場所は生息には向かないようだ。河川水が適 当に混じり合い汽水域が維持される環境は,河川改修や堤防の建設などのために近年は尐 なくなってきているのが現状である。

○淡水産貝類

今回の選定にあたっては,特に絶滅が危惧される2種を絶滅危惧Ⅰ類に記載したほか,

これまでの生息状況と比べ生息数など状況が悪化している2種を準絶滅危惧種とした。こ

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