課 題名 5-1307 風力発 電等 による 低周 波音 ・騒音 の長 期健康 影響 に関 する疫 学研 究 課 題代 表者 名 石 竹 達也 (学 校法 人久留 米大 学医 学部 環境 医学講 座 教授 ) 研 究実 施期 間 平 成 25~27年度 累 計予 算額 69,496千円 (うち 平成 27年度 : 20,699千円) 予 算額 は、 間接経 費を 含む。 本 研究 のキ ーワ ード 風 力発 電、超 低周 波音 ・騒音 、健 康影響 、疫 学研 究、睡 眠障 害、環 境影 響評 価 、 Health Impact Assessment( HIA:健 康影響 予測 評価 )
研 究体 制
( 1)健康 リス クの事 前評 価法 (Health Impact Assessment)の 検討 (学 校法人 久留 米大学 ) ( 2)低周 波音 ・騒音 の疫 学調 査(学 校法 人産業 医科 大学 ) ( 3)風力 発電 施設近 隣居 住宅 の環境 評価 (学校 法人 帝京 大学) ( 4)関連 情報 の収集 分析 (学 校法人 産業 医科大 学) 研 究協 力機 関 学 校法 人産 業医科 大学 、学校 法人 帝京 大学 研 究概 要 1 . は じめ に( 研究 背景 等) 東 日 本 大 震 災 に よ る 原 発 事 故 問 題 や 地 球 温 暖 化 対 策 の た め 、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 導 入 促 進 ・ 利 用へ の 国 民の 関 心は 高 い。 国 も再 生 可 能エ ネ ルギ ー の普 及 を促 進 す るた め 「電 気 事業 者 に よる 再生 可能エ ネル ギー電 気の 調達 に関す る特 別措置 法( 平成 24 年 7 月 )」を施 行す るなど 、 法 的整 備を 進めて いる 。 一 方 で、 風 力 発電 施 設の 導 入に 伴 い、 超 低 周波 音 ・騒 音 に関 連 する 苦 情 が発 生 して い るが 、 健 康 影 響に つ い ては 明 らか に され て いな い 。 これ ま での 疫 学研 究 では 、 風 力発 電 施設 か らの 騒 音 に よ りア ノ イ アン ス の増 大 、睡 眠 妨害 、 生 活の 質 の低 下 など が 報告 さ れ てい る が、 睡 眠障 害 と の 関 連に つ い ては 、 一致 し た結 論 が得 ら れ てい な い。 一 般の 道 路交 通 騒 音や 航 空機 騒 音の 健 康 影 響 にお い て も、 睡 眠障 害 が主 要 な健 康 影 響指 標 とさ れ てお り 、今 回 の 風力 発 電に よ る騒 音 の 健 康 影響 の 指 標と し て妥 当 であ る と考 え る 。睡 眠 障害 は 、肥 満 や糖 尿 病 、高 血 圧な ど 生活 習 慣 病の 発症 要因と なり、 重篤な 心臓 血管系 疾患 発症 のリス クを 高める との 指摘 がなさ れて おり 、 風 車 騒 音の 健 康 影響 と して 睡 眠障 害 に着 目 す る意 義 は高 く 、風 力 発電 等 に よる 超 低周 波 音・ 騒 音 へ の ばく 露 が 長期 健 康影 響 (睡 眠 障害 ) の リス ク ファ ク ター で ある 可 能 性を 明 らか に する こ と は、 今後 の風車 騒音 に対す る行 政的 対応の 指針 作成に おい て不 可欠で ある 。 新 た な風 力 発 電施 設 を設 置 する 際 は、 人 へ の影 響 以外 に 、動 植 物及 び 生 態系 、 景観 等 の環 境 へ の 影 響が 危 惧さ れ る 場合 が ある の で、 環 境影 響 評価 (環 境ア セ ス メン ト )の実 施 が望 ま れて い た が、 これ までは 法的 環境ア セス メン トの対 象事 業では なか った 。そこ で国 は平成 23 年 4 月 、 風 力 発 電施 設 の 開発 も 法的 な 環境 影 響評 価 の 対象 事 業と し 、計 画 段階 に お ける 環 境配 慮 手続 き を 新 設 した 環 境 影響 評 価法 の 改正 を 行っ た 。 しか し 、通 常 の環 境 影響 評 価 では 、 人へ の 健康 影 響 を十 分考 慮した 行政 的対応 は現 在な されて いな い。欧州 では 1990 年 代より 環境 影響 評価に 加 え て、 開発 事業開 始前 に人へ の健 康影 響を予 測する HIA(Health Impact Assessment)の 必要性 が 指 摘 さ れ、 行 政 の政 策 ・施 策 ・事 業 にお い て 既に 実 施さ れ 一定 の 効果 を あ げて い る。 こ れに 関 連 す る 研究 は 、 風力 発 電施 設 導入 時 の環 境 影 響評 価 に健 康 影響 の 視点 を 組 み入 れ た事 前 評価 手 法 (HIA)の 実現 可能性 につ いて 有用な 情報 提供が 期待 でき る。 2 . 研 究開 発目 的 ( 1) 健 康リ スク の事前 評価 法( HIA)の検 討: わ が国 およ び海 外に お ける 風力 発電 施設 に係 る 環境 影響 評価 の現 状 と課 題を 調査 する 。そ
の 方法 など につい ての 知見を 得る ため に調査 を行 う。 ( 2) 低 周波 音・ 騒音の 疫学 調査: 風力 発電 施設か ら発 生する 超低 周波 音・騒音 と睡眠 障害 有訴 率との 関連 性を 検討す るた め、 風 力 発電 施設 が既 に導 入 され てい る鹿 児島 県出 水 郡長 島町 にて 疫学 調 査を 実施 する 。最 近接 風 車 から の距 離、 超低 周 波音 ・騒 音の 推定 騒音 レ ベル 、視 界等 の環 境 要因 およ び音 への 感受 性 に つい て、 睡眠 障害 の 有訴 率と の関 連性 を検 討 し、 超低 周波 音・ 騒 音ば く露 が長 期健 康影 響 ( 睡眠 障害 )の リス ク ファ クタ ーで ある 可能 性 を明 らか にす る。 ま た、 風車 より 一定 距離 に ある 地区 の住民 で、「風 車の音 が聞 こえな い」と回答 した 住民を 対象 に、睡 眠障 害の有 無で 症 例対 照研 究を行 う 。同一 対象 者に 対して 、時計型 睡眠 セン サー(ア クチ グラフ )を用い て、 主 観的 睡眠 障害と 客観 的睡眠 評価 との 関連性 を明 らかに する 。 ( 3) 風 力発 電施 設近隣 居住 宅の環 境評 価: 風 力発 電施 設が 島の 中 心部 に位 置す る鹿 児島 県 出水 郡長 島町 内に お いて 、総 合騒 音、 残留 騒 音 およ び風 力発 電施 設 が発 する 風車 騒音 を調 査 し、 風力 発電 施設 近 隣居 住宅 にお ける 超低 周 波音・騒 音の ばく 露量を 推計 する 。調 査結 果は 、サ ブテー マ (2)の 超低 周波音・騒音の ばく 露 デー タと して用 いた 。風 力発 電施 設から 約 1,000m 離 れた N 地区 で行 った症 例対 照研究 につ い て 、被 験者 居住 宅の 屋 内外 にお ける 夜間 の超 低 周波 音・ 騒音 を調 査 し、 超低 周波 音・ 騒音 の ばく 露量 を求め る。 ( 4) 関 連情 報の 収集分 析: 風 力発 電施 設等 をば く 露源 とす る近 隣地 域住 民 への 健康 影響 に関 す る疫 学研 究の 論文 や報 告 書 を幅 広く 抽出 し、 ア ノイ アン スを 含め てど の よう な健 康影 響が 報 告さ れて いる かを 明ら か に する 。風 力発 電の 普 及が 進ん でい る欧 州等 に おけ る風 力発 電施 設 等に よる 超低 周波 音・ 騒 音 の健 康へ の影 響に つ いて 、専 門家 に現 地で 聞 き取 り調 査を 行い 、 調査 国で の健 康被 害の 状 況や 苦情 等への 行政 の対応 に関 する 情報を 蓄積 する。 3 . 研 究開 発の 方法 ( 1) 健 康リ スク の事 前評 価法 ( HIA)の 検討 : 1 ) わ が国 の環 境影響 評価 に関 する 情報 につ いて は、 経済産 業省 や環 境省 のデ ータ ベー スにア ク セス し、風力発 電所 の環 境アセ スメ ントの 申請 状況 や受理 状況 、意 見書内 容等 に関 する情 報 を収 集し た。 2 ) 海 外で の現 地情報 収集 (イン タビ ュー ): 風力 発電 の健康 影響 の実態 や風 力発 電への HIA の状況 に関 して a デ ンマ ーク 国(平 成 26 年 2 月 17 日~ 19 日)
i. 対 象者 :Jesper Mogensen 氏( 環境 庁環境 技術 工学 担当官 )、 Hilde Balling( 保健 庁医 長 環境 と健 康 に関 する 科学 諮問 委 員会 委員 )、Aslak Harbo Poulsen 氏( デ ンマ ーク ガ ン協 会研 究セン ター 生物統 計学 及び 疫学課 )、 Jakob Hjort Bønløkke 氏(オ ーフ ス大 学 公 衆衛 生研 究所 准 教授 労 働環 境 リー ダー )、Vivi Schlünssen 氏( オー フ ス大 学公 衆 衛生 研究 所准教 授 産業医 学専 門家 )、 Skjold Fink(全 国組 織「巨 大風車 の隣 人」会 長 )、 Gabriel Gulis 氏( 南デ ンマ ー ク大 学ヘ ルス プロ モ ーシ ョン 研究 ユニ ッ ト副 研究 部 長) の 6 名であ る。
b 英 国( スコ ットラ ンド 、ウェ ール ズ、 イング ラン ド)(平成 26 年 12 月 8 日~ 12 日) i. 対 象 者: Dr. Sarah Taylor(NHS Shetland シェ ッ トラ ンド 島公 衆 衛生 所 所 長 /医 学博
士 )、Mr. Ben Cave(英 国 HIA コン サル タント )、Professor Ian Matthews(カ ーデ ィフ 大 学公 衆衛 生部教 授)、Dr. Liz Green( Wales Health Impact Assessment Support Unit、 Principal Health Impact Assessment Development Officer)、 Dr. Phil MacKie( スコ ッ トラ ンド 公衆衛 生ネ ットワ ーク 主任 コンサ ルタ ント) ( 2) 低 周波 音・ 騒音 の疫 学調 査 1 ) 横 断研 究: 対 象: 鹿児 島県出 水郡 長島町 に居 住する 20 歳以 上の 者(約 9,000 人 )を 対象に 実施 調 査時 期: 2014 年 12 月~ 2015 年 2 月 末 配 布方 法:長島 町内 の公 民館区( 57)の 館長の 協力 の下、回覧板 配付 時に併 せて 各世 帯に調
生 活習 慣(飲 酒、喫 煙、嗜 好品 )、社会経 済要 因(収 入、職 業、交 代勤 務など )、健康 に関す る 項目( 病歴、K-6、主観 的健康 感 )、騒音( アノ イアン ス)に 関す る項目、風力 発電 施設に 関 する 項目 、睡眠 (ア テネ不 眠尺 度) に関す る項 目。 2 ) 症 例対 照研 究: 自覚 的に 「風 車騒 音が 聞こ えな い」 と回答 した 集団 (n=1,813)か ら、 N 公 民館 地区 の住民 よ り 、睡眠 障害 あり(ア テネ 不眠尺 度 ≥6)と睡眠 障害 なし(ア テネ 不眠尺 度 < 6)を 抽出( 28 名 )し た。2015 年 8 月下 旬~ 9 月 上旬に かけ て、対 象者 の睡 眠状況 を客 観的に 評価 する ため、 米 国 A.M.I 社製ア クチ グラフ を装 着し、7 日 間連続 の睡 眠状 況の記 録を 行った 。併せ て、対 象 住居 での 屋内外 の騒 音環境 の測 定を 行った 。 a ア クチ グラ フ(時 計型 睡眠セ ンサ ー) による 睡眠 評価: すべ ての 被験者 に 7 日間、 アクチ グラ フを装 着し ても らった。 この 装置 は、世界 の睡 眠 学 研究 者間 で検証 済み の機器 とし て、10 数 年前 から広 く用 いら れてお り、そ の検出 デー タ は 睡眠 ポリ グラフと 88~ 90%の相 関が あるこ とが 実証さ れて いる 。この 機器 を用い るこ と に より 、客観的 な睡 眠の 質およ び量 変化を 評価 し 、風力 発電 施設 の稼動 状況 と照ら し合 わ せ 、超 低周 波音に よる 睡眠障 害の 実際 を評価 する 。 b 睡 眠日 誌: 前述 した アクチ グラ フのデ ータ を評 価する 際に 、実際 の睡 眠日 誌と照 らし 合わせ ての 解 析 が必 要と なる。 このた め、実 際に 就寝・ 起床 した時 間、夜 間覚 醒し た時間 、入浴 等で ア ク チグ ラフ を付け 外し た時間 を被 験者 自身に 記録 しても らっ た。 ( 3) 風 力発 電施 設近 隣居 住宅 の環 境評 価 鹿児 島県 出水郡 長島 町を対 象地 区と して、近隣居 住宅 の超 低周波 音・騒 音の ばく 露レベ ル を 明ら かに するた め、1 )発 生源で ある 風力 発電施 設か らの 超低周 波音・騒音 の距 離減衰 曲 線 を求 める 調査と して、風力 発電 施設か らの ばく露 レベ ルの 距離減 衰の 程度の 測定 、およ び 町 内の約 50 か所の 公民 館を 各地区 の代 表する 測定 箇所 とする 校区 レベル の超 低周 波音・ 騒 音 のば く露 レベル の測 定、お よび 2)夜 間睡 眠時の 居住 宅の 屋内外 の超 低周波 音・騒音の レ ベ ル の 調 査 と し て 、 症例 対 照 研 究 調 査と 並 行 し て 夜 間睡 眠 時 の 居 住 宅の 屋 内 外 の 超 低周 波 音 ・騒 音の レベル の測 定を行 った 。 1 ) 発 生源 であ る風力 発電 施設か らの 超低 周波音 ・騒 音の距 離減 衰曲 線を求 める 調査 風力 発電 施設か らの 一方向 のば く露 レベル の距 離減衰 の程 度を みるた め、 平成 26 年 2 月 10 日~ 2 月 14 日にか けて 約 4 日間の 連続 測定を 行っ た。次に 、町 内の約 50 か所 の公 民館の 各 地区 を代 表す る測 定箇 所と した校 区レ ベル の超 低周 波音 ・騒 音のば く露 レベ ル調 査で は、 平 成 26 年 度の 四季の 4 回 にわ たり 、長島 町の 57 公民 館・集会施 設の 中で本 島を 中心 に町内 47 か 所の 公民館 、の べ 72 地 点に おい て 24 時間 の連 続測 定を実 施し た。測 定記 録デ ータに つ いて 、風 力発 電施 設か らの 超低周 波音 ・騒 音が 聴取 され た時 間に ついて 毎時 間ご との 10 分 間の 時間 平均音 圧レ ベル LA eq ,1 0m inを求め 、風力 発電施 設か らの超 低周 波音・騒 音が 聞こえ た 時間 帯全 体にわ たっ てエ ネルギ ー平 均し、 調査 地点 ごとの 風車 騒音 レベル LA eq , WTN を求め た 。また、総合 騒音 につい ても、1 時 間ご との等 価音 圧レ ベルお よび 時間率 騒音 レベ ルを求 め たの ち、等 価騒 音レベ ルは エネル ギー 平均、時間 率騒音 レベ ルは算 術平 均を 用いて 、昼間 ( 6 時 から 22 時) および 夜間 (22 時 から 6 時) それ ぞれ の音圧 レベ ルを 求めた 。 2 ) 夜 間睡 眠時 の居住 宅の 屋内外 の超 低周 波音・ 騒音 レベル 調査 夜間 睡眠 時の居 住宅 の屋内 外の 超低 周波音 ・騒 音レベ ル調 査は 、平 成 27 年 8 月 24 日 ~9 月 6 日 にか けての 超低 周波音・騒 音の 疫学調 査の うち 風力発 電施 設の 超低周 波音・騒 音と睡 眠 障害 の関 連性を 検討 した症 例対 照研 究に並 行し て、被験 者の居 住宅 の内外 の風 力発 電施設 の 超低 周波 音・騒 音を 測定し た。 おお よそ 3 日間 の 24 時 間連 続測 定を実 施し 、 1 時 間ごと の 等価 音圧 レベル を求 めたの ち、エネ ルギー 平均 をもち いて 、夜 間( 22 時から 6 時 )の LG eq ,n お よび LA eq ,nを求 めた。 ( 4) 関 連情 報の 収集 分析 1 ) 風 力発 電低 周波音 の健 康影響 文献 レビ ュー: 風力 発電 風車の 近隣 住民を 対象 にし た疫学 研究 につい て文 献レ ビュー を実 施した 。文献は
お よび 研究 結果に 関す る情報 別に 整理 しエビ デン ステー ブル を作 成した 。 2 ) 風 力発 電普 及先進 国調 査: サブテ ーマ (1)と 重複 4 . 結 果及 び考 察 ( 1) 健 康リ スク の事 前評 価法 ( HIA)の 検討 1 ) わ が国 の環 境影響 評価 の現状 : 改正 環境 影響評 価法 で実施 が義 務づ けられ た配 慮書(計 画段階 の配 慮の実 施 )につ いて は、 2014 年 の 1 年 間で 19 件が 受理 され、 2015 年 2 月 までに 大臣 意見 書(環 境省 )が出 され た。 配 慮書 では 、ある 地区 のモ デル事 業に おいて 、複 数案 の設 定や計 画段 階での 配慮 すべ き事項 や それ に関 連した 調査 、予 測およ び評 価法に つい て選 定結果 が報 告さ れてい た。人の 健康に 直 接関 係が あるの は、事業 実施想 定区 域の周 辺に 住居 地域が 存在 して いる場 合で 、健 康影響 で 考慮 すべ き要素 は、低 周波 音およ び騒 音、風 車の 影が主 であ り、こ れ以外 の健 康影 響に言 及 す る 配 慮 書お よ び 意見 書 は な かっ た 。 これ に 該 当す る 意 見 書が 出 さ れた も の は、 配 慮書 19 件 中 13 件 ( 68%) であっ た。 しかし 、騒 音等 の影響 に対 する 具体的 な意 見は 、「 騒音に 係 る環 境基 準の評 価マ ニュア ル(環 境省)に基 づき 調査及 び予 測を行 い、環 境影 響を 評価す る こと 。そ の結果 を踏 まえ 、学校 およ び住居 への 影響 を回避・低 減す ること 」と 、騒 音レベ ル の調 査・予測で あり 、ア ノイ アンス や睡 眠障害 およ びそ の他の 健康 影響を 指標 とし た評価 方 法に 関す る意見 は見 られな かっ た。現在の 環境 影響 評価の 中で は、人の健 康に 関連 しては 騒 音の みで あった 。し かし 、そ の具体 的健 康影響 につ いて は言及 され ていな いこ とが 確認で き た。 2 ) 健 康リ スク の事前 評価 法( HIA)の状 況: a オ ース トラ リア: i. 風 力発 電に 関する HIA は未だ 実施 され ていな い。
ii. 環 境影 響評 価( EIA)の中 に HIA を取 り入 れる考 えは 全て の州・準 州に おいて 統一 し た 見解 であ り、豪 州連 邦政府 は EIA や 国家 的環境 健康 戦略や 利害 関係 者内で の協 力 関 係の 構築に health を組 み込 むよう に the enHealth Council を設 置し、 HIA を実 施 す るた めの ガイド ライ ンを 2001 年に 発表 した 。2005 年 、国家 公衆 衛生 パート ナー シ ッ プは 、HIA を 新しい 開発 計画 に対し て連 邦・州・地方レ ベル で適 用する 立法 的・行 政 的な 骨子 につい ての 検討を 行っ た。 そこで は HIA を独 立して 実施 するよ り も EIA の 中 に 組 み込 む べき で ある と い う意 見 が出 さ れた が 、 事業 計 画に 対 して 広 範 囲な 健 康 問 題 を 考慮 す るこ と が立 法 的 に困 難 であ る こと 、 広 範囲 な 健康 問 題を 考 慮 する こ と がで きる 力が備 わっ ていな いこ とか ら EIA の中 に health を 考慮 する ことが 難し い と いう 結論 へ至っ た。 その後 HIA は、 連邦 政府以 外で 州・準 州や 地方 政府が 各々 の 責 任で 実施 するこ とと なった 。 iii. 豪 州に おける HIA の課 題
① EIA の 中の HIA 豪州 の HIA は EIA の 中に health を加え る考 え方 である 。豪 州 で 盛ん な採 掘や大 規模 事業に 対し て広 範囲な health を 含め た影響 評価 が実 施 さ れて いる 。しか し、 事業計 画や 評価 過程で health の 考え を含め るこ とを 支 持 する もの もあれ ば支 持しな いも のも あるの が現 状であ る。 ② HIA の サポー トシ ステム HIA の 能力 を構築 する には 3 つ ある 。1つ 目は 行政 が HIA を 実 行 す る 力 を 強 化 の た め 政 策 開 発 と 事 業 評 価 の 過 程 の 中 で 用 い ら れ る EIA の中に 健康 を含 めるこ と、 2つ 目は HIA で用 いられ た情 報や手 段を 有効 利 用 する こと、3つ 目は HIA ト レー ニング コー スを 通して HIA の実施 者を 増や す こ とで ある 。 b デ ンマ ーク 国での 聞き 取り調 査結 果: i. < Gabriel Gulis 氏(南 デン マーク 大学 ヘル スプロ モー ション 研究 ユニ ット副 研究 部 長 )> :風 力発電 につ いては デン マー ク国で は HIA 実 施の事 例は ない 。デン マー ク 国 での HIA 実施例 とし ては ディー ゼル 排気 ガス、 市内 の自転 車サ イク リング など が あ る 。自治 体で 風車を 設置 する 場合 、EIA は 実施す るが HIA の 実施 は義 務化さ れて い な い 。特に 騒音 という 一部 の要 因しか みて いない 時点 で HIA とは 言え ない 。HIA で は ス テー クホ ルダー の参 加が必 要だ が、それ も実施 され てい ない 。HIA は 回答を 示す も
風 景の 変化、 CO2を 発生 させな いこ と、収 入の 変化(個 人所 有の 場合) 等が考 えら れ る 。 c 英 国で の聞 き取り 調査 結果: i. 英 国に おける HIA の状 況: ① 英 国で は、 開発事 業な どにお いて HIA が既 に活 用さ れてい るが 、HIA を 要求 す る 法 律 は 存 在 し な い 。 一 方 で 、 事 業 者 は 開 発 事 業 の 許 認 可 を 与 え る 自 治 体 や Public Health Observatory と呼 ばれる 機関 、NHS の専 門家 などに 事業 に対 す る 健康 配慮 の諮問 を行 うこと が多 く、そ のプ ロセ スにお いて HIA が 実施 され る こ とが ある 。ま た 、事 業者は 、許認 可を円 滑に 行うた めに 、予め HIA を 自ら 実 施 する 場合 が多い 。多 くの場 合、 HIA 実施 費用は 開発 事業者 が負 担し ている 。 ② HIA の 役割: 今回 のイ ンタビ ュー 対象者 に共 通す る認識 とし て、 HIA は 科学 的 根 拠・情 報に 基づい た上 で、利害 関係 者(住 民、事業 者な ど)間の コミ ュニ ー ケ ーシ ョン を行う ため に有効 であ る。実 証的 な意 味で、事業 の健康 影響 が未 知 も しく は未 確定な 場合 がよく あり 、その 科学 的不 確実性 を踏 まえた 上で の合 意 形 成を 目的 とする もの である 。開発業 者と 住民 の間で は、感じ 方・受け 止め 方 に 驚く よう な隔た りが ある場 合が あり 、その 溝を 埋める 道具 とし て、 HIA は 有 効 であ る。 ii. 英 国に 風力 発電に おける HIA の状 況: 今回 の調 査にお いて 、風力 発電 に対 する HIA 事 例とし て 3 件 が確 認さ れたが 、 い ずれ もそ れぞれ の事 情によ り、 実施 途中で 中止 されて いた 。 ① シ ェッ トラ ンド島 の風 力発電 : 当初 その 建設主 体で ある会 社が 、独 自に HIA を行 う予定 だっ た。 HIA は 3 段 階 で計 画さ れた 。第 1 段階 は、風力 発電 に関す る科 学論文 など を読 み込み 、科 学 的証 拠を 探すこ と 。第 2 段階 は 、地 域の地 理 、地 形など 情報 を収集 する こと 。 第 3 段 階は、地域 のコ ミュニ ティ ーと説 明や 話し 合いの 機会 を持 つこと 。こ の HIA と 並行し て、 建設 計画の 提案 書が作 成さ れ、 最初の 地域 集会が 行わ れた 。 こ の集 会で、地域 住民 から風 力発 電建設 に対 して 強い反 対の 意思を 感じ た建 設 主 体者 は、 その段 階で HIA を中 止し てしま った 。建 設計画 は、 HIA 無し で進 め ら れ 、スコ ット ランド 政府 から 承認さ れた 。し かし 、反 対す る住民 のグ ルー プ が 裁判 に持 ち込み 、現 在国家 レベ ルの 最高裁 で審 議中で ある 。 ② ス コッ トラ ンド本 島の 北西部 の小 島タ イリー 島で の風力 発電 開発 :
開発 業者と Public health Network が HIA を行 う予定 でい たが、 建設 予定 地 が サメ の生 息地だ と分 かり、 計画 その ものが 中止 になっ た。 ③ ウ ェー ルズ 西端の アン グルシ ー島 で風 力発電 開発 計画: 事業 計画 そのも のが 中止に なっ たた めに HIA も 中止と なっ た。 ( 2) 低 周波 音・ 騒音 の疫 学調 査 1 ) 調 査の 結果 、2,593 通の 回答 (回収 率 28.3%)が あり 、こ のうち 性、 年齢未 記入 (75 名 )、 公 民館 地区 未記入( 29 名)、年齢 80 歳以 上( 287 名)の計 401 名 を除 外対象 とし た結 果、最 終 の分 析対 象者は 2,192 名( 2,192/7,771=28.2%)であ った 。本調 査は 無記名 式を 採っ たが、 記 名の あっ たもの は、 1,844 名( 分析 対象 者の 84.1%) であ った 。 a 自 宅か ら風 車まで の距 離(居 住地区 の公 民館ま での 距離 として 推定) と自 覚的に「 聞こ え る か ど う か 」 につ い て は、「1,000m 未 満」「1,000m〜 1,500m」「 1,500m〜 2,000m」「 2,000m 以 上」 では それぞれ 62% 、44%、 29%、 5% と距 離が近 くな れば なるほ ど、 それら の割 合 は 統計 学的 に有意 な増 大を認 めた。 また 、風車 まで の距離 (推 定)と「 風車 騒音へ のア ノ イ ア ン ス」「 睡 眠 障害 」 の割 合 も、 距 離が 近 く なれ ば なる ほ ど、 そ れら の 割 合は 統 計学 的 に 有意 な増 大を認 めた 。距離 が 1,500m より 近い 場合の 具体 的な 割合は 、ア ノイア ンス と 睡 眠障 害で は、そ れぞれ 51% ~60%、 37%~ 41%で あっ た。 2 ) 多 重ロ ジス ティッ ク回 帰分析 の結 果( 表(2)-1~ 表 (2)-3) 風車 騒音 が睡眠 障害 と関連 性が ある かどう かを 、以下の 風車 騒音指 標(① 自覚的 に聞 こ え るか どう か、② 距離( 最近接 風車 と所 属公民 館と の距離 )、③夜 間風車 騒音:(LA e q)A 特
テ ィッ ク回 帰分析 は、 3 つの モデル ( a;性 と年 齢で 調整、 b; モデ ル a に加 えて社 会的 因 子 であ る交 代勤務 、収入 、婚姻 状況 で調整 、c; モデル b に 加え て風車 景観 への態 度と 風 車 設置 への 態度( 現在 )で調 整を 検討 した。 a 「 自覚 的に 風車騒 音が 聞こえ る」と 回答 した 人は「 聞こえ ない」 に対 して、 モデル b に お い て睡 眠障 害の有 意な 増大( オッ ズ比 2.15) を認め た( 表(2)-1)。 b 風 車か らの 距離( 推計 )( m) との 関連 では、 1,500m 未 満に居 住し てい る人は 、 2,000m 以 上 離れ た距 離に居 住す る人に 対し て、睡 眠障害 の割 合が約 2 倍(オッ ズ比 2.06)と 有意 な 増 大を 認め た(モ デル b)。また 、モ デル a に おいて 、 5,000m 以 上で睡 眠障 害リス クの 有 意 な増 大が あった が、港 の情 報で調 整す ると、 有意性 は消 失し、 港に関 連す る漁船 等の 騒 音 の関 与が 示唆さ れた (表 (2)-2)。 c 距 離減 衰式 により 求め た屋外 にお ける 夜間の 風車 騒音( LAe q) のばく 露指 標で は、 35dB 以 上 が基 準( 20~ 25dB)に 対し て、睡 眠障 害の割 合が オッ ズ比 1.5 と 有意な 増大 を認 めた( モ デ ル b)(表 (2)-3)。 d 風 車騒 音と 残留騒 音の 差( 5dB)では 、差が 5dB 以上 に居住 して いる 人は 、5dB 未満 に居 住 し てい る人 に対し て睡 眠障害 の割 合が約 1.6 倍(オ ッズ 比)と有 意な 増大 を認め た(モ デ ル b)。 e 「 風車 騒音 が聞こ えな い集団 」( n=1,813) を対 象とし た解 析では 、距離 と睡 眠障害 の割 合 の 間 に 有 意な 関 連は 消 失し た の で、 超 低周 波 音 (<20Hz) に よる 睡 眠障 害 の可 能 性 は低 い と 示唆 され た。 f 風 車 へ の 態度 ( 現在 ) で望 ま し いと し た集 団 ( n=879) を 対 象と し た解 析 では 、 風 車か ら の 距離 (推 計)の 違い により 睡眠 障害 の割合 に有 意差を 認め なか った。 表 (2)-1 「自 宅から 風力 発電 の音が 聞こ える」 と睡 眠障 害
表 (2)-3 夜間 風車騒 音(LAe q)と 睡眠 障害 3 ) 症 例対 照研 究 a 超 低周 波音 の睡眠 への 影響 i. 屋 内お よび 屋外に おけ る夜間 ( 22 時~ 6 時) の超低 周波 音レ ベル( G 特性 等価音 圧レ ベル LGe q, n)で 2 群 に分け た場 合の 睡眠障 害の オッズ 比お よび 95%信頼 区間 を求め た。 屋 外で は傾 向は見 られ ず、屋 内で は対 象範囲 でい ずれも オッ ズ比が 1 より 小さく 超低 周 波音 のば く露 レベ ルが高 い方 が睡 眠障 害が 少な い傾向 とも 考え られ るが 、少数 例の た めの ばら つき が大 きく、 オッ ズ比 に統 計的 に有 意な傾 向が 見ら れず 、超 低周波 音レ ベ ルに よる 睡眠障 害の 影響は 認め られ なかっ た。 b 主 観的 睡眠 障害と 客観 的睡眠 評価 (睡 眠セン サー )との 関連 性
較 して 睡眠 効率 が有 意に悪 く、 最長 覚醒 ブロ ック 時間、 およ び中 途覚 醒時 間が有 意に 延 長し てい た。 主観 的睡眠 障害 群は 、客 観的 睡眠 障害評 価に おい ても 睡眠 の状態 が不 良 であ った が、 風車 稼動 時間帯 にお ける 睡眠 状態 (Activity Index) は正 常群と 比較 し て有 意差 を認め なか った。 ( 3) 風 力発 電施 設近 隣居 住宅 の環 境評 価 1 ) の べ 17 か所で 得ら れた 風車騒 音に ついて 、 1/3 オク ター ブバン ド周 波数分 析を 行っ た結果 を 図 (3)-1 に 示す 。図中に Moorhouse ら によ って 提案さ れた 限界 曲線 が示 され ている が、 20Hz 未 満の 超低 周波 域で は 、大き く下 回っ てお り 、感 覚閾値 以下 であ った 。しか し、50Hz 以上で は、 ISO389-7:2005 に 規定 され てい る純 音聴覚 閾値 を越 えて おり 、聞 こえる 可能 性があ る。超 低 周 波音・騒音 の測 定を通 して 、50Hz~ 250Hz にか けて の機械 音と 思わ れる卓 越 成分 を認 めた。 図 (3)-1 風 力発電 施設 から の風車 騒音 の周 波数特 性 2 ) 発 生源 であ る風力 発電 施設か らの 超低 周波音 ・騒 音の距 離減 衰曲 線を求 める 調査 a 風 力発 電施 設から のば く露レ ベル の距 離減衰 の程 度の測 定、 およ び町内 の約 40 か 所の 公 民 館の 各地 区を代 表す る測定 箇所 とす る校区 レベ ルの超 低周 波音・騒音 のば く露レ ベル の 測 定の 結果 から、風 力発 電施 設から の超 低周波 音・騒 音レ ベルの 距離 減衰 曲線、お よび 町 内 のば く露 レベル の分 布が得 られ た。距離の対数 値と 音圧 レベ ルの 間には 、統計 的に 有 意な 負 の相 関関 係 がみ ら れ、 ほと ん どの プ ロッ ト値 が 回帰 式 から 1標 準 編差 以 内に 含 まれて いた 。風 車 騒音 の各 種レ ベルの 回帰 式を以 下に 示す 。 i. 風 車騒 音レ ベルは 、LA eq ,W TN(d ) = ‐20.9 log10 d + 96.7 ・・・ (1) 標 準偏 差は 3.78 であ り、 すべ ての実 測値 は、お およ そ±1σ の 範囲 に分布 する 。 ii. C 特性 音圧 レベル は、 LCe q, WT N(d ) = ‐ 22.0 log1 0 d + 114.6 ・・ ・(2) 標 準偏 差は 4.47 であ り、 すべ ての実 測値 は、お およ そ±1.5σ の範 囲に分 布す る 。 iii. G 特性 音圧 レベル は、 LGe q, WT N(d )= ‐23.0 log10 d +123.5 ・ ・・ (3) 標 準偏 差は 4.43 で あり 、すべ ての 実測 値は、 おお よそ±1.5σの 範囲に 分布 する 。 こ こで d は 、調査 地点 から最 近接 風車 までの 距離 を示す 。 b 長 島町 は、 総合騒 音が 昼間で 約 36~52 dB 程度 、夜 間で約 22~ 43 dB 程 度の 静穏な 地域 で あ った 。風 車騒音 の等 価騒音 レベ ル(LA eq , WT N)、 C 特性 等価 音圧レ ベル (LC eq ,W TN)およ び G 特 性 等価 音圧 レベ ル(LGe q, WT N)は いず れも 、距 離 の対 数に 比例 して 減衰 し てい た。 また 、 超 低周 波音 のレベ ルを 示す LG eq ,W TNの距離 減衰 曲線か ら、超低 周波 音は 100m 離れ ると 80 dB 以 下に なり 、Moorhouse らが示 した 閾値 以下に なる ことが 推定 され た。ま た、LA e q, WT Nは 最 近 接の 風力 発電施 設から 1,500m 離れる と約 30 dB、 2,000m 離 れると約 28 dB、 2,500m 離 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1 2 4 8 16 31.5 63 125 250 500 1k Lpeq (f ) [d B] 1/3オクターブバンド中心周波数 [Hz] Moorhouse et ISO389-7
a 夜 間睡 眠時 の居住 宅の 屋内外 の超 低周 波音・騒 音レ ベル調 査で は 、N 地区の 住民 が住む 15 居 住宅 で屋 内外の 超低 周波音 ・騒 音レ ベルを 測定 した( うち 屋内 調査は 13 戸 )。LGe q, nは 、 屋 内で 44~ 55 dB、屋外 で 48~59 dB で あった 。屋 内外音 圧レ ベル 差は、 最大で 7 dB 程 度 で あり 、超 低周波 音領 域で、 窓お よび 壁の遮 音効 果は少 なか った 。 b LA eq ,nは、屋内で 16~ 32 dB、屋外 で 30~ 51 dB で あっ た。屋内外 音圧 レベル 差は 、4~ 24 dB で あり 、ば らつい てい た。 c 屋 内お よび 屋外に おけ る超低 周波 音レ ベル( LG eq ,n)および 騒音 レベル(LAe q, n)で 2 群に 境 界 レベ ルで 段階的 に分 けた場 合の 睡眠 障害の オッ ズ比お よび 95%信 頼区 間を求 めた が、屋 外 では 傾向 は見ら れず 、屋内 では 対象 範囲で 超低 周波音 およ び騒 音のば く露 レベル が高 い 方 が睡 眠障 害が少 ない 傾向と も考 えら れるが 、少数 例のた めの ばらつ きが 大き く、オッ ズ 比 に統 計的 に有意 な傾 向が見 られ ず、対象地 区に おいて 超低 周波 音レベ ルお よび騒 音レ ベ ル によ る睡 眠障害 の影 響は認 めら れな かった 。 ( 4) 関 連情 報の 収集 分析 1 ) 風 力発 電低 周波 音の 健康 影響 文献 レビ ュー : 近隣 住民 を対象 とし た疫学 研究 として 11 件が 抽出 され た( うち 2 件は 国際学 会抄 録)。ア ウ トカ ムと して、Perception(騒 音の 知覚 )、アノイ アン ス( 騒音に よる うる ささ )、ストレ ス 、睡眠 との 関連 が報告 され ていた 。風車 騒音 とア ノイア ンス、主観 的評価 に基 づく 健康指 標 の間 には 統計的 に有 意な関 連が 繰り 返し報 告さ れてい た。影響 の大き さは 、A 特性 音圧レ ベ ル 1dB 増 加あた りオ ッズ 比 1.1 程 度と 2 つの 研究 が報 告して いた 。その 他の アウ トカム で は影 響の 大きさ に関 して研 究間 比較 ができ なか った 。交 絡因子 とし て、風力 発電へ の姿 勢、 景 観に 対す る姿勢、風力 発電か らの 経済 的恩恵、風車 の可視 性、音 への感 受性、健康 への懸 念 との 影響 が報告 され ていた 。風 力騒 音とア ノイ アン スにつ いて は、主観的 評価 に基 づく健 康 指標 の間 には統 計的 に有意 な関 連が 繰り返 し報 告され てい た。ただ し、ア ノイ アン スが風 力 発電 施設 建設 に対 する 心理 的影響 なの か、 騒音 ばく 露に よる 心理的 影響 なの かに つい て、 現 状の エビ デンス にお いては その 区別 が明確 には つけら れな い状 況であ った 。 2 ) 風 力発 電普 及先 進国 調査 : デ ンマ ーク 国にお いて も本課 題は 社会 的懸念 事項 となっ てい た。既 存の 研究 の課題 とし て は デ ン マ ー ク 国 に お い て も 工 学 研 究 者 と 医 学 研 究 者 の 共 同 研 究 が 限 ら れ て い る こ と が 挙 げら れて いた 。そ して 工学研 究者 は測定 でき る物 理現象 、とり わけ風 車の みに由 来す る 騒 音 に 注目 し 、 医学 研 究者 は どち ら かと い う と風 車 も含 め た地 域 の騒 音 全 体に 注 目す る 。 風 力発 電施 設の設 置に 対して 健康 影響 を懸念 する 住民団 体(巨 大風 車の隣 人)は、 風力 発 電 と 民 家 か ら の 距 離 を と る こ と 等 を 既 存 の 学 術 研 究 結 果 を 引 用 し つ つ 合 理 的 に 主 張 し て い た。こ の際、 住民と 政策 側に 隔たり の原 因は、 前者は 騒音 特性 を重視 して 風車に よる 騒 音 は 道 路 な ど 他 の 騒 音 源 に よ る も の と 比 較 し て ア ノ イ ア ン ス を 惹 起 し や す い こ と に 注 目 し てお り、 他の騒 音源 と比較 して この 課題に 同等 の dB 基準 を当 てはめ るこ との合 理性 を 否 定し てい た。一方 、後者は 道路 によ る騒音 によ り国民 の 3 分の 1は高 い騒 音にさ らさ れ て いる と指 摘した 。そ のこと を論 拠に 風力発 電施 設によ る騒 音被 害は限 定的 である こと を 主 張し てい た。ど ちら のステ ーク ホル ダーも 風力 発電に は 24 時 間続く 騒音 である こと な ど 違 い があ る こ と自 体 は認 め てい た 。す な わ ち騒 音 特性 を 科学 的 にと ら え る取 り 組み が 、 今 後 の 両者 の 合 意形 成 に資 す ると 思 われ た 。 最後 に 、デ ン マー ク 国の 騒 音 規制 に つい て 、 デ ン マ ー ク 国 で は 風 力 発 電 の み に 対 し て 騒 音 規 制 が 厳 し く 課 さ れ て い る 一 方 で 道 路 や 工 場 によ る騒 音につ いて は目標 値し か設 定され てい ない。同国 研究 者はこ の規 制が国 民の こ の 課 題 に 対 す る 懸 念 に 対 応 す る た め に 科 学 的 と い う よ り は 政 策 的 な 文 脈 に 基 づ き 導 入 さ れ たも ので あるこ とを 認めて いた 。 5 . 本 研究 によ り得 られ た主 な成 果 ( 1) 科 学的 意義 1 ) 今 回の 疫学 研究に より 、風力 発電 施設 から発 生す る騒 音(可 聴音:聞 こえる 音)は、下記に
a 風 車音 とし て自覚 的に 聞こえ る場 合 b 風 車か らの 住居ま での 距離が 近い 場合 (1,500m 以内 ) c 風 車騒 音と 残留騒 音の 差が 5dB 以 上の 静穏地 区の 居住し てい る場 合 d 周 波数 分析 結果よ り超 低周波 音( <20Hz)「 聞こ えな い音」 は感覚 閾値 以下で あり、 健康 へ の 直接 影響 は考え にく い。 e 風 車 騒 音へ の ば く露 に 関係 な く、「 風 力発 電 施 設へ の 態度 」 の要 因 が睡 眠 障 害の 発 症に 関 係 して いる 。 2 ) 風 力発 電施 設近隣 居住 宅の環 境評 価: a 最 近接 風力 発電施 設か ら約 700m~約 11,000m 離れた 47 地点 での 測定結 果か ら、総 合騒 音 の 音圧 レベル LAeqが昼 間で 36~ 52 dB、 夜間で 22~ 43 dB、残 留騒音 の音 圧レベ ル LA 95が 昼 間 で 24~ 39 dB、夜 間で 18~ 36 dB、 である よう な総合 騒音 レベ ルおよ び残 留騒音 が低 い 静 穏な 地域 で、風力 発電 施設 が発す る超 低周波 音・騒 音の ばく露 レベ ルを 測定し、 最近 接 風 力発 電施 設か ら 2,061m 離れ た地点 でも 夜間に 騒音 とし て聞こ えて いる場 合が みら れた 。 b 20 Hz 以 下の 超低周 波音 レベ ル LG eq ,W TNは 46~73 dB で Moorhouse ら による 閾値 以下 であっ た 。風力 発電施 設が 発する 騒音 の等 価騒音 レベ ル(LAe q, WT N)、C 特性等 価音 圧レ ベル(LC eq ,W TN) お よび G 特 性等価 音圧 レベル(LGe q ,W TN)はい ずれも 、距離 の対 数に 比例し て減 衰して いた 。 ( 2) 環 境政 策へ の貢 献 < 行政 が既 に活 用し た成 果> な し < 行政 が活 用す るこ とが 見込 まれ る成 果> 1 ) 疫 学調 査に より、風力 発電 施設に よる 騒音と 睡眠 障害 は関連 する 可能 性があ るが 、風 車騒音 以 外に も睡 眠障害 に関 係する 要因 があ る。風 車騒 音の 周波数 成分 とし ては、聞こ える 音であ る 20H〜 100Hz が重 要で あり、 風車 騒音 は超 低周 波音 (20Hz 未満 )と 騒音 (可 聴音 :20Hz 以 上を 含む )に分 けて 検討す るこ とが 必要で ある 知見を 示せ た。 2 ) 風 力発 電施 設が発 す る 20 Hz 以下 の超 低周 波音は 、 141m 離れた 地点 でもそ のレ ベル は聴覚 閾 値以 下で あるが 、可聴 音の 周波数 帯域 では、聴覚 閾値レ ベル を越え る場 合が あり、アノイ ア ンス や睡 眠障害 と関 連する 可能 性が ある。 また 、最近 接風 力発 電施設 から約 2,000m 離れ て いる 場合 であっ ても 、静 穏な 地域で は夜 間に風 力発 電施 設から 発す る騒音 が聞 こえ ている 可 能性 があ る。睡 眠障 害を訴 える 住民 に対す る騒 音対策 が必 要で ある根 拠を 示せた 。 6 . 研 究成 果の 主な 発表 状況 (※ 別添 .報 告書 作成要 領参 照) ( 1) 主 な誌 上発 表 < 論文 (査読 あり )> 1 ) 森 松嘉 孝、久保 達彦 、藤 野善久 、原 邦夫 、石 竹達 也:公衆 衛生 、79,(3), 189-192( 2015), デ ンマ ーク 国にお ける 風力発 電事 情. 2 ) 森 松嘉 孝、 久保 達彦 、藤 野善 久、原 邦夫 、石 竹達 也. 公衆 衛生 、80,( 2016)( 掲載 予定 ), 英 国に おけ る風力 発電 事業の 実状 −HIA (Health Impact Assessment) に 着目 して −.
( 2) 主 な口 頭発 表( 学会 等)
1 ) 太 田達 也、福島 昭則 、原 邦夫 、森 松嘉 孝、石竹 達也 .静 穏地 域にお ける 環境 騒音の 構成 、公 益 社団 法人 日本騒 音制 御工学 会秋 季研 究発表 会講 演論文 集 125-128, 2015.
2 ) Morimatsu Y, Hara K, Fujino Y, Kubo T, Matsumoto Y, Kushino N, Mori M, Hoshiko M, and Ishitake T. Relationship between exposure to wind turbine noise and subjective and objective sleep disorder in southern part of Japan; a pilot study using new technology in sleep monitoring watch “ actigraphy”. 6th International Conference WIND TURBINE
NOISE 2015, Glasgow, Scotland 20-23 April 2015.
7 . 研 究 者略 歴
課 題代表 者: 石竹 達也
1991年 久 留米大 学大 学院医 学研 究科 修了 1991年 久 留米大 学助 手(医 学部 環境 衛生学 講座 ) 1992年 英 国サウ サン プトン 大学 音響 振動研 究所 客員研 究員 1993年 久 留米大 学講 師(医 学部 環境 衛生学 講座 ) 1996年 久 留米大 学助 教授( 医学 部環 境衛生 学講 座) 2002年 久 留米大 学教 授(医 学部 環境 医学講 座) 現在に 至る 専 門 産業 保健( 職業 性疾病 の予 防と 健康管 理: 振動病 、潜 水病 )、公 衆衛 生(行 政施 策等 の 健 康影 響評 価: Health Impact Assessment)
研 究分担 者 1) 藤野 善久 産業 医科大 学大 学院医 学研 究科 (博士 課程 )修了 、医 学博 士、現 在産 業医科 大学 医学 部公衆 衛 生 学教 室准 教授 1998年 産 業医科 大学 卒業 2002年 産 業医科 大学 大学院 医学 研究 科修了 2003年 産 業医科 大学 臨床疫 学教 室研 究員
2004年 University of Wales College of Medical MPH 修了 2004年 公 益財団 法人 福岡労 働衛 生研 究所勤 務 2006年 産 業医科 大学 公衆衛 生学 教室 准教授 現 在に至 る 専 門 環境 学(環 境影 響評価 ・環 境政 策/健 康影 響評価 )、 社会 医学( 公衆 衛生学 ・健 康科 学 / 疫学 ・産 業保健 ) 2) 原 邦 夫 京都 大学大 学院 工学研 究科 (修 士)修 了、 医学博 士、 現在 帝京大 学大 学院公 衆衛 生学 研究科 教 授 1982年 京 都大学 工学 部金属 系学 科卒 業 1984年 京 都大学 大学 院工学 研究 冶金 修了( 修士 課程) 1984年 大 阪府郊 外監 視セン ター 職員 1992年 ( 財)労 働科 学研究 所労 働衛 生・病 理学 研究部 研究 員 2006年 久 留米大 学准 教授( 医学 部環 境医学 講座 ) 2009年 帝 京平成 大学 地域医 療学 部教 授 2014年 帝 京大学 大学 院公衆 衛生 学研 究科教 授 現在に 至る 専 門 環境 学/環 境保 健、産 業保 健( 化学物 質管 理) 3) 久保 達彦 産 業医 科大 学大学 院医 学研究 科( 博士 課程) 修了 、医学 博士 、現 在産業 医科 大学医 学部 公衆 衛 生 学教 室講 師 2000年 産 業医科 大学 卒業 2006年 産 業医科 大学 大学院 医学 研究 科修了 2006年 旭 化成株 式会 社延岡 支社 産業 医 2009年 産 業医科 大学 公衆衛 生学 教室 講師 現在 に至る 専 門 社会 医学( 衛生 学/公 衆衛 生学 )
5-1307 風力発電等による低周波音・騒音の長期健康影響に関する疫学研究
(1)健康リスクの事前評価法(Health Impact Assessment)の検討
学校法人久留米大学 医学部 環境医学講座 石竹 達也 <研究協力者> 学校法人久留米大学 医学部 環境医学講座 森松 嘉孝 平成25~27年度累計予算額:30,064千円(うち平成27年度:9,479千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] わが国および海外における風力発電施設に係る環境影響評価の現状と課題を調査し、人への健康 影響に配慮した評価法(HIA)を導入する際に必要な手続きや当該事業者や地域住民への説明の方 法などについての知見を得るために調査を行う。わが国の環境影響評価に関する情報については、 経済産業省や環境省のデータベースにアクセスし、風力発電所環境アセスメントの申請状況や受理 状況、意見書内容等に関する情報を収集した。海外での風力発電先進国のオーストラリア、デンマ ーク国と英国の情報収集を行った。わが国の環境影響評価の現状は、改正環境影響評価法で実施が 義務づけられた配慮書(計画段階の配慮の実施)について、ある地区のモデル事業において、複数 案の設定や計画段階での配慮すべき事項やそれに関連した調査、予測および評価法について選定結 果が報告されていた。人の健康に直接関係があるのは、事業実施想定区域の周辺に住居地域が存在 している場合で、健康影響で考慮すべき要素は、低周波音および騒音、風車の影が主であり、これ 以外の健康影響に言及する配慮書および意見書はなかった。アノイアンスや睡眠障害およびその他 の健康影響を指標とした評価方法に関する意見は見られなかった。また、騒音の具体的健康影響に ついては言及されていないことが確認できた。オーストラリアでは、風力発電に関するHIAは未だ 実施されていない。しかし、環境影響評価(EIA)の中にHIAを取り入れる考えは全ての州・準州に おいて統一した見解となっていた。デンマーク国での聞き取り調査結果では、風力発電についてデ ンマーク国ではHIA実施の事例はなかった。風力発電に対してHIAをやるのであれば、騒音、羽の陰、 電磁波、風力発電風車の倒壊(めったいにないが)、風景の変化、CO2を発生させないこと、収入の 変化(個人所有の場合)等が考慮すべきとの意見であった。英国での聞き取り調査結果では、風力 発電に対するHIA事例として3件が確認されたが、いずれもそれぞれの事情により実施途中で中止さ
れていた。HIAは科学的根拠・情報に基づいた上で、利害関係者(住民、事業者など)間のコミュ ニケーションを行うために有効とされるが、風力発電を対象とした単独でのHIAは報告がなく、EIA の中に取り入れる方針はあるが、十分に成果をあげていない状況が確認できた。
[キーワード]
風力発電、改正環境影響評価法、HIA(Health Impact Assessment)、風力発電普及先進国、イン タビュー調査 1. はじめに 新たな風力発電施設を設置する際は、人への影響以外に、動植物及び生態系、景観等の環境 への影響が危惧される場合があるので、環境影響評価(環境アセスメント)の実施が望まれてい たが、これまでは法的環境アセスメントの対象事業ではなかった。そこで国は平成23年4月、 風力発電施設の開発も法的な環境影響評価の対象事業とし、計画段階における環境配慮手続き を新設した環境影響評価法の改正を行った。しかし、通常の環境影響評価では、人への健康影 響を十分考慮した行政的対応は現在なされていない。欧州では1990年代より環境影響評価に加 えて、開発事業開始前に人への健康影響を予測するHIA(Health Impact Assessment)の必要性 が指摘され、行政の政策・施策・事業において既に実施され一定の効果をあげている。これに 関連する研究は、風力発電施設導入時の環境影響評価に健康影響の視点を組み入れた事前評価 手法(HIA)の実現可能性について有用な情報提供が期待できる。 2. 研究開発目的 わが国および海外における風力発電施設に係る環境影響評価の現状と課題を調査する。その 調査結果を踏まえ、新規風力発電施設の設置が予定されている地区において、人への健康影響 に配慮した評価法(HIA)を導入する際に必要な手続きや当該事業者や地域住民への説明の方 法などについての知見を得るために調査を行う。 3. 研究開発方法 (1) わが国の環境影響評価に関する情報については、経済産業省や環境省のデータベースにア クセスし、風力発電所環境アセスメントの申請状況や受理状況、意見書内容等に関する情報を 収集した。 (2) 海外での現地情報収集:風力発電の健康影響の実態や風力発電への HIA の状況に関して 1) オーストラリア:ニューサウスウェールズ大学で HIA に専門的に取り組んでいる研究期 間へ関連資料を収集して、分析を行った。
2) デンマーク国(平成 26 年 2 月 17 日~19 日):インタビュー調査
a 対象者:Jesper Mogensen 氏(環境庁環境技術工学担当官)、Hilde Balling(保健庁医 長 環境と健康に関する科学諮問委員会委員)、Aslak Harbo Poulsen 氏(デンマーク ガン協会研究センター生物統計学及び疫学課)、Jakob Hjort Bønløkke 氏(オーフス大 学公衆衛生研究所准教授 労働環境リーダー)、Vivi Schlünssen 氏(オーフス大学公 衆衛生研究所准教授 産業医学専門家)、Skjold Fink(全国組織「巨大風車の隣人」 会長)、Gabriel Gulis 氏(南デンマーク大学ヘルスプロモーション研究ユニット副研 究部長)の 6 名である。 3) 英国(スコットランド、ウェールズ、イングランド)(平成 26 年 12 月 8 日~12 日): インタビュー調査
a 対象者:Dr. Sarah Taylor(NHS Shetland シェットランド島公衆衛生所 所長/医学博士)、 Mr. Ben Cave(英国 HIA コンサルタント)、Professor Ian Matthews(カーディフ大学 公衆衛生部教授)、Dr. Liz Green(Wales Health Impact Assessment Support Unit、 Principal Health Impact Assessment Development Officer)、Dr. Phil MacKie(ス コットランド公衆衛生ネットワーク主任コンサルタント)の 5 名である。 4. 結果及び考察 (1) わが国の環境影響評価の現状: 1) 平成25年の風力発電事業に係る法アセスの案件の状況(平成26年1月時点)は、評価 書終了が4件、準備書終了が24件、準備書手続き中が3件、方法書終了が52件、方法書手 続き中が2件であった。改正環境影響評価法で実施が義務づけられた配慮書(計画段階 の配慮の実施)については、3件が配慮書の手続き中で、予定候補は4件あった。配慮書 では、ある地区のモデル事業において、複数案の設定や計画段階での配慮すべき事項や それに関連した調査、予測および評価法について選定結果が報告されていた。人の健康 に直接関係があるのは、騒音のみであった。平成26年の風力発電事業に係る法アセスの 案件の状況(平成27年1月時点)は、配慮書(計画段階の配慮の実施)については、1年 間で19件が受理され、大臣意見書(環境省)が出された。人の健康に直接関係があるの は、事業実施想定区域の周辺に住居地域が存在している場合で、健康影響で考慮すべき 要素は、騒音および低周波音、風車の影が主であり、これ以外の健康影響に言及する配 慮書および意見書は見られなかった。これに該当する意見書が出されたものは、配慮書 19件中13件(68%)であった。前年度と同じで現在の環境影響評価の中では、人の健康 に関連しては騒音以外への健康影響については言及されていないことが確認できた。 (2) 海外の健康リスクの事前評価法(HIA)の状況:
1) オーストラリア
a 海外の先進オーストラリアでは、風力発電に関するHIAは未だ実施されていない。そ こで、下記にオーストラリア(豪州)のおけるHIAの取り組みについて報告する。環境 影響評価(EIA)の中にHIAを取り入れる考えは全ての州・準州において統一した見解で あり、政策的なHIA(Policy HIA)であり公平性を考慮したHIA(Equity-focused HIA)であ る。表(1)-1にオーストラリアの州別のHIAの取り組みの概要を示した。
i. 豪州におけるHIAの歴史(1)(2)
WHOは1987年以降、開発プランのEIAの中にhealthの概念を入れるように取り組んで きた。1994年、豪州の国家健康保健医療研究会(The National Health and Medical Research Council)が環境問題に健康を考慮する、Environment and Health Impact Assessment(EHIA)を支持する報告書を出した(National Health and Medical Research Council, 1994)。この報告書が出たことで、豪州連邦政府はEIAや国家的環境健康戦 略や利害関係者内での協力関係の構築にhealthを組み込むようにthe enHealth Councilを設置し、HIAを実施するためのガイドラインを発表した(enHealth Council 2001)。2005年、国家公衆衛生パートナーシップ(The National Public Health Partnership)は、HIAを新しい開発計画に対して連邦・州・地方レベルで適用する立 法的・行政的な骨子についての検討を行った。そこではHIAを独立して実施するより もEIAの中に組み込むべきであるという意見が出されたが、事業計画に対して広範囲 な健康問題を考慮することが立法的に困難であること、広範囲な健康問題を考慮する ことができる力が備わっていないことからEIAの中にhealthを考慮することが難しい という結論へ至った。その後HIAは、連邦政府以外で州・準州や地方政府が各々の責 任で実施することとなった。The enHealth CouncilとThe National Public Health Partnershipは豪州健康保健委員会のThe Environmental Health (enHealth) Committeeへと名称が変わった。 ii. 豪州におけるHIAの課題(2) ① EIAの中のHIA 豪州のHIAはEIAの中にhealthを加える考え方である。豪州で盛 んな採掘や大規模事業に対して広範囲なhealthを含めた影響評価が実施されてい る。しかし、事業計画や評価過程でhealthの考えを含めることを支持するものも あれば支持しないものもあるのが現状である。
② 政策的HIA(Policy HIA) HIAの大部分は直接的な健康に影響を及ぼさない建 設や交通といった健康の決定要因を考慮したhealth public policy(健康的な公 共政策)に寄与するものである。しかし、実際には連邦を挙げての政策的なHIA の活動は困難であり、州レベルでの取り組む方針となっている。特にビクトリア
州(VIC)とニューサウスウェールズ州(NSW)は政策的HIAの開発に力を入れてい る。VICではモナッシュ大学、NSWではニューサウルウェールズ大学のCPHCE(The Centre for Primary Health Care and Equity)グループを中心に活動している。 ③ 平等的HIA(Equity HIA)影響を受ける集団の中で誰が有利で誰が不利になるの か、社会経済的状況、年齢、性、文化、民族(先住民か否かも含め)、健康状態 の相違を考慮に入れたHIAを実施すべきである。最も目立つ健康不平等の例として は、先住民と非先住民の間では17歳の寿命の差があることである。その他住む場 所の違い(超遠隔地と都市部)、教育レベル・収入の差、出生国の違い、ヘルス・ リテラシーの違いによる健康格差は顕著である。CPHCEグループが主体となり、不 公平な提言とならないように平等を重視した「Equity-focused HIA」を実施して いる。 ④ HIAのサポートシステム HIAの能力を構築するには3つある。1つ目は行政がHIA を実行する力を強化のため政策開発と事業評価の過程の中で用いられるEIAの中 に健康を含めること、2つ目はHIAで用いられた情報や手段を有効利用すること、3 つ目はHIAトレーニングコースを通してHIAの実施者を増やすことである。
2) デンマーク国での聞き取り調査結果 a <Gabriel Gulis 氏(南デンマーク大学ヘルスプロモーション研究ユニット副研究部 長)>(まとめ)風力発電についてはデンマーク国では HIA 実施の事例はない。デンマ ーク国での HIA 実施例としてはディーゼル排気ガス、市内の自転車サイクリングなどが ある。自治体で風車を設置する場合、EIA は実施するが HIA の実施は義務化されていな い。特に騒音という一部の要因しかみていない時点で HIA とは言えない。HIA ではステ ークホルダーの参加が必要だが、それも実施されていない。HIA は回答を示すものでは なく選択肢を示すものであるべきである。仮に風力発電に対して HIA を行うのであれば、 騒音、羽の陰、電磁波、風力発電風車の倒壊(めったにないが)、風景の変化、CO2を発 生させないこと、収入の変化(個人所有の場合)等が考えられる。
b インタビューの詳細:Gabriel Gulis 氏は健康影響評価 HIA の専門家、デンマーク国 全体のエネルギー評価に対して HIA を実施した。スロバキア出身、もともとは核化学が 専門だったが 21 年前から公衆衛生学分野に専攻を変えている。現在の 6 つの大学で教 鞭をとっている。 i. デンマーク国では HIA は、特に産業分野においてはほとんど開発されていない。デ ンマーク国には 5 つのリージョン(県に相当)と 98 の地方自治体(市町村に相当)が あり、後者が公衆衛生と健康増進施策について強い責任と権限を有している。デンマ ーク国における HIA はトップダウンではなく市町村が所管している。2007 年の自治体 再編で、誰かが病気になり、病院にかかると、リージョンへ支払いをするのは地方自 治体という仕組みになった。自治体としては、できるだけこの医療費の出費を抑えた いと考える。これがきっかけとなって、HIA のガイダンスも地方自治体が出すようにな った。交通政策、エネルギー政策に関しても、できる限り医者にかかる人を自治体か ら出さないために、この分野での HIA が話題に上るようになった。 ii. デンマーク国では、HIA はあくまで自治体レベルで、産業や国としての開発事例は ない。これまでに行なわれてきたのは EIA(環境影響評価)であり、その一部として HIA が含まれているというのが実情である。オルボー大学のデンマーク環境影響評価セ ンターにコンタクトを取ってみたが、風力発電についてもデンマーク国では HIA の直 接の事例はない。学術論文なども見てみたが、騒音やアノイアンスなどについてであ り、出所もスウェーデンや英国であった。EU のサポートのもと、デンマーク国のエネ ルギー政策 2020 に対して HIA のメソッドを構築するケーススタディが行なわれたが、 どちらかというと方法論の構築のための私見的なものであり、アセスメント実施には 至らなかった。この政策リスクアセスメントについてはすでにネット上にも公表され ている。したがって、この分野は驚くべきことに、労働衛生の観点においても、公衆
衛生の観点においても、未開発の分野であると言える。つまり、我々が合同でメソッ ドを構築し、調査を実施することも可能であると考えている。 iii. 興味深いのは、デンマーク国のエネルギー政策においては、2020 年までに総電力 消費量を 2006 年比で 4%削減し、同時に再生可能エネルギーに移行しようとしている 点である(2020 年までに、総電力消費量の 50%を風力発電でまかなうというエネルギ ー政策目標を掲げている)。デンマーク国では各地で洋上風力発電パークの建設も盛 んに行なわれており、それに関わる人々に対して HIA は実施されておらず、調査は主 にケガや事故に対するものである。騒音やアノイアンス、睡眠障害と怪我は別物だが、 6 つのステップによる、システマティックな調査は実施されていない。デンマーク国で の HIA の実施例としては、“野菜とフルーツを1日に 6 つ食べよう”という全国展開 のものと、規模の小さい調査では、ディーゼル排気ガス、コペンハーゲンなど都市で の自転車利用についてなどがある。デンマーク国では、 疾病予防プログラムなどはあ るが公衆衛生についてはまだ機能が弱く、生活習慣病の管理など限定的である。教育 が盛んになったのもこの 10 から 15 年程のことである。現時点ではダイエット、喫煙、 アルコール、運動など個人の責任における健康が中心である。
iv. シルケボーの高速をどこに建設するかについて、EIA と標準的な HIA が数年前に話 題にのぼったが、その際に、私は全国紙ポリティケンに「なぜ、デンマークはスウェ ーデンの例に習おうとしないのか」とコメントを出したことがあるが、結局そうした 調査はされなかった。今後、日本、米国も含め、福岡に集まる、EU の新規メンバー6 カ国は、エネルギー政策も含めた HIA に関する取り組みを EU の新しいプログラムで、 70 億ユーロの予算を持つ Horizon2020 でできるのではないかと考えている。環境、健 康、社会科学、IAT など、様々な分野を網羅する、2014 年から始まった、2020 年まで の 7 カ年プログラムである。日本では、この分野の研究があまり進んでいないと言っ ていたが、私が最近ソウルで開催されたアジア・パシフィック会議に出席した時に、 その進捗具合に大いに感銘を受けた。特に韓国では近年、急速に HIA の取り組みが加 速している。私の最近の興味は、HIA がどう社会で実施されるかという部分で、その点 でも日本に注目している。 v. HIA は、あくまで政策を実施するためのツールだと言えるのではないか。自治体で風車 を設置する場合、EIA は必須だが HIA はそうではない。騒音については調査しているが、 騒音という一部の要因しかみていない時点で HIA とは言えない。HIA ではステークホル ダーの参加が必要で、建てる側と企業、政策立案者と近隣住民とのコラボレーション が重要だと考えるが、現状はそうなっていないと思う。どんなエネルギーを選ぶかは、 それぞれメリットとデメリットがあるので、HIA は回答を示すモノではなく選択肢を示
すモノであるべきである。それをもとに、環境省なり、省庁が国策としていずれかを 選択すべきだと考える。 vi. デンマーク国での例を挙げる。ホーセンス市において市職員から誘われて住宅政策 に関する審議会に、HIA の専門家として参加した。いくつかの環境、EIA、保健、建築 などの関係部局からメンバーが集められた。湖畔に住宅を設置する計画で、EIA を行な ったところ、大きなリスクは、町までの交通手段、そしてレジャーなど余暇をどう過 ごすことができるかについて、ということだった。私は、なぜ HIA が必要だと考えて いるのか、皆の意見を確かめてみた。すると、この住宅予定地には、1,000 軒の家が建 てられる計画だったが、それを 400 軒に制限し、運動場などを設置して健康都市をつ くりたい、だから EIA だけでは不十分で HIA が必要なのだ、ということだった。さら に、湖に面しているため、富裕層しかこの住宅地を購入できないことが危惧されてい た。そこで、HIA は住宅の数を減らし、運動場を作ることで住民の運動の機会を確保し、 住宅地をリング状に作って、水辺に近いほど価格が高くなるような設定にすることで、 富裕層以外もその住宅を購入できることに寄与した。こうしたことは、EIA だけでは実 現できないことなのだ。これは、私にとっても大きな学びのケースとなった。なぜな ら、HIA は、多くのケースで騒音や大気汚染といった、一部の部分を取り上げ、それだ けにフォーカスしてしまう傾向があり、幅広い分野の調査の必要性をあらためて教え てくれた事例だからである。ここから、私はエネルギー政策決定のための HIA にも興 味を持つようになったのだ。このホーセンスという町は、刑務所の町から健康と文化 の町に生まれかわるための新しいイメージを欲していた。今では、健康文化都市の代 名詞となっている。
vii. オーストラリア、タスマニアでも多くの HIA が EIA と同時に行なわれている。文 化の違いなどもあるだろうが、EIA が普及しているところは、HIA の普及もゼロから 築いていくよりは比較的楽に普及させることができるのではないか。USA は EIA に力を 入れてきたが、現在では、オレゴンの事例など、かなりの数の HIA を開始している。 仮に風車に対して HIA を行うのであれば、騒音、ブレードの影、電磁波、電磁場の変 化、EMR(電磁放射)、変電所が使用する PCB などの化学物質、風力発電施設の倒壊(め ったいにないが)、CO2や有害物質の排出量削減(肯定的な影響)、収入の変化(個人 所有の場合)、リスク容認、睡眠障害、アノイアンス、低周波等が考えられるだろう。 景観の変化などもあるが、これは住民がどう感じるか如何なので、いずれにしても、 市民の調査への参加が不可欠だろう。また、その国の文化によって、調査内容が異な っても不思議ではない。また、マイナスの影響ばかりでなく、肯定的な影響について も調査すべきである。省庁が決定をするためには、どちらの情報も必要である。
viii. 風力発電施設はデンマーク国では基本的には十分に受け入れられていると思うが、 最近の風車の巨大化が、人々に恐怖と懸念を抱かせ始めた原因だろう。ただ、洋上と陸 上では、国民の感じ方は大きく異なると思う。国内には大手風力発電施設メーカーが 2、 3 社存在し、洋上風力発電などは、大手の電力会社がそれを担うことが多いため、エネ ルギー政策は他の政策と比較して中央集権的と言えるかもしれない。ただし、ロラン島 のように 500 基近くある風車のうち、約半数は市民所有という状況もある。デンマーク 国という国は、登録制度があるため、何年も遡って調査をすることが可能だ。つまり、 風車が導入され始めた当初と現在を比較して、どのくらい環境に好影響を与え、どれく らい健康影響が出ているかを調べるための、よい導入部になるのではないか。私自身は、 スロバキアからドイツを通ってデンマーク国にやってきた時、「風車が大地に点在する 風景を見てなんて素晴らしいんだ、とても静かだし、これが電気を作っているのか!」 と大好きになったが、自然保護活動家や、近くに住む人などは、やはり違う意見を持っ ているだろう。だからこそ、市民も巻き込んだ調査が必要だと考える。 ix. 再生可能エネルギーの導入が世界各地で進むにつれて、エネルギーを供給する側の地 方と、エネルギーを消費する側の都市との間で、誰がその代償を払うのかという議論が 聞かれるようになってきた。米国などでは盛んに環境正義が語られるようになっており、 ヨーロッパでも広がりを見せつつある。これはまさに倫理学的、社会学的議論であり、 非常に広範な問題で、どこかでバランスをとっていく必要がある。また、デンマーク国 の主要産業のひとつは風力発電施設であり、それが伸びなければ国家経済にも大きな影 響を及ぼす。こうした様々な議論について考える上で重要な役割を果たすのが HIA なの である。 3) 英国での聞き取り調査結果(まとめ) a 英国における HIA の状況: i. 英国では、開発事業などにおいて HIA が既に活用されているが、HIA を要求する法 律は存在しない。一方で、事業者は開発事業の許認可を与える自治体や Public Health Observatory と呼ばれる機関、NHS の専門家などに事業に対する健康配慮の諮問を行 うことが多く、そのプロセスにおいて HIA が実施されることがある。また事業者は、 許認可を円滑に行うために、予め HIA を自ら実施する場合が多い。多くの場合、HIA 実施費用は開発事業者が負担している。
ii. HIA の役割:今回のインタビュー対象者に共通する認識として、HIA は科学的根拠・ 情報に基づいた上で、利害関係者(住民、事業者など)間のコミュニケーションを行 うために有効である。実証的な意味で、事業の健康影響が未知もしくは未確定な場合