第 4 章 環 88
4.7 単項イデアル整域
4.7.3 単項イデアル整域
のときであるが、このとき
an+bx= 1, am+cy= 1 が解けるので、辺々掛けて
a(anm+ncy+bxm) +bxcy= 1 よって定理2.4.62より(aX+ (xy)Z= 1の形なので)
gcd(a, xy) = 1 である。一方az=xyより
a|gcd(a, xy) であるからこれは矛盾である。
4.7. 単項イデアル整域 107 とできる。ここで、x∈I, dq∈Iであるから(Iは加法部分群なので)
r=x+ (−dq)∈I
となる。しかるに、dはIの正の元の中で最小のものだったのだから、r≤d−1がIに入っ ていることはもしr >0なら矛盾している。矛盾しないのは、r= 0のときのみである。よっ てx=dq∈(d)となり、I⊂(d)が言えた。
命題4.7.12. Rを単項イデアル整域とし、a, b∈Rとする。
(a, b) :={xa+yb|x, y∈R} ⊂R
はRのイデアル(a, bの生成するイデアルという)。よって、ある元dに対して (a, b) = (d)
となる。このdをaとbの最大公約数といい、gcd(a, b)であらわす。dは(その単項イデアル が決まるのだから)可逆元倍を除いて唯一つにさだまる。
d|aかつd|bが成り立ち、また、c|aかつc|bならばc|dである。
証明. 可逆元倍を除いて唯一つに定まることは問題4.35からわかる。
最後の部分は、(d) = (a, b)⊃(a)よりd|aであり、またc|a, c|bならばa, b∈(c)でイデアル の性質から(a, b)⊂(c)となることから言える。
定理4.7.13. Rを単項イデアル整域とする。
1. ゼロでない元x∈Rは既約元の積に分解する。
2. 可逆でない既約元は素元である。
3. ある元を既約元の積に分解する分解の仕方は、可逆元倍と順序の入れ替えを除いてただ 一通りである。
証明. 1. 0でない元a∈Rを持って来る。既約ならばするべきことはない。いま、aが既 約元の積に掛けないとする。すると、a自身が既約元でないわけだから
a=a1b1, a1, b1∈/ R×
と分解する。もし、a1が既約元の積にかけて、b1が既約元の積にかければaもそうかけ て終わりである。
よって困るのは、すくなくともどちらか一つが既約元の積にかけないときである。必要 とあらば入れ替えて、a1が既約元の積に掛けないとしてよい。すると、
a1=a2b2, a2, b2∈/R×
とできる。そして、a2かb2か、どちらかは既約元の積にかけない。必要とあらば入れ 替えて、a2が既約元の積に掛けないとしてよい。
これを続けていくと、a1|a, a2|a1, a3|a2, . . .という無限列ができる。そして、bi∈/ R×よ り、ai∼ai+1ではない。すなわち(ai) = (ai+1)ではない。よって、
(a)⊂(a1)⊂(a2)⊂(a3)⊂ · · · なる無限列であって、どの⊂も等号ではないものができる。
ここで、合併集合
I:=∪∞i=1(ai)
をとると、これはイデアルになる。和について閉じていること、Rの元の積に閉じてい ることを言わないとならないがいずれも難しくない。
単項イデアル整域の定義から、I= (x)となるxが存在する。x∈Iだから、あるjが存 在して
x∈(aj).
ゆえに(x)⊂(aj)。(x) =I⊃(aj)は自明だから
I= (aj)⊂(aj+1)⊂ · · · ⊂I となり、jより先のイデアルはみなIに等しい。これは矛盾。
2. aを既約元とする。az =xyのとき、a|xかa|yのいずれかが成立することを示せばよ い。単項イデアル整域においては最大公約数が上のように定義されるので、命題4.7.9 の証明がそのまま使えて(可逆でない)既約元は素元となる。
3. 既約元が素元であることがわかれば、定理4.7.6の証明と同様にして既約元の積の表し 方が可逆元倍を除いて一意であることが示せる。
次の定義は、このノートでは使うことがないが可換環論において基礎的なものである。
定義4.7.14. 単位的可換環Rにおいて、イデアルの列で無限に増大しつづけるもの
I1⊂I2⊂I3⊂ · · ·
(どの⊂も真部分集合)が存在しないとき、Rをネーター環(Noetherian ring)という。
上の証明は、単項イデアル整域がネーター環であることを示している。より一般に、ネー ター環であることと全てのイデアルが有限生成であることとは同値である。ネーター環の剰 余環はネーターであり、ネーター環を係数とする多項式環もネーターである。これらにより、
ネーター環上有限生成の環は全てネーターとなる。これらの定理の証明は、「可換環論」と銘 打ってある教科書には載っている。
問題4.36. Rがネーター環であることと、Rの全てのイデアルが有限生成であることが同値
であることを示せ。ここに、イデアルIが有限生成であるとは、あるx1, . . . , xs ∈ Iが存在 して
I= (x1, . . . , xs) :={r1x1+r2x2+· · ·+rsxs|ri ∈R} とあらわされることである。
4.7. 単項イデアル整域 109
問題4.37. ネーター環の剰余環はネーターであることを示せ。
問題4.38. ネーター環を係数とする多項式環はネーターであることを示せ。。
さて、0でない任意の元が、可逆元倍と順序の入れ替えを除いてただ一通りに素元の積にか けるような整域のことを素元分解一意域(uniquely factorized domain, UFD)という。上で示 したことは、次の定理に他ならない。
定理4.7.15. 単項イデアル整域は素元分解一意域である。
次の定理も基本的であるが、この授業では取り扱わない。
定理4.7.16. Rを素元分解一意整域とすると、R[t]もそうである。
問題4.39. 上の定理を証明せよ。(難)
問題4.40. 素元分解一意整域であるが単項イデアル整域でない環をあげよ。