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政治的インフラストラクチャーの研究 - 日本国際問題研究所

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Academic year: 2023

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国際問題 No. 599(2011年3月)

52

B O O K R E V I E W

本書は、アメリカ政治におけるインフラストラクチャーについて詳細な分析を加えた研究で ある。アメリカ政治を制度から考察する場合、政党や選挙陣営、政治資金団体、利益団体など が選挙戦、資金獲得競争、立法過程で想起される。しかし、これらはいずれも中長期的には、

インフラストラクチャーとしてのシンクタンク、大学、研究所、財団、メディアなどによって、

政策面、資金面、情報面で下から支えられている。選挙の勝敗も、民主党と共和党と両党各派 それぞれのインフラの強度に左右されることが少なくない。それゆえに政治的インフラストラ クチャーは、アメリカ政治の基盤的部分と言える。

こうした認識を前提に本書が分析する対象は、財団、シンクタンク、メディア、オピニオン 誌、メディア監視団体と政治資金監視団体、宗教勢力がもつ政治インフラ、政治インフラとし ての法曹界、人種的少数派がもつ政治インフラとしてのコミュニティー組織、軍、政治家養成 機構、対日政策と対中政策を支える政治インフラに広がる。編著者の久保文明によれば、アメ リカの政治インフラの特徴は以下の数点に要約される。

(1)規模と影響力の大きさ。

(2)資金調達活動を活発化させる政治勢力がイデオロギー的な動機でインフラ作りに努めて いること。

(3)ヨーロッパ諸国と比較して政党との公式の結びつきが弱く独立性が高いこと。

(4)政治インフラの影響力や効果についての実証的な検証は方法論的な困難さからアメリカ でも少ないが、これが日本におけるアメリカ政治のインフラ理解の重要性を減じる理由に はならないこと(序章)。

日本やヨーロッパ諸国とさまざまな点で異なるアメリカの政治をインフラストラクチャーか ら解きほぐす本書の試みは、少なくとも以下の

3

点で魅力を放っている。

1

に、日本では聞き慣れない政治的インフラストラクチャーという概念を用いることで、

これまでアメリカ政治をみえにくくしていた隙間を埋めることに成功している点である。なる ほど、シンクタンクにしてもメディアにしても宗教勢力にしても、個別の研究は少なくない。

しかし、例えばアメリカ政治における宗教勢力の政治活動を理解するには、宗教がいかなるメ カニズムで運動や集票に連結するのか、インフラとしての機能が鍵となる。クリスチャン・ラ イトの事例を本書で取り上げている中山俊宏が「信仰のエネルギーを政治的影響力に変換する

久保 文明 編

『アメリカ政治を支えるもの

―政治的インフラストラクチャーの研究

評者 

渡辺 将人

(2)

ためには、数多くの『仕掛け』が必要である」(第6章)

と述べるところの「仕掛け」の分析こそが本書が提供す る新たな視角である。

アメリカ政治の根底にある保守とリベラルの対立軸 は、保守派をリベラル派が追い上げる形でのインフラ競 争の動機にもなっており、宮田智之は財団に焦点を絞っ てこの過程を見事に解き明かしている(第1章)。アメリ カのメディアについての研究もすでに存在するが、個別 のメディアの研究を保守とリベラルの二項対立と連動す る政治過程に位置づける本書は、アメリカ特有のメディ ア環境を鮮明に浮き彫りにすることに成功している。

アメリカのメディア監視団体の存在も、こうした文脈 ではじめて理解できる。日本の感覚からメディア監視団 体と聞けば、報道の公正性や「やらせ」のような倫理問 題を扱う「中立的」「客観的」な第三者機関のようなも

のを想定しがちである。しかし、アメリカ政治のインフラとしてのメディア監視団体は、保 守・リベラル双方がそれぞれ相手陣営のメディアの「偏向」や「歪み」を監視し合う組織であ り、文字どおり「政治的」インフラなのである。本書で足立正彦はメディア監視団体と併せて 政治資金監視団体を保守系とリベラル系に大別して実に詳しく紹介しているが(第5章)、この 種の研究はこれまで日本に存在しなかった。

インフラという概念でアメリカの政治的基盤を概観することで、日本と比べてアメリカ社会 の隅々がいかに「政治化」しているかにも、あらためて気付かされる。アメリカに留学したこ とがある人は、大学のキャンパスで学生による共和党委員会あるいは民主党委員会を名乗る団 体の活動に遭遇したことがあるかもしれない。久保文明が述べるように、学生共和党委員会は カール・ローヴをはじめ多くの著名な政治関係者を輩出しており、指導者養成機構や「イーグ ル・フォーラム」などの政治家養成機構と同様の人材育成インフラとして機能している(第

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章)。こうしたインフラが身近な形で、とりわけ若者の日常的空間に存在していることは、日本 では想像できないだろう。

アメリカでは大学も政治と切っても切れない関係にある。岡山裕が詳述するインフラとして の法曹にしても、法科大学院が人事やカリキュラムなどをめぐり法曹内の政治イデオロギーの

「現場」となっている実状は、日本の読者にはかなりの驚きを与えるかもしれない(第7章)。他 方、軍人票や退役軍人との関係で語られがちな軍の「政治化」については、必ずしも共和党に 偏向した形で政治化しているわけではないとの分析結果が彦谷貴子により提示されており(第

9

章)、客観的調査に支えられた慧眼は本書の論証の優れたバランスに貢献している。

さて、本書が有する第

2

の魅力は、アメリカの政治インフラを歴史的経緯から跡づけるだけ でなく、現在進行形の政治過程のなかで解析することで、オバマ政権の理解を大いに助けてい る点である。換言すれば、本書はアメリカの政治インフラをめぐるハンドブックとして必携で

書  評

国際問題 No. 599(2011年3月)

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書  評

日本国際問題研究所、2010年12月 A5版・355+xvページ

定価2800円(本体)

(3)

あるだけでなく、オバマ政権の今後を読み解く手がかりを広範に提供している。

辰巳由紀によるオバマ政権発足後のシンクタンクの人材移動分析(第

2章)

、渡部恒雄による 日本関連シンクタンクの現状(第

11章)

、植木(川勝)千可子による対中政策に関するシンクタ ンクの詳細と報告書分析(第

12

章)は、いずれも個別の情報として貴重な価値があるのみなら ず、オバマ政権の日米および米中関係の動向と照らすことで、政策立案過程におけるシンクタ ンクの役割の理解に具体性を与えている。高畑昭男によるオバマ論やティーパーティーについ ての論壇誌の論調分析(第

4

章)のほか、前嶋和弘によるケーブル局やトークラジオ番組など メディアの最新動向分析(第3章)も、2010年中間選挙で下院を奪還した共和党の攻勢とオバ マ政権の今後を占ううえで有意義だ。また、西川賢によるオバマ政権誕生に寄与した政治イン フラとしてのコミュニティー組織研究は、2012年大統領選におけるオバマ再選をめぐる支持層 分析の参考になる(第

8章)

。さらに、自らを「ヨシュア世代」と位置づけたオバマ大統領のも とで「新しい福音派」が芽吹いている現状も中山俊宏により指摘されるが、オバマ以後の宗教 と政治の関係を解き明かすうえで欠かせないヒントとなろう。個別の政治インフラに相当程度 詳しい専門家にとっても、全体像を理解するうえで、またオバマ政権中間分析としても必読と なるだろう。

加えて第3に、本書の個性的執筆陣についても付言したい。本研究はワシントンで実際にシ ンクタンクに勤務してきた研究員、メディアや民間企業においてワシントンをウォッチしてき た専門家、若手からベテランまで一線のアメリカ政治および安全保障、国際関係論の研究者に よる、2年間に及ぶ財団法人日本国際問題研究所での研究プロジェクトが土台である。学際的 な研究会の過程で搾り取られた濃密な成果であり、煮詰められた議論による各論文の精度とア メリカでの現地調査による情報鮮度は、本研究の資料的価値を確かなものにしている。

編著者の久保が述べるように本書は「新しい試み」であるが、それだけにアメリカの政治イ ンフラをめぐる継続的、派生的な追加研究の必要性も示唆している。

1

に、シンクタンクでもメディアでも、インフラとしての強度が組織的な中長期性を有す るものか、特定の研究員あるいはコラムニストや番組ホストのカリスマ性に依拠する属人的性 質に比重があるのかは、保守系・リベラル系問わずシンクタンクやメディアによって個別事情 が異なるようにみえる。例えば、本書でも日米貿易摩擦と連動したシンクタンクの活況が論じ られているが、特定の政策分野や地域に強い研究員、特定の政権で勤務経験を有するメディア 出演者の影響力は、政治動向にともなう流動性も帯びており、詳細かつ継続的な観察が今後も ますます期待される分野かもしれない。

2

に、本書で論じられている個別インフラの相互の連関性や重複部分を扱う研究の可能性 である。政治インフラとしてのコミュニティー・オーガニゼーションをはじめて体系的に論じ た本書の意義は大きいが、それを見事成し遂げた西川賢が事例研究として果敢に取り組んだ

ACORN

は、黒人アウトリーチと表裏一体の人種的少数派の政治インフラである(第

8

章)。他

方で、西川も本書で言及しているガマリエル協会などはカトリック教会系組織である。「宗教 左派」運動と連動してカトリック・アウトリーチとして機能する宗教インフラとしての性格も、

書  評

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コミュニティー・オーガニゼーションには併存する。インフラの分野横断性から紐解くアメリ カ政治の重層的性格は、今後も事例研究に厚みを付与しよう。

3

に、政治インフラ研究はその性質から首都ワシントンと周辺に分析が集中するが、他方 でローカルのインフラへの目配りも付随的研究としての可能性を秘めているかもしれない。例 えば、大統領選挙の予備選過程で重要なアイオワ党員集会においては、本書で登場する全国メ ディアや論壇誌に加え、アイオワ州のローカルの媒体やローカルの保守系・リベラル系のブロ ガーが特異な影響力を及ぼす。イシューによっては特定の州や地域の利益やイデオロギーを代 弁した大学やメディアが、アメリカ政治全体に影響を還流させることもある。非ワシントンの ローカルレヴェルにおけるインフラの分析にも、一定の付随的意義が認められるかもしれない。

しかし、いずれの派生的あるいは付随的研究も、本書が提起したインフラ分析の成果が土台 となることは言うまでもない。政治的インフラの全体像を提示した本書は、文字どおりわが国 におけるアメリカ政治理解の「インフラの書」となることは間違いない。

書  評

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わたなべ・まさひと 北海道大学准教授

参照

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