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質的調査法の指導: 卒業論文およびゼミ論文指導の経験から

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教育実践報告  

質的調査法の指導:卒業論文およびゼミ論文指導の経験から   Teachingqualitativeresearchtoundergraduatestudents  

岡 知史  

私は、学生の論文指導をはじめた1991年度から一貫して、福祉現場に出て、直接インタビュー   することによって論文を書くことを学生たちに勧めてきた。そして、数年前から、論文指導の条件  

として「質的調査法を用いること」を出し、質的調査法に基づいた論文を指導してきた。その指導   の経験を整理することによって、今後の質的調査法指導の向上に役だち、また質的調査法で論文を   書こうとする学生たちに役だつ情報を提供することが、この報告の目的である。なお指導の事例に   ついては秘密保持の点から本質を損なわないかぎりにおいて、内容を変更し、故意にあいまいな表   現をしていることを断っておく。  

l.質的調査法を指導する意義   

まず、質的調査法を研究方法として用いた論文を書くことを、学生たちに勧める意味について   述べる。それはempiricalな調査に基づいた研究をするということの意味と、さらに、その調査の   なかでも質的調査法を採用することの意味に分けることができる。  

知識の生産という経験   

社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験制度ができたために、社会福祉にかかわる知識のイメー   ジが、学生たちにとっては「与えられるもの」に変えられつつあると私は危倶している。とくに、  

知識を常に「与えられるもの」として受け取り、吸収することを主な作業とする受験勉強を経てき   た大学生たちが、大学に入ってもなお知識の吸収に追われることは「知識は自分自身の行為とは無   関係にすでに存在するものである」との印象を、ますます強くするかもしれない。   

このような状況において社会福祉を教える教員は、学生たちの知識に対するイメージを変えて   いく必要がある。「社会福祉の知識は、社会福祉に直接かかわる一人一人が生産していくものだ」  

ということを強調するべきだろう。「知識の生産(generationorknowledge)」は社会的に力をもつこ   とにつながる(Rahmen,1991)。ひいては、ソーシャルワーカーの専門性の社会的認知向上にも役だ   つのである。  

知識の権威依存からの自由   

知識を自分で生産できるという体験は、知識の権威への依存から学生たちを自由にするだろう。  

文献解題による論文指導も、私は何度も経験してきたが、そこで学生たちに見られる傾向は、ある   命題を正しいとする根拠としてその分野の「権威者」を出してくることである。すなわち、「Aは   

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上智大学社会福祉研究 20〔札3  

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Bである。なぜなら著者CがAはBであると述べているからである」という論証の仕方である。   

とくに社会福祉士の国家試験制度によって、社会福祉の分野には多くの「教科書」が現れた。学   生たちは高校時代までの経験によって「教科書は絶対に正しい」と信じている。「絶村に正しいと   わかったことだけが教科書に書かれている」と信じているからである。しかしながら、資格制度に   ともなう「知識の官製化」に疑いをもつ姿勢が、たえず発展していく社会福祉学を担う学生たちに   は必要であろう。知識の真偽を、発信した人の権威で判断することなく、自分自身で集めたデータ   によって判断するという経験は学生に研究者としての基盤を与えてくれるはずである。  

調査を利用する力   

調査をする力を学生が身に付けることは、学生自身が調査を利用する力をもつことにつながる。  

すなわちresearchconsumer(Grinnell,RotheryandThomlison,1993,p.10)となるということであるし)  

社会福祉の現場では「理論と実践とは違う」という主張を聞くことがある。それはいかに理論を実   践に活かすかが知られていないということであり、また、理論が「現場の外から与えられたもの」  

ではなく、「現場の中から見出されたもの」であるということを理解できないことからくるのであ   ろう。その無理解は、社会福祉の知識を生産する過程を知らないことが原因になっているのではな   いか。たとえ小さな調査であっても、そこには多大な労力が注がれていることを知れば、学生は調   査結果を重視することを学ぶだろう。また、調査を自分自身で行うことによって調査の質を見分け   ることもできるようになるだろう。  

学生の立場からの実行可能性   

知識の生産にかかわり、知識の権威依存から自由になり、さらには他の調査結果も利用する態   度を養成することは、empiricalな調査に基づく調査にかかわれば可能なのであって、それは量的調   査であっても質的調査であってもかわらない。そのなかでも、とくに質的調査を学生に勧める理由   について述べる。   

そのひとつは学生の立場からの実行可能性である。実行可能性(feasibility)は調査を計画するとき   にまず考えなければいけない重要な点である。量的な調査の場合、Singlesyslemdesignは別として、  

通常、大量かつ無作為に抽出されたサンプルが必要であり、そのようなサンプルを確保することは   大学生には難しい。教員が、なんらかの量的調査のプロジェクトにかかわっており、それに学生が   参加する形でなら可能であろうが、教員が毎年そのようなプロジェクトに参加しているとは限らな   いし、もし参加していたとしても、その調査の種類が学生の希望にあるかどうかはわからない。ま   た、1−2名の学生には、そのような機会を提供することは可能だろうが、これは5−10人もの学生に   なると、それは不可能だろう。   

その点、質的調査法は学生にも使いやすい方法である。私の場合、卒業論文なら7人、ゼミ論  

なら5人の質的インタビューを目指すよう指導している。もちろん、質的調査のサンプル数を何人  

かと定めるのは無意味なことだが(Patton,1990,P.184)、1時間のインタビューをトランスクライブ   

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して、綿密に分析するには、時間的にも、労力的にもこれくらいが適当だと私は経験的に判断して   いる。7人に個別にインタビューするなら、学生にもできる。各1時間インタビューをしたとして  

も、トランスクリプトが各20ページになったとして、7人で140ページになるはずである。140ペー   ジのトランスクリプトを、コンピュータ・ソフトウエア(Kelle,1995)なしで分析するのは容易なこ   とではない。また、7つのケースがあれば、分析のためのマトリックス(MilesandHuberman,1994)  

も描くことができ、分析のための手続きを学ぶための最低限のデータは集められると思われるので   ある。  

社会福祉現場での親和性   

ソーシャルワーカーが専門職として充分な社会的認知を得るためには、自分自身も知識の生産  

者とならなければならない。それがpractitioner−reSearCher(Garvin,1997,P.190)モデルである。しか   し、このモデルは量的調査が調査の主流である現在、それほど多くの賛同者を得ていないと指摘す  

る声がある。量的調査の方法が、福祉の実践現場の日常業務に取り入れるには、あまりに異質な  

(foreign)ものであるというのである(Rothey,Ttuy,andGrinnell,1996,p.16)。それと比べれば、質的   調査はクライエントとのインタビューや、日常業務の記録がデータ収集の手段であり、ソーシャル  

ワークの日常業務との親和的つながり(Sympatheticconnection)がある(Riessman,1994,p.ix)。   

たしかに、ソーシャルワーカーが普段の援助実践の延長上でデータがとれるというところに、質   的調査の始めやすさがある。また、このようなデータ収集にともなう親和性だけではなく、閑適の  

とらえかたや価値観の点でも、質的調査はソーシャルワークの実践と共通点が多いという指摘があ   る(Rodwell,1998,pp.4−10)。  

傾聴の技法   

私は質的調査法による論文執筆を勧めていると述べたが、正確にいえば、質的調査法のなかで   も質的インタビュー法を使った研究法を勧めている。それは、それが「質的調査法においてもっと   もよく使われているデータ収集法」(RogersandBouey,1996,p.52)だからである。   

質的インタビューは、通常、StruCturedinterviewsとunstruCturedinterviews、それにその中間であ   るsemi−StruCturedinterviewsという3つのタイプがある。私が学生たちに勧めているのはsemi−  

structuredinterviewsである。半構造化インタビューと訳されることが多いが、「半(Semi−)」という言   葉が曖昧な内容のような印象を与えるので、thegeneralinlerviewguideapproach(Patton,1990,P.280)  

あるいは「インタビューガイドを用いた質的インタビュー」と表現させるようにしている。   

具体的には、10ないし15の質問リスト(インタビューガイド)を準備したうえで、インタビュー   に向かう。学生たちは、インタビューの前になると、その不安のために「インタビューガイドを点   検してほしい」と私に頼んでくることが多い。完壁なインタビューガイドを準備すれば、良いイン   タビューができると思い込んでいるようである。しかし、実際にインタビューを行ってみると、そ   れは「構造と目的をもった会話」(Kvale,1996,p.6)にすぎない。したがって、インタビュー対象者   

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はintervieweesではなく、「話し相手(COnVerSationpartner)」なのである(RubinandRubin,1995,p.11)。  

すなわち、インタビューという行為の一方的な受け手として対象者はいるのではなく、対等な会話   の相手として対象者はいて、その両者の関係のなかで相手を理解するのである。   

私は授業のなかで、実際に外部から人を招き、ゼミのなかでインタビューのデモを行っている   が、学生たちは「同じようなインタビューガイドを使っているのに、引き出せるものが違う」こと   に気づくと言う。すなわち、インタビューガイドの結果として、相手の言葉が得られるのではな  

く、その会話の流れに応じて得られる。別の言葉でいえば、インタビューのときに使う道具  

(instrument)は、インタビューガイドではなく、インタビューをする人自身なのである(Patton,1990,  

p.472)。   

インタビューをして、その相手の考えや体験をどこまで引き出せるか、それはケースワーカー   が傾聴の姿勢でクライエントの状況をアセスメントするのと似ている。聴いた内容を要約したり言   い換えたりしたりして内容を確かめる。相手のverbalなレベルだけではなく、nOn_Verbalなレベル   のコミュニケーションも読み取り、インタビューを進めていかなくてはいけない。学生たちの模擬   インタビューの様子を見ていると、自分が書いたインタビューガイドばかりに日を向けて相手の顔   もよく見ていないことがある。それではいけない。インタビューワーは「鉱夫」に例えられる(Kvale,  

1996,p.3)。すなわち相手の言葉や声の調子を聴き、身体の動きなどを観察し、「金脈」を掘り当て   たなら、用意したインタビューガイドから外れていても、どんどん掘り進めていけば良い。その  

「金脈」を探り当てる勘は、福祉現場にいっても充分に使えるし、また逆に現場の有能なソーシャ   ルワーカーは、そのような勘を働かせるのに長けていると予想されるのである。  

廿指導上の問題点   

次に、このような質的調査法を学生に指導するにあたって、問題になってきたことを述べる。ま   ず、主として学生側に起因すると思われる事柄を述べ、最後に教員側に起因していると思われるも   のを述べる。  

Researchquestionsがたてられない   

質的調査はhypothesis−teSting(仮説検定的)ではなく、hypothesis−generating(仮説生成的)であ   るとされるが(Taylor,1994,p、60)、だからといって、思いつくままに質問を並べてそれをインタ   ビューガイドとし、そのままインタビューに向かってはいけない。一般に学生たちは「障害者のデ   イケアについて調べたい」「在宅ケアについて調べたい」などresearchareaを決めることは独力で   できるが、その次の段階として「では、障害者のデイケアの何について調べたいか?」とresearch   focusを問われると答えられないことが多い。さらに、そのresearchfocusを定めたうえで、どのよ  

うな問いresearchquestionsをたてていくかとなると、さらに難しくなる。   

Taylor(1994)は、質的調査に適したresearchquestionsを(1)分類classificationquestions,(2)文化cuIture   questions,(3)精神過程mentalprocesses,(4)因果関係causalquestionsandfunctionalhypothesesの4つ   

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の類型に分けている。ただ、この分け方には問題がある。「分類」は、対象者の「文化」の一部で   あるといえるし、また「精神過程」の結果でもある。また「因果関係」を質的調査で探ることには   批判的な説もある(ex.Rodwe11,1998,pP.32−33)。「因果関係」は「精神過程」の一部としてのみ調   査が可能であろう。すなわち、この4つの類型は独立したものとしては考えにくく重複しているの   である。   

そこで私は、もっと単純に「分類」と「精神過程」をresearchquestionsにおくように指導して   いる。結果として要素は「分類」ならtreestruCtureになり、「精神過程」ならnetworkstructureにな   る。逆にいえば、目標はLreestructureかnetworkstructureを作り出すような質問をすれば良いこと   になる。   

学生たちがもっとも陥りやすい間違いは、量的調査で利用されるような仮説をたてて調査に臨   むことである。たとえば「若いソーシャルワーカーほど職場で多くのストレスを感じている」とい   う仮説をもって、若いソーシャルワーカー数名、そうではないワーカー数名にインタビューして、  

その「傾向」を調べようとする。しかし、このような「仮説検証」は、もちろん無意味である。「たっ   た数名を調べて、それで一般的な傾向を調べようとする間違っている」ことを伝える。このことは   通常、学生たちには直感的に理解されるが、「では一般化されない調査など、どういう意味がある   のか?」という問いが出される。   

そこで調査結果の応用可能性(applicability)として、一般化可能性(generalizability)の代わりに、転   移可能性(lransferability)の概念を教える必要が出てくる(LincolnandGuba,1985,pP.296−297)。私は、  

それは「偉人伝」を若い人たちが自分の人生にあてはめてみることと同じだと説明している。つま   り、「偉人」になるための一般法則はないが、「偉人」がすごした時代背景や生活歴を具体的に書く   ことで、読者は自分に応用できそうな教訓を自分で選び出していく。そういった読者の積極性を前   提とした応用可能性が、転移可能性なのである。一般法則を示されるよりも、具体的な事例を示さ   れたほうがわかりやすく、説得性がある場合があるのである。  

自分自身の概念枠組みやメタファーに気づかない   

Researchquestionsをつくるとき、学生は自分自身の前提に気づく必要がある。質的調査法にお  

いてはemicperspectivesを第一に探っていくが(Holloway,1997,pp.53−54;Schwandt,1997,pp.35−36)、  

その場合、調査者は自分自身の視点にも気づいている必要がある。その気づきができているかどう   かは、具体的にインタビューガイドを作成すると、しばしば明らかになる。   

たとえば「児童養護施設では職員は親のような役割を果たすことが求められていますが、その   役割を果たすことについて、あなたが体験した難しさをお話しください」という質問を児童養護施   設の職員に投げかけるとしよう。ここにはすでに「職員は親の役割を果たす」という調査する側の   視点が入っている。「職員は親の代わりにはならないし、磯貝と親の役割は違う」と考えている職   員には、このような質問は無意味である。   

また、この質問には「親」というメタファーが含まれている。調査者は「親」というメタファー   

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を使っているが、ここには調査者自身の「親」のイメージが重ねられている。しかし、施設の職員   や児童にとって「親」は、虐待する「親」であったかもしれない。そうすると「親の役割」も「虐   待する役割」となり、それを職員が代替することなど、あってはならないことになる。   

また、ある学生が施設で働くソーシャルワーカーに施設での実践についてインタビューをした   ときに、ワーカーが「これは仕事としてやっていますから」と答えた。学生は「仕事として割り   切ってやっている」と解釈した。しかし、これには「仕事」というメタファーが含まれている。「仕   事」がすなわち「割り切ったこと」というのは、その学生の価値観の反映にすぎない。「仕事とし   てやっている」ということが、どのような意味をこめて言われているのか、それはインタビューの   なかで明らかにするしかない。   

このように質的調査法を行う学生は、自分自身の枠組みやメタファーに気づかなければいけな   い。相手の世界に入っていくには、まず自分の世界を知っていなければならないのである(Co恥y   andAtkison,1996,pP.83−107)。  

目的を説明できない   

質的調査は、相手のフィールドに入っていくことが必要である。それを場面へのentryといった   り、対象者へのaccessといったりする(Holloway,1997,P.20)。そこで学生は調査の目的を説明しな   ければいけないが、それが難しい。   

その理由のひとつは、調査を受ける側が質的調査を理解していない場合がほとんどだというこ   とである。調査といえば量的調査しか連想されないことが多い。そのため調査への協力といえば、  

アンケート用紙を預かり、それを複数の人に記入させ、それを回収し郵送するということがイメー   ジとして出てくるのである。   

また、質的インタビューは質問する相手の「個人としての考え」.を聴くのだが、それが理解さ   れにくい。たとえば施設職員にインタビューをしても、施設のパンフレットに善かれてあるような   ことを復唱されても意味はないのである‖しかし、相手が学生であるためか、施設の機能や、それ   を利用する障害者の様子をできるだけ「客観的に」話そうとするインタビュー対象者もいる。施設   の代表者でなければ、質問には答えられないだろうと考えられてしまうこともある。   

このような場合には、学生は質的調査の意味や意義について説明しなければいけないが、これ   は質的調査について学び始めたばかりの学生にはかなり難しいことは当然、予想されるのである。  

質の良いインタビューができない   

質的調査に適したインタビューガイドを用意し、質的インタビューに理解のある対象者を得て   も、それが良いインタビューにつながるとは限らない。これまでの学生たちの体験を聞いている   と、それにはさまざまな原因がある。   

まず、質問をする学生の側に充分なIisteningski11sがないことである。このようなスキルは授業   で与えた知識によってすぐに充分に伸ばせるようなものではなく、それまでの生育過程で形成され   

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た学生の人間関係スキルに大きく依存する。彼らが自分のIisteningskillsの水準を知る機会は、こ   れまでほとんどなかったであろう。このスキルの差は、インタビューのトランスクリプトを互いに   比べることによって明らかになる。   

また、質問をする学生の側に充分な知識がないことである。事情がよくわからないために、答   える側にとっては「重要ではない質問」あるいは「関心がない質問」をしてしまう。そのため答え   る側が積極的に答えないか、あるいは表面的な説明をすることで終わってしまう。たとえば、ある   施設で働くソーシャルワーカーに対して「地域との連携をはかる上で難しさを感じた経験をお話し   ください」と質問しても、その施設ではまだ地域との連携はあまり進んでいなかった。そのため、  

施設と地域との連携の重要性を述べる、ごく簡単な回答しか得られなかったのである。しかし、こ   れは探索的な調査を行う質的調査にはよくあることであって、学生がそこで挫折感を受けないよう   に援助すべきであろう。   

さらに学生の属性がインタビューを難しくする場合もある。インタビューする学生が自分の娘   や息子と同じぐらいの年齢で、しかも福祉現場をほとんど経験していないということを知ったうえ   で、何十年もの経験をもったソーシャルワーカーが「ワーカーとしての悩み」を話すとは考えにく   いかもしれない。しかし、学生には、自分の属性よりも研究者としてのインタビュー・スキルのほ  

うがより多く、インタビューの成否を決める鍵があることを理解させる必要があるだろう(Padgett,  

1998,p;24)。   

また、インタビューにおいて、数人の学生に共通する失敗は「萎縮」から来るようだ。うまく   インタビューができるかどうか自信がないままに、忙しい対象者にインタビューのための時間を   とってもらうという、それだけで学生たちは「申し訳ない」と思い、「萎縮」してしまう。そして   受身的に聴くだけになってしまう。質的インタビューにおいては、インタビューの最中に相手の言   うことを要約によって確かめるmemberchecking(LincolnandGuba,1985,P.314)が必須である。そ   れには相手が焦点からはずれたことを話し続けるのをさえぎり、こちらから質問をし整理していく   というactivelisleningが要求される。それに失敗してしまうために良いインタビューができないの   である。  

データを分析できない   

量的調査においては、データを集めてから分析を行うのであるが、質的調査においては、デー   タを集める過程で分析を行う。したがって、インタビューをしている最中にすでに分析が行われて   いるはずである。学生たちは、しばしばこれを誤解し、インタビューを終えてから分析を始めよう   とする。これでは遅すぎるのである(Kvale,1996,P.177)。   

データを収集することと、それを分析することは、質的調査の場合、平行して行なわなければ   ならない。いいかえればインタビューが終わった時点で、ある程度の分析ができていなければいけ   ない。なんとなくインタビューし続けて、それが溜まって、「どう分析していいのかわからない」  

と困惑する学生は多いので、このことは何度も強調すべきであろう。   

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フィールドヘのアクセスヘの援助が難しい   

最後に、教員側に主に責任がある難しさについて、ひとつ述べておく。それはフィールドヘの   アクセスの援助と、それに伴うサンプリングへの援助の問題である。質的調査は目的的サンプリン   グを行うが、学生たちは限られた時間と限られた人脈でサンプリングを行うしかないため、どうし   てもconveniencesampling(便宜的サンプリング)になってしまう。量的であれ質的であれ、社会   調査においてはサンプリングの問題は重要であるが、その点の指導ができないことは質的調査への   誤解を学生に与えてしまうことになりかねない。便宜的サンプリングは、実際の質的調査では良く   使われているといわれるものの、もっとも望ましくないサンプリング法であることは、学生に強調  

しておく必要がある(Patton,1990,p.180)。   

また、このような便宜的なサンプリングであっても、フィールドにアクセスするには、それ相   当のsocialskillsが学生側に要求される。初村面の人との向かいかた、常識的な礼儀作法は心得て   おくことは言うまでもないが、これまでまったくかかわってこなかった社会集団のなかに入ってい   き信頼関係をつくることは、社会経験の少ない学生には難しいことである。したがって、その点の   教員側からの援助が必要になるのであるが、実際には、私が提供できるフィールドも限られてい   る。2年間の学生指導で、何人かのソーシャルワーカーには何回も学生のインタビューを受けてく   れるように依頼するしかなかった。学生がアクセスできるフィールドをいかに増やしていくかが、  

質的調査法を教育しようとする教員の課題になるだろう()  

‖.指導の工夫とその効果   

次に、学部のゼミの学生に質的調査法を指導するにあたって私自身が工夫したことと、その効   果について述べる。  

トランスクリプトの相互点検   

思いがけず効果があったと思われたのは、インタビューのトランスクリプトの相互点検である。  

各自が行ったインタビューのうち、ひとつを選んで、そのトランスクリプトのコピーを配布する。  

プライバシーの保護のため、答えた人の氏名や団体名、施設名等は、あらかじめ消しておき、点検   が終われば、すべて回収するように指導している。   

これによって自分のインタビューのスキルが、よくわかる。テープ起こしの段階で、すでに学   生たちは多くことに気がつく。相手が深い意味があることを言っているのに、それを聞き逃してし  

まっていたり、相手がいう意味を誤解して話を進めてしまっていたりするプロセスが理解できるの   である。また、他の学生たちに「ここで、もっと突っ込んで聴けば良かったのに!」と言われる  

と、新しい発見をすることができる。   

テープ起こしとトランスクリプトの違いの一つは非言語的なメッセージも書き入れることだが、  

その意味が学生たちには理解しにくいことが多い。しかし、その非言語的なメッセージ([小声で】   

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【まわりを見ながら】など)が効果的に記入されている例を見ることによって、その理解が深まるの   である。   

さらに、書きかけの論文自体も同時に提出させるが、それとトランスクリプトと比べることに   よって、「こんなに面白いインタビューができているのに、それが論文に反映されていない」とい   う感想が、他の学生たちから出されることがある。これによって、インタビューをした学生は、も   ういちど自分のトランスクリプトを読み直し、論文を書き直すことになる。質的調査においては、  

トランスクリプトを何度も何度も読み直すことが大切だが、それをトランスクリプトの相互点検に   よって動機づけることができるのである。  

議論の有効性   

ゼミは議論の場として設定してあるが、従来からそこで議論することには難しさを私は感じて   いた。というより、学生たちは議論することに意味を見出していないように感じた。つまり「学生  

どうし話し合っても仕方が無い。早く「正解」を教えてもらったほうが良い」と考えているように   思えたのである。また、自分の意見を否定されることを恐れ、逆に自分と異なる相手の意見に対し   ては無関心に近い寛容さを見ゃるに留まっているようだった。   

ところが、質的調査ではmultiplerealitiesを明らかにしようとする。つまり、絶対的な一つの真   実ではなく、多様な真実が混在する世界がそこに現れてくる。他の学生がまったく違うデータの読   み取り方を提案しても、他の読み取り方を否定するわけではない。それは互いに傷つけあうことを   極度に嫌がる若い学生たちには大きな魅力になる。議論をし、自分たちの見方が否定されることな  

く、逆に広くなることを歓迎しているようだ。   

出されたトランスクリプトを一つの閉じられた世界とみた場合、そこから何を読み取るかを話   し合うとき、学生それぞれの専門知識の差はそれほど大きなものではない。材料はすべてそこにあ   る。とすれば、パズルを解くような面白さがあるのである。   

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2(;  

相互評価の活用   

学生による論文の相互評価を導入することによって、学生自身の論文への感覚を磨くことを試   みている。相互評価は表1に示した12の項目をそれぞれ1点から5点までの点数をつけることで行   う。最高点は60点、最低点は12点になる。  

■ 表1相互評価採点項目   採点項目  

1.問題の設定と先行文献の整理   問題が充分に絞られている   問題の社会的背景を整理している   問題の意義について整理している   先行研究を整理している  

2.データの収集と分析方法   充分なデータを収集している   分析方法が明確に述べられている   データの解釈が安当である   論理に飛躍がない  

3.表現方法  

書式が守られている  

文章が日本語として明確である   調査結果が明確に提示されている   論文の主旨が明確である   

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人によって点数のつけかたの甘さ、厳しさの差があるので、点数の高低で順位をつけ、それを   比較することにした。つまり、たとえば学生Aは、5人の人から1位をつけられ、3人の人から2位  

をつけられ、1人から5位をつけられたというような結果を出すのである。順位のばらつきを無く   すために、各学生の評価において最高の順位をつけた人、最低の順位をつけた人をそれぞれ同人数   分だけ省略する(順位のばらつきがなくなる最低限度の数を選ぶ)。   

このように相互評価したものの結果の例が表2である。私自身が評価したものと、ほぼ一致し   ていた。違ったところは、私が質的調査法として論理が明快で、調査法についてよく理解したもの   を高く評価したのに対して、学生たちは文献研究が充実しているものを比較的高く評価していた。  

また、高順位のものは誰からも高順位と認知され、一方で、低順位のものは評価が分かれていると   いう傾向がでている。  

表2 学生の相互評価結果  

順位 1  2  3  4  5  6  7  8  9  

A B C D E F G H −J K   3  5   1  3   2  5  1   1  2   2  1  2   1  2  1  2  4   2  2   

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2S  

lV.指導の限界と留意点   

最後に、学部の学生に質的調査法を教えるときに、私が感じる限界と、私が留意している点を   述べる。  

哲学的基礎の難しさ   

質的調査はその思想的な基礎を時代とともに変えている。たとえば、DenzinandLincoln(1994)は、  

質的調査がpositivistからpostpositivist、そしてcontructivistを含むpostmodemismに移っていったこ   とを述べているが、「哲学なんて高校時代に「倫理」の時間に勉強したぐらいだ」という大学生た   ちには、その理解はかなり難しいだろう。しかし、そうした哲学的理解をしなくても、手順さえ教   えられると学生たちは、質的調査を始めることができる。したがって、私の授業においてもこれら   の問題にかかわる講義を行っていない。   

ただ、インタビューした結果を分析するときに、このような問題を明確に理解していないと混   乱してしまうことがある。とくに存在論(OntOlogy)にかかわる問題は「いったい自分のやっている   ことは正しいのだろうか、意味があるのだろうか」という不安を生じさせるようだ。しかし、高校   時代に哲学者の名前と著書名を結びつけるだけの「勉強」しかしてこなかった学生たちに、存在論   的議論を充分に理解することを期待するのは難しいだろう。  

質的調査法の限界   

いうまでもなくソーシャルワークの研究では、北米においても量的調査が支配的である  

(Riessman,1994)。質的調査法の有用性や可能性ばかりを授業で強調することは、あたかも量的調   査法が重要ではないかのような錯覚を学生に与えてしまいかねない。現場において、他職種への影   響力も考えれば、まだまだ量的調査法への需要のほうが大きい。そのあたりのバランスを欠く認識  

を与えないように留意する必要がある。   

また実践現場だけではなく、研究の場においても質的調査は未だ充分な理解を得ていないと思   われる。WoIcol(1990,p.26)は、質的調査に基づいた研究論文において「もはや【質的調査法を]各研   究者が擁護したり明らかにすることが要求されることはないし、参与観察法やインタビュー法など   の標準的な手続きについての包括的な文献レビューが必要であることもない」と述べているが、日   本の場合は、そうでもないような印象がある。日本の大学あるいは大学院で質的調査で論文を書く   とき、質的調査そのものについて、その正当性を論ずることが必要になるだろうが、そのときに、  

先の節で述べた哲学的基礎をどこまで理解しているかが問われてしまう。したがって、質的調査法   を教える教員は、いずれその哲学的基礎をも講義することが求められるだろう。   

最後に、この小塙をまとめるにあたって私の指導のもとに質的調査を行ったすべての学生たち   の経験を活用させていただいたことを、感謝の気持ちをこめて改めて報告したい。とくに、99年   度の私のゼミの学生たちには、彼らの疑問や失敗を論文のなかで使わせていただくことを了解して  

もらった。ここに感謝の気持ちを伝えたい。また、私の担当した学生たちのインタビューに応じて   くださった多くのかたがたに感謝します。   

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参考文献  

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参照

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