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核不拡散措置と核拡散抵抗性

ドキュメント内 原子力の平和利用戦略に係る調査研究(3) (ページ 50-62)

8 章  核不拡散措置と核拡散抵抗性

核エネルギーの平和利用と軍事利用は表裏一体の関係にあり諸刃の剣である。人類の進歩は 火を使うことから始まり、より強力な武器を持つ部族が権力を持ち、経済力を高めてきた。産 業革命はエネルギー密度の高い石炭火力の作る水蒸気エネルギーを活用することから始まり、

生産性が飛躍的に増大し、現代社会の基礎を形成した。この進歩の中で、強力な火薬、ダイナ マイトが発明され、道路、水路建設等の大規模な土木工事を可能にし、経済活動は拡大した。

他方、この火薬は、兵器を一新し、地雷から機関銃等の小型武器、長距離砲と爆弾、そしてロ ケット弾等、現代兵器の開発と高性能化を進め、戦争の形態までも変えてしまった。

1kgのウラン(U-235)が持つエネルギーはおおよそ20万トンの化石燃料が燃えた場合に発 生するエネルギーに相当する。この核エネルギーは、平和利用に徹すれば、人類社会への貴重 な贈り物であり、新たなエネルギー源である。しかし、このエネルギーを悪用すれば地球を破 滅に陥れる最悪の凶器となる。核エネルギーをどのように使うかは人類が決めることであり、

平和利用を推進するには、人々の、そして国々の利害を超えた英知を結集する必要がある。

原子力の平和利用が開始されてから半世紀、核拡散抵抗性という考え方が出てきてから四半 世紀経ったが、この間に原子力を取り巻く状況は大きく変わった。最初の四半世紀は、原子力 の研究開発の時期であり、続く四半世紀は軽水炉を中心とした原子力発電が産業として定着す る時期であった。そして、IAEA 保障措置制度の有効性を保証する理論を確立し、制度として 定着した時期でもあった。原子力の平和利用は、当初使用済燃料を再処理し、回収したプルトニ ウムを核燃料とする高速増殖炉の活用へと進むと見られていたが、核兵器の拡散を防止するた めに再処理を止め、軽水炉の核燃料をワンススルー処分するとする動きが続いた。再処理をし なければ分離プルトニウムを保有することはできない。そして、プルトニウムに強い放射性物質 を混入しておけば、使用済燃料と同様に容易に人が近づけない。この考え方が核拡散抵抗性の強 化という概念の基礎となっている。すなわち、平和利用の核物質及び技術等の核兵器開発への転 用を防止する手段の一つとして提案されたものである。

IAEA 保障措置が強化され、核物質防護措置の整備が進む中で、ワンススルー処理すること によって将来の世代に「盗掘され、プルトニウムが回収される」という核拡散のリスクを負わ せるよりも、再処理して、プルトニウムを厳格な不拡散措置の下でエネルギー源として活用す るべきであるとの議論が米国内でもおきている(第7章  4.3項)。

最近、保障措置の有効性を再認識する政治的な動きがでてきた。すなわち、2003年10月の

第8章  核不拡散措置と核拡散抵抗性

IAEA事務局長の提言1であり、2004年2月におこなわれた米国大統領の提案2(大統領発言)で ある。これらの提言と提案は、依然としてIAEAは包括的保障措置協定に基づく限定された査察 権限しか行使できていない(許されていない)ことを前提としている。すなわち、IAEA保障措 置を強化する必要があるとされている点は「未申告施設および未申告活動を見つけるのに必要 な処方と手段(力と権利)を備えていない」とするものである。これらの措置は何れも追加議 定書に組み込まれており、IAEAは十分な手段と権利を備えている。

IAEA理事会で追加議定書を承認した時に英国、ドイツ、フランス、そして日本に加えて米国 は「追加議定書はIAEAに未申告施設と未申告核物質の有無を検証するために必要な権限を付与 し、有効な検認の手法と手段を与えた」と認めた。追加議定書を批准し、履行している国が原 子力の平和利用の一環としてウラン濃縮施設あるいは再処理施設を持つことが核不拡散体制を 弱体化するという理由にはならない。 2003年10月に英独仏の外相は、イランが「追加議定書 を批准しその規定を遵守することを条件に、NPTに基づく原子力の平和利用を進める権利」を 持っていることを認め、NPTの枠内で原子力利用を支援すると表明3した。そして、 2004年1 月、米国議会上院で行なわれた審議4において、追加議定書の規定は未申告の核兵器開発の検知 ばかりでなく、核兵器開発に繋がる核物質および技術の拡散に関連する証拠を捜査する有効な 手段を定めていると、その批准に向けた前向き議論がなされ、イラン、リビア問題も追加議定 書が批准されていれば早期に解決できていたと報告されている。そして、3 月には大統領が批 准することを承認5している。

本章では、核不拡散体制を支えている主要な措置、IAEA 保障措置、核物質防護措置、原子 力機器の輸出管理、そして核拡散抵抗性についてこれらが整備されてきた経緯と概要、そして 現状を紹介する。

8.1  保障措置について

8.1.1  平和利用の始まり−国際原子力機関(IAEA)の設立とIAEA憲章−

原子力の平和利用促進と核不拡散措置の履行を主な目的とし、1957 年IAEAが設立された。

1 IAEA事務局長は、追加議定書に基づく査察権限の強化、核物質輸出規制の強化、濃縮・再処理等の多国

間管理等を提言した。 

2 ブッシュ大統領は核不拡散体制の強化策として、核拡散にかかる規制及び国際管理の強化、旧ソ連邦の 核弾頭等のセキュリティ強化、実用規模の濃縮・再処理施設を持たない国への関連技術等の移転の制限、

IAEAの査察機能の強化等、7 項目を提案した。

3 Iran’s Pact: “Full Cooperation”, The New York Times, October 21, 2003

4 Additional Protocol Hearing Opening Statement Senator R. G. LUGAR, January 29, 2004

5 Ratification of U.S. Protocol Between the United States and IAEA, U.S. DOS Press Statement April 1, 2004

第8章  核不拡散措置と核拡散抵抗性

設立に伴い制定されたIAEA憲章では、各国の原子力の平和利用を促進するために、及び、IAEA が供与した核物質6が軍事目的に利用されていないことを確認するために、また締約国からの依 頼があった場合に保障措置活動を行うことと規定された。

平和利用の促進についてIAEA憲章第3条では「全世界における平和利用のための原子力の 研究、開発及び実用化を奨励しかつ援助する」とし、「世界の低開発地域におけるその必要性に 妥当な考慮を払った上で、この憲章に従って、物質、役務、設備及び施設を提供する」と規定 している。この条文が原子力の平和利用を加速する原動力となった。

一方、平和利用物質が軍事目的に使用されていないことを確認するための措置として、保障 措置の適用が平和利用を推進するための条件であると規定されている。すなわち、憲章第 12 条には、概ね次のように保障措置活動の範囲と目的を規定している。

- 原子力関連設備及び施設の設計を検討し、その設計が軍事目的を助長するものでは無い場 合のみ承認すること。

- 原子炉等で照射した物質の化学処理方法を、その処理が軍事目的へ転用するためのもので は無い場合のみ承認すること。回収されたまたは生産された特殊核分裂性物質は、継続的 にIAEAの保障措置下で平和目的に利用されるように要求すること。

- 査察官を受領国及び平和利用計画を提出した関係国へ派遣すること。

 

IAEA憲章に基づく当初の保障措置はモデル保障措置協定文書INFCIRC/26 により実施され、

平和利用活動が拡大するにつれ、INFCIRC/66に移っていった。このモデル協定に基づく保障措 置の目的は「IAEAが提供した特殊核分裂性物質その他の物質、役務、設備、施設及び情報がい かなる軍事目的をも助長するような方法で利用されないことを確保するための保障措置を設定 し、かつ、実施すること、及び、いずれかの2国間または多数国間の取り決めの当事国からの 要請を受けたときには、その国の原子力の分野における諸活動に対して保障措置を適用するこ と」となっており、IAEA憲章の保障措置の目的と同じと見ることが出来る。そして保障措置の 適用範囲には各国が独自に進める原子力開発は含まれておらず、国内で産出されたウランや当 該国の自主技術で生産されたプルトニウムなどは、その国からの要請がない限り、保障措置適 用対象とはしない。日本も当初はこの保障措置協定の下で原子力開発を進めていた。しかし、

2003年12月現在、この保障措置の適用に拘り続けている国は、イスラエル、インド、パキス タン、キューバの4カ国のみである。

6  加盟国から供出され、IAEAの管理下に置かれた核物質は、米国の5,000kg、ソビエト50kg、英国20kg 等のウラン等である。David Fischer, “HISTORY OF THE INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY”, IAEA 1997, ISBN 92-0-102397-9

ドキュメント内 原子力の平和利用戦略に係る調査研究(3) (ページ 50-62)

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