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会計学 2

第11回 株主資本と純資産

1

今日の学習項目

1. 純資産の構成と表示

2. 払込資本

3. 企業の結合と分割

4. 稼得資本 ( 留保利益 )

5. まとめ

2

1. 純資産の構成と表示

• 【定義】①「純資産とは,資産と負債の差額をいう。」(ASBJ概念フレ ームワーク3章6項)

②「株主資本とは,純資産のうち報告主体の所有者である株主 (連結財務諸表の場合には親会社株主)に帰属する部分をいう。」

(ASBJ概念フレームワーク3章7項)

• 【種類】

①株主資本・・・(1)資本金,(2)資本剰余金,(3)利益剰余金

②その他の要素・・・(1)評価・換算差額等,(2)新株予約権

③少数株主持分(連結貸借対照表の場合) 資産-負債=純資産

純資産=株主資本+その他の要素

3

純資産の表示

4

貸借対照表(貸方) 純資産

1.株主資本 (1)資本金 (2)資本剰余金 (3)利益剰余金 2.その他の要素

(1)評価・換算差額等 (2)新株予約権 3.少数株主持分

損益計算書

当期純利益

当期純利益のうち配当として 社外流出しなかった部分が,

留保利益(稼得資本)として,

利益剰余金に振り替えられます。

資産

純資産と株主資本の関係

• 純資産は,資産と負債の差額。株主資本は,純資産のうち株主に帰属す る部分です。

純資産=株主資本+その他の要素 (+少数株主持分)

• 株主資本は,①株主の払込資本(paid in capital=元本;資本金,資本剰 余金)と,②払込資本を運用して稼得した利益のうち配当として株主に分 配されずに,企業内に留保され,営業活動に再投資された留保利益 (retained earnings=果実;利益剰余金)から構成されます。①②は,株主 に帰属します。

• その他の要素は,③評価・換算差額等と,④新株予約権から構成されま す。③④は,帰属先が未定です。

• 少数株主持分は,親会社以外の株主に帰属する子会社の資本勘定部 分です。連結貸借対照表にだけ表示されます。

かつては「純資産=資本」

• 会計ビッグバン以前の会計制度では,

純資産=資本 会計主体論

(1)資産-負債=資本 (資本等式)

・・・資本主理論を表現 (資本主の観点から会計判断を行う) 支払利息(他人資本報酬)=費用

配当(自己資本報酬)=利益処分

少数株主持分=負債と資本の中間項目(資本でない項目)

(2)資産=負債+資本 (貸借対照表等式)

・・・企業主体理論を表現 (企業それ自体の観点から会計判断を行う) 少数株主持分=資本

(2)

現在は「純資産≠資本」

7

株主資本

(A)評価・換算 差額等 (B)新株予約権

少数株主持分

収益費用アプローチ 株主資本(投資のポジション) とその成果=純利益の累積額

⇔資本主理論(株主の観点)

資産負債アプローチ (A)時価評価差額の累積額 (B)負債でない項目の累積額

(負債確定アプローチ)

⇔企業主体理論(報告主体=企業の観点) 純資産の部

「貸借対照表の純資産の部の表示に関する 会計基準」(2005年)以降,収益費用アプロー チと資産負債アプローチが混在が発生。

資産・負債と株主資本の定義

【資産】「資産とは,過去の取引または事象の結果として,

報告主体が支配している経済的資源をいう。」

(ASBJ 概 念 FW 第 3 章 4)

【負債】「負債とは,過去の取引または事象の結果として,

報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは

引き渡す義務,またはその同等物をいう。」(ASBJ概念 FW第3章5)

【株主資本】「株主資本とは,純資産のうち報告主体の 所有者である株主(連結財務諸表の場合には親会社 株主)に帰属する部分をいう。」(ASBJ概念FW第3章7)

8

会計観・会計主体の相違

9

資 産

負 債 報告主体

資産負債アプローチ 企業主体理論

株主資本

収益費用アプローチ 資本主理論

その他の要素 株 主

調整項目 no man's land

投資家が売買するのは,

株主資本の部分

純資産≠株主資本

• 資産・負債の主体は報告主体=企業(企業主体理論/資産 負債アプローチ)です。

• これに対して,株主資本の主体は株主(資本主理論/収益 費用アプローチ)です。

• 資産・負債と株主資本の定義では,想定される主体が異 なります(二元的定義)。したがって,両者が概念的に整合 しないのは(純資産≠株主資本),当然といえます。

• ファイナンスの理論とどう整合させるか。DDM,DCF,FOモ デル等では,理論株価=株主資本の現在価値

10

資本の源泉別・帰属先別分類

源 泉 帰属先

資本金

払込 資本

株 主 資本剰余金 資本準備金

(株式払込剰余金等) 株 主

その他資本剰余金

(減資差益,自己株式処分差益等) 株 主

利益剰余金 利益準備金

留保 利益

株 主 その他利益剰余金

(任意積立金,繰越利益剰余金) 株 主

評価・換算差額等 (その他有価証券評価差額金,繰延

ヘッジ損益,土地再評価差額金) 時価 未 定

新株予約権 購入者 未 定

少数株主持分 少数株主 少数株主

剰余金区分の原則

• 株主資本のうち資本金以外の部分は,①資本 取引から生じた資本剰余金と,②損益取引から 生じた利益剰余金に分類されます ( 企業会計原 則・注解 19) 。

• 企業の経営成績と財政状態を適正に表示する ために,両者を厳密に区別する必要があります。

払込資本 資本金

資本剰余金 利益剰余金

資本取引

損益取引

(3)

資本取引

• 資本取引とは,株主資本を直接的に変化さ せることを目的として行われる取引です。増 資・減資,配当支払等。

• 払込資本のうち,①資本金に組み入れられな かった部分,②資本減少差益,③合併差益,

④自己株式処分差益は,資本剰余金に整理 されます。

13

損益取引

• 損益取引とは,利益の獲得を目的として行わ れる取引です。

• その結果,株主資本が間接的に変化します。

配当されずに企業内に留保された部分が,

稼得資本 ( 留保利益 ) です。

14

留保利益

• 留保利益は,債権者保護の担保となる純資 産の充実に繋がります。

• したがって,配当可能利益を限定 ( 配当制限 ) することが,債権者保護の観点から必要にな ります。剰余金区分の原則の背景。

→旧商法第 297 条(社債募集の限度額),

会社法(配当規制)

15

2. 払込資本

• 会社の設立

発行可能株式数を定款で定めます。授権資本制度。

株式の払込金額は原則としてその全額を資本金(法 定資本)に組み入れます。しかし2分の1までは資本金 とせず,株式払込剰余金 ( 資本準備金 ) とすることがで きます ( 会社法 445 条 ) 。

現金等による配当を行う場合は,資本準備金と利益 準備金の合計額が資本金の 4 分の 1 に達するまで,利 益の一部を利益準備金として社内に積み立てること が要求されています。債権者保護

16

株式の種類

• 普通株式

• 優先株式

• 劣後株式

• 譲渡制限株式

• 取得請求権付株式

• 取得条項付株式

増 資

• 株式会社の法定資本を増加させる取引。

(1) 実質的増資・・・株主資本の増加を伴う増資。

①通常の新株発行

②新株予約権の権利行使

③株式交付による他企業の吸収合併

④株式交換による他企業の子会社化 (2)形式的増資・・・払込資本の区分変更

①資本準備金の資本組入れ

②その他資本剰余金の資本組入れ

(4)

ストック・オプション

• 会社の役員や従業員等がその企業の株式を予め定められた価格 で取得することを選択できる権利をいいます。新株予約権を付与 します。勤労意欲(モチベーション)の促進,人材確保等を目的に活 用。

• 勤労意欲の促進→業績の向上→株価の上昇→[権利行使価格<

株価]→権利行使→払い込まれた現金預金だけ資本が増加→企 業の資本充実。

• 付与された時点から,公正価値にもとづいて株式報酬費用(人件 費)を計上します。費用と純資産の同時・同額の増加。ストック・オ プションは,労働の対価として付与され,経済的な価値を有するた めです。(ストック・オプション等に関する会計基準)

(借)人件費(費用) ×× (貸)新株予約権(純資産) ××

19

資本組入れ

• 資本準備金の資本組入れ

株主総会の議決を経て,組み入れることができます(会社法448条)。しかし,

剰余金区分の原則から,利益準備金を資本金に組み入れることはでき ません。組入れにともなう株式の無償交付は実質的に株式分割。

• その他資本剰余金の資本組入れ

株主総会の議決を経て,組み入れることができます(会社法450条)。しかし,

剰余金区分の原則から,その他利益剰余金を資本金に組み入れること はできません。組入れにともなう株式の無償交付(株式配当)は実質的に 株式分割。

■法律の観点からは,払込資本とその果実の区分が重視されます。

ファイナンスの観点からは,両者は区別されません。投資者に帰属する企 業価値。

20

減 資

• 法定資本の金額を減少させる取引。債権者保護の観 点から厳格な要件を課しています。(会社法447条,

449 条 )

(1) 実質的減資・・・株主資本 ( 純資産 ) の減少を伴います。

事業縮小を目的とします。現金等を株主に返還します。

(2) 形式的減資・・・累積欠損金を計算上で解消する手 続き。資本金と相殺。純資産額は変化しません。減資 で減少する法定資本が,相殺額を上回る場合,資本 金減少差益(減資差益)が発生します。

21

自己株式

• 会社がいったん発行した自社の株式のうち,市場等で取得して保有して いる自己株式(金庫株)。債権者保護の観点から禁止されてきましたが,

2001年10月以降は解禁。分配可能額の範囲内で(資本充実,維持すべ き資本の維持←債権者保護)。

• 第三者への売却,転換社債,ワラント債,ストック・オプション等の新株予 約権の行使者に付与,合併・株式交換での交付等に利用されます。

• 自己株式の本質をどう考えるか。2つの学説。

(1)資産説・・・自己株式も有価証券(資産)であると考えます。借方の資産に 計上します。

(2)資本減少説・・・株主に対する資本の払戻しであると考えます。貸方で,株 主資本の部からの控除項目として計上します。会社計算規則108条2項 では,資本減少説に立脚。自己株式の売却は増資の性質を持つと考え ます。

22

3. 企業の結合と分割

• 企業の組織再編 Business Restructuring 選択と集中,ビジネス・ポートフォリオ,進出と撤退

(1) 組織再編の方式

①合併,②親子関係の形成,③分割 (2) 既存会社の活用

①活用する,②活用しない ( 新会社の設立 )

組織再編の諸形態

吸収型再編 (既存会社を活用)

新設型再編 (会社を新設)

会社合併 吸収合併 新設合併

親子関係の形成 株式交換 株式移転

会社分割 吸収分割 新設分割

(5)

合 併

• ある企業と他の企業が,1つの企業(単一の報告単位)に統合されることを

,企業結合といいます。①合併と,②100%親子関係形成の2つ。

• 合併は,会社法に従い2つ以上の会社が合体して,法的に1つの会社に なることをいいます。

①吸収合併(A社がB社を吸収し,B社が消滅)

②新設合併(AB両社が消滅して,C社を新設)

• 合併の経済的実態

①取得・・・A社がB社の支配を獲得する。B社の株主は事業への支配を失う ので,持分の継続が断たれたと解釈されます。

→買収法(パーチェス法)

②持分の結合・・・他企業の支配は認められず,すべての結合当事企業の 持分が継続すると解釈されます。

→持分プーリング法

25

吸収合併と新設合併

26

企業A

企業B 吸収合併

企業B のみ消滅

企業A 企業B

企業C

企業A・Bが ともに消滅 新設合併

○○ホール ディングス

買収法と持分プーリング法

買収法 持分プーリング法 消滅会社の資産・負債の

引継ぎ範囲

繰延資産や非債務性の引 当金(計算擬制的資産・負 債)は引き継がない。

消滅会社のすべての資 産・負債を,存続会社が引 き継ぐ。

引継ぐ資産・負債の評価 時価評価して引き継ぐ。引 き継ぐ純資産と対価の差 はのれんとする。

原価評価して引き継ぐ(消 滅会社の帳簿価額で)。の れんは生じない。

消滅会社の株主資本の内

引き継がない。資本金組 入額以外は合併差益とす る。

消滅会社の内訳をそのま ま存続会社が引き継ぐ。

27

吸収合併と対等合併

28

企業A

企業B 吸収合併 持分の取得

買収価格(時 価)が存在

企業A 企業B

対等合併 持分の継続

(新設合併)

買収価格(時 価)が存在せず

買収法が適合的 持分プーリング法が適合的

持分継続の判定基準

• 以下の3基準をすべて満たす場合に,持分の継続が認められ,持 分プーリング法の適用対象となります。

(1)企業結合に際して支払われた対価のすべてが原則として,議決権 のある株式であること。現金等の財産の場合は,被結合企業の株 主は議決権を失うので,継続性は否認される。

(2)各結合当事企業の株主が保有する議決権比率が,結合前後で等 しいこと。原則50:50(上下5%)。大きな差があれば,支配従属関 係が生じているとみなされる。

(3)議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと。

役員や従業員の構成比率,財務・経営の方針決定への影響力等 で,その事実の有無を判断する。

「企業結合に係る会計基準」三の1。

買収法と持分プーリング法の会計処理

資産 100

負債 60 資本金

30 資本準備金

10

B社のB/S

資産 120

負債 60 資本金

40 資本準備金 (合併差益)

40

買収法

のれん 20 (1)資産の時価=120 (2)時価80の株式を新規

発行して買収 (3)交付株式価額の半分

を資本金に組入れ

資産 100

負債 60 資本金

30 資本準備金

10

持分プーリング法

買収法

のれん(20)=取得価額(80)-引継純資産(60) 合併差益(40)=対価(80)-資本金組入額(40)

(6)

株式交換 ( 親子関係の形成 )

• P社がS社の株主からS社の全株式を受け取り,その

対価として自社株式を交付すること。S社はP社の 100%子会社となります。

• PS 両社が法人格を保持したまま合併と同様の経済 的効果を生じることになります。

31

P社

S社 S社株主

P社株式 S社株式 60%所有

40%所有 完全親会社化

完全子会社化

株式交換と株式移転

• P社が既存の会社の場合を,株式交換といいます。P社がS社を完

全子会社化する目的で利用されます。

• P社が新設会社の場合を,株式移転といいます。S社が自己の意

思により完全親会社であるP社を新設する目的で利用されます。P 社が保有する子会社株式の価額がP社の総資産の半分を超える 場合,P社は独占禁止法9条の持株会社となります。

• 株式交換も企業結合の一形態。株式交換後のP社における元S社 株主の支配力の状況にもとづき,取得と判断された場合は買収法

,持分の結合と判断された場合は持分プーリング法で,それぞれ 会計処理されます。株式交換剰余金,株式移転剰余金。

32

会社の分割

• 会社法に従って,会社の事業の一部を分離 すること。①新設分離と,②吸収分離があり ます。

• 分離元企業が,対価として受け取った株式を 資産として保有し続ける場合を「分社型」 ( 物 的分割 ) ,株式を自社の株主に割り当てる場 合 ( 資本減少 ) を「分割型」 ( 人的分割 ) といいま す。

33

会社分割における清算と継続

継 続 清 算

分離元企業が受け取る対価は分離先企 業の株式のみであり,かつ分離先企業 が子会社または関連会社である場合,分 離元企業は分離先企業の株式所有を通 じて,移転した事業への投資を継続して いると解釈される。

分離元企業が現金等の,移転した事業と 明らかに異なる資産を対価として受け取 る場合,事業の売却によって投資が清算 されたと解釈される。

対価を株式で受け取る場合でも,分離先 企業が子会社または関連会社に該当し ない場合は,清算と解釈される。

事業の移転損益を認識せず。分離元企 業の帳簿価額を引き継ぐ。分離された資 産・負債を原価で評価する。

受け取った株式等を公正な時価で評価し,

移転した事業の帳簿価額にもとづく純資 産との差額を営業移転損益とする。

分離先企業は,引き継いだ資産・負債を 時価で計上する。

帳簿引継法。持分プーリング法に対応。 売買処理法。買収法に対応。

34

4. 稼得資本 ( 留保利益 )

• 企業が獲得した利益のうち,出資者に分配さ れずに,企業内に蓄積された部分。つまり,

企業が獲得した利益のうち,企業活動に再投 資されている部分をいいます。

純資産と留保利益

資本金

資本剰余金 資本準備金 その他資本準備金

利益剰余金 利益準備金 その他利益準備金 (1)任意積立金 (2)繰越利益剰余金 評価・換算差額等

新株予約権

処分可能財源 資本組入れ 配当等

(7)

資本と利益の区分

• 個人企業では,出資者が無限責任を負うので,維持 すべき資本と,分配可能な利益を区分する必要があ りません。利益→資本金に直ちに振り替え。

• 株式会社では,有限責任制 ( 株主の責任は出資額に 限定)がとられるために,維持すべき資本(元本)と,分 配可能な利益が厳格に区分されます。利益→繰越利 益剰余金に振り替え→配当の主要財源。

• 会社法では,①その他利益剰余金(任意積立金+繰 越利益剰余金 ) と,②その他資本剰余金をあわせて,

剰余金と呼び,配当規制の中心概念としています。

37

剰余金の使途 ( 処分 )

(1) その他資本剰余金からの資本金への組入れ (450条)。

(2) 資本準備金または利益準備金への組入れ (451 条)。

(3) 損失の処理や任意積立金の積立て (452 条 ) 。 (4) 株主に対する剰余金の配当 (453 条 ) 。

株主総会の議決が必要。委員会設置会社等の条 件を満たす場合は,取締役会決議で (3)(4) は実 施可能です。

38

剰余金の配当

• 会社法上は,所定の条件を満たす場合,い つでも何度でも剰余金の配当 ( 処分 ) は実施で きますが,株主総会後の配当と中間配当の 年2回実施するケースが多くなっています。

• 主要な配当政策。①安定配当政策 ( 利益額に 連動しない定額配当を維持 ) ,②配当性向政 策 ( 配当性向を一定とする ) 。

39

配当に伴う準備金の積立て

ー債権者保護の手続きー

• 株主への配当による企業資産の社外流出が生じた場合,流出額の10分 の1の額を,資本準備金または利益準備金として積み立てなくてはなりま せん(445条④)。

• その他資本準備金から配当した場合は資本準備金を,その他利益準備 金から配当した場合は利益準備金を,積み立てます。法律で積立てが強 制されているので,これら準備金を法定準備金といいます。

• ただし,資本準備金と利益準備金の合計額が,資本金の4分の1に達し た場合は,上記の積立てを実施する必要はありません(規則45条)。

• 法定準備金は,株主総会の決議と債権者保護手続きを経て取り崩し,そ の他資本剰余金およびその他利益剰余金とし,配当可能な剰余金に含 めることができます(448条)。

40

任意積立金

• 企業が契約や経営上の必要性にもとづいて 設定した留保利益の項目。法律で強制された 項目ではない「任意」の項目です。

• 将来の配当を安定させるための配当平均積 立金,使途を特定しない別途積立金,租税特 別措置法に関連した準備金,圧縮記帳積立 金などがあります。

会社法の配当規制

• 【配当規制の必要性】有限責任制のもとでは,債権者 の権利(利害・持分)は,会社の純資産によってのみ保 証されます。無規律・無制限な配当は,債権者の権利 を損ないます。

• 会社法は,債権者保護の観点から,株主と債権者の 利害を調整するために,会社財産を配当として株主に 払い戻すことが可能な上限額を「分配可能額」として 法定しています。会計の利害調整機能。

• 規制対象は,①自己株式の有償取得のうち所定の場

合 (461 条① 1 ~ 7) ,②剰余金の配当 (461 条① 8) 。

(8)

剰余金の範囲

• 剰余金は分配可能額の基礎となります。会社法446条。

• 最終事業年度末日の剰余金

=[(資産+自己株式)-(負債+資本金・準備金+評価・換算差額 等+新株予約権)]

=その他資本剰余金+その他利益剰余金

• 配当の効力発生日の剰余金

=上掲の剰余金

+決算日後に生じた加算項目(自己株式処分差益,資本金の減少 額,準備金の減少額→その他資本剰余金の増加額)

-決算日後に生じた減算項目(消却した自己株式の帳簿価額,剰 余金の配当額,資本金・準備金への組入額等→剰余金の消費額)

43

分配可能額 (461 条② )

配当の効力発生日の分配可能額

=配当の効力発生日の剰余金の額

+②臨時決算期間の (1)純利益額と

(2) 自己株式の処分対価

-③配当の効力発生日の自己株式の帳簿価額

④最終事業年度末の後に処分した自己株式の対価

⑤臨時決算期間の純損失額

⑥会社法計算規則186条で規定する金額

44

会社法計算規則 186 条で規定する金額

(1)のれん等調整額。

(2)純資産に直入された「その他有価証券評価差額金」と「土 地再評価差額金」の借方残高(未実現損失額)。保守主義。

(3)連結配当規制適用会社において,前期末の連結貸借対 照表にもとづいて算定された修正株主資本が,個別貸借 対照表の修正株主資本を下回る額。

(4)300万円不足額。純資産額が300万円に満たない企業は 原則として,剰余金の配当を実施できません。

※配当にともなって10分の1の準備金を積立を要する場合は,

分配可能額に11分の10を乗じた額が,実際に配当可能な 額となります。

45

損失の処理

• 当期純損失が計上された場合は,繰越利益剰余金でこれを補填 (処理)します。

• 補填しきれなかった損失額は,繰越損失となります。ただし貸借対 照表では,繰越利益剰余金の借方残高として取り扱い,この科目 名で純資産の減算項目として表示します。

• 繰越損失は,①任意積立金の取り崩し,②その他資本剰余金の 取り崩し,③利益準備金と資本準備金の取り崩しの順で,処理し ます。それでも処理しきれない場合は,将来の純利益で処理する か,減資を実施し資本金の減少額で処理します。

• 要するに,繰越損失を処理する場合は,優先順位の低い株主資 本項目から順に,取り崩していきます。

46

繰越損失と債務超過

資 産 負 債

純資産 繰越損

B/S

処理されなか った損失

資 産 負 債

純資産 繰越損

B/S

繰越損失>純資産 資産<負債

5. まとめ

(1)純資産と株主持分の関係,その差を生み出した理論的背景を整 理しておきましょう。純資産の部は,資産負債アプローチと収益費 用アプローチの混在から生じる諸問題が,最も象徴的に表れてい る部分です。

(2)純資産の部は,「持分」(equity)=利害関係者の権利を表示する部 分なので,法制度(会社法)による規制を相対的に強く反映すること になります。資本と利益の区分,債権者保護,配当規制等の重要 な論点を,会社法の規定に照らし合わせて,正確に理解しておき ましょう。

(3)会社法は,債権者保護の観点に依拠した配当規制(株主と債権者 の利害調整)を会計計算を通じて実施します。会計がこのプロセス で果たす機能を,利害調整機能といいます。

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