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これらの事実は、水の流動状態が底質や水中および底土中の栄養塩の供給を規定し、基 礎生産が場所によって異なり、それを食物とするイソシジミのような二枚貝の生産過程に 反映し、さらには高次生産者であるイシガレイなど魚類の生産へと結びついていくことを 示している。すなわち、環境と生物生産過程とを一体のものとして捉えることができるよ
ノ
うになってきたこと、また、低次〜高次生産へのエネルギーの流れとして、干潟物質経済 を一連の結びつきの中で論議できるようになってきたことを示している。
結言
本研究は宮城県名取川河口域をモデル水域として、河口域の二枚貝とくにイソシジミ の物質経済に注目し、これを河口域物質循環系における骨格構造に位置づけて、この水域
ノ
の機能的役割の解明のための糸口を兄い出すことを目的に研究を進めた結果、次のような 結論を得ることができた。
(1)河口域における水の流動に伴う栄養塩濃度の変動を追跡したところ、流動の激しい 時間帯には底土表面付近から高濃度のアンモニウム塩の拡散がみられ、その度合いは粒度 の細かい底質の場所で大きく、また、水中に拡散した栄養塩は隣接する場所に運澱されて いることが明らかになった。
(2)名取川河口域における二枚貝類の優占種はイソシジミであり、その分布のしかたは 底質の環境条件との結びつきが強く、シルト・クレイ%は20%以下であることが必要条件 であることが分かった。
(3)イソシジミの相対成長(殻長に対する体重の関係)をみると、最もよい場所は河川 域の流心近くの干潟で、底質のシルト・クレイ%が低く、クロロフィルaが多い条件であ る。懸濁物の沈積などはしにくいが、付着珪藻の増殖には好適な条件、光および栄養塩の 供給も保証されるようなところが最適である。すなわち、適度な水の流動があり、水深が 浅いという物理的環境が整っている場所であるといえる。
(4)優占種であるイソシジミの生物生産過程に注目し、フィールドにおける成長実験に
より求めたイソシジミの年間成長量は殻長で12‑14mm/year、体重では2.8‑3.1g/yearであ
った。
(5)イソシジミの飼育実験によって、水温条件ごとに珪藻類の摂食量と成長との関係を 一次回帰式として求めることができ、現場における食物摂食量と成長との関係の推定が可 能になった。またシルト・クレイの添加による飼育実験によりイソシジミの成長への影響
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を明らかにできた。
(6)二枚貝類と他の生物群集との相互関係として、イソシジミとイシガレイ稚魚の関係 に注目して、イシガレイ稚魚によるイソシジミ水管に対する摂食圧の推定を行うことがで
きた。名取川河口域のイシガレイはイソシジミの水管への依存度が高く、 4月〜6月の期間、
ノ
イソシジミは、 3日に2回の割合で摂食されていることが分かった。
(7)摂食されたイソシジミの水管は24時間以内に再生が始まり、 3週間でほぼ完了するこ とが飼育実験により明らかになった。
本研究では現場における生物の生活のしかたの観察、生物生産過程の追跡、環境条件 の連続観測などによって、河口域に生活する生物と環境との結びつき方の一端をを明らか にできた。イソシジミの物質経済を中核に据えてみると、イシガレイ稚魚の成長を支える 重要な地位にあること、かつ、再生可能な体の一部分の供給を行っているという効率のよ い生産システムがあることが示され、このような生産システムは水の流れが比較的速い場 所が中心である。一方、水の流れが媛慢な場所において、多毛類などを中心とする生産シ ステムがあり21) 、河口域における機能的役割の分化があると考えることができる。し かし、このように異質な生産系として認識されるものの、水中と底土中の栄養物質の動き 方に注目してみると、互いに連関関係を保ち、ひとつの物質循環系として維持されている
ことが理解できる。すなわち、河口汽水域生態系は、地形、底質などの異なる幾つかのサ ブシステムによって構成されていると考えられ、それぞれの機能的役割も異なっているが、
水の流動や生物の活動などにより結びつき、河口域物質循環系が維持されていることを具 体的な生物の生活を通して提示できたと考えている。今後、様々な水域において、中核で
あろう生物の物質経済と物理的環境の特性から、それぞれの場の利用のされ方、相互の結 びつき方を整理して、河口域生産系の多岐にわたる機能的役割について提示していきたい
と考えている。
謝辞
本研究の遂行にあったて多くのご教示、ご助言を賜わりました、東北大学農学部教授 の大森辿夫博士、ならびに東北大学農学部助教授佐々木浩一博士に深く感謝し、御礼申ノし あげます。本研究の端緒を開いていただき、多くのご助言を賜りました元東北大学農学部 教授の大方昭弘博士に心から御礼申しあげます。調査や研究の過程において多くのご協力 をいただきました東北大学農学部助手の片山知史博士、千田良雄技官、ならびに資源生態 学研究室の大学院生、学生の皆様に深く御礼申しあげます。また、本研究に参加して下さ いました工藤真さん、藤田憲さん、武内勇太さん、小水内信裕さんに心から感謝いたしま
す。
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