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韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響

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(1)

The social economical influence of “the employment permission system” in Korea

SANO Koji

は じ め に

 韓国の雇用許可制も2014年8月で施行10周年を迎 え,その成果だけでなく,限界や課題も次第に明らか になりつつある。前稿,佐野孝治[2014c]「韓国の『雇 用許可制』と外国人労働者の現況日本の外国人労 働者受入れ政策に対する示唆点⑴」では,雇用許 可制の概要および外国人労働者の現状について明らか にした。本稿はその続編であり,「雇用許可制」の社 会的・経済的影響に関する評価を行う

 評価に当たっては,誰の立場から評価するか,そ してどのような評価基準を採用するのかが重要であ る。利害関係者としては,①外国人労働者,②使用者, 

③韓国人労働者,④送出し国などを想定できるが,わ れわれは特定の立場に立脚せず,雇用許可制という「制 度」「政策」評価として,韓国の経済・社会発展にと ってプラスかどうかという「公益性」の見地から評価 を試みたい。

 評価基準として,以下の雇用許可制の基本原則が守 られているかどうかで判断する。すなわち,①労働市 場補完性(韓国人優先雇用)の原則,②均等待遇(差 別禁止)の原則,③短期ローテーション(定住化防止)

の原則,④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原 則,である。

 したがって,まずⅠ節では,世論調査をもとに韓国 人の外国人に対する意識について概観する。次いで,

Ⅱ節では,雇用許可制の基本原則が守られているかど うかという基準で,雇用許可制を評価する。続いて,

Ⅲ節では,中小企業経営者および外国人労働者の視点 から雇用許可制の評価を整理する。最後に,Ⅳ節では,

近年,社会問題として関心がもたれている外国人犯罪 の増加について考察する。なお韓国の雇用許可制の評 価だけでなく,台湾やシンガポールなどの外国人労働 者政策の比較検討を踏まえた,日本の外国人労働者受 入れ政策に対する示唆点については,次稿で分析する。

Ⅰ 韓国人の外国人に対する意識の変化

 雇用許可制の評価をする前に,世論調査をもとに韓 国人の外国人に対する意識について概観しておこう。

 韓国の有力紙の一つである『中央日報』に「彼らの コリアンドリームは韓国人には悪夢」という記事が 掲載された。外国人労働者が低学歴の韓国人労働者の 仕事を奪っているという内容である。ここ数年で外国 人労働者や結婚移民に対する意識は否定的に変わりつ つあるように思える。もともと韓国は外国人が多いと いっても,人口の3%と少なく,「単一民族」的情緒 を持っている点で,日本と同様であった。白人以外の 外国人に対して,排他的・差別的意識を持つ人も少

韓国における「雇用許可制」の社会的・経済的影響

日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点⑵

福島大学経済経営学類教授  

佐 野 孝 治 

福島大学地域創造

第26巻 第2号 3〜22ページ 2015年2月

Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 26 (2):3-22, Feb 2015

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なからずいる。2007年に国連の人種差別撤廃委員会

(CERD)から,単一民族を強調しすぎており,人種 差別に対して適切な措置を採るよう勧告を受けたり,

2012年の総選挙で初めて,フィリピンから帰化して国 会議員になったイ・ジャスミン氏に対して,激しい差 別発言がなされたりするなど,依然として「ウリナ ラ(我が国)主義」は根強いといえよう。

 その韓国が,2007年以降,外国人労働者にとどまら ず,韓国人と外国人の社会的統合を主要課題とする統 合政策を進めている。「外国人処遇基本法」(2007年5 月)や「多文化家族支援法」(2008年3月)などが相 次いで制定され,外国人参政権も認められるようにな った。この隣国の社会実験は日本の外国人労働者受入 れにとっても重要な示唆を与えると考えられる。果た して外国人の増加に対応して,韓国の外国人に対する 意識は,多文化共生社会に適合したものに変化したの だろうか。

 娥山政策研究院の2013年11月の世論調査によれば,

79.2%の韓国人は「外国人に拒否感を感じない」と回

答しており,おおむね外国人に対しては寛容である。

他方,「多文化家庭の増加は韓国社会の競争力を強化 する」という回答は,67.5%と過半数を超えているが,

逆に「社会統合を阻害する」という回答も32.5%存在 し,女性(36.3%)と20代(35.1%)が若干高くなっ ている。また2011年調査に比べると肯定的評価は74%

から6.7ポイント低下している(図1参照)。

 低下した要因は20代と30代の多文化家庭に対する評 価の急落である。たとえば20代は75%から65%に10ポ イント低下している。抽象的には,外国人に対して寛 容であるが,具体的に移民者に対する意識を出身国別 にみると,米国人に対しては肯定的評価が66%と高い

が,人数が多い中国人(40%)やフィリピン人(52%) に対しては低い。日本人に対しても日韓関係の悪化を 反映して,40%と低い。特にアフリカ人など有色人種 に対しては差別的だと,国際的に批判を受けている。  外国人労働者に対する韓国人の意識は,「韓国社会 の価値を惑わす」が2010年の16%から2013年には22%

に上昇し,特に,20代は13%から31%に急増した。ま た「韓国社会への適応能力の不足」は25%から27%へ と増加し,若年世代の保守化傾向の中で外国人労働者 に対する否定的評価が高まりつつある

 経済分野,社会分野,政策分野別の世論調査では,

まず経済分野では,「韓国経済に寄与」するという回 答が63%と高く,「外国人が韓国人の仕事を奪う」に ついては,27%と低く,おおむね肯定的に評価してい る。次に,社会分野では,総論では「社会発展に寄与」

が53%と過半数を占めているが,各論では,「犯罪率 の上昇」(53%)など社会不安が増大するとみている。

特に20代の60%は犯罪率が上昇すると考えている(図 2参照)。

 続いて,政策分野では,「韓国政府が過度な移民者 支援をしている」に対して,否定が45%と肯定38%を 上回っているものの,拮抗する水準であり,韓国人に対 する「逆差別」問題や外国人の増加による,社会保障な ど社会的コストに対する韓国人の目も厳しくなっている。

 また,韓国では,インターネット上で外国人に批判 的なコメントがあふれており,外国人労働者受入れに 反対する団体も「外国人労働者対策市民連帯」や「多 文化反対汎国民実践連帯」,「外国人犯罪清算連帯」 など次々と生まれている。しかし,これまでマスコミ ではほとんど取り上げられておらず,取り上げられる 場合でも「韓国版KKK」などと批判的なニュアンス

100%

肯定 否定 わからない

70%

80%

90%

50%

60%

20%

30%

40%

0%

10%

11.8

11.8 13.7 1212 7.57.5

18 7.27.2 35.2

35.2 33.133.1 24.824.8 25.125.1

13.7

13.7 1818

66

66 44.544.5

53

53 53.253.2 63.263.2

26.5 26.5 37.537.5

67.7 67.7

図2 韓国人の外国人に対する意識

80

(%)

競争力強化 社会統合阻害 70

50 60

40

20 30

10

0 2011 2012 2013

図1 多文化家庭が韓国社会に及ぼす影響

出所:キムジユン・他[2014]「閉じられた大韓民国韓国人の

   多文化認識と政策」『issueBRIEF』(04)、ページ。 出所:娥山政策研究院「THE ASAN PUBLIC OPINION     BRIEF」2014年月。

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の記事が多い。さらに日本と比べ政策策定に対する 影響力もあまりない。

 最後に,日本の外国人労働者に対する世論調査を挙 げて比較してみると,2004年の内閣府の調査では,単 純労働者の受入れを認めない理由では,「治安の悪化」

(74%),「地域社会でのトラブル増加」(49%)と社会 的不安を挙げる者が多く,「雇用の悪化」(41%),「労 働条件改善の遅れ」(16%)など経済的不安はそれほ ど高くない10。2010年の内閣府調査でも,外国人労働 者に求めることは,「日本語能力」(94%),「日本文化 に対する理解」(86%),「日本の習慣に対する理解」(89

%)などは高いが,「預貯金等の資産」(45%)はそれ ほど高くない11

 以上,世論調査の結果から判断すると,日韓両国と も,雇用の悪化など経済的不安はそれほど大きくない が,犯罪の増加,言葉や文化を理解しないことによる トラブルの増加など社会的問題に対する関心が高いこ とがわかる。

Ⅱ 基本原則から見た「雇用許可制」の評価

 本節では,「雇用許可制」の社会的・経済的影響を 評価するにあたって,雇用許可制の基本原則が守られ ているかどうかで判断する。すなわち,①労働市場補 完性(韓国人優先雇用)の原則,②均等待遇(差別禁止)

の原則,③短期ローテーション(定住化防止)の原則,

④外国人労働者受入れプロセスの透明化の原則である。

1.「労働市場補完性の原則」外国人労働者は韓国 人の職を奪うのか

 まず「労働市場補完性の原則」が守られているの かどうかについて検討する。

 日本では,外国人単純技能労働者の受入れに対し て慎重な理由の一つとして,「国内労働者との競合・

代替」に対する懸念があげられているが,韓国では,

外国人労働者が韓国人の職を奪い,労働条件を悪化 させるという否定的見解と,逆に,3K業種なので 韓国人労働者とは競合せず,むしろ生産拡大効果が あるという肯定的見解が併存している。

 韓国政府は,「労働市場補完性の原則」を第一に 挙げ,外国人単純技能労働者を全面的に受入れるの ではなく,外国人労働者政策委員会が業種別に労働 市場需給調査,景気動向,不法滞在外国人数などを 考慮し,受入れ人数を調整している。また労働市場 テスト(韓国人労働者の求人努力)を行い,国内で

韓国人労働者を雇用できない事業所に対して,雇用 許可を与えている。さらに事業場移動を原則3回に 制限している12。このように制度的には,韓国人労 働者との競合が生じないようにしているが,実態は どうであろうか。

 第一に,マクロ的に見ると,2003年の外国人労働 者は不法滞在者を含めて約46万人であったが,2014 年には約76万人へと,約30万人増加した。この間の 失業率は,2003年の3.6%に対して,2014年5月に は同じく3.6%であり,大きな変化は見られない。

 第二に,IOM移民政策研究院のカンドングァン・

他[2010]によれば,2008年の外国人労働者による 生産誘発効果は29.5兆ウォン(約3兆円)であり,

内訳をみると,専門職は4.5兆ウォン,非専門職は 25兆ウォンである。これは GDP の0.93%に相当す る。これに結婚移民者,留学生を含めれば,生産誘 発効果は33.2兆ウォンに達する。また付加価値誘 発効果で見ても,8.2兆ウォンで,総付加価値額の

0.82%に相当している。

 さらに外国人労働者が5〜20%増加すれば,総雇 用は0.24〜0.83%増加し,実質民間消費は,0.07〜

0.23%,輸出は0.21〜0.72%増加すると推計されて おり,少子・高齢化の中で,韓国経済にとってプラ ス効果があると分析している13

 第三に,現時点では,外国人労働者は労働力人口 の3%程度とそれほど大きな割合を占めていないた め,全体としては,韓国人労働者との競合・代替問 題は深刻化していないように見えるが,一般雇用許 可制と特例雇用許可制では影響が異なる点に注意が 必要である。

 まず一般雇用許可制は,ベトナム,フィリピン,

タイ,インドネシアなど15ヶ国政府との間で二国 間協定(MOU)を締結し,毎年クォータを決定し,

外国人を受け入れる制度であり,中小製造業,農畜 産業,漁業,建設業,サービス業など5業種が対象 である。この制度による外国人労働者は約25.8万人 と規模があまり大きくなく,労働力不足率が高い3 K業種の製造業中心に就労しているため,韓国人労 働者との競合は少なく,補完的役割を果たしている といえる。

 2013年の中小製造業の不足人員は5.6万人,不足 率は3%であり,中小企業中央会の実態調査によれ ば,外国人労働者を雇用している中小製造業の労働 力不足率は10%と高水準である。このうち約8割の 企業が「韓国人の就業忌避や離職率の高さを考える

(4)

と,外国人労働者枠を韓国人で補うことは不可能」

と回答している。また別の使用者に対するアンケー トでも9割が「外国人労働者は労働市場を補完して いる」と回答している14

 他方,特例雇用許可制(訪問就業制)では一定程 度代替関係があるといわれている。この制度は,中 国や,CIS諸国(旧ソ連地域)など11ヶ国の韓国系 外国人(同胞)を対象とし,サービス業など38業種 が対象である。クォータ管理をせず,総在留規模で 管理しており,現在27.4万人滞在している。韓国語 を話せる韓国系外国人は,サービス業や建設業での 就業が認められていることに加え,事業所変更が自 由であるため,労働市場での代替現象が発生してい る。

 建設業では,外国人労働者と韓国人労働者との競 合が一定程度みられる。特に不法外国人労働者の増 加によって,政府のコントロールが困難になり,高 齢の韓国人労働者の職が奪われたり,賃金水準が低 下したりすることが懸念されている。近年,韓国社 会では格差の拡大がみられ,低所得層との競合が 問題となっている。キムジョンホ,ユキョンジュ ン[2010]によれば,中卒以下の学歴の低熟練労働 者,日雇いの労働者は外国人によって職が奪われる 可能性が高いと分析している15。またチェギョンス

[2011]によれば,2050年に外国人労働者が,全就 業者の5%を占め,その半数の学歴が高卒未満であ ると仮定すると,高卒未満の労働者の供給が11.5%

増加し,時間当たりの実質賃金は2.1%のマイナス になると推計している。他方で,高卒以上の実質賃 金は0.7%,大卒以上の賃金は1.7%のプラスになる と推計している(表1参照)。

 筆者のインタビュー調査によれば,1990年代にお ける建設業の日当は7〜10万ウォンであったが,現 在は10年前よりも少ない5〜8万ウォンの日当であ る。この原因を韓国人は外国人労働者が増加したた め賃金が減少したと批判しているという16。このた

め韓国人と韓国系外国人との間で摩擦が頻発してい る。

 サービス業でも,同様に,韓国系外国人労働者と 韓国人労働者との競合が指摘されている。特に,中 高年女性の職を奪ったり,労働条件の低下を招いた りしているとの批判がある。

 以上,マクロ経済的に見れば,外国人労働者の受 入は韓国経済にとってプラスであるが,受入れ制度 別,業種別にみると影響は異なっている。一般雇用 許可制においてはおおむね労働市場補完性の原則は 守られているが,特例雇用許可制については原則が 一定程度侵されているといえよう。

 これの示唆するところは,人権団体が主張する事 業場移動の自由化や労働許可制は,韓国人労働者と の競合を生み,賃金や労働条件を引き下げる可能性 があるということである。外国人労働者の人権と韓 国人労働者の優先的雇用という2つの原則をいかに 両立するのかが,残された重要な課題である。

2.「短期ローテーション(定住化防止)の原則」  

短期ローテーションは維持できるか

⑴ 「短期ローテーション(定住化防止)の原則」

の変化

 単純技能外国人労働者の受入れに関しては,多 くの国で,滞在期間の長期化,不法労働者化,結 婚・家族の呼び寄せなどに伴う社会的コストの増 加を懸念して,短期ローテーション・システムを 採用している。

 韓国の雇用許可制も,基本的に滞在期間は3年 間ないし4年10ヶ月であり,一時帰国6ヶ月後,

再入国が可能なローテーション・システムである。

この滞在期間については,企業の要望,訓練・採 用コストの節約,在留期間の満了に伴う不法労働 者化の抑制といった観点から,滞在期間が次第に 長期化している。2009年の改正では,同じ事業所 で再雇用する場合には,1年10ヶ月間延長できる

表1 外国人労働者流入の学歴別実質賃金(時給)に対する影響(単位:%)

全就業者に占める 外国人労働者の割合

労働供給増加効果 賃金に対する影響

高卒未満 高 卒 高卒未満 高 卒 大卒以上 % 6.9 2.6 ‑1.3 1.4 1.0 % 11.5 4.3 ‑2.1 0.7 1.7

10% 23.0 8.6 ‑4.2 1.5 3.5

 出所:チェギョンス[2010]「移民および外国人力流入が労働市場に及ぼす中長期的効果」

    『韓国開発研究院政策研究シリーズ』。

(5)

ようになり,最長4年10ヶ月間となった17。  また2012年から「誠実勤労者再入国就職制度」

が開始された。これは,誠実に勤務した外国人労 働者が,事業主の要請により,出国3ヶ月後に再 入国でき,韓国語試験と入国前・後就職教育も免 除される制度である。これにより,再度滞在できる ため,通算で最長9年8ヶ月間滞在できる。ただし,

①就職期間(再雇用期間含む)中,事業場変更が ないこと,②農畜産業,漁業,50人以下の製造業に 勤務していることなど厳しい条件となっている。

 さらに2011年より,一定の条件を満たした単純 技能労働者を対象に,在留資格の変更や永住権付 与がなされるようになった。たとえば非専門就業

(E‑9),船員就業(E‑10),訪問就業(H2) などの在留資格を特定活動(E‑9),居住(F‑2)

に変更できる。これにより韓国内で自由に就業す ることができる。そのための条件は,①過去10年 以内に単純技能労働者として4年以上合法的に就 労,②35歳未満,③2年生大学卒業以上,④技能 士以上の資格保有または最近1年間の賃金が同一 職種の平均賃金以上,⑤韓国語能力試験3級以上,

などである18。この制度改正は短期ローテーショ ンの原則に対する一定の修正として注目される。

⑵ 不法滞在者は減少したか

 「不法滞在者」19は,「不法残留者」(正規に入国 した後,在留期間を経過してそのまま在留する 者)と「不法在留者」(不法入国,不法上陸により,

そのまま在留する者)に分けられる。統計的に把 握できるのは,不法残留者であるが,ここでは一 般的な「不法滞在者」を使用する。産業研修生制 度時代は外国人の約8割は不法滞在者であり,産 業研修生も5割が不法労働者化していた。2002年 の不法滞在者は30.8万人であったが,2004年の雇 用許可制の導入に先立ち,不法滞在4年未満の 22.7万人を対象に,合法化措置を採り,18.4万人 が合法化された。2014年6月現在の不法滞在者は 18.7万人とそれほど大幅に減少してはいないが,

不法滞在比率20は,11%へと低下している(図3 参照)。

 国別では,中国人が6.9万人(内,韓国系中国 人1.9万人)(構成比38%)と最大で,次いでベト ナム人2.6万人(15%),タイ人2.4万人(11%) となっている。年齢別では,30代31%,40代27%,

20代23%と比較的若い世代が多い。続いて,不法

滞在期間別では,2年以下が41%,5〜10年未満

22%,10年以上13%の順である。

 最後に,在留資格別にみると,一般雇用許可制 の「非専門就業」が5.4万人(29%),「短期訪問」

4.5万人(24%),「ビザ免除」2.6万人(13%),

「訪問就業」(特例)6500人(4%)となっている。

以前は,短期訪問が大部分を占めていたが,在留 期間の満了に伴い,「非専門就業」で入国した労 働者の不法滞在が増加している。2009年から2014 年にかけて,1.2万人から5.3万人に増加し,不法 滞在者になる割合も,6.9%から21.2%に増加し ている。期間満了を迎える外国人労働者は,2014 年には6.9万人,その後も2015年10.4万人,2016 年5.6万人にのぼるため,これらの相当数が不法 滞在者になると懸念されている。

 他方,不法滞在者の出国率をみると,2010年10 月1日から2011年9月30日にかけて,不法滞在者 4万8,188人中9,583人(19.9%)が出国している。

在留資格別では,「非専門就業」が出国率19.4%,

「訪問就業」は12.7%と平均以下である。国別で は,韓国系中国人の出国率は9.5%と低いのに対 し,タイ(25.3%),中国(23.3%)は高い。ま た年齢別では20代,30代の出国率は25%程度と比 較的高く21,韓国で得た賃金を元手に母国でビジ ネスをするケースが多いという。

 ちなみに不法滞在の状況を日本や台湾と比較 してみると,日本では,1993年の29.9万人から,

2014年1月には5.9万人に激減している。割合も 同期間に18.5%から,2.8%へと低下し,韓国の

0 10 20 30 40 50 60

0 50 100 150 200 250 300

350 (%)

(1000人)

不法滞在者 不法滞在比率(右軸)

1990 1995 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

06

 図3 韓国における不法滞在者数と不法滞在比率     の推移

出所:法務部・出入国・外国人政策本部[各年]『出入国・外国人 政策統計年報』、および[2014]「出入国・外国人政策統計 月報月」月より作成。

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4分の1程度である。国別では,韓国24%,中国 14%,フィリピン9%の順である。在留資格別で は,「短期滞在」が70%と圧倒的に多く,次いで

「日本人の配偶者等」6%,「留学」5%の順であ る22。また台湾では,不法滞在者は94年の6,000 人から,2013年1.9万人に増加しているが,割合 は4%と変わらず,韓国よりも低水準である23。  以上,雇用許可制が導入されたことによって,

産業研修生制度の時期に比べれば,不法滞在者数,

比率ともに大幅に改善した。ただし,日本や台湾 に比べれば,高水準にあり,しかも,近年,在留 期間の満了に伴い,一般雇用許可制で入国した者 が不法労働者化している。その意味で,短期ロー テーション(定住化防止)の原則が揺らぎを見せ ている。

 これに対し,韓国政府は,外国人労働者の帰国 を促す自発的帰還プログラム(ハッピーリターン プログラム)を整備するとともに,不法滞在者に 対する取り締まりを強化している。また不法滞在 が多かったベトナムに対しては2012年にクォータ

(割当て)の停止措置を採るなどしている。さら に2013年末には,出入国管理法の改正案を提出し,

外国人登録証不正使用者などに対する制裁強化な どを検討している。

3.「均等待遇の原則」外国人労働者の人権は守ら れているか

 外国人労働者の人権を守ることについては,日本 の技能実習生制度に対する国際的な批判24を見ても わかるように,決して他人ごとではなく,重要な原 則の一つである。また人権問題だけではなく,「外 国人労働者争奪戦時代」に突入している現在,持続 的に外国人労働者の受入れをしていくためには,均 等待遇と人権の擁護は不可欠の条件となっている。

 韓国では,産業研修生制度時代は形式的には研修 生であったため,最低賃金未満の賃金で長時間労働 を行っていた。また労働者としての権利も保障され ず,賃金不払いだけでなく,パスポート・外国人登 録証の取り上げ,暴行といった人権侵害のケースも 数多くあり,「現代版奴隷制」と呼ばれるほどであ った。

 雇用許可制に転換して,「外国人勤労者雇用等に 関する法律」(22条)に差別禁止が明文化され,韓 国人労働者との均等待遇の原則が採用されたが,実 態はどうなっているのであろうか。業種ごとの外国

人労働者の具体的な労働条件については,前稿で明 らかにしたので,ここでは要点を整理する。

⑴ 均等待遇の原則は守られているか

 第一に,制度的には,外国人労働者は韓国人と 同様に,勤労基準法,労働組合法,最低賃金法,

産業災害補償保険法などの労働関連法が適用され る。また雇用契約の際も,賃金,労働時間,休日,

勤務場所など労働条件および契約期間を明示した 標準雇用契約書を取り交わし,不当に低い労働条 件にならないようにしている。

 法務部の『2013年在留外国人実態調査』によれ ば,16%の外国人労働者が「雇用契約違反があっ た」と回答している。ただし2010年の調査結果の 30%に比べれば大幅に改善している。しかし農畜 産業に従事する労働者は,そもそも「勤労基準法」

の適用対象から除外されており,劣悪な労働環境 にさらされやすくなっている。雇用契約書を作成 していないケースは34%,最低賃金法違反の契約 書は61%に達している25

 第二に,労働三権については,韓国人労働者と 同様に保証されている。ただし,外国人労働者を 雇用している中小製造業者のうち,労働組合を有 しているのは4%にすぎない。また初の外国人労 働者の組合であるソウル京畿仁川地域移住労働者 労働組合は,2005年に設立申告書を出した後,現 在,大法院(最高裁判所)の判決を待っており,

正式には組合と認められていない。これは不法労 働者が加入していることが主な理由である26。  第三に,社会保険については,国民健康保険と 産業災害補償保は義務加入であるため,それぞれ 98%,96%の外国人労働者が加入している。雇用 保険は任意加入であり,国民年金は送出し国との 相互主義の原則によって適用される(中国,タイ,

フィリピンなど8ヶ国は適用)。

 ただし農畜産業では社会保険の加入率は低い,

法務部の実態調査によれば,健康保険は27%と低 水準である。また産業災害補償保険については,

施行令では農林漁業の5人未満の事業所を適用除 外としているため,ほとんどの事業所は加入して いない。

 その他の保険として,退職金を支給し,賃金未 払いに備えるために使用者は出国満期保険と賃金 滞納保証保険に加入しなければならず,外国人労 働者は帰国費用保険と傷害保険に加入しなければ ならない。

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 ところで2014年1月に改正された出国満期保険 の支給時期をめぐって,韓国で議論が起きている。

出国満期保険の支給時期を,被保険者が退職した 時ではなく,出国した時から14日以内とした。こ れは不法滞在を防止するためであるが,これに対 し,帰国後の申請では,保険金の受取りが不便で,

外国人労働者とって不利益になると外国人支援団 体の多くが反対運動を起こしている。

 第四に,賃金水準については,最低賃金すら法 的に保障されていなかった産業研修生に比べれば 改善したといえる。チュヨンスン国会議員が国税 庁に提出させた国政監査資料「外国人勤労所得・

総合所得10分位別現況」によれば,2008年から 2012年にかけて,国税庁に所得を申告して納税し た外国人労働者は,13万5,489人から31万3,120人 に増加し,平均所得(月額)も137万ウォン(約

14万円)から,151万ウォン(15万円)に10%程

度増加した(図4参照)。

 しかし2012年の最低賃金水準は,1時間4580ウ ォン,月95.7万ウォンであり,外国人納税者の60

%(18.8万人)が最低賃金水準以下である。また 課税最低水準に達しない外国人労働者も16.1万人 いるため,少なくとも35万人が最低賃金以下であ る27。したがって制度的に整備されたとはいえ,

依然として劣悪な環境におかれている外国人労働 者が多いということができる。

 次に,韓国人の平均賃金と比べても,87%程度 であり,依然として格差は残っている。賃金格差 の説明要因としては,韓国人との労働生産性格差 があげられており,外国人労働者の労働生産性は 韓国人の85.4%と評価されている28

 また賃金不払いに関しては,産業研修生の時代

(2001年)には,賃金不払いを経験した労働者の 割合が36.8%であったのに対し,2013年には3.4

%に激減している。未払い賃金額は235万ウォン

(約24万円)である。農畜産業では若干高く5%

であるが,産業研修生制度に比べれば大幅に改善 している。

 第五に,外国人労働者の多くは3K業種で雇用 されているため,韓国人労働者に比べ,産業災害 の被害を受けやすくなっている。外国人労働者の 産業災害率は2006年の0.67%から,2013年の0.84

%(5,586人)へと増加している。これに対し,

韓国人労働者の産業災害率は低下傾向にあるた め,2013年では1.4倍に達している。業種別では,

製造業63%,建設業20%が大部分で,8割が30人 未満の小規模事業場で発生している。

 原因としては,劣悪な労働環境に加えて,不十 分な言語コミュニケーション,長時間労働,不十 分な安全教育,安全意識の低さなどがある。2012 年に産業安全保健公団が実施した実態調査によれ ば,外国人労働者(300人対象)の63%は「保護 具の支給など安全保健に関して差別がある」と回 答し,また5割以上は,「安全保健のために保護 具支給が最も必要」と回答している29

 法務部の調査では,外国人労働者が仕事中に困 ったこととして,「作業中の負傷」(24%)が最も 多く,続いて「悪口」(20%),「速い作業速度」(19

%)の順である。産業災害にあった場合には,「事 業主が治療費全額を負担」26%,「産業災害補償 保険で処理」19%であるが,事業主が公式的に届 け出ず,個人的に治療を勧めるケースもある。産 業災害にあった人の9%は本人が治療費を負担し なければならなかった30

 このような状況に対し,Amnesty International

[2009]は外国人労働者たちが,3K業種で危険 な労働をしているにもかかわらず,十分な教育や 安全装置を提供されておらず,「使い捨ての労働 者」として扱われていると批判している31

⑵ 外国人労働者の人権は守られているか。

 韓国の「雇用許可制」は,2010年には,ILOか らアジアの「先進的な移住管理システム」と評価 され,翌年には,国連から,「公共行政における 腐敗の防止と戦い」分野における最も権威のある 賞とされる「国連公共行政大賞」を受賞するなど,

国際的に高い評価を受けている。確かに,産業研

155 35

(万ウォン)

(万人)

145 30 所得税を納入した外国人労働者数(左軸) 150

外国人労働者平均所得(月額)(右軸)

140 20

25

130 135 15

10 125

115 120 0

5

2008 2009 2010 2011 2012

図4 外国人労働者の平均所得と納税者数の推移

出所:国税庁[2014]「外国人勤労所得・総合所得10分位別現況」

   (チェンスン議員国政監査資料)

(8)

修生制度に比べれば,外国人労働者に対する人権 侵害は大幅に減少した。雇用許可制導入以前は,

研修生たちの離脱防止のために,通帳,パスポー ト,外国人登録証の取り上げ(会社保管)が頻繁 に行われた。しかし,パスポートや外国人登録証 の取り上げに関しては,その割合は2005年の48%

から2009年には25.8%に低下しており,改善して いる32

 しかし,人権侵害や差別がなくなったわけでは ない。韓国国内の人権団体,外国人労働者支援団 体だけでなく,国際機関からも厳しい目が向けら れている。たとえば,2014年9月末に国連人種差 別特別報告官として,初めて韓国を公式訪問した ムトゥマ・ルティエレ氏は,「国際差別撤廃条約 加入と差別禁止に関する国内法条項により,改善 を見せているものの,韓国には依然として深刻な 人種差別が存在する」と指摘している。また外国 人労働者の事業場移動制限や出国満期保険の支払 時期などに加えて,漁業や農畜産業で就労してい る外国人労働者たちは,給与など労働条件に格差 があるばかりではなく,暴言や暴力にさらされて いると批判している33

 法務部の実態調査によれば,2013年には調査対 象者のうち,35%の外国人労働者が差別を経験し ている。これは2010年の調査に比べれば,11ポイ ント減少しているとはいえ,依然として高水準で ある。公共機関での差別経験は少ないが,職場や 公共交通,近所での差別経験が多くなっている。

また韓国系中国人の差別経験も2010年から2013年 にかけて43%から37%に減少しているが,改善幅 は6ポイントと小幅である。製造業での差別経験 は減少したが,建設業や飲食店業では逆に増加し ている34

 韓国移住人権センター事務局長のキムキド氏 は,雇用労働部とその傘下の雇用センターが人権 侵害の防止に大きな役割を果たしていないと,次 のように批判している。毎年,雇用労働部が実施 する外国人雇用事業場の点検も有名無実であり,

人権,労働権侵害にあった外国人労働者には立証 責任を問う反面,加害者の事業主には軽い処罰に 終わっている。また最低賃金法違反などが多いに もかかわらず,雇用許可制限や雇用許可取り消し は2012年でそれぞれ,62件と16件に過ぎない35。  先述の国連人種差別特別報告官ムトゥマ・ルテ ィエレ氏は,公衆浴場でエイズがうつると,出入

り拒否にあった女性と面談し,このケースは韓国 の国家人権委員会で差別と認められたにもかかわ らず,賠償や是正が行われていないと述べ,適切 なモニタリングと処罰が重要だと指摘している36

⑶ 事業場の移動制限をめぐる議論

 雇用許可制の評価を巡って大きな争点となって いるのが,事業場の移動制限の問題である。韓国 系中国人を対象とした特例雇用許可制を除けば,

外国人労働者の事業場移動は原則として認められ ていないが,事業主が同意した場合には,滞在期 間3年間の間に3回まで変更できる。また2年間 の雇用期間の延長の際には,2回の変更ができる。

  事 業 場 移 動 件 数 は,2006年 の1.9万 件 か ら,

2013年には5.3万件へと増加している37。事業場

変更の理由は雇用契約の解約・終了が9割で,残 りは休廃業である。また2013年の実態調査では,

事業場移動回数は平均0.9回で,平均勤続期間は 21ヶ月である。事業場移動の制限がない韓国系中 国人の場合は平均1.3回,勤続期間は18ヶ月であ り,若干差がある38

 この事業場の移動制限に対して,外国人移住労 働者対策協議会,移住人権連帯などの外国人労働 者支援団体や人権団体,宗教団体は,外国人労働 者の職業選択の自由が侵されていると主張し,協 力してその撤廃を求めている。3回ルールの下で は,2回変更してしまうと,3回目の職場での労 働条件が悪くても,不法労働者になりたくなけれ ば,我慢せざるを得ない。そのため雇用許可制に なっても産業研修生制度と同様の人権侵害が起こ ってしまうという主張である。韓国では,宗教団 体や市民団体の力が強く,マスコミや政府に対し ても一定の影響力を持っており,裁判でも係争中 である。

 これに対し,政府は賃金未払いや事業主の不当 労働行為などがあれば回数制限なしで許可してお り,人権侵害には当たらないとしている。また事 業場の移動制限は,零細企業の労働力需給と外国 人労働者の権益保護のためであると反論してい  る39。受入れ事業体や関連団体も訓練・採用コス トなどの点から,移動制限の緩和には反対の立場 をとっている。

 先述のように事業場移動を自由にすれば,韓国 人労働者との競合が発生し,労働市場補完性の原 則が侵害される可能性がある。制度を維持するた めには,外国人労働者の人権と韓国人労働者の優

(9)

先的雇用という2つの原則のバランスをとること が必要となっている。

⑷ 新興国市場開拓の手段としての外国人労働者に 対するケア・支援

 外国人労働者に対する差別や人権侵害をなくし ていくことは,単に人道的問題だけでなく,経済 的問題でもある。短期ローテーションの単純技能 労働者はいずれ母国に帰国するが,その際,韓国 に対して良いイメージを持って帰ってもらうため には,外国人労働者に対するケア・支援が必要で ある。

 外国人労働者の満足度調査(2013年)では,職 場に対しては5点満点中3.4点であり,生活に対 する満足度は3.5点である。差別を経験してはい るものの,おおむね満足しているように見受けら れる。帰国前に行われるアンケート調査では,「韓 国のイメージが向上した」と回答する者が63.4%,

「母国を除いて親しみを感じる国1位として韓国 を選択する者」が38.5%(2位24.5%)となって いる。さらに「帰国後韓流を薦める」と回答した 者は78.8%,「韓国製品を購入する」と回答した 者は92.4%である40。2012年と比べても,多くの 指標で,韓国に対する肯定的評価が高まっており,

新興国市場において「韓流」を定着させ,韓国製 品の市場拡大を促進するうえで,一定の役割を果 たしているといえよう。

4.「受入れプロセスの透明化の原則」は守られてい るか

⑴ 政府主導型の受入れシステム

 2014年8月に,雇用許可制施行10周年を記念し て,雇用労働部と産業人力公団主催の評価討論会 が開催された。外国人労働者,事業主,送出国担 当者,外国労働者支援団体などの多様な観点から 評価がなされた。その際,産業研修生制度と比べ て,大きく改善したと共通認識を得られたのは,

「外国人労働者受入れプロセスの透明化と不正の 減少」である。

 産業研修生制度時代は民間の斡旋業者・ブロー カーによって運営されていたため,送出しプロセ スは不透明で不正が横行していた。送出し費用は 2001年調査によると産業研修生3,500ドル,不法 労働者4,872 ドルと高額であり,1万ドル以上を 支払った外国人労働者も1割存在していた。多く は借金をし,それを返済したうえで,貯蓄をしな

ければならないという初期条件であった。そのた め,少しでも高い賃金を求めて不法労働者化する という悪循環であった41

 この悪循環を断ち切ることを可能にしたのが,

政府主導型の受入れシステムである。研修生制度 の民間対民間(P to P)から政府対政府(G to G)

へと大きく転換した。これは,民間の斡旋業者が マッチングや管理を行っているシンガポールや台 湾などとは対照的な,韓国の雇用許可制の最大の 特徴といってよい。

 まず送出国と韓国で,二国間協定(MOU)を 締結し,雇用労働部が主管して,韓国産業人力公 団が選抜,導入,管理,帰国支援までの全プロセ スに関与する。次に,MOU を通じて,送出国に 対しても,送出し機関は政府機関やそれに準ずる 公共機関とし,送出しの公式費用も協議で決定す る。また韓国と同様に,政府が募集から帰国まで のプロセスを,責任を持って管理し,韓国で不法 労働者化しないことを求めている。

 このように,送出国と協力して,政府主導型の シームレスな外国人労働者の受入れプロセスを構 築しており,プロセスの透明化と不正の減少に貢 献している。さらに労働者の求職コストだけでな く,事業主の求人・管理コストの削減にもつなが っている。このことが評価され,11年に「国連公 共行政大賞」の受賞につながった。

 ただし,MOU を結んでいるとはいえ,送出国 の政府が必ずしも公正に運営しているとは限らな い。たとえば,2005年にインドネシアで送出しを めぐって労働者に金品を要求し,出国が遅れる事 態が発覚した。また斡旋料や急行料と称するわい ろなどが横行している国もある。これに対し韓国 政府はスタッフの現地派遣とともにモニタリング を強化し,不正発覚の場合は,クォータの縮小,

受入れ停止,送出し機関の変更などペナルティ措 置を採っている。先述のインドネシアに対して は,2005年6月から2006年4月まで送出しが中断 された。また不法労働者対策についても,送出国 政府に一定の努力を求めている。たとえば,ベト ナム人の不法労働者が増加し,2011年12月に1万 人を超えたため,2012年8月から2013年12月まで 送出しが中断した。再開の際のMOUでは,不法 労働者化を防止するために,韓国に労働管理事務 所を開設するとともに,ベトナム人労働者に保証 金500万ウォン(50万円)を課すことになった。

(10)

⑵ 受入れプロセスの透明化・公正化と送出費用の 減少

 第一に,受入れプロセスが公的機関に管理され ることにより,透明化と公正化が進んだと評価で きる。2013年の調査では,外国人労働者の主観的 評価は,「非常に公正」36%,「若干公正」が31%

と三分の二が肯定的に評価している。逆に「非常 に不公正」3%,「若干不公正」6%と否定的評 価は少ない。5点満点でも,2010年の3.7点から 3.9点に改善している。国別では,ベトナムが3.4 点,インドネシアとスリランカが3.7点と相対的 に低い評価である(表2参照)。これは送出し費用,

特に非公式費用の金額とも関連している。

 雇用許可制と産業研修生制度を比較した事業主 の評価を見ても,2011年では,「受入れプロセス の透明化の向上・不正の減少」は5点満点で,5 点が53%,4点7%,3点20%,2点19%,1点 0%で,平均は3.7点と比較的高水準である。

 第二に,平均送出し費用は,2001年の3,500ド ルから2011年には927ドルに激減している。国際 比較でも,シンガポールは1万ドル,オーストラ リア,アメリカ,ヨーロッパは1万5,000ドルか ら 2万ドルかかるのに対し,韓国はその1割程 度である。初期費用が少ないため,多くのお金を 稼ぐことができるので人気が高い。

 ただし費用については,各種の調査により,乖 離がある点に注意が必要である。2013年の法務部

の実態調査では,平均送出し費用は,274万ウォ ン(27万円),2010年の316万ウォン(32万円)に 比べて13%低くなった。国別では,ベトナムが 466万ウォンと最も高く,フィリピンは149万ウォ ンと最も低い。ただしベトナムなど公務員に支払う 非公式的な費用がかかったという回答は12%,民間 ブローカー費用がかかったという回答は10%あり,

依然として不正はなくなっていない。他方,特例 雇用許可制の韓国系中国人の場合,送出し費用は 2010年の264万ウォンに比べ,37%低下し,192万ウ ォンであり,一般雇用許可制に比べ若干少ない42。  以上,受入れプロセスの透明化の原則は守られ ていると評価できるが,民間ではなく政府が管理・

運営することにより,行政コストの問題がある。

たとえば,外国人労働者の体系的導入及び管理を 担う産業人力公団の2013年の決算額は8,381億ウ ォンに上る43。これを税金で負担するのは国民で あり,受益(中小企業)と負担(国民)の不一致問 題は残っている。また民間の仲介業者に比べて,公 的機関では効率性に問題があるという指摘や,民間 企業の事業機会が奪われているという指摘もある。

Ⅲ 中小企業経営者および外国人労働者の  視点からの雇用許可制の評価

 本節では,中小企業経営者および外国人労働者の視 点から雇用許可制の評価を整理する。評価する立場が

 表2 外国人労働者の就職費用と送出しプロセスに対する評価(単位:万ウォン,%)

ベトナム カンボジア ネパール インドネシア フィリピン スリランカ タ イ 全 体 韓国系 中国人 送出し費用総額 466 231 193 364 149 213 204 275 192

  韓国語試験・教育 55 25 28 62 22 17 34 35 52

  直接費用(航空機代) 102 109 118 149 79 138 84 117 67

  海外出国負担金 57 38 15 116 14 28 47 40

  非公式的費用(斡旋料・急行料) 200 10 60 52 11 36 15 83 65 送出しプロセスに対する評価

  非常に不公正だ 3.9 0.7 0.7 2.3 0.8 5.7 1.7 2.6   若干不公正だ 8.1 0.7 1.4 12 6.3 13.1 3.4 5.9   どちらでもない 46.6 3.4 22.9 26.3 28.9 13.1 14.5 25.2   若干公正だ 26.1 22.1 13.6 35.3 38.3 45.1 67.5 30.7   非常に公正だ 15.3 73.1 61.4 24.1 25.8 23 12.8 35.6 合計(%) 100 100 100 100 100 100 100 100

2013年調査平均 3.41 4.66 4.34 3.67 3.82 3.66 3.86 3.91

2010年調査平均 3.31 3.84 2.94 3.32 3.82 3.99 3.72 3.65

 注:平均は非常に不公正1点,若干不公正2点,どちらでもない3点,若干公正4点,非常に公正5点で計算。

 出所:法務部・出入国・外国人政策本部[2013]『2013年在留外国人実態調査』より作成。

(11)

外国人労働者なのか使用者なのかでは,評価が180度 異なる可能性がある。まず中小企業経営者は雇用許可 制についてどう評価しているのかについて検討する。

1.中小企業経営者の視点からの雇用許可制の評価

⑴ 産業研修生制度と比べ軒並み改善

 2004年8月の雇用許可制の施行に対して,中小 企業中央会は,当時反対の声明を出した。主な理 由は,外国人労働者の賃金が上昇して中小企業の 負担が増えるというものであった。また外国人労 働者の受入機関が,中小企業中央会から,公的機 関に変更になるため,外国送出機関と韓国内の委 託管理会社の利権が失われるという理由もあっ た。送出機関・ブローカーは,高額の仲介手手数 料を失い,委託管理会社は,研修生1人当り,1 時金32.6万ウォン,毎月2.4万ウォンという管理 費用44を喪失することになった。

 その後2007年1月までは,中小企業中央会で運 営する産業研修生制と労働部が運営する雇用許可 制の二つの制度が並立していたが,2007年に産業 研修制が廃止され,雇用許可制へと一元化された。

これに対しても,当時,中小企業経営者総連合会 が,「中小企業の外国労働者の採用に対する選択 権を政府が剥奪したことは市場経済原則に背く」

と,反対の声明を出した45。ただし,産業研修生 を雇用した経験がある中小企業全体が反対という わけではなく,韓国労働研究院の実態調査では,

雇用許可制に一元化することに賛成する意見が59

%と過半数を占めていた46

 その後,中小企業経営者たちは雇用許可制をど のように評価しているのだろうか。いくつかのア ンケート調査をもとに検討する。

 まず雇用労働部[2011]「雇用許可制施行評価 制度改革方案」で,雇用許可制と産業研修生制度 を比較した経営者の評価をみると,2011年では,

5点満点で,「外国人不法雇用の減少」3.5点,「受 入れプロセスの透明化の向上・不正の減少」3.7点,

「外国人労働者の職務能力」3.3点,「外国人労働 者の韓国語能力」3.3点と比較的高水準である。

特に評価が高いのは「外国人の人権保護」3.9点 である。また当初懸念された「外国人労働者の賃 金・その他費用」に関しても3.5点であり,産業 許可制よりは改善したと評価している。

 次に,雇用許可制に対する満足度を見ると,す べての項目で普通以上であり,2014年には2012年

の満足度を上回っている。特に「韓国産業人材公 団などが提供するサービス」3.4点,「標準勤労契 約書による勤労契約締結」3.4点,「外国人労働者 に対する人権保護」3.3点,「導入過程の透明性」

3.3点などで高くなっている。「賃金など費用削減」

も3.1点とそれほど低くない(図5参照)。したが って,アンケート調査から見る限り,雇用許可制 に対しておおむね満足していると判断できる。

⑵ 外国人活用時の問題点

 しかし,雇用許可制には経営者から見て,問題 点も多くある。図6の外国人活用時の問題点を見 ると,「必要な外国人労働者の確保が困難」3.7点,

「コミュニケーションの困難さ」3.5点,「文化・

生活習慣の差」3.3点などが相対的に高い。ただ し2012年と比べると改善傾向にある。

 この中で,マスコミでもよく取り上げられる最 大の問題点は,外国人労働者のクォータが不十分 な点である。中小企業中央会が2011年に中小製造

外国人労働者に対する労務管理の容易性

2014 2012

外国人労働者の不法滞在の可能性減少 外国人労働者に対する事後管理サービス

韓国産業人材公団などのサービス 外国人労働者賃金など費用削減 外国人労働者に対する人権保護

標準勤労契約書による勤労契約締結 就職前実施する就職教育内容

要件に合う外国人労働者の選択 雇用センターが提供する外国人求職者に対する情報内容

関連書類および行政手続き 導入過程の透明性

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

図5 中小企業経営者の雇用許可制に対する満足度    (5点満点)

出所:イキュヨン[2014]「雇用許可制10周年成果および今後    政策課題」(「外国人労働者雇用実態調査」)

2014 2012

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 勤勉性が低い

韓国人労働者と融和しない

愛社心が少ない 生産性が低い

コミュニケーションの困難さ

事業場変更の多さ 文化・生活習慣の差

必要な外国人労働者の確保が困難

図6 外国人活用時の問題点(5点満点)

出所:イキュヨン[2014]「雇用許可制10周年成果および今後    政策課題」(「外国人労働実態調査」)。

(12)

業者589社を対象に実施した「外国人労働者活用 あい路調査」によれば,回答企業の73%が,外国 人労働者のクォータが不十分だと回答している。

また2013年の韓国貿易協会の調査でも,中小製造 業305社の36.4%は外国人労働者のクォータが不 足していると回答し,1社当たり6〜13人を追加 配分することを望んでいる。この不足していると 回答した企業の94%は,クォータそのものの廃止 を希望している47。特に地方では,人材不足が深 刻であり,外国人労働者の受入拡大と弾力的運用 を強く要求している。

 第二に,事業場変更の問題である。人権団体や 市民団体からは強く批判されている事業場変更だ が,経営者の立場では別の言い分もある。中小企 業中央会の調査では,53%の企業が,事業場変更 のための怠業や仮病を経験している。特に入国後 1ヶ月以内の事業場変更要求を経験した企業も 32.4%に達している。韓国貿易協会の調査では,

外国人労働者の頻繁な事業場変更によって,事業 主の負担が増大していることから,変更回数を現 在の3回から1回に制限すべきだと希望している 企業が48%に上る48

 第三に,申請してから活用できるまでに時間が かかる問題で,38%の企業が「所要期間が長い」

と回答している。85%の企業が1か月以内を望ん でいる。

 最後に,外国人労働者のビザの期間を現在の3 年から延長してほしいという要望も強い。5年間 に延長が58%,10年以上も18%を占め,中小企業 は安定した生産のため,長期的に外国人労働者を 雇用したいと考えている。

2.外国人労働者の視点からの雇用許可制の評価  中小企業経営者が雇用許可制についておおむね満 足しているが,他方で,クォータの拡大,事業所変 更の削減,在留期間の延長などを求めていることが わかった。次に,外国人労働者が雇用許可制につい てどう評価しているのかを検討する。

 2014年8月に,雇用労働部や市民団体等で多くの イベントが開催された。そのうちの一つに移住政策 フォーラムによる「外国人雇用許可制度10周年を迎 えて」という集会があった。これは移住共同行動,

外国人移住労働者対策協議会,移住人権連帯など60 余りの主要な外国人支援団体の集まりである。その 中で何人かの外国人労働者が証言を行っている。た

とえば養豚場で働くカンボジア人労働者は,「1年 間でたった2日間しか休むことができず,病気にか かって死んだ豚を社長に強制的に食べさせられ,1 年間ずっと病気で死んだ豚だけを食べなければなら なかった」と証言している49。佐野孝治[2014c] で述べたように,農畜産業では勤労基準法の適用を 受けないため,外国人労働者は悲惨な状況に置かれ やすい。国際人権団体アムネスティ・インターナシ ョナルは『苦い収穫(Bitter Harvest)』(2014年)

という報告書で,「韓国は,搾取と強制労働のための 人身売買をまん延させる恥ずべき制度を作り上げて いる」と批判している50。ただちに一般化はできない が,こうした人権侵害があることも事実であり,雇 用許可制の廃止と事業場移動の自由化など人権が保 障される新しい制度を求める外国人労働者も多い。

 また毎年メーデーなどでは,外国人労働者らが,

労働三権の保障,取り締まり追放の中断,労働ビザ の発給,生活賃金の保障などを要求して集会を開催 している。

 しかし,すべての外国人労働者が「雇用許可制の 廃止」を要求しているわけではない。いくつかの外 国人労働者に対するアンケート調査では,雇用許可 制に対しておおむね満足している姿が浮かび上がる。

 まず,入国時について,中小企業中央会が,2013 年に10ヶ国の外国人労働者1,058人を対象として実 施した「外国人労働者就職実態調査」を見てみよう。

これによれば,外国人労働者が日本や台湾ではなく,

韓国を選択した理由は「韓国に対する好感のため」

が37%と最も多く,次に,「日本・台湾に比べて高 い賃金」24%,「日本・台湾に比べて宿舎など良好 な労働条件」21%の順であり,「日本・台湾に行き たかったが行くことができなかったと」という回答 は5%に過ぎなかった。韓国に入国した外国人労働 者は消極的理由ではなく,日本や台湾に比べ,韓国 が賃金や労働条件などで相対的に有利だという積極 的な理由で,韓国で働くことを選択している51。  次に,滞在時の外国人労働者の職場に対する満足 度(5点満点)は,全般的に「普通」(3点)以上 である。特に同僚との関係(3.4点)と上司との関 係(3.4点)など対人関係の満足度が高い反面,賃 金(3.1点)や労働強度(3.0点)などが相対的に低 めになっている(図7参照)。

 たとえば,賃金の満足度を企業規模別にみると,

9人以下が3点に対して,50人以上は3.3点と規模 が大きいほど満足度は高くなっている。国別では,

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