Instructions for use
Title 慢性足関節不安定性症例における下肢関節運動および神経筋制御の検討
Author(s) 越野, 裕太
Issue Date 2014-03-25
DOI 10.14943/doctoral.k11431
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/55552
Type theses (doctoral)
学 位 論 文
慢性足関節不安定性症例における
下肢関節運動および神経筋制御の検討
越 野 裕 太
北海道大学大学院保健科学院
保健科学専攻保健科学コース
2013 年度
目 次
要約
1
1.
緒言
2
1. 1. 足関節.
...................................................2
1. 1. 1. 足部・足関節の構造 ...............................2
1. 1. 2. 足関節の靱帯構造とそのバイオメカニクス ...........
2
1. 2. 足関節捻挫 .
..............................................3
1. 2. 1. 疫学 .............................................3
1. 2. 2. 発生メカニズム ...................................3
1. 2. 3. 危険因子 .........................................3
1. 3. 慢性足関節不安定性 .
......................................5
1. 3. 1. 病態 .
............................................5
1. 3. 2. 慢性足関節不安定性に関連した 下肢関節運動 .
........5
1. 3. 3. 慢性足関節不安定性に関連した神経筋制御 .
..........6
1. 4. 動作における 下肢関節運動および筋活動の主成分分析 .
........8
1. 5. 本研究の目的 .
............................................9
2.
対象と方法
10
2. 1. 対象 .
...................................................10
2. 2. 計測動作 .
...............................................11
2. 3. 下肢関節 運動 計測 .
.......................................13
2. 3. 1. 実験機器 ........................................13
2. 3. 2. データ解析 ......................................14
2. 3. 3. 統計学的解析 ....................................15
2. 4. 下肢筋活動計測 .
.........................................16
2. 4. 1. 実験機器 ........................................16
2. 4. 2. データ解析 ......................................16
2. 5. 歩行動作の主成分分析 ..
..................................18
2. 5. 1. 主成分分析の方法 ................................18
2. 5. 2. 統計学的解析 ....................................18
3.
結果
19
3. 1. 対象特性 .
...............................................19
3. 2. 動作および群 による 垂直 床反力への影響 .
...................20
3. 3. 2 群間における下肢関節 運動 の相違 .
........................21
3. 4. 2 群間における下肢筋活動の相違 .
..........................28
3. 5. 歩行動作の主成分分析結果 .
...............................35
3. 5. 1. 下肢関節運動の主成分分析結果 .
...................35
3. 5. 2. 下肢筋活動の主成分分析結果 ......................38
4.
考察
45
4. 1. 対象特性 および動作課題に関して .
.........................45
4. 2. 下肢関節 運動 に関して ..
..................................46
4. 3. 下肢筋活動に関して .
.....................................49
4. 4. 歩行動作の主成分分析に関して .
...........................51
4. 5. 臨床的意義 .
.............................................53
4. 6. 研究の限界 .
.............................................54
5.
結論
55
6.
謝辞
?56
7.
引用文献
57
8.
業績一覧
66
要約
1.緒言
足 関 節 内 反 捻 挫 の 後 遺 症 と し て 多 く の 者 が 慢 性 足 関 節 不 安 定 性 (Chronic ankle instability: CAI) に 進 行 し ,再 発 性 の 足関 節内 反捻 挫を 多く 経験する.CAI に関連した 様々 な因子が過去に報告されているが,実際に足関節不安定性が生じる動作場面における下肢 関節運動や筋制御への影響は十分に解明されていない.そこで,本研究の目的は CAI 症例 と健常例の下肢関節運動および筋活動を様々な動作において比較検討すること,および歩 行動作に主成分分析を応用し,これらの詳細な特性を検討することとした.
2.対象と方法
対象は CAI 群 12 名,健常群 12 名とした.CAI の定義は再発性の足関節捻挫の既往,足 関節不安定性の評価スコアを基に決定した.三次元動作解析装置,表面筋電計,床反力計 を用いて自然歩行,歩行中のサイドターンおよびクロスターン動作,前方ジャンプからの サイドカッティングおよびクロスカッティング動作,片脚着地動作を記録した.股,膝, 足関節の時系列角度および筋活動の平均値を群間比較した.さらに,歩行時のこれらの波 形データに対して主成分分析を実施し,主成分得点を群間比較した.3.結果
2 つ のカッティング動作および片脚着地動作にて CAI 群は健常群に比べ,股関節屈曲が 有意に大きく,またクロスカッティング動作でのみ股関節外転が,クロスカッティング動 作および片脚着地動作では膝関節屈曲が有意に大きかった.また片脚着地動作では,健常 群に比べ CAI 群の足関節外反が有意に小さかった.筋活動に関しては,カッティング動作 および片脚着地動作時に,健常群に比べ CAI 群の腓腹筋の筋活動が有意に高く,またカッ ティング動作では CAI 群の中殿筋の筋活動が有意に低かった.歩行およびターン動作では いかなる変数において有意差は認められなかった.また,歩行に対する主成分分析の結果, 上 記 の 平 均値 に よる 群間 比 較 で は検 出 でき なか っ た 有 意な 所 見が いく つ か 得 られ た . CAI 群は健常群と比較して,股関節回旋運動の変化,大腿筋群の筋活動の低下,さらに接地前 後における足関節の周囲筋筋活動および外反運動の変化を認めた.4.考察および結論
CAI 症例ではスポーツ関連動作において足関節だけで なく, 股 ・ 膝 関節の 運動 お よび筋 活動に変化が生じており,これらの変化は足関節の不安定性や機能不全に対する機能的適 応,あるいは足関節の不安定性の出現に関与している可能性がある.さらに,これらの変 化には動作の難易度が関与している可能性がある.また,主成分分析では,従来の平均値, ピーク値などの離散値による比較では検出困難な,CAI による微細な変化を捉えることが できる可能性が示唆された.足関節捻挫後には足関節だけでなく股,膝関節の機能も評価1. 緒言
1. 1. 足関節
1. 1. 1. 足部・ 足関節の構造
足部には多くの骨・靱帯・筋・軟部組織が存在し,多くの関節から構成される.内側縦 アーチ・外側縦アーチ・横アーチと呼ばれる 3 つのアーチ構造が存在し,足部は柔軟性に 優れている.それゆえ,足部は荷重運動の際に,衝撃の吸収や分散,または力伝達やバラ ンス制御といった機能を有している.例えば歩行や走行の際に,接地による衝撃を吸収す る一方で,踏切時に推進力に対抗する安定性を要求される.これらの機能の破綻は足部へ の応力集中を招き,種々の足部障害を引き起こす.足関節は脛骨・腓骨・距骨から構成さ れる距腿関節と,距骨と踵骨から構成される距骨下関節から成る複合関節である.足関節 の安定性には主に,荷重時の関節面の適合と靱帯による制限が寄与しており,いくつかの 筋腱複合体によって動的な安定性を得ている (Hertel, 2002).足部・足関節は身体部位の中 でも最も多く損傷する 部位であり,その中で も足関節捻挫が最も多 く生じる (Fong et al., 2007).足関節捻挫のうち,足関節の外側 靱帯 が損傷する足関節内反捻挫が大半を占め,最 も多いスポーツ損傷の一つである.1. 1. 2. 足関節の 靱帯 構造とそのバイオメカニクス
足関節には前距腓靱帯,踵腓靱帯,および後距腓靱帯の 3 つの外側靱帯が存在する.前 距腓靱帯は腓骨外果から起始し,距骨の外側に付着し,その靱帯長は中間位で 15.5±7.7 mm, 底屈位で 18±9.8 mm,背屈位で 14.5±6.3 mm であり,底屈位で伸張される (Raheem and O’brien, 2011).ま た 靱 帯 幅は 10±7 mm で あ り ,関節 肢位 によ って 不変 であ る (Raheem and O’brien, 2011).ま た ,踵 腓 靱帯 は腓骨外果の後方から起始し,腓骨長軸に対して平均 133° の角度で踵骨の外側面に付着する.その靱帯長は,中間位で 18.5±6.3 mm,底屈位で 17± 5.6 mm,背屈位で 15.5±6.3 mm であり,また 靱帯 幅は 7.5±3.5 mm である (Raheem and O’brien, 2011).靱帯 の strain を cadaveric ankle で調べた研究では,前距腓 靱帯 の strain は底 屈,内反,内旋で増加し,また踵腓 靱帯の strain は背屈と内反で増加し (Colville et al., 1990), 前距腓靱帯は内反と底屈の第 1 の制御因子であり,一方で踵腓靱帯は主に内反と背屈を制 御していると認識されている (Bahr et al., 1998).後距腓靱帯は腓骨外果後方から起始し, 距骨の後外側面に付着する靱帯であり,足関節捻挫においてこの靱帯が損傷することは少 ない (Hertel, 2002).前距腓靱帯,踵腓靱帯,後距腓靱帯の破断強度はそれぞれ順に,およ そ 138.9 N,345.7 N,261.2 N であり,前距腓靱帯が最弱である (Attarian et al., 1985).足 関節内反捻挫のうち 96%の割合で前距腓靱帯が損傷し,次いで踵腓靱帯の損傷が 80%を占 める (Frey et al., 1996). 足関節内反捻挫では前距腓靱帯が最も損傷し,足関節が内反および底屈した際に靱帯の strain が 増 加 し ,損 傷 に 至 る . そ れ 故, 足 関 節 の 非 生 理的 な内 反 およ び 底屈 を 避 け る こ と が,足関節内反捻挫の予防にとって重要である.1. 2. 足関節捻挫
1. 2. 1. 疫学
足関節捻挫は最も一般的なスポーツ損傷であり,全スポーツ損傷の 15‐30%を占めると 報告されている (Garrick, 1988; Wilkerson, 1992).足関節損傷の 75%は足関節の靱帯損傷で あり,その内の 85%は足関節内反捻挫が占めている (Baumhauer et al., 1995).足関節捻挫 はラグビー,サッカー,バレーボール,ハンドボール,バスケットボールなどのコートゲ ームやチームスポーツにて高頻度に発生する (Fong et al., 2007).適切な治療やリハビリテ ーションを実施することで足関節捻挫後の機能回復は期待できるが,非常に再発が多く, バスケットボールにおいてその再発率は約 70%にまで及ぶ (Yeung, 1994).前向き研究にお い て , 足 関 節 捻 挫 の 既 往 が 足 関 節 捻 挫 の 危 険 因 子 で あ る こ と も 示 さ れ て い る (McHugh et al., 2006; Tyler et al., 2006). この再発率の 高さ は, 足関節捻挫を受傷したおよそ 40-75%の 者が進行する,再発性足関節捻挫,繰り返しの giving way,または不安定感として定義さ れる慢性足関節不安定性 (Chronic ankle instability: CAI) が関与している (Delahunt et al., 2010; Gerber, 1998).さ ら に ,足 関節 捻挫 の後遺 症 と し て 足 関節の 変 形性関 節 症や軟 骨 病変 にまで進行することが報告されている (Harrington, 1979; Valderrabano et al., 2006).足関節 捻挫の予防は重要であり,国際的にも注目されている分野である.1. 2. 2. 発生メカニズム
一般的に,足関節内反捻挫は非生理的な内反や底屈運動が生じた時に,前距腓靱帯など の足関節外側靱帯が損傷することで生じると考えられている.近年,実際の受傷場面の足 関節を動作解析することでこの受傷メカニズムの詳細が明らかになりつつある.Krosshaug と Bahr が開発した model-based image-matching technique を用い (Krosshaug and Bahr, 2005), Fong ら と Mok ら は 足 関 節 内 反 捻 挫 が 実 際 に 生 じ た 受 傷 場 面のビ デ オ動画 を 解析し , 受傷 時には足関節の内反および内旋が急増していることを示し,その逸脱運動は接地後早期か ら生じていることを示した (Fong et al., 2012; Mok et al., 2011).また足関節の底屈角度の増 加は観察されず,足関節内反捻挫受傷時に非生理的な底屈の増加は必ずしも生じていない ことを明らかにした (Fong et al., 2012; Mok et al., 2011).
足関節内反捻挫は主にジャンプ着地や方向転換動作時に生じることが多く,また非接触 型損傷は 22-39%と報告されている (Bahr and Bahr, 1997; Kotofolis and Kellis, 2007; McKay et al., 2001; Woods et al., 2003). 足関節内反捻挫を予防するためには,着地動作や方向転換 動作時の足関節運動を適切に制御することが重要であると考えられる.
(McHugh et al., 2006; Tyler et al., 2006), 高い BMI (McHugh et al., 2006; Tyler et al., 2006), 足 部 内 側 縦 ア ー チ 高 な ど の 足 部 ア ラ イ メ ン ト (Beynnon et al., 2001), 足 関 節 背 屈 可 動 域 (Willems et al., 2005), 静 的 ま た は 動 的バ ランスの低下 (de Norohana et al, 2012; McGuine et al., 2000; Trojian and McKeag, 2006),足関節周囲の神経筋反応 (Willems et al., 2005),足関 節周囲筋の筋力低下や不均衡 (Baumhauer et al., 1995; Fousekis et al., 2012; Willems et al., 2005) な ど が 挙 げ ら れ る . こ れ ら の 危 険 因 子 を 基 に , バラ ン スト レ ーニン グ を含 め た固有 感 覚 訓 練 (McHugh et al., 2007; Mohammadi, 2007) , 足 関 節 周 囲 筋 筋 力 ト レ ー ニ ン グ (Mohammadi, 2007), 装 具 ・ テ ー ピ ン グ の処 方 (Sitler et al., 1994; Verhagen e al., 2000) など の足関節内反捻挫の予防プログラムの介入が考案され,有効的に実践されている.
1. 3. 慢性足関節不安定性
1. 3. 1. 病態
CAI は足関節捻挫の後遺症であり,再発性足関節捻挫,繰り返しの giving way, または 不 安 定 感 と し て 定 義 さ れ る (Delahunt et al., 2010) . CAI は 足 関 節 の 機 械 的 不 安 定 性 (Mechanical instability: MI) ま た は 機 能 的 不 安定 性 (Functional instability: FI) に 起 因 する (Hertel, 2002). MI は足関節外側 靱帯 (前距腓 靱帯 や踵腓 靱帯 ) の 緩み (laxity) に関連した 足関節の生理的可動範囲を超えた運動として定義されている.また FI は主観的な足関節の 不安定性として言及され,靱帯の緩みはないが,神経筋制御の障害,固有受容感覚の障害, 筋力低下やバランス能力の低下などが FI に関連していることが示されている (Delahunt et al., 2010).
過去の研究では,CAI 症例において足関節の運動感覚の低下 (Lentell et al., 1995),また は 関 節 位 置 感 覚 の 認 識 誤 差 の 増 大 (Munn et al., 2010), 静 的 ま た は 動 的 バ ラ ン ス の 低 下 (Brown et al., 2010; Hertel and Olmsted-Kramer, 2007),足関節周囲筋の 筋力低下 (Arnold et al., 2009),長腓骨筋反応の遅延 (Menacho et al., 2010) など の機能不全が 存在することが示さ れてきた.CAI の病態にはこれらの機能不全が複合的に存在していると考えられる. 多くの先行研究は CAI の病態を理解するために重要な知見を示してきた.しかし,ほと んどの研究は静的な条件下で実施されており,実際の動作場面を評価している研究はまだ 少ない.
1. 3. 2. 慢性 足関節不安定性に 関連した下肢関節 運動
CAI 症例における 足関節不安定 感や足関節の giving way は 歩行や ス ポーツ動作などの動 的条件下において生じる.そこで近年, CAI 症例の動作時の下肢関節の 3 次元動作解析や 筋電図学的検討に焦点を置いた研究が増えつつある.実際の動作時の下肢関節運動を定量 化することは,動作パターンの理解とともに,何故 giving way や再発性足関節捻挫を頻回 に経験するかに関して理解するために有用であると考える. CAI 症例では , 様々な運動課題中に健常 例 と比較して 足 関節 運動 が変化していることが 報告されている.CAI 症例は歩行中の踵接地前後で,健常例に比して増加した内反角度を 示した (Delahunt et al., 2006a; Monaghan et al., 2006).また,CAI 症例は,走行 (Lin et al., 2011),片脚着地 (Delahunt et al., 2006b),側 方 ホ ッ プ (Delahunt et al., 2007), においても , 健常例に比べ足関節がより内反位であった.これらの著者は,この変化した足関節運動が, 足関節捻挫の再発および足関節の giving way に関与していると示唆している.しかし,こ れ ら の 研 究 と 矛 盾 し た 所 見 を 報 告 し て い る 研 究 も 存 在 す る (Brown, 2011; Brown et al., 2008; Kipp and Palmieri-Smith, 2012).
Gribble and Robinson, 2010) において観察された.一 方で ,他 の 先行研究は 歩行 (Delahunt et al., 2006a; Monaghan et al., 2006) や側方ホップ (Delahunt et al., 2007) における , 股・膝関 節運動に健常例と比較して有意差は認められなかった.これらの近位関節の変化は CAI 症 例が足関節の不安定性や機能不全を代償するための適応を示した可能性がある一方で,以 前から存在しており,CAI 発症の因子である可能性もある.CAI 症例の下肢関節運動は健 常例と異なるように思われるが,一致した見解には達していない. 先行研究では,CAI 症例の下肢関節運動を評価するために,様々な動作課題を対象とし てきた.先行研究で解析対象としている動作課題は ,それぞれ 1 つまたは 2 つのみである. 複数の様々な動作課題 (歩行,走行,step down,drop jump,stop jump) を対象として下肢 関節運動を調査した研究は,CAI による関節運動の変化は動作の困難さが影響している可 能性を示唆した (Brown et al., 2008).しかし,この研究も含め過去に方向転換動作を用い て CAI 症例の下肢関節運動を評価した研究は著者の知る限り存在しない.方向転換動作は 足関節捻挫の発生が多く,急速な減速かつ方向を変換するという複雑な多平面運動であり, 比較的ゆっくりとした規則的な動作である歩行よりも複雑な神経筋制御を必要とする可能 性がある.このような動作では,神経筋制御の不良など様々な機能不全を呈する CAI 症例 において,下肢関節運動の変化がより観察される可能性があると考える.
1. 3. 3. 慢性 足関節不安定性に 関連した神経筋制御
過去に,CAI 症例における神経筋制御に関しては幅広く研究されてきた.CAI 症例を対 象として,落とし戸 (trapdoor) を用いて突発的な足関節内反を誘導させた際の足関節周囲 筋の筋反応時間が調査され,いくつかの研究は不安定足関節側の腓骨筋反応時間の潜時の 増加が観察されたことを報告している (Vaes et al., 2001; Menacho et al., 2010; Mitchell et al., 2008).こ れ らの trapdoor による 研究は 足関節内反捻挫をシミュレートしており,足関節が 内反した際の筋反応を理解する上では有用な情報を提供すると考える.しかし,静的立位 から足関節を内反誘導するという計測空間が限られた条件での検討であり,実際に足関節 不安定性が生じる真の動作条件での検討も重要であると考える.Delahunt らは片脚着地動 作時の接地前において,FI 群の長腓骨筋活動が健常群よりも低下していることを明らかに したが (Delahunt et al., 2006b),一方で歩行においては逆に長腓骨筋活動が増加して いた (Delahunt et al., 2006a).また lateral shuffle 動作 (側方への 180°の切 り替 えし 動作 ) や stop jump task において FI 群の接地前 における 長腓骨筋活動は 健常群より低下し ており , 前脛 骨筋および腓腹筋活動の変化も存在する (Suda et al., 2009; Suda and Sacco, 2011).さらに, CAI 症例において歩行 中に trapdoor を用いて 足関節に 内反方向への外乱 を与 えた 際に 長腓 骨 筋 活 動が 低 下し , その 潜 時 も増 加 して い る (Hopkins et al., 2009; Palmieri-Smith et al., 2009). このように, CAI 症例における動作時 の足関節周囲筋活動には 変化が生じてお り, これが機能的不安定性の一因である一方,適応でもあると考えられているが,一致した見 解には達していない.ことが示唆されている.Beckman と Buchman (1995) は足関節に過可動性が認められる症 例を対象とし,足関節を瞬時に内反させる trapdoor を用い,腓骨筋と中殿筋の筋反応を検 討した.その結果,足関節過可動性症例は健常例と比較して,中殿筋の筋反応が速かった ことを発見し,中枢神経系を介在して足関節の反応を代償するために近位筋の筋反応が優 位になる可能性を示唆した (Beckman and Buchman, 1995).さらに,両脚立位から片脚立位 への移行動作中に CAI 症例では足関節,股関節,ハムストリングスの筋活動パターンが健 常例と異なり (Van Deun et al., 2007),また rotational squat 動作時の大殿筋活動が健常例よ りも低いことが示されている (Webster and Gribble, 2013).しかし,実際に足関節不安定性 が生じ得る動作条件で,CAI 症例の近位筋活動を検討した研究は非常に少なく,特に着地 動作や方向転換動作などのスポーツ動作時における近位筋活動の変化は未だ不明である.
1. 4. 動作における 下肢関節運動および筋活動の主成分分析
動作解析 研究で は角度 の最大値 や,時 系列デ ータにお ける 各 イベン ト時の角 度 (接地時 や床反力最大時など),また筋電図学的解析では筋電波形振幅の平均値や積分値などの離散 値を用いて,症例群と対照群を統計学的に比較検定することが一般的である.これらのパ ラメータを用いることは過去の研究との比較を可能とし,さらに足関節捻挫のメカニズム を考慮すると,動作時の初期接地前後における角度および筋活動を解析することは有用で あると考える.CAI 症例のバイオメカニクス分野の先行研究のほとんどが,動作時の初期 接地前後に焦点を当て検討してきた. 近年,動作時の関節運動の解析や筋電図学的解析において主成分分析による角度および 筋 活 動 波 形 の 解 析 が 使 用 さ れ 始 め て い る (Deluzio and Atephen, 2007; Kipp and Palmieri-Smith, 2012; Landry et al., 2007; Linley et al., 2010).主成 分分 析 は 多 くの特 性 を有す る時系列データの変動性の情報を少数のパラメータに縮約することで,従来の離散値によ る解析では捉えることができない時系列特徴を客観的に抽出し,統計学的検討を可能とす る.主成分分析は離散値による解析に比べ,損傷リスクに関連した変化を検出することに 優 れ て お り , 動 作 パ タ ー ン に お い て よ り 深 い 理 解 が 得 ら れ る こ と が 示 唆 さ れ て い る (O’Connor and Bottum, 2009).この手法は各 波形データ の時系列パターンを理解することに おいて有用であると考えられ,CAI 症例における下肢関節運動および筋活動パターンを, 主成分分析を用いて検討することによって新たな知見が得られる可能性がある.1. 5. 本研究の目的
方向転換動作を含めた様々な動作条件において,CAI 症例の下肢関節運動および筋活動 を検討することは,CAI 症例の日常生活動作およびスポーツ動作時の下肢関節運動および 神経筋制御パターンの理解,さらには足関節捻挫の再発や giving way が生じる原因に関し て有用かつ新たな知見を提供すると考える.また,動作課題の難易度が,CAI 症例におけ る下肢関節運動および筋活動の変化に関与し得るかどうかに関する知見を提供すると考え る.さらに,これらを検討することにより,CAI に関連した因子や機能障害に対するリハ ビリテーション介入および足関節捻挫の再発予防プログラムの発展に寄与すると考える. また,下肢関節運動および筋活動の解析において主成分分析を用いることで,離散値での 比較では明らかにならなかった CAI 症例における新たな知見を提供できる可能性がある. そ れ ゆ え ,本 研 究 の目的 は (1) 様々な動作時の 股・膝・足関節の運動および筋活動を, CAI 群 と 健 常群 と の 間 で 比較 する こ と , (2) 先行 研究 で多 く調 べ ら れ てい る歩 行 動作に 焦 点を当て,CAI 群の下肢関節運動および筋活動の解析に主成分分析を応用することとした. また,(1) 2 群の下肢関節運動や筋活動の差は,歩行のような日常生活に関連する動作よ り,スポーツ関連動作で多く観察され,その群間の差は足関節だけでなく股・膝関節にも 観察される,また,(2) ほとんどの動作時に CAI 群は健常群に比べ,大きな足関節内反ま た は 小 さ な外 反 角 度を示 す , (3) 主成分分析は. 角度や筋活動の平均値による単純な比較 よりも CAI に関連した変化を検出する,という仮説を立てた.2. 対象と方法
2. 1. 対象
被 験 者 は 本 大学 の 様 々な ス ポ ー ツ 競技 活 動 に所 属 し て い る学 生 か ら募 集 し , CAI 群 12 名および健常群 12 名が本研究に参加した.なお,pilot study を基に (CAI 群 4 名,健常群 4 名 ),G*Power 3.1 の t-test model を用いて (Faul et al., 2007),a priori power analysis を実施 した結果,足関節内反角度において検出力 80%に達するための必要サンプル数は 22 から 24 名であった.全被験者に対し,口頭および書面にて実験手順を十分に説明し,書 面にて インフォームドコンセントを得た.また,本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認 (承認番号 : 11-57) を 得 て 実 施 さ れ た . 先行研究に基づき CAI 群の基準は以下のように設定した:(1) 免荷,固定,異常歩行を もたらした重度の足関節内反捻挫の既往が最低一回はあること,(2) 最低 2 回の足関節内 反捻挫の既往があり,また過去 2 年以内に最低 1 回は足関節内反捻挫を受傷していること, (3) 足関 節 giving way のエピソードが複数回あること,(4) Cumberland Ankle Instability Tool (CAIT) スコアが 27 点 以 下 (最大で 30 点 ) であること (Delahunt et al., 2010; Hiller et al., 2006), (5) 実 験 時 に リ ハ ビ リ テ ー シ ョン を 受 け てい ない こ と, と し た . CAIT ス コア は主 に主観的な足関節不安定感を評価するツールであり,足関節不安定性を評価することにお いてその妥当性は示されている (Hiller et al., 2006).CAI 群と年齢と性別がマッチングされ た 12 人の健常運動選手 (健常群) が本研究に参加するために本大学から集められた.
健常群の基準は下肢の損傷歴,足関節不安定性と giving way の経験がないこととした. 全被験者における除外基準は (1) 下肢の骨折歴・手術歴があることと主な筋骨格系損傷が あること (CAI 群の足関節内反捻挫歴以外),(2) 実験時に足関節の炎症と腫脹があること, (3) 3 か 月 以 内 に 下 肢 の 他 関 節 の 急 性 損 傷歴 が あ る こ と と し た .もし , 被 験 者 が 両 側 性 に CAI を有していたら,CAIT スコア が 低い方の下肢関節を 研究 対象とし た.CAI 群と健常群 は検査する下肢の利き脚と非利き脚の割合をマッチングさせた.なお,利き脚は被験者が ボールをキックする際に使用する脚と定義した (Rein et al., 2010).また,足関節捻挫の後 遺症としてよく観察される足関節の背屈可動域制限を評価するために,背屈可動域を荷重 位にて測定した (Crossley et al., 2007).
2. 2. 計測動作
被験者は以下の 6 つの動作課題を無作為の順序で行った. (1) 自然歩行 (図 1-a), (2) サイドターン動作 (図 1-b), (3) クロスターン動作 (図 1-c), (4) サイドカッティング動作 (図 1-d), (5) クロスカッティング動作 (図 1-e), (6) 片脚着地動作 (図 1-f). 自然歩行では,被験者は自然な速度で,下に位置する床反力計を見ないよう前方を見な がら歩行路を真直ぐ歩いた (図 1-a).サイドターン動作では,被験者は自然な速度で床反 力 計 に 向 か っ て 真 直 ぐ 歩 行 路 を 歩 き , そ れ か ら 検 査 脚 を 床 反 力 計 に 接 地 さ せ た 後 , 内 側 45°の 方 向 転換 を 行 い,約 2.5m 歩き続けた (図 1-b).ク ロス ター ン 動作 では,サイドター ン 動 作 と同 様 に 床反 力計 に 検 査脚 を 接 地さ せた 後 , 非検 査 脚 (遊脚側) を交差させて外側 45°の 方 向 転換 を 行 い,約 2.5m 歩き続けた (図 1-c).サイ ドカ ッテ ィ ング動 作 では,Ford et al. (2005) が使 用 し た 方 法に 基づ き,被 験者 は床 反力 計の 前 (0.4m) で膝関節 45°屈曲位 である構えの姿勢をとり,検者が音信号による合図を鳴らした瞬間に前方へジャンプを実 施した (図 1-d).その後,検査脚を床反力計に接地させ,内側 45°方向へ方向転換し,約 2.5m 走行した.ク ロ ス カ ッ テ ィ ン グ 動作 では,サイドカッティング動作 と同様に床反力計 に検査脚を接地し,非検査脚 (遊脚側) を交差させて外側 45°の方向転換を行い,約 2.5m 走行した (図 1-e).なお,これら 2 つのカッティング動作は可能な限り速く遂行するよう 指示した.片脚着地動作は,被験者は床反力計の前に位置する 0.4m 高の台の上に,非検 査脚で立ち,検査脚は安静非荷重とした.それから,非検査脚を用いて台から身体を前方 に推進させ,検査脚で床反力計の中心に向かって着地した (図 1-f).着地後 5 秒間は片脚 立位を保持するように指導した.各動作が記録される前に,被験者は各動作を行えるよう になるまで 3 から 5 回の練習が許可された.足部全体が床反力計に接地していない試行, バランスを崩し体幹や下肢に動揺が生じた場合は失敗試行として除外した.被験者は各試 行間に約 1 分間,各動作間に約 5 分間の休憩が与えられた.各動作において妥当な 3 試行 の関節角度,床反力,筋電波形データが収集された.図 1.6 つの動作課題の一連.a) 自然歩行,b) サイドターン動作,c) クロスターン動作, d) サ イ ド カ ッテ ィ ン グ 動 作 , e) ク ロ スカ ッ テ ィ ング 動 作 , f) 片脚 着 地動 作. 図は 左 下肢 が解析対象である場合の動作を示している.
2. 3. 下肢関節運動 計測
2. 3. 1. 実験機器
25 個の赤外線反射マーカーを,両面テープを用いて下肢骨ランドマーク上の皮膚に貼付 した (図 2).これらのマーカー配置は Helen Hays marker sets を基に (Kadaba et al., 1990), 仙骨,両側の上前腸骨棘,大転子,大腿外側面,大腿骨内側・外側上顆,下腿外側面,内 果・外果,踵部後面,第 1・第 2・第 5 中足骨頭に貼付した.全被験者は自身に適したサイ ズかつ同種の靴 (Artic Mesh M, adidas,Herzogenaurach, Germany) を着 用し た.なおこの靴 はマーカーを足部の皮膚上に直接貼れるように穴を空けた.下肢関節角度と床反力のデー タは赤外線カメラ 6 台 (Hawk cameras, Motion Analysis Corporation, Santa Rosa, CA, USA) および床反力計 (Kistler, Winterthur, Switzerland) を用いて収集した.これらの機器は時間 を同期し,それぞれのサンプリング周波数は 200Hz および 1000Hz とした.各動作記録前 に,被験者の静止立位時の各マーカー座標が記録された.静止立位において両手は胸の前 で組み,足部の向きは真っ直ぐとし,両足の幅は大転子幅と一致させた状態で 5 秒間保持 した.
2. 3. 2. データ解析
3 次元マーカー軌跡データは 4 次の Butterworth low-pass filter (a cutoff frequency of 12 Hz) を用いて処理した.マーカー軌跡データにおける欠損データが存在した場合は EvaRT4.3.57 ソフトウェア (Motion Analysis Corporation) を用いて補間処理を行った.次に ,SIMM 4.2.1 (MusculoGraphics Inc., Santa Rosa, CA , USA) を用 い て 下 肢関節 角 度を算 出 した (Delp et al., 1990). SIMM model は 静 的 立 位 時 の マー カ ー 座 標 お よ び計 測 された 足 長と足 幅 から得 られ た各被験者のセグメント長によってスケーリングされた.セグメント質量および慣性特性 は各被験者の体重およびセグメント長に基づき個別化された.なお,セグメント質量分布 のパラメータは DeLeva によって示されたデータに基づいている (DeLeva, 1996).解剖学 的肢位における身体セグメントの座標系に関して (図 3),X 軸は前後方向,Y 軸は上下方 向,Z 軸は内外側方向を向いている (Delp, 1990).骨盤座標系は両側上前腸骨棘を結ぶ線 の中点に位置し,大腿骨座標系は大腿骨頭中心に位置している.また,脛骨座標系は大腿 骨顆間の中点に位置し,脛骨に固定されている.また,距骨座標系は内外果の中点に位置 し,踵骨座標系は踵骨後面の最も遠位かつ下方に位置している. 本研究で使用した SIMM model において,股関節は 3 自由度の球関節であり,屈曲‐伸 展,内転‐外転,内旋‐外旋の 3 平面運動を有する.膝関節は 1 自由度であり,屈曲‐伸 展運動のみを有する (Walker et al., 1988).足関節における距腿関節と距骨下関節の軸は直 交座標系ではなく,Inman (1976) によって定義された座標系に準じており (図 3),それぞ れで底屈‐背屈と内反‐外反運動を有する (Delp et al., 1990).動作時の各関節角度は最初 に測定された静的立位 時の角度を 0°して表現した.また,マーカーを貼付した皮膚の運 動による,骨運動との相対誤差の影響を減ずる global optimization method を用いて関節角 度を算出した (Lu & O’Connor, 1999).
MATLAB 2008b (MathWorks Inc., Natick, MA, USA) を用いて 全ての 動作 課題 は接 地した 瞬間を基準に 2 つの相に分割した.片脚着地動作は接地前 200ms 間と接地後 200ms 間の 2 つの相に分割した.また,それ以外の 5 つの動作は接地前 200ms 間と,接地から離地まで の立脚相の 2 つの相に分割した.初期接地は垂直床反力が初めて 10N を超えた瞬間として 定義され,一方で離地は垂直床反力が初期接地後に初めて 10N を下回った瞬間として定義 した.立脚相の時間は試行間および被験者間で異なるため 100% に正規化することで時系 列を揃えた.また,全 6 動作における立脚相 (片脚着地動作のみ接地後 200ms 間) の最大 垂直床反力を各被験者の体重で標準化し,抽出した (N/kg).
図 3.SIMM 骨モデルにおけるセグメント座標系および足関節座標系 (Delp, 1990).足関節 座標系は Inman (1976) のデータを基に設定されている (Delp et al., 1990).
2. 3. 3. 統計学的解析
2 群間の 対象特性に関するデータに関して は 対応のない t-test を 用 いて 比較 した .ま た, 最大垂直床反力に対する群と動作課題の効果を調べるために 2 元配置分散分析を実施した. 有意な効果が認められた場合は Bonferroni test を用いた (P < .05). 各被験者のそれぞれのデータは各動作成功 3 試行の平均値を統計解析に使用した.先行 研究を基に,群間の下肢関節角度の時系列データの差を検出するために,curve analysis を 各動作における 2 つの相全体に対し実施した (Delahunt et al., 2007; Delahunt et al., 2006b; Drewes et al, 2009a; Drewes et al., 2009b; Monaghan et al., 2006).各 デー タ分 布を Shapiro-Wilk test により正規性を評 価し,正規分布 して いる 場 合 は 対応 の ない t-test を 用 い,また正 規 分 布していない場合は Mann-Whitney test を用いて群間比較した (P < .05).また,逸脱したデ ータによる統計学的結果への影響を避けるために,最低 3 data point 以上連続 (接地前相で は 1 data point は 5ms,立脚相では 1%) で有意差が認められた場合を有意差ありとした. 全ての統計解析は IBM SPSS Statistics 17 (IBM Corporation, Armonk, New York, USA) を用い て実施した.また,効果量の指標として Cohen’s d を算出し,効果量の大きさは,小 (d < 0.4), 中 (0.4 < d < 0.8),大 (d > 0.8) と解釈した (Cohen, 1988).2. 4. 下肢筋活動計測
2. 4. 1. 実験機器
下肢筋活 動は多 チャ ネ ルテレメ ータシ ステ ム (WEB-1000,Nihon Kohden Corporation, Tokyo, Japan) をサンプリング周波数 1000Hz で用 い記 録し た. 被験 筋は 大殿 筋, 中殿 筋, 大腿直筋,半腱様筋,前脛骨筋,長腓骨筋,腓腹筋内側頭の 7 筋とした.電極貼付の際は, 貼 付 部 位 周 辺 を ア ル コ ー ル 綿 で 前 処 置 を し , SENIAM (surface electromyography for the non-invasive assessment of muscles; http://www.seniam.org/) の推 奨に 基 づ い て各筋 に ワ イヤ レス電極を配置した.大殿筋に対しては,仙椎と大転子を結ぶ線上の中点に配置し,中殿 筋に対しては腸骨稜と大転子を結ぶ線上の中点に配置した.大腿直筋に対しては,上前腸 骨棘と膝蓋骨底を結ぶ線上の中点に配置し,半腱様筋に対しては,坐骨結節と脛骨の内側 顆を結ぶ線上の中点に配置した.前脛骨筋に対しては,腓骨頭と内果を結ぶ線上の近位 1/3 の点に配置し,長腓骨筋に対しては,腓骨頭と外果を結ぶ線上の近位 1/4 の点に配置した. 腓腹筋内側頭に対しては最も筋が隆起する部位に配置した.
各筋の最 大随意 等尺性 収縮 (Maximum voluntary isometric contraction: MVIC) の計測は SENIAM の推奨方法に準じ, 徒手抵抗で実施し た.また腓腹筋 内 側頭 のみ徒手抵抗よりも 活動が高く認められた片脚立位における heel raise で MVIC を計測した.各 MVIC の計測 時間は 5 秒間とした.なお,各筋の筋電波形が確実に導出できているかについて,MVIC 計測前にリアルタイムで筋電波形を視認した.
2. 4. 2. データ解析
これらの筋電図データはカスタム MATLAB プログラムを用いて,各筋の筋電波形につ いて 4 次の Butterworth band-pass filter (20-450 Hz) 処理し,全波整流後に 4 次の Butterworth low-pass filter (a cutoff frequency of 10 Hz) に よ る 平 滑 化 を施し た .MVIC 中の各筋の最大筋 電図振幅を 100ms の moving window algorithm を用いて特定し (Hubley-Kozey et al., 2006), 各 動 作 時 の 筋 電 図 振 幅 を そ れ ぞ れ MVIC 中 の 最 大 筋 電 図 振 幅 を 基 準 と し て 標 準 化 し た (%MVIC). そ の 後 接 地 前 相 200ms 間の 各筋 に お け る %MVIC の平均値 を算出し,一方で立 脚相においては 10%毎で 10 相に分割し,それぞれ%MVIC の平均値を算出した.
2. 4. 3. 統計学的解析
各被験者のそれぞれのデータは各動作成功 3 試行の平均値を統計解析に使用した.各群 における接地前相と 10 分割した立脚相の%MVIC 平均値のデータ分布を Shapiro-Wilk test により評価し,正規分布している場合は対応のない t-test を用い,また正規分布していな い場合は Mann-Whitney test を用いて群間比較した.全ての有意水準は P < .05 に設定した. また,逸脱したデータによる統計学的結果への影響を減少させるために,立脚相において
は最低 3 相以上連続 (30%以上連続) の区間で有意差が認められた場合を有意差ありと考 慮した.統計解析は IBM SPSS Statistics 17 を用いて実施した.また,効果量の指標として Cohen’s d を算出し,効果量の大きさは,小 (d < 0.4),中 (0.4 < d < 0.8),大 (d > 0.8) と 解釈した (Cohen, 1988).
2. 5. 歩行動作の主成分分析
2. 5. 1. 主成分分析の方法
歩行時の接地前 200ms 間および立脚相における角度と筋電波形のデータをそれぞれ 100%に正規化した. 6 つの下肢関節角度波形データ (股関節屈曲‐伸展・内転‐外転・内 旋‐外旋,膝関節屈曲‐伸展,足関節背屈‐底屈・内反‐外反) と 7 つの筋活動波形デー タから接地前および立脚相 (着地動作のみ接地後 200ms 間) それぞれ計 26 の行列を作成し た.この行列では,試行数 72 (被験者数 24×試行数 3) を行に投入し,正規化した時系列 波形の 101 data points を列に投入し,72×101 の行列 X72×101 とした.次に X72×101 の共分散 行列 S101×101 から主成分として固有ベクトル U101×101 を,加えて固有値 L1×101 も抽出した . ここで固有値は,各主成分が各変数の波形の変動性に対する相対的寄与率を示している. 101 の主成分が存在する中,最初のいくつかの主成分によって波形データの変動性の大半 が説明される.最初の重要な主成分を解析のためにいくつ残すのか,またその残す方法に ついては研究間によって様々である.一般的には主成分 1 から 3 により波形の変動性の大 半が説明される.しかし,本研究では主成分 3 以降は波形変動性に対する寄与率が小さい こと,これらの主成分によって捉えられた特徴の解釈が困難であることから,主成分 1 と 主成分 2 のみを解析対象とした.主成分得点 Z は各試行の波形データから,全試行の平均 波形データを差し引き,これと固有ベクトル U101×101 の積から算出さ れた;Z = (X-𝑋̅) × U(McKean et al., 2007; Robbins et al., 2013) . こ こ で 主成分得点は各試行の波形データが,主 成分が抽出した特徴にどの程度一致した特徴を有するかについて説明する.主成分の説明 する特徴を解釈するために,得られた固有ベクトルの波形と,主成分得点が高得点である 波形と低得点である波形を視覚的に確認した.例えば,主成分得点が高い試行は主成分に よって最も説明される特徴に近い波形パターンを有し,一方で得点が低い試行は主成分に よって説明される特徴と離れた波形パターンを有している.
2. 5. 2. 統計学的解析
主成分分析を用いている先行研究を参考にし,2 群間における各主成分得点の比較には 対応のない t-test を用いた (Deluzio and Atephen, 2007; Kipp and Palmieri-Smith, 2012; Landry et al., 2007; Linley et al., 2010). 有意水準は P < .05 に設定 し た.統計解析は IBM SPSS Statistics 17 を用 い て 実 施 し た.ま た,効 果 量 の 指 標 と し て Cohen’s d を算 出し ,効果 量の 大きさは,小 (d < 0.4),中 (0.4 < d < 0.8),大 (d > 0.8) と解釈した (Cohen, 1988).3. 結果
3. 1. 対象特性
表 1 に 2 群の特徴を示す.CAI 群と健常群は年齢,身長,体重,スポーツ活動への参加 時間は同等であった (P > .05; 表 1).CAI 群は健常群に比べ,CAIT スコアが有意に低かっ た (P < .001; 表 1).CAI 群は 7.3 ± 3.9 回の足関節内反捻挫を過去に経験しており,一方で 健常群は 0 回であった.全被験者は週に最低 2 日はスポーツ活動に参加しており,そのス ポーツ種 目は様 々であ った (バスケットボール,ラクロス,陸上競技,テニス,セパタク ロー,サッカー).また,2 群間で足関節背屈可動域に有意差は認められなかった (P > .05; 表 1). 表 1. CAI 群と健常群の対象特性に関するデータ. 群 性 (n) 年齢 (歳) 身長 (cm) 体重 (kg) CAIT スコア a 背屈可動域 (°) CAI 群 男性 (10) 女性 (2) 21.1 (0.9) 172.9 (8.2) 64.6 (8.4) 20.8 (4.4) 24.4 (6.5) 健常群 男性 (10) 女性 (2) 20.7 (0.5) 172.1 (8.0) 64.7 (9.3) 29.8 (0.6) 26.2 (7.1) データは平均値 (標準偏差) を示す.略語:CAIT, Cumberland Ankle Instability Tool; CAI, chronic ankle instability.
a
3. 2. 動作および群 による垂直床反力 への影響
最大垂直床反力は群による有意な効果は認められず,各動作において 2 群間で同様の値 を示した (P > .05; 表 2).また動作課題の有意な効果が認められ,歩行,サイドターン動 作,クロスターン動作の 3 動作間の最大垂直床反力は同様であったが,これら 3 動作全て はサイドカッティング動作,クロスカッティング動作,片脚着地動作に比べ,有意に低値 を示した (全て P < .001; 表 2).またサイドカッティング動作はクロスカッティング動作よ りも,最大垂直床反力は有意に高値であり (P = 0.003; 表 2),さらに片脚着地動作はこれ ら 2 つのカッティング動作に比べ,有意に高値を示した (全て P < 0.001; 表 2). 表 2.CAI 群と健常群の 6 動作課題における最大垂直床反力(N/kg). 動作課題歩行a Side-turna Cross-turna Side-cuttingb,c Cross-cuttingc 片脚着地 CAI 群 11.3 (0.9) 11.6 (0.7) 11.7 (1.0) 19.3 (2.3) 17.3 (2.5) 34.3 (5.6) 健常群 11.3 (0.6) 11.4 (0.5) 11.3 (0.6) 19.2 (2.5) 18.3 (2.1) 37.1 (3.7) a はサイドカッティング,クロスカッティング,片脚着地動作の 3 動作との有意差を示す. b はクロスカッティング動作との有意差を示す. c は片脚着地動作との有意差を示す.
3. 3. 2 群間におけ る 下肢関節運動 の相違
自然歩行,サイドターン動作,クロスターン動作の 3 つの動作では,2 群間のいかなる 関節角度において有意差は認められなかった (P > .05; 図 4‐6). サイドカッティング動作に関して (図 7),CAI 群は健常群に比べ,初期接地の瞬間から 立脚相の 24%までの区間において有意に大きな股関節屈曲角度を示し,またその効果量は 大きく (P < .05; d = 0.84-1.00),平均群間差は 5.31°であった.また,接地前 190ms から 180ms まで の区間 における CAI 群の足関節内反角度は健常群よりも有意に大きく ,またそ の効果量は大きく (P < .05; d = 0.85-0.86),平均群間差は 5.69°であった.2 群間で股関節 内 転 ‐ 外 転 と 内 旋 ‐ 外 旋 , 膝 関 節 屈 曲 , 足 関 節 背 屈 ‐ 底 屈 角 度 に 有 意 差 は な か っ た (P > .05). クロスカッティング動作では (図 8),CAI 群は健常群より立脚相の 6%から 50%までの 区間において有意に大きな股関節屈曲角度を示し,その効果量は大きかった (P < .05; d = 0.86-1.25).ま た ,その平 均群間差は 5.51°であ った.CAI 群は健常群より接地前 200ms か ら立脚相の 45%までの区間において有意に大きな股関節外転角度を示し,その効果量は大 きく (P < .05; d = 0.87-1.19),また平均群間差は 4.04°であった.さらに,CAI 群は健常群 に比べ,立脚相の 35%から 63%まで (P < .05; d = 0.85-0.96),および 69%から 87%まで (P < .05; d = 0.88-0.99) の 2 つの区間で 有意に大きな 膝 関節 屈曲 角度を示し ,そ の効 果量 は大 きかった.これらの平均群間差はそれぞれ 7.63°および 9.54°であった.一方,2 群間で 股関節内旋‐外旋,足関節背屈‐底屈 , 内 反 ‐ 外 反 角 度 で 有 意 な 差 は な か っ た (P > .05). 片脚着地動作に関して (図 9),CAI 群は健常群に比べ,接地前 200ms から接地前 10ms まで (P < .05; d = 0.88-1.12),さらに接地後 105ms から 200ms までの区間において (P < .05; d = 0.85-1.38),有 意 に 大 き な 股 関節 屈曲角度を 示し ,さ らに これ らの 効果量 は 大きか っ た . これらの平均群間差はそれぞれ 3.74°および 8.26°であった.また,CAI 群は健常群に比 べ,接地後 35ms から 50ms までの区間において有意に大きな膝関節屈曲角度を示し,その 効果量は大きく (P < .05; d = 0.87-0.89),また平均群間差は 6.42°であった.さらに,CAI 群の足関節外反角度は接地後 40ms から 70ms までの区間で,健常群より有意に小さく,効 果量は大きかった (P < .05; d = 0.85-0.95).その平均群間差は 4.18°であった.一方,2 群 間で股関節内転‐外転,内旋‐外旋,膝関節屈曲,足関節背屈‐底屈角度に有意差はなか った (P > .05).図 4.自然歩行時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞれ屈曲,内転, 内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す.横軸は接地前 相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平均値および標 準偏差を示す.
図 5.サイドターン動作時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞれ屈曲, 内転,内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す.横軸は 接地前相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平均値お よび標準偏差を示す.
図 6.クロスターン動作時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞれ屈曲, 内転,内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す.横軸は 接地前相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平均値お よび標準偏差を示す.
図 7.サイドカッティング動作時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞ れ屈曲,内転,内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す. 横軸は接地前相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平 均値および標準偏差を示す.網掛けは 2 群間で有意差を認めた区間を示している (P < .05).
図 8.クロスカッティング動作時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞ れ屈曲,内転,内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す. 横軸は接地前相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平 均値および標準偏差を示す.網掛けは 2 群間で有意差を認めた区間を示している (P < .05).
図 9.片脚着地動作時の接地前相および立脚相における下肢関節角度.それぞれ屈曲,内 転,内旋,背屈,内反が正の値を示す.IC は初期接地 (initial contact) を示す.横軸は接 地前相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群,青の実線は健常群の平均値およ び標準偏差を示す.網掛けは 2 群間で有意差を認めた区間を示している (P < .05).
3. 4. 2 群間におけ る 下肢筋活動の相違
自然歩行,サイドターン動作,クロスターン動作の 3 つの動作では,2 群間のいかなる 時期の各筋の%MVIC 平均値において有意差は認められなかった (P > .05; 図 10‐12). サイドカッティング動作に関して (図 13),接地前相の中殿筋の%MVIC 平均値は,CAI 群は健常群に比べ,有意に低値を示し (P = 0.008; CAI 群: 17.0 ± 12.3%, 健常群: 30.6 ± 20.5%),その効果量は大きかった (d = 0.80).また, CAI 群の立脚相 10%から 30%の腓腹 筋の%MVIC 平均値は健常群より有意に大きく (P = 0.001-0.033; CAI 群: 69.1 ± 28.6%, 86.2 ± 35.6%, 101.9 ± 51.5%, 健常群 : 30.0 ± 18.1%, 39.3 ± 26.2%, 58.0 ± 33.7%),その効果量は大 きかった (d = 1.01-1.64).それ以外の筋における%MVIC 平均値では有意な群間差は認めら れなかった (P > .05). ク ロ ス カ ッ テ ィ ン グ 動 作 で は ( 図 14) , CAI 群 は 健 常 群 に 比 べ , 接 地 前 相 の 中 殿 筋 の%MVIC 平均値は有意に低値を示し (P = 0.008; CAI 群: 6.6 ± 4.2%, 健常群: 13.2 ± 7.6%), その効果量は大きかった (d = 1.08).また,前脛骨筋の%MVIC 平均値に関して,CAI 群は 健常群より立脚相 10%から 30%において有意に低値を示し (P = 0.017-0.033; CAI 群: 26.4 ± 17.8%, 31.2 ± 15.3%, 25.8 ± 12.9%, 健常群 : 62.4 ± 46.0%, 67.3% ± 41.4% 51.6 ± 39.2%),その 効果量は大きかった (d = 0.88-1.15).一方で,CAI 群は健常群に比べ,接地前相の腓腹筋 の%MVIC 平均値が有意に高値であり (P < 0.001; CAI 群: 27.2 ± 15.7%, 健常群: 10.3 ± 10.2%),そ の 効 果 量 は 大 き か っ た (d = 1.28).そ れ 以 外の 筋 における %MVIC 平均値 では有 意な群間差は認められなかった (P > .05). 片脚着地動作では (図 15),CAI 群は健常群に比べ接地前相の腓腹筋の%MVIC 平均値は CAI 群で有意に高値を示し (P = 0.045; CAI 群 : 92.7 ± 49.9%, 健常群 : 61.6 ± 17.0%),その効 果量は大きかった (d = 0.835).それ以外の筋における%MVIC 平均値では有意な群間差は 認められなかった (P > .05).図 10.自然歩行時の接地前 200ms 間 お よ び 立 脚 相 に お け る 下 肢 筋 電 波 形 (% MVIC). IC は 初 期 接 地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と 立 脚 相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群, 青 の実 線は 健常 群の 平均 値 および標準偏差を示す.
図11.サイドターン動作時 の 接 地 前 200ms 間および 立 脚相 にお ける 下肢 筋電 波 形 (% MVIC). IC は 初 期 接 地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と 立 脚 相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群, 青 の実 線は 健常 群の 平均 値 および標準偏差を示す.
図 12.クロスターン動作時 の 接 地 前 200ms 間および 立 脚相 にお ける 下肢 筋電 波 形 (% MVIC). IC は 初 期 接 地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と 立 脚 相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群, 青 の実 線は 健常 群の 平均 値 および標準偏差を示す.
図13.サイドカッティング 動 作 時 の 接 地 前 200ms 間 お よび 立脚 相に おけ る下 肢 筋電波形 (% MVIC). IC は 初 期 接 地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と 立 脚 相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群, 青 の実 線は 健常 群の 平均 値 お よび 標準 偏差 を示 す. 網 掛けは 2 群間の%MVIC 平 均 値に おい て有 意差 を認 め た 区 間 を 示 し て い る (P < .05).
図14.クロスカッティング動作 時の接地前200ms 間および立脚 相 に お け る 下 肢 筋 電 波 形 (% MVIC). IC は初期接地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と立脚相 (%) を示す.赤の実線 は CAI 群,青の実線は健常群の 平 均 値 お よ び 標 準 偏 差 を 示 す . 網掛けは 2 群間の%MVIC 平均値 に お い て 有 意 差 を 認 め た 区 間 を 示している (P < .05).
図 15.片脚着地動作時の接 地 前 200ms 間および立脚 相 に お け る 下 肢 筋 電 波 形 (% MVIC). IC は 初 期 接 地 (initial contact) を 示 す . 横 軸 は 接 地 前 相 (ms) と 立 脚 相 (%) を示す.赤の実線は CAI 群, 青 の実 線は 健常 群の 平均 値 お よび 標準 偏差 を示 す. 網 掛けは 2 群間の%MVIC 平 均 値に おい て有 意差 を認 め た 区 間 を 示 し て い る (P < .05).
3. 5. 歩行動作の主成分分析 結果
3. 5. 1. 下肢関節 運動 の主成分分析 結果
下肢関節運動に関して,接地前相および立脚相共に,全ての関節角度の第 1 および第 2 主成分の合計寄与率は 80%以上であった.接地前相における股関節内旋の第 1 および第 2 主成分得点の合計寄与率は 93.1%であり,CAI 群の第 2 主成分得点 (寄与率 11.9%) は,健 常群に比し有意に高値を示し,その効果量の大きさは中等度であった (P = 0.007; d = 0.66; 表 3).この第 2 主成分は接地前における股関節の内旋から外旋への運動変化と解釈され, CAI 群は健常群に比べ股関節外旋運動変化が乏しい特徴を有していた (表 3; 図 16). 立脚相における足関節背屈の第 1 および第 2 主成分得点の合計寄与率は 87.4%であり, 第 2 主成分得点 (寄与率 18%) は健常群に比べ有意に高値を示し,その効果量の大きさは 中等度であった (P = 0.005; d = 0.68; 表 3).この第 2 主成分は立脚相前半における大きな 背屈角度と解釈され,CAI 群は健常群に比べ立脚相前半において足関節背屈角度が大きい 特徴を有していた (表 3; 図 17).さらに立脚相における足関節内反の第 1 および第 2 主成 分得点の合計寄与率は 80.6%であり,CAI 群の第 2 主成分得点 (寄与率 16.2%) も健常群に 比し有意に高値を示し,その効果量の大きさは中等度であった (P = 0.033; d = 0.51; 表 3). この第 2 主成分は立脚初期における小さな足関節外反および立脚終期における小さな内反 と解釈された (表 3; 図 17).CAI 群は健常群に比べ,立脚初期において足関節外反が不十 分であり,また立脚終期では内反角度が小さい特徴を有していた.その他の関節角度にお ける主成分得点には有意な群間差は認められなかった (P > 0.05). 表 3.下肢関節運動の主成分得点と解釈. 群間で有意差を認めた主成分の解釈 平均値 (標準偏差) d 主成分 解釈 CAI Control 接地前相 股関節内旋 主成分 2 外旋運動変化の大きさ -4.29 (9.84) 4.29 (15.64) 0.66 立脚相 足関節背屈 主成分 2 立脚相前半における背屈角度の 大きさ 6.58 (21.52) -6.58 (16.69) 0.68 足関節内反 主成分 2 立脚初期における小さな外反と 終期における小さな内反 3.91 (15.36) -3.91 (15.17) 0.51図 16.(a) CAI 群と健常群における接地前相の股関節内旋の平均時系列データ (内旋が正). (b) 第 2 主成分における固有ベクトル.(c) 第 2 主成分得点が高い 5 試行 (細い実線 ) とそ の平均の波形 (太い実線),また得点が低い 5 試行 (細い実線) とその平均波形 (太い実線). 固有ベクトル波形に加え,主成分得点の高得点試行および低得点試行との差から,第 2 主 成分は股関節外旋運動の変化を捉えていることが示唆される.
図 17.CAI 群と健常群における立脚相の (a) 足関節背屈と (b) 足関節内反の平均時系列 データ (背屈および内反が正).(c) 足関節背屈の第 2 主成分における固有ベクトル.(d) 足 関節内反の第 2 主成分における固有ベクトル.(e) 足関節背屈の第 2 主成分得点が高い 5 試行 (細い実線) とその平均の波形 (太い実線),また得点が低い 5 試行 (細い実線) とそ の平均波形 (太い実線).(f) 足関節内反の第 2 主成分得点が高い 5 試行 (細い実線) とその 平均の波形 (太い実線),また得点が低い 5 試行 (細い実線) とその平均波形 (太い実線). 固有ベクトル波形に加え,主成分得点の高得点試行および低得点試行との差から,足関 節背屈の第 2 主成分は立脚期前半における背屈角度の大きさを捉えており,また足関節内 反の第 2 主成分は立脚初期における小さな外反と終期における小さな内反を捉えているこ とが示唆される.
3. 5. 2. 下肢筋活動の主成分分析 結果
筋活動に関して,接地前相においては全ての筋活動の第 1 および第 2 主成分の合計寄与 率は 80%以上であったが,立脚相においては中殿筋,前脛骨筋,腓腹筋の第 2 主成分まで の合計寄与率はそれぞれ 79.1%,78.2%,75.6%であった.接地前相における大腿直筋と半 腱様筋の CAI の第 1 主成分得点 (寄与率はそれぞれ 93.0%および 84.2%) は健常群に比し 有意に低値であり,これらの効果量の大きさは中等度であった (それぞれ P = 0.004; d = 0.71, P = 0.004; d = 0.72; 表 4).これら 2 筋 の 第 1 主成分は共に接地前相全体における筋 活動の大きさと解釈され,CAI 群は健常群に比べ,大腿直筋および半腱様筋の筋活動が小 さい特徴を有していた (表 4; 図 18).また,接地前相における前脛骨筋の第 2 主成分得点 (寄与率 11.5%) は, CAI 群は健常群に比べ有意 に高値を示し ,効果量の大きさは中等度で あった (P = 0.041; d = 0.49; 表 4).この第 2 主成分は接地直前における低い筋活動と解釈 され,CAI 群は健常群に比べ,接地直前の前脛骨筋活動が小さい特徴を示した (表 4; 図 19). また,立脚相においても CAI における大腿直筋と半腱様筋の第 1 主成分得点 (寄与率は それぞれ 60.9%および 58.6%) は健常群に比し有意に低値であり,これらの効果量の大きさ は中から大であった (それぞれ P = 0.021; d = 0.57,P < 0.001; d = 0.92; 表 4).これら 2 筋 の第 1 主成分は共に立脚初期および後期における筋活動の大きさと解釈され,CAI 群は健 常群に比べ,大腿直筋および半腱様筋の筋活動が小さい特徴を有していた (表 4; 図 20). 一方,立脚相の前脛骨筋の第 2 主成分得点は (寄与率 18.6%) CAI 群 で有意に高値であ り, 効果量の大きさは中等度であった (P = 0.009; d = 0.63; 表 4).この第 2 主成分は接地直後 の小さな筋活動および立脚中期における筋活動の大きさと解釈された (表 4; 図 21).よっ て,CAI 群は健常群に比べ,接地直後の前脛骨筋活動が低く,さらに立脚中期においては 筋活動が高い特徴を示した.立脚相における長腓骨筋の第 2 主成分得点に関して (寄与率 8.49%), CAI 群 が 健 常 群 よ り も 有 意 に低 値 を 示 し ,その効果量の大きさは中等度であった (P = 0.036; d = 0.51; 表 4).こ の 第 2 主成分は立脚相前半における筋活動の大きさおよび立 脚後期における筋活動の小ささと解釈された (表 4; 図 21).それゆえ,CAI 群は健常群に 比べ,立脚前半における長腓骨筋活動が低く,立脚後期においては高い活動を示した.腓 腹筋の立脚相における第 1 および第 2 主成分得点は (寄与率それぞれ 49.8%および 25.8%) CAI 群は健常群に比べ有意に高値であ り,これらの効果量の大きさは中等度であった (そ れぞれ P = 0.043; d = 0.49,P = 0.009; d = 0.64; 表 4).この第 1 主成分は立脚中期から後期 にかけての筋活動の大きさと解釈され,また第 2 主成分は立脚後期における筋活動ピーク の大きさと解釈された (表 4; 図 22).それ故 CAI 群は健常群より腓腹筋活動が高い特徴を 示した.その他の筋活動における主成分得点には有意な群間差は認められなかった (P > 0.05).表 4.下肢筋活動の主成分得点と解釈. 群間で有意差を認めた主成分の解釈 平均値 (標準偏差) d 主成分 解釈 CAI Control 接地前相 大腿直筋 主成分 1 接地前相全体に渡る筋活動の大 きさ -0.99 (0.15) 0.99 (3.67) 0.71 半腱様筋 主成分 1 接地前相全体に渡る筋活動の大 きさ -0.56 (0.87) 0.56 (2.02) 0.72 前脛骨筋 主成分 2 接地直前における低い筋活動 0.10 (0.38) -0.10 (0.44) 0.49 立脚相 大腿直筋 主成分 1 立脚初期および後期における筋 活動の大きさ -0.10 (0.18) 0.10 (0.48) 0.57 半腱様筋 主成分 1 立脚初期および後期における筋 活動の大きさ -0.43 (0.20) 0.43 (1.33) 0.92 前脛骨筋 主成分 2 接地直後の小さな筋活動および 立脚中期の筋活動の大きさ 0.17 (0.47) -0.17 (0.62) 0.63 長腓骨筋 主成分 2 立脚前半における筋活動の大き さおよび後期での小さな筋活動 -0.17 (0.82) 0.17 (0.48) 0.51 腓腹筋 主成分 1 立脚中期から後期における筋活 動の大きさ 0.32 (1.28) -0.32 (1.34) 0.49 主成分 2 立脚後期における筋活動ピーク の大きさ 0.29 (1.07) -0.29 (0.75) 0.64