診断に際しては,①、②、③によって不応性貧血(骨髄異形成症候群)を疑う。
Aの必須基準の1)と2)[WHO分類では1)~4)のすべて]を満たし、Bの決定的基準の1)[WHO分類では1)
または2)]を満たした場合、不応性貧血(骨髄異形成症候群)の診断が確定する。
Aの必須基準の1),2)[WHO分類では1)~4)のすべて]を満たすが、Bの決定的基準により、不応性貧血(骨髄 異形成症候群)の診断が確定できない場合、あるいは典型的臨床像(例えば輸血依存性の大球性貧血など)で ある場合は、可能であれば C の補助基準を適用する。補助基準は不応性貧血(骨髄異形成症候群)、あるいは 不応性貧血(骨髄異形成症候群)の疑いであることをしめす根拠となる。
補助基準の検査ができない場合や疑診例[idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)例を含む]は 経過観察をし、適切な観察期間(通常6 カ月)での検査を行う。
注1.ここでのWHO分類とは,WHO分類第4版を指す。
注2.不応性貧血(骨髄異形成症候群)と診断できるが、骨髄障害をきたす放射線治療や抗腫瘍薬の使用歴がある
場合は原発性としない。
注3.不応性貧血(骨髄異形成症候群)の末梢血と骨髄の芽球比率はFAB分類では30%未満、WHO分類では
20%未満である。
注4.FAB分類の慢性骨髄単球性白血病(CMML)は、WHO分類では不応性貧血(骨髄異形成症候群)としない。
注5.WHO分類第4版では、典型的な染色体異常があれば、形態学的異形成が不応性貧血(骨髄異形成症候群)
の診断に必須ではない。
MDSの分類と予後
MDSの診断では、末梢血と骨髄所見により、疾患サブタイプ(病型)に分類する。また、サブタイプにより予後(リスク)
が異なるため、この分類は治療方針を選択するのに役立っている。分類法として、FAB分類61)とWHO分類62)の2つ があり、FAB分類は1982年にMDSの疾患概念とともに提唱され、簡潔明解であること、予後とよく相関することから 広く用いられている。一方、MDSの病態の解明が進むにつれ、MDSが非常に多様性に富んだ疾患であることが明ら かとなった。そのような背景の中、WHOによるすべての造血器腫瘍の分類の見直しにより2001年にWHO分類第3 版が提唱された。その後、2008年に第4版として改訂され63)、より深く臨床の場に浸透するようになってきている。長 年蓄積された臨床データの多くがFAB分類に基づいていることから、現時点ではFAB分類とWHO分類の併記が推 奨されている。
FAB分類
FAB分類ではMDSを末梢血及び骨髄中の芽球比率によりRA、RARS、RAEB、RAEB-T及びCMMLの5つに分類 している。本分類別の予後(生存期間中央値、AML移行率)について、Germingらの調査結果64)を表に示す。
米国NCCN治療ガイドライン60)でも、「生存期間中央値はRAEB、RAEB-Tでは5~12ヵ月、RA、RARSではおよそ3
~6年、AMLに移行する患者の割合は、RAEB、RAEB-Tでは40~50%、RA、RARSでは5~15%」と同様な傾向が示 されている。したがって、芽球比率の高いRAEB、RAEB-TはRA、RARSよりAMLに近く、予後が悪いことから、RAEB、
RAEB-Tを高リスク患者、RA、RARSを低リスク患者と分類することができる。
MDSのFAB分類
サブタイプ 末梢血所見 骨髄所見
生存期間 中央値
(ヵ月)
AML 移行率
(%)
不応性貧血 (RA) 芽球1%未満 単球1×109/L未満
芽球5%未満
環状鉄芽球15%未満 37 10 環状鉄芽球性不応性貧血 (RARS) 芽球1%未満
単球1×109/L未満
芽球5%未満
環状鉄芽球15%以上 50 8 芽球増加を伴う不応性貧血 (RAEB) 芽球5%未満
単球1×109/L未満
芽球5~19%
Auer小体なし 12 28 移行期の芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB-T) 芽球5%以上
Auer小体±
芽球20~29%
Auer小体± 5 45
慢性骨髄単球性白血病 (CMML) 芽球5%未満
単球1×109/L以上 芽球20%未満 19 13
WHO分類
WHO分類(2001年版)では、FAB分類を基本として、MDSをRA、RARS、多血球系異形成を伴う不応性血球減少症
(RCMD)、多血球系異形成を伴う環状鉄芽球性不応性血球減少症(RCMD-RS)、移行期芽球増加を伴う不応性貧 血-1(RAEB-1)、移行期芽球増加を伴う不応性貧血-2(RAEB-2)、分類不能型MDS(MDS-U)及び5q-を伴うMDS
(5q-syndrome)に分類している。本分類別の予後(平均生存期間、AML移行率)について、Germingらの調査結果64) を表に示す。本分類では、高リスク患者はRAEB-1、RAEB-2、低リスク患者はRA、RCMD、RARS、RCMD-RS、
5q-syndromeとおおまかに分類される。
MDSのWHO分類(2001年版)
サブタイプ 末梢血所見 骨髄所見 平均生存
期間(ヵ月) AML 移行率
(%)
不応性貧血 (RA) 貧血、芽球出現まれ 赤芽球系のみ異形成あり、
芽球5%未満、環状鉄芽球15%未満 69 7.5
環状鉄芽球性不応性貧血 (RARS) 貧血、芽球出現なし 赤芽球系のみ異形成あり、
芽球5%未満、環状鉄芽球15%以上 69 1.4
多血球系異形成を伴う不応性血球減少症
(RCMD)
血球減少(2~3系統)、
芽球出現まれ、Auer小体なし、
単球1×109/L未満
2系統以上で10%以上の細胞に 異形成、環状鉄芽球15%未満、
芽球5%未満、Auer小体なし
33 10
多血球系異形成を伴う環状鉄芽球性 不応性血球減少症 (RCMD-RS)
血球減少(2~3系統)、
Auer小体なし、芽球出現まれ、
単球1×109/L未満
2系統以上で10%以上の細胞に 異形成、環状鉄芽球15%以上、
芽球5%未満、Auer小体なし
32 13
移行期芽球増加を伴う不応性貧血-1
(RAEB-1)
血球減少、Auer小体なし、
芽球5%未満、単球1×109/L未満
1~3系統の異形成、
芽球5~9%、Auer小体なし 18 21
移行期芽球増加を伴う不応性貧血-2
(RAEB-2)
血球減少、Auer小体±、
芽球5~19%、単球1×109/L未満
1~3系統の異形成、
芽球10~19%、Auer小体± 10 35
分類不能型MDS (MDS-U) 血球減少、芽球出現まれ、
Auer小体なし
1系統で異形成あり、
芽球5%未満、Auer小体なし - -
5q-を伴うMDS (5q‐) 貧血、血小板数は正常又は増加、
芽球5%未満
低分葉巨核球が正常又は増加、
芽球5%未満、5q-の単独異常、
Auer小体なし
116 8
MDSのWHO分類(2008年版)
サブタイプ 末梢血所見 骨髄所見
1系統に異形成を伴う不応性血球 減少症 (RCUD)
1~2系統の血球減少、
芽球出現まれ
1系統で10%以上の細胞に異形成、芽球5%未満、
環状鉄芽球15%未満
環状鉄芽球性不応性貧血 (RARS) 貧血、芽球出現なし 赤芽球系の異形成のみ、芽球5%未満、
環状鉄芽球15%以上 多血球系異形成を伴う不応性血球
減少症 (RCMD)
血球減少(2~3系統)、芽球出現まれ、
Auer小体なし、単球1×109/L未満
2系統以上で10%以上の細胞に異形成、
環状鉄芽球±15%、芽球5%未満、Auer小体なし 芽球増加を伴う不応性貧血-1
(RAEB-1)
血球減少、Auer小体なし、芽球5%未満、
単球1×109/L未満 1~3系統の異形成、芽球5~9%、Auer小体なし 芽球増加を伴う不応性貧血-2
(RAEB-2)
血球減少、Auer小体±、芽球5~19%
単球1×109/L未満 1~3系統の異形成、芽球10~19%、Auer小体±
分類不能型MDS (MDS-U) 血球減少、芽球1%以下 1~3系統で10%未満の細胞に異形成あり、MDSが推定さ れる染色体異常がある、芽球5%未満
del(5q)単独異常をもつMDS (5q‐) 貧血、血小板数は正常又は増加、
芽球出現まれ
低分葉巨核球が正常又は増加、芽球5%未満、
5q-の単独異常、Auer小体なし
予後予測システム
MDSの治療方針の決定及び予後予測に用いられる65)。FABグループによるMDS概念の提唱後、血球減少の程度、
骨髄芽球比率、染色体異常、年齢などを用いたMDSの予後予測システムが複数報告されている。日本を含む各国 の研究者が患者情報を持ち寄り、信頼に足る臨床情報とフォローアップ期間を備えたデータベースを作成し、そのデ ータベースの解析により1977年に確立された予後予測システムがIPSSである。IPSSはFAB分類に基づいたスコ アリングシステムであるが、WHO分類に基づいたスコアリングシステム(WPSS)66)も提唱されている。IPSSは診断時 点(治療開始時点)からの自然経過による予後予測である一方、WPSSは、病状の変化にも対応しており、経過中の どの時点においてもそれ以降の予後予測に役立つことが特徴とされている。
国際予後スコアリングシステム(IPSS)
IPSSでは、血球減少の系統数、骨髄での芽球比率、染色体異常様式によりスコアを加算し、スコアに応じてLow、
Intermediate-1(Int-1)、Intermediate-2(Int-2)、Highの4つのリスク群に分類する。スコアが0のLowリスク群では 生存期間(中央値)は5.7年、25%の患者がAMLに移行するまでの期間(中央値)は9.4年である。一方、スコアが2.5 以上のHighリスク群では生存期間(中央値)は0.4年、25%の患者がAMLに移行するまでの期間(中央値)は0.2年 であり、予後不良である。IPSSは予後及びAML移行の危険性を適切に層別化しており、MDSの治療方針を立てる 上で有用であることから、繁用されている。
なお、IPSSは2012年に改訂された(IPSS-R)。IPSSと同様に、骨髄での芽球比率、染色体異常様式、血球減少をス コアリングすることで診断時からの全生存ならびに白血病化の予測が可能である。特に染色体異常の様式が大きく 変更され、予後群も5群となり、より詳細な予後予測が可能となっている。
IPSSによるMDSのスコアリング
予後因子
配点
0 0.5 1 1.5 2
骨髄での芽球(%) <5 5~10 - 11~20 21~30
核型 良好 中間 不良
血球減少 0/1系統 2/3系統
<血球減少>
好中球<1,800/μL ヘモグロビン値<10g/dL 血小板<10万/L
<核型>
良好;正常、20q-、-Y、5q- 中間;その他
不良;複雑(3個以上)、7番染色体異常
IPSSスコアの配点合計によるMDSの予後
リスク群 配点合計 生存期間中央値(年) 25%AML移行までの 期間中央値(年)
Low 0 5.7 9.4
Int-1 0.5~1.0 3.5 3.3
Int-2 1.5~2.0 1.2 1.1
High ≧2.5 0.4 0.2
WPSS(WHO classification-based Prognostic Scoring System)
WPSSは、WHO分類第3版(2001年度版)をIPSSに導入するとともに、予後因子における赤血球輸血依存性の重 要性を盛り込んで提唱されたスコアリングシステムである。2011年には改訂WPSS(refined WPSS)が発表され、赤血 球輸血依存の有無はヘモグロビン値に置き換えられ、病型分類もWHO第4版(2008年度版)が用いられている。