韓国大衆文化への接触と展開
金 慈恵
1.分析のねらい 最近日本では韓国の大衆文化が徐々に入ってきている。「ユン・ソナ」という韓国のタレント がバラエティ番組に出演したり、「Boa」という歌手が日本で CD を出したりもした。また、「冬 のソナタ」等の韓国ドラマが「韓流」と呼ばれてヒットし、出演した俳優が来日したり、ドラ マの主題歌が日本の町で流れることも多くなった。では、こういった韓国の大衆文化に接した ことをきっかけにし、韓国への関心は広がるのだろうか。 本稿では、1)調査対象者がどのような大衆文化に接してきたのか、2)そして、それは性 別や世代にどのように関係しているかを見てみる。また、3)韓国大衆文化に接することで、 大衆文化の背景となる「韓国」への関心へと広がるのか、4)もし関心を持つようになったと したら、それはどの程度のものなのかについても分析してみたい。 分析の対象とするのは、筆者らが 2004 年 9 月に実施した「暮らしとメディアに関する福岡市 中央区民調査」データである。この調査は、福岡市中央区在住の 20 歳以上 69 歳以下市民を対 象とし、二段無作為抽出法による計画サンプル 600 人に対して郵送法(一部は面接回収)で行 った。回収票は 126、21%の回収率であった。 性別 57 45.2 45.6 45.6 68 54.0 54.4 100.0 125 99.2 100.0 1 .8 126 100.0 男性 女性 合計 有効 9 欠損値 合計 度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント <表1> 世代 13 10.3 10.3 10.3 27 21.4 21.4 31.7 26 20.6 20.6 52.4 35 27.8 27.8 80.2 25 19.8 19.8 100.0 126 100.0 100.0 20代 30代 40代 50代 60代 合計 有効 度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント <表2> はじめに、分析に用いる属性として性別と年齢の分布を確認しておく。表1によると、全 126 人のうち男性が 45%(57 人)、女性が 54%(68 人)であり、女性の方がやや多く見られた。ま た、表2で年齢の構成をみると、20 代が 10.3%(13 人)、30 代が 21.4%(27 人 )、40 代が 20.6%(26 人)、50 代が 27.8%(35 人)、60 代が 19.8%(25 人)であり、20 代の回収率が低いこと がうかがえる。 2.性別と韓国大衆文化の視聴 回答者たちは韓国のどのような大衆文化に接しているのだろうか。表3~表5では、日本で 放映された韓国のテレビドラマ(「冬のソナタ」等)、映画(「シュリ」「猟奇的な彼女」「ブラザ ーフッド」等)、音楽(Boa やイ・スヨン等の k-pop)の 3 つの項目についての質問結果を比較 した(この質問ではマンガ・アニメの視聴も聞いているが少数のため図表は省略する)。このと き、韓国の大衆文化に接した頻度よりはその有無を重視したため、「よく視聴する」「ときどき 視聴する」「まれに視聴する」を「視聴する」に、「視聴しない」をそのまま「視聴しない」に 分類した。
<表3>性別 と ドラマの視聴率 のクロス表
26
30
1
57
45.6%
52.6%
1.8%
100.0%
46
21
67
68.7%
31.3%
100.0%
72
51
1
124
58.1%
41.1%
.8%
100.0%
度数
性別 の %
度数
性別 の %
度数
性別 の %
男性
女性
性別
合計
視聴する 視聴しない わからない
ドラマの視聴率
合計
<図1>韓国ドラマの視聴率 45.60% 68.70% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 男性 女性 まず、韓国ドラマを視聴したことがあるかという質問に対しては、「視聴する」が58.1%、 「視聴しない」が41.1%という結果が出た(表3)。視聴率を性別で比較してみると、図1に みられるように、女性の68.7%が韓国テレビドラマを視聴したことがあるのに対し男性は45.6%であり、韓国のテレビドラマは女性の方がより多く視聴していることがわかる(カイ2乗検定 により1.3%で有意)。この<ドラマ>の視聴率は、<映画><音楽><マンガ・アニメ>のど れよりも高く、これは「冬のソナタ」などのドラマが地上波で放映されたことから始まった「韓 流」ブームとも関連があると思われる。 <表4>性別 と 韓国映画の視聴率 のクロス表 25 26 5 56 44.6% 46.4% 8.9% 100.0% 29 34 3 66 43.9% 51.5% 4.5% 100.0% 54 60 8 122 44.3% 49.2% 6.6% 100.0% 度数 性別 の % 度数 性別 の % 度数 性別 の % 男性 女性 性別 合計 視聴する 視聴しない わからない 韓国映画の視聴率 合計 <図2>韓国映画の視聴率 44.60% 43.90% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 男性 女性
<表5>性別 と 韓国音楽の視聴率 のクロス表
20
31
5
56
35.7%
55.4%
8.9%
100.0%
30
32
4
66
45.5%
48.5%
6.1%
100.0%
50
63
9
122
41.0%
51.6%
7.4%
100.0%
度数
性別 の %
度数
性別 の %
度数
性別 の %
男性
女性
性別
合計
視聴する
韓国音楽の視聴率
視聴しない わからない
合計
<図3>韓国音楽の視聴率 35.70% 45.50% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 男性 女性 次に、表4と表5から、韓国映画を見たことがある人は男性が 44.6%、女性が 43.9%であり、 音 未満であり、こ れ 楽(k-pop)を聴いたことがある人は男性が 35.7%、女性が 45.5%である。これらの視聴率は、 ドラマほど差異を見せることはなかった。しかし韓国音楽の視聴率は 10%の差異があり、ドラ マだけでなく音楽に対しても、やはり女性の視聴率がやや高いといえる。 マンガ・アニメの視聴に対しては、男女ともに視聴した経験のある人は10% は韓国のマンガ・アニメがまだほとんど日本に輸入されておらず、接する機会が少ないから ではないかと考えられる。また、テレビドラマ以外の3項目の共通点として、テレビドラマの 場合と異なり、「わからない」と答えた人が5%以上いた。このことからみて、回答者たちはテ レビドラマ以外の韓国大衆文化にはまだそれほど親しんでおらず、そもそも何が韓国発なのか の認識があいまいなのではないかと思われる。 <表6>ドラマの視聴率 と 韓国映画の視聴率 のクロス表 41 24 5 70 58.6% 34.3% 7.1% 100.0% 13 37 2 52 25.0% 71.2% 3.8% 100.0% 1 1 100.0% 100.0% 54 61 8 123 43.9% 49.6% 6.5% 100.0% 度数 ドラマの視聴率 の % 度数 ドラマの視聴率 の % 度数 ドラマの視聴率 の % 度数 ドラマの視聴率 の % 視聴する 視聴しない わからない ドラマ の視 聴率 合計 視聴する 視聴しない わからない 韓国映画の視聴率 合計 て、ドラマ視聴と映画視聴の関連を表6のクロス分類表でみると、両者の間には高い正の 関 さ 連があることがわかる(カイ2乗検定により1%有意)。ドラマ視聴と音楽視聴についても、
映画視聴ほどではないが、やはり有意な関連がある。つまり、韓国大衆文化に対する視聴率は、 互いに関係しあっているということがうかがわれる。これは、例えば韓国のドラマから関心を 持ち始めたとして、そのドラマに出ている主題歌を聞き、ドラマの俳優が出ている映画を見る などの、近年の韓国大衆文化の消費の形とも関連があるのではないだろうか。 さらにこの点を、韓国大衆文化4項目の視聴項目数から確認しておこう。表7および図4のグ ラフは、視聴項目数を性別により比較したものである。女性の場合、4項目のうち2つ以上の大 衆文化に接している人が68%いるのに対し、男性では2つ以下に接している人が62%を占める (これらの差異はカイ2乗検定により5%有意)。また、視聴項目数の平均値を比較してみると、 男性が2.3項目であるのに対し、女性が2.7項目であった。先に、ドラマと音楽を中心にした女 性の韓国大衆文化への接触の多さを指摘したが、その接触の多面さという点でも女性のより積 極的な接触行動がうかがえる。 性別 と 韓国大衆文化に接する数 のクロス表 4 24 14 3 45 8.9% 53.3% 31.1% 6.7% 100.0% 3 16 33 7 59 5.1% 27.1% 55.9% 11.9% 100.0% 7 40 47 10 104 6.7% 38.5% 45.2% 9.6% 100.0% 度数 性別 の % 度数 性別 の % 度数 性別 の % 男性 女性 性別 合計 1.00 2.00 3.00 4.00 韓国大衆文化に接する数 合計 これまで見てきた視聴行動は、性別とともに、年齢によっても大きく左右されると予想され る。そこで、比較的視聴率が高かった韓国ドラマをとりあげ、性別と年齢別を考慮したより細 かい差異を調べてみる。図5に、年齢別の視聴率パーセントとその性別内訳を示した。 女性 男性 人数 30 20 10 0 <表7> <図4> 40 韓国大衆文化への 接触項目数 1 個 2 個 3 個 4 個
これをみると、視聴率 76.7%の 40 代をピークに、全体としては 20 代~40 代の視聴率が高い。 男性は 30 代から韓国ドラマの視聴率高くなっているが、おしなべて 20%前後ではっきりした 特徴はうかがわれない。女性の場合 20 代が 64.3%でもっとも視聴率が高く、次が 40 代の 50%、 以下 30 代、60 代と続く。男性の視聴率が女性のそれを上回る世代は存在しない。ここからも、 近年の韓流ブームの担い手が女性であることがわかるが、それは年齢を目安にしたライフサイ クルでいうと、結婚前の若年期と子育てを終えた中年期を主軸にしていることが推察される。 ただし冒頭で確認したように 20 代は回収率が悪いので、その点はやや差し引いて考える必要が ある。また、一般に世代別のテレビ視聴率をみるときには就労状態との関係に留意しなければ ならないが、一方では職場を介した韓流ブームの広がりも指摘されている。この点を考慮した より細かい分析は、今後の課題である。
<図5>世代と韓国ドラマ視聴率
7.14% 22.22% 26.67% 17.64% 25.00% 64.28% 33.33% 50.00% 20.58% 30.00% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 20代 30代 40代 50代 60代 女性 男性 .韓国大衆文化への接触と関連する意識・行動、およびその変化 か。また、韓国大衆文化 へ 。 外 3 韓国大衆文化への接触は、他のどのような意識と関連するのだろう の接触を通して、韓国それ自体への関心の高まりはあるのだろうか。「韓流」が単なる一過性 のブームなのか、あるいは新たな文化的な動きや国際交流のあり方の変化につながるものなの かを吟味するために、もう少し広い文脈に韓国大衆文化の視聴行動を位置づけてみたい。 表8は、外国人増加の影響に関する質問と、韓国大衆文化の視聴率とのクロス分類表である 国人増加の影響については否定的な回答が多かった「地域の治安」をとりあげ、視聴率の方 は、ここでも、4 項目のうち比較的視聴率が高かった「韓国ドラマ」をとりあげている。この 表によると、外国人の増加が地域の治安にとってプラスになると答えた肯定的な回答者は、全 体の 32.3%と半分に満たないが、その中でも韓国ドラマを視聴する人は 41.4%と、視聴しない 人の肯定的回答率(19.6%)を大きく上回る(カイ2乗検定により 5%有意)。今回の調査からは両者の因果関係まではわからないが、地域の治安という身近な場面でも外国人流入に対して 肯定的であることと、韓国大衆文化の流入に対する受容度とは、どこかで共通の意識的な基盤 をもっている可能性がある。 <表8> 韓国ドラマの視聴率と地域の治安についてのクロス表 外国人の増加が地域の治安にとって 良いことだ 悪いことだ わからない 合計 度数 29 37 4 70 視聴する 視聴率 41.4% 52.9% 5.7% 100.0% 度数 10 39 2 51 韓 視聴しない 視聴率 19.6% 76.5% 3.9% 100.0% 国 ド ラ マ を 合計 度数 39 76 6 121 視聴率 32.2% 62.8 5.0% 100.0% それでは、より直接的に、韓国大衆文化に接することで、韓国に対する関心が広がったかど う <表9> 韓国大衆文化への接触以後の変化 度数 選択率 かを見てみよう。韓国大衆文化の4項目の最低1つに対して「視聴することがある」と答えた 人(該当94人)には、それをきっかけとして行動や関心が変化したかどうかをたずね、当ては まる項目すべてを複数回答で選んでもらった。表9は、無回答を除く86人について、各項目の 選択度数と86人中の選択率を示している。最後の行は、「特に行動や関心の広がりはない」人 を除く57人の選択件数と平均選択率である。 項 目 韓国の大衆文化に関する雑誌・ホームページなどに接する ことが多くなった 11 12.8% 韓国の歴史・政治・経済に関する雑誌・ホームページなど 10 11.6% に接することが多くなった 韓国に関するテレビニュースや新聞記事を注意してみる 24 27.9% ようになった 在日朝鮮人や戦争の歴史について考えるようにになった 12 14.0% 韓国旅行にいった(計画中を含む) 17 19.8% 韓国語の勉強をはじめた 4 4.7% 韓国という国に対し親近感が増した 33 38.4% その他 5 5.8% 特に行動や関心の広がりはない 29 33.7% 変化ありの合計と変化した 57 人に対する選択率 116 203.5%
全体として何らかの変化を経験した57人は86人中66.3%に相当し、平均選択率が示すように だいたい2項目について変化を表明している。その中では「親近感が増した」と答えた人が38.4% (変化した57人中では57.9%に相当)と最も多く、それに「TVニュースや新聞記事」(16.4%: 同57人中42.1%)、「韓国旅行」(11.6%:同57人中29.8%)の2項目が続く。一般的な感情や、 芸能的な関心の延長にとどまっている可能性はあるが、それでもこれらの選択率の高さは、ド ラマ・映画・音楽・マンガ等との接触をきっかけとして、人びとの意識や関心が一過性のブー ムを越えて広がる可能性を示唆している。韓国の(ないし日韓関係の)歴史・言語文化や政治 経済的な背景に対する関心の広がりをより直接的に示す項目に対しては、確かに個々の選択率 はさほど高くない。しかし、「在日朝鮮人や戦争の歴史」、「歴史・政治・経済に関する雑誌・ 本やホームページ」、「韓国語の勉強」の3項目を合わせた選択件数は26件、57人中の選択率は 45.6%におよぶ。これらはインターネットのアクセス、本や雑誌の購入、韓国語学校への通学 等、能動的な行動を必要とするものであり、情報がたくさん流れているから何となく関心が引 きつけられるというレベルを明らかに越えているといえるだろう。
韓国大衆文化視聴後の変化男女比
5.7 15.1 20.8 7.5 15.1 3.8 22.6 5.7 22.6 12.1 3 19.7 12.1 13.6 3 31.8 3 27.3 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 韓国 の大衆 文化に 関 す る雑 誌・ 本や ホ ー ム ペ ー ジ 韓国 の歴史 ・政治 ・経済に 関 す る雑誌・ 本 や ホ ー ム ペ ー ジ 韓国に 関 す るT V ニ ュ ー ス や 新 聞記 事を 注意 在 日朝鮮 人や戦 争の歴 史に つ い て 考え るよう 韓国 に 旅 行に 行 っ た 韓国 語の勉 強を はじ め た 韓国に 対し て 親近感 が増し た その 他 特に 変 わら な い 女性 男性 6は韓国大衆文化への接触後の変化について、項目別の選択率の男女差を見たものである。 韓 <図6> 図 国大衆文化の視聴はドラマや音楽を中心に女性が多いことを確認したが、それによる変化の 側面では明瞭に男女差を示す項目は意外と少ない。「特に行動や関心の広がりはない」の選択率 を含めて、ほとんどの項目が5%以内の差異にとどまる。しかし、「歴史・政治・経済に関する 雑誌・本やホームページ」は男性の15.1%が選択しているのに対して、女性の選択率は3.0%であり、明瞭な差異をみせる。逆に女性の選択率が高いのは「大衆文化に関する雑誌・本やホー ムペ-ジ」と「親近感が増した」の2項目であり、やや芸能的関心や一般感情の側面に偏る傾向 がうかがえる。 4.おわりに りよくするためには、トップレベルの政治的な調整とともに、底辺からの文化 的 こでもや は 国際関係をよ 交流と相互理解が重要である。「韓流ブーム」としての韓国大衆文化の日本への流入と受容 は、一方でさまざまな経済的利害がからむとはいえ、そうした底辺からの動きを促す絶好の機 会だと思われる。本レポートの分析で、韓国大衆文化との視聴はドラマや音楽を中心に、主と して20代と40代の女性を中心としていることが示されたが、一方で、性別や年齢層を越えた幅 広い視聴は確実にある。1つのメディア接触が他のメディア接触を促すような、大衆文化項目間 の広がりも観察された。さらにそうした視聴行動をきっかけとして、行動や関心の広がりがか なりの程度生じていることが確認された。前述の底辺からの動きの基盤として、まずは他国の ことが関心の内に入り、感情的な距離が縮まることが要件であるとすれば、「親近感が増した」、 「TVニュースや新聞記事」、「韓国旅行」等の選択率の高さはポジティブに評価すべきことで ある。すでに、より能動的に「韓国」に志向している層も少なからず現れている。 本調査以外にも、NHKが「冬のソナタ」に限定した世論調査を実施しているが、そ り「冬のソナタ」をきっかけとし、韓国のドラマや映画に接触するようになり、意識面では 「韓国のイメージが変わった」「韓国への興味が増した」「韓国文化に対する評価が変わった」 などの回答が多くあった。いま起こっている「韓流」という流れが、ただの娯楽ブームで終わ らず、互いの国を理解していくきっかけとして役立ったらと思う。