鳥大農研報
(Bull.Fac.Agric,Tottori Univ)30171∼
179(1978)スギの分野壁孔の壁 孔縁 の細胞壁構 造
古川郁大
半
昭和52年8月31日受付
Cell Wal1 0rganization in the Pit Border Region of the
CrOss Field Pit of S UGI Wood(CTダ
ρι
θ
ttcγテ
αブ
92οη
JCのIkuo FuRUKAWA*
The cell lvall organizatiOn in the pit border region of the cross field pits
(R―
T pits)of SUGI wood(CT捌
¨οη?TJα デcPο,JCα D. Don)was investigated byelectron microscopy in order to obtain structural information on the differences between the R_T Pits and the intertracheal bordered pits(T― T pitS).
It was revealed that the appearancc of the crOss― sectional views of the pit border Of the R― T pits differed markedly from thosc of the T― T pits with respect
tO the relative thickness and position of each layer found in the pit border. In the
pit border region, the SI layer had some tendency to locate in the vicinity of both sides of the pit annulus. Further, the SI layer did not shO、 v an overhanging border. On the contrary, the overhanging border region was mainly constructed by the S2 1ayer. The final shape of the pit aperture, thereFOre, seemed to be
decided mOstly by the deposition of the micrOfibrils of the S2・
Fig. 1 2 summarizes diagrammatically the microfibrillar orientation of each layer, especially the Si layer and the S2 1ayer, found in the pit border, and Fig. 1 3 represents diagrammatically the cross―sectional views of the pit border。
緒
言 実際の本材細胞壁 の破壊現象 は
,細
胞壁 に存在す る構 造上 の変異部, とりわけ分野壁孔やその他 の壁孔 によっ てかな りの影響 を うける。例 えば,針
葉樹材の仮道管 の 分野壁孔 (以下R―T壁
孔 と略記)は ,単
一仮道管の縦 引張破壊 においては破壊 の開始 と密接 に関係 し,他
方木 材切片 や木材 ブロ ック試片の縦引張破壊 では亀裂 の進行 に深 くかかわっていること力浜日られてい るど'Dこれ に対 して仮道管相 互間有縁壁孔 (以下T―T壁
孔 と略記)は, 細胞壁 の縦 引張破壊 に際 して も破壊 が直接 そこか ら始 ま るよ うなことはほ とん どな く, さらに細胞壁中 を進行す る亀裂の運動 を阻止す るよ うな働 きがあることなどか ら して,破
壊 に対 してはかな りの抵抗性 を有 しているもの と推定 されているpこ
のよ うな壁孔の細胞壁破壊 に対 す る挙動の違いは,そ れらの構造上の相違を示唆するもの であろ う。 壁孔の構造 に関 してはこれまでにも多数の研究がなさ れている:'4,5,6)と ころが:こ
れまでの研究は主 として 壁孔の生理的役割 に重 きが置かれていたために,壁
孔膜 の構造に関するものが多い。 しかしながら,実
際の荼田胞 壁の力学的挙動 (破壊挙動 も含む)を
究明 してい くうえ では,こ
れら壁孔の強度的役割が明 らかにされなければ ならない。そこで問題 となるのは壁孔縁 (pit border) の構造である。 T― T壁 孔の壁孔縁の構造 に関 してはこ れまでにも詳 しく調べ られ,い
くつかの繕造模型 も提出 されており,そ
の基本的な構造については一応明 らかにされているξ
'6)ところが
,R―
T壁孔に関する研究は少
なく
,とくにその壁孔縁の構造について詳しく言及され
た報告はほとんどない。
*′ 亀取大学農学部林学科木材工学及林産化学研究室 DcP,Tォη 92ι OF FοTθ sι″♂, Fα cvJ″ ο′A=T σC,ど ιvT9, TοJιοT'IIPDlυ9Tsjを172 古ナII郁夫 そこで
,本
研 究では まずR― T壁孔の壁孔縁 の細胞壁 構造 に関す る知見 を得 ることを目的 とし,つ
ぎにこれ ら の2つの型 の有縁壁孔 の強度的役割 について構造的見地 か ら比較考察す ることを試みた。 材 料 と 方 法 材料 としてはスギ(CTノPιο切9Tjα ゴCPο,'cα D.D ON) を用いた。 レプ リカ観察用 には気乾保存 していた67年生 のスギ (鳥取県こ)の
正常 な成熟材部 を用 い,超
薄切片 観察用 にはスギの幼苗(京都大学農学部 附属演習林 に植 栽)の
幹部 を用 いた。 T―ア壁孔 を合み分野 を構成す る各壁層 (主として2 次壁)の
ミクロフ ィブ リルの配列 を調べ るために,適
当 な大 きさの木材 ブロ ック(約2(T)cm× 1(R)cm×1(と )cm) を半径方向 にカ ミソ リで害1裂す るか, もしくは ミクロ ト ームで切削す ることによって表出 した柾 目面 を Direct Carbon Replica法 り を用いて電顕(日立μS-7)1こよっ て検鏡 した。 この際,仮
道管の外側 に近 い各壁層の ミク ロフィブ リル配列の観察 には主 として割裂試片 を用い, 内腔側 の壁層構 成の観察 には ミクロ トーム切削試片 を用 いた。 さらに,場
合 によっては ミクロフィブリルの配列 をより明瞭 に見えるようにするために試片表面 をJeffrey 氏液で軽 く処理 した。 また,R―
r壁孔 の壁孔縁 中の各壁層の構成 を調べ る ために,材
料 を常法 どお り固定,エ
ポキ シ樹脂包埋後, ウル トラ ミクロ トームによって超薄切片 を作製 し,さ ら に切片 に軽 くP卜Pdシャドウィングを施 してか ら電顕 (日 本電子」E"-7)で
検鏡 した。 結 果 と 考 察1,ス
ギの分野の概観 スギの分野 にはスギ型壁孔(TaxOdioid pit)と呼ばれ るスギ属 に特有の形態 をもつR― T壁孔 が存在す る。 Fig。1は 晩材部 に近 い早材仮道管のR― r壁孔 を含む分 野の端付近 からそれに最 も近 い τ―T壁
孔 にかけて を割 裂面 によって仮道管外表面 か らレプ リカ法 でみた ところ を示す。 この写真 にも示 されているよ うにスギのR―T
壁孔の孔口は一般 に楕 円形 をした輪 内 孔 口 (included aperttare)で ある。 またその壁孔縁は椿 円形 の孔 回の長 径方向 とそれに直角方向 とでは壁孔縁 の張 り出 しの程度 が著 しく異 ってお り,こ
れが7-T壁
孔 と最 も異 なる点 である。 またこの写真 において,両
壁孔間の細胞壁害J裂 面がi球
を呈 してい るのは交差構造 をもつ SI層 の と こ ろで割裂 が生 じたため と思 われ る。 さらに,分
野 とそれ に続 く旅田胞壁 の間で,SI層
の ミクロフィブ リル配列 に関 して境界 と認 め られ るよ うなところは観察 されず, この 間は全 く連続的 であった。Fig l Direct carbon replica of the outer surface Of a late earlywood tracheid of S1/Gr wOOd
(Crプρケο″9TJα ブαpο兌
'C')illustrating both the the intertracheal bOrderd pit(T―
T Pit)and
he crOss field pit(R― T pit).NOte he over hanging border of the twO types of the pits.The arrOw(―
)in this and the fOHOwing figures indicates he micrOfibrillar orienta― tion FA=fiと cr axis, Sl一thc outer layer Of the secondary 、voll.Fig.2は ミクロ トーム切 削切 片 を用 いて
P―
T壁
孔周 辺の S2層 の ミクロフィブリルの配列 を内腔側 か らレプ リ カ法 でみた ところを示す。分野 におけるS2層の ミクロフ ィブ リルは,孔
回の まわ りをわず かに迂回 して配列 して ることを除 いては,分
野以外 の壁孔の存在 しない細胞壁 のS2層の ミクロフィブリル配列 と同 じよ うな傾向 力落忍め られた。 これ らの観察 か ら,脅―T壁
孔の ところを除 き,分
野 の細胞壁 を構成す る主 な壁層である SI層 と S2層 の ミク ロフ ィブ リルは,その配列の点では分野以外 の壁孔の存スギの分野壁孔の壁 孔縁の細胞壁構造
Fig.2 Direct carbon replica of the inner surface
of the crOss field in a late early、 voOd tra―
cheid Of S1/Gr wOOd showing the micro― fibrillar OrientatiOn Of the middle layer Of the secondary waH(S2)in the vicinity of the
pit aperture.
Fig。3 Similar tO Fig 2, but showing boh the SI
and the S2 1ayer in the cross field.
在 しない細胞壁 の それ と特 に変 っている点 は見 い出せ な かった。 Fig.3は典型 的 なスギ型
R― T壁
孔 を内腔側 か らレプ リカ法 でみた ところを示す。写真 の左上半分ではS2層 か ら内側 の壁層 が剰 ぎ取 られ,SI層が露出 している。 この よ うに,ス
ギのR―
γ壁孔の ところでは,R―
T壁
孔の 周囲の細胞壁 の壁層間 (主として Si層 と S2層 の間)の
剣離 (これは多分試料の作製 中に生 じた もので あろ う) に伴 って,壁
孔縁 の ところも周囲の細胞壁 と同 じよ うな 剖離 が生 じているのが しば しば観察 された。 この よ うな 壁孔縁 の破壊形 は,壁
孔縁 中 における各壁層 (主として Sl層 とS2層)の存在様式 カサ ーT壁
孔の それ とは異 なっ てい ることを示唆す るもので あ り, さらにP― T壁
孔の 壁孔縁 の構造 は周囲の細胞壁 の壁層構成 と似 ていること を示唆す るもので あろ う。 この点 について次項 で さらに 詳 しく検討す る。2.ス
ギR― T壁
孔の壁孔縁 の構造 スギの早材部 におけるP―
γ壁孔の孔 回の形状 は一般 に円形 ない し楕 円形 で あ り,孔
国の形状 と壁孔縁 の構造 とは密接 な関係 があると思 われるので,まず典型的 な惰 円形 の孔 口 をもつR―
γ壁孔の壁孔縁の構造 か ら述べ る。 Fig.4の(a),(b)お
よび(c)は
いずれもR―
ア壁孔 を仮道管 の外表面 か ら見 た ところを示す レプリカ写真 で ある。 これ らの写真 は,壁
孔周辺の細胞壁 の割裂状態 か ら判断 して,Fig.4の
(a)はSl層 内部 で,Fig.4の (b)は SI層 と S2層 の丁 度 境 界付近 で,また Fig,4の (c)は S2層 内部 でそれぞれ割裂 したことを示 してい る。 とこ ろで, これ らのいずれの写真 においても
,壁
孔縁 の壁孔 室 に面 した表面(壁孔縁 の外表面 と呼ぶ)上にイボ(warts) が認め られ ることに注 目 したい。 とくに,Fig.4の (b) と(c)では,壁
孔縁 か ら SI層 がほとん ど取 り除 か れ て いると思 われ るにもかかわ らず,依
然 として壁孔縁 の外 表面 にイボが存在 し, しかも壁孔縁の形状 がほ とん ど元 の形 を保 つてい るとい うことは,P―
T壁
孔 においては Sl層 の壁孔縁への寄与 は きわめて少 ない こ と を示 唆 す るもので あろ う。何故 な らば,も しR― γ壁孔 の Sl層 がT-7壁
孔のそれの よ うに孔 回の最終的 な輪郭 を決定す る程壁孔縁の形成 に関与 しているとすれば,Sl層は壁孔 縁 の内部 にまで存在 してい る筈で あ り,こ
の場合壁孔周 辺の細胞壁 がなん らかの力 (例えば試料作製中 に生 じる 力等)に
よって SI層 のところで細胞外表面 か らまU離され るよ うな場合 には,当
然壁孔縁 中の SI層 も周囲 のSl層 と一緒 に剣離 しよ うと し,そ
の結果壁孔縁 の外表面 にあ るイボ状 層 も Sl層 とともに取 り除かれてしま う可能性 が 大 きいか らである。実際 にT― T壁孔の壁孔縁 では,こ
の よ うな SI層 の剣離 によ つて壁孔縁の外表面にあるイボ 状層の一部 もしくは全部 が消失 していることが しば しば 観察 されている。 その1例をFig.5に 示す。 さらに,Fig。4の(a),(b),(c)に
示 されてい る壁古,II郁夫
孔縁の外表面((b)は軽 く」effrey氏液で処理 してある)
を注意 して見 ると, そこには アー T壁 孔で一般 に見 られ
Fig.4 Direct carbon replica of he outer surface of he pit bOrder Of he typical R―T pit in a late earlywood tracheid Of S1/Gr w。 。d.
These photographs,(a),(b)and(c),show
he expOsed surfaces split in he Si layer, at the bOundary between the Si and he S2 1ayer and in the S2 1ayer, respectively. The warts on the outer surfacc of the bOr― der always can bc seen.る同心円状 に配列 した ミクロフィブ リル(border hick― eningも しくは initial pit borderを 構成するミクロフ イブ リル
)は
見 られず,む
しろ壁孔の周囲の S2層 の ミク ロフィブ リルの配列 と一致す る細 かいスジが認 め られる。 これはP―ア壁孔の壁孔縁 を構成 していると思 われるS2 層の ミクロフィブ リルの配列 を示す もので あろ う。Fig. 6は壁孔縁 の S2層 の ミクロフィブ リルの配列 を内腔側 か ら見 た ところを示 す レプ リカ写真 である。 ミクロフ ィブ リルが孔 回の縁 に沿 って壁孔室側へ まわ り込 むよ うに し て配列 してい ること力湘 め られ る。 これは,S2層の ミク ロフ ィブ リルが彙―T壁孔 の ところで堆積 す る際 に,
ミ クロフ イブ リルは孔 口の縁 に沿 って壁孔室側1とまわ り込 むよ うに しなが ら堆積 す ることによって,孔
口の径 を狭 め るとともに張 り出 した壁孔縁 を形成 した もの と思 われ る。R― T壁
孔の壁孔縁 における S2層 の ミクロフィブ リ ルの このよ うな配列様式は,Imamura 6)が
r一γ壁孔 の壁孔縁形成 において提案 した Sl層 の ミクロフィブ リル の配列様式 と同様 の もの と思 われる。Fig.5 Direct carbon replica Of the outer surface of the pit border of the typical T― T pit in an earlywood tracheid of SIIGr、vOOd.
Note the peeling warty layer On the pit border. 以上の レプ リカ写真 か ら考 えて
, P-7壁
孔の壁子し縁 を結成 している主 な壁層の うちSI層 はT―γ壁孔のそれ と異 な り,壁
孔縁 のつ け根 付近 に局在 していると思 われ る。 これに対 して,S2層
は張 り出 した壁孔縁 の主体 をな す もので あろ う。 それ故 に,R―
T壁
孔の孔 口の最終形 状 は,早
材仮道管 で あって も,S2層
の堆積 に大 きく依存 してい るもの と思 われ る。 さらに, R一
γ壁子しの壁孔縁 では, 7-T壁
孔 において一般的 に認 め られているini_tial pit bOrderに 相 当す る壁 層 は形成 されないよ うに 思 われ る。
スギの分野壁 孔の壁 孔縁の細胞壁構造
Fig.6 Direct carbon replica of the inner surface of he pit border Of he typical R―T pit in syGr w。。d.The microfibrils in the S2 layer appear to be curved ttrough the in― ner edge Of tlle pit aperture onto the Outer surface of the pit border
そこで次 に, これ までの レプ リカ法観察 によって推定 された
R― T壁
孔 の壁孔縁 の構造 をよ り正確 に把握す る ため,壁
孔縁 中の各壁層(主として SI層 とS2層 )の 壁層 構成 につ いて,壁
孔部 の断面形態 を超薄切片法 によって 調べ た結果 につ いて述べ る。 Fig。7の (a)と (b)は 早 材仮 道 管 の典型的 なP―
T壁 孔の本 国断面 を示 す超薄切片像 である。R― T壁
孔 の壁 孔縁 は方向 によって発達 の程度 が著 しく異 なるため,断
面像 を解釈 す るときには,壁
孔の どの部分で あるのかに 注意 を払 って像解釈 を しなければな らない。Fig,7の (a) は孔 回の大 きさおよび壁孔縁 間の距離 の大 きさか ら判断 して,P―
T壁
孔 のほぼ中央の本 国断面像 を示す もの と 思 われる。 この写真 か らも明 らかなよ うに,張
り出 した 壁孔縁 はほ とん どS2層 だけ0構
成 されてお り,Sl層
は わず かに壁孔縁 のつ け根 の ところでやや厚 く存在す る程 度で, T―T壁
孔 の Si層 のように壁孔縁 の先端 にまで存Fig.7 UItra― thin crOss sections of he pit bOrder of the typical
R―T pit in SIIGr wOOd. The Sl layer dOes nOt extend intO
the pit bOrder, and the overhanging border is ttainly cOn― structed by the S2 1ayer The initial pit border cannOt be recognized on the Outer surface of the pit border.
The appearancc Of the pit border in the cross section would change depending on the planc of eectioning.
古 川郁夫 在 して孔 口の輪郭決定 に関与す るとい うよ うなことは全 く認 め られなかった。す なわ ち
,P―
T壁
子との壁孔縁 の 壁層構成 は壁孔周辺の細胞壁 の それ とよ く似 た傾向 を示 し,壁
孔縁 において もS2層 は Sl層 の上 に単純 に堆積 し ただけの構造 であ り,SI層
と相 まって壁孔縁 を構成す る とい うよ うなことは全 く見 られなかった。 さらに,ini_ Oal pit bOrderに 相 当す る壁層は,断
面像 において も 認 め られなかった。R― T壁孔の壁孔縁 におけるこの よ うな壁層構成は,ま えの レプリカ写真 で しば しば観察 さ れた壁孔部 の特異 な象」離 による破壊形の原因 をよ く説明 す るものであ り,こ
の部分 が外 力によってまJ離破壊 しや すいことは想像 に難 くない。 また,Fig,7の (b)は (a)に 比 べ て, 壁孔縁 間の距離 がかな り小 さいことか ら,こ
れは壁孔の端付近 の木 口断 面像 を示す もので あろ う。孔 回の端付近 において も,壁
孔縁 を構成す る主 な壁層 は S2層 であり,
また SI層 は壁 孔縁のつ け根付近 にやや厚 く存在す る傾向 が認 め られ る のは孔 回の中央付近 と同様 である。 しか しなが ら, この 写真 において孔 国の片側 (写真 では向 って左側)の
壁孔 縁 (S2層 による張 り出 し部分)が
欠落 しているよ うに見 える。 これは孔 口の端 (と くに楕円孔 回の上端部 もしく は下端部 をさす)の
ところにおける SI層 とS2層 の特 殊 な構成 の仕方 を示唆す るもので あろ う。 Fig.8はR― T壁孔の中央 付近 の板 目断面像の1例を 示 した もので ある。 ここで注 目すべ きことは,壁
孔縁 の つけ根付近 における SI層 の肥厚の程度 が本口断面のそれFig.8 Ultra― thin tangential sectiOn of the pit bOr― der Of the typical R― T Pit in S1/frr wOod
に比べて少 し大 きいことで ある。 これは
,壁
孔部 におけ る Si層 の ミクロフィブ リルは その配列方向 に沿 って厚 く 堆積 す る傾向のあることを示 し,その結果 SI層 堆積後の 孔 回の形状 は,前
出の レプ リカ写真 にも示 されているよ うに細胞軸 と直角方向 に長径 をもつ広惰 円形 を呈す るも の と思 われ る。 ここで,以
上の超薄切片法観察 および前述 の レプ リカ 法観察 によって得 られた知見 をもとに, P― ア壁孔の壁 孔 縁 を構成す る主 な壁層で あ る SI層 と S2層 の堆積 の仕 方 を推定す ると次 のよ うにな る。まず,SI層
の ミクロフ ィブ リルは最初ほぼ円形 をしてい ると思 われ るR―r壁 孔の始原壁孔域 を迂回す るよ うに して配列 し,次
第 にそ の配列方向 に沿 って堆積 す ることによって,Si層による 孔 口が形成 される。 この ときの壁孔縁 は口唇形 で張 り出 し部 をもたず,ま たその孔 回の形 は Sl層 の ミクロフィブFig.9 Direct carbon replica of the R― T pit having a round pit aperture in an earlywood tracheid
oF SIIGr w。 。
d. The phOtOgraphs,(a)and(b),
shOw the inner and the Outer surface respectively` PB==pit bOrder regionスギの分野壁孔の壁孔縁の細胞壁構造
F ig,10 Direct carbon replica of the R― T Pit having a slit― like
pit aperture in a latewOod tracheid of St/Gr wOOd. (a)and(b)show the inner and he outer surface res―
pectively. リルの配列方向 に長径 をもつ広楕 円形 で あろ う。 ひ きつ づいて,この Sl層 の上 に S2層 が堆積 するのであるが,S2 層 も基 本 的 には SI層 と同様 に S2層 の ミクロフ ィブ リル の配列方向 に沿 って独 自の孔 口 を形成す る。ただ し
,S2
層の ミクロフィブリルは Si層 によって作 られた孔 口の ま わ りに沿 って堆積 してい くうちに,次第 に孔 口の裏側(壁 孔室側)に
もまわ り込 んで配列す るよ うにな り,つ
いに は S2層 だけで張 り出 した形 を した壁孔縁 を形成す るに至 るもの と思 われる。 それ故,孔
回の最終形状 はほ とん ど S2層 の堆積 によって決定 され ると思 われるが,ただ孔 口 の上端 と下端,す なわちS2層 の ミクロフィブリル配列の方 向の変 り目に当 る分岐点の ところでは充分 なS2層 の堆積 が行 なわれず,部
分的 には SI層 だけのところも存在 しう る。 このよ うなところの断面 を示 したものがFig.7の (b) であろ うと筆者は考 えた。 以上,典
型的 なR― T壁孔の壁孔縁 の構造 について述 べ たが,次
に若 い早材部 にみ られ る円形の孔 口 をしたR
―T壁孔 および晩材部 にみ られるス リッ ト状 の孔 口 をし たP― T壁孔の壁孔縁 について簡単 に説明す る。 Fig.9の(a)と (b)は 円形 の孔 口 を したP― T壁孔 を 仮道管の内陸側 と外側 か ら見 た ところ を示 す レプ リカ写 真 で ある。壁孔縁 の張 り出 しの程度 が非常 に少 ないこと がT―T壁
孔 と異 なる点で ある。 また,こ
の写真 か らで は Sl層 と S2層 の ミクロフィブ リル を区 別 す ることは困 難 であ り, これ らはいずれもほぼ円状 に配列 しているよ うに見 える。Fig。 10の(a)と (b)はスリッ ト状孔 口をし た晩材部 の典型的 なR― T壁孔 を仮 道管 の内腔側 と外側Fig ll Direct carbon replica Of the outer surface Of the pit border of the T―T pit in a late―
wood tracheid Of SUGr w00d.
か ら見た ところを示す レプ リカ写真 で ある。S2層 によ る 壁孔縁の張 り出 し部 は顕著 で あ り
,孔
回の形状 はT―T
壁孔の晩材部 の それ と似 てい る。 ところが, γ―T壁孔 の壁孔縁 は晩材部 であつて も,SI層(initial pit border
も合む
)に
よって形成 された壁孔縁 が均等 にかな り張 り 出 している点 で,彙
―T壁
孔 の晩材部 の それ とは全 く異 な っている。Fig,10の(b)と比較 のために,晩材部 のT―古 川郁夫
A
Fig。 12 Diagrammatic representation of the micro―
fibrillar Orientation(rightl dnd hat of the
cross―sectional view (left)of the R― T pit border Of S」Gr wOOd.
EヽV―I=early earlywOOd EW―Ⅱ=late early―
wood LIV=latewOOd
ア壁孔 を外側 か らみた レプリカ写真 をFig■1に示す。 これまでの観察 によって得 られたすべ ての知見 を総合 して
,ス
ギのP―
T壁孔の壁孔縁の細胞墜構造とを模 式的 に描 くとFig.12および Fig.13の よ うになる。Fig.121よ円形
,楕
円形 およびス リッ ト状 の孔 口 を したR― r壁孔 の壁 孔 縁 におけ る Sl層 とS2層 の各 ミクロフ ィブ リルの 配列の様子 とその中央断面形状 を模式的 に描 いた もので ある。Fig.13は 壁孔縁 を構 成す る主 な壁層であるSl層
とS2層 について壁孔の種 々の断面 における構造 を模式的 に描 いたものである。3.壁
孔縁 の強度的役割 単一仮道管 の縦引張破壊 において, P―ア壁孔 の とこ ろで破壊 が生 じる頻度 は極 めて高 いpまた,木
材切片 を 縦引張破壊 した場合,亀
裂 が放射組織 に沿 って進行 した り,放
射組織 の端 を縫 うよ うに進行 した りす ることが しばしば観察されているpこ のようなことから
,仮
道管の
分野,と りわけP― T壁孔部 は細胞壁 の破壊 において問 題 となる構造物 である。 これにひ きかえ, T― T壁孔 は 細胞壁破壊 に対 して幾分抵抗性 があるよ うに思 われ る。 とい うのは,単
一仮道管の縦 引張破壊 において も,破
壊 がそこか ら始 まることは1よとん どな く,ま
た破壊後 の細 胞壁破壊部 を調べて も,亀
裂 はT―T壁
孔 の ところ を避 けて生 じてい ることなどがよ く観 察 され るか らで ある。 そこで, このよ うな実際の仮道管細胞壁 中 における壁孔 部 の破壊挙動の違 い を構造的立場 か ら検討 しよ うとすれ ば, まず これ らの壁孔の壁孔縁 を構成 す る各壁層の存在 様式 力■.壁孔の存在 しない仮道管細胞 壁部分の それに比 べて著 しく異 なっていることに注 目しなければならない。 R― T壁孔の壁孔縁 は,極
端 に云 えば S2層 だけか ら成 り,SI層を欠 いた細胞壁部分 と見 なせ る。 しかもこの壁 孔縁 は均等 に張 り出 してお らず,S2層
の ミクロフィブリ ルの配列方向 と直角方向にだけ張 り出 してお り, さらに この部分 を構 成する S2層 の厚 さはまわ りの細】包壁中のS2 層 とほぼ同 じか,少
し薄 い くらいである。 その うえ,壁
孔縁 中の S2層 の ミクロフィブ リルは孔 口の ところを迂回 す るよ うに酉こ列 しているため,酉こ列の点 か らもこの部分 は変異部 とみ なされる。 この よ うな特異 な構造 を有す る R― T壁孔の壁孔縁 は,壁
孔部以外の細胞壁 に比べて, 縦引張 によって破壊 しやすいだけでな く, S2層の ミクロη
磁
A
D m ︲ AI 田 判 ︱ ︱ I D F ︲ ︲ 則 円 Ⅷ 悧 ︲ H FE
C柑
篭
B
♂
C C
Fig 13 PrOposed diagram cOncerning the sectiOnal view Of the pit bOrder of the typical R―
T
pit in a late earlywOOd tracheid Of SyGr wood in various cutting planes.The dOtted area represents the Si layer and the empty area shows he S2 1ayer.
スギの分野壁孔の壁孔縁の細胞壁構造 フィブ リルの配列方向 に沿 って裂 けやす い構造 で あると 玄 えよ う。 これに対 して, T― T壁孔の壁孔縁 は
,壁
孔の存在 し ない細胞壁部 よ りも SI層 がかなり厚 く堆積 し, しかもそ の Sl層 の ミクロフィブ リルは円状 に配列 して堆積す る こ とによって,均
等 に張 り出 した壁孔縁 を形成 している。 しかも,この Sl層 は壁孔縁 の先端 (孔口の縁)に
まで存 在 している。 さらに, このよ うな Sl層 の内側 (内腟側) には壁孔部の周囲 と同程度の厚 さを有す るS2層 が堆積 し てお り,ま たこの Si層 の外側(壁孔室佃1)はinidal pitborder と呼ばれる同心円状 に ミクロフィブリルが配列 してで きた層で裏打 ちされている。 この よ うな構造 を有 す る壁孔縁 は