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II.2.2 理論コンテスト
(1)
はじめに本年度はマークシートの導入とい うことで,全問択一式とした。論述抜き で物理の思考力が問えるのかという点 で議論があった。しかし,例年も広い参 加者へ敷居を低くすることと,採点の手 間もあり,択一式の問題が多かったこと も事実である。共催団体である
JST
の 要請も考慮し,英断することになった。0 20 40 60 80 100
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95
得点分布
一方で例年通り,教科書,参考書等1冊の持ち込みを可とした。実態として,持ち込み だから解けるという問題はほとんどないのであるが,物理は法則や公式を暗記するもの ではないという,メッセージでもある。以下の点が作問の際に心がけたことである。
(1)
平易な問題から,考えさせる問題まで,難易取りそろえる。(2)
高校物理の範囲を意識しつつも,必ずしもとらわれない。平均点は
47.7
点,最高点は94
点(3
名),最低点は9
点であった。通過者人数の
70
人強の得点は75
点であるから,選抜試験の分布としてもまずまずで あったと思われる。(2)
個々の問題の分析マークシート方式の利点として,採点と得点集計の人的な手間がかからないことは もちろんであるが,副産物として,個々の問いについて詳細な分析が可能であったこと がある。
解答分析をしてみると,予想通りである点と意外な部分と両方が見えてくるが,全 体を概観すると,計算問題よりも,概念的な問題に弱い傾向にあるのは,受験訓練をし た大学生や一般の高校生と同じ傾向にある。
結果的に最も正解率の高かった問題は,第1問の問3で
86.7
%であった。これは 階段を上るときの仕事率の大小関係を問う問題で,数値計算を個々にしないと選べない 問題であるが,逆に概念的に迷うところがなかったと言えよう。最も正解率 の低い問題は第3問Bの問4で,内部 抵抗をもつ乾電池3個を接続した回 路内の電位差を求める問題(右図)で あった。実は昨年も候補となった問題
であったが難しすぎるのではないかと,見送った問題で,
予想通り
10.6
%という結果になった。これは内部抵抗を仮 定し,キルヒホッフの法則を用いれば正確に求められるの だが,受験者はまったく異なる文脈から解答を出す傾向に あった。同様に,正答よりも選択率の高い誤答をもった問題が,
10
問あった。たとえば右上図から下図への切り替えで豆電 球Bの明るさの変化を問う第3問の問2で,見方によれば 小学生レベルの問題でしかない。Bは明るくなるのである が,「変化しない」という誤答に導かれたのは,「電池は定 電流電源である」という思いこみ,または,「豆電球は自身第4問,第5問は高校生の学習していない題材(原子核,宇宙)であったが,狙い としては学年によらない思考力を問うたものであると同時に,物理の魅力と奥深さを感 じて欲しいというものであった。おそらく,持ち込んだ参考書でもその題材に触れてい るものは少ないはずである。つまり,知識でなく思考で十分に解答できるしくみであっ たのであるが,問題文中に与えられている概念を素直に受け容れることのできない受験 者も少なからずいたと思われる。
第4問の問4は,原子核の結合エネルギーにかかわる問題である。結合エネルギーの 大小について,正解の①を選んだもの
30
%に対し,不等号の関係がちょうど逆になる②を選んだものが
38
%であった。結合エネルギーが「エネルギーの低下分」という説 明があるにもかかわらず,「エネルギーが大きい」という逆のイメージに引きずられた 誤答が多かったことになる。第5問の問1は「遠方ほど年周視差が小さくなる」ことが理解できないものが過半 数であった。年周視差1秒の距離を「1パーセク」としたとき,最も近い恒星で年周視 差
0.76
秒のケンタウルスαの距離は1/0.76
=1.3
パーセクであるが,正解25
%に対 して,0.76
パーセクと答えたものが55
%であった。これも,天文についての特殊な知 識は不要で,必要なことはすべて問題文中に与えられている。(3)
出題の題材についていくつかの例を挙げたが,学校で既習であるかどうかと難易の間には直接の相関は ない。豆電球でもじゅうぶん難しい。一方,宇宙や原子を題材にしても,知識でなく思 考を問うことが可能である。宇宙や原子の話は高校物理Ⅱでも選択範囲であり,多くの 学校でカットされている現状がある一方で,生徒の気持ちを引きつける内容でもある。
チャレンジの出題によって,興味が持てることを期待している。
II.2.3
実験コンテスト(1)
はじめに応募に際して実験課題を課しているのは,他の科学オリンピック・コンテストにな い,物理チャレンジの特徴であると言えよう。実験を軽視したり,その反動で問題集に 見られるような特殊な状況がさも一般的であるような錯覚をし,自然に対するゆがんだ 見方をする高校生が少なくない中,実際に工夫をすることで現象を深く理解する機会を もってもらうことを期待している。いろいろな制約の中で,身近な素材で,自宅でも学 校でも行えて,危険のないような題材を毎年工夫している。
今年の課題は<氷の密度をはかってみよう>であった。常温では解けてしまう氷の 密度を,いかに工夫して測るか,コンテスタントの想像力に期待した。さまざまな制約 の中で,正確な測定を目指すためにどのような工夫をしたか,特に以下の点を評価した。
① 複数回,または複数の条件下で測定をし,精度・信頼度の向上を目指している
② 複数の方法を試み,その適否の評価をしている
③ 誤差などデータの客観的な解析を行っている
④ 実験手順,結果,考察などわかりやすく表現できている
(2)
応募レポートについて非常に緻密な実験を行い,また,研究論文としての構成をじゅうぶん踏まえた力作 がいくつか見られた。一方,がさつな実験や投げやりなレポートが見られたのは残念で ある。大量応募の学校には,教員の指導が行き届いた学校と,失礼ながら無理矢理応募 させておいて放置していたとしか思えない学校との落差をうかがい知ることができた。
しかしながら,多くの応募者から,工夫や努力に富んだレポートが寄せられ,チャ レンジャーの知的好奇心を刺激することには成功したようである。高2以下の優秀レポ ートが多かったことも収穫であった。以下,いくつか特徴的な工夫を列記する。
・純粋な氷を作るために精製水を利用した。
・溶存気体を取り除くために加熱したのちに冷却した。
・0℃以下の液体で氷が沈む液体をいくつか用意して比較した。
・水に完全に沈めるためにおもりを利用した。
・体積と質量を測るのでなく,浮力を測って液体との密度の比を求めた。
・氷と同じ比重になる液体を調製した。
・温度の影響をなくすため,冷凍室内で実験を行った。
・液体状態と凍らせたのちの体積変化をはかった。
・さまざまな液体を凍らせ,その密度を測った。
た。
(実験優秀賞受賞者)
上原雅俊(筑波大学附属駒場高等学校
1
年)上原悠治(筑波大学附属駒場高等学校
1
年)佐藤 遼太郎(秀光中等教育学校
5
年)鈴木仙里(暁星国際高等学校
3
年)濱崎 立資(栄光学園高等学校
3
年)福岡和也(藤島高等学校
3
年)福永健悟(東邦大学付属東邦高等学校
2
年)船曳 敦漠(桐朋高等学校
1
年)【評価基準】
SS,SA:特に優れている-オリジナルな考察,緻密な解析などがある AA,AB:優れている-複数の方法や,誤差など客観的な結果の評価がある BB,BC:標準的-複数回測定するなどの努力をしている
CC,CD:やや努力を要する-原理的には測定に成功しているが,ものたりない DD:たいへん努力を要する-原理を理解していない,実験を行っていないなど
レポート総数
836
通評価