野では、聴診器、お医者さんや薬、病院、医療機器という のがそれぞれあったわけですが、だったら、これを一つに しちゃおうと、これがスマートナノマシンということにな りまして、こういうものができると未来が変わるだろうと。
未来がどう変わるのかと言うと、病院が体内にできちゃう という、そういうお話なんです。体内病院のシステムの考 え方は、医療コンセプトは、現在はもちろん病気を治すと いうシックケアが中心で、皆さん病院に行くわけですけど も、これはもう今、言われているように在宅にだんだんな るだろう、さらには、ウエアラブルになるだろうと。もっ と先は何なんだろうというと、これは体内病院になるんじ ゃないかと。つまり体内病院というのはどういうものかと いうと、いわば検出機能があると。体内の隅々まで張り巡 らせた異常監視検知システムであり、また、診断と治療 を行う、つまり体内で発生するあらゆる異常に対して対応 する能力、これが三位一体になって機能するという、そう いう仕組みが必要なんです。これは言ってみれば、体内の 持つ生体防御システムという免疫システムがありますよね。
要は免疫システムと非常に似てるわけなんですけども、免 疫システムを人工的につくるというよりかは、そういうも のを補完供用する総合システムというものを体内病院とい うふうに考えようということです。
そうなると、その中核技術は何かと言うと、体内を自律 的に循環して、いつも異常の検出と診断と治療をするウイ ルスサイズのスマートナノマシンという技術が必要になっ てくるだろうと。そういうものには、特定の細胞を撃つ、
体内のバリアーを超える、負担をかけずに治す、老化、外 敵から防ぐ、体内の微小環境を診ると、これができると社 会が変わると。こういった撃つ、超える、治す、防ぐ、診 る、変えるという機能を搭載していく必要があるわけです。
こういう話をすると、私ぐらいの世代はすぐこういう映画 を思い出すんです、『ミクロの決死圏』という。これ、多 分、若い方は知らないんじゃないかと思うんですが、私と 同じぐらいの世代のここにおられる方はご存知かと思うん ですが、ハリウッドのSF映画でして、これは人間の体の中、
かたおか・かずのり
1974年東京大学工学部合成化学科を卒業、79年同大学大学院工学系研究科、博士課程、工学博士を修了。同年から東京女子医科大 学助手、講師、助教授を経て、1989年、東京理科大学基礎工学部助教授、94年同教授に就任。1998年、東京大学大学院工学系研究 科マテリアル工学専攻教授に就任、2004年東京大学大学院医学系研究科付属疾病生命工学センター教授を兼務、昨年より現職の公 益財団法人川崎市産業振興財団副理事長およびナノ医療イノベーションセンターセンター長ならびに東京大学名誉教授・政策ビジ ョン研究センター特任教授に就任され、また、米国ノースカロライナ大学薬学部非常勤教授も務められ、この間、パリ大学、ミュ ンヘン大学、浙江大学などの客員教授や物質・材料研究機構、生体材料研究センターのディレクター等も務められました。
・専門分野:高分子材料工学分野、医用生体工学、ナノ医療技術分野
・その他:日本学術会議会員(第3部)、文部科学省各種科学技術関連委員、他多数参画
− 166 − コスメトロジー研究報告 Vol.26, 2018
血管の中なんです。これ、お医者さんです。乗り物ごとう んと小さくして、送り込む。血管の中から病気を診断、治 療するという奇想天外な映画なんです。私が見たのは、多 分、高校生ぐらいかと思うんですけども、これを見て大変 感激したことを覚えています。ですから、これはいってみ れば、まさにインボディーホスピタルというわけです。こ ういうものを創りたいということです。
そうは言っても、こんな奇想天外なことに研究費が出る のかということなんですが、実は出てるんです。それはど こから出てるのかと言うと、文部科学省から出てまして、
文部科学省の中にセンター・オブ・イノベーションという 仕組みがあります。これは 10 年プロジェクトなんですけ ども、10 年後、あるいは 20 年後の社会を頭に描いて、そ の社会を実現するために必要な要素技術を 10 年かけて開 発していくというプロジェクトでありまして、われわれが 行っているのは、ここにある、ちょっと長いんですけど、「ス マートライフケア社会への変革を先導するものづくりオー プンイノベーション拠点」、COINSというふうに呼んでい ますが。この COINS のプロジェクトが、現在、ナノ医療 イノベーションセンター iCONMで行われています。
この COINS の目標は、この拠点の名前にもあるように、
スマートライフケア社会をつくろう。それ一体何なんだっ て言うと、要するにいつでも、どこでも、誰もがと、つま りごく少数の人だけじゃなくて、誰もがいつでも社会的負 荷の大きい疾患から解放されて、気づかないうちに健康に なるという、この夢みたいな社会をつくりたいなというの が目標なんです。こういうものを実現するには、気づかな いうちに健康になっちゃうわけですから、病院に行くこと 自体が、もう気づいちゃっているわけです。だから、病院 に行かずに済むと言うと、必然的に体内病院ということに なるわけです。
そうは言っても、こんなものをどうやってつくるんだと 言うと、これは大きさがウイルスサイズですから、当然の ことながら歯車を組み合わせたり、材料を切ったりして作 るわけにはいかない。代わりにどうするのかと言うと、こ れはモレキュラーエンジニアリングであろうと。つまり、
分子を組み上げてつくっていくということになるわけです。
私のバックグラウンドは高分子化学ですから、高分子を使 うんですけども、ここにあるのは 1 本の高分子、長さは大 体 10 ナノメーター。ところが、高分子の分野にはいろん な高分子があるんですが、これはブロックを連結した高分 子、ブロックポリマーと言いまして、ちょうどレンガブロ ックが並んだような形になっています。こちら側がポリエ チレングリコールで親水性、こちらは体の中に入れて使い ますから、やたらなものは使えないので、例えばポリアミ ノ酸、こういうものを使います。この 1 本の高分子の中に、
いわば位置選択的にいろんな機能を合成化学的につくり込
んでいくわけです。つまり標的細胞に選択的に結合する機 能とか、薬や造影剤を担持する機能とか、ここが大事なん ですけども、細胞の中、あるいは組織の中の環境に応答し て構造が変化していく機能と、こういうものを作り込みま す。では、どんな環境が変化するのかと。これは後でお話 ししますけど、例えばpHが変わる、あるいは酸化還元電 位が変わる、あるいは ATP の濃度が変わる、そういうも のを検出して構造を変えていくということになります。
こういうものを水中に置くと、これは自己組織化と言い ますけど、自然に自己会合して、ウイルスサイズの会合体、
高分子ミセルと言うんですけども、これがわれわれが作ろ うとしているナノマシンのプロトタイプです。これ、電子 顕微鏡写真なんですけども、これ 100 ナノメーター、だから、
粒径が大体 50 ナノメーターです。これはちょうど C 型肝 炎ウイルスと同じぐらいのサイズになります。もちろんこ れはウイルスではありません。完全な合成物でありますけ ども、周りがポリエチレングリコールという親水性の高分 子で覆われていますから、これによって血中にこういうも のを入れると、ウイルスなんかを注射すると、すぐ異物と して免疫に引っ掛かってしまうんですが、ポリエチレング リコールでくるむことによって、そういった認識から免れ る。言ってみれば、ステルス爆撃機のような機能を獲得す ることができるわけです。
動画で、今のお話をもう一回お示しすると、こういうふ うに水になじむ高分子と水になじまない高分子を作って、
例えばそこにこういった抗がん剤を結合します。これを今 のように水中に置くことによって、これが自動的に会合を していって、こういった高分子の会合体ができてくるわけ です。今日は、このお話はしませんが、こういった単純な 構造だけでなくて、中空粒子を作ったり、あるいはタバコ モザイクウイルスのようなものを作ったりとか、もちろん、
そういうことがいろいろできますが、いずれにしても、こ の外側の殻が大変大事です。
そうは言っても、どのぐらいステルスになるんだってい うことです。最近は、顕微鏡の技術が大変進歩しまして、
こういうものを体に入れたときに何が起こるのかというこ とが、ちゃんと顕微鏡で見られるようになりました。これ は今、マウスの耳の毛細血管の中を見てまして、血小板 という血栓形成に関与する小さな血球、1 から 4 ミクロン、
これは緑の蛍光色素で標識しています。ナノ粒子は 100 ナ ノメーター以下ですから、はるかにこれより小さいはずな んです。ところが、ポリエチレングリコールの殻がない状 態で血中に投与すると、血小板と大きさが同じになってる。
つまり、これは一瞬のうちにダマができちゃうんです。ダ マができて、しかも黄色の部分が見えますから、これは血 中でペタペタと血小板にくっついているというわけです。
ですから、こういうことが起きると、これはまずいわけ