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馬琴読本の平仮名字体
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『月氷竒縁』
『椿説弓張月』
『南総里見八犬伝』を資料に
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市
地
英
1 近世の平仮名字体の研究は、浜田啓介(一九七九)で時代を下る につれて収斂する傾向が指摘されて以来、その傾向を確かに裏付け る研究成果が得られている。これまで、黄表紙を中心に、合巻、赤 本、洒落本、滑稽本、咄本、浄瑠璃本、人情本といったジャンルに 一作品は調査が及び、基本として用いられる平仮名字体の種類や、 共通する用法があることが分かっている。しかし、近世後期の戯作 作品は未だ調査するべき資料が多い。 浜 田( 一 九 七 九 ) で 収 斂 の 指 標 と し て い る「 馬 琴 読 本 類 」「 草 双 紙類」は、 「馬琴読本類」が先、 「草双紙類」が後の時代のジャンル とされ、平仮名字体総種類数の平均値が示されている。その結果、 「 馬 琴 読 本 類 」 の 平 均 値 が 高 い と し て い (1 ( る が、 資 料 の 年 代 を 確 か め ると「草双紙類」は全体的に読本より前の出版年であ (2 ( る。読本には 特別、平仮名字体を多めに使う傾向があったと推測される。こうし た傾向を、具体的な字体の種類と用法で裏付けることで、単純化に 反した平仮名字体の実態を浮き彫りにできると考えられる。本稿で は戯作のジャンルと平仮名字体の関係に重きを置き、後期読本の代 表作家である曲亭馬琴の読本三作品を資料に、平仮名字体の種類、 草双紙等との共通点、読本にみられた字体の用法について論じたい。 教養層の娯楽小説とされる読本の調査は、前田富祺(一九七一) で前期読本『雨月物語』の平仮名字母の種類と使用量が検討されて いるほか、先述した浜田(一九七九)において「馬琴読本類」のく くりで平仮名字体の種類数のみが提示されているのみである。 読本は戯作の中でも別格視されていたと考えられ、馬琴は『近世 物 之 本 江 戸 作 者 部 類 』( 天 保 五 年 刊 ) の 巻 之 一 を「 赤 本・ 洒 落 本・ 中本の部」とし、巻之二を「読本作者之部」としている。ジャンル を分けた理由を、馬琴は巻之一の巻末に「赤本・洒落本・中本・読 本の如き、各その差 シ ナ ありといへども、戯墨は則是一なり。但その文 に雅俗あり、作者の用意も亦同じからず。この故にその部を分ちて 詳 に せ ざ る こ と を 得 (3 ( ず。 」 と 述 べ、 同 じ 戯 作 の 中 で も 読 本 に 力 を 入 れ、区別していたと分かる。また、式亭三馬は「讀本は上菓子にて。 草雙子は駄菓子 (( ( 也。 」と述べている。 内田宗一(一九九八a)の調査で洒落本と黄表紙に平仮名字体の― 13( ― 種類に差が見出され、洒落本の行数が決まっているなど体裁の違い が平仮名字体の選択に影響が出る点が検討されている。同じことが 読本にもいえ、ジャンルの違いに分け入る余地のあるといえる。 調 査 資 料 は 後 期 読 本 の 代 表 作 家 で あ る 曲 亭 馬 琴 の 著 作 に し た。 『 近 世 物 之 本 江 戸 作 者 部 類 』 に「 多 く 行 わ れ た り 」 と し て い る 三 作 品である。資料と調査範囲を次に記 (5 ( す。 『 復讐 小説 月氷竒縁』 (文化二年) 巻之一 八丁オ~廿六丁オ 『 椿 説 弓 張 月 前 篇 』( 文 化 四 年 ) 巻 之 一 七 ノ 下 ウ ~ 三 十 一 丁ウ 『 南 総 里 見 八 犬 伝 肇 輯 』( 文 化 十 一 年 ) 巻 之 一 九 丁 オ ~ 三 十丁ウ いずれも本文の平仮名字体のみを調査した。 『椿説弓張月』 『南総 里 見 八 犬 伝 』 が 人 気 を 博 し た こ と は い う ま で も な く、 『 月 氷 竒 縁 』 は馬琴読本で初めての売れた作である。この三作品のみで表記の一 般性を断定することはできないものの、共通する用法や各作品の比 較から読本の平仮名字体の一端を探ることはできよう。 2 三作品の平仮名字体の総種類数をみると、月氷 106、弓張月 103、八 犬 (( ( 伝 92と、月氷が最も多く、最も少ない八犬伝は月氷・弓張月と一 〇種類以上の差がある。これら三作品の種類数を先行研究で明らか になっている黄表紙の字体総種類数と比較する (( ( と、三作品とも黄表 紙を上回り、やや少なめにみえる八犬伝も大体の黄表紙より種類が 豊富である。 複数の字体が使用される仮名の数の分布をみると、表 1の通りに なる。一つの仮名あたり一~五種類を使用し、二種類の字体を使用 している場合が最も多い。どの読本においても四十八の仮名のうち 三十以上の仮名に複数の字体が当てられてい るが、二種類以上の字体が使用される仮名の 数は月氷が 3(、弓張月 33、八犬伝 30の順に多 い。 使用されている平仮名字体の種類は共通し ているものが多いものの、共通しない字体も ある。三作品に共通した字体、二作品に共通 していた字体と、その作品にしかなかった字 体を分けると、A~Gまでに分類でき、次の ようにな (( ( る。 A.三作品に共通 ・一種類( 22) 【 あ 】 【 う 】 【 え 】 【 お 1】 【 さ 】 【 せ 1】 【 そ 】 【 ち 】 【 と 1】 【 ぬ 】 【 へ 】 【 三 】 【 む 】 【 め 】 【 毛 1】 【 よ 】 【 ら 1】 【 ろ 】 【王】 【ゐ】 (【 (9 ( ゑ】 ) 【ん】 表1 複数の字体が使用される仮名の数 二種類 三種類 四種類 五種類 計 月氷竒縁 21 9 5 1 3( 椿説弓張月 19 9 2 3 33 南総里見八犬伝 21 ( 2 1 30
― 135 ― ・二種類( 23) 【 い 】【 以 】 【 可 1】【 か 】 【 き 】【 起 】 【 く 1】【 く 2】 【 け 】【 介 】 【 こ 】【 古 】 【 し 1】【 志 】 【 春 】【 須 1】 【 多 】【 た 】 【 つ 】【 川 1】 【 て 】【 天 】 【 奈 1】【 な 】 【 尓 1】【 尓 2】 【 ね 】【 年 】 【 の 】【 能 1】 【 ひ 】【 飛 】 【 ふ 】【 婦 】 【 本 】【 保 】 【 毛 1】【 毛 (】 【 や 】 【也】 【り】 【里】 【れ】 【連】 【を】 【越】 ・三種類( 3) 【者】 【八】 【盤 1】 【ま】 【末】 【満 2】 【る 1】【る 2】【類】 B.月氷・弓張月に共通 【阿】 【可 2】 【川 2】【徒】 【登】 【に】 【耳 1】 【毛 2】 【由 2】 【累】 C.弓張月・八犬伝に共通した平仮名字体 【し 2】 【と 3】 【ほ】 【免 1】 【ら 3】 【流 1】 D.月氷・八犬伝に共通 【乃】 【満 1】 【み】 E.月氷のみ 【 お 2】【 於 】 【 佐 】 【 須 2】 【 世 】 【 堂 】 【 亭 】 【 と 2】 【 那 】 【耳 2】 【能 2】 【盤 2】 【免 2】 【遍】 【ら 2】 F.弓張月のみ 【希】 【す】 【せ 2】 【津】 【奈 2】【奈 3】 【丹】 【も】 【路】 G.八犬伝のみ 【祢】 【は】 【毛 3】 【流 2】 特筆すべきことに、三作品とも〈ル〉に四~五種類の字体がみら れ る 点 が 挙 げ ら れ る。 草 双 紙 な ど は【 る 1】【 る 2】 の み の こ と が 多く、読本に特徴的である。 Aは四十八の仮名の字体が揃っており、三作品に概ね共通した字 体が使われていると分かる。大体が草双紙などにも必ず使用される 種類だが、 【古】 【須 1】【た】 【な】 【能 1】【盤 1】【飛】 【保】 【婦】 【 満 2】【 み 】【 毛 (】【 類 】【 越 】 は、 当 た り 前 に 使 わ れ る 字 体 で は ない。 B 以 降 の □ で 囲 っ た【 と 2】【 と 3】、【 免 1】【 免 2】、【 毛 2】 【 毛 3】【 も 】、 【 ら 2】【 ら 3】 は 互 い に 似 た 形 状 の 字 体 で、 A の 字 体【と 1】【め】 【毛 1】【ら 1】と対になる字体である。 〈メ〉の字 体以外は先行研究において使い分けが指摘され、同じような用法が 読本に期待できる。 □以外のB・C・Dの字体は、草双紙等に当たり前に使われると はいえない字体である。 Eの月氷のみの字体は 12種類もみられる。 【於】 【須 2】【世】 【耳 2】【能 2】【盤 2】【免 2】、漢字に近い字体が多いのが特徴的であ
― 13( ― る。 【 堂 】 は『 雨 月 物 語 』 に 使 用 例 が あ る が、 草 双 紙 に は 一 切 使 わ れている報告のない字体である。 F の 弓 張 月 の み の 字 体 も 多 め と い え る が、 A に 分 類 さ れ る【 せ 1】【 奈 1】【 毛 1】 と 画 数 が 異 な る だ け の【 せ 2】【 奈 2】【 も 】 【毛 2】といった字体を含む。また、 【す】は草双紙によく使われる 字体で、月氷と比べて字体が単純なものが多い印象である。 八犬伝しかみられない【流 2】は【流 1】の運筆違いのバリエー シ ョ ン で あ る。 【 祢 】 は、 合 巻 や 黄 表 紙、 滑 稽 本、 人 情 本 な ど 使 用 されることがある。 Bの【川 2】【徒】や【由 2】、Cの【し 2】、Dの【満 1】、Fの 【 す 】 な ど は 黄 表 紙 ほ か よ く 戯 作 に み ら れ る 字 体 で あ ((( ( る。 こ う し た 字体が必ずAに含まれるわけではないというのは注目に値する。 各作品の種類は概ね共通するも、個別に特色が窺われる面がある。 しかし、今回はAの字体を中心に検討する。読本三作品に先行研究 で指摘されている用法と通じるのか、また草双紙にはさほど使われ ない字体の用法に注目していきたい。 3 Aに分類した字体の使用量や用法を確かめると、草双紙などで使 われるときにはみられない用法を持つものを含む。従来指摘されて いた用法のある字体と、読本に特徴的な用法のある字体を分けて述 べていきたい。 二 種 類 以 上 の 字 体 が み ら れ た 仮 名 と、 A に 分 類 さ れ る 字 体【 と 1】【 毛 1】【 め 】【 ら 1】 と □ で 囲 っ た【 と 2】【 と 3】、【 免 1】 【免 2】、【毛 2】【毛 3】【も】 、【ら 2】【ら 3】を検討する。表 2に 該当する仮名の自立語の位置、付属語、その仮名一字の助詞・助動 詞を分類して示した。ただし〈ス〉のみ分け方を異にしたので後述 する。 先行研究で指摘されているのと同じ用法がみられた字体は、次の 通りである。 〈 カ 〉 ― 【 可 1】【 か 】 〈 キ 〉 ― 【 き 】【 起 】 〈 ク 〉 ― 【 く 1】 【 く 2】 〈 ケ 〉 ― 【 け 】【 介 】 〈 コ 〉 ― 【 こ 】【 古 】 〈 シ 〉 ― 【 し 1】【 志 】 〈 ツ 〉 ― 【 つ 】【 川 1】 〈 テ 〉 ― 【 て 】【 天 】 〈 ト 〉 ― 【 と 1】【 と 2】【 と 3】 〈 ニ 〉 ― 【 尓 1】【 尓 2】 〈ネ〉 ― 【ね】 【年】 〈ハ〉 ― 【者】 【八】 【盤 1】 〈モ〉 ― 【毛 1】【毛 2】【毛 3】【も】 〈ヤ〉 ― 【や】 【也】 【 か 】【 志 】 が 語 頭、 【 起 】 が 非 語 頭 と い っ た 使 い 分 け は、 先 行 研 究で例外なく見出せるものとなっている。平仮名中心の文章におい て、そうした使い分けは表語機能となっており、語の切れ目を分か りやすくするといわれているが、漢字仮名交じり文の読本において も同様の用法があると分かった。これを 3― 1で述べる。 読本三作品に特有の用法があった字体は次の通りである。 〈ス〉 ― 【春】 【須 1】 〈ノ〉 ― 【の】 【能 1】 〈フ〉 ― 【ふ】 【婦】 〈ホ〉 ― 【本】 【保】 〈マ〉 ― 【ま】 【末】 【満 2】 〈リ〉 ― 【り】 【里】 〈レ〉 ― 【れ】 【連】 草双紙などと同じ用法がみられた字体にも個別の問題はあるが、
― 13( ― 右に挙げたのは特に顕著だったものである。右を 3― 2で述べる。 一作品にのみ特殊な用法がみられたものは次の仮名である。 〈イ〉 ― 【い】 【以】 〈タ〉 ― 【多 1】【た】 〈ヒ〉 ― 【ひ】 【飛】 〈メ〉 ― 【め】 【免 1】【免 2】 〈ヲ〉 ― 【を】 【越】 これらは 3― 3で述べる。 用法に強い傾向がみられない字体もあり、それらは先に挙げた分 類に含めない。 3― 3に付け加える形で最後に述べる。 〈ナ〉 ― 【奈 1】【な】 〈ユ〉 ― 【ゆ】 【由 1】 〈ラ〉 ― 【ら 1】【ら 2】【ら 3】 〈ル〉 ― 【る 1】【る 2】【類】 3― 1 まず、先行研究の指摘と同じ用法がみられた字体を述べる。 〈 カ 〉 は 語 の 位 置 に 関 係 な く 使 わ れ る【 可 1】 と、 語 頭・ 準 語 頭 に 使 わ れ る【 か 】 の 使 い 分 け が 読 本 に も 顕 著 で あ っ た。 助 詞「 が 」 は【可 1】が占め、そのため【可 1】の使用量は月氷 155、弓張月 297、 八犬伝 245と多い。自立語の語頭・準語頭の用例は【か】と【可 1】 の両方がある。 【か】に用例が多いのは「かゝる」 (月氷: 3、弓張 月: (、八犬伝: 3)「かくて」 (弓張月: 3、八犬伝: ()といっ た 連 体 詞 や 副 詞、 と き に「 か い つ か み 」「 か し こ み て 」 と い っ た 動 詞 も 書 か れ る。 【 可 1】 は 接 続 詞 的 な「 か た 」 や、 準 語 頭「 吼 ほえ か ゝ る 」「 吼 ほえ か ゝ り て 」 2「 大 か た 」 (と 漢 字 と 合 わ さ っ て い る 複 合 動 詞 が 多 い。 語 や 文 に お い て ど の よ う な 要 素 か が【 可 1】【 か 】 の 使 い分けに影響している。月氷には【か】を係助詞「か」終助詞「か も 」「 か し 」 に 使 う 例 が あ る。 「 か も 」「 か し 」 は 語 頭 と 捉 え た か と 考 え ら れ、 係 助 詞「 か 」 は「 ゆ く・ か と 」( 廿 五 丁 ウ ) と 連 綿 に よってひとまとまりになっている頭に使用されている。また、八犬 伝に唯一【か】が「うたかた」と語中に使われたが、 「うた・かた」 と解釈したかと考えられる。 〈キ〉の【き】 【起】は、 【き】が汎用の字体、 【起】が非語頭の字 体という傾向が三作品に共通する。月氷では【き】 (【起】 51、八 犬 伝 で は【 き 】 1(【 起 】 108と【 起 】 の 使 用 量 が 多 く、 弓 張 月 は 【 起 】 25【 き 】 (5と【 起 】 が【 き 】 の 半 分 以 下 の 使 用 量 で あ る。 語 末 の 字 体 の 分 布 を み る と、 月 氷 は【 き 】 1【 起 】 30、 八 犬 伝 は 【 き 】 10【 起 】 ((と 二 作 品 で は【 起 】 が 上 回 る が、 弓 張 月 の 語 末 は 【 き 】 (0【 起 】 1(と【 き 】 が 多 い。 加 え て 助 動 詞 も 月 氷 と 八 犬 伝 は 「 べ き 」( 月 氷 (、 八 犬 伝 11)、「 な き 」( 月 氷 (、 八 犬 伝 11)、「 ま じ き」 (八犬伝 1)、「き」 (八犬伝 2)が、すべて【起】で書かれる。 弓 張 月 は「 な き 」 /【 き 】 9【 起 】 1、「 べ き 」 /【 き 】 1(【 起 】 3、「まじき」/【き】 1と【き】に偏る。 【起】の用法は共通して いるが、資料によって使用割合が異なる。 〈 ク 〉 は【 く 1】 が 非 語 頭、 横 幅 に 広 い【 く 2】 が 非 語 末 に 用 い ら れ る。 用 例 は【 く 1】 は「 と ま れ か く ま れ 」「 む く 〳〵」 「 か く て」 、「いへらく」 「ふかく」 「ゆく」等で、副詞、接続詞、動詞や形 容 詞 の 活 用 語 尾 に 使 用 さ れ る。 【 く 2】 は 月 氷 に 語 頭「 く ら く 」 2 「 く ふ う す る 」「 く る ゝ」 等、 語 中「 う く る 」「 お く り 」「 名 な づ く る 」 等、 弓 張 月 に 語 頭「 く ろ み 」「 く れ て 」「 く つ ろ げ て 」、 準 語 頭「 狩 かり
― 13( ― 表 2-1 三作品に共通した複数の字体の使い分け([ ]内にその字体の総数、助詞はその字体一文字のみで文中に表れるもの) 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 語末 語中 準語頭 語頭 12 0 1 0 0 介 [13] 月氷竒縁 0 0 1 (2 い [((] 月氷竒縁 12 ( 15 0 0 け [2(] 0 0 1 20 [21]以 (( 0 3 0 3 [5(]介 弓張月 0 2 0 9( [99]い 弓張月 2 ( ( 0 2 け [20] 0 1 0 1 [2]以 5 0 1 0 0 [(]希 0 0 0 95 [95]い 八犬伝 2( 0 2 0 0 介 [2(] 八犬伝 0 1 0 3 [(]以 2( 11 1( 0 ( [(3]け 付属語 助詞が 語末 語中 準語頭 語頭 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 22 39 2 (9 10 13 [155]可 1 月氷竒縁 ( 0 22 0 (( こ [11(] 月氷竒縁 3 0 0 0 3 15 か [21] 0 0 0 1 1( [1(]古 0 0 0 0 0 1 [1]可 2 10 1 1( ( 120 こ [153] 弓張月 (( (0 20 113 25 21 [29(]可 1 弓張月 0 0 0 0 2 [2]古 0 0 0 0 9 2( [35]か 0 0 2 2 (( [(2]こ 八犬伝 1 2 1 ( 0 0 [11]可 2 0 0 0 0 23 古 [23] 5( 50 19 (2 2( 11 [2(5]可 1 八犬伝 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 0 0 0 1 ( 31 [3(]か (( (( (2 ( 0 し 1 [23(] 月氷竒縁 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 0 0 10 ( 29 [(5]志 0 1 3 1 3 [(]き 月氷竒縁 55 12( 91 0 0 [3((]し 1 弓張月 1( 30 ( 0 0 [51]起 0 0 0 ( 39 志 [50] 2( (0 10 0 1 [(5]き 弓張月 2 1( 11 0 0 [3(]し 2 ( 1( ( 0 0 [25]起 5( 120 113 0 ( し 1 [29(] 八犬伝 0 10 ( 0 ( [1(]き 八犬伝 0 1 2 2 2( [30]志 25 (( ( 0 0 [10(]起 1( 31 ( 0 0 し 2 [23] 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 語末 語中 準語頭 語頭 11 5( 2 0 0 く 1 [((] 月氷竒縁 (( 13 5 22 [10(]春 月氷竒縁 0 0 ( 0 5 [9]く 2 35 0 0 0 須 1 [35] 15 105 2( 0 0 [1((]く 1 弓張月 2 0 0 0 [2]須 2 0 0 5 3 3 [11]く 2 105 25 2 1( 春 [1(9] 弓張月 12 52 23 0 0 [((]く 1 八犬伝 13 2 0 0 [15]須 1 0 0 3 0 1 [(]く 2 2 3 0 ( [9]す 91 30 0 20 春 [12(] 八犬伝 (3 1 0 0 [((]須 1
― 139 ― 付属語 助詞と 語末 語中 準語頭 語頭 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 1( 10( 5 20 0 9 と 1 [15(] 月氷竒縁 10 ( 2( 0 3 [((]多 月氷竒縁 20 21 0 ( 3 25 と 2 [(9] 2( 0 1 1 20 [((]た 0 ( 0 1 0 0 [(]登 ( 0 12 1 1 [1(]堂 (2 1(( 32 30 ( ( と 1 [300] 弓張月 5( 13 (2 ( 12 [133]多 弓張月 9 9 0 3 5 29 [55]と 3 0 0 0 0 1 [1]た 0 1 0 0 0 0 登 [1] (1 11 20 ( 1 [11(]多 八犬伝 (9 1(0 31 21 9 2( [31(]と 1 八犬伝 3 0 0 1 2 [(]た 2 5 1 2 3 10 [23]と 3 付属語 助動詞つ 語末 語中 準語頭 語頭 付属語 助詞 (終助詞な) 語末 語中 準語頭 語頭 1 1 0 11 ( 3 [20]つ 月氷竒縁 (9 2 2 23 ( 32 [13(]奈 1 月氷竒縁 1 0 ( 1( 0 0 [19]川 1 11 0 0 2 0 ( な [21] 0 0 1 2 0 0 [3]川 2 0 0 0 3 0 0 [3]那 0 0 0 2 ( 3 [9]徒 10 0 0 ( 1 ( [21]奈 1 弓張月 12 ( ( 1( 10 25 つ [((] 弓張月 (9 0 2 11 2 19 な [(3] 0 0 1 2 0 0 [3]川 1 3( 0 ( 23 ( 2( [101]奈 2 0 2 1 3 0 0 [(]川 2 0 0 0 1 0 1 奈 3 [2] 1 0 0 0 1 5 [(]徒 1(5 0 ( 3( 3 1( [209]奈 1 八犬伝 0 0 0 0 1 0 [1]津 ( 0 0 0 0 1 [(]な 9 1 1 11 ( ( [35]つ 八犬伝 付属語 助詞 (に) 語末 語中 準語頭 語頭 5 5 ( 12 0 0 [29]川 1 1 3( 3 1 0 0 [39]尓 1 月氷竒縁 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 (1 213 19 0 0 1 尓 2 [2((] 13 (5 5 0 1 [115]て 月氷竒縁 1 13 2 0 0 0 [1(]に 1( 139 0 0 0 [1((]天 0 1 0 0 0 0 耳 1 [1] 3 2 0 0 0 [5]亭 0 2 1 0 0 0 耳 2 [3] 9 (5 ( 1 1 [(0]て 弓張月 ( 2(0 3( 0 1 0 [315]尓 1 弓張月 39 310 0 0 0 [350]天 (2 (3 ( 1 0 0 尓 2 [9(] ( (( 2 0 0 [((]て 八犬伝 2( 2( 10 1 0 0 [(1]丹 3( 250 0 0 0 [2((]天 0 1 0 0 0 0 に [1] 0 1 0 0 0 0 [1]耳 1 0 2(1 (0 0 0 0 [301]尓 1 八犬伝 51 1(( 2( 3 0 0 尓 2 [22(]
― 1(0 ― 表 2-2 三作品に共通した複数の字体の使い分け([ ]内にその字体の総数、助詞はその字体一文字のみで文中に表れるもの) 語末 語中 準語頭 語頭 付属語 助動詞ね 語末 語中 準語頭 語頭 (( ( 0 ( ふ [(0] 月氷竒縁 0 3 1 0 1 2 ね [(] 月氷竒縁 0 0 0 ( [(]婦 0 0 1 0 0 0 [1]年 (( ( 0 19 ふ [103] 弓張月 0 ( 1 0 0 1 [(]ね 弓張月 0 0 0 3 婦 [3] 0 0 1 0 0 0 [1]年 (( ( 0 9 [((]ふ 八犬伝 0 2 0 0 0 0 [2]ね 八犬伝 0 0 0 1 婦 [1] 0 2 0 ( 0 0 [(]年 語末 語中 準語頭 語頭 0 5 0 0 0 0 [5]祢 2 1 0 0 本 [3] 月氷竒縁 付属語 助詞の 語末 語中 準語頭 語頭 9 ( 1 2 [1(]保 2 1(( 95 20 0 9 [2((]の 月氷竒縁 0 5 0 1 [(]本 弓張月 0 (( ( 1 0 0 [5(]能 1 1( 1( 0 0 保 [32] 0 0 1 0 0 0 [1]能 2 0 0 0 5 [5]ほ 0 1 0 0 0 0 [1]乃 2 ( 1 1 本 [(] 八犬伝 2 3(( 1(3 11 0 2 [505]の 弓張月 5 ( 0 0 [12]保 0 12 2 0 0 0 [1(]能 1 0 2 0 2 [(]ほ 1( 229 109 ( 1 1 [3(2]の 八犬伝 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 0 0 3 0 0 0 能 1 [(] 2 2 13 0 1( [31]ま 月氷竒縁 0 11 0 0 0 0 [11]乃 0 0 5 0 2 末 [(] 付属語(は・ば)助詞 語末 語中 準語頭 語頭 0 1 0 0 0 [1]満 1 2 125 1 3( 0 1 [1((]八 月氷竒縁 0 0 ( 0 3 [11]満 2 2 0 0 ( 0 2( [3(]者 0 0 2 0 0 ま [2] 弓張月 ( ( 0 0 0 0 [1(]盤 1 1( 0 20 0 3( [((]末 0 1 0 0 0 0 [1]盤 2 0 0 ( 0 0 満 2 [(] 29 2(3 10 (( 0 0 [3((]八 弓張月 1 1 2 1 1 [(]ま 八犬伝 ( ( 0 12 ( 13 者 [35] 12 0 1( 3 2( 末 [59] 0 13 0 0 0 0 [13]盤 1 0 1 0 0 0 [1]満 1 35 2(5 21 3( 0 0 [35(]八 八犬伝 0 0 1 0 0 [1]満 2 0 0 0 1 1 2( [2(]者 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 ( 1 0 0 0 0 盤 1 [(] 5 2 3 0 0 [9]め 月氷竒縁 0 0 0 0 0 1 [1]は ( ( 10 0 0 免 2 [20] 語末 語中 準語頭 語頭 ( 1( ( 0 2 [2(]め 弓張月 22 ( 0 0 [32]ひ 月氷竒縁 0 0 1 0 0 [1]免 1 1( 0 0 11 [25]飛 1 2( 3 1 1 め [30] 八犬伝 9( 3( 0 0 [131]ひ 弓張月 1 0 0 0 0 [1]免 1 0 0 0 5 [5]飛 (( 2( 0 3 ひ [((] 八犬伝 0 0 1 2 [3]飛
― 1(1 ― 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 付属語 助詞も 語末 語中 準語頭 語頭 (0 5( (5 0 0 り [1(3] 月氷竒縁 0 1 0 1( 2 3( 毛 1 [55] 月氷竒縁 ( 19 5 0 0 里 [30] 20 2( ( 0 0 0 [50]毛 2 (3 1(( (( 0 0 [312]り 弓張月 0 0 0 0 0 3 [3]毛 ( 0 1( 5 0 0 里 [19] 0 ( 0 2 ( (2 [(1]毛 1 弓張月 13( 122 (3 0 0 [302]り 八犬伝 (2 (( 1( ( 0 2 [1(3]も 2 0 3 0 0 里 [5] 3 1( 2 0 0 0 [23]毛 2 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 0 0 0 0 0 3 [3]毛 ( ( 32 0 0 0 [3(]る 1 月氷竒縁 3 0 0 5 1 (3 [(2]毛 1 八犬伝 1( 55 2 0 0 る 2 [(1] 5( (0 1( 1 0 0 [151]毛 3 ( ( 0 0 0 [1(]類 0 3 0 0 0 0 [3]毛 ( 0 2 0 0 0 累 [2] 付属語 助詞や 語末 語中 準語頭 語頭 19 39 0 0 0 [5(]る 1 弓張月 2 ( 1 1 0 1 [(]や 月氷竒縁 (9 10( ( 0 0 [1((]る 2 0 0 0 12 0 5 [1(]也 0 2 0 0 0 累 [2] 11 ( 0 1 1 3 [22]や 弓張月 0 1 0 0 0 [1]類 0 0 0 1( 0 1( [3(]也 1 1 0 0 0 流 1 [2] 1 2( 3 3 0 1 [3(]や 八犬伝 5 (( ( 0 0 [5(]る 1 八犬伝 0 0 0 13 0 9 [22]也 (0 (9 12 0 0 [1((]る 2 語末 語中 準語頭 語頭 ( 2 0 0 0 類 [2] 0 0 1 0 [1]ゆ 月氷竒縁 0 ( 0 0 0 [12]流 1 1 0 1 ( [(]由 1 0 3 0 0 0 流 2 [3] 0 0 0 3 [(]由 2 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 0 0 0 3 [3]ゆ 弓張月 ( 39 15 0 0 れ [(1] 月氷竒縁 0 1 1 0 由 1 [2] 5 (3 29 0 0 連 [((] 1 0 1 0 [1]由 2 19 5( (( 0 0 [1(9]れ 弓張月 0 0 3 ( [(]ゆ 八犬伝 ( 1( 25 0 0 連 [((] 0 1 0 3 [(]由 1 15 5( (3 0 0 [115]れ 八犬伝 付属語 語末 語中 準語頭 語頭 (0 32 3( 0 0 連 [109] 2 0 5 0 0 [(]ら 1 月氷竒縁 付属語 助詞 語末 語中 準語頭 語頭 19 21 (9 0 0 [109]ら 2 0 32( 0 0 0 5 [331]を 月氷竒縁 0 0 15 0 0 [15]ら 1 弓張月 0 ( 0 0 0 0 越 [(] 11 1( 10( 0 0 [131]ら 3 12 321 0 2 0 5 [3(0]を 弓張月 0 3 12 0 0 [15]ら 1 八犬伝 0 ( 0 0 0 0 越 [(] 30 12 103 0 0 [1(5]ら 3 2 2(5 0 3 0 5 [255]を 八犬伝 0 90 0 0 0 0 [90]越
― 1(2 ― く ら し 」 3、 語 中「 お く り 」 2「 さ し ぐ み て 」「 問 とひ か く る 」 等、 八 犬伝に語頭「ぐさと」 、語中「まくらに」 「めぐらし」 「ゆくりなく」 と語頭のほか語幹に〈ク〉を含む語に用いられる。 〈ケ〉は三作品とも【介】が少なめであり、 【け】は月氷に語中末、 弓張月・八犬伝では位置に関係なく使用される傾向がある。これま で、 【介】の字体は慣習的に助動詞「けり」 「けん」や形容詞活用語 尾 に 使 わ れ る こ と が 指 摘 さ れ て い ((( ( る。 今 回 の 調 査 で も「 け り 」「 け ん 」 が【 介 】 で 書 か れ て い た が、 表 3に ま と め た 通 り【 介 】【 け 】 の両方に用例がある。弓張月は確かに【介】が使用されることが多 いものの、月氷と八犬伝はほぼ同等に【け】が使われる。また、先 行研究で「けふ」の語は 【 介 】 が 定 着 し て い る と 報告されている ((( ( が、月氷 には「けふ」を平仮名で 書く例はなく、弓張月に 「けふ」 / 【介】 3【け】 2、八犬伝では 5例すべ て【け】である。三作品 を 通 じ て 自 立 語 に は 【 け 】 が 用 い ら れ る こ と が 多 く、 【 け 】 の 使 用 領 域 は 広 く、 【 介 】 は 限 ら れた位置に使用されてい た。 〈 コ 〉 の【 古 】 は 草 双 紙 に 滅 多 に 使 用 さ れ な い が、 恋 川 春 町 の 黄 表紙では語頭に使用されてい ((( ( る。読本三作品には汎用の【こ】を中 心 に、 語 頭・ 準 語 頭 に【 古 】 が 使 わ れ て い た。 【 古 】 の 使 用 量 は 八 犬伝 23、月氷 1(、弓張月 2と弓張月は他の二作に比して僅かである。 用例は「これ」 「ごとく」 、それぞれ行 ((( ( 末近くに位置する。 十五丁ウ( L2) 【古】とく| 廿四丁オ( L3) 【古】れ| 合字の[こと]や【こ】より大きめの字体なので、行末近くのス ペースをうまく語の調節をして埋め、中途半端な語の切れ目ができ ないようにする用途で使われたかと考えられる。 月 氷 の【 古 】 の 用 例 は、 語 頭「 こ れ 」 11「 こ ゝ」 「 こ ひ ね が は く は」 「こなた」 「こと〴〵」 「こみ〳〵」 、準語頭「跳 とび こえ」と、頻用 される「これ」 (【こ】 2(例)の語に【古】が時折混ぜられ、その他 の 自 立 語 に し ば し ば 使 用 さ れ る。 八 犬 伝 は 語 頭「 こ ゝ」 1(「 こ ゝ ろ 」 (「 こ な た 」 (「 こ よ な き 」 1と、 〈 コ 〉 か ら「ゝ」 に 続 く 語 「 こ ゝ」 「 こ ゝ ろ 」 に【 古 】 が 目 立 ち( 「 こ ゝ」 /【 こ 】 1、「 こ ゝ ろ」/【こ】 ()、決まった語に用いられている印象である。 【古】 は確かに語頭に使われる字体であるが、使用するシチュエーション が本によって異なる。 〈シ〉は非語頭【し 1】に対し、 【志】が語頭という使い分けが読 本三作品においても共通していた。 【志】の用例のみ次に挙げる。 表 3 〈ケ〉助動詞 べけれ なけれ けめ けん けれ ける けり 0 0 0 1 ( 2 1 介 月氷 0 0 1 2 1 ( 3 け 1 ( 0 5 ( 19 2 介 弓張月 0 0 1 0 0 1 0 け 0 0 0 0 0 ( 1 希 ( ( 0 3 2 1 9 介 八犬伝 0 1 0 ( ( ( ( け
― 1(3 ― 【志】 月氷 語頭 ― しのび ( しかれども 3 して 3 しかる 2 しかは 2 しらず 2等 準語頭 ― 久しくして 飽 あか しめて 禳 はらへ しむ 畜 かは しめ 語 中 ― 餌 ゑ 飼 がひ し て 假 うたゝ 寝 ね し た ま ふ つ ゝ し み て 決 けつ 断 だん し て 音 おと しけれ 銷 しょう 鑠 れき して等 弓張月 語 頭 ― し ば し 9 し ( し ば 〳〵 5 し か る に ( し る (知) 3等 準語頭 ― 引しぼり 2 正 たゞ しくして まっしら(真白) 八犬伝 語頭 ― したり 3 しかず 2 しかれども 2 しらず 2 しら ぬ しかりし等 準語頭 ― 思ひしらせん 聞 きゝ しらでや 語中末 ― 青 あおう して 帰 き 降 ごう して 賞 しょう し 語頭を中心に「餌 ゑ 飼 がひ して」 「 賞 しょう し」といった語中末に僅かにみられ る。 「 倶 ぐ し て 」「 為 な し 」 と い っ た 動 詞 連 用 形 や 複 合 動 詞 の 語、 「 漢 字 + し て 」「 漢 字 + し 」 に は【 し 1】 が 中 心 に 用 い ら れ る が、 漢 字 が 合わさると【志】を使っても差し支えないようである。 〈ツ〉は【つ】が位置に関係なく使われ、 【川 1】が語中末に偏っ て い る。 【 川 1】 は 三 作 品 に 共 通 し て み ら れ る も の の、 弓 張 月 は 僅 か 3例 と 少 な く、 用 例 を 挙 げ る と「 ま つ し ら( 真 白 )」 「 も つ は ら ( 専 )」 「 ま づ 」 と 促 音 と 語 末 で あ る。 月 氷 は「 お の づ か ら 」 5「 い づち」 「いつく」 、助詞「つゝ」等の語と、 「とつてかへし」 「もつは ら 」( 「 も つ は ら 」 は【 つ 】 1あ り ) と 促 音 の 例 が あ る。 八 犬 伝 の 【 川 1】 は 語 中 末 に 偏 っ て お り、 用 例 は「 な つ 草 」「 し づ か 」「 ひ と つ と し て 」 他、 「 あ つ て 」「 と つ て 」 2「 と つ て 返 し 」「 の ぼ し か ゝ つ て 」 と 他 の 二 作 品 と 同 様 に 促 音 の【 川 1】 が 目 立 つ。 【 川 1】 が 促音表記に用いられるのはしばしば指摘されてお ((( ( り、読本にも同様 の用法があった。 〈 テ 〉 は 三 作 品 と も【 て 】 が 汎 用、 【 天 】 が 語 末 お よ び 付 属 語 の 「 と し て 」「 と て 」「 な り て 」 な ど に 偏 っ て い る。 月 氷 の【 て 】 の 語 頭中の用例は 「てらして」 「 過 あやま てり」 2「いかでか」 2「引たてゝ」 、 弓 張 月 は「 て ら し 」「 ふ り て ら し 」「 過 あやま て り 」「 も て る 」「 さ て は 」 2、八犬伝は「さても」 「なでふ」である。 【天】は三作品とも使用 量が月氷 177、弓張月 350、八犬伝 288と【て】の月氷 115、弓張月 (0、八 犬伝 ((を上回っているが、文中によく使われる「至 いた りて」 「呼 よ びて」 「倶 ぐ して」 「見て」等の動詞連用形語尾に【天】が優勢に使われてい るからである。 〈ト〉は汎用の【と 1】に対し、月氷に【と 2】、弓張月・八犬伝 に【と 3】が語頭に偏って使われ、 【と 2】【と 3】は同等の関係の 字体といえる。使用量は【と 1】がいずれの作品においても多い。 助 詞「 と 」「 ど 」、 複 合 助 詞「 と し て 」「 と て 」 は 大 勢 が【 と 1】 で 書 か れ、 時 折【 と 2】【 と 3】 が 混 じ る。 【 と 2】【 と 3】 の 自 立 語 語頭の用例は「とりて」 「とまれかくまれ」 「とく〳〵」等で、語頭
― 1(( ― の用例数をみると月氷は【と 1】 9【と 2】 25、弓張月は【と 1】 (【 と 3】 29と【 と 2】【 と 3】 が 優 勢 だ が、 八 犬 伝 は【 と 1】 2( 【 と 3】 10と【 と 1】 が 優 勢 で あ る。 八 犬 伝 は 語 頭 に 偏 る と い う よ り、時折混ぜられる字体という具合である。近世も終わりの頃にな ると〈ト〉の使い分けが崩れてくると指摘されてい ((( ( るが、関連は断 定できない。 〈ニ〉の【尓 1】【尓 2】は弓張月・八犬伝では【尓 1】を主に助 詞 に 用 い、 【 尓 2】 を 自 立 語 に 用 い て い る。 し か し、 月 氷 で は 付 属 語・自立語の両方に【尓 2】が主体的に使用される。助詞「に」は、 月氷が【尓 1】 3(【尓 2】 213、弓張月が【尓 1】 270【尓 2】 (3、八 犬伝が【尓 1】 261【尓 2】 144と各資料によってメインになる字体、 混ぜられる割合が異なる。自立語に【尓 2】が用いられるという点 は 三 作 品 に お い て 共 通 し、 月 氷 は「 に げ な く 」、 弓 張 月 は「 い に し へ 」、 八 犬 伝 は「 い か に し て 」「 い に し へ 」「 と に か く 」 と い っ た 語 が【尓 2】で書かれる。 〈ネ〉は【ね】が語の位置に関わらずどこにでも使用され、 【年】 は非語頭に偏ると指摘されており、三作品ともにその傾向がみられ た。 月 氷 の【 年 】 は「 か ね( 兼 )」 、【 ね 】 は「 ね が は く 」「 ね が ふ 」 「 こ ひ ね が は く 」 と 助 動 詞 ズ 已 然 形「 ね 」 が (例、 弓 張 月 の【 年 】 は「 見 か ね 」、 【 ね 】 は「 ね ら ひ 」「 は ね( 跳 )」 、 助 動 詞 ズ 已 然 形 「ね」 (例である。八犬伝は【年】に「かねて」 「 測 はかり かねて」 「回 い ら へ 答 かねて」 「死 し ねや」と助動詞ズ已然形「ね」 2例である。 【ね】は助 動 詞 ズ 已 然 形「 ね 」 2例、 【 年 】【 ね 】 ど ち ら で も 助 動 詞 ズ 已 然 形 「 ね 」 に 使 わ れ る が、 【 ね 】 は「 あ ら ね ば 」「 認 め ね 」 に 使 わ れ、 【 年 】 は「 候 は ね ど 」「 候 は ね ば 」 に 使 わ れ、 【 年 】 が 決 ま っ た 語 に 使用される。 〈 ハ 〉 の【 者 】 は [ha] の 語 頭 中 に 用 い ら れ、 【 八 】 が 助 詞「 は 」 お よ び ハ 行 転 呼 音 に よ っ て 生 じ る [wa] に 使 用 さ れ る こ と は よ く 知 られている。また【盤 1】は助詞「は」に用いられ、行末に使われ ることのある字体であ ((( ( る。 【者】は三作品に共通して「はじめ」 「は やく」等の語頭に用いられ、助詞「は」は【八】で書かれることが 圧倒的に多く、先行研究と変わらない。月氷で唯一【八】を語頭に 分類した語は「ぱと」という擬音語のみである。 【者】 【八】の使い 分 け は 読 本 に も か な り は っ き り み ら れ る。 【 盤 1】 は 助 詞 に 用 い ら れたが、行末にあたるのは月氷で 5例中 1例、弓張月は 12例中行頭 3例/行末 (例、八犬伝は (例中 2例と、必ずしも行末に偏るわけ で は な い。 月 氷 は 複 合 助 詞「 に は 」 10例 中 (例 が【 盤 1】 と、 決 まった複合助詞に使われるのが特徴的である。 〈 モ 〉 の【 毛 1】 は 非 語 頭、 三 作 品 に は「 も の 」「 も て 」「 も し 」 「 も つ は ら 」「 も ろ と も 」 等 の 語 頭、 「 お も ひ 」「 お も は ず 」「 お も し ろき」等の語中に【毛 1】が用いられている。下の字体に連綿する のに適した形のためかと考えられる。最終画で上に向けて筆が運ば れ る【 毛 2】【 も 】【 毛 3】 は「 最 もっと も 」「 も つ と も 」「 も ろ と も 」 等 語 末、 助 詞「 も 」「 と も 」「 ど も 」「 に も 」 等 の 付 属 語 に み ら れ る 字 体 で あ る。 月 氷 は【 毛 2】、 弓 張 月 は【 も 】【 毛 2】、 八 犬 伝 は【 毛 3】が使用され、三種類の字体は相補的な関係にある。弓張月は語
― 1(5 ― 末中心に用いられる字体に【毛 2】【も】の二種類があり、 【も】 163 【毛 2】 23で【も】が優勢、 【毛 2】は時折混ぜられる字体である。 弓 張 月 に は 語 頭 の【 も 】 が 2例 あ る。 「 も て 」( 二 十 丁 オ )「 も し 」 ( 廿 七 丁 ウ ) の 語 で、 前 者 は「 も | て 」 と【 も 】 を 行 末 に 残 し て 連 綿が途切れており、後者は行末の狭いスペースに【も】を【し 2】 で取り囲む形で収めたものである。 漢字に近い【毛 (】も三作品にみられ、月氷は「もの」 3、弓張 月にも「もの」 3、八犬伝は助詞「も」 3に使われていた。月氷で 【 毛 (】 の 2例 は、 似 た よ う な フ レ ー ズ が 同 じ 匡 郭 内 に 並 ん で い る 十八丁ウにみられる。 十八丁ウ ( L1) ある【毛 1】の ( L1~ L2) 形 かたち なき|【毛 1】のなり ( L2) 形 かたち なき【毛 (】の ある【毛 1】の ( L()|至 し 明 めい なる【毛 1】のなり。 偽 ぎ 変 へん なる【毛 (】のなり。 L1~ L(の間に六回「もの」が書かれ、二回【毛 1】が使用された 後に【毛 (】で「もの」を書いているので、単調にならないよう変 えているのだと考えられる。弓張月の【毛 (】の「もの」は十四丁 オ、廿五丁オ、三十丁ウと離れた場所で、右のような用法ではない。 八犬伝の【毛 (】の助詞は 3例中 2例が行末に近いところにみられ るが、使用理由は判然としない。 〈 ヤ 〉 の【 也 】 は【 毛 1】 と 同 じ く 下 の 文 字 に 連 綿 し や す い 字 体 で あ る た め、 「 や ゝ」 「 や う や く 」「 や が て 」 と い っ た 語 頭、 「 は や く 」「 こ や つ 」「 あ や し み 」 と い っ た 語 中 に 限 ら れ る。 【 や 】 は 終 助 詞「や」や「はや」等、文末や語末に用いられるが、語頭にくるこ と も あ る。 三 作 品 に 共 通 し て い た「 や う や く 」 の 語 は、 月 氷 で は 「【 や 】 う【 也 】 く 」、 弓 張 月 で は「 【 也 】 う【 や 】 く 」「 【 や 】 う 【 也 】 く 」、 八 犬 伝 で は「 【 也 】 う【 也 】 く 」 と な っ て い る。 上 が 【 や 】 で あ っ て も【 也 】 で あ っ て も よ い よ う で あ る。 弓 張 月 と 八 犬 伝の「やよ」 、弓張月に「や(矢) 」には【や】が用いられ、独立し た一語では、下の字に積極的に続く【也】より【や】が相応しいの であろう。 ここまでは先行研究で指摘されている用法がみられた仮名だが、 【 介 】【 古 】【 尓 2】【 盤 1】【 毛 (】 は 作 品 に よ っ て 若 干 用 い 方 が 異 な る。 【 古 】【 盤 1】【 毛 (】 は む し ろ 機 能 的 用 法 と は 異 な る 用 い 方 が 顕 著 だ っ た と い え よ う。 「 時 折 混 ぜ ら れ る 」 と い っ た 傾 向 の 字 体 も、しばしばみられた。 3 ― 2 次に、先行研究では指摘されていない、読本に特徴的な使い方が 見出された字体を検討していく。 〈 ス 〉 の【 春 】 と【 須 1】 は、 【 春 】 が 汎 用 の 字 体、 【 須 1】 が 語 末(助動詞「ず」がつく語を表 2では語末に含めた)という使い分 け が 共 通 し て い る。 弓 張 月 の み【 す 】 が 9例 み ら れ る が、 【 須 1】
― 1(( ― の方が 15とやや使用量の方が多い。黄表紙や合巻といった草双紙は 【須 1】より【す】が優勢であり、しかも【春】 【す】は用法が判然 と し な い。 【 須 1】 は 草 双 紙 な ど に 当 た り 前 に 使 わ れ る 字 体 で は な い の で、 読 本 に【 春 】【 須 1】 に 共 通 す る 住 み 分 け が み ら れ た の は 興味深い。 【須 1】の用例を次に挙げる。 【須1】 月氷 語末 ― あらず 5 べからず 5 容 た や す 易からず 2 ならず 2 し らず あたはず等 弓張月 語中 ― ます〳〵 2 語末 ― かならず 2 おはします 2 しかず たがはず はゞ からず 給はず等 八犬伝 語中 ― ます〳〵 語 末 ― な ら ず ( 給 は ず 3 思 は ず 3 用 もち ひ ず 2 死 し す 2 異 こと ならず 2 出ず等 「 ま す 〳〵」 や 助 動 詞「 ず 」 と い っ た 語 を【 春 】 で 書 く こ と も あ り、 【須 1】は語末中心に混ぜられる字体となっている。 〈 ノ 〉 は【 の 】 が 汎 用 で、 使 用 量 と し て も メ イ ン の 字 体 と い え る。 【 能 1】 は 月 氷 5(、 弓 張 月 1(、 八 犬 伝 (と 量 に 差 が あ る。 月 氷 の 用 例 を み る と、 助 詞「 の 」 の 211例 中 ((例、 「 お の づ か ら 」 (例 中 1例、 「 も の 」 20例 中 (例 が【 能 1】 で あ る。 主 に 助 詞 に 混 ぜ ら れ、 稀 に 自立語に【能 1】が使われる。 【能 1】を使って書く「おのづから」 は、 「 お の | づ か ら 」 と 改 行 で 途 切 れ て い る 箇 所 で あ る。 弓 張 月 で は 助 詞「 の 」 12、 語 末 は 名 詞「 も の 」 3(例 中 1例、 副 詞「 夥 おほく の 」 に【能 1】が使われている。弓張月の【能 1】の (例は行末近くに みられ、字体を歪ませたり、二本の縦線の間に前後の文字を挟ませ たりして、スペースを省略する書き方をしている。改行によって語 が途切れるのを嫌った技法かと考えられる。八犬伝は「もの」 ((例 中 (例に【能 1】が使われている。三作品とも【能 1】は語末と助 詞が使用領域である点は共通している。 〈フ〉の【ふ】 【婦】は、 【ふ】が汎用の字体、 【婦】が語頭に使用 されることが読本三作品に共通していた。先行研究では【婦】の用 法が一定していない。読本三作品では【婦】はすべて語頭である。 【ふ】 【婦】の語頭の用例をみると、この二種類の字体で同じ語を書 いていることが分かる。 【婦】 月氷 ふかく 2 ふたゝび 2 弓張月 ふたり ふたゝび ふりたる(古) 八犬伝 ふたり 【ふ】 月氷 ふかく 3 ふたゝび ふかゝりし ふかし ふりて ふ るはして 弓 張 月 ふ か く 12 ふ た ゝ び 5 ふ り た る( 古 ) ふ り て ら し て
― 1(( ― 八犬伝 ふかく 2 ふかくし ふかくして ふかき ふき ふ く ふらせし等 大抵は【ふ】で語を書き、稀に語頭に【婦】を使用したようである。 〈 ホ 〉 の【 本 】 と【 保 】 は、 草 双 紙 な ど で は【 本 】 が 優 勢 で、 【保】が全く使用されない場合が多い。読本三作品では、 【保】の使 用 量 が 月 氷 1(、 弓 張 月 32、 八 犬 伝 12、【 本 】 が 月 氷 3、 弓 張 月 (、 八犬伝 (と【保】が多めである。なお、弓張月・八犬伝は【ほ】も 用いている。 【保】 【本】の用例を次に挙げる。 【保】 月氷 語頭 ― ほど 2 準語頭 ― 何ほど 語中 ― おほし おほかり おぼえし もよほし 語末 ― なほ 9 弓張月 語中 ― おぼして ( おぼし 3 おぼさん おぼえねば おぼ す もよほして他 語末 ― なほ 1( 八犬伝 語中 ― おぼつかなし おぼしき おぼし召 おぼゆれば な ほりて ひきしぼりて等 語末 ― なほ 5 【本】 月氷 語中 ― おほく 語末 ― なほ 2 弓張月 語中 ― おぼし とぼしからず のぼし 引しぼり 刺 さし とほし 八犬伝 語頭 ― ほゐ 準語頭 ― 待 まつ ほど 語中 ― おぼつかなく おぼしくて 立なほし 取 とり なほす 語末 ― なほ 処 ところ 得 え がほ 月 氷 で は【 保 】 が 位 置 に 関 係 な く 使 用 さ れ、 【 本 】 は 語 中 末 に し か 使 わ れ な い。 弓 張 月 は【 保 】 が 語 中 末 に 偏 り、 【 本 】 は 語 頭 中 に み ら れ る。 八 犬 伝 の【 保 】 は 語 中 末、 【 本 】 は 位 置 に 関 係 な く 使 用 さ れ る。 各 資 料 で 使 用 傾 向 が 異 な る が、 「 お ぼ し 」 の 語、 活 用 形 は 三作品を通じてほとんど【保】が使用されている。 月氷と弓張月では近くの行に使用される同じ語の字体を【本】と 【保】で変えているものがみられる。 月氷 十二丁オ ( L() な【保】 ( L() な【本】 十五丁オ ( L5) な【保】
― 1(( ― ( L10) な【本】 弓張月 引しぼり 十四丁オ ( L() 引し【本】り ( L11) 引し【保】り 刺とほし 廿五丁ウ ( L9~ L10)刺 さし と【保】|し刺 さし と【本】し 八 犬 伝 に は こ う し た 用 法 は な い が、 使 い 分 け と は 異 な る 用 法 を 【保】 【本】は含んでいる。 〈 マ 〉 は【 ま 】【 末 】【 満 2】 の 三 種 類 の 字 体 が 共 通 し て い た。 【ま】 【末】の二種類は、語頭中を中心に使われるという用法が似て おり、三作品ではどちらかが主体的に使われ、もう片方は少量混ぜ られる字体となっている。 【ま】 月氷 語頭 ― まづ 5 ます〳〵 2 まげて まつ まだ ます (増) まじはり 語中 ― たちまち 3 いまだ 2 あやまち いましめ しづま り とまれかくまれ等 語末 ― ひま 2 付属語 ― まで 2 弓張月 語中 ― いまだ 2 八犬伝 語頭 ― まよへ(迷) 準語頭 ― うちまもる 語中 ― あまり あまる 語末 ― あながま 付属語 ― まで 【末】 月氷 語頭 ― まゐらす まゐらせし まつはりし 語中 ― たちまち 2 のたまはく のたまふ たまふ 弓張月 語 頭 ― ま ゐ ら せ ( ま ゐ ら す れ ( ま づ ( ま つ は り て 3 ます〳〵 2等 語中 ― いまだ ( あまり あまりて いきまきて とまれか くまれ 浅 あさ まし等 八犬伝 語頭 ― まうす ( ます〳〵 3 まづ 3 まして 2 まゐらざ る まゐり等 準語頭 ― かくまで 2 身まかり 語中 ― そがまゝ ( つかまつらん 2 あまり 2 いまだ い つのまに おさまり等
― 1(9 ― 付属語 ― まで 10 ませ まじき 月氷は【ま】がメインに用いられ、語頭中に【末】がみられる。 弓張月はごく少量【ま】が使用され、主に【末】が使われる。八犬 伝は【ま】が汎用だが、非語末で【末】が多い。 【ま】 【末】は「ま す〳〵」や「まづ」など同じ語を書いていることもあるので、代替 が 利 き、 書 き 手 に よ っ て 選 ぶ こ と の で き る 字 体 で あ る。 【 末 】 の 用 例を見ると、 「まゐらす」の語が三作品に共通しており、 【末】は語 に定着している側面もあるようである。 【満 2】 ((( ( は月氷と、弓張月・八犬伝との間に用法の違いがある。 【満 2】 月氷 語頭 ― ます〳〵 2 まつはる 語中 ― たちまち 5 のたまはく 身まかり とまれかくまれ 弓張月 語中 ― まします 2 ましまさば えらまず 八犬伝 語中 ― ましまさず 月氷には【満 2】の使用量が多めで、語頭に使用される場合も 3 例ある。 「ます〳〵」/【満 2】 2【末】 2、「たちまち」は延べ 10 のうち【満 2】 5【ま】 (【末】 2と様々な字体で変化をつけて書 く。また、 「とまれかくまれ」は上の〈マ〉は【ま】 、下の〈マ〉を 【 満 2】 に し て お り、 弓 張 月・ 八 犬 伝 に も「 ま し ま す 」「 ま し ま さ ば」 「ましまさず」の例を語頭が【末】 、語中を【満 2】にしている。 【満 2】は主に変化をつける用途で使われる。 〈 リ 〉 は 助 動 詞「 た り 」「 な り 」「 け り 」 や 動 詞 の 活 用 語 尾 が 主 で あ り、 三 作 品 と も【 り 】 を 主 体 に、 【 里 】 が 補 助 的 に 用 い ら れ て い た。 【 里 】 は 先 行 研 究 で 共 通 し た 用 法 は 見 出 さ れ て い な い。 使 用 量 は月氷 30、弓張月 19、八犬伝 5と月氷にやや多めである。月氷・弓 張月は動詞の語幹を漢字で書いたときの連用形活用語尾(月氷「来 きた り 」「 破 やぶ り 」「 至 いた り 」 等、 弓 張 月「 叱 しか り 」「 帰 かえ り 」「 止 とま り 」 等 ) に 【 里 】 が 使 用 さ れ る。 月 氷 の「 漢 字 + り 」 は 10例 中 (例 に【 里 】 を 用いる傾向がみられるが、他の二作品はそれほど使われない。弓張 月 は「 吼 ほえ か ゝ り て 」 2「 跳 とび かゝりて」の 3例の「ゝ」に 続く形にすべて【里】が用い られる。八犬伝は自立語だと 「 き り ゝ と 」「 ば ら り ず ん 」 「残 のこ りて」 の 3例にのみ 【里】 が 使 わ れ、 「 残 のこ り て 」 は「 残 のこ |りて」と改行によって途切 れ る 箇 所 に【 里 】 を 用 い、 「きりゝと」 「ばらりずん」は 共に擬音語である。読本三作 品の傾向として【里】は使用 する箇所を限って、時折混ぜ ている字体という印象である。 表 5 漢字の直後〈レ〉 漢字+ 【連】 漢字+ 【れ】 22 3 月氷 23 1( 弓張月 32 31 八犬伝 表 4 【れ】【連】の分布 われ これ 1( 15 れ 月氷 0 22 連 1( 2( れ 弓張月 1 3 連 13 23 れ 八犬伝 2 1( 連
― 150 ― 〈レ〉は草双紙などでは【れ】のみで書くか、 【連】は使用されて も 1~ 2例と僅かである。読本三作品には必ず【連】が使用されて いただけでなく、月氷【れ】 (1【連】 ((、弓張月【れ】 149【連】 ((、 八犬伝【れ】 115【連】 109と使用割合にはバラつきがあるが、いずれ の読本にもよく見られる字体だった。使用箇所は語中末に限られ、 「 み だ れ て 」「 見 れ ば 」 と い っ た 動 詞 の 活 用 語 尾 や、 「 こ れ 」「 わ れ 」 な ど 名 詞 の 語 末 で あ る。 頻 出 語 で あ る「 こ れ 」「 わ れ 」 を み て み た い。 表 (を 参 照 す る と、 月 氷 と 八 犬 伝 は「 こ れ 」 を【 れ 】【 連 】 を 混 ぜ て 書 い て い る の が 分 か る。 「 わ れ 」 は【 連 】 が 混 ざ っ て も 1~ 2例という傾向が三作品に通じる。また、表 5に、漢字直後の送り 仮 名 の「 漢 字 +【 れ 】」 「 漢 字 +【 連 】」 の 数 量 を 示 し た。 い ず れ も 【連】が優勢である。 【連】は使う箇所によってかなり意識的に使っ ているとみられる。 草双紙などにそれほど使用量が多くなく、決まった用法を見出し づらい字体が、三作品の読本に共通する使用傾向がみられたり、個 別に読本の特徴的な用法となっていたりする。草双紙などは字体の 種類総数が少なめであるだけでなく、用法上においてもより統一的 であり、読本の平仮名字体の用法には種類を限って自由さがあるこ とが分かる。 3 ― 3 一作品に特徴的な用法がみられたものは次の仮名である。 〈イ〉は【い】が主に使われ、 【以】は弓張月が 2、八犬伝が (と 使用量が二桁にも満たないが、月氷のみ 20と多めである。弓張月と 八 犬 伝 の【 以 】 の 用 例 は、 弓 張 月「 い か な る 」「 か い 繕 つくろ ひ 」、 八 犬 伝「 い づ れ 」「 い か に 」「 い た う 」「 か い 繰 く り 」 と な っ て い る。 月 氷 の用例には「かいつかみ」があり、接頭辞「かい」に【以】が用い ら れ る の は 三 作 品 で 共 通 し て い た。 月 氷 の 他 の 用 例 は「 い へ ど も 」 (「 い た づ ら に 」 2「 い た り て 」 2「 い た り 」「 い た れ ば 」「 い た る 」「 い た ゞ き 」 な ど〈 イ 〉 の 次 に〈 タ 〉【 堂 】【 多 1】 の 字 体 に 続 く 語 頭 を 占 め て い る。 ま た「 い ひ 」 /【 い 】 9【 以 】 1、「 い へ ら く 」 /【 い 】 (【 以 】 1、「 い へ ど も 」 /【 い 】 (【 以 】 (と い っ た、文中に頻繁に用いられる語に【以】を混ぜる。 〈タ〉の【多 1】【た】は、 【た】が語頭、 【多 1】が汎用の字体と い う 傾 向 が あ る。 【 た 】 の 使 用 量 を み る と 弓 張 月 は 1例( 「 た ゝ か ひ」 )、八犬伝は ((「たる」 2「たり」 「たち」 「たもつ」 「をりたち て」 )で、 他の多くの語は【多 1】によって書かれる。月氷は【た】 ((と使用量が飛び抜けている。月氷の「た」の用例は、助動詞「た り」 23例中 1(例、 「たる」 10例中 (例、 「たれ」 1「たまへ」 1、自 立 語 語 頭「 た ち ま ち 」 11「 た の し ま ず 」「 た ち ぬ 」 等、 準 語 頭「 引 た て ゝ」 、 語 中「 み だ れ て 」 と い っ た 語 で あ る。 月 氷 の み に【 堂 】 の字体もみられ、語頭にのみ少量の使用がみられた弓張月・八犬伝 に比べて、 〈タ〉の字体を様々に使い書くのが特徴的といえよう。 〈ヒ〉の【ひ】 【飛】は、弓張月・八犬伝に共通する用法がみられ る も の の、 月 氷 の【 飛 】 が 特 徴 的 な 用 法 で 用 い ら れ て い る。 【 ひ 】 は月氷・弓張月で語中末、八犬伝に汎用の字体となっており、また
― 151 ― 動 詞 の 送 り 仮 名「 い ひ 」「 思 ひ 」「 給 ひ 」 等 に 使 わ れ る。 【 飛 】 の 用 例を次に挙げる。 【飛】 月氷 語頭 ― ひとり 5 ひとしく ひゞきて ひらき ひま ひら きて ひろく 語末 ― よろこび ( しのび 2 ふたゝび 一たび こひ (請) うしなひ おもひ等 弓張月 語頭 ― ひとり 3 ひろく ひたと 八犬伝 語頭 ― ひらけば ひとつとして 準語頭 ― 推 おし ひらきて 弓張月は語頭が【飛】を占め、語中末が【ひ】と住み分けがなさ れている。八犬伝では語頭に【飛】が混ざっている形である。月氷 では【飛】が語頭を占めているだけならず、語末においても使用さ れている。 「よろこび」/【ひ】 2【飛】 (、「ふたゝび」/【ひ】 2【飛】 1、「うしなひ」/【ひ】 1【飛】 1、「思ひ」/【ひ】 1 【飛】 1と同じ語に【飛】 【ひ】両方の字体を用いる。語の明示のた めに語頭に使うというより、装飾性重視に使用される印象である。 〈 メ 〉 は【 免 1】 と、 若 干 漢 字 に 近 い【 免 2】 が あ り、 月 氷 は 【め】 【免 2】、弓張月・八犬伝は【め】 【免 1】を用いている。用法 は月氷にのみ大きな特徴がある。弓張月・八犬伝はともに【め】の 使 用 量 が 多 く、 【 免 1】 の 使 用 量 が 1の み で、 弓 張 月 は「 睨 にらみ つ め て 」、 八 犬 伝 は 助 動 詞「 め 」 に 用 い ら れ て い る。 そ の 用 法 に 共 通 性 は見いだせない。月氷では【め】 9、【免 2】 20と使用量が上回る。 月氷 【め】 語中 ― すゝめる すゝめて 飽 あか しめて 語末 ― いましめ 鎮 しず め 助動詞 ― なめり 2 め 2 しめ 【免 2】 語中 ― もとめ 2 はじめ すゝめ 語末 ― はじめて ( ながめて 2 やめて 助動詞 ― なめり 2 しめ 2 め けめ 用例をみると、どちらの字体も語中末、助動詞に用いられる。助 動詞「なめり」 「しめ」 「め」は字体の組み合わせでバリエーション を増やしていると考えられるが、 「すゝめる」 「すゝめて」 「はじめ」 「 は じ め て 」 は ほ ぼ 決 ま っ た 字 体 で 書 か れ て い る。 全 体 的 に【 め 】 で書く語と【免 2】で書く語を分けて、ちりばめている印象である。 〈 ヲ 〉 の【 を 】 は 主 に 助 詞「 を 」 を 書 く ほ か、 自 立 語 に 使 わ れ る。 自 立 語 の 用 例 を 挙 げ る と、 月 氷「 を ろ 」「 を し へ て 」「 を は り て 」 「 朽 くち を し 」 等、 弓 張 月「 を は り 」 2「 を り 〳〵」 「 朽 くち を し さ 」「 や を ら」 「やをれ」等、八犬伝「をさ〳〵」 2「をり」 「やをら」 2「や を れ 」 等 で あ る。 【 越 】 は 助 詞「 を 」 に の み 使 わ れ る。 こ の【 を 】 【越】の住み分けは読本三作品に共通する。ところが、 【越】の使用
― 152 ― 量をみると、月氷 (、弓張月 (、八犬伝 90と八犬伝が突出している。 月氷・弓張月は稀にみられるという印象だが、八犬伝は満遍なく文 中にみられる。 最後に特にはっきりした特徴がみられなかった仮名を挙げる。 〈ナ〉は【奈 1】【な】の二種類が三作品で共通していた。月氷・ 八犬伝は【奈 1】をメインに使用し【な】は少量、弓張月は【な】 が【奈 1】を上回って使用され、 【奈 1】【な】以上に【奈 1】に近 い が 一 画 多 い【 奈 2】 が 使 わ れ る。 〈 ナ 〉 の 語 に 多 い の は 助 動 詞 「 な り 」「 な し 」、 形 容 詞「 な し 」 で、 月 氷・ 八 犬 伝 は そ う し た 語 を 書 く 際 に【 奈 1】【 な 】 を 混 ぜ て 書 く。 弓 張 月 は【 奈 2】 が メ イ ン、 【奈 1】が混ぜられ、 【な】は位置や語に関係なく用いられているの が特徴的である。 〈ユ〉の仮名は三作品に【ゆ】 【由 1】の二種類が共通した。用例 を 挙 げ る と、 【 ゆ 】 は 月 氷 に 準 語 頭「 引 ひき ゆ く 」、 弓 張 月 に 語 頭「 ゆ く」 3、八犬伝に語頭「ゆく」 2「ゆき〳〵て」 「ゆきとゞく」 、準 語 頭「 落 おち て ゆ く 」 2「 牽 ひき て ゆ く 」 と 語 頭・ 準 語 頭 が 中 心 で あ る。 【 由 1】 は 月 氷 に 語 頭「 ゆ づ り 」「 ゆ ゑ に 」「 ゆ る し 」 な ど、 準 語 頭 「 將 つれ ゆ く 」、 語 末「 聞 きこ ゆ 」、 弓 張 月 に 準 語 頭「 伴 ともな い ゆ く 」、 語 中「 見 ゆ る 」、 八 犬 伝 に 語 頭「 ゆ く 」 2「 ゆ く り な く 」、 語 中「 お ぼ ゆ れ 」 と 語 中 末 に も み ら れ る。 汎 用 の【 由 1】、 語 頭 に 偏 る【 ゆ 】 と い う 見方ができるが、使用量が少ないのではっきりとはしない。 〈ラ〉は現行仮名字体に近い【ら 1】と「~」の形に近い【ら 2】、 「~」 に 一 点 加 え た よ う な【 ら 3】 が、 三 作 品 で み ら れ る。 月 氷 は 【ら 1】【ら 2】、弓張月・八犬伝には【ら 1】【ら 3】の二種類がそ れぞれ使われ、 【ら 2】【ら 3】は【ら 1】より使用量が多く、役割 と し て も 同 等 と い え る。 〈 ラ 〉 は「 あ ら ず 」「 い へ ら く 」「 奉 ら ん 」 と い っ た 動 詞 未 然 形 活 用 語 尾 や、 助 動 詞「 ら る 」「 べ か ら ず 」「 ざ ら」等に限られ、多くは【ら 2】【ら 3】で書かれる。 【ら 1】は月 氷 (、 弓 張 月 15、 八 犬 伝 15と な っ て お り、 助 動 詞「 ら る 」 や「 悞 あやま ら ず 」「 易 やす か ら ん 」 と い っ た 動 詞 活 用 形 語 尾 な ど に 時 折 混 ぜ ら れ る 字体である。使用領域は【ら 2】【ら 3】と同等で、 【ら 1】に限ら れた用法はない。 〈 ル 〉 は 現 行 仮 名 字 体 に 近 い【 る 1】 と、 上 の 字 か ら 連 綿 出 来 る 形 の【 る 2】、【 類 】 が 三 作 品 に み ら れ る。 〈 ル 〉 の 語 は 動 詞 終 止 形 が大勢である。月氷には動詞終止形の字種の違いと「ゝ」との組み 合わせに【る 1】【る 2】の傾向がみえる。 「畏 おそ る」 「 被 こうむ る」 「飾 かざ る」 など「漢字+る」の形になっているものはほとんど【る 1】が用い ら れ、 平 仮 名 で 書 か れ る「 す る 」 全 10例 や、 「 あ る 」 13例 中 10例 は 【る 2】である。 「 涙 そゝぎ 入 い るゝ」 「生 うま るゝ」 「逃 のが るゝ」と「漢字+るゝ」 と 踊 り 字 が 続 く 場 合 は、 【 る 2】 を用いて漢字から一続きになって い る。 但 し 弓 張 月 の「 漢 字 + る 」 は 表 (に 示 し た よ う に【 る 1】 【 る 2】 が ほ と ん ど 同 等 に 用 い ら れ る。 「 敗 やぶ る ゝ」 な ど「 漢 字 + るゝ」は (例すべて【る 1】で月 表 6 漢字の直後〈ル〉 漢字+ 【る 1】 漢字+ 【る 2】 21 2 月氷 22 1( 弓張月 39 1( 八犬伝
― 153 ― 氷 と は 異 な る。 八 犬 伝 の「 漢 字 + る 」 は【 る 1】 が や や 多 い。 「 漢 字+るゝ」は【る 1】 (【る 2】 5とさほど字体の使用量が変わら ない。個人的な筆の流れや書きやすさによって、 【る 1】【る 2】の 使 用 傾 向 が 分 か れ る と 考 え ら れ る。 【 類 】 は 草 双 紙 な ど に 滅 多 に 使 用されない字体で、月氷 1(、弓張月 1、八犬伝 2と、月氷はやや多 めである。弓張月は「いかなる」 、八犬伝は「ある」 「得る」に用い ら れ、 い ず れ も 行 末、 行 末 に 近 い 箇 所 に 使 わ れ て い る。 【 る 2】 で 書くとスペースが余ってしまうときに、やや大きめで複雑な字体で 埋 め た と 考 え ら れ る。 月 氷 は 助 動 詞「 ら る 」 2「 る 」「 た る 」 (、 自立語語末「ある」 3「あづかる」 「しる(知) 」「まつはる」 「うく る 」 に【 類 】 が 用 い ら れ る。 助 動 詞「 ら る 」「 る 」 が 書 か れ る の は 【 類 】 で の み。 し か し 行 末 に 使 用 さ れ る 例 な ど は な い。 語 を 書 く バ リエーションとして用いられる面が強いと考えられる。 4 読 本 は 自 立 語 の ほ と ん ど を 漢 字 で 書 く が、 平 仮 名 で 書 か れ る 「かゝる」や「しばし」 「しかるに」といった副詞、連体詞、接続詞、 また名詞や動詞に【か】や【志】といった特定の位置に用られる字 体を使う点は変わらなかった。また、非語頭の【起】や【天】は動 詞の送り仮名に使われ、使用量が多くなる場合がみられた。一方、 自立語を書く機会の減る〈ニ〉の【尓 1】【尓 2】等は、助詞「に」 に使うメインの字体が本によって異なるということが起こり、これ も漢字仮名交じり文の影響と考えられる。 表記のバリエーションを増やす志向は強く、全体として、草双紙 に は あ ま り 見 ら れ な い 字 体 を よ く 使 っ て い る。 【 保 】 は 草 双 紙 で よ く 使 わ れ る【 本 】 よ り 多 く 使 用 さ れ、 【 連 】 も 使 用 量 が 多 め で あ っ た。読本三作品に通じてみられたのは頻出語の字体を変える用法で あ る。 特 に【 古 】 は 月 氷 の「 こ れ 」、 八 犬 伝 の「 こ ゝ」 に 混 ぜ ら れ るのが顕著だった。改行を嫌った用法もみられ、月氷には「おの| づから」と語が切れてしまう箇所にわざと【能 1】を用いる場合が あったり、大き目な字を使ってスペースを埋める、字体を歪めさせ てスペースを省略したりする技法的な用い方が弓張月にはみられた。 匡郭があり、行数の決まっている読本は、語の切れ目を注意喚起す る か、 あ る い は 回 避 す る 配 慮 を 要 し た か と 考 え ら れ る。 行 数 の 決 まっている本ならではといえる。今回は各作品にしかみられない字 体は割愛したが、三作品に共通する字体を検討したのに関わらず、 既に示した通り作品によっては特徴的な字体の用法がみられたこと は興味深いといえよう。 草双紙は平仮名主体、読本は漢字主体の文章だが、草双紙より読 本の平仮名字体は多様であり、平仮名にも教養色が強い表記と考え られる。しかし、各作品にのみみられた字体を除外したので、充分 にそれぞれの読本を検討したとはいえない。加えて、より広い範囲 の読本の字体の種類を比較対照しなければ、今回の調査をジャンル としての特徴とするには早計といえる。江戸時代の平仮名字体の特 徴が明らかにする地道な調査研究が今後も求められる。
― 15( ― 注 1 浜田啓介(一九七九) p2~ ( 2 草 双 紙 類 は 一 七 七 二 ~ 一 八 三 四 年 の 出 版 物、 読 本 類 は 一 八 〇 五 ~ 一 八 三〇年の間の出版物である。 3 曲亭馬琴『近世物之本江戸作者部類』 (徳田武校注、岩波書店、二〇一 四年)P 142 ( 式 亭 三 馬『 昔 唄 花 街 始 』( 天 保 十 五 年 刊 ) の 跋 文 を 参 照 し た。 ( 早 稲 田 大 学 図 書 館 所 蔵、 古 典 籍 総 合 デ ー タ ベ ー ス、 http://www.wul.waseda. ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01 (53/index.html ( 二 〇 一 四 年 十 一 月 十六日参照) ) 5 『 復讐 小説 月 氷 竒 縁 』 は『 馬 琴 中 編 読 本 集 成 第 一 巻 』( 鈴 木 重 三・ 徳 田 武 編、 汲 古 書 院、 一 九 九 六 年 )、 『 椿 説 弓 張 月 前 篇 』 は『 影 印 椿 説 弓 張 月 前 篇 』 (板坂則子編集、笠間書院、一九九六年) 、『南総里見八犬伝肇輯』は国立 国 会 図 書 館 所 蔵 本( 国 立 国 会 図 書 館 デ ジ タ ル コ レ ク シ ョ ン、 http://dl. ndl.go.jp/info:ndljp/pid/25 (( 33 (?tocOpened=1 (二〇一四年十一月十六日 参照) )を資料とした。 ( 以降、便宜的に資料の名称を月氷、弓張月、八犬伝と省略する。 ( 恋川春町『無益委記』 (((久保田(一九九六) )、 『金銀先生再寝夢』 9( ( 久 保 田( 一 九 九 八 )) 、 十 返 舎 一 九『 心 学 時 計 草 』 (5、『 新 鑄 小 判 』 (3、 『奇妙頂礼胎錫杖』 (9、『怪談筆始』 ((、『化物小遣帳』 (((以上六作品矢 野(一九九〇) )、芝全交『大悲千禄本』 (3(久保田(二〇〇二) )と比較。 ( 以後、平仮名字体を示す際は、 【 】で囲んで、現行仮名字体に近いも の は そ の 字 体 を 使 用 し【 あ 】 の よ う に 記 す。 現 行 仮 名 字 体 に な い 平 仮 名 字体は、原則として字母で示し、 【阿】のように示す。同じ字母の平仮名 字 体 が 複 数 あ る 場 合 に は、 ア ラ ビ ア 数 字 で 分 け、 【 可 1】【 可 2】 の よ う に 記 す。 抽 象 的 な 仮 名 の 単 位 は イ ロ ハ 四 十 七 に ン を 加 え た 四 十 八 の カ タ カ ナ を〈 〉 で 囲 っ て〈 ア 〉 の よ う に 示 す。 尚、 具 体 的 な 平 仮 名 字 体 の 形状は、本稿末の読本三作品平仮名字体使用量総覧にて参照されたい。 9 弓 張 月 に は〈 ヱ 〉 に あ た る 字 体 が 本 文 中 に 現 れ な か っ た が 月 氷 と 八 犬 伝の【ゑ】の扱い優先してAに含んだ。 10 内 田( 一 九 九 八 b )( 二 〇 〇 〇 )、 久 保 田( 一 九 九 七 )( 二 〇 〇 二 )( 二 〇〇九) 、矢野(一九九〇) (一九九二) 、玉村(一九九四)の黄表紙、合 巻、滑稽本、人情本などを参照。 11 久保田(一九九五) (一九九七) 、矢野(一九九〇)に指摘がある。 12 久 保 田( 一 九 九 七 ) で『 浮 世 風 呂 』 の 用 例 が 報 告 さ れ て い る ほ か、 古 く か ら「 け ふ 」 を【 介 】 で 書 く こ と が あ る と 述 べ ら れ て い る。 ま た、 久 保田(二〇〇九)の洒落本『傾城買二筋道』に用例がある。 13 内田(一九九八a) 、久保田(一九九六) (一九九八)に報告がある。 1( 行頭行末、改行は「|」で表わす。 15 久 保 田( 一 九 九 七 ) で『 浮 世 風 呂 』 に 促 音 表 記 が「 川 」 の 漢 字 に 近 い 形 の 字 体 に 偏 っ て い た と あ る。 玉 村( 一 九 九 四 ) で『 春 色 梅 兒 譽 美 』 に 同じく促音に用いる傾向が指摘されている。 1( 矢田(一九九六)参照。 1( 坂梨(一九七九)に【盤 1】が行末に使われる場合が詳しい。 1( 【満 2】は久保田 (一九九七) で滑稽本 『浮世風呂』 、同 (二〇〇九) で 洒落本『傾城買二筋道』にもみられるが、特徴的な用法は見出されない。 参考文献 内田宗一(一九九八a) 「黄表紙・洒落本の仮名字体 ― 恋川春町自筆板下本 についての比較考察 ― 」『国語文字史の研究四』和泉書院 内 田 宗 一( 一 九 九 八 b )「 『 偐 紫 田 舎 源 氏 』 の 仮 名 字 体 ― 作 者 自 筆 校 本 と 板 本の比較考察 ― 」『待兼山論叢』三十二号 内田宗一(二〇〇〇) 「馬琴作合巻『金毘羅船利生纜』の仮名字体 ― 筆耕に よる表記の改変をめぐって ― 」『国語文字史の研究五』和泉書院 久 保 田 篤( 一 九 九 五 )「 草 双 紙 の 用 字 法 ― 赤 本 の 仮 名 字 体 の 用 法 を 中 心 に ― 」『国語学論集:築島裕博士古稀記念』汲古書院 久保田篤(一九九六) 「恋川春町『無益委記』の表記 ― 平仮名の字体につい て ― 」『茨城大学文学部紀要(人文学科論集) 』二十九号 久保田篤(一九九七) 「『浮世風呂』の平仮名の用字法」 『成蹊國分』三〇号 久保田篤(一九九八) 「『金々先生栄花夢』の文字の用法について」 『東京大 学国語研究室創設百周年記念国語研究論集』汲古書院