AtNUDX26 は,原核微生物の貧栄養時の緊縮応答に関与す る ppGpp を葉緑体内で加水分解することにより,葉緑体遺伝 子の転写調節に機能すると考えられた.また,AtNUDX23 は 葉緑体内での FAD の分解を介してフラビン生合成系をフィー ドバック調節することで,細胞内フラビンレベルの制御に機能 することが明らかになった.さらに,AtNUDX11 は細胞質に 局在し,CoA だけでなく長鎖脂肪酸-CoA に対し高い親和性を 示したことから,脂肪酸伸長や生合成の制御に機能していると 考えられた.一方,AtNUDX15 およびその選択的スプライシ ング産物である AtNUDX15a はどちらもミトコンドリアに局 在し,CoA よりもサクシニル-CoA などに高い親和性を示した ことから,TCA サイクルの制御に関与することが示唆された.
5. AtNUDXによる細胞内NAD(P)H代謝を介した遺伝子発 現制御機構
NAD(P)H は生物の主要なレドックスキャリアーであり,
多様な代謝反応の駆動や生体反応の制御に必須である.した がって,その細胞内レベルやレドックス状態[NAD(P)H/
NAD(P)+]の変化は多大な影響をもたらすと予想される.事 実,細胞内NADH レベルが段階的に変化している AtNUDX6 および AtNUDX7 の単独および二重遺伝子破壊株を用いた トランスクリプトーム解析の結果,野生株および各遺伝子破壊 株における発現量が NADH レベルと高い正および負の相関 を示す遺伝子が多数同定され,それらには複数の転写因子お よびシグナル伝達因子が含まれていた.これらの結果から,
NAD(P)H の分解による細胞内レドックスバランス制御の重要 性,すなわち AtNUDX6 および AtNUDX7 による細胞質での NADH代謝が細胞内のレドックスシグナルを統括する「インテ グレーター」 としての役割を果たしていると考えられた (図3).
お わ り に
以上より,植物は環境変化(非生物的ストレス)やウイル ス/微生物の攻撃(生物的ストレス)に対する生存戦略として,
NUDX による種々の生体分子の分解経路を巧みに発達させて
きたと考えられる.さらに,FAD や CoA などビタミン補酵素 型の代謝制御に関与する NUDX の存在は,生体有用分子の代 謝制御が生合成経路だけでなく,分解経路との絶妙なバランス の上で成り立って,ホメオスタシスを維持していることを強く 示すものである.今後,植物NUDX ファミリーのさらなる機 能解析に加え,それらの他生物種における普遍性を明らかにす ることで,生物界の巧妙な代謝制御や生存戦略の理解の進展に つながることが期待される.
謝 辞 本研究は,近畿大学農学部バイオサイエンス学科植 物分子生理学研究室(旧食品栄養学科栄養化学研究室および食 品分子生理学研究室)および中部大学応用生物学部食品栄養科 学科において行われたものです.本研究を行う機会を与えてい ただくとともに,公私にわたり終始ご指導,ご鞭撻をいただ き,研究者としての礎をご教授いただいた近畿大学農学部教授 重岡 成先生に心より感謝申し上げます.また,学生時代から 長年にわたり,数々の激励と温かいご助言を賜りました大阪府 立大学名誉教授 中野長久先生(現大阪女子短期大学学長),
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科教授 横 田明穂先生,名古屋大学生命農学研究科教授 堀尾文彦先生に 深謝いたします.中部大学応用生物学部 中村研三先生,太田 明徳先生および大羽和子先生には,多くの激励と温かいご助言 をいただきました.また,共同研究者として多大なご協力をい ただいた近畿大学農学部 田茂井政宏博士,小川貴央博士,田 部記章博士,石川和也博士,伊藤大輔博士,作山治美女史,島 根大学生物資源科学部 石川孝博教授,丸田隆典博士,鳥取大 学農学部 薮田行哲博士,宮崎大学テニュアトラック推進機構 和田 啓博士に感謝いたします.さらに,本研究に関わりこれ まで支えてくれた中部大学応用生物学部および近畿大学農学部 の院修了生,卒業生ならびに現院生,学部学生諸氏に感謝いた します.最後に,本奨励賞にご推薦くださいました日本農芸化 学会中部支部長・小鹿 一先生(名古屋大学生命農学研究科教 授)ならびにご支援を賜りました中部支部の諸先生方に厚く御 礼申し上げます.
図2 AtNUDX6 による NADH代謝を介した全身獲得抵抗性 の制御ROS,活 性 酸 素 種;ICS1,イ ソ コ リ ス ミ 酸 合 成 酵 素;
TRX,チオレドキシン
図3 NAD(P)H のレドックス制御を介した生物的および非 生物的ストレス応答の統御
NMNH,還元型ニコチンアミドモノヌクレオチド ; ROS,
活性酸素種
鈴 木 賞
日本農学会扱
No. 受賞年度 業績論文表題 氏名
1 昭和14年 (1939) 海水の工業化学的新利用法 鈴木 寛
2 昭和15年 (1940) アミノ酸カナバニンの研究 北川松之助
3 昭和16年 (1941) 微生物によるフラビンの生成 山崎 何恵
4 昭和17年 (1942) 軍食糧食に関する研究 川島 四郎
5 昭和18年 (1943) 馬の骨軟症に関する研究 宮本三七郎
6 昭和19年 (1944) 畜産物に関する理化学的研究 斉藤 道雄
7 昭和20年 (1945) 東亜醗酵化学論考 山崎 百治
8 昭和21年 (1946) ビタミン L に関する研究 中原 和郎
9 昭和22年 (1947) 麦角菌に関する研究 阿部 又三
10 昭和23年 (1948) 醗酵の研究及び実施の応用 松本 憲次
11 昭和24年 (1949) 酒類に関する研究およびその応用 山田 正一
12 (イ) 昭和24年 (1949) 乳酸菌の醗酵化学的研究とその応用 片桐 英郎
(ロ) 北原 覚雄
13 昭和25年 (1950) 糸状菌の生産せる色素の化学的研究 西川英次郎
14 (イ) 昭和26年 (1951) 合成清酒生産の工業化に関する研究 加藤 正二
(ロ) 鈴木 正策
(ハ) 飯田 茂次
15 昭和27年 (1952) 抗生物質に関する研究 住木 諭介
16 (イ) 昭和28年 (1953) アミロ法の基礎的研究並にその工業化に関する研究 武田 義人
(ロ) 佐藤 喜吉
本 会 扱
No. 受賞年度 業績論文表題 氏名
1 昭和29年 (1954) アセトンブタノール醗酵に関する基礎的研究とその工業化 六所 文三 2 昭和30年 (1955) 大豆より化学調味料を製造する研究とその工業化 堀 信一
3 昭和31年 (1956) 食糧化学に関する研究 尾崎 準一
4 昭和32年 (1957) 甘蔗糖の製造に関する研究 浜口栄次郎
5 昭和33年 (1958) 熱帯農産物の化学とその利用加工に関する研究 山本 亮
6 (イ) 昭和34年 (1959) わが国の農薬の発達に対する化学技術的貢献 尾上哲之助
(ロ) 村川 重郎
(ハ) 深見 利一
7 昭和35年 (1960) 牛乳及び乳製品に関する基礎的並びに実際的研究 佐々木林治郎 8 昭和36年 (1961) ビタミンの摂取と供給に関する基礎的並びに実際的研究 有山 恒
9 昭和37年 (1962) 食品に関する研究 桜井 芳人
10 昭和38年 (1963) 澱粉食品に関する研究 木原芳治郎
11 昭和39年 (1964) 竹その他草本性パルプに関する基礎的研究,産業への寄与 大野 一月 12 昭和40年 (1965) 繊維原料の発酵精錬に関する基礎的研究とその工業化 中浜 敏雄
13 昭和41年 (1966) 醗酵微生物の菌学的研究および応用 住江 金之
14 昭和42年 (1967) 微生物の栄養生理ならびに生態に関する研究とその応用 植村定治郎 15 昭和43年 (1968) 茶のフラポノイドおよびトロポノイド色素に関する研究 滝野 慶則
16 昭和43年 (1968) ブタノール菌およびそのファージに関する研究 本江 元吉
17 昭和44年 (1969) 日本人の食物に関する栄養学的研究 小柳 達男
18 昭和44年 (1969) 醗酵生産物の開発と工業化のための基礎的研究 山田 浩一
19 昭和45年 (1970) 二,三の生物化学工業反応の基礎的研究とそれによる生物化学工学教育 小林 達吉 20 昭和45年 (1970) 酵母の分類学に関する研究と微生物株保存事業の育成 長谷川武治 21 昭和46年 (1971) ムコ多糖類および核酸関連物質の高次構造と生化学的意義に関する研究 小野寺幸之進
22 昭和46年 (1971) 麹菌の分類に関する研究と醸造学的知見 村上 英也
23 昭和47年 (1972) 雑穀の化学とその利用開発に関する研究 小原哲二郎
24 昭和47年 (1972) アミノ酸およびタンパク質の生合成に関する研究 志村 憲助
25 昭和48年 (1973) 糸状菌の代謝産物に関する研究 初田 勇一
26 昭和48年 (1973) 農薬的生理活性天然物に関する研究 宗像 桂
27 昭和49年 (1974) 薄荷属植物およびその各種種間雑種の精油成分に関する研究 清水 純夫
28 昭和49年 (1974) 微生物の生産するビタミン類に関する研究 福井 三郎
29 昭和50年 (1975) 畜産物の成分とその利用に関する研究 中西 武雄
30 昭和50年 (1975) 茶の香気に関する研究 山西 貞
31 昭和51年 (1976) 微生物の新しい機能の開発に関する研究 有馬 啓
32 昭和51年 (1976) 微生物による酵素生成とその制御に関する研究 丸尾 文治
33 昭和52年 (1977) 食品に関連する有機化合物構造解析の基礎的研究 辻村 克良
34 昭和52年 (1977) 植物酵素・蛋白質の構造と機能に関する研究 森田 雄平
35 昭和53年 (1978) 火落菌発育因子Hiochic Acid の発見および関連諸研究 田村 学造
36 昭和53年 (1978) 生理活性天然物の合成に関する研究 松井 正直
37 昭和54年 (1979) 特異な微生物の能力とその開発 原田 篤也
38 昭和54年 (1979) 抗生物質の農業利用―基礎と応用研究 米原 弘
39 昭和55年 (1980) 微生物遺伝・育種の基礎的研究 池田庸之助
40 昭和55年 (1980) 蛋白質・酵素の機能特性の解析と応用に関する研究 千葉 英雄 41 昭和56年 (1981) ヌクレアーゼ S1 の発見と核酸分解酵素の研究 安藤 忠彦 42 昭和56年 (1981) 微生物の生産する酵素および生理活性物質に関する研究 村尾 澤夫
43 昭和57年 (1982) 微生物細胞系の物理化学的研究 古賀 正三
44 昭和57年 (1982) 細菌の生理化学的研究 高橋 甫
45 昭和58年 (1983) 微生物による高分子物質の分解と生産に関する研究 上田誠之助
46 昭和58年 (1983) 有用微生物の分子育種の基礎的研究 齋藤 日向
47 昭和59年 (1984) オリゴ糖および多糖の生化学的研究 松田 和雄
48 昭和59年 (1984) 細菌細胞の複製とその阻害に関する研究―双頭酵素の発見とβ–ラクタム系抗生物質の作用機作 松橋 通生 49 昭和60年 (1985) 微生物の有用機能の開発ならびに異種微生物の関連による転換発酵に関する研究 高尾 彰一
50 昭和60年 (1985) 食品成分間反応に関する研究 並木 満夫