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原子力の平和利用に由来する不拡散への対処

ドキュメント内 米国の核政策および核軍縮・不拡散政策 (ページ 78-95)

―米国の「不拡散レジーム」観の考察―

秋 山 信 将

はじめに:核拡散の懸念の高まりと平和利用の拡大

(1) 北朝鮮、イランの核開発と平和利用の「論理」

核拡散の問題はその多くが原子力の平和利用と密接に関わっている。とりわけ、技術や資機 材、物質の国際的な移転を伴う場合については特に懸念が高まっている。北朝鮮による核開発 は、当初1960年代のソ連による協力の下に始められた原子力プログラムが嚆矢である。1985 年に核兵器不拡散条約(NPT)に加入した北朝鮮は、1992年に国際原子力機関(IAEA)と包 括的保障措置協定を締結した。その際の冒頭申告に対し、IAEAは北朝鮮における未申告プル トニウムの存在などついて疑義を呈し、特別査察を要請した。北朝鮮はこれを拒否したが、そ れ以降もしばらくの間、自国の核開発は平和利用であると主張し続けていた。平和利用を担保 するはずのIAEAによる保障措置の実施も、受入国の抵抗が強固な場合には保障措置のメカニ ズムそのものを機能させることがきわめて困難である事例として、北朝鮮の核問題は非常に重 要な教訓を国際社会に与えた。

さらに、NPT締約国が核兵器開発を行ってNPTから脱退を宣言し(2003年)、核保有を宣言

(2005年)した事例は、北朝鮮が唯一である。核保有を企む国にとって、NPT第10条の脱退の 権利について実際にこれを行使するという、いわゆる「脱退シナリオ」が、今後「合法的に」

核武装を可能にするために国際的不拡散制度を悪用するための選択肢となりえることが認識さ れることとなった。

そしてその可能性に近いのがイランである。イランは、1970年にNPTを批准し1974年には IAEAと包括的保障措置協定を結んだ。2003年には追加議定書にも署名した(未批准)が、2002 年に未申告の濃縮施設、重水施設の建設が露見し、その後もウラン濃縮などさまざまな活動や 計画を未申告で行っていたことが判明した。米国は、豊富な化石燃料資源を持つイランに原発 は不要との立場から、原子力供給国に対し、対イラン原子力協力を控えるように要請した(し かし、ロシアはブシェール炉の完成、燃料供給を約束)。

2005年8月に欧州連合(EU)の3カ国(英、仏、独)、すなわちEU3がイランに対し妥協案を 提示した。この案には、機微な燃料サイクル活動を放棄する場合の「インセンティブ」パッケ ージに、民生用原発と研究のための計画を支援すること、使用済み燃料を供給国にすべて返還 することを条件とした民生用原子炉への燃料提供が含まれていた。このことは米国も承認済み であったが、イランがこの提案を拒否した。その後も再びEU3が中心となり、これに米、露、

中を加えた6カ国がイランと交渉を行ったが不調に終わり、IAEA理事会での決議を経て国連安

全保障理事会に報告され、2006年12月には国連憲章第7章に基づく制裁措置を含む国連安保理 決議1737が可決された。しかし、このような国際社会からの要請・圧力にもかかわらずイラン は濃縮活動を停止していない(2007年3月10日現在)。

イランは自国の濃縮計画を平和利用であり、NPT第4条の奪い得ない権利であると主張した。

しかし、その一方で、未申告の活動が保障措置協定に違反する点、いわゆる「カーン・ネット ワーク」と呼ばれる核の闇市場からさまざまな情報や資機材を調達した点から、その本当の意 図は核兵器の開発にあったのではないかという強い疑義がもたれている。しかし、現状の保障 措置協定(イランが署名し、未批准ながらその取り決めに従ってIAEAの保障措置活動を受け 入れるとした追加議定書も含め)では、「意図」について検証する手段がなく(おそらく将来に わたって不可能であろうと思われるが)、イランの核計画が軍事目的であるのか、民生利用に限 定されるのかは、それが核兵器の開発として具現化するまでは判断が困難である可能性も否定 できない1。その場合、核保有直前まで合法的にその技術力や能力(モハメド・エルバラダイ<

Mohamed ElBaradei>IAEA事務局長のいうところの「潜在的(latent)」核能力)を持ち、そ の後にNPT脱退を宣言するというシナリオが具現化することになる。

米国が、北朝鮮のようなNPTやIAEA保障措置協定の不遵守の問題、イランによるNPT第4 条に規定された平和利用の「奪い得ない権利」の濫用(もしくは「脱退シナリオ」)について懸 念を抱いている2のは当然であるが、こうした問題は多かれ少なかれ原子力の平和利用の拡大に 必然的に付随して高まるリスクでもある。

(2) 原子力の平和利用の高まり

このように原子力の平和利用に係る核拡散の懸念が根強く存在し、またそうした懸念に対処 するための方策が不完全であることに対する問題意識が高まる一方で、国際社会では原子力の 平和利用が拡大する兆しを見せている。

欧州では、イギリスのブレア政権が閉鎖予定の旧式の原子力発電所を閉鎖しその代わりに新 たな原子炉の新規建設に向けた動きを進め3、またドイツでは従来脱原子力の方針(1998年)

1 当然、現実には濃縮や再処理以外の施設の存在が判明すれば、ア・プリオリに判断を下すことは可能で ある。

2 Dr. Christopher A. Ford, U.S. Special Representative for Nuclear Nonproliferation, “The NPT Review Process and the Future of the Nuclear Nonproliferation Regime,” Remarks to the NPT Japan Seminar—NPT on Trial: “How Should We Respond to the Challenges of Maintaining and Strengthening the Treaty Regime?” Vienna, Austria, February 6, 2007. 上記のペーパーでは、懸念を 表明してはいるが、対処方法については「欧州の提案を支持する」と述べられているのみである。

3 ただし、反対派による訴訟で裁判所が、政府が新規建設に関する検討において経済性等に関する情報が 不十分との判断を下したことから、計画が遅れる可能性がある。たとえば、 “Court Blew to Blair’s nuclear Plan,” The Financial Times, February 15, 2007, <http://www.ft.com/cms/s/

を打ち出していたが、政権交代を機に従来の方針を再考し、原子力のあり方について見直そう という機運が出てきた4

エネルギー消費量の増大が著しいアジア諸国においても原子力の導入が積極的に検討され ている。中国は、現在680万KWの原発による発電量を2020年までに4000万KWにする計画で あり、高速実験炉(2009年臨界予定)、高速増殖原型炉(2020年までに開発予定)などの研究 開発も進めている。インドでも現在総発電量の3%弱である原子力発電の割合を倍増させ、2020 年までには2000万KWにまで拡大させたいとしている。そのほか、ベトナム、インドネシアな どでも原子力発電導入の計画がある。また、中東においてもエジプトが原子力発電計画を明ら かにし、また湾岸協力会議(GCC)6カ国が原子力の平和利用を進めることを共同で打ち出し た。

このように、国際社会では原子力の平和利用を拡大する潮流が拡大しているが、同様に米国 においても、原子力の平和利用拡大の動きは、発電、研究開発の両分野において拡大している。

ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権は、2001年の「国家エネルギー政策」(NEP)

に基づいて2002年には「原子力2010計画」(Nuclear Power 2010 Program)の中で2010年ま でに原子力発電所の新規建設に着手することを目指している5。地球環境問題への関心が高まり、

二酸化炭素の排出規制に向かう動きも出ている中、原子力発電の役割への認識が高まっている。

従来原子力発電に対して否定的な姿勢を示していた民主党陣営でも、原発容認派が増えている。

たとえば、ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長やハリー・リード(Harry Reid)上院 院内総務6など伝統的にリベラルと見られた重鎮層も、原発を容認している。民主党中道層に近 いシンクタンク、センター・フォー・アメリカン・プログレス(Center for American Progress)

が発表した報告書『21世紀のエネルギー安全保障』では、再処理には反対しているものの原子 力発電については容認する姿勢を見せている7

現在32基の新規建設の許可申請に関する意図表明がなされており、また政府側も新規建設の ためのインセンティブとして、許認可制度の合理化、新型炉型の形式認可許可申請までの開発 76c6d25c-bce5-11db-90ae-0000779e2340.html>.

4 連立政権のため、現在のところ政策協定上従来の方針を変更することはできないことになっている。

5 National Energy Policy, Report of the National Energy Policy Development Group, May 2001. 「原 子 力2010計 画 」 に つ い て は 、 エ ネ ル ギ ー 省 ホ ー ム ペ ー ジ <http://www.ne.doe.gov/np2010/

neNP2010a.html>を参照のこと。米国における原発の新規建設は1974年以来途絶えている。

6 しかし、リード上院院内総務はネバダ州出身のため、ユッカマウンテンの処分場には強硬に反対する立 場である。そのため、逆に核燃料サイクルを認めることも考えられる(長期中間貯蔵の可能性もあるが)。

7 Energy Security in the 21st Century: A New National Strategy, Report of the National Security Taskforce on Energy, July 2006. センター・フォー・アメリカン・プログレスは、ジョン・ポデスタ(John Podesta)元大統領首席補佐官が中心(現在所長を務める)となって設立されたシンクタンクで、マデレ ーン・オルブライト(Madeleine Albright)元国務長官も参加している。また、カーネギー国際平和財団に いた不拡散問題専門家のジョセフ・シリンシオーネ(Joseph Cirincione)が在籍する。

ドキュメント内 米国の核政策および核軍縮・不拡散政策 (ページ 78-95)