1 Business Writing
反証主義の意義と限界
1
課 題
•
反証主義の意義と限界について論じなさい。
そのうえで,反証主義の限界を,確率・統計 的思考法が克服したと言われている理由を 説明しなさい。
説明しなさい。
字数は
450字程度とします。
2
課題の狙い
1.科学的推論方法(論理実証主義)の特徴に関
する理解を問う課題です。
2.
反証主義は,会計における実証研究(仮説検 定型)の推論方法にも適用されています 定型)の推論方法にも適用されています。
3
科学哲学的背景
• 枚挙的帰納法(enumerative induction)
1,2,・・・→たくさん→すべて
• 仮説演繹法(hypothetico-deductive method)
仮説→初期条件→観察予測(演繹的推論)→検証・反 仮説→初期条件→観察予測(演繹的推論)→検証・反
証(帰納的推論)。
全称命題(universal proposition )を導くには無限集 合を観察対象とすることが必要。しかし現実に観察可 能なのは有限個の関連事実。斉一性原理。循環論 法。
4
反証主義 Popper[1961]
観察予測と観察結果の不一致(反証)→仮説の誤り(帰納 法ぬきの推論)。反証されない仮説は当面保持され,さら なる反証に晒される。
命題X「白鳥は黒い」は,白い白鳥の発見により反証される。
→命題Xの誤りを帰納法抜きで 結論づけることができる
→命題Xの誤りを帰納法抜きで,結論づけることができる。
(1)反証可能性の有無→境界設定の基準 境界設定問題(demarcation problem)
(2)統計的検定における帰無仮説
5
過小決定問題
• 観察によって仮説が決定されないこと。
• ある命題(A)と他の命題(B)の繋がりが100%の確実性を持たな いこと。
ケース1
「AならばB」だが,「CならばB」
ケース2
「AならばC」だが,「A+EならばD」
6
A B
C
の可能性もある。
A C
E
の可能性もある。
Aを主要仮説,CおよびEを補助仮説といいます。
D
2 補助仮説
(1)ケース1
隠された補助仮説が,結論を規定しているケース。→「見かけの相関」が生 じるケース。
「他の条件が等しければ」(②),「ボーナス制度のある企業の経営者は利 益捻出型の会計方針を選択する」(①)。
仮説が反証された場合,反証されたのは①②のどちらであるかを,特定 することができない。実証研究につねに付きまとう問題。
することができない。実証研究につねに付きまとう問題。
(2)ケース2
補助仮説の事後的修正によって,主要仮説を反証から救済するケース。
Lakatos[1978] E.g. 天王星の軌道→未知の惑星の影響→海王星の発
見。
実証研究では非常にしばしば実施される。変数の追加・入替え,タイムラ グ,時価情報等。
7
確率・統計的思考法
証拠の予測確率100%という制約を緩和。
過小決定問題への対処法。
(1)「白鳥は白い。」→「9割以上の白鳥は白い。」
(2)「仮説が真ならば起こり得ないようなことが起きたら,
その仮説は放棄するべきである。」
→「仮説が真ならば非常に低い確率でしか起こり得ない ようなことが起きたら,その仮説は放棄するべきであ る。 」
→1%有意
8
モデル解答
•
反証主義とは,観察予測と観察結果の不一致が 生じた場合,帰納法抜きで仮説の誤りを結論づ けることができるとする推論方法である。
•
観察予測と観察結果が一致しても仮説が検証さ れたことにはならないことを,過小決定問題とい う。反証主義は,過小決定問題を指摘することに よって帰納法を批判し,その限界を乗り越えよう とした。これが,反証主義の意義である。
9
つづき
•
しかし,反証主義もまた,過小決定問題の脅 威にさらされた。理論において補助仮説の存 在を排除することは不可能であり,したがって 仮説が反証されても 反証されたのは主要仮 仮説が反証されても,反証されたのは主要仮 説か補助仮説かを特定することができないか らである。これが,反証主義の限界である。
10
つづき
•
確率・統計的思考法は,証拠(観察結果)の 予測確率を程度の問題に変換することによっ て,過小決定問題への対処法を獲得した。確 率・統計的思考法は,補助仮説の存在を程 度の問題として処理するとともに,補助仮説 の修正によって主要仮説を防御することが可 能になった。
(
413字)
11
得点分布状況 N=42 名
内容 文章・構成 総合点
A+ 0 0 0
A 4 3 3
A‐ 10 7 7
B+ 6 10 10
B 8 8 8
B‐ 6 6 5
C+ 3 3 5
C 5 5 4
C‐ 0 0 0
D 0 0 0
42 42 42
3 得点分布状況 N=42 名
8 10 12
A+
A A‐
0 2 4 6
内容 文章・構成 総合点
B+
B B‐
C+
C
採点を振り返って
• 反証主義の限界が過小決定問題にあることは理解してい るものの、過小決定問題とは何かを説明していない回答が ありました。また、過小決定問題それ自体に触れていない 回答もありました。
確率 統計的思考法における過小決定問題 の対処法に
• 確率・統計的思考法における過小決定問題への対処法に ついて理解が十分でない回答がありました。例えば、「枚挙 的帰納法や仮説演繹法以外の方法で実証主義を証明す ることができる方法である」など。
• 仮説と観察予測を区別していない回答がありました。