【解 説 】
天然抗酸化物質の吸収 と代謝
宮澤 陽夫, 仲 川清隆, 浅井 明*
天 然 抗酸 化 物 質 に よ る癌 細 胞 の 増 殖 抑 制 や 免疫 調節 作 用 な ど, 生体 機能 性 の研 究が盛 ん で あ る. な かで も, フラボ ノイ ドは植物 界 に広 く分布 し, 食 品か ら1日 に数百 ミリグ ラムが 摂 取 され る と見 積 も られ るた め, 健 康 志 向 の 高 ま り と と も に, その潜在 的 な生理 作用 の発 見 を含 め て大 きな関心 が 寄 せ られて きた. それ に伴 い, 食 品成 分 と して摂取 した フ ラボ ノ イ ドな どの 天然抗 酸化 物 質が ヒ トの体 内 で, どの よ うに消化 吸 収 され代謝 を受 けて, 血液 そ して抹 消 の組織 細胞 に まで運 ばれ るのか につ いて の研 究が 著 し く進 展 した. その 吸収 と代 謝 は基 本的 に, 抗 酸化 物 質の 分子 量, 親水 性, カテ コール構 造 の有 無, 配糖体 か否 か で大 き く異 な る ことが 明 らか に され た.
食 品 成 分 の生 体 調 節 機能 に関 す る研 究 が, か つ て ビ タ ミ ンP (抗 毛 細 血 管 透 過 性 因子)*1と 呼 ば れ た こ との あ る フ ラ ボ ノ イ ド (flavonoids) を は じ め とす る天 然 抗 酸 化 物 質 につ い て, 盛 ん に行 な わ れ て きて い る. しか し, そ の 吸収 と体 内動 態 に つ い て は, トコ フ ェ ロ ー ル, ア ス コ ル ビ ン酸, カ ロ テ ノ イ ドに比 較 す る と未 解 明 の 点 が 多 い. フ ラ ボ ノ イ ドの 基 本 的 な作 用 に は, 試 験 管 試 験 で よ く調 べ られ て い る抗 酸 化 性 と と も に, ホ ス ホ リパ ー ゼ,
リ ポ キ シ ゲ ナ ー ゼ や シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ な どの酵 素 阻 害, サ イ トカ イ ン産 生 の促 進 と抑 制 に よ る免 疫 調 節, ア ゴニ ス トや ア ン タ ゴニ ス ト と して の ホ ル モ ン の 作 用 調 節, 癌 細 胞 の 増 殖 抑 制 や ア ポ トー シ ス の 誘 発 と正 常 細 胞 へ の 分 化 誘 導 作 用, 制 菌 ・殺 菌 作 用 な どが あ る. そ こ で, 食 品 成 分 と して 摂 取 した フ ラ ボ ノイ ドな どの 天 然 抗 酸 化 物 質 が, ヒ トの 体 内 に, 消 化 管 を経 て どの程 度 取 り 込 まれ る の か が, その 生 体 機 能 を考 え る上 で 焦 点 に な っ て き た.
フ ラ ボ ノイ ドの 化 学 構 造 と摂 取 量
植 物 性 成 分 は 大 き く10群 に 分 け る こ と が で き る (表1). 酸 素 複 素 環 化 合 物 (oxygen heterocyclic com‑
pounds) の 中 に分 類 され る フ ラ ボ ノ イ ドは, 2つ の フ ェ ニ ル 基 (A環 とB環) が 炭 素 原 子3個 を介 して 結 合 した 基 本 骨 格 を もち (図1), Geissman と Hinreiner に よ り 名 づ け られた(1). 中央 の ピ ラ ン環 (C環) の酸 化 状 態 と置 換 基 の 違 い に よ り, カ テ キ ン, ア ン トシ ア ニ ン, フ ラ ボ
Biodynamics of Natural Antioxidants in Humans
*Teruo MIYAZAWA, Kiyotaka NAKAGAWA, Akira ASAI, 東 北 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科
*1ビタ ミンPは 毛細 血 管 の 浸 透性 (permeability) を調節 す る作 用 にち な んで 名 づ け られ, フラ ボ ン に二 糖 の ル チ ノー ス (グル コー ス とラ ム ノー ス か らな る) が 結 合 した配 糖 体 で あ るヘ ス ペ リジ ン, エ リオ ジ ク チ ン, ル チ ン, ナ リン ギ ン な どを 当時 は指 した.
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ン, フ ラ ボ ノ ー ル, フ ラバ ノ ン, カ ル コ ン, イ ソ フ ラ ボ ンな どに分 類 され る. カ テ キ ン類 を除 い て, ア ン トシ ア ニ ン(シ ア ニ ジ ン グ ル コ シ ドな ど), ケ ル セ チ ン グ ル コ シ ド, ゲ ニ ス チ ン (ゲ ニ ス テ イ ン グ ル コ シ ド) な どの よ う に, 天 然 に は そ れ ぞ れ 配 糖 体 と して 存 在 す る もの が 多 い (図1). 紅 茶 に含 まれ て い る テ ア フ ラ ビ ン な どの よ う な
カ テ キ ンの 酸 化 重 合 物 や, ワ イ ン の貯 蔵 中 に カ テ キ ンが ア ル デ ヒ ド と重 合 反 応 して 生 じた プ ロ ア ン トシ ア ニ ジ ン も フ ラ ボ ノ イ ドの範 疇 に入 る. これ ら の フ ラ ボ ノ イ ドは, 通 常, A環 の5, 7位 やB環の3', 4'位 に ヒ ドロ キ シル 基 (フ ェ ノ ー ル性 水 酸 基)を もつ の で, ポ リフ ェ ノ ー ル と も 呼 ばれ て い る.
フ ラ ボ ノイ ドは, 植 物 の 葉, 茎, 果 実, 種 実, 花 弁 な ど に約4,000種 類 以 上 もの存 在 が 確 認 され て お り, カ ロ テ ノ イ ドと並 ぶ 植 物 性 色 素 の 一 大 化 合 物 群 で あ る. 日常 摂 取 す る食 品 の 中 に も多 種 多様 な形 態 で 含 まれ て い る の で, ヒ トで は食 品成 分 と して1日 に数 十 か ら数 百 ミ リグ ラ ム を摂 取 して い る と見 積 も られる(2). こ の摂 取 量 は, 他 の 抗 酸 化 ビ タ ミ ンの1日 当 た りの平 均 摂 取 量 (ビ タ ミ
ンA約0.6mg, カ ロ テ ノ イ ド約1mg, ア ス コ ル ビ ン酸 約100mg, α‑ト コ フ ェ ロ ー ル 約15mg) に ひ け を と ら な い. 摂 取 量 か ら判 断 す れ ば, 私 達 の食 事 を介 して 摂 取 され て い る抗 酸 化 成 分 の 中 で フ ラ ボ ノ イ ド も主 要 な も の の 一 つ で あ る とい え る. しか し, そ の穏 和 な生 理 作 用 の た めか 薬 理 研 究 の対 象 に は な りに く く, ま た これ まで 特 異 的 で 高 感 度 な分 析 法 の 開発 が 遅 れ た こ とな ど に よ り, フ ラ ボ ノ イ ドの 吸収 と代 謝 は あ ま り詳 細 に は検 討 され て 表1 ■植 物 成 分 の 分 類 と フ ラ ボ ノ イ ド
図1 ■食 品 の 代 表 的 な フ ラ ボ ノ イ ドの 形 態 と分 布 量
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きて い な か っ た. 筆 者 らの研 究 室 で は食 品 フ ラ ボ ノ イ ド と して, 緑 茶 の カ テ キ ン (エ ピガ ロ カ テ キ ン‑3‑ガ レ ー ト; EGCg, エ ピガ ロ カ テ キ ン, エ ピ カ テ キ ン), 紅 茶 の テ ア フ ラ ビ ン とテ ア フ ラ ビ ン ジ ガ レー ト, ブ ドウ の ア ン トシ ア ニ ン(シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, シ ア ニ ジ ン‑3,5‑
ジ グ ル コ シ ド, デ ル フ ィニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, ペ チ ュニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, ペ オ ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, マ ル ビ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド), これ らか ら糖 が とれ た ア ン トシア ニ ジ ン(シ ア ニ ジ ン, デ ル フ ィニ ジ ン) (図1), さ らに フ ラ ボ ノイ ドで は な い が カ レー 粉 な どの 黄 色 の 色 素 成 分 で フ ェ ノー ル 性 化 合 物 で あ る クル ク ミ ン (図7) に つ い て, ヒ トを含 め た動 物 体 内 で の 吸 収 と代 謝 を これ まで 調 べ て き た.
動 物 組 織 中 の フ ラ ボ ノ イ ドの 分 析
1970年 か ら1980年 代 の前 半 に は, Griffiths(3)と Hac‑
kett(4)が カ テ キ ン に つ い て, Lietti と Forni(5)は ア ン ト シ ア ニ ン に つ い て, そ れ ぞ れ 動 物 体 内 へ の 吸 収 を 放 射 性 同位 元 素 な ど を用 い て検 討 して い る. しか し, 体 内 に 取 り込 ま れ た フ ラ ボ ノ イ ドの 構 造 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 か っ た. そ の 後, 紫 外 可 視 検 出 器 を備 えた 高 速 液 体 ク ロ マ トグ ラ フ (UV/VIS‑HPLC) を使 用 して, 動 物 組 織 中 の フ ラ ボ ノ イ ド分 析 が 行 な わ れ た. このUV/VIS‑
HPLC法 で は, ア ン トシ ア ン の よ う に強 い特 徴 的 な紫 外 可 視 部 吸 収 (極大 吸収500〜550nm) を もた な い 限 り, 通 常 の フ ラ ボ ノ イ ドの 分 析 で は ベ ン ゼ ン 環 由 来 の280 nm付 近 の 吸 収 波 長 を用 い た検 出 を せ ざ る を 得 な い. 筆 者 らの 経 験 で は, 実 際 にUV/VIS‑HPLC法 で 分 析 を行 な う と, こ の 吸収 波 長 を もつ 様 々 な 物 質 が血 液 な どの 生 体 試 料 中 に混 在 す るた め, フ ラ ボ ノイ ドの選 択 的 で 高 感 度 な検 出 が 困難 で あ っ た. 特 に この こ とは, 特 徴 的 な 紫 外 可 視 部 吸 収 を もた な い カ テ キ ン類 の 分 析 で は大 きな 障 害 に な っ た.
今 か ら100年 ほ ど前 に, フ ラ ボ ノイ ドの 中 で も特 に フ ェ ノ ー ル 性 水 酸 基 を多 く もつ い わ ゆ る ポ リ フ ェ ノ ー ル 類 が 酸 化 的 な条 件 下 で 発 光 (photon emission) す る とい う興 味 あ る現 象 が 報 告 され て い る(6). こ の 一 連 の 反 応 は Trautz‑Schorigin反 応(7)と 呼 ば れ, フ ラ ボ ノ イ ドが ア ル デ ヒ ドの共 存 下 で 過 酸 化 水 素 に よ り特 異 的 に酸 化 され て強 い 化 学 発 光 (chemiluminescence; CL) を呈 す る3 成 分 間 反 応 で あ る. た とえ ば, エ ピ ガ ロ カ テ キ ン‑3‑ガ レ
ー ト (EGCg) に ア セ トア ル デ ヒ ドと過 酸 化 水 素 を加 え る と, 著 し い化 学 発 光 が 観 測 され, 筆 者 らは こ こ に発 光 反 応 の 触 媒 と し て さ ら に 西 洋 ワ サ ビペ ル オ キ シ ダ ー ゼ を
加 え て 強 い 化 学 発 光 が 生 じ る よ う に し た. こ の 発 光 反 応 をHPLCの ポ ス トカ ラ ム の 検 出 部 に応 用 して, 既 存 の分 析 法 とは ま っ た く異 な っ た, フ ラ ボ ノイ ドに特 異 的 で 高 感 度 な 新 し いCL‑HPLCに よ る 定 量 法 を 開 発 し た(8).
こ のCL‑HPLC法 に よ る フ ラ ボ ノ イ ドの 最 少 検 出 量 は 約2pmol(EGCgで1ng)で, 緑 茶1杯 を飲 む程 度 で 血 中 に取 り込 まれ た カ テ キ ンの 定 量 が で き る こ とな ど, 既 存 の 定 量 法 と比 較 して 最 も高感 度 で あ り, 生 体 試 料 中
の フ ラ ボ ノ イ ド定 量 が 特 異 的 に 行 な え る こ とが わ か っ た. こ の分 析 法 に よ る ヒ ト血 漿 か らの カ テ キ ン の 回収 率 は 約85%で あ った. そ こで, この 分 析 法 と と もに 多 波 長 分 光 分 析 や 高 速 液 体 ク ロマ トグ ラ フ‑質 量 分 析 装 置 な ど を用 い て, 動 物 体 内 に吸 収 され 代 謝 さ れ た 天 然 抗 酸 化 物 質 の 構構造 解 析 を行 な った.
食 品 フ ラ ボ ノ イ ドの 消 化 管 か らの 吸 収 と体 内 循 環
天 然 抗 酸 化 物 質 で あ る食 品 フ ラ ボ ノ イ ドの, ヒ トに お け る消 化 管 か らの 吸 収 とそ の 後 の体 内 循 環 は, 食 品 の 他 の 栄 養 成 分 の そ れ と大 き な 差 は な い (図2). 基 本 的 に は, 経 口摂 取 した フ ラ ボ ノ イ ドな どの 天 然 抗 酸 化 物 質 は,
図2 ■食 品 フ ラボ ノイ ドの吸収 代謝 経 路
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胃, 小 腸, 結 腸 な ど消 化 管 粘 膜 に大 部 分 は分 布 す る. し か し, そ の多 くは食 事 の た び に起 き る消 化 管 粘 膜 の 脱 離
と と も に, ほ とん どは 糞 中 に排 泄 され る. そ の う ち の一 部 が 消 化 管 か ら吸 収 され, 腸 間膜 静 脈 を通 り, 門脈 を経 て肝 臓 に運 ば れ る. フ ラ ボ ノ イ ドの イ オ ン性 や 極 性 な ど 構造 的 な 性 質 に よ っ て は, 摂 取 され た うち の 一 部 が 胃 か ら吸収 され る もの(カ テ キ ン, ア ン トシ ア ニ ン, ゲ ニ ス テ イ ン な ど)も あ る.
肝 臓 の 中 で フ ラ ボ ノ イ ドは, フ ェ ー ズII代 謝 と呼 ば れ る グ ル ク ロ ン 酸 や 硫 酸 との 抱 合 化 反 応 と メ チ ル 化 反 応 (メ チ ル 抱 合 反 応) を受 け る. ま た, そ の 構 造 に よ っ て は, よ り親 水 性 を高 め るた め に フ ェ ー ズI代 謝 と呼 ば れ る ミ ク ロ ソ ー ム のP450酵 素 (モ ノ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ な ど) に よ るB環 の 水 酸 化 反 応 を 受 け る 可 能 性 も あ る. し か し, も と も と親 水 性 の 高 い 構 造 を もつ カ テ キ ン な ど は そ の一 部 が 天 然 型 (遊 離 型) と して, 肝 臓 で な ん ら修 飾 を受 け ず に血 流 に入 る場 合 が あ る. な お, フ ラ ボ ノ イ ドの構 造 に よ って は, 肝 臓 の他 に消 化 管 粘 膜 細 胞 や 腎臓 な どの 末 梢 組 織 に お い て も抱 合 化 反 応 を受 け る (カ テ キ ン, ケ ル セ チ ン な ど). 肝 臓 で 抱 合 化 を受 けた フ ラ ボ ノ イ ドは, そ の後 血 流 に入 り, 末 梢 組 織 に移 行 す るが, 最 終 的 に は 腎臓 を経 て 尿 中 に排 泄 され る. 一 部 は肝 臓 か ら分 泌 さ れ る胆 汁 液 に含 まれ た 形 で 十 二 指 腸 内 に注 入 さ れ, 糞 中 に 排 泄 され る. ご く一 部 は腸 肝 循 環(enterohepatic circu‑
lation)を す る可 能 性 が あ る が, これ も最 後 に は尿 や 糞 中 に排 泄 され る こ とに な る.
カ テ キ ンの 吸 収 と体 内動 態
緑 茶 に含 まれ て い る カ テ キ ン に は, エ ピ ガ ロカ テ キ ン‑
3‑ガ レー ト (EGCg, 図1), エ ピガ ロ カ テ キ ン, エ ピカ テ キ ン‑3‑ガ レ ー ト, エ ピ カ テ キ ン な どが あ る. な か で も, EGCgは 緑 茶 カ テ キ ン の50〜60%を 占 め, 分 子 内 に フ ェ ノー ル 性 水 酸 基 を8個 と数 多 く もつ の で, カ テ キ ン の 中 で も抗 酸 化 作 用 に基 づ く広 範 な 生 理 活 性 が 期 待 さ れ, また そ の 活 性 が最 も強 い こ とが 知 られ て い る.
健 常 者 が 緑 茶1杯 な い し2杯 程 度 の カ テ キ ン (EGCg と して 約100mg) を経 口的 に摂 取 す る と, 1〜2時 間 後 に 血 漿 の 遊 離 型 (天 然 型) EGCgの 濃 度 は最 大 で140〜230 ng/ml (0.3〜0.5nmol/ml) に な り, そ の 後 漸 減 して, 12時 間 後 に は4分 の1く ら い の 濃 度 を 維 持 す る場 合 も
あ るが, ほ と ん ど は 血 中 か ら消 失 する(9,10)(図3). こ れ は, た とえ ば 配 糖 体 で あ る ケ ル セ チ ン グ ル コ シ ドや ゲ ニ ス チ ン (ゲ ニ ス テ イ ン‑7‑グ ル コ シ ド) に比 べ る と極 大 吸 収 時 間 が 早 く, カ テ キ ン は速 や か に体 内 に 吸 収 さ れ 血 中 に移 行 で き る フ ラ ボ ノ イ ドで あ る とい え る. ま た, カ テ キ ン の 摂 取 量 が 増 え る と, そ の血 中 濃 度 も高 くな る傾 向 に あ る. この遊 離 型 (天 然 型) カ テ キ ン の 濃 度 は, 血 漿 の 還 元 型 グ ル タ チ オ ン (0.3nmol/ml) や β‑カ ロ テ ン (0.4〜0.9nmol/ml) の濃 度 に ほ ぼ 匹 敵 し, ビ タ ミンA の2分 の1, α‑ト コ フ ェ ロー ル の100分 の1, ア ス コル ビ ン酸 の500分 の1程 度 で あ っ た. ち な み に, ヒ トの 血 中 の遊 離 型EGCg濃 度 の 時 間 変 化 か ら計 算 す る と, 消 化 管 か ら体 内 へ の カ テ キ ン の 吸 収 量 は摂 取 量 の5〜8%く ら
図3 ■主 な 食 品 フ ラ ボ ノ イ ドの 吸 収 部 位, 吸 収 量 お よ び 極 大 吸 収 時 間 との 相 互 関 係
*腸内細 菌 に よ るア グ リコ ン生 成, 環 開 裂, 脱 水 反応 な ど
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い で あ り, そ の う ち血 中 に移 行 したEGCgの 量 は, 摂 取 量 の お お よそ2%程 度 と見 積 も られ た(図3).
ラ ッ トに 緑 茶 カ テ キ ン (EGCg) を経 口 投 与 す る と, EGCgは 主 に小 腸 な どの 消 化 管 の 粘 膜 部 位 に 最 も多 く分 布 して, つ い で 肝 臓 と血 漿 か ら検 出 され, 極 微 量 な が ら 脳 か ら も検 出 さ れる(11). この よ う に カ テ キ ン が 消 化 管 粘 膜 に分 布 しや す い こ と は, そ の 主 な作 用 部 位 の 一 つ が 消 化 管 組 織 で あ る こ と を示 して い る. ト リチ ウ ム 標 識 した
EGCg([3H]EGCg) の マ ウ ス へ の 投 与 実験 で は, そ の 放 射 活 性 が 消 化 管 や 肝 臓, 脳 の み な らず, 肺, 心 臓, 腎臓, 骨, 皮 膚 な ど幅 広 い組 織 か ら検 出 さ れ て い る. 緑 茶 を飲 用 した ヒ トの 臨 床 標 本 で は, 血 漿, 門脈 血, 胆 汁, 胃粘 膜, 大 腸 粘 膜 へ のEGCgの 分 布 が確 認 で きる (表2). た だ, そ の体 内 分 布 量 に は大 き な個 人 差 が 認 め られ る. な お, こ こで 分 析 した 門 脈 血 は 胃 と門脈 を結 ぶ 右 胃 大 網 静 脈 血 な の で, こ こか らカ テ キ ンが 検 出 され た こ と は, カ テ キ ン の 一 部 が 小 腸 上 部 の 他 に 胃 か ら も吸 収 され て い る 可 能 性 を 示 す もの で あ っ た. これ は, カ テ キ ンの極 大 吸 収 時 間(飲 用 して か ら血 中 極 大 値 を示 す まで の 時 間)の 速 い こ との 理 由 の 一 つ で もあ る. 最 近, イ ソ フ ラ ボ ン も胃 か ら吸収 され る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る(24).
結 局, 摂 取 した 緑 茶 カ テ キ ン の 大 部 分 は消 化 管 粘 膜 に 分 布 して, そ の脱 離 と と も に糞 中 に排 泄 され る. 消 化 管 粘 膜 へ の カ テ キ ン分 子 の 取 り込 み は, Trautz‑Schorigin 反 応 に よ る カ テ キ ン 由 来 の 化 学 発 光 の2次 元 反 射 型
回析 格 子 を用 い た 高 感 度 スペ ク トル 分 析 に よ って 検 討 し た(12). カ テ キ ン を投 与 した ラ ッ トの 小 腸 粘 膜 細 胞 が カ テ キ ン に特 異 的 な630nmの 極 大 発 光 波 長 を 示 す こ とか ら, 粘 膜 細 胞 へ の カ テ キ ン の 取 り込 み が 示 唆 さ れ た. 摂 表2 ■緑 茶 カ テ キ ンEGCg(250mg) を 飲 用 し た ヒ ト体 内 の
游 離 型EGCg濃 度
*胃と門脈 を結 ぶ右 胃大 網 静脈 血
**未 分析
平 均 値 ±S.D. (標準 偏 差)
図4 ■食 品 フ ラ ボ ノ イ ドの 構 造 に よ る抱 合 化 と メ チ ル 化 の 相 違
*グル ク ロ ン酸 お よ び硫 酸 抱合 体 として
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取 した カ テ キ ン の5〜8%は 腸 管 (お そ ら く胃 と小 腸 上 部) か ら比 較 的 短 時 間 の うち に吸 収 され, そ の 一 部 が 吸 収 の 際 に粘 膜 上 皮 細 胞 で 抱 合 化 反 応 (グ ル ク ロ ン酸 抱 合 と硫 酸 抱 合) を受 け る (図3, 図4). 門 脈 血 を介 して肝 臓 に運 ば れ た カ テ キ ン は そ こで さ らに グ ル ク ロ ン酸 や硫 酸 に よ る抱 合 反 応 を受 け, 一 部 は遊 離 型 や 抱 合 型 と して 血 流 に入 り, 末 梢 組 織 まで 運 ばれ る. 遊 離 型 と抱 合 型 の 一 部 は, と も に肝 臓 か ら分 泌 され る胆 汁 液 に含 まれ た形 で腸 肝 循 環 す る可 能 性 も あ る (図2). 血 流 中 の カ テ キ ン は 腎臓 を経 て, 最 終 的 に尿 中 に排 泄 され る と考 え られ る.
ヒ ト血 中 カ テ キ ン の遊 離 型: 硫 酸 抱 合 型: グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 型 の比 は1:3:1と 従 来 は推 定 さ れ て い た が, そ の 比 はカ テ キ ンの 摂 取 量 で 大 き く変 化 して, 基 本 的 に は体 内 の 硫 酸 プ ー ル に規 定 され, 通 常 は2〜3:2〜3:1で あ
る こ とが わ か った.
この よ うに, カ テ キ ンの 場 合 は生 理 活 性 の強 い 遊 離 型 で 存 在 す る比 率 が, 他 の フ ラ ボ ノ イ ドの 場 合 よ り高 い の が特 徴 で あ る. ケ ル セ チ ン な ど多 くの フ ラ ボ ノ イ ドは, 動 物 体 内 で 大 部 分 が抱 合 化 され て し まい, 遊 離 型 は痕 跡 程 度 し か見 い だ せ な い 場 合 が 多 い. 一 方, 後 述 す る よ う
に, カ テ キ ン の 中 で もEGCgや エ ピ ガ ロ カ テ キ ン はB環 に3個 の水 酸 基(ピ ロ ガ ロ ー ル 構 造)を もつ の で, カ テ コ ー ル 構 造 を 基 質 に す る 肝 臓 の カ テ コ ー ルO‑メ チ ル トラ ンス フ ェ ラ ー ゼ に よ る メ チ ル 化 を受 け に くい. これ は肝 臓 の 薬 物 代 謝 系 へ の カ テ キ ンの 影 響 を 考 え る上 で 重 要 で あ る. した が っ て, ガ ロ イ ル(没 食 子 酸)基 を もつ カ テ キ ン と もた な い カ テ キ ンで は, そ の 代 謝 と作 用 が 大 き く違 う. 一 般 に 天 然 フ ラ ボ ノ イ ドの 抗 酸 化 的 な性 質 は, フ ェ ノー ル 性 水 酸 基 の数 が 減 れ ば 弱 ま る. 体 内 で代 謝 さ れ 生 じた 抱 合 体 や メ チ ル化 体 の抗 酸 化 能 力 は, お そ ら く遊 離 型 (天 然 型) よ り も低 い と考 え られ る. 体 内 で遊 離 型 と して も比 較 的 多 く存 在 で き るEGCgは, そ の抗 酸 化 作 用 を は じ め とす る生 理 活 性 を有 効 に発 揮 して い る可 能 性 が 高 い.
カ テ キ ンの 血 中 抗 酸 化 作 用
血 中 過 酸 化 脂 質 の増 加 は, 体 内 で の種 々 の細 胞 障 害 の 発 生 を反 映 し, 疾 病 に 結 び つ く場 合 が 多い(13,14). 血中 で 脂 質 は, リポ 蛋 白質 粒 子 の 構 成 分 と して ア ポ 蛋 白質 と と も に存 在 す る. この リ ポ蛋 白 質 粒 子 の 表 面 は, 両 親 媒 性 の コ リン型 リ ン脂 質 の 単 分 子 層 で 覆 わ れ て い る. し た が って, 血 中 の 過 酸 化 リ ン脂 質 の 増 加 は 酸 化 変 性 リ ポ蛋 白 質 の 増 大 を 意 味 し, また 体 内循 環 に お け る酸 化 ス ト レス の 増 加 の 指 標 に な る(25). 一 般 に, 健 常 者 の 血 漿 の 過 酸
化 リ ン脂 質 量 は, 0.03〜0.25nmol/mlの 範 囲 に あ る.
緑 茶 カ テ キ ン (EGCg) を摂 取 す る と, 血 中 の 遊 離 型 カ テ キ ン濃 度 の増 加 と と も に過 酸 化 リ ン脂 質 は減 少 し, 両 者 に は 逆 相 関 が認 め られ る (図5). カ テ キ ン を摂 取 した ヒ
トの 約80%で この よ う な過 酸 化 脂 質 の低 下 が 観 察 され, 飲 用1〜3時 間 後 に 最 も低 値 を示 す が, 24時 間 後 に は ほ
ぼ も との 過 酸 化 脂 質 レベ ル に も どる(15). しか し, 過 酸 化 脂 質 が 血 中 で皆 無 に な ら な い と こ ろが お も し ろ く, ご く 微 量 の 脂 質 ヒ ドロペ ル オ キ シ ドの 生 体 に と って の必 須 性
が考 え られ る. た と え ば, 体 内 で 常 に一 定 の 抗 酸 化 酵 素 の発 現 を維 持 す る た め に も, これ は必 要 な の で あ ろ う.
試 験 管 内 で血 漿 を過 酸 化 す る と, は じめ にカ テ キ ンが 減 少 し, つ い で カ ロ テ ンや トコ フ ェ ロ ー ル が 減 り, そ れ と と も に過 酸 化 脂 質 の 蓄 積 が み られ る. カ テ キ ン の存 在 は血 液 の 抗 酸 化 能 を高 め, これ に よ っ て緑 茶 の 飲 用 が 動 脈 硬 化 症 の進 展 の 予 防 に役 立 っ て い る可 能 性 が あ る. 血 中 の この よ うな 微 量 の カ テ キ ン に よ る抗 酸 化 的 な働 きの 機 構 につ い て は大 い に興 味 の もた れ る と こ ろで あ り, さ らに 精 密 に検 討 す る必 要 が あ る. な お, 化 学 発 癌 剤 に よ る大 腸 癌 ラ ッ トの 実 験 で は, カ テ キ ン投 与 で 大 腸 癌 の発 生 が抑 制 さ れ, こ の と き大 腸 粘 膜 の リン脂 質 の 過 酸 化 が 有 意 に 抑 え られ る こ とが 明 らか に さ れ て いる(16). さ ら に最 近 は, EGCgに よ る血 管 内 皮 細 胞 の 増 殖 抑 制(27), 血 管 新 生 の 阻 害(27), そ し て癌 細 胞 の テ ロ メ ラ ー ゼ 阻 害(28)
な ど も明 らか に され, 注 目 され て い る.
テ ア フ ラ ビン の 吸 収 と代 謝
紅 茶 に は テ ア フ ラ ビ ン ジ ガ レ ー ト, テ ア フ ラ ビ ン モ ノ ガ レー ト, テ ア フ ラ ビ ンが 含 ま れ て お り, な か で もガ ロ イ ル(没 食 子 酸)基 の 多 い テ ア フ ラ ビ ン ジ ガ レー トの 抗 酸 図5 ■緑 茶 カ テ キ ン 摂 取 後 の 健 常 人 の 血 漿 過 酸 化 脂 質 の 変 化
12時 間 の絶 食 後, EGCg 250mgを 摂取 し経 時 的 に血 漿 中 のEGCg とホス フ ァチ ジル コ リン ヒ ドロペ ル オ キ シ ド (PCOOH) を定 量 し た.
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化 作 用 が 最 も強 い. この テ ア フ ラ ビ ン ジ ガ レー ト (図1) を ラ ッ トに経 口 投 与 した が, 血 中 の テ ア フ ラ ビ ン ジ ガ レ ー トや その 抱 合 体 は い ず れ も検 出 限 界 以 下 で あ り, ほ と ん ど検 出 で きな か っ た. テ ア フ ラ ビ ン は カ テ キ ン に くら べ る と動 物 体 内 に は吸 収 され に く く, テ ア フ ラ ビ ンの 比 較 的 大 き な分 子 量(EGCgの 約2倍)が 吸 収 に影 響 して い る と思 わ れ る. テ ア フ ラ ビ ン の生 体 機 能 は, 体 内 よ りむ し ろ消 化 管 の管 腔 内 で の抗 炎 症 や制 菌 作 用 な どの働 きが 大 きい. テ ア フ ラ ビ ン の 一 部 に つ い て は消 化 管 内 で 分 解 され, そ の分 解 物 が わ ず か で は あ るが 吸 収 され て い る可 能 性 もあ り, そ の 生 理 機 能 は な お期 待 さ れ る.
ア ン トシア ニ ンの 吸 収 と代 謝
ア ン トシ ア ニ ン は, 天 然 に は グ ル コ ー ス な どの糖 が 結 合 した 配 糖 体 とし て存 在 す る (図1). そ の ア グ リ コ ン は ア ン トシ ア ニ ジ ン と呼 ば れ, B環 の 水 酸 基 の 数 が1個 の ペ ラル ゴ ニ ジ ン, 2個 の シ ア ニ ジ ン, そ し て3個 の デ ル フ ィニ ジ ンの3系 統 に 分 け られ る. この 中 で, 天 然 に最 も多 い の は シア ニ ジ ン類 で あ る. た とえ ば, ブ ドウ に は シ ア ニ ジ ン に グ ル コー ス が1つ 結 合 した シ ア ニ ジ ン‑3‑
グ ル コ シ ド(図1)が 多 く含 まれ て い る. ア ン トシア ニ ン の 中 で は シ ア ニ ジ ン グ ル コ シ ドの 抗 酸 化 力 が 比 較 的 強 い.
健 常 者 が シア ニ ジ ング ル コ シ ド (150mg; ブ ドウ ジ ュ ー ス2〜3杯 程 度 の 全 ポ リフ ェ ノ ー ル 量 に相 当)を 経 口摂 取 す る と, 0.02〜0.03nmol/mlの 濃 度 で 血 中 へ の 吸 収 移 行 が わ ず か に確 認 され る(17). この ア ン トシ ア ニ ンの 血 中 濃 度 は 当 初 の 予 想 よ り は る か に 低 く, ほ ぼ 等 量 の EGCgを 摂 取 し た と きの 血 漿EGCg濃 度 の 約10分 の1 以 下 で あ る. これ は, 報 告 さ れ て い る他 の フ ラ ボ ノ イ ド の ヒ ト血 漿 濃 度 (0.2〜1.0nmol/ml) と比 べ て も明 ら か
に低 い. ア ン トシ ア ニ ン は ヒ トの 体 内 に は 摂 取 量 の 1〜2%が 吸 収 さ れ る もの の, 血 中へ の 移 行 率 は き わ め て 低 い とい え る.
従 来 か ら, 配 糖 体 型 の フ ラ ボ ノイ ドは, 消 化 管 内 で 腸 内 細 菌 に よ る加 水 分 解 を受 け, 糖 が は ず れ た ア グ リ コ ン として 吸 収 され る と予想 され て きた. ア ン トシ ア ニ ン に っ い て も同様 に, 腸 内細 菌 で加 水 分 解 さ れ た ア グ リ コ ン が 吸 収 さ れ る とい わ れ て き た. 実 際 に, ル チ ン (ケ ル セ チ ンが 二 糖 ル チ ノ ー ス と結 合 した 配 糖 体) な どの フ ラ ボ ノイ ド配 糖 体 で は, あ る程 度 は ア グ リ コ ン に加 水 分 解 さ れ て か ら体 内 に吸 収 され る との報 告 が 過 去 に あ る. しか し, ア ン トシア ニ ン は 経 口摂 取 す る と胃 や 小 腸 上 部 か ら そ の ま まの配 糖 体 の型 で 比 較 的速 や か に 吸収 さ れ, 血 中
に は配 糖 体 の ま まで 存 在 し, ア グ リ コ ンで あ るア ン トシ ア ニ ジ ン と し て は 存 在 しな い こ とを筆 者 らは初 め て 明 ら か に した(17)(図3, 図4). これ は そ の後, 津 田 ら(26)によ って も確 認 され た. この こ とは, シ アニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド と同様 に, 糖 が1つ 結 合 して い る デル フ ィニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, ペ オ ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド, ペ チ ュニ ジ ン‑3‑
グ ル コ シ ド, マ ル ビ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドや, 糖 を2つ も つ シア ニ ジ ン‑3,5‑ジ グ ル コ シ ド, シ アニ ジ ン‑3‑ザ ン ブ ビ オ シ ドに お い て も同 様 に確 認 され た. す な わ ち, 動 物 の 体 内 で ア ン トシ ア ニ ン は, 従 来 言 わ れ て き た よ うな 糖 が はず れ た ア グ リ コ ンで は な く, 天 然 型 の そ の ま まの 配 糖 体 の 形 で 吸 収 され 存 在 す るの で あ る. これ は, ア ン トシ ア ニ ン の グ リ コ シ ド結 合 が 腸 内 細 菌 の グ リコ シ ダ ー ゼ 作 用 を受 け に くい た め で あ り, そ の理 由 の 一 つ に ア ン トシ ア ニ ン の 特 異 な イ オ ン 性 の 化 学 構 造 が あ げ られ る (図 1).
シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドを 飲 用 した 後 の ヒ トや ラ ッ トの血 液 を, ス ル フ ァ タ ー ゼ や グ ル ク ロニ ダ ー ゼ で 処 理 して もそ の シ ア ニ ジ ン グ ル コ シ ドの 定 量 値 に変 化 は な い の で, カ テ キ ンの よ うに 一 部 が 硫 酸 や グル ク ロ ン酸 との 抱 合 体 とし て ア ン トシ ア ニ ンが 存 在 す る とい う こ とは な い と考 え られ る. つ ま り, ご く微 量 の 天 然 型(遊 離 型)ア
ン トシ ア ニ ン の 型 で しか ヒ トの血 中 に は存 在 しな い (図 4). 一 般 に抱 合 反 応 は, 体 内 に進 入 した 生 体 異 物 を抱 合 化 し て そ の 極 性(親 水 性)を 高 め, 体 外 に排 泄 しや す くす る生 体 防 御 反 応 の 一 つ で あ るが, ア ン トシ ア ニ ンの 場 合 は, 他 の フ ラ ボ ノ イ ドと比 べ て も と も と極 性 が 高 い イ オ ン性 分 子 で あ るた め に, 抱 合 化 の必 要 が な い の か も し れ な い. この 極 性 の 高 さ の ゆ え に, 経 口的 に摂 取 され た ア ン トシ ア ニ ン の 吸 収 は, ほ ぼ カ テ キ ンの 場 合 と同様 に摂 取 後1〜2時 間 の うち に速 や か に行 な わ れ る(図3).
肝 臓 に 運 ば れ た ア ン トシア ニ ン が血 中 に あ ま り移 行 し な い理 由 (ア ン トシ ア ニ ンの 血 中濃 度 が 低 い理 由) を探 る た め, シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドを 経 口投 与 し た ラ ッ トや ハ ム ス タ ー の肝 臓 と腎 臓 の 中 の 代 謝 産 物 の 検 索 を した. その 結 果, こ れ らの臓 器 の 中 に, 摂 取 した シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドの 他 に新 し い ア ン トシ ア ニ ン代 謝 物 を多 量 に見 い だ した. この代 謝 産 物 は, シア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドのB環 の3'位 の 水 酸 基 が メ チ ル 化 さ れ た ペ オ ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド と同 定 された(17). つ ま り, 摂 取 さ れ 体 内 に 移 行 した ア ン トシア ニ ン の 大 部 分 が, 肝 臓 や 腎 臓 な どで カ テ コー ルO‑メ チ ル トラ ン ス フ ェ ラー ゼ の 基 質 に な って メ チ ル 化 修 飾 を 受 け て い た た め に(図6), 血 中 の ア ン トシ ア ニ ン濃 量 は低 い の で あ った. ち な み に,
この よ うな シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドか らペ オ ニ ジ ン‑3‑
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グル コ シ ドへ の メ チ ル 化 反 応 は, 植 物 体 内 で の ア ン トシ ア ニ ン の 生 合 成 経 路 で は一 般 的 な 反 応 で あ るが, 生 理 的 な意 味 あ い は違 う に し ろ, これ が 動 物 体 内 で も起 きて い た とい う点 に興 味 が もた れ る.
この メ チ ル 化 体 で あ るペ オ ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ド は, シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドを飲 用 した ヒ トの 血 中 に は ほ とん ど検 出 され な い. した が っ て, 食 事 で 摂 取 さ れ た ア ン トシ ア ニ ン は, 肝 臓 で そ の 大 部 分 が メ チ ル 化 さ れ, 生 じた メ チ ル 化 ア ン トシ ア ニ ン は血 流 に は移 行 せ ず に, そ の ま ま選 択 的 に胆 汁 液 の 中 に 含 ま れ た 形 で 十 二 指 腸 の 管 腔 内 に 出 て 糞 と して 排 泄 さ れ る. そ して, メ チ ル 化 を ま ぬ が れ た少 量 の ア ン トシ ア ニ ンが, 未 変 化 の天 然 型 (遊 離 型) の ま ま血 中 に 流 入 す る. こ れ も最 終 的 に は, 腎臓 で 再 び メ チ ル 化 を受 けて 尿 中 に排 泄 され る. 肝 臓 や 腎臓 で 生 じ た ア ン トシ ア ニ ン代 謝 産 物 の 生 理 活 性 に つ い て は, 網 膜 な ど他 の 器 官 で の 機 能 も含 め て さ らに検 討 が 必 要 で あ る.
なお, ワ イ ン の ア ル コ ー ル濃 度 は動 物 体 内 へ の ア ン ト シア ニ ン の 吸 収 に大 き くは影 響 し な い. 一 般 に, 赤 ワ イ ン1本 の ア ン トシ ア ニ ン含 量 は2〜8mgで あ り, 他 に カ テ キ ン な どの ポ リ フ ェ ノ ー ル 類 が200mgく ら い含 ま れ て い る. 赤 ワ イ ン を長 期 間 熟 成 す る とア ン トシ ア ニ ン と カ テ キ ン の 重 合 物 が生 じ る が, こ の重 合 物 の消 化 管 内 で の 分 解 や 吸収 につ い て は明 らか で な い. なお, 試 験 管 実
験 で は ア ン トシ ア ニ ン の酸 化 産 物 と して ア グ リ コ ン部 分 で あ る シ ア ニ ジ ン骨 格 が 環 開 裂 し た プ ロ トカ テ キ ュ酸 (protocatechuic acid, 3, 4‑dihydroxybenzoic acid) が 生 じ る. シ ア ニ ジ ン‑3‑グ ル コ シ ドを与 え た ラ ッ ト血 中 に は, プ ロ トカ テ キ ュ 酸 が 検 出 さ れ る との 報 告 が あ る(26).
ア ン ト シ ア ニ ン や ケ ル セ チ ン な どカ テ コ ー ル 構 造 を もつ 天 然 抗 酸 化 物 質 は, 前 述 の よ う に肝 臓 や 腎 臓 で メ チ ル 化 を受 け る (図6). こ のS‑ア デ ノ シル メ チ オ ニ ン (SAM) を メ チ ル 基 供 与 体 とす る メ チ ル 基 転 移 反 応 は, ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ンや ア ドレナ リン な どの 生 合 成, そ して 蛋 白質 や核 酸 の メ チ ル 化 に 関 わ る と と も に, メ チ オ ニ ンサ イ ク ル の 過 回転 (SAM/SAH比 の 低 下) に よ る ホ モ シ ス テ イ ンの 産 生 な ど複 雑 な他 の 代 謝 系 へ の 影 響 が か らん で くる. この メ チ ル 基 転 移 反 応 は発 癌 物 質 を解 毒 す る機 構 の 一 つ で も あ る の で, 過 剰 な カ テ コー ル 化 合 物 の 摂 取 はSAMを 消 耗 す る可 能 性 もあ る(18).
ケ ル セ チ ン とイ ソ フ ラ ボ ンの 吸 収 と代 謝 フ ラ ボ ノ ー ル 類 の ケ ル セ チ ン や イ ソ フ ラ ボ ン類 の ゲ ニ ス テ イ ン は, 天 然 に は 配糖 体 と して 存 在 して い る. た と え ば, ケ ル セ チ ン‑4'‑グ ル コ シ ドは玉 ネ ギ の フ ラ ボ ノ イ ドの 主 成 分 で あ り, ゲ ニ ス テ イ ン‑7‑グ ル コ シ ド(ゲ ニ ス 図6 ■カ テ コ ー ル 型 フ ラ ボ ノ イ ドの 肝 臓 に お け るメ チ ル 化 反 応
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チ ン と呼 ぶ) は大 豆 イ ソ フ ラ ボ ンの 代 表 で あ る (図1).
イ ソ フ ラ ボ ン は化 学 構 造 が エ ス トロ ゲ ン (女 性 ホ ル モ ン 様 物 質) に似 て い る の で, 癌, 心 筋 梗 塞, 骨 粗 鬆 症 の予 防効 果 な ど, エ ス トロ ゲ ン様 の作 用 が 注 目 され て い る.
ケ ル セ チ ンや イ ソ フ ラ ボ ン は カ テ キ ンや ア ン トシ ア ニ ン に比 べ る と体 内 に入 りや す い (摂取 量 の5〜20%) (図 3). 食 品 中 で これ らは配 糖 体 と して 存 在 して い る が, 消 化 管 腔, 特 に 小 腸 下 部 や 大 腸 の 内 容 物 (腸 内 細 菌) に あ る グル コ シ ダ ー ゼ の作 用 を受 け て, ほ とん どは ア グ リコ ン (ケ ル セ チ ンや ゲ ニ ス テ イ ン) と糖 に加 水 分 解 され て か ら吸 収 さ れる(19,20)(図4). 生 じた ア グ リ コ ン は, 吸 収 され る と きに 消 化 管 の粘 膜 上 皮 細 胞 で一 部 は抱 合 化 (グ ル ク ロ ン酸 抱 合 と硫 酸 抱 合) を 受 け, 門脈 を経 て肝 臓 に 入 る. 肝 臓 で さ ら に抱 合 化 さ れ, こ こで カ テ コ ー ル 構 造 を もつ ケ ル セ チ ン は メ チ ル 化(図6)さ れ る. した が っ て, ケ ル セ チ ン や ゲ ニ ス チ ン は血 中 で は大 部 分 が グ ル ク ロ ン 酸 や 硫 酸 との 抱 合 型 で 存 在 す る. ケ ル セ チ ン配 糖 体 や イ ソ フ ラ ボ ン は腸 内 細 菌 で グ リ コ シ ド結 合 が 加 水 分 解 さ れ て か ら吸 収 され る の で, 体 内 で の 極 大 吸収 時 間 は カ テ キ ンや ア ン トシア ニ ン に比 べ る と遅 い (図3). な お, フ ラ ボ ノイ ド骨 格 の 環 開 裂 (ring‑fission) に よ る分 解 反 応 の ほ とん どは腸 内 細 菌 の作 用 に よ る と考 え られ て い る. こ れ は, 無 菌 動 物 の 実 験 で加 水 分 解 され て い な い フ ラ ボ ノ イ ドグ リコ シ ドが そ の ま ま糞 中 に排 泄 さ れ る こ とか ら も 推 定 され る.
クル ク ミノ イ ドの 吸 収 と代 謝
香 辛 料 タ ー メ リ ッ ク の 黄 色 成 分 で あ る ク ル ク ミノ イ ド
は カ レー 粉 な ど に多 く, 主 成 分 は クル ク ミ ンで, 他 に わ ず か に デ メ トキ シ ク ル ク ミンや ビス デ メ トキ シ ク ル ク ミ ン が含 まれ て い る (図7). 抗 酸 化, 抗 炎 症 な どの 作 用 と と もに, ク ル ク ミン に よ る癌 細 胞 の ア ポ トー シ ス誘 導 活 性(21)や肝 臓 へ の 中 性 脂 肪 蓄 積 の 抑 制 効 果(22)が知 ら れ る. 経 口 投 与 実験 が あ ま り過 去 に な され て い な い が, ト リチ ウ ム 標 識 した ク ル ク ミン (0.6mg) を ラ ッ トに経 口 投 与 す る と, 72時 間 で 放 射 活 性 の89%が 糞 中 に, 6%は 尿 中 に 排 泄 さ れ る. フ ラ ボ ノ イ ドの 体 内へ の 吸収 率 と比 較 す る と, ク ル ク ミ ンの 吸 収 率 は あ ま り高 くな く, ア ン
トシ ア ニ ン程 度 (図3) と推 定 さ れ る. 筆 者 ら は最 近, ク ル ク ミ ン を経 口 投 与 した ラ ッ トの 血 中 に グ ル ク ロ ン酸 抱 合 体 と と もに, グル ク ロ ン酸 硫 酸 抱 合 体 の存 在 を確 認 し た(図8).
一 方, 水 素 添 加(還 元)さ れ た テ トラ ヒ ドロ クル ク ミ ン の グ ル ク ロ ン酸 抱 合 体 が, ク ル ク ミン を腹 腔 内 投 与 した 実 験 で ご く微 量 で は あ るが 報 告 され て い る(23). また, ク ル ク ミン は体 内 で ご くわ ず か で あ るが 分 解 して フ ェ ル ラ 酸 や フ ェル ラ 酸 メ タ ン を生 じて い る可 能 性 が あ る. テ ト ラ ヒ ドロ ク ル ク ミン は, 高 濃 度 の クル ク ミ ン を腹 腔 内投 与 や 静 脈 内 投 与 した 場 合 に体 内 に わ ず か に検 出 さ れ る が, 経 口投 与 で は ま った く検 出 され て い な い の で, ク ル ク ミ ンが 腸 管 吸収 さ れ る際 に還 元 され て テ トラ ヒ ドロ ク ル ク ミ ンが 生 成 す る と は考 え に くい. した が って, 体 内 に吸 収 され た ク ル ク ミ ンの 大 部 分 は抱 合 体 と して 存 在 す る(図9). ク ル ク ミン を摂 取 した と き に認 め られ る生 理 活 性 を もた らす 機 能 構 造 につ い て は, 今 後 さ ら に検 討 が 必 要 で あ る.
図7 ■ク ル ク ミ ノ イ ドの 構 造
図8 ■ラ ッ ト血 漿 の ク ル ク ミン のHPLCク ロマ トグ ラ ム ター メ リ ック抽 出 物(I: クル ク ミン73%, II: デ メ トキ シ クル ミ ン16%, III: ビス デ メ トキ シ クル ク ミ ン11%) 100mgを 経 口投 与
した ラ ッ トの1時 間 後 の 血 漿 を β‑グ ル ク ロニ ダ ー ゼ処 理 した も の. Xは クル ク ミン硫 酸 抱 合体.
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なお, 地 中 海 地 方 で は動 脈 硬 化 の発 症 率 が 低 い こ とか ら, この地 方 で 消 費 量 の 多 い バ ー ジ ンオ リー ブ 油 (搾油 の み で 得 られ 芳 香 が あ る) に含 まれ て い る低 分 子 の フ ェ ノー ル性 化 合 物 (図10) の生 体 抗 酸 化 作 用 に興 味 が もた
れ て い る. これ らの い くつ か は フ ラ ボ ノ イ ドや ク ル ク ミ ノ イ ドの 分 解 で も生 成 す るが, 経 口投 与 す る とウ サ ギ の 血 中 に 検 出 さ れ る の で そ の 生 理 的 な 影 響 も無 視 で き な い.
*
天 然 抗 酸 化 物 質 の 吸収 と代 謝 の 大 要 を ま とめ て み た.
い わ ゆ る 「日本 食(和 食)」 と その 飲 料 で あ る 「お 茶 」が, どれ だ け 日本 人 の 生 活 習 慣 病 や 老 人 病 の 予 防 に役 立 って きた の か, 欧 米 の 食 事 とそ の成 分 を考 え な が ら思 い め ぐ らす の もお も し ろ い. 今 後, さ ら に こ の分 野 の 研 究 の 進 展 が期 待 さ れ る.
図9 ■クル ク ミンの抱合 化, 環 元 お よび分解 反応
図10 ■バ ー ジ ン オ リー ブ 油 を与 え た ウ サ ギ の 血 中 に検 出 さ れ る フ ェ ノ ー ル 性 化 合 物
文 献
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