地球物理学(流体地球物理学分野) 予習課題1
これは、地球物理学(流体地球物理学分野)を履修するにあたって必要とな る気象学の基礎知識を復習するための課題です。必要に応じて気象学概説の講 義資料を参考にしてください。レポート用紙に解答し、流体地球物理学分野の 初回の授業の開始時までに提出してください。
問 1 以下の条件で、乾燥空気の密度[kg/m3]を有効数字 3 桁まで求めよ。ただ し、乾燥空気の気体定数をR287J/kg Kとし、理想気体の状態方程式を用いて よい。1 hPa=100 Paである点に注意せよ。
(1)気圧が1000 hPa、気温が300 K(約27℃)
(2)気圧が1000 hPa、気温が273 K(約0℃)
(3)気圧が700 hPa、気温が273 K(約0℃)
問 2 以下の条件のもとでは、鉛直上方に移動したとき、1 mにつき何 hPaの 割合で気圧が低下するか。有効数字 3 桁まで求めよ。ただし、空気は理想気体 であるものとし、静水圧平衡を仮定してよい。重力加速度は9.81 m/s2、気体定 数は287 J/kg Kとする。
(1)気圧が1000 hPa、気温が300 K(約27℃)
(2)気圧が1000 hPa、気温が273 K(約0℃)
(3)気圧が700 hPa、気温が273 K(約0℃)
問 3 スケールハイトが 8.0 km である等温大気を考える。地表面気圧が 1000 hPaの場合、気圧が250 hPaになるのは高度何kmのときか。有効数字2桁ま で求めよ。ただし、ln 2 = 0.693とする。
予習課題は、「予習課題1」と「予習課題2」の2種類があります。
両方に解答してください。
問 4 以下のような高層気象観測データについて、各気圧面での温位[K]を計算し、
小数点第1位まで求めよ。ただし、0 ℃は273.15 Kである。また、気体定数と 定圧比熱との比は、R/Cp 2/7としてよい。解答は表で示すこと。
気圧[hPa] 高度[m] 気温[℃]
1000 98 24.5 850 1515 18.3 700 3156 9.9 500 5885 -4.4 300 9722 -28.9
(データは気象庁のウェブサイトより)
問 5 北緯35°において、時速270 kmで走行する列車内にいる体重60 kgの人
にはたらくコリオリ力(水平成分のみ)の大きさを有効数字 2 桁で求めよ。た だし、地球の自転角速度を7.29×10-5 /s、sin 35°=0.547とする。
問 6 地衡風について以下の問いに答えよ。
(1)北緯30°において、気圧勾配が100 kmあたり1 hPaのとき、地衡風の 大きさを有効数字 2 桁で求めよ。ただし、地球の自転角速度を 7.29×10-5 /s、
空気の密度を0.5 kg/m3とする。
(2)(1)と同様の計算を北緯45°において行なえ。
問 7 水路を水が一様な速さ 0.1 m/sで流れている。水は上流に行くほど高温で あり、温度勾配の大きさは0.02 ℃/mである。つまり、流速はu0.1m/s、温度 勾配は 0.02℃/m
x
T である。水じたいが加熱、冷却されることはなく断熱的 であると仮定して、以下の問いに答えよ。
(1)流れていかないように水路に固定した水温計で水温を計測したら、水温 は1分間に何℃の割合で上昇するか。小数点第2位まで求めよ。
(2)この水路に流れに乗って移動する水温計を流して水温を計測したら、水 温は1分間に何℃の割合で上昇するか。小数点第2位まで求めよ。
問 8 3次元空間でのベクトルの外積について以下の問いに答えよ。ただし、3
次元空間における2つのベクトル
w v u
a と
z y x
b の外積abは、
vx uy
uz wx
wy vz
z y x
w v u b a
と定義される。
(1)
0 v u
u 、
0
0
のとき、uとuが直交することを示せ。
(2)一般に、
w v u
u 、
z y x
のとき、uとuが直交することを示せ。
ヒント:2つのベクトルの内積がゼロであれば、その2つのベクトルは直交す るといえる。
地球物理学(流体地球物理学分野) 予習課題2
これは、地球物理学(流体地球物理学分野)を履修するにあたって必要とな る連続体力学の基礎知識を復習するための課題です。この予習課題2は解答例 とともに配布しています。レポート用紙に解答し自分で答え合わせをしたうえ で、流体地球物理学分野の初回の授業の開始時までに提出してください。
問 1〔フックの法則とヤング率、ポアソン比〕
岩石のような弾性体の中にはたらく力を考えてみよう。このようなとき、し ばしば応力(stress)という言葉が出てくる。応力とは、面に対してはたらく単位 面積あたりの力のことである。最も分かりやすい例は圧力(pressure)であろう。
圧力は面に対して垂直にはたらく力であるが、一般に応力といえば、面に対し て平行にはたらく力、つまり面をこするような方向にはたらく力も含む。x-y平 面、y-z平面、z-x平面というそれぞれの面に対して、x成分、y成分、z成分 の力がはたらくことを考えると、応力を9個の(スカラーの)数の組で表すこ とができる。ベクトル(vector)は3個の数の組として表すが、応力は9個の数の 組として表す点に注意しよう。このような数の組のことをテンソル(tensor)とよ んでいる。応力を表すテンソルのことを応力テンソル(stress tensor)という。
さて、等方で均質な弾性体にはたらく応力を考えてみよう。等方均質弾性体 にはたらく応力テンソルijは、
k k
k ij i
j j i
ij x
u x
u x
u
(1)
と表せる。これは、テンソルで表現されたフックの法則(Hooke’s law)である。
ここで、応力テンソルijは弾性体中の微小体積の立方体の j方向の境界面にはた らくi方向の力である。uiは変位であり、ui/xjは歪みテンソル(strain tensor) とよばれる。歪みテンソルも9個のスカラーの数の組として表されるテンソル である。、はラメ定数(Lamé’s parameters)である。
ここで、(1)をi jの場合とi jの場合で場合分けして、書いてみよう。
応力テンソル 歪みテンソル
k k
k i
i
ii x
u x
u
2 (2)
が得られる。垂直応力は流体力学における圧力に対応する。
ii) i jの場合
せん断応力(shear stress)ij(i j)について、
i j j i
ij x
u x
u
i j
(3)が得られる。
(1)や(2)、(3)は、応力テンソルの各成分ijを歪みテンソルの各成分ui/xjの 関数として表している。これは、歪みが決まれば応力が決まることを表してい る。バネの伸び(歪みに相当)が決まれば力(応力に相当)が決まるのと同じ である。バネに関して言えば、逆に、力が決まれば伸びが決まると考えること もできる。同じように、応力テンソルの各成分が決まれば歪みテンソルの各成 分が決まると考えてみよう。ここでは、歪みテンソルの各成分ui /xjのうち、
特にi jの成分ui/xiに注目して、歪みテンソルui/xiを応力テンソルの各成 分ijの関数として表してみよう。
まず、(2)の各成分を書き出せば、
z w y v x u x
u
xx
2
z w y v x u y
v
yy
2
z w y v x u z
w
zz
2
(4)
となる。次に、(4)の3つの式の和を計算すると、
z
w y v x u
zz yy
xx
2 3 (5)
が得られる。(5)を
3
2
xx yy zz
z w y v x u
と変形して、(4)の各式に代入すると、
バネ の場合: 伸び ⇔ 力 弾性体の場合: 歪み ⇔ 応力
xx yy zz
xx x
u
3 2 2
xx yy zz
yy y
v
3 2 2
xx yy zz
zz z
w
3 2 2
となる。u/x、v/y、w/zを左辺に、
xx、yy、zzを右辺にまとめると、
xx
yy zz
x
u
3 2 2 3
2
yy
zz xx
y
v
3 2 2 3
2
zz
xx yy
z
w
3 2 2 3
2
(6)
が得られる。式(6)は、垂直応力がはたらいたとき、つまり弾性体を押したり引 いたりしたときに、弾性体がどのように変形するかを表している。
たとえば、1方向(x方向)にだけ垂直応力がはたらいたときを考えてみよう。
この場合、xx 0、yy zz 0である。式(6)は、
xxx
u
3 2
xxy
v
3 2
2
xxz
w
3 2
2
となる。垂直応力xxを与えると、その方向に引張や圧縮(u/x)が生じるのは 当然だが、それだけでなく、垂直な方向にも引張や圧縮(v/y、w/z)が生 じることを示している。ラメ定数、が正の場合、たとえば、x方向に押され ると(xx0)、x方向には縮む(u/x0)が、同時にy方向やz方向には膨 らむ(v/y0、w/z0)ことが分かる。
(1)体積弾性率Kは、
u v w x方向には縮む
(u/x0)
z
y, 方向には膨らむ
( 0
y
v 、 0
z
w )
x方向に押されると…
(xx 0)
垂直応力 歪み
xx yy zz
p 3
1
が成り立つ。式(5)を用いて体積弾性率を求め、、で表せ。
(2)ヤング率(Young’s modulus)Eとは、1方向にだけ垂直応力がはたらいた とき、垂直応力と、その方向に生じた引張や圧縮との比である(たとえば、
x E uxx
/
)。式(6)を用いてヤング率を求め、、で表せ。
ヤング率はバネにおけるバネ定数に相当する。
(3)ポアソン比(Poisson’s ratio) とは、1方向にだけ垂直応力がはたらいた とき、応力に垂直な方向に生じた引張(圧縮)と、応力に平行な方向に生じた 圧縮(引張)との比である(たとえば、
x u
z w x
u y v
/
/ /
/ )。式(6)を用いて ポアソン比を求め、、で表せ。
ポアソン比の典型的な値を例にして、ポアソン比の物理的な意味を考えてみ よう。
i) 0.5の例:
バネ の場合: 力 = バネ定数 × 伸び 弾性体の場合: 応力 = ヤング率 × 歪み
x方向に1%圧縮されると…
y方向、z方向に 0.5%膨張する
体積一定
ii) 1の例:
(4)多くの岩石ではとは近い値をとる。のとき、ポアソン比の値を 求めよ。
一般にポアソン比 の範囲は、1 0.5である。現実の岩石は0.25に近い 値をとることが多く、通常は0 0.5である。1 0となるような結晶は 非常に稀であるが、存在しないわけではない。
問2〔運動方程式と地震波〕
弾性体内部の微小体積の立方体についての運動方程式を書いてみよう。たと えば、運動方程式のx成分を考えよう。x方向の加速度はx方向の変位uの時間 2階微分2u/t2である。とりあえず、x方向の力をFとおけば、運動方程式を
F t u
2
2
と書いてよい。
次に、x方向の力Fを具体的に考えていこう。ここでは、x方向、y方向、z方 向のそれぞれの面にはたらくx方向の応力(応力の定義=面にはたらく力)を考 える必要がある。はじめに、x方向の面にはたらくx方向の応力から考えよう。
これは面に垂直にはたらく応力であるから、垂直応力である。垂直応力は流体 力学における圧力に相当する。圧力によって生じる正味の力、気圧傾度力 (pressure gradient force)は、
x p
F
力 加速度
圧力の勾配
x方向に1%圧縮されると…
y方向、z方向にも1%圧縮される
形状一定
xx
xx x
F
と書いてよい。ただし、応力の定義上、符号は逆になっている(応力は引っ張 られる方向が正である)ことに注意しておこう。
さらに、y方向の面にはたらくx方向の応力から考えよう。これは面に平行に はたらくせん断応力である。気圧(垂直応力)が空間的に一様だったら気圧傾 度力は生じない。同様に、せん断応力も空間的に一様だったら正味の加速度は 生じない。したがって、せん断応力の場合も、垂直応力の場合と同じように考 えて、
xy
xy y
F
と書くことができる。z方向の面にはたらくx方向の応力も同様に、
xz
xz z
F
と書ける。これらの結果をまとめると、結局、
j
xj j xz
xy
xx y z x
F x
となることが分かる。したがって、運動方程式のx成分は、
j
xj
xj
t u
22
である。
運動方程式のy成分、z成分も同様に考えると、運動方程式は、一般に
j
ij j
i x
t u
22 (7)
と書ける。
あらためて、(7)の各成分を書き出せば、
xz xy
xx y z
x t
u
2 2
yz yy
yx y z
x t
v
2
2 (8)
垂直応力の勾配
せん断応力の勾配
せん断応力の勾配
力 加速度
応力の勾配の和
応力の勾配の和
zz zy
zx y z
x t
w
2 2
となる。一方で、応力テンソルは、(2)、(3)より、
z w y v x u x
u
xx
2
x v y u
xy
x w z u
xz
(9)
と表される。(9)を(8)に代入すると、
wz w y v x u z t
w
z v w y v x u y t
v
z u w y v x u x t
u
2 2
2
2 2
2
2 2
2
(10)
となる。これは、フックの法則のもとでの弾性体の運動方程式である。運動方 程式(10)を用いて、地震波(seismic wave)の位相速度(phase velocity)を計算しよ う。
(1)P波(primary wave)においては、波が伝播する方向と平行な方向に変位 が生じる。たとえば、波がx方向に伝播する場合、u0、vw0である。x方 向に伝播するので、uはuReuˆexp
i
kxt
(uˆは定数)と書ける。これらを(10) の第1式に代入することによって、P波の位相速度c/k(c0)を求めよ。(2)S波(secondary wave)においては、波が伝播する方向と垂直な方向に変 位が生じる。たとえば、波がx方向に伝播し、変位がy方向に生じる場合、v0、
k
c/ (c0)を求めよ。
(3)多くの岩石ではとは近い値をとる。のとき、S波の位相速度に 対するP波の位相速度の比を求めよ。
問3〔重力と静水圧平衡〕
完全に球形で半径Rの惑星の内部の密度が中心からの距離rの関数として 与えられているとする。このとき、中心からの距離rにおける重力の大きさは、
距離rよりも内側にある質量の総量と等しい質量を持つ質点が惑星の中心にあ ると仮定した場合の重力の大きさに等しくなる。中心からの距離rよりも外側の 質量は重力の大きさに影響せず、また、総量が等しければ距離rよりも内側での 質量の分布形も重力の大きさに影響しない。このとき、中心からの距離r
(0rR)における重力加速度gは、
r r dr
r g G
0 2
2 4 ' ' (11)
と書ける。Gは万有引力定数である。gは定数ではなく、rの関数であることに 注意する。なお、重力は本来、万有引力と遠心力の合力であるが、ここでは惑 星の自転を無視し、万有引力のみを考慮している。
(1)密度が中心からの距離rによらない定数としたとき、重力加速度gをrの 関数として求めよ。ただし、0rRとする。
(2)惑星内部の圧力pに関して静水圧平衡(hydrostatic balance)が成り立って いるとする。つまり、
dr g
dp (12)
と書けるものとする。(1)で求めたgを用いて、圧力pをrの関数として求め よ。ただし、0rRとする。また、大気圧は無視し、r Rでp0とする。
解答例:
問1
(1)体積弾性率の定義から、
z w y v x u z
w y v x u
K p xx yy zz
3
が成り立つので、式(5)より、
3 3 2
K
(2)式(6)の第1式でyyzz 0とすると、
xxx
u
3 2
だから、
2 3 E
(3)式(6)の第1~3式でyy zz 0とすると、
xxxx xx
z w
y v x u
3 2 2
3 2 2
3 2
だから、
2
(4)(3)の解で とすると、
4
1
問2
u xu t
u 2
2 2 2
2
さらに、uReuˆexp
i
kxt
を代入すると、
i kx t
k u
i
kx t
k u
i
kx t
u
2ˆexp 2ˆexp 2ˆexp
だから、
22 2 k
2
k c
(2)(10)の第2式にuw0を代入すると、
vy v t
v 2
2 2 2
2
さらに、vRevˆexp
i
kxt
を代入すると、
i kx t
k v
i
kx t
v
2ˆexp 2ˆexp
だから、
2
2 k
k c
(3)のとき、位相速度の比は、
2 3
問3
(1)(11)より、
r G r r
dr G r r
g G
r r
3
' 4 3 ' 4
' 4
0 3 0 2
2
2
(2)(12)と(1)の結果より、
r G dr g
dp 2
3 4
R
r でp0だから、
2 2
2 2
2 2
3 ' 2 3
' 2 3 '
' 4
'dr G r dr G r G R r
dr p dp
R
r R
r R
r
地球物理学(流体地球物理学分野)
(2020 年度春学期)
目次
0 気象学で用いる方程式系 1
1 ナビエ・ストークスの方程式 2
2 回転系における運動方程式 6
3 気圧座標 10
4 連続の式 14
5 熱力学方程式 20
6 プリミティブ方程式系 26
補遺1 静水圧平衡と地衡風平衡 27
補遺2 慣性振動と浮力振動 32
補遺3 連続の式 36
補遺4 乾燥静的エネルギー 37
7 渦度方程式 38
8 準地衡方程式系 46
9 傾圧不安定 55
0 気象学で用いる方程式系
気象学においては、大気の運動を記述するために、流体力学に基づいた、い くつかの方程式系が用いられる。
この授業の前半では、流体力学の考えかたの基礎を習得するとともに、温帯 低気圧のような比較的大きな空間スケールの現象を扱うために用いられる、プ リミティブ方程式系を中心に学ぶ。後半では、プリミティブ方程式系から準地 衡方程式系を導出し、温帯低気圧の発達の仕組みである傾圧不安定について学 習する。
非静水圧平衡・完全圧縮方程式系 (Non-hydrostatic elastic equations)
非弾性方程式系 (Anelastic equations)
ブシネスク方程式系 (Boussinesq equations)
プリミティブ方程式系 (Primitive equations)
準地衡方程式系 (Quasi-geostrophic equations)
静水圧平衡
地衡風平衡 音波除去
浅い運動
総観スケール 全球スケール 局地スケール
メソスケール
近似
1 ナビエ・ストークスの方程式
温度の高い水が上流から流れてくる状況を考えてみる。固定した観測点 にいる観測者からみると、
「水温の高い水が流れてくるので水温が上昇する」
と考えられる。一方、水流に乗って測定している観測者からみると、
「水温は時間変化しない」
と考えることができる。流体の運動を考えるときには、このような2種 類の時間変化を区別して取り扱う必要がある。
1.1 オイラー微分とラグランジュ微分
はじめに、あるスカラーの物理量a
(
x,y,z,t)
の時間微分を考えてみる。流体力 学においては、オイラー微分(局所微分)(Eulerian derivative)とラグランジュ 微分(物質微分)(Lagrangian derivative)という2種類の時間微分があり、両 者を区別する必要がある。オイラー微分とは、空間のある一点にとどまって観 測した時間変化である。スカラーの物理量a(
x,y,z,t)
のオイラー微分は、偏微分 を用いて、 at
と表わされる。
一方、ラグランジュ微分とは、流体の流れに乗って移動しながら観測した時 間変化である。流れに乗って移動する観測者が、ある時刻tに
(
x,y,z)
にいるとする 。 流 速 をu =
(
u,v,w)
と す る と 、 微 小 な 時 間t 経 過 後 に は 、 観 測 者 は
(
x+ut,y+vt,z+wt)
にいる。ゆえに、この観測者が観測する物理量a(
x,y,z,t)
は微小な時間t経過後には、a
(
x+ut,y+vt,z+wt,t+t)
に変化している。し たがって、物理量a(
x,y,z,t)
のラグランジュ微分は、a u ta za w ya v xa u
ta + •
=
+
+
+
である。流体力学ではラグランジュ微分を
•
+
u t Dt
D (1)
と定義する。たとえば、物理量a
(
x,y,z,t)
のラグランジュ微分は a DtD と表される。
オイラー微分とラグランジュ微分の違いは、u•という項の有無である。u• は移流項とよばれ、移流の効果を表している。
大気のような流体が運動するのは、流体に力がはたらくからである。流 体にはたらく力として、重力、気圧傾度力、粘性の3つを取り上げて、
方程式でどのように表現できるか考える。
1.2 流体にはたらく力
ここでは、微小な体積xyzの流体にはたらく力を考える。まず、重力(gravity force)は質量xyzに重力加速度ベクトルgをかけたものであるからgxyz と書ける。したがって、単位体積あたりにはたらく重力はgである。
次に、気圧傾度力(pressure gradient force)を考える。気圧傾度力は、気圧勾 配によって生じる力である。気圧(圧力)とは、流体の境界面に対して垂直に はたらく、単位面積あたりの力の大きさである。圧力は、−x方向の境界面に対 しては+x方向に、+x方向の境界面に対しては−x方向にはたらく。ここで圧力 pがx方向に一様であれば、流体にはたらく正味のx方向の力はゼロである。し かし、pがx方向に変化していれば、流体に正味の力がはたらく。
δx
δy δz
x z y
3次元空間の中で固定された微小な領域xyzにおいて、+x方向の境界面での 圧力をp p
2
+1 、−x方向の境界面での圧力をp p 2
−1 とする。境界面の面積は
z y
だから、+x方向の境界面にはたらく力は p pyz
+
− 2
1 、−x方向の境界 面にはたらく力は p pyz
− 2
1 である。両者の和を計算すると、
z y p z y p p z y p
p =−
−
+
+
− 2
1 2
1
p z
y
p
分を用いて、気圧傾度力のx成分を p
x
− と書くことができる。y方向、z方向 も考慮すれば、気圧傾度力は−pとなる。
さらに、粘性(viscosity)の効果を考える。粘性とは運動量の拡散(平滑化)で ある。熱伝導方程式において熱拡散の効果はk2Tと書かれた。これは、ある場 所の温度に比べて周囲の温度のほうが高いとき、その場所の温度が上昇するこ とを表している。運動量についても同様に考えることができる。たとえば、あ る場所におけるx方向の速度uに比べて周囲の速度のほうが大きいとき、粘性の 効果によって、その場所の速度uは大きくなるであろう。そこで、温度T の場合 と同じようにして、速度uのx成分uに関して、粘性の効果を2uと書くこと ができる。y成分、z成分についても同じように考えれば、3次元の運動に関す る粘性の効果は2uと書くことができる。を粘性率と呼ぶことがある。
1.3 運動方程式
ニュートン力学の第 2 法則より、流体の運動量の時間変化は流体にはたらく 力の和に等しいから、
u p
g Dtu
D = − +2
(2)
となる。両辺をで割って、粘性係数
= とすると、
u p
g Dtu
D = − 1 +2
(3)
この方程式はナビエ・ストークスの方程式(Navier-Stokes equations)と呼ばれ、
流体力学における運動方程式である。
問1.1 水が+xの方向に5 m/sで流れている。上流(−xの方向)のほうが高温
であり、温度勾配 T
x
は-0.2 K/m である。水じたいが加熱、冷却されること はなく、断熱的であるとする。また、y方向、z方向には温度は一様である。こ のとき、 T
Dt
D 、u•T 、 T
t
の値をそれぞれ求めよ。
課題1.1 式(3)において、u=0で時間変化しないと仮定して、
z p
を求めよ。た だし、g =
(
0,0,−g)
とする。u=0を仮定したことにより、uのラグランジュ微分と粘性項を消去できることに注意せよ。
➢ この関係を静水圧平衡(hydrostatic balance)といい、鉛直方向の気圧傾度力 と重力がつりあった状態を表している。
問1.2 課題1.1の結果を用いて、地上付近で10 m上方へ移動したとき気圧が 何hPa 低下するか計算せよ。ただし空気の密度は1.2 kg/m3とする。また、重 力加速度gはg=9.8 m/s2とする。
2 回転系における運動方程式
地球は自転しているので、地球上にいる観測者は、回転する台のうえに 乗って気象観測をしているようなものである。そのような場所で観測す る場合は、観測者自身の運動に伴って見かけの力が生じるので、運動方 程式を修正しなければならない。
2.1 慣性系におけるナビエ・ストークスの方程式
慣性系におけるナビエ・ストークスの方程式において、速度ベクトルuのラグ ランジュ微分 u
Dt D は
u p
g Dtu
D 1 2
+
−
=
(1)
と書けた。以下では、回転系において、速度ベクトルuのラグランジュ微分がど のように表せるか考える。
2.2 回転系におけるラグランジュ微分
回転系 R における演算子や物理量を添え字 Rで表すことにして、回転系にお けるラグランジュ微分
Dt DR
を考える。座標のとりかたに依存しないスカラー量で あれば、Dt
DR とDt
D は等しい。しかし、ベクトル量qのラグランジュ微分は、座 標系の回転を考慮して、
R
R q
Dt q D Dt
D
+
= (2)
となる。ただし、は回転系の自転の角速度ベクトルである。
x y
×
○ ・
○ ・
z :
自転角速度ベクトルq
R
2.3 速度ベクトルのラグランジュ微分
速度ベクトルuのラグランジュ微分は、(2)を用いて、
( ) ( )
R R
R R
R R
R R
R
R R
R R
R R
R
r u
Dt u D
r r
u Dt u
D
r u
Dt u D
Dt r D Dt
r D Dt
D Dt u D Dt
D
ˆ 2
2 2
2 2
−
+
=
•
+
−
+
=
+
+
=
+
+
=
=
(3)
と書ける。ただし、ベクトルrˆR を
( )
•
−
= 2
ˆR R rR
r
r (4)
と定義した。ベクトルrˆR はrR からに平行な成分を差し引いたベクトルである。
2.4 回転系におけるナビエ・ストークスの方程式 式(3)を(1)に代入すると、
R R
R R
R u u r g p u
Dt
D 2 1 2
ˆ
2 + + − +
−
=
(5)
R
R g r
g = +2ˆ とすると、
R R
R R
R u u g p u
Dt
D 1 2
2 + − +
−
=
(6)
添え字 を消去して、
これが回転系におけるナビエ・ストークスの方程式である。
2.5 局所直交座標系における運動方程式
ここで、観測点における局所直交座標系を導入する。東西方向、南北方向、
鉛直方向の基本ベクトルをそれぞれ、i、 j、kとすると、
w k v j u i
u= + + (8)
なので、
Dtw k D Dtv j D Dtu i D Dtu
D = + + (9)
また、
sin
cos +
=
j k (10)
ただし、は緯度である。地球の大気の運動を考えるうえでは、自転のうち水平 面内での回転、つまり自転角速度ベクトルの鉛直成分が重要であるから、(7) のを
* sin
=
k (11)
に置き換えると、
u p
g u k Dtu
D 1 2
) sin 2
( + − +
−
=
(12)
が得られる。一般に、xy平面上のベクトルaに対して、kaはもとのベクトル を反時計回りに90°回転したベクトルを表す。(12)の各成分を分けて書けば、
u x p
v Dtu
D 1 2
sin
2 +
−
=
(13)
v y p
u Dtv
D 1 2
sin
2 +
−
−
=
(14)
w z p
g Dtw
D 1 + 2
−
−
=
(15)
となる。(13)と(14)において、
2sin
=
f (16)
とおき、さらに、(13)、(14)、(15)の粘性項をそれぞれFx、Fy、Fzと書くと、
Fx
x p fv
Dtu
D +
−
=
1 (17)
Fy
y p fu
Dtv
D +
−
−
=
1 (18)
Fz
z p g
Dtw
D +
−
−
=
1 (19)
と書くことができる1。ここで f はコリオリ係数(Coriolis coefficient)である。
問 2.1 式(3)では、ベクトル演算の公式a
( )
ab =−a2b+( )
a•baを用いた。この公式を証明せよ。
課題2.1 式(17)と(18)において、水平風uh がuh =
(
u,v,0)
であり、空間的に一様 で時間変化しないと仮定したとき、uh と圧力pの間にはどのような関係式が成 り立つか。uh が空間的に一様で時間変化しないと仮定したことにより、uh のラ グランジュ微分と粘性項を消去できることに注意せよ。➢ この関係を地衡風平衡(geostrophic balance)といい、水平方向の気圧傾度力 とコリオリ力がつりあった状態を表している。
問 2.2 北緯 30°において、ある高度での南北方向の気圧勾配が 1.0 hPa/100
km(北のほうが低い)、空気の密度が 1.0 kg/m3であるとする。北緯 30°にお
けるコリオリ係数を f =7.210−5 /s として、この高度での東西風uの値を求めよ。
ただし、地衡風平衡を仮定し、課題2.1の結果を用いてよい。
課題 2.2 式(17)と(18)において、空間的に一様な場を仮定すると、水平風の場
(
u,v,0)
uh = はどのように時間変化するか。数式で示し、さらに図示せよ。空間 的に一様な場を仮定することにより、移流項と気圧傾度力、粘性項を消去でき ることに注意せよ。
➢ このような運動を慣性振動(inertial oscillation)という。
1厳密には、角運動量とエネルギーの保存を考慮すると、(17)、(18)に代えて、以下の ような式が得られる。
Fx
a p a
v uv Dtu
D +
− +
=
cos 1 tan 1
sin 2
Fy
a p a
u u Dtv
D +
−
−
−
= 2 sin tan 1 1
2
ただし、は経度、aは地球半径である。導出はかなり複雑であるため、ここでは省
3 気圧座標
高層天気図を作成するとき、たとえば高度5500mの天気図の代わりに、
500hPa 面の天気図というように、高度の代わりに気圧を高さの基準にし
ている。基本的には気圧は高度とともに単調減少するので、このような 表現が可能になっている。高度の代わりに気圧が使われるのは、観測技 術上取り扱いやすいという理由に加え、理論的に取り扱いやすいという 理由もある。そこで、高度の代わりに気圧を高さの基準にしたら、どの ように方程式が書きかえられるか考える。
3.1 静水圧平衡
鉛直方向の運動に関して、微小体積xyzの流体にはたらく気圧傾度力の鉛 直成分、つまり、下面と上面にはたらく気圧の差と、重力とがつりあっている と仮定する。このとき
z y x g y x z z p p
y x z z
p p =
+
−
−
2 1 2
1 (1)
がなりたつ。ゆえに、
z g p =−
(2)
この関係を静水圧平衡(hydrostatic balance)という。静水圧平衡のもとでは、気 圧pは高度zに関して単調減少であり、気圧と高度の間に一対一の対応が成り立 つ。したがって、鉛直方向の座標として高度zの代わりに気圧pを用いることが できる。
3.2 気圧座標における運動方程式
静水圧平衡の関係を用いると、東西方向の気圧傾度力は、
p x y g z p x y z y z x p z
x y p
, ,
, ,
=
−
=
(3)
と書くことができる。同様に、南北方向についても、
p y x g z p y x z y z x p z
y x p
, , ,
,
=
−
=
(4)
と表せる。水平方向の運動方程式
Fx
z x y fv p
Dtu
D +
−
=
, 1
(5)
Fy
z y x fu p
Dtv
D +
−
−
=
, 1
(6)
に(3)、(4)を代入して、
Fx
p x y g z fv Dtu
D +
−
=
, (7)
Fy
p y x g z fu Dtv
D +
−
−
=
, (8)
さらに、重力gは万有引力と遠心力の合力だから保存力であり、ジオポテンシ ャルを導入してg=−と表せる。z軸がgと平行な座標軸として定義されて いて、
y z x g
,
= であることを考慮すると、=gzと定義することができて、
p x y p x y g z
, ,
=
(9)
p y x p
y x g z
,
,
=
(10)
式(9)と(10)を、(7)と(8)に代入して、
Fx
p x y fv Dtu
D +
−
=
, (11)
Fy
p y x fu Dtv
D +
−
−
=
, (12)
気圧座標においては、ラグランジュ微分 Dt
D は、
p p v y x p t u
Dt D
+
+
+
(13)
と定義される。は気圧座標での鉛直速度であって、鉛直 p速度と呼ばれる。
式(11)、(12)は、式(5)、(6)と等価であるが、鉛直座標として高度zの代わりに気 圧 pを用いている点で異なっている。このような座標を気圧座標(pressure
coordinates)またはp座標という。p座標では下向きが正である。また、水平方
向の偏微分は、高度ではなく気圧を一定に保ちながら計算する点に注意が必要 である。気象学では、理論上も実用上も鉛直座標として気圧pを用いたほうが 便利であることが多い。このため、p座標がしばしば用いられる。たとえば、
高層天気図を作成するときには、通常は、高度ではなく気圧で高さを指定する。
気圧面とおよその高度 気圧面 およその高度
200hPa 約12km
300hPa 約9.5km 500hPa 約5.5km
700hPa 約3km
850hPa 約1.5km
3.3 σ座標
さらに、地上気圧psを用いてp= psとして、大気上端で =0、地上で =1 となるような座標系を定義することがある。これをσ座標(sigma coordinates) という。 座標においては、p座標とは異なり、地上では常に =1という一定 値をとる。
課題3.1 式(11)と(12)において、地衡風平衡を仮定し、水平風uh =
(
u,v,0)
とジ オポテンシャルとの関係を導け。地衡風平衡とは、水平方向の気圧傾度力と コリオリ力がつりあった状態のことである。問 3.1 北緯 30°において、ある気圧面でのジオポテンシャルの南北方向の勾
配が 300m2/s2/100 km(北のほうが低い)であるとする。この高度での地衡風
の 風 向 ・ 風 速 を 求 め よ 。 た だ し 、 北 緯 30° に お け る コ リ オ リ 係 数 は /s
10 2 .
7 −5
=
f とする。また、課題3.1の結果を用いてよい。
課題3.2 p座標において、静水圧平衡の関係はどのように表されるか。つまり、
静水圧平衡のもとで、
y p x,
はどのように表せるか。z座標での静水圧平衡の
関係を既知としてよい。
4 連続の式
地上の低気圧の中心付近ではまわりから空気が集まってきて、上昇気流 が生じている。質量保存則を考えれば、空気が水平方向に集まってきた 分だけ、上昇気流が生じるはずである。ここでは、質量保存則を用いて、
水平流と鉛直流との関係を定量的に表現してみよう。
4.1 高度座標における連続の式
質量保存則の定式化を考える。3次元空間の中で固定された領域に含まれる空 気の質量の時間変化は、その領域を出入りする正味の質量に等しい。
δx
δy δz
x z y
( )
u y z u
− 2
1 u
( )
u yz
+
− 2
1
z y x
まず、この微小な領域xyzに含まれる空気の質量はxyzと書ける。質量の 時間変化は、
t z y x
である。このとき、微小な領域の中心におけるx方向の質量の流れ(質量フラッ クス)は、
z y u
である。したがって、この微小領域に−x方向の境界面から入ってくる質量は、
( )
u y zu
− 2 1 +x方向の境界面から入ってくる質量は、
( )
u y zu
+
− 2
1
と書ける。y方向、z方向の境界面についても同様に考えることができる。ここ で、質量の時間変化は質量の出入りの総和に等しいから、
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( )
u y z( )
v x z( )
w x yy x w w
y x w w
z x v v
z x v v
z y u u
z y u t u
z y x
<