Ryuichi Utsugi, M. D.
Clinic UTSUGIryu
私は、美容形成外科医です。美容外科というのは顔の美 を追究する医学ですから、はじめて美容外科を習いはじめ たときに、ある程度科学的に顔の美の理論が解明されてい るだろうと期待して、いろいろな先生に聞いてみました。
しかし、みんな異口同音に顔の美なんていうものは理屈じ ゃ語れないものだから、勘とセンスを磨くしかない、とい うようなことを言われました。顔の美の基準については、
歴史的にいろいろな理論が考えられていますが、形がいく ら美の基準に近づいても、かならずしも魅力的な美しい顔 になる訳ではないというのです。
私は医学として美容外科をやる以上、できるだけ科学的 な理論に基づいて手術をすべきだと考えました。患者さん の希望する手術は、やる方がよくなるのか、やらないほう がよいのか? どこを治せばどのぐらいよくなるのかとい うようなことを手術前にわかるようになりたいと思ってい たところ、アメリカで研究をする機会に恵まれました。そ のときに、私なりにまとめた顔の美の科学的理論について 一部ご紹介したいと思います。
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美容外科というのは患者さんのシンデレラ願望を満たす 科です。手術をした翌日からは別人のように美しくなった 私になることを手助けする科です。私の専門は、単に二重 にするとか、胸を大きくする手術ではなく、より美しく若 返らせる再建美容外科ともいうべき分野をやっております。
特に、しみ、しわ、たるみといった美容的アンチエイジン グ治療が専門です。もともとは、形成外科で顔面奇形と顔 面変形の治療をやっておりました。
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魅力的な美しい顔の作り方を考えてみますと、美しい顔 がどのようなものかを説明するよりも、美しくない顔を説 明するほうがはるかに簡単です。例えば美しくない顔をつ くりたければ、前歯が1本ない笑顔だけで、美しさや品位
というのはすぐに損なわれてしまいます。マイケルジャク ソンのように極端に細い鼻がついているだけで、全く不自 然な顔になり、とても美しいとは言えなくなってしまいま す。また、一般的には顔の美というとパーツ間の形、比率、
大きさなどについて語られます。また、顔の美というもの を別の角度からみてみますと、例えば、エチオピアのムル シ族は、口唇にいれる皿が大きいほど美人ですが、これは もちろん最初から、唇に大きな皿をつけた顔が美しかった わけではなく、異常な形をしていると、昔は奴隷刈りに連 れていかれず、子供を育てあげることができる安全性がだ んだん美しいと認識されるように変わってきたのではない かと考えられます。
つまり元来醜い、異常な顔だったはずなのに、それがそ の種族にとっては美に変換されており、これは教育、すり 込み、洗脳の結果で、このようなタイプの美もあるわけです。
顔の美や魅力というのは、時代や人種、習慣とか地域な どによって異なりますけれども、それでも尚、すべてに共 通した美の基準というのもあるはずです。実際、これまで いろいろな人が様々な美の基準を考案してきました。比較 的最近議論されたものが、平均的な顔は美しいという理論 で、今から 100 年ぐらい前に、Nature に発表されました。
たくさんの人の写真を重ね焼きしてできた顔が一番美しく なるという説ですが、15 年ほど前に、やはり Nature に平 均顔はかならずしも美しいとはいえないと、100 年前の説 を否定する論文が掲載されました。結局、科学的に考える と顔の美しさは、やはり一言では語ることができないとい うことにおちついているといえます。
美容外科手術の目的は美の追究ですが、顔の美の基準は 千差万別で、客観的に診断、評価することはできないとい われています。千差万別であるにもかかわらず、患者さん とのコミュニケーションをとることすら難しくて、患者さ んの希望を医者が正確に把握することができないという危 険性もあります。そこで、私は手術前にコンピューター上 で、患者さんの写真を使って、患者さんの希望する通りの 手術を行えば、本当に患者さんは満足してくれるのかを調 べています。例えば、患者さんが、ある女優に似た顔にな るために手術を希望したとします。患者さんは、目や、口 だけでも、この女優の顔のように治してくださいと言って くるわけです。そこで、写真上で女優のパーツを患者のも コスメトロジー研究振興財団
第 18 回表彰・贈呈式記念講演
場所:日本薬学会 長井記念館ホール 日時:平成 19 年 11 月 20 日(火)
コスメトロジー研究報告 Vol.16, 2008
のと入れかえて、本当に満足するか確認するわけです。
実際それをやってみますと、ほとんどの患者さんは、そ の結果に満足しません。それが美容外科の問題点なわけで す。たとえ患者のパーツを全部めざす女優の形に変えても、
期待するイメージにはならないのです。そこに患者の錯覚 があるわけです。メーキャップアーティストのもとにも、
ある女優に似た化粧をしてくださいと希望する人が来ると 思いますが、希望をかなえることは単純ではなく、大変に 難しいと思います。
次に、ふたつの顔の皮膚を画像処理して白くすると、両 者同じ顔であることが明らかになります。画像処理する前 の顔の違いでわかる様に、皮膚の部分が違うだけで、たと え眉、目・鼻・口などのパーツの形が一緒であるにもかか わらず、顔の印象は全く違ってしまいます。
顔の印象や美醜の違いは、パーツの形ではなく、皮膚に あることはこれで明らかになりました。皮膚の美しさこそ 顔の美しさ要因であることは、美容形成外科医としては大 きな驚きでした。そこで、顔の美醜を決定する皮膚の要因 について検討してみました。輪郭の違いでしょうか?
輪郭をそろえてみます。それでも、やはり右と左の顔の美 しさというのは違います。左右の写真をさらに光の反射し ている部分(hilight)と影の部分(shadow)とに分けて みると、光の反射している部分(hilight)だけの顔のほう が、shadow の部分だけよりも顔の美しさが判断し易いこ とがわかります。shadow だけを見てみると、どっちがき れいだか一見わからない。人は shadow の部分ではなく、
hilight の部分を見て、きれいかどうかを判断しています。
shadow の部分だけをピックアップして表現してみます と、顔のしみ、にきび跡、その他点状斑状の shadow を取 り除くと明らかに美しく見えるようになることから、それ らの shadow が顔の美を妨げていることがわかります。特 に、目の下や口の周りの shadow を消すと、顔は劇的に美 しくなります。これは私にとって非常におもしろい発見で した。これによって私は皮膚をきれいにすることに大変興 味を持つようになりました。
顔の美や、顔の魅力というのは、パーツの形プラス、フ ァンデーションの領域、つまり皮膚の美しさが合わさっ て初めて生まれるものです。顔にできる影は美を損ねるの で、化粧で白塗りをして影を隠すことで美しくなる。顔の shadow というのは、肌表面のでこぼこ、大小の凹凸です。
また、肌の色むら、しみ、発赤、赤ら顔、皮膚の萎縮でキ メが消えてつるつるした部分など、ほんのわずかな影が顔 の美を損ねています。
写真の撮り方によって、別人のような写真に写ることが ありますが、それはたいてい影のでき方の違いです。これ まで目の形、位置、口の形、などパーツが顔の美の要素で、
それについてしか語られていません。私はアンチエイジン
グが専門の美容外科医ですから、私は影の治療をしていま す。まず色むらを治療します。色黒か色白かは問題ではあ りません。黒くても白くてもどっちでもいいですから、と にかく均一な色の肌を目指します。
次に、しみ、くすみ、発赤がない顔。それから、しわ、
でこぼこ、たるみがないことが若くて美しい顔になるため には重要です。
顔をコンピュータで二値化処理すると、光の反射のつよ い領域が hilight area として表されます。hilight area は、
顔の立体的構造に応じて、卵形、クローバーリーフ型、逆 三角形に分けることができます。昔の日本人の美人は、卵 形、アフリカンなどのエスニックタイプの美人はクローバ ーリーフ型、美人女優のほとんどは逆三角形です。
この hilight area の形や辺縁の線が乱れてぎざぎざが入 ってしまうと、たちどころに顔はきれいには見えなくなっ てしまいます。
つまり hilight area の形をきれいに整えるというのは、
卵に目鼻のようにスムーズな肌の局面、凹凸がない、ざら ざらがないということです。肌に凹凸だとかざらざらだと かができると、それが陰となり、顔はたちどころに醜くな るわけです。
通常、図1の左の人が例えばきれいな顔になりたいと思 った時に何を考えるかというと、目の形を変えよう、鼻を 高くしよう、あごを削ろうか、などと形を変えることを考 えていたわけです。
ところが、図1の右のように皮膚をきれいにすれば、形 は同じでも、劇的に美しくなれるということが、美容外科 医としてわかってきたわけです。老化というのは、このハ イライトが乱れて、余計な影がたくさん増えるというのが 特徴です。若いときはきれいに整ったハイライトをしてい
図1 左右の写真は、皮膚以外の眉目鼻口、輪郭は全て同じで あるにもかかわらず、顔の印象はまったく別人である。皮膚 が顔の美にいかに重要であるあるかがわかる。これまでは、
顔の美は形態の問題と考えられてきたが、今後は皮膚の重要 性がますます認識されると思われる。