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化学と生物 Vol. 55, No. 4, 2017
ミトコンドリアマトリクスに局在するプロテアーゼの多様な機能
特定タンパク質の分解によって遺伝子発現を制御する
ミトコンドリアは2つの膜に包まれた構造をもち,外 膜,膜間腔,内膜,マトリクスの4区画に分けられてい る(図1A).ミトコンドリアマトリクスはさまざまな代 謝反応が行われる重要な場所であるが,そこにはミトコ ンドリア独自のDNA(mtDNA)が存在する.哺乳類 のmtDNAには13の呼吸鎖サブユニットとその翻訳に 必要なrRNAとtRNAがコードされているだけで(図 1B),残りのタンパク質はすべて核ゲノムにコードさ れ,それらは細胞質で翻訳された後にミトコンドリアの 各区画へと運ばれ最終的にミトコンドリア内で分解され る.マトリクス側に表出する内膜タンパク質も含め500 以上のタンパク質がマトリクスに存在すると考えられて いるが,それらの分解はLon, ClpXP, -AAAの3種の プロテアーゼが担っている(図1A).これらプロテアー ゼが協調して傷害や構造異常などによる機能不全タンパ ク質の分解を行うことでマトリクス内の機能を正常に 保っていると考えられているが,それ以外にも特定のタ ンパク質の分解制御を介して核やmtDNAの遺伝子発現 を制御するなど新たな機能が近年明らかになってきてい る.
Lon, ClpXPはマトリクス内に局在し, -AAAはミト コンドリア内膜の膜タンパク質でマトリクス側にプロテ アーゼ領域が表出している(1)(図1A).ヒトのLonはホ モ6量体であり, -AAAはparapleginとAFG3-like pro- tein 2(AFG3L2)という2つのサブユニットにより構 成され,AFG3L2だけからなるホモ6量体とparaplegin とAFG3L2からなるヘテロ6量体の2種類が存在する
(図1A).一方,ClpXPはタンパク質分解を行うサブユ ニット(ClpP)とシャペロン様のサブユニット(ClpX)
で構成されている(図1A).また各プロテアーゼの遺伝 子変異が個別の疾患を引き起こすことも明らかになって いる.Parapleginの変異が遺伝性痙性麻痺,AFG3L2の 変異が遺伝性脊髄小脳変性の原因となることは以前から 知られていたが(2),近年ClpPの変異はペロー症候群の 原因となること,Lonの変異がCODAS症候群の原因と なることが示された(3, 4).このように各プロテアーゼ変 異により異なる疾患を引き起こすことは,これらプロテ アーゼが互いにその機能を完全に補完することはできな
いことを示している.
-AAAは主に内膜タンパク質や膜に表在するタンパ ク質を分解すると考えられている.酵母では -AAAが ミトコンドリアリボソームタンパク質L32のN末端ドメ インを切断し成熟化させることから(2), -AAAの欠損 はミトコンドリアリボソームの形成に異常をきたす.ま た哺乳類でもAFG3L2の欠損はミトコンドリアリボ ソームの会合に影響を与える(5).このように -AAAは mtDNAにコードされる遺伝子の翻訳を間接的に制御し ている.
ClpXPによって独占的に分解される特異的基質につ いてはほとんど知られていないが,ClpXPは構造異常 タンパク質の分解に関与していると考えられている.ま たClpXPはマトリクスタンパク質のフォールディング の異常を感知し核ゲノムにコードされているミトコンド リアシャペロンタンパク質などの発現上昇に至るmito- chondrial unfolded protein response(mtUPR)と呼 ば れる一連の反応に関与していることが示唆されている(6).
Lonは酸化ストレスによる傷害タンパク質を優先的に 分解することで傷害タンパク質の凝集などにより引き起 こされるミトコンドリアの機能低下を防いでいる.近年 筆者らやほかのグループによってショウジョウバエやヒ トの培養細胞でLonがmtDNA結合タンパク質TFAM を特異的に分解していることが示された(7, 8).TFAMは mtDNAの転写因子であるとともに核DNAに対するヒ ストンのようにmtDNA全体に結合し安定化させること が知られている.興味深いことにTFAMとmtDNAは 共依存関係にある.たとえば遺伝子ノックダウンなどに よりTFAMを枯渇させればその量に応じてmtDNAコ ピー数が減少し,逆に複製阻害によりmtDNAコピー数 が減少すればそれに応じてTFAMも減少する(1).しか し,Lonノックダウン細胞ではmtDNAコピー数が減少 してもTFAMは分解されず,mtDNAに対してTFAM が過剰になるためmtDNAの転写阻害が引き起こされる
(図2).このことはLonが傷害や構造異常とは関係なく 余分なTFAMを分解し,mtDNAとTFAMの比率を保 つことでmtDNA転写を維持していることを示してい る.たとえば,抗HIV薬である核酸系逆転写阻害剤
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(AZTなど)は副作用としてmtDNAの複製を阻害しそ のコピー数の減少を招くが,このような状況下でLonが TFAMを分解しmtDNAの転写阻害を防いでいると考 えられる.
mtDNAの転写は2つの転写開始点から一続きに転写 された後に(図1B),各RNAにプロセシングされるが,
最近ヒトの細胞ではこのRNA切断の制御にもLonが関 与することが明らかになった(9).ミトコンドリアマトリ クス内でのタンパク質のフォールディング異常に伴う mtUPRの一つとしてmtDNAにコードされるタンパク 質合成が低下すること,さらにその原因の一つがミトコ ンドリアRNAの切断効率の低下にあることが明らかに なった.ミトコンドリアRNA切断の多くはtRNAの両 端 で 起 き る.Mitochondrial ribonuclease P protein 3
(MRPP3)はこの切断に関与するタンパク質の一つであ るが,このMRPP3がLonによって特異的に分解される ことが示された.このMRPP3がmtUPR時に減少し未 切断RNAが増加することでミトコンドリアタンパク質 の合成低下が引き起こされるが,このときLonを阻害す
ることでMRPP3量が回復しRNA切断が正常化するこ とが明らかとなった.mtUPR時のミトコンドリアのタ ンパク質合成低下メカニズムにはいまだ不明な点が多く 残るが,LonによるMRPP3の分解がmtUPRの一端を 担うことが示された.
ミトコンドリアマトリクス内に存在する3種類のプロ テアーゼは傷害やミスフォールディングなどによる機能 不全タンパク質の分解といった「通常業務」のみなら ず,いくつかの状況下において特定のタンパク質の分解 制御を介して核やmtDNAの遺伝子発現制御にもかかわ る「特別業務」も行っていることが明らかになってき た.今後,この「特別業務」に着目した研究がさらに進 展することを期待したい.
1) Y. Matsushima & L. S. Kaguni: ,
1819, 1080 (2012).
2) P. M. Quiros, T. Langer & C. Lopez-Otin:
, 16, 345 (2015).
3) E. M. Jenkinson, A. U. Rehman, T. Walsh, J. Clayton- Smith, K. Lee, R. J. Morell, M. C. Drummond, S. N. Khan,
M. A. Naeem, B. Rauf : , 92, 605
(2013).
4) K. A. Strauss, R. N. Jinks, E. G. Puffenberger, S. Ven- katesh, K. Singh, I. Cheng, N. Mikita, J. Thilagavathi, J.
Lee, S. Sarafianos : , 96, 121
(2015).
5) M. Nolden, S. Ehses, M. Koppen, A. Bernacchia, E. I. Ru- garli & T. Langer: , 123, 277 (2005).
6) C. M. Haynes, Y. Yang, S. P. Blais, T. A. Neubert & D.
Ron: , 37, 529 (2010).
7) Y. Matsushima, Y. Goto & L. S. Kaguni:
, 107, 18410 (2010).
8) B. Lu, J. Lee, X. Nie, M. Li, Y. I. Morozov, S. Venkatesh, D. F. Bogenhagen, D. Temiakov & C. K. Suzuki:
, 49, 121 (2013).
9) C. Munch & J. W. Harper: , 534, 710 (2016).
(松島雄一*1,相原正宗*2,*1 九州大学大学院医学研究 院,*2 九州大学病院)
図1■ミトコンドリアマトリクス局在プロテ アーゼとミトコンドリアDNAの構造
(A) Lon, ClpXP, -AAAはmtDNAとともにミ トコンドリアマトリクスに局在している.(B)
ヒトmtDNAにコードされている遺伝子は矢印 で示したLSPとHSPの2つのプロモータから一 続きに転写される.
図2■LonによるTFAMの特異的分解
mtDNAのコピー数を減少させる条件下ではその減少量に比例し TFAMは分解されるが(上),Lonをノックダウンした細胞では TFAMが分解されずmtDNAコピー数に対し過剰となり転写阻害 を引き起こす(下).
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化学と生物 Vol. 55, No. 4, 2017 プロフィール
松島 雄一(Yuichi MATSUSHIMA)
<略歴>1998年名古屋大学大学院生命農 学研究科生化学制御博士課程修了/同年日 本学術振興会特別研究員(PD)/2001年ミ シガン州立大学生化学分子生物学部客員研 究員/2007年同上席客員研究員/2009年 国立精神・神経医療研究センター神経研究 所流動研究員/2012年九州大学大学院医 学研究院助教,現在に至る<研究テーマと 抱負>学位取得後は一貫してミトコンドリ アDNAの複製・転写・翻訳に関する研究 を行っている<趣味>柔道,史跡巡り,食 べ歩き
相原 正宗(Masamune AIHARA)
<略歴>2009年山口大学医学部保健学科 卒業/2011年同大学大学院医学研究科修 士課程修了/同年より九州大学病院検査 部,現在に至る/2014年九州大学大学院 医学研究院博士課程修了<研究テーマと抱 負>ミトコンドリアにおける品質管理機構 の謎を解明していきたい<趣味>カメラ,
広島カープ
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.227
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