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社会影響の測定や報告のための望ましいフレームワークのあり方を巡る議論のうちには,

そもそも何のために社会影響を測定するかが曖昧であるという問題がある(津富 2016:

Costa and Pesci 2016)。社会影響とは,人々に関わるかなり広範な変化をいうものである

(Vanclay 2003)。そのような社会影響をどのように測定対象として特定するかの問題は,

事業や介入の目的が持続可能性な発展の目標と,どのようにかかわるかをという視点で捉 えられる。国際影響評価学会(IAIA)の社会影響評価の原則では,組織やプロジェクトに よる介入により,地域社会の人々や人々と地域社会との関係性に及ぼされた影響に焦点を 当て,影響を受ける地域社会の人々の人権を重視する考え方が示されている( Vanclay 2003)。社会影響評価の本来的な目的は, 持続可能で衡平な環境や人間環境であり,その

ため広範な影響を考慮することにある(Vanclay 2003)。前述の調査(国際開発機構 2015)

では,社会的インパクト評価のステークホルダーとして資金需要者,資金提供者,金融仲 介機関の3者が選ばれていたが,事業や介入の効率性の観点よりも,社会影響の受益者の ニーズの観点がより重視されるべきであり,これは社会影響の測定や報告の本質的な議論 の前提といえる。SROI のような社会影響の測定方法を事業評価のために拙速なやり方で 利用することについては,強く批判的に議論されており,また測定すべき対象は事業より もむしろ社会であり,脆弱な人々の社会権に配慮することを重視すべきである(津富 2016)。 すなわち,社会影響の測定や報告の本質的な目的を考えた場合,どの程度,持続可能性な 衡平な環境や人間環境に配慮した観点(Vanclay 2003)を考慮できるかが,非常に重要な 議論されるべき課題といえる。

社会影響の測定や報告のためのフレームワークの問題については,社会影響評価や社会 環境会計の長い歴史があり議論されてきているが,1990年代以降,欧米を中心に,社会的 企業に焦点を当てたフレームワークが様々に開発されてきている。しかし,近年,概念的 な議論よりもむしろ実務的な,資金提供者の判断の利便性に配慮した,比較可能性を目指 したフレームワークが多く開発されがちである。社会影響の測定フレームワークは,実際

には測定結果を投資の効率性をはかり意思決定のための情報として利用する側の必要性に 沿って決められがちであり,その結果,測定対象もそのような利用者の必要性や経済性,

あるいは時間や資源の制約のもとで,予め画一的に焦点が絞られがちとなる。社会影響の 測定や報告の目的の議論と同様に,フレームワークの開発においても,本来の社会的便益 の受益者側のニーズに沿った社会影響の測定や報告がなされるための現実的な仕組みをよ り議論する必要がある。

社会影響の概念を物量換算することは容易ではない(Costa and Pesci 2016)中で,社 会影響の測定と報告の方法論について様々な考え方があるが,2 

つの方向性に分類できる。

まず一つの考え方として,社会的影響を測定することで,セクター間や社会的企業間での 比較や,その企業の時系列の比較が促進され,比較可能性が確保されるよう,標準的で普 遍的な測定方法や基準を定める考え方がある。この考え方における課題として,画一的で トップダウン式に基準を設定することで,測定対象となる社会的な事業や介入が本来目指 す目的からはずれていき,事業や介入を行う側が非持続可能であることをカモフラージュ するために利用されるリスクがある(Costa and Pesci 2016)。

このようなカモフラージュの問題は,ステークホルダーへの説明責任や透明性の議論と 関連している。社会影響の測定と報告の議論は,1990年代以降の,市民や消費者を中心と する市民社会によって表現されてきた説明責任を求める社会科学の議論の一部として捉え られる(Costa and Pesci 2016)。とりわけ,社会的企業や非営利企業の資金提供者や,行 政を通じて資金がそれらの組織に提供される際の納税者は,資源や資金の使用に関する情 報を社会的企業や非営利企業に提供させるように社会影響を測定することを求めるが,こ れは説明責任の仕組みの一つと説明できる(Costa and Pesci 2016)。前述の EU の GECES

(2014)で開発された社会影響測定基準においても,ステークホルダーの意思決定やそれ らに対する説明責任を確保することに役立つものとして提案されている。このような仕組 みにおいて,資金提供者は,自らの資金によって社会的課題の解決に変化が生み出されて いるのかどうかを知るために,社会影響の測定を要求するし,一方,社会的企業経営者は,

自らの活動のアウトカムや影響について認識し,それを誇示したいために測定する(Costa and Pesci 2016)。重要な社会影響について測定し報告することに対して,関係者からの圧 力がかかり,次第に資金調達の競争も増す可能性がある(Costa and Pesci 2016)。このよ うな説明責任の仕組みに合った最も適切な測定方法や測定基準をどのようにして見つける かの問題は未だ解決されていない。むしろ問題は,測定に関わる様々な方法, 基準やフ レームワークが開発され,その数が増加することで,社会的企業が自ら社会課題の解決能

力があることを証明する方法が創造されてしまう点である(Costa and Pesci 2016)。さら に,どのような測定方法や測定基準を利用するか次第で,社会影響が高くも,あるいは低 くもなる事実があり,このことは正当性を示すツールを使って,非持続可能であることを カモフラージュしていると解釈される(Suchman 1995)ものである。 正当性の理論をも とに,実際の活動にかかわらず,影響の程度を実際よりも高く見せ,価値のある組織であ ることを示すためだけに,組織が測定方法を楽観的に選ぶというリスクが潜在的にあると 説明できるが,このようなリスクは容易には避けられない(Costa and Pesci 2016)問題 かもしれない。

もう一つの考え方として,ステークホルダーのニーズに合わせて社会影響を測定する独 自の測定方法を開発する考え方がある。本質的には,社会影響の測定は,様々な認識をも つ多様なステークホルダーの知覚や判断に依存するものであるし,ステークホルダーと組 織との関係性に依存するものである(Costa and Pesci 2016)。ステークホルダーとの協働 の形式には,例えば,単なる情報提供,調査への参加,フォーカスグループによるディス カッション,協議などがあるが,ステークホルダーの視点の重要性を認識し,この協働を どのように実現していくかが課題となる(Costa and Pesci 2016)。ステークホルダーとの 協働がない場合には,事業や介入側の測定や報告の恣意性を低減できない可能性がある

(Costa and Pesci 2016)。この考え方にもいくつか課題があり,すなわち,社会的企業が 多様なセクターに関わっており,様々なステークホルダーのニーズに対応した目的や結果 を考慮して測定することに現実的にはかなり困難が伴う(Costa and Pesci 2016)点であ る。また,ステークホルダーが影響を受ける状況によって,詳細な影響の情報を得るよう に測定がなされるが,その情報は主観的なものである点である(Kanter and Brinkerhoff 1981)。

このような考え方と整合する,様々なステークホルダーのニーズを考慮した測定方法を 選 択 す る 手 法 と し て, マ ル チ ス テーク ホ ル ダー理 論(Kanter and Brinkerhoff 1981;

Nguyen and Jepsen 2015; Costa and Pesci 2016)を基礎とした5段階手法(Costa and Pesci 2016)が提案されている。マルチステークホルダー理論は, 組織は, 有効性を評価 するための様々な基準を使う傾向のある,多種多様なステークホルダーや支援者からなり 立っているとする考え方(Kanter and Brinkerhoff 1981; Nguyen and Jepsen 2015)

である。マルチステークホルダーを基礎とした方法を適用することで,特定のニーズのた めに最も適した測定基準を選択することや,社会的企業の非持続可能性をカモフラージュ することを避けるのに役立つ(Costa and Pesci 2016)。また正当性理論で説明される,社

会的企業の経営者がステークホルダーの実際のニーズを考慮せずに,自らの優位を得る機 会とするために社会影響の測定や報告を利用するような行動を回避するための手法として,

この5段階手法が提案されている。

5段階手法は,具体的に,1 

)ステークホルダーを特定し,2 

)ステークホルダーを適 切に分類し,3 

)ステークホルダーの関心事の性質を理解し,4 

)関係する測定基準を評 価し,最後に5)ステークホルダーからのフィードバックを検討して,測定基準やこのプ ロセス全体を再検討するというものである。ただし,この手法には測定基準を評価した後 のプロセスを,今後,発展させる余地がある。

この5段階手法は,前述の持続可能性報告のための GRI スタンダード(GRI 2016)で 示された,ステークホルダーとの協働の考え方に類似した部分があり,社会影響の測定に おいても参照可能である。GRI スタンダードには,組織はステークホルダーを特定し,そ れが合理的な期待と利益にどのように対応したのかを説明すべきとの原則が示されている。

この原則をもとに,ステークホルダーの特定や協働がうまくいかないならば,持続可能性 報告は適切でなく,信頼性も十分でないと説明される(GRI 2016)。一方で,体系だった ステークホルダーとの協働ができるならば,ステークホルダーの認識も報告の有用性も高 まり,組織内外の関係者の継続的な学習がもたらされ,様々なステークホルダーに対する 説明責任が増大し,組織とステークホルダーとの信頼関係を強化し,結果として報告の信 頼性を強化することに繋がると説明されている(GRI 2016)。

Ⅵ お わ り に

本研究は,文献研究を通して,社会影響の測定や報告に関連する議論を吟味し,主な社 会影響の測定や報告のためのフレームワークを検討し,そして社会影響の測定や報告の可 能性と課題を明らかにしてきた。まず,第1章では社会影響の測定や報告のためのフレー ムワークに関する問題意識を述べた。第2章では,先行研究を検討した。社会影響の広範 囲な定義の問題,CSR リスクマネジメントとの関係性,社会影響の測定,社会影響評価お よび持続可能性報告の関係性,社会影響の測定の目的や方法論,社会影響の測定や報告の 理論を巡る議論を検討してきた。第3章では,社会影響の測定と報告に関する世界の27の フレームワークを比較検討してきた。また,フレームワークを比較した先行研究を吟味し た。第4章ではわが国の社会影響の測定に関する調査分析から課題を検討した。第5章で は社会影響の測定や報告のフレームワークのあり方について可能性と課題を考察した。

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