Hecke 固有形式に付随するガロア表現の構成について
( SS2016 予稿 , Hida LFE § 7.5 の概説)
植木 潤 August 15, 2016
Abstract
本稿は第24回(2016年度)整数論サマースクールにおける講演の予稿である。筆者の講演および本稿 では、[Hid93](Hida LFE、いわゆる青本)の§7.5を概観する。節の目的は、I進Hecke固有形式Fに付 随するガロア表現の構成を与えることである。まず連続ガロア表現の定義を述べ、次に剰余表現の族から連 続表現を得る。その際に擬表現の技術を用いる。
記号 素数pを固定する。Qpの有限次拡大を取り、その整数環をOとし、Λ =O[[X]]とおく。Λの商体 L= Frac(Λ)の有限次拡大Kを取り、KにおけるΛの整閉包をIとおく(このときKはIの商体である)。I の素イデアルPに対し、商体KP = Frac(I/P)におけるI/P の整閉包をAPとおく。
本稿では、I進Hecke固有形式Fに付随するガロア表現の構成を与える。
1 主定理( Hecke 固有形式 F に付随する連続ガロア表現の存在)
定義1.1. Galois表現π: Gal(Q/Q)→GL2(K)が連続とは、以下の条件を満たすような部分I加群L⊂K2 が存在することをいう。
1. LはI上有限型で、L⊗IK=K2(即ちLはK2のlattice)、 2. L はπ安定 (π: Gal(Q/Q)→EndI(L)に落ちる)、
3. π: Gal(Q/Q)→EndI(L)はm進位相について連続(ここにm=mIはIの極大イデアルとする)。 演習1.2. 上の定義はLの取り方に依らない。つまりπが連続でありかつ条件1と2を満たすLがあったと き、Lは条件3も満たす。(Artin–Reesの補題を用いる:RをNoether環、M を有限R加群、N ⊂Mを部 分R加群とするとき、あるc >0が存在して任意のn≥cに対してInM∩N =In−c(IcM∩N)を満たす。
とくにInN ⊂InM ∩N ⊂In−cN である。)
上の定義は以下の事情による: Gal(Q/Q)はKrull位相についてcompactである。しかしIはKrull次元
=2の大きな環であり、Kは離散でない位相体の位相について局所compactではありえない(なお位相体の 位相は定義により密着位相ではない)。つまりKにはcompact集合が小さいような位相しか入らず、Kの位 相について連続な表現π: Gal(Q/Q)→GL2(K)は像が小さい。すると扱いたい表現が連続とならない。一 方でEndI(L)はcompactである。実際、定義の条件1よりI加群の全射準同型φ:In ↠Lがあり、各iに 対しL/miLは(I/mi)nの像に一致し有限加群なので、EndI(L)は副有限環である。
演習1.3. (1)Kの位相体としての位相であって、Iを開集合とし、相対位相がm進位相となるようなものは
存在しない(ヒント: p倍またはX 倍が開写像でないことを用いる)。
(2)Kは非自明な位相について局所コンパクト位相体とならない。離散でない位相を持った局所コンパクト位 相体はR、C、またQpとFq((t))の有限次拡大で尽くされる([Wei95, Chapter 1])。
定義1.4. Galois表現πが素数ℓで不分岐とは、ℓの惰性群<Kerπなることを言う。
このときℓでの幾何的フロベニウス元Frobℓの作用がwell-definedとなる。つまりFrobℓのGal(Q/Q)へ の持ち上げのπによる像は、持ち上げの取り方によらない。これをπ(Frobℓ)と書く。
定理1.5 ([Hid93]§7.5. Theorem 1; Hida [Hid86]). I代数準同型 λ:hord(χ,I)→Iに対応する正規化され たI進Hecke固有形式F∈Sord(χ,I)に対し、次を満たすπ: Gal(Q/Q)→GL2(K)が存在する:
1. 連続、絶対既約、
2. p外不分岐、
3. 各ℓ̸=pに対しdet(1−π(Frobℓ)X) = 1−λ(T(ℓ))X+χ(ℓ)ℓ−1κ(⟨ℓ⟩)X2。
ここにκ:W = 1 +pZp →Λ×:us7→(1 +X)s、⟨x⟩=ω(x)−1x∈W、ωはタイヒミュラー指標である。
なお次に気をつけておくと良い。
演習 1.6. Galois表現π : Gal(Q/Q)→ GL2(K)が連続ならば、任意のσ ∈Gal(Q/Q)についてdet (1− π(σ)X)∈I[X]である(ヒント:∧2(1−π(σ)X)∈EndK[X](∧2K[X])∼=K[X]はI[X]上整である)。
定理1.5については、第2節で系を見た後、第3節で証明を与える。
2 表現の還元と剰余表現( [Hid93] § 7.5. Theorem 1 の系)
Galois表現 πが与えられていた時、I の素イデアルP ̸= 0での πの還元 πmodP : Gal(Q/Q) → EndI(L/P L)を考えたい。KP = Frac(I/P)をI/P の商体、KP をその代数閉包とする。これは自然な付値 位相(これもm進位相と呼ぶ)について局所compactである。
もしL∼=I2なら、EndI(L/P L)∼= M2(I/P),→M2(KP)なので、これはπ′ : Gal(Q/Q)→GL2(KP)で あって次を満たすものを定める:
(1a) p外不分岐、
(1b) 各ℓ̸=pに対してdet(1−π′(Frobℓ)X) = 1−λ(T(ℓ))(P)X+χ(ℓ)ℓ−1κ(⟨ℓ⟩)(P)X2.
もしP∩Λ =Pk,εΛなら、λ(T(ℓ))(P) =a(ℓ,F(P)),χ(ℓ)ℓ−1κ(⟨ℓ⟩)(P) =εχω−k(ℓ)ℓk−1=χP(ℓ)ℓk−1で ある([Hid93]§7.3. Theorem 3を参照のこと)。
定義2.1. 定理1.5の連続Galois表現π: Gal(Q/Q)→GL2(K)を考える。Iの素イデアルP ̸= 0について、
Galois表現π(P) : Gal(Q/Q)→GL2(KP)がπのPにおける剰余表現であるとは、次を満たすことをいう:
1. KP の位相について連続、
2. 半単純、
3. (1a)と(1b)。
もしL∼=I2ならば、任意のP ̸= 0に対して剰余表現π(P)が存在する。実際、IはKrull次元が2であり、
KPはm進位相について局所compactである。先程のπ′は、m進位相について連続な表現πをmodPで還 元したものなので、KP のm進位相について連続である。よってπ′の半単純化をπ(P)とおけばよい。実は L∼=I2でないときにも、次が成り立つ:
系 2.2 ([Hid93] 7.5. Corollary 1). Iの任意の素イデアルP ̸= 0に対しπの剰余表現π(P)が存在し、それ はKP 上の同型を除き一意である。
証明はPの高さに関する帰納法で行う。
Proof. Step 1.高さが1の素イデアルPについて示す。まず、IのP での局所化IPは付値環である。実際、
ΛはUFD、P∩Λの点での局所化ΛP は付値環であり、IP はΛP の有限次正規拡大であるためまた付値環で ある。またπの連続性の定義を満たすL⊂K2を取ると、V =L⊗IIP はπ安定かつV ⊗K=K2である。
くわえてLが有限生成であることに注意すると、V ∼=I2P である。以上によりπ: Gal(Q/Q)→GL2(IP)を 得る。πmodPの半単純化を取ることで、剰余表現π(P)を得る。
π(P)の一意性は、定義によりtr(π(P)(Frobℓ)) =λ(T(ℓ))(P)であることと、Frobℓ(の持ち上げ)がQの p外不分岐最大Galois拡大のGalois群において稠密であることから従う。
Step 2.高さが2の(一意な)素イデアルmについて、高さが1の場合に帰着する。高さ1の素イデアル
P を取る。ΛをΛ/P∩Λに取り替え、IをFrac(I/P)におけるΛ/P ∩Λの整閉包I′に取り替える。I′の素 イデアルP′であって高さ1のものを取ると、そのIへの引き戻しはmである。P′に対し、πmodPについ てStep1と同様の議論を用いて、(πmodP) modP′という剰余表現を得るが、これはπのmでの剰余表現 である。■
3 F に付随する剰余表現( [Hid93] § 7.5. Theorem 1 の証明)
Galois表現が与えられていない時にも、定理1のHecke固有形式Fに付随する剰余表現という概念を考え
る。高さが1で剰余標数が0であるようなIの素イデアルの全体をX(I)とおく。
定義3.1. 正規化されたI進Hecke固有形式F ∈Sord(χ,I)を考え、F から定まるHecke環hord(χ,I)上の I代数準同型をλとする。このとき素イデアルP ∈X(I)に対し、表現π′ : Gal(Q/Q)→GL2(AP)であっ て、連続かつ半単純であり(1a)と(1b)を満たすものを、(Fに付随する)P での剰余表現とよぶ。
定理1.5 ([Hid93] §7.5. Theorem 1)の証明は、次の2つの定理によって与えられる。それぞれ、無限個の Pに対して剰余表現π(P)が存在することと、そのときπが存在することを主張する。
定理 3.2 ([Hid93] §7.5. Theorem 2; Deligne, et. al. [Shi71], [Del71], [DS74]). M/Qp を有限次拡大と し、λ : hk(Γ0(N), χ;Z[χ]) → M を代数の準同型とする(N は任意の正整 数)。このときガロア表現 π: Gal(Q/Q)→GL2(M)であって次を満たすものが存在する:
1. 連続、M 上絶対既約、
2. Np外不分岐、
3. ℓ̸ |Npなる任意の素数ℓに対してdet(1−π(Frobℓ)X) = 1−λ(T(ℓ))X+χ(ℓ)ℓk−1X2、 4. χ(−1) = (−1)kであるので、cを複素共役とするとdet(π(c)) =χ(−1)(−1)k−1=−1。
定理3.3 ([Hid93]§7.5. Theorem 3; Wiles [Wil88]). F をI進Hecke固有形式とする。もし、ある無限集合 S⊂X(I)があって、各P ∈Sに対し(Fに付随する)剰余表現π(P) : Gal(Q/Q)→GL2(AP)が存在するな らば、定理1.5の条件を満たす表現π: Gal(Q/Q)→GL2(K)が存在する。
上の2つの定理を用いて定理1.5を示す:
Proof of 定理1.5. F がordinaryならS =A(I)が取れる([小澤]注意3.9)。そうでない時も、F について 許容的(admissible)なA(I)の点の全体をSとすれば良い([小澤]定義6.2,注意6.3)。すなわち、P ∈X(I) であってF modP が重さ≥2の古典的保型形式であるようなもの全体の集合をSとすると、これはΛ-adic formの定義から無限集合である。また定理3.2によって、各P ∈S に対して剰余表現π(P)が存在する。
よってこのSは定理3.3の仮定を満たす。■
注意 3.4. 与えられたI進Hecke固有形式F に対して、定理3.3を用いてガロア表現の存在を言うには、無 限個のPk,εであってFmodPk,εが古典的保型形式であるもの、およびそれらに対応するガロア表現の存在 が必要である。F がordinaryな場合は、全てのPk,ε (k≥1) で古典的となるので、特にP2,εの全体を考え ればよく、これにはEichler–志村の結果があった([Shi71] Theorem 7.24)。定理1.5のガロア表現の存在は、
Deligneの結果を用いずとも言える。
注意 3.5. 定理 1.5 の主張で先に F が与えられているときは、λを持ち出さずに、条件 3でのλ(T(ℓ)) をa(F, ℓ)に置き換えることで、ordinaryという条件を外すことができる。対応λ ↔ F のところでだけ、
ordinaryなΛ-adic formのdualityを用いている。
4 擬表現を用いた [Hid93] § 7.5. Theorem 3 (Wiles) の証明
ここでは定理3.3の証明を与える。簡単のためp >2とする。P ∈Sを取り、KP = Frac(I/P)における I/P の整閉包を引き続きAP と書く。F に付随する剰余表現π=π(P)はp外不分岐ゆえ、GをQのp外 不分岐最大拡大のGalois群とし、π=π(P) :G→GL2(AP)としてよい。L=A2P をπによってG加群と 見る。
cを複素共役とするとc2 = 1,det(π(c)) = −1 よりπ(c)の固有値は ±1 である。固有空間分解L = L+⊕L− ∼=A2Pに対応する基底を固定するとπ(c) =
(−1 0
0 1
)
という行列表示を得る。
σ, τ ∈Gに対しπ(σ) = (
a(σ) b(σ) c(σ) d(σ) )
,x(σ, τ) =b(σ)c(τ)とおく。すると以下が成り立つ:
(2a) a, d, xは連続、
(2b) a(στ) =a(σ)a(τ) +x(σ, τ),d(στ) =d(σ)d(τ) +x(τ, σ)、
x(στ, ργ) =a(σ)a(γ)x(τ, ρ) +a(γ)d(τ)x(σ, ρ) +a(σ)d(ρ)x(τ, γ) +d(τ)d(ρ)x(σ, γ) by成分表示、
(2c) a(1) =d(1) =d(c) = 1, a(c) =−1,ρ= 1 orcに対しx(σ, ρ) =x(ρ, τ) = 0、 (2d) x(σ, τ)x(ρ, η) =x(σ, η)x(ρ, τ)。
定義 4.1. 今考えている位相群Gと位相環Rに対しa, d : G → R, x : G2 → Rの組 π′ = (a, d, x) で あって(2a)〜(2d) を満たすものを、GからR への擬表現という。擬表現π′ に対しtr, det : G → Rを
tr(π′)(σ) =a(σ) +d(σ), det(π′)(σ) =a(σ)d(σ)−x(σ, σ) (σ∈G)によって定める。
命題4.2 ([Hid93]§7.5. Proposition 1). Rが整域のとき、GからRへの擬表現π′= (a, d, x)に対し、ある 表現π:G→GL2(Frac(R))であってtrπ= trπ′,detπ= detπ′ なるものが存在する。
この命題の証明は面白いので、本稿の最後に方針を記す。
命題 4.3 ([Hid93] §7.5. Proposition 2). 2 つのイデアル ai ⊂ I (i = 1,2) に対し、Gから I/ai への擬 表現π(ai) (i = 1,2) たちが整合的であるとする。すなわち、ある稠密な部分集合Σ ⊂ Gの上の写像 tr,det : Σ→I/a1∩a2 があって、Σ上でtrπ(ai)≡tr, detπ(ai)≡det modai, (i= 1,2)である。
このとき、GからI/a1∩a2への擬表現π(a1∩a2)であって、Σの上でtrπ(a1∩a2) = tr,detπ(a1∩a2) = det を満たすものが存在する。
以下では上の2つの命題を用いて定理3.3を示す:
Proof of 定理3.3. Σ = {Frob(の持ち上げたち)ℓ | ℓ ̸= p} ⊂ G は 稠 密 で あ る 。tr(Frobℓ) = a(F, ℓ), det(Frobℓ) = χ(ℓ)ℓ−1κ(⟨ℓ⟩) とおく。S = {Pi}i∈Nと添字付ける。π(Pi)が定める擬表現 πi′ たちは整合 的である。
このπ′iたちから、GからI/P1∩ · · · ∩Piへの擬表現π′iたちを、命題4.3を用いて次のように再帰的に構 成する: まずπ′1 =π1′ と定める。π′1とπ2′ から命題4.3によって得られる擬表現をπ′2とおく。以下同様に する。このときtr(π′i)たちは明らかに逆系をなす。
trπ′i によってai, di, xiが表せ、よってこれらも逆系をなす: ai(σ) = (trπ′i(σ)−trπ′i(σc))/2, di(σ) = (trπ′i(σ) + trπ′i(σc))/2,xi(σ, τ) =ai(σ, τ)−ai(σ)ai(τ). これよりGからIへの擬表現π′ = lim←−iπ′iが定 まる。すると命題4.2から、連続表現πであってtrπ= trπ′,detπ= detπ′なるものが得られる。■ 演習4.4. 自然な射I→lim←−iI/P1∩ · · · ∩Piは同型である。(Iがcompact Hausdorff Noetherであることを 用いる。)
5 命題 4.2([Hid93] § 7.5. Proposition 1) の証明
最後に命題4.2の証明の方針を述べる。次の2つの場合に分けて考える。
Proof of 命題4.2. Case 1. ある ρ, γ ∈ G に対してx(ρ, γ) ̸= 0 であるとき、c(σ) = x(ρ, σ), b(σ) = x(σ, γ)/x(ρ, γ)とおき、π(σ) =
(a(σ) b(σ) c(σ) d(σ)
)
とおくと、πが求める表現となる。
Case 2. 全てのρ, γ∈Gに対してx(ρ, γ) = 0であるとき、π(σ) =
(a(σ) 0 0 d(σ)
)
とおけば良い。■
演習5.1. 証明を完成させよ。
謝辞 勉強の機会を下さった山上敦士先生、本稿について詳細なコメントを下さった石川勲さん、小澤友美 さん、三原朋樹さん、勉強会で色々なコメントを下さった他の発表者の方々、および山下剛先生に感謝します。
References
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[DS74] Pierre Deligne and Jean-Pierre Serre,Formes modulaires de poids1, Ann. Sci. ´Ecole Norm. Sup. (4)7 (1974), 507–530 (1975). MR 0379379
[Hid86] Haruzo Hida,Galois representations into GL2(Zp[[X]])attached to ordinary cusp forms, Invent. Math.
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[Shi71] Goro Shimura,Introduction to the arithmetic theory of automorphic functions, Publications of the Math- ematical Society of Japan, No. 11. Iwanami Shoten, Publishers, Tokyo; Princeton University Press, Princeton, N.J., 1971, Kanˆo Memorial Lectures, No. 1. MR 0314766
[Wei95] Andr´e Weil,Basic number theory, Classics in Mathematics, Springer-Verlag, Berlin, 1995, Reprint of the second (1973) edition. MR 1344916
[Wil88] Andrew Wiles,On ordinaryλ-adic representations associated to modular forms, Invent. Math.94(1988), no. 3, 529–573. MR 969243 (89j:11051)
他に[小澤]で小澤さんの予稿([Hid93]§7.3, 7.4の概説)を引用しました。
他の予稿では、[Hid93]は[LFE]という形でも引用されています。