第 3 章 応用例
3.2 自然連鎖 (Natural chains)
である.
以上で述べた有限状態空間上の連続時間出生死亡連鎖の結果を次の表にまとめた.
条件 方法 方法 方法
状態空間がn+1個 命題3.1.1 —– —–
状態空間がn+ 1個,ai=bi=u 定理3.1.4 (0≤u≤ 12) λ≥ (n2+1)u 2 —– λ≥
u2
2(n+1)2 n:奇数
u2
2n2 n:偶数
状態空間が5個 例題3.1.2 命題3.1.3 —–
状態空間が5個,ai, bi =u (0< u≤ 12) λ≥ 252u λ≥ 415u λ≥ u502 また,状態空間が5個,ai =bi =uのときのスペクトルギャップは,12(3−√
5)uであること が知られている.
である.
証明 ∂∗A={(x, y)∈ A:x∈A, y ∈Ac}とおくと,
Q(∂A) π(A) = 1
2
x∈A,y∈Ac
(K(x, y)π(x) +K(y, x)π(y)) 1
π(A) = (∂∗A) 4(n+ 1)2
(n+ 1)2 (A) .
が成り立つ.π(A)≤ 12を満たすAで,この値を最小にするものを考える.まず,Aに含まれ る格子点の数,すなわち(A)を固定したときに,(∂∗A)の値がを最小になるAの形を考え る.下記の通り場合分けできる.
(1) (A)< n+ 1 のとき,Aがχの隅の一つに集まり,その形が正方形により近い場合であ る.このAに対して,(∂∗A) は求め難い.
(2) (A) =s(n+ 1)となるs∈Nが存在するとき,下記の図のような場合である.
このとき,(∂∗A) =n+ 1であり,
min{Q(∂A)
π(A) }= n+ 1 4(A) が成り立つ.
(3) (A) =s(n+ 1)≥n+ 1, s /∈Nであるとき,下記の図のような場合である.
このとき,(∂∗A) =n+ 2であり
min{Q(∂A)
π(A) }= n+ 2 4(A) が成り立つ.
従って(2),(3)のとき,すなわち各(A)≥n+ 1では,Qπ((∂AA)) の最小値が(A)を調べるこ とに帰着された.(1)の場合は後で述べるとして,(A)≥n+ 1のときを考える.
あるs∈Nに対して,
(a) (A) =s(n+ 1)のとき,(2)の場合であるから,
(A)=s(nmin+1),π(A)≤12
Q(∂A)
π(A) = n+ 1
4s(n+ 1) = 1
4sである.
(b) (A) =s(n+ 1) +kのとき(但し,1≤k≤n),(3)の場合であり,
(A)=s(nmin+1),π(A)≤12
Q(∂A)
π(A) = n+ 2 4(s(n+ 1) +k). である.
(A)
(n+1)2 = π(A) ≤ 12 に従って,(n+1)u 2 ≤ 12 をみたす最大のu ∈ Nをとる.このuを,u = s(n+ 1) +k(s∈N,0≤k≤n)と書く.(a),(b)の結果より, 次で場合分けをする.
[1] k≥s のとき,(A) =uでIを決める.
[2] 0≤k < s のとき,(A) =s(n+ 1)でIを決める.
しかし,kはnによって決まるので,nに対する場合分けをする.
(i) (n+ 1)が奇数のとき,(n+1)2 2 は自然数にならない.従って,
u= (n+ 1)2
2 −1
2 = n
2(n+ 1) + n 2
から,k= n2,s= n2 であり,[1]の場合である.故に,(A) =u= n2(n+ 2)のときIになる.
(3)の場合であるから,
minQ(∂A)
π(A) = n+ 2
4(A) = (n+ 2)2 4n(n+ 2) = 1
2n.
(ii) (n+ 1)が偶数のとき,(n+1)2 2 は自然数になる.従って,u= (n+1)2 2.[2]のk= 0の場合 であり,(A) = (n+1)2 2.これは(2)の場合である.故に,
minQ(∂A)
π(A) = n+ 1
4(A) = n+ 1
4(n+1)2 2 = 1 2(n+ 1).
従って,(A)≥n+ 1のときには,定理が証明できた.
残りの(1)場合,すなわち(A)≤n+ 1について述べる.
1≤k≤n+ 1に対し,π(A) = (n+1)k 2 とする.
Q(∂A)
π(A) = (∂∗A) 4(n+ 1)2
(n+ 1)2
(A) ≥ 2√
k 4(n+ 1)2
(n+ 1)2
k = 1
2√ k ≥ 1
2n ≥ 1
2(n+1) n:奇数
21n n:偶数
上の等式の1つ目の不等式であるが,Q(∂A) の値を小さくするためには(∂∗A) を小さく とる.一番小さいときで,(∂∗A) = 2√
sになることを利用.
従って,この定理及び定理2.3.6(チーガー不等式)より,自然連鎖におけるスペクトルギャッ プλは
λ≥
1
32(n+1)2 n:奇数
321n2 n:偶数 である.
3.2.2 出生死亡連鎖の拡張による解析方法
自然連鎖の縦方向,または横方向の動きに着目すると,状態数がn+ 1個でai, bi = 1/2で ある推移行列Kを持つ出生死亡連鎖に従っているとわかる.故に,χ=χ×χ 上の自然連鎖 の推移行列Kは
K((x 1, x2),(y1, y2)) = 1
2K(x1, y1)δ(x2, y2) +1
2δ(x1, y1)K(x2, y2)
で与えられる.だだし,δ はクロネッカーのデルタとする.また,定常分布π はπ(x) =
(n+1)1 2 (x∈χ) である.補題1.6.1より自然連鎖におけるスペクトルギャップλは,χ上の出
生死亡連鎖におけるスペクトルギャップλを用いて,
λ= 1 2λ
が成り立つ.前節の出生死亡連鎖の評価結果を応用して自然連鎖のスペクトルギャップλを 評価すると,
● 前節・[方法I]命題3.1.1の結果より
λ≥ 1 2(n+ 1)2,
● 前節・[方法III]定理3.1.4の結果より λ≥
1
16(n+1)2 n:奇数
161n2 n:偶数 の評価を得る.
実際,W.Feller[WF] を用いると|χ| = n+ 1,ai = bi = 1/2の出生死亡連鎖のスペクトル ギャップは 1−cosn+1π である. 故に,
λ= 1 2
1−cos π n+ 1
である.