組織とは何か?
経営組織論 第2回
「組織の定義」
組織とは何なのか
z
組織を構成するもの
– 「行為」(活動)と「意思決定」
z
組織の定義
– 行為と決定のプロセス z
集団による決定の特徴
– 「限定された合理性」と「満足化決定」
– 集団の合成的な意思決定 z
キーワード:行為と意志決定
事例:NASAの組織的問題
コロンビア空中分解事 故最終報告書の指摘
事例
スペース・シャトル「コロンビア」の空中分解
z 事故経過 2003年
– 1月16日打ち上げ z STS-107科学研究ミッション
– 2月1日
8時44分 大気圏再突入 8時59分 約六十四キロ・メートルの高度
でテキサス州上空に進入 同 ヒューストンの地上管制と最後の交信 9時4分 テキサスからシャトルの航路に
沿って残がいが見えるとの情報 9時16分 着陸予定時刻。交信途絶 9時29分 NASA地上管制緊急事態宣言 13時 オキーフ長官が記者会見、乗組員
七人の死亡を確認
15時20分 NASAが事故原因究明まで のシャトル打ち上げ見合わせ発表 同日事故調査委員会発足 – 2月12日 事故調査委員会(外部)に査
全面移管
– 8月26日 事故調査委員会最終報告書
「コロンビア号事故調査委員会」
最終報告書概要(2003年 8 月 26 日)
(1) 事故の技術的原因について
コロンビア号事故の技術的原因は、左翼前縁の熱防護システム(TPS) にできた裂け目(breach)から熱が浸入、爆発
(2) 事故の組織的原因について(NASAの組織問題)
過去の成功に頼り、技術的作業を省略、安全情報に関する有効な意思 疎通を妨げる、専門的意見を抑圧する「組織的な障壁」、「計画を横通 しで統合して管理しない」、「命令の非公式な流れ」や「組織の規則に 則らない意思決定プロセス」が発生していることが挙げられる。
z 「安全軽視の体質変える」NASA長官(2003/8/28, 朝日新聞)
意思決定問題(1):リンダの独走
z 安全より日程優先
– 1月16日の打ち上げ翌日、映像解析班の技術者の点検依頼を飛行管理 班のリンダ・ハム班長は取り消し
– ハム班長は、約1カ月後に迫る次のアトランティスの打ち上げ管理班長に 決まっていた。衛星写真の解析には時間がかかり、コロンビアの飛行がの びてアトランティスの打ち上げ日程に響きかねないと班長は判断。
– 宇宙ステーション開発計画はコスト膨張と建設の遅れで、議会の批判を浴 びていた。昨夏の時点で、16カ月間に10回もシャトルを飛ばさないと間に 合わない状況だった。
– 焦りは、事故を未然に防ぐ機会もつぶした。
『朝日新聞』「組織の病巣深く 米スペースシャトル・コロンビア事故最終報告 書」2003/09/03より抜粋
意思決定問題(2):それを許す体質
z 沈黙 意見封じる階級制
– 飛行9日目、独立委が「運命を分けた」と見る会議は、ハム飛行管 理班長の次の言葉で打ち切り
「これまでのシャトルは戻って来たのに、今回だけは違うなんてことはな いわ」
– 一方、技術者らでつくる衝突評価班は、不安を募らせていた。だが、
飛行管理班の会議に出席して「意見は?」と水を向けられても、手 を挙げる技術者はいなかったという。
– 「NASAには、(飛行管理者が技術者の上に立つ)階級制が隠然と 存在し、意思疎通を妨げた」
『朝日新聞』「組織の病巣深く 米スペースシャトル・コロンビア事故最 終報告書」2003/09/03より抜粋
NASAの組織文化に原因
z
第7章:委員会NASAの組織文化が問題と見る 安全性の歴史、組織論、最良のビジネス手法、現 在の安全に係わる失敗を調査することにより、
NASAの組織文化に対する大幅な組織改革のみ が成功を可能にする。
=>意思決定を歪める組織的問題の存在の指摘
彼女を取り巻く意思決定条件
z スペースシャトルは老朽化した実験機である。ミスも多い。
z 予算やスケジュールの制約
– 金稼ぎミッションだからコスト抑制の必要
– 宇宙ステーション計画の方がスケジュール優先度高い z 脱出や救出手段の研究はされていない
z 宇宙ステーションへのドッキングはプログラムされていない し、多人数は乗れない
z 実はパイロット以外は素人集団
z 技術者は調べたがるが、解決策はない
z これまで大丈夫だった。今度もたぶん。。。。
NASAの意思決定問題
z
リンダはどのように決めたのか?
z
リンダの決定は単独だったのか?
z
なぜリンダの独走は許されたのか?
z
リンダは悪人なのか?
組織論の見方 組織とは何か
z 組織の基本要素は何か
≠組織を構成する人間:組織成員(member)
=組織的活動を構成する個々の行為(活動)
z 組織とは
=「人間の行為体系」(人間の活動システム)
≠たんなる複数の人間の集合体 集団、群衆、大衆
z 組織論の基本的な分析対象 行為と意思決定のシステム
組織の定義
z 公式組織(formal organization)の定義
「2人以上の、意識的に調整された諸活動、諸力の体系」
(Barnard, 1938)
z 経営学の焦点:目的を持った協働体系 C.f. 社会学:目的と指揮系統を持つ社会集団 z 組織の構成要素
1. 人間の行為(活動)
2. 互いに相互作用する体系(システム)
3. 意識的調整
組織現象
z
活動プロセスとしての組織
– 諸行為の連鎖としての組織
z
「組織」として成り立つ条件
1. 共通目的
2. 貢献意欲
3. 伝達(コミュニケーション)
主要分析対象:意思決定
z 行為=意思決定により決まる
z 意思決定が組織分析の重要な対象
z 意思決定を考える観点
1. 目標
2. 代替選択肢集合
3. 各代替選択肢の期待される結果の集合
4. 各結果がもたらす効用の集合
5. 意思決定ルール
– 意思決定ルールの基準:最適化か満足化か
選択肢1 選択肢2 選択肢3 選択肢4
・
・ 代替的 選択肢
結果a 結果b 結果c 結果d
・
・ 結果 期待
効用α 効用β 効用γ 効用ε
・
・ 期待 効用
目 標 意思決定ルール
達成度の高さ
限定された合理性
z 意志決定での合理性は実際 に限られている
– 最適化意思決定モデル(経 済人モデル)の前提の難点
1. 全代替選択肢集合が所与
2. 代替選択肢集合にその結 果集合
3. 意思決定者は完全な効用 関数を持つ
4. 好ましい結果の集合が得ら れる代替的選択肢の選択
=>難点を持っている
z 「限定された合理性」
– Simon (1947)
– 人間の情報処理能力の限界
1. すべての選択肢、結果がわ からない
2. 完全な効用序列はつけられ ない
=>満足化意思決定
満足化意思決定
z 満足化ルール (経営人モデル)
– 限られた数の選択肢を逐次的に探索
– 各選択肢のもたらす結果・効用の限られた範囲内での期待の形 成
– 一定の満足水準を超えた代替的選択肢の選択
効 用
時 間 満 足 基 準 選択
満足化と探索プロセス
z 見つけられる選択肢は実際の探索プロセスによって変わる
– 全ての中から最適に選ぶのとは異なる
z 既存の行動プログラムが実際の多くの組織の活動や決定 を支配している
– 行動プログラム:行動についての手順
z行動のやり方:もし条件がXならば、そのときYを行いなさい
=>限られた情報処理能力の節約、効率的に注意配分 z 満足度が低いものばかり→代替的選択肢
=イノベーション
探索の5つの基本傾向
1. 満足度が低いと代替的選択肢探索に向かい易い
2. 探索の積極化は多くの報酬の期待
3. 報酬の期待値が高くなると満足度も高くなる
4. 報酬の期待値が高くなると決定主体の希求水準も高
5. 希求水準が高くなると満足度は低くなる
意思決定過程の分析
•
実際の探索過程を検討するときのポイント
1. 特定の欲求を選んで目標にする理由は?
2. 代替的選択肢の探索順序は?
3. 結果の予測、タイムスパンの長さは?
4. 人々の効用体系は?
5. 選択基準は水準は何なのか?
6. どのような手続きや論理がプロセスを構成?
実際の決定=「合成された意思決定」
z
実際の組織はさまざまな集団・人間が一連の意思 決定過程で行う
=>意思決定過程の集合性
集合性:個人の集計ではない、集合体の持つ特性 z
「合成された意思決定」
– 意思決定前提への影響要因を受けて集団・個人の判断 が合成されていく
意思決定についての4つの見方
z 4つの代表的な考え方
1. Management Science Approach
z マネージャーの合理的意思決定をモデル化
z Operation Research 2. カーネギー・モデル
z サイアート、マーチ、サイモン
z 経営学の基本:合同的意思決定、満足化、プログラム探索 3. 漸進段階意思決定モデル
z ミンツバーグ
z 問題発見からその解決に至る活動の構造化された順序の研究 4. ゴミ箱モデル
z マーチらの提唱:意思決定の非合理的・質的分析
z 組織全体の複数のマネージャーの意思決定が組織化された混乱とする
組織とは何であるのか
z
組織とは集団活動の仕組みである
– 行為や意思決定のシステム
– プロセスとしての組織
– 意思決定における満足化基準
– イノベーション=探索プログラム
– 複数の意思決定の合成から成る
意思決定について考えるポイント
z
組織の意思決定は合理的であるのか?
– リンダの決定は?
z
もしも合理的である場合にはどういう状況か?
– どうしたら合理的だったのか?
z
管理者の意思決定について学習されるとはどうい うことか?
– 彼女はNASAの教訓となるか?
– 尼崎の事故をJR西は教訓にできるのか?
参考文献
z 組織論関連
– リチャード・L・ダフト『組織の経営学』ダイヤモンド社、第1章。
– 桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論』有斐閣、第2,3章。