-1-
口腔健康科学講座(障害者歯科・口腔顔面痛研究室)
プロフィール
1. 教室員と主研究テーマ
教授 福田 謙一
① 神経障害を有する三叉神経末梢と中枢神経機能のイメージング
② 舌痛症に依存するADHDの評価と疼痛治療 准教授 大多和 由美
① 障害者の安全で効率的な歯科治療 症候性の障害に伴う歯科所見と対応法 助教 半沢 篤
助教 野口 智康
① 三叉神経痛の病態調査
② 下歯槽神経ブロックデバイスの開発
③ 咀嚼筋痛の病態調査
大学院生 加藤 栄助
① 神経MRIを用いた三叉神経ニューロパチーの非侵襲的評価 大学院生 添田 萌
① 幻歯痛と遺伝子多型との関連
大学院生 太田 雄一郎
① オーラルアプライアンス違いが実験的歯ぎしり中に咬筋に及ぼす影響
大学院生 國奥 有希
① Gsタンパク質共役型受容体活性化によるラット三叉神経節細胞内cAMPレベルの動態解析
2. 成果の概要
1) 三叉神経痛の病態調査
神経血管圧迫(NVC)は、三叉神経痛(TN)の原因である。しかし、特発性TN(ITN)の患者は、MRIでNVC がない。また、MRIでNVCがあるにもかかわらず無症候性のままである可能性もる。これは、NVC以外のTN の危険因子がある可能性を示唆している。年齢や性差などの疫学的要因は、TN の病態生理を理解するのに 役立つが、各TNサブタイプの詳細な統計は現在ない。この研究は、過去の医療記録から抽出されたデータ に基づいて、TN患者を典型的TN(CTN)、二次TN、およびITNに分類し、グループごとの特徴とその違いを 調査、分析した。過去の報告同様に、CTNは男性よりも女性でより一般的であったが、ITNは女性よりも男 性でより一般的であった。右側の比率は、すべてのグループで高かった。CTNの患者はまた、無症候性側で も有意にNVCの所見が多かった。
Noguchi T, Shimamoto Y, Fukuda K. Clinical characteristics of trigeminal neuralgia in a dental hospital. Anesth Pain Med, 21:431-440, 2021
2) 下歯槽神経ブロックデバイスの開発
下歯槽神経ブロック(IANB)は臨床において重要な手技である.しかし,成功率は様々であり,ランドマ ーク法による神経ブロックが大きな原因であると考えられる.また,偶発症を恐れ,IANBを避ける歯科医師 も少なくない.よって安全で確実なIANBは臨床上価値があるものと考える.そこで本研究は『誰でも安全に 確実に奏効させるためのIANBデバイス』を作成し,その作成時間,費用,精度から臨床応用の可能性を検証 することを目的とした.設計から造形までの時間は約330分,費用は2720円であった.精度は,ノギスによ る計測で-0.18 mm,CTデータ上で-1.05 mmの誤差であった.通法よりも時間と費用は消費するものの針先
-2-
の位置の正確さから臨床応用する価値は十分にあるものと考えられた.
野口 智康, 福田 謙一. 誰でも安全に確実にできる!下歯槽神経ブロックデバイス『あざらし』開発への挑 戦. 日本歯科麻酔学会雑誌,49:126,2021
3) 咀嚼筋痛の病態調査
咀嚼筋痛は、多因子が関与して発症することから、病悩期間の個人差も大きい。そこで数ある原因因子の中 からスクリーニングツールによって評価される心理社会的因子が、病悩期間に与える影響を調査することを 目的とした。年齢、性別、心理社会的因子の質問票(うつ: PHQ-9、身体化: PHQ-15、不安:Generalized Anxiety
GAD-7を使用)のスコア、筋痛のサブタイプ、病悩期間を調査した。得られたデータから、病悩期間の中央値
を算出した。そして、病悩期間(中央値未満と中央値以上の2値変数)を従属変数とし、年齢、性別、心理社 会的因子の各スコアと咀嚼筋痛のサブタイプを独立変数としたロジスティック回帰分析を行い、病悩期間に 関連する因子を特定した。対象者は 68 名であった。PHQ-15に有意性を認めたが、その他の項目に有意性は 認めなかった。PHQ-15のオッズ比は1.25(95%Cl:1.09-1.43、P=0.002)であった。咀嚼筋患者の病悩期間に最 も関連する因子は、PHQ-15のスコアであった。
野口智康,柏木航介,野口美穂,半沢篤,半田俊之,福田謙一.咀嚼筋痛患者の病悩期間に関連す る因子の特定. 口腔顔面痛学会誌, 13:29-35, 2021
4) 幻歯痛と遺伝子多型との関連
幻歯痛は口腔顔面領域に生じる持続的な痛み、感覚異常を伴う神経障害性疼痛である。幻歯痛の原因は未 だ明らかにはなっていない。今回の研究では、幻歯痛の発症に遺伝的要因が関与していると仮定し幻歯痛の 原因を明らかにすることを目的とした。対象は東京歯科大学水道橋病院ペインクリニック科を受診した幻歯 痛患者33名とその他の口腔顔面痛患者117名とし、コントロール群として健康成人ボランティア500名を用 いた。三叉神経節に存在し、脊髄では神経障害性疼痛との関与も知られているSLC17A9(VNUT), P2Y12受容体 に着目し、幻歯痛の臨床データと関連解析を行い有意であったSNPに関して χ 二乗検定を用いて統計学的に 解析を行った。全体および女性で、SLC17A9遺伝子rs735055マイナーアリル保有者、P2RY12遺伝子rs3732759 メジャーアリルホモ保有者は非保有者と比べて有意に幻歯痛の割合が高かった。今研究ではSLC17A9 遺伝子 rs735055SNP、P2RY12 遺伝子rs3732759 SNPが幻歯痛の発症と関連することが示唆された。
Soeda M et al. Single-nucleotide polymorphisms of the SLC17A9 and P2RY12 genes are significantly associated with phantom tooth pain. Mol Pain. 2022; 18: 17448069221089592.
5)オーラルアプライアンス違いが実験的歯ぎしり中に咬筋に及ぼす影響
ブラキシズムは、顎口腔機能系にさまざまな弊害をもたらすと考えられている。その一般的な治療法はオ ーラルアプライアンス(OA)療法であるが、タイプやデザインも様々で、効果に疑問が多い。本研究の目的は、
OAの材質の違いによるClenchingとGrinding時の生体への影響の違いを観察し、推奨すべきOAの材質につ いて選択することである。18名のボランティアを対象に、実験的なClenching とGrinding 中の咬筋の酸素 動態、筋電図、被験者の心拍変動解析、主観的な疲労度を測定した。OAには硬質材(Hard)、軟質材(Soft)、 硬質材と軟質材とを表裏一体にしてあるコンビプラスト(Combi)の 3 種類を使用し、使用感について聴取し た。Clenchingにおいては3種類のOAの間で差はなく、GrindingにおいてはSoft使用下に他2種類と比較 して有意に大きな筋活動と組織酸素飽和度(StO₂)の低下を認めた。装着時の快適性においては、SoftとCombi がHardと比較して有意であった。OAの材質には、Grinding 時にSoftに認められた筋活動上昇と StO₂の低 下がなく、装着時の快適性にも優れるCombiの使用が推奨された。
6) Gsタンパク質共役型受容体活性化によるラット三叉神経節細胞内cAMPレベルの動態解析
疼痛に関連する細胞膜受容体にはアデニル酸シクラーゼと共役しcAMP生成の増加と抑制をもたらすGs/Gi
タンパク質共役型受容体が存在する。しかし、三叉神経節細胞における細胞膜受容体活性化を介した細胞内 cAMPシグナルの詳細なメカニズムは未だ不明点が多く、Gsタンパク質共役型受容体発現の知見も限られてい る。そこで本研究はラット三叉神経節ニューロンの細胞膜Gsタンパク質共役型受容体活性化から細胞内cAMP 濃度レベルの動態を検討した。β2受容体、 CGRP受容体、 PGI2受容体、 アデノシンA2A受容体、 5HT4受容
体、 ドーパミンD1受容体にそれぞれのアゴニストを投与すると細胞内cAMP濃度は増加し、その増加はアデ
ニル酸シクラーゼ阻害薬の投与により有意に抑制された。このことからラット三叉神経節細胞において上記 Gsタンパク質共役型はアデニル酸シクラーゼを活性化することで cAMP 濃度レベルを増加させることが示唆 された。
國奥有希,木村麻記, 黄地健仁, 澁川義幸,福田謙一 Frontier in physiologyに投稿予定
7) 神経MRIを用いた三叉神経ニューロパチーの非侵襲的評価
-3-
口腔顔面の神経損傷は神経障害性疼痛となりうるが、神経損傷の診断方法は確立されていない。本研究は、
MRI を用いた複数の強度の拡散強調画像から得られた信号減衰データの減衰パターンに基づきクラスタ分類 し、下歯槽神経の病変部の評価を試みた。対象は下歯槽神経ニューロパチーの15名の患者で、3.0T MRI装 置により9点の異なる強度の拡散傾斜磁場 (b = 0-400 sec/mm2)の拡散強調画像を取得した。病変内の神経 および周囲の異常結合組織と健側に関心領域を設定し、両側の全ピクセル信号減衰をk-means法により4つ のクラスタに分類した。関心領域内でクラスタ分布が独立した集塊 (mass) を形成している数を算出した。
患側ではクラスタのmassの数が健側に比し有意に多く、クラスタがモザイク状に空間分布していた。massの 空間分布は病変部の組織が不均一な構造を示唆される。
加藤栄助, 照光真, 福田謙一 Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology and Endodontology に投稿予定
8) 神経障害を有する三叉神経末梢と中枢神経機能のイメージング
三叉神経領域の中枢性感作が疑われる神経障害性疼痛や咀嚼筋の筋筋膜痛の慢性疼痛患者を対象として、
中枢感作診断ツールのCSIの採取と視床や帯状回のグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質量をMRスペク トロフィーにて、測定している。現在、患者25症例および対照20症例のデータを採取し、同時にデータの 解析を行っている。
9) 舌痛症に依存するADHDの評価と疼痛治療
痛みが慢性化している舌痛症患者を対象に、CAARSや WURSなどのADHD評価ツールを使用し、患者を分類 し,fMRIによる中枢の酸素活性分布やドーパミン作動薬などに対する効果を観察している。現在、21症例の データを採取し、同時にデータの解析を行っている。
3. 学外共同研究
担当者 研究課題
学外研究施設
研究施設 所在地 責任者
福田 謙一 口腔顔面痛領域神経障害性疼痛の遺 伝子要因研究
東京都医科学総合 研究所
分子精神医学研究 部門
東京都 世田谷区
池田 和隆
4. 科学研究費補助金・各種補助金
研究代表者 研究課題 研究費 科研費の場合は種別も記載
野口智康 『誰でも安全に確実に下歯槽神経ブロックを奏効させる ためのIANBデバイス』の開発
21K16552・2021年度 若手 研究
5. 研究活動の特記すべき事項 受賞
受賞者名 年月日 賞 名 テーマ 学会・団体名
野口智康 2021年11
月20日 優秀論文賞 咀嚼筋痛患者の病期間に関連
する因子の特定 口腔顔面痛学会
-4-
学術学会に相当しない団体が開催するセミナー・研究会・カンファレンス等における発表・講演
講演者 年月日 演 題 会合の名称 開催地
大多和由美 2021/7/
13
地域母子保健1. 乳幼児保健・
育児支援 乳幼児期からの口腔 衛生・虫歯予防
社団福祉法人 恩賜財団 母子愛育会 地域母子保 健研修
東京都 港区
大多和由美 2021/12 /9
小中学生の歯のけが、歯並び、む し歯 小児歯科医からのアドバ イス
豊島区学校歯科医会・養 護教諭合同研修会
東 京 都 豊 島区
大多和由美 2021/12 /15
障害者歯科における臨床のポイ ント
港区麻布赤坂歯科医師会 芝歯科医師会 web
大多和由美 2021/12 /15
令和3年度特別なケアが必要な 方の歯科保健医療推進研修会
~HIV感染者・エイズ患者への 対応について~
埼玉県、(一社)埼玉県 歯科医師会
web
6. 教育に関する業績、活動 共用試験
氏 名 年月日 種 別 役 割 開催地
野口智康 2022年2 月27日
東京歯科大学第4学年
共用試験歯学系 OSCE 機材係 東京都千 代田区 半沢 篤 2021年2
月27日
東京歯科大学第4学年
共用試験歯学系 OSCE 機材係 東京都千 代田区 大多和由美 2021年2
月27日
東京歯科大学第4学年
共用試験歯学系 OSCE 評価者 東京都千 代田区 福田謙一 2021年2
月27日
東京歯科大学第4学年
共用試験歯学系 OSCE 指導医 東京都千 代田区