東京都区部における土地利用と交通負荷に関する基礎資料
A data report on floor use and traffic load in Tokyo wards area
1.はじめに 都市計画に対する関心が社会的広がりをみせ,論議が 学際化してきているが,こうした論議が発展的に深化す るためには,科学的な情報・知見を識者の間で共有する ことが不可欠である。中でも容積率については,都市計 画に関して最もよく話題になる事柄のひとつであるので, たとえば,建物床面積が交通に及ぼす負荷の用途別特性 や近年の変化など,現実認識にかかる基礎的データの共 有化が強く求められるところであるが,しかしながらこ のような知見の共有化は意外と進んでいない。
This paper contains some basic data concerning land use and traffic load in Tokyo central area, especially traffic generation units per floor area. The authors calculate these units by floor uses, traffic means, and time of a day, which relates directly to congestion. We suggest that office floor concentrates overwhelming amount of traffic on train in morning peak time (about 220 trip/ha/hour), commercial generates far less traffic in morning time, but gives 2 to 3 times heavier load than office on automobile in daytime, and residential gives much less load. We also suggest that area of office floor per a worker has largely increased recently, and total amount of automobile trips by business has decreased to about 60%, instead of total area of office floor has doubled in recent 20 years.
Keywords: traffic generation unit per floor area, floor area per a person, person trip survey,
land use situation survey, density of railway stations
発生集中交通原単位,1 人当たり床面積,パーソントリップ調査, 土地利用現況調査,鉄道駅密度
明石達生 *・西澤明 **・鈴木聡 ***・對木揚 ****・滝井恵 ***** Tatsuo Akashi, Akira Nishizawa, Satoshi Suzuki, You Tsuiki, Satoshi Takii
* 正会員, ** 正会員, *** 正会員, **** 非会員, ***** 非会員 表−1 東京都区部の用途別・手段別・時間帯別発生集中交通原単位 本年より,日本都市計画学会において,都市計画に関 する情報交流を活発化する趣旨で「都市計画報告」とい う場が設けられた。筆者らは,これを機会に,学術研究 の場に情報を提供し,知見の共有化と科学的事実に基づ いた論議の発展に多少なりとも貢献したいと考え,都市 計画報告の場を活用することとした。本稿は,筆者らの 最近の分析を整理したものであるが,研究や意見交換の 基礎となる情報提供という目的に立って,あえて政策論 には踏み込まず,得られた実態情報をそのまま提示する 方針でまとめたものである。 徒歩・二輪 終日 朝ピーク 昼間 終日 朝ピーク 昼間 終日 朝ピーク 昼間 終日 朝ピーク 昼間 (8時台) (10-16時台) (8時台) (10-16時台) (8時台) (10-16時台) (8時台) (10-16時台) 41.51 220.90 30.41 5.36 7.72 10.00 6.07 4.59 14.05 53.46 234.54 55.14 R2 0.886 0.842 0.840 0.796 0.503 0.821 0.724 0.160 0.713 0.889 0.844 0.840 t値 35.62 28.42 29.46 30.84 18.54 31.45 23.42 11.50 21.88 37.33 29.20 30.87 サンプル数 57 57 57 57 57 57 57 46 57 57 57 57 95.79 47.75 144.58 17.54 7.61 28.20 50.52 9.28 106.59 169.03 64.71 290.70 R2 0.758 0.686 0.725 0.663 0.091 0.763 0.824 0.179 0.796 0.834 0.574 0.831 t値 15.58 15.16 14.08 15.03 9.44 19.11 24.32 10.33 22.84 21.28 13.34 21.22 サンプル数 55 52 55 55 45 54 56 46 56 56 55 56 6.72 23.24 5.22 2.43 5.05 2.90 8.85 24.09 14.79 19.12 55.72 24.45 R2 0.748 0.702 0.732 0.868 0.621 0.783 0.796 0.734 0.788 0.837 0.828 0.826 t値 20.35 18.93 20.47 28.26 14.38 21.57 22.38 19.43 22.12 25.70 24.75 25.20 サンプル数 52.00 52.00 52.00 52.00 44.00 51.00 53 51 52 53.00 52.00 52.00 41.04 221.26 29.63 5.87 9.77 10.92 6.83 38.25 14.85 53.89 241.13 56.22 R2 0.934 0.909 0.903 0.667 0.612 0.310 0.169 0.644 0.932 0.893 0.876 t値 72.38 61.04 58.20 38.38 15.50 36.28 27.15 19.34 32.64 74.24 59.61 57.20 サンプル数 264 263 263 264 262 264 264 128 263 264 264 264 45.23 27.78 68.57 12.91 8.21 23.56 52.27 21.32 116.68 114.02 47.59 216.77 R2 0.397 0.430 0.383 0.468 0.035 0.480 0.373 0.168 0.309 0.618 0.460 0.641 t値 15.15 16.56 14.33 26.75 18.30 29.18 32.74 25.77 31.09 30.50 25.63 34.06 サンプル数 258 199 249 261 159 259 261 181 261 262 261 262 8.13 27.68 5.03 3.41 7.22 3.83 11.82 34.34 20.01 24.16 71.29 30.15 R2 0.813 0.756 0.647 0.608 0.470 0.580 0.745 0.633 0.743 0.854 0.831 0.830 t値 70.66 59.10 49.05 43.79 35.88 42.65 61.48 47.57 61.67 84.50 76.88 79.27 サンプル数 258 258 258 257 245 255 258 255 255 259 258 258 注. R2乗が──の場合は相関がないことを表している 資料:「東京都市圏パーソントリップ調査」(1998)と「東京都土地利用現況調査」(1996)により算出 地 域 用 途 事 務 所 原単位(人/ha) 特 別 区 部 店 舗 原単位(人/ha) 住 宅 原単位(人/ha) 鉄道 自動車 全手段 主 要 5 区 事 務 所 原単位(人/ha) 店 舗 原単位(人/ha) 住 宅 原単位(人/ha)
表−2 床面積あたり汚水発生量の比較 表−3 混雑時間帯における発生集中交通原単位の用途別比較 2.用途別交通負荷の比較 表−1は,東京都区部における建物の発生集中交通原 単位を,用途別に算出したものである(((((11111)))))。使用データに は「東京都市圏パーソントリップ調査」(1998,東京都市 圏交通計画協議会)と「東京都土地利用現況調査」(1996, 東京都都市計画局)を用い,パーソントリップ調査の小 ゾーンをサンプルとして回帰分析により算出した(((((22222)))))。単 位は床面積 1ha・1 時間当たりのトリップ数で,平日のも のである。 この交通原単位の特徴は,手段別・時間帯別に算出し たことである。従来,政策検討に用いられてきた原単位 には,全手段・終日で算出されたものが多かった。しか し,交通負荷は実際には混雑する時間帯が問題であり, 交通機関ごとに混雑時間帯に関して検討する方が,負荷 の実態にも即している。 東京の土地利用と交通の問題を考える場合,特徴的な 観点がある。従来から,通勤交通に関しては,膨大な人 口集積を考えると通勤手段を自動車依存することは所詮 不可能であるが,鉄道の著しい通勤混雑は緩和していく 必要があり,また,都市の効率性を確保するには,業務 等への支障が大きい道路の慢性的渋滞については改善が 必要である,と考えられてきた。土地利用規制の運用も, こうした観点を基本としている。従って,土地利用がも たらす交通負荷で最も問題とすべきは朝の鉄道通勤と昼 間の道路混雑であり,この表中において着目すべき交通 原単位は,通勤で混雑する「朝ピーク時の鉄道」と,道 路渋滞で都市活動に支障をきたすおそれの高い「昼間の 自動車」ということになる(((((33333)))))。 さて,これらの交通原単位について事務所・店舗・住 宅の主要3用途を比較すると,朝ピーク時の鉄道に対す る事務所の負荷は,他用途に比べ突出して大きい。後に 示すように,事務所の立地は都心部に集中しており,か つ,それらによる通勤目的の手段分担率は鉄道が9割以 上であることを考えると,東京の都市計画においては, 事務所の床量配置と鉄道輸送力のバランスが最もクリ ティカルな課題と言える。 一方,昼間の自動車交通をみると,店舗の交通負荷は 事務所のそれよりも顕著に大きい。これによれば,例え ば事務所の床割合を抑えつつ,その分店舗を増やす計画 を考えると,鉄道の通勤混雑への影響は抑制されるが, その一方で昼間の道路交通への負荷が増大する,という 関係になる。 また,住宅による床面積当たりの交通負荷は,他の用 途に比較して顕著に小さい。このことは,いわゆる都心 居住の推進政策や,その誘導手段として住宅用途の容積 率を他の用途よりも大幅に割増すインセンティブ 措置を採用することに,論拠を与えている。ただ し,上下水道の負荷では,住宅と業務・商業は逆 転する。表−2は,多摩川・荒川等流域別下水道 総合整備計画 2002)で用いられている汚水発生原 単位と,これをもとに住宅(夜間人口)と事務所・ 店舗(昼間人口)の床面積あたり負荷量を試算し たものであるが,住宅の方が1人当たりで1.84倍, 床面積当たりで1.26倍と大きい。また,住宅地の 場合,市街地密度の限界は一般に生活環境上の要 求から決まり,必ずしも道路の輸送能力で決まる ものではない点にも留意すべきであろう。 表−3は,ホテルと文教・厚生施設を加えた原 単位比較である。ホテルのもたらす交通負荷は意 外に小さく,主要3用途でいえば住宅に近い。都 心部ではホテルの床面積が店舗の床面積に匹敵す る量なので,両者を併せていわゆる商業系用途と 考えると,昼間の自動車負荷は事務所の倍程度に 収まることになる。文教・厚生施設の特性は事務 所と似ており,都心部立地では朝ピーク時の鉄道 負荷の強さが事務所に迫る大きさである。 夜間人口 昼間人口 (事務所 (住宅) ・店舗) 1人当たり汚水発生原単位 注1) 1人あたり床面積 注2) 床面積あたり汚水発生量 (リットル/ ㎡・日) 11.2 8.9 注1)「多摩川・荒川等流域別下水道整備総合計画」(2002年,東京都) なお,都区部ではなく東京都全域の数字である 注2)「住宅土地統計調査」(1998年、総務庁統計局), "事務所・営業所"+"店舗・飲食店"(「事業所・企業統計」2001年, 総務庁統計局),"事務所・店舗等"(「課税資料」2001年,東京都) (㎡/人) (リットル/ 人・日) 295 160 18.0 26.4 地域区分 主要5区 特別区部 鉄道 自動車 全手段 鉄道 自動車 全手段 朝ピーク 昼間 終日 朝ピーク 昼間 終日 (8時台) (10-16時台) (8時台) (10-16時台) 220.90 10.00 53.46 221.26 10.92 53.89 R2 0.842 0.821 0.889 0.909 0.612 0.932 t値 28.42 31.45 37.33 61.04 36.28 74.24 サンプル数 57 57 57 263 264 264 47.75 28.20 169.03 27.78 23.56 114.02 R2 0.686 0.763 0.834 0.430 0.480 0.618 t値 15.16 19.11 21.28 16.56 29.18 30.50 サンプル数 52 54 56 199 259 262 23.24 2.90 19.12 27.68 3.83 24.16 R2 0.702 0.783 0.837 0.756 0.580 0.854 t値 18.93 21.57 25.70 59.10 42.65 84.50 サンプル数 52 51 53 258 255 259.00 13.03 4.50 10.86 12.08 4.34 10.25 R2 0.507 0.475 0.609 0.536 0.476 0.670 t値 9.81 8.66 11.76 12.17 14.54 22.61 サンプル数 35 42 52 65 133 201 155.68 8.19 70.46 114.32 9.41 62.56 R2 0.670 0.591 0.706 0.556 0.270 0.607 t値 16.75 17.12 19.18 28.90 29.31 44.66 サンプル数 56 57 53 262 264 264 資料:「東京都市圏パーソントリップ調査」(1998)と「東京都土地利用現況調査」(1996)により算出 文教・ 厚生 原単位(人/ha) 原単位(人/ha) 店舗 原単位(人/ha) 住宅 原単位(人/ha) 用途 事務所 ホテル 原単位(人/ha)
3.1人当たり床面積の変化 ところで,これらの交通負荷の原単位も,時代と無関 係に不変ということにはならない。統計データの制約(4)(4)(4)(4)(4) から前出と同じ方法で時代を遡る比較は困難だが,関連 する状況変化を見てみよう。 表−4は,事務所について,従業者1人当たり床面積 の近年の推移である。使用データは床面積について「課 税資料」(東京の土地,東京都都市計画局),従業者数につ いて「事業所・企業統計」(民営・形態別,総務省統計局), 空室率(5)(5)(5)(5)(5)について「ビル実態調査」(社団法人日本ビルヂ ング協会連合会)を用いている。これによれば,主要5 区の従業者1人当たり床面積は最近15年間に約1.5倍に 増大している。 図−1は,事務所・店舗(小売業)・住宅の主要3用途 について,最新の統計年次より概ね 15 年前を 100 とおい て,1人当たり床面積の推移(6)(6)(6)(6)(6)をみたものである。いず れの用途も顕著な拡大が認められるが,中でも事務所の 拡大が大きい。 こうしてみると,結局,事務所に関する床面積の量と 従業者の数の変化が,土地利用と交通負荷の関連では気 になるところである。そこで,東京都区部における事務 所床面積の量的推移と,事務所従業者数の量的推移を見 たのが図−2である。 東京都区部における事務所の床面積総量は,最近15年 間に実に倍増している。その量は,都心,副都心,その 他の地域のいずれでも伸びているが,従来都心の一部の 地域に集中していた事務所の立地は,全体として拡散し てきている。一方,事務所の従業者数をみると,80 年代 に増加したが,その後は横這いに近く,東京都区部にお ける事務所従業者総数は 15 年前に比べ 1.17 倍に止まっ ている。このことが,事務所の1人当たり床面積の拡大 に反映しているわけである。 表 - 4 事務所の従業者1人当たり床面積の推移 図−1 東京都区部における1人当たり床面積の推移 図−2 東京都区部における事務所床面積と事務所 従業者数の推移 4.交通量と手段分担率の変化 次に,こうした建物床とそこで行われる都市活動に起 因する交通はどのように変化してきたのだろうか。ここ では目的別に「通勤」と「業務」に着目して見てみよう。 図−3は,通勤目的と業務目的の交通について,特別 区部・主要5区それぞれの20年間の手段別交通量と従業 者数の推移を見たものである。 通勤交通については,総量の面では20年間にトリップ 数が徐々に増加した。これは,従業者数の増加にほぼ比 例している。手段分担率をみると,顕著な変化はなく,鉄 道の分担率(表−5)は主要5区で9割程度,区部全域で は7割程度で推移しており,やや高まってきた傾向が認 められる。通勤交通の鉄道依存率が非常に高水準なのは, 区部中心部の特徴である。 一方,業務目的の交通については,総量自体が一貫し て減少してきており,このことは従業者数が増加してき たことを考えると意外に感じられる。さらに注目しなけ ればならないのは,業務目的のうち自動車交通量の変化 である。自動車の分担率(表−5)がどんどん下がり続け, その結果トリップ数が大きく減少し,業務目的で生成す る自動車交通量は 20 年前に比べ6割程度になっている。 (千㎡、千人、%、㎡/人) 1986 1991 1996 2001 延べ床面積 40,272 54,121 73,316 81,060 従業者数 3,561 4,159 4,308 4,177 空室率 0.2% 0.2% 4.7% 3.2% 1人当たり床面積 11.3 13.0 16.2 18.8 指数 100 115 144 166 延べ床面積 29,601 38,101 47,630 52,026 従業者数 2,223 2,584 2,607 2,560 空室率 0.2% 0.2% 4.7% 2.7% 1人当たり床面積 13.3 14.7 17.4 19.8 指数 100 111 131 149 特 別 区 部 主 要 5 区
このように,業務人口が増加しながら,業務に起因す る自動車負荷は顕著に減少したわけである。このことは, 東京中心部における業務交通の特性が質的に変化してい ることを示していると考えられ,非常に興味深い。 5.都心・副都心地域に起因する交通の変化 この章では,東京の「主要5区」と呼ばれる地域(千 代田,中央,港の「都心3区」+新宿,渋谷の「副都心 2区」)に着目して,パーソントリップ調査における「計 画基本ゾーン」をベースにして,地域的な状況変化をみ ることにする。 前述したように,東京の土地利用と交通施設のバラン スを考える上では,主に事務所に起因する通勤交通を鉄 道という手段で対処できるかが大切な視点である。こう したことから,鉄道輸送力と事務所立地の関係を見てみ よう。 図−4の地図における棒グラフは,主要5区内のゾー ン別「鉄道駅密度」(7)(7)(7)(7)(7)の推移を示したものである。これ は,各ゾーンの鉄道のアクセシビリティ,すなわち整備 水準を示す指標と考えられる。また,ゾーンベースの色 分けは,事務所(官公庁を含む)のグロス床密度(8)(8)(8)(8)(8)を表 示している。 この図をみると,東京駅の周辺に位置するゾーン(内 幸町・霞ヶ関,京橋・日本橋,銀座,神田の各地区)にお いて鉄道駅が集中しており,鉄道アクセス水準が極めて 高く整備されている。次いで鉄道駅密度が高いのが,そ の周辺に位置するゾーン(永田町・飯田橋,日本橋本町, 大手町・丸の内,新橋・六本木の各地区)であり,事務所 床の集積もこれら都心部のゾーンに集中している様子が 認められる。また,駅密度の伸びは,新宿駅周辺(西新 宿・北新宿地区)が最大となっており,伸びの大きいゾー ンでは事務所床密度も大きい傾向が見られる。 次に,主要5区における昼間の自動車交通量の生成分 布を見てみよう。図−5の地図における棒グラフは,昼 間時間帯における自動車交通量の推移を,生成用途別に 示したもの(9)(9)(9)(9)(9)である。この図では,自動車交通量が全般 的に大きく減少してきたことが目に付くが,生成量の変 化は都心3区で減少幅が大きいのに対して,副都心2区 では減少の度合いが小さい。また,店舗に起因する自動 車交通は,事務所に比べて絶対量が少ないが,新宿駅周 辺,渋谷駅周辺,銀座などでは,事務所と同程度の交通 量を生成している。 以上のように,都心・副都心地域の状況は,事務所機 能が鉄道のアクセス水準と概ね相応するように分布して いる。また,図−6により,ゾーン別鉄道駅密度の変化 と従業者数の変化の関係を見ると,概ね相関が見られ, とりわけ副都心地区で大きな変化が発生しており,鉄道 整備の進展とあいまって業務機能の立地が拡大してきた ことが分かる。 ここで,都心・副都心地域に関連する交通混雑の変化 を確認しておこう。 鉄道に関しては,「鉄道駅密度」という指標に反映して いるように,新線開通により整備水準が高められてきた。 一方,この地域の従業者数は増えてきた(10)(10)(10)(10)(10)ので,通勤交 通自体は増加したはずである。そこで問題は混雑率の変 化であるが,表−6に例示するように,鉄道のピーク時 混雑率は年々緩和してきたことが確認できる。ただし, 混雑率の値そのものはなお高い水準にあると言ってよい だろう。 また,道路に関しては,自動車交通の生成量が大幅に 減少しているので,混雑緩和が進んでいると予想される。 表−6は,自動車の混雑時平均旅行速度の推移を,主要 5区内の国道において経年的にみたものである。道路混 雑の実測調査は計測日の固有事情の影響を受けやすく結 果の値が安定しにくいと言われるものの,99年と88年の 比較では4分の3の地点で平均旅行速度が向上している が,99年と78年の比較では改善した地点と悪化した地点 が同数程度認められ,混雑緩和が進んでいるとは言いが たい。 図−3 通勤・業務交通量と従業者数の推移 表−5 通勤・業務の主要交通手段分担率 主要5区 特別区部 78年 88年 98年 78年 88年 98年 通勤・鉄道 88% 90% 91% 69% 73% 74% 業務・自動車 46% 38% 33% 58% 51% 47% 資料:パーソントリップ調査
図−4 鉄道駅密度の推移と事務所床密度の関係 図−4 鉄道駅密度の推移と事務所床密度の関係 図−4 鉄道駅密度の推移と事務所床密度の関係 図−4 鉄道駅密度の推移と事務所床密度の関係 図−4 鉄道駅密度の推移と事務所床密度の関係((((主(主主主要主要要5要要5555区区区区区))))) 図−5 自動車交通量の生成用途別推移 図−5 自動車交通量の生成用途別推移 図−5 自動車交通量の生成用途別推移 図−5 自動車交通量の生成用途別推移 図−5 自動車交通量の生成用途別推移(((主((主主主主要要要5要要5555区区区区区)))))
6.まとめと留意点 以上をまとめると,次のようになる。 本稿では,用途別・手段別・時間帯別の交通原単位を 算出し,その量や特性が用途別に大きく異なる実態を示 した。原単位を見る上で,手段別・時間帯別に把握する ことは,混雑との関連がより直接的に理解できる。この 結果,事務所が平日朝ピーク時に鉄道に及ぼす交通負荷 の値は,床面積当たり原単位でみて突出して大きいこと, 平日昼間の自動車交通に及ぼす負荷は事務所よりも店舗 の方が大きいこと,住宅の床面積当たりの負荷は事務所 や店舗に比較すると顕著に小さいこと,などが示された。 交通負荷の原単位に関連して,近年,1人当たり床面 積がいずれの用途においても拡大してきており,床面積 当たりの負荷量は減少してきたと見られる。例えば,主 要5区における事務所の1人当たり床面積は,最近15年 間に約 1.5 倍に拡大した。このように,交通負荷の原単 位の値は,時代に応じて変化するものである。 一方,事務所の総床面積は,東京都区部において 20 年 間にほぼ倍増した。従業者数も増えたので通勤交通の総 量は増加したが,新線整備の効果もあり,鉄道のピーク 時混雑率は緩和してきた。事務所床の立地と鉄道輸送力 の関係は,主要5区における事務所のグロス床密度と鉄 道駅密度の関係をみると,概ね相応した分布となってい る。なお,ピーク時混雑率は,緩和したとはいえ,値そ のものは高い水準にある。 注目すべきは,昼間の自動車交通の変化である。事務 所の床面積,事業所の従業者数がともに増大したにもか かわらず,業務目的の交通は総量そのものが減少してい るとともに,なかんずく昼間の自動車交通量が大幅に減 少している。このことは,事務所が昼間生成する交通の 量的減少と,自動車利用の分担率の大幅な低下を示して おり,事務所がもたらす交通負荷が質的に変化している ことを示唆している。ただし,都心・副都心地域におけ る主要道路のピーク時平均旅行速度は,実測値から見て 十分に緩和されたとは言いがたい。 さて,冒頭に述べたとおり,本稿の目的は基礎的知見 の共有化のための情報提供にあるので,調査結果を踏ま えた筆者らの政策的見解はあえて述べずにまとめたいと 思う。ただし,ここで提示したデータを読者が解釈され るあたり,留意が必要と考える点にいくつか言及してお きたい。 表−6 ピーク時鉄道混雑率の推移 図−6 ゾーン別鉄道駅密度増と従業者数増減の関係 (主要5区) 混雑率 輸送力 通過人員 (%) (人) (人) 1978 上野→御徒町 227 33,600 76,230 1988 〃 270 33,600 90,700 1998 〃 237 36,960 87,530 2001 〃 230 36,960 85,120 1978 大井町→品川 245 33,600 82,300 1988 〃 267 33,600 89,780 1998 〃 234 33,600 78,700 2001 〃 224 33,600 75,260 1978 新小岩→錦糸町 264 17,270 45,670 1988 〃 255 24,310 62,000 1998 〃 183 34,740 63,490 2001 〃 178 35,340 62,900 1978 赤坂見附→虎ノ門 234 17,470 40,882 1988 〃 232 17,632 40,955 1998 赤坂見附→溜池山王 178 18,240 32,451 2001 〃 169 18,240 30,863 1978 新大塚→茗荷谷 215 22,990 49,449 1988 〃 218 22,990 50,197 1998 〃 169 23,731 40,170 2001 〃 158 23,731 37,575 1978 南砂町→東陽町 236 29,472 69,669 1988 門前仲町→茅場町 230 38,448 88,406 1998 〃 201 38,448 77,407 2001 木場→門前仲町 198 38,448 76,056 1978 町屋→西日暮里 232 25,632 59,555 1988 〃 216 38,448 83,153 1998 〃 212 38,448 81,470 2001 〃 191 41,296 78,781 1978 世田谷代田→下北沢 206 34,320 70,700 1988 〃 207 37,036 76,805 1998 〃 191 38,612 73,758 2001 〃 190 38,576 73,414 1978 祐天寺→中目黒 198 25,984 51,532 1988 〃 201 29,496 59,324 1998 〃 188 29,776 56,067 2001 〃 183 28,506 52,212 資料:都市交通年報(昭和55年版、平成2年版、平成13年版)、 数字でみる鉄道2002年版 路線名 年次 区間 山手線 京浜東北線 総武線 (快速) 銀座線 丸の内線 東西線 千代田線 小田急線 東急東横線 0 50 100 150 200 250 300 350 0 50 100 150 200 250 従業者数増減(01年/78年、指数) 駅密度増(03年/78年、指数) 千代田区 中央区 港区 新宿区 渋谷区 西新宿 永田町 日本橋 大手町 台場 赤坂 渋谷 新橋、 六本木 恵比寿 霞ヶ関 西早稲田 初台 ○「駅密度増」は1978年を100としたときの2003年の駅密度の指数を示す ○「従業者数増減」は1978年を100としたときの2001年の従業者数の指数を示す ※“晴海”は78年の駅数がゼロであるため表示していない。 資料:時刻表、平成10年度鉄道要覧、数字でみる鉄道2002、 事業所・企業統計
用途別の交通負荷の原単位は,表中に決定係数(R2)や t 値を付記したが,地域のとり方によって決定係数が十 分な値を示さない場合があるとともに,建築物の延べ床 面積のデータは絶対値としての信頼性の高さを求め難い など調査の限界もあり,原単位の絶対値そのものの正確 さには留意が必要(11)(11)(11)(11)(11)である。ただし,交通量及び延べ床 面積ともに各々ひとつの調査結果から作成していること から,用途相互間の比較においては一定の意味のある結 果が得られていると考えられる。 ただし,こうした原単位の値も,1人当たり床面積が 近年大きく拡大した事実や,業務交通の自動車利用の分 担率が大幅に低下した事実に示されるように,時代に応 じて変化するものであり,永久不変のものと考えるべき ではない。 また,これらの原単位を見て,例えば,容積率規制は 用途別に区分して,もっときめ細かく適用する方が合理 的ではないか,という考えも生じよう。実際に,いわゆ る用途別容積型地区計画や,機能更新型高度利用地区, 市街地住宅総合設計制度,都心の区域における特定街区 の運用など,区域や対象建築物を限定しながらも,用途 別に容積率を適用している例がすでにある。しかし,用 途別の容積率規制を一般的に用いるには,実効手段 (en-forcement) において,建築後の用途転用のコントロール がどこまで可能であるかにも考慮が必要であろう。 なお,近年,東京の中心部においては,事務所の業務 に関連する交通に関して,従業者数の増加にもかかわら ず交通の生成量が減少するとともに,自動車依存率が大 幅に減少しており,質的な変化が生じていることを指摘 したが,本稿ではその原因を解明するには至っておらず, 今後の課題である。 表−7 主要5区内の幹線国道における混雑状況の推移 補注 (1) 国土交通省関東地方整備局建政部において平成 14 年度に筆 者らが行った調査結果である。 (2) 地域区分の主要5区とは,千代田,中央,港の都心3区に, 新宿,渋谷の副都心2区を加えた地域とし,パーソントリップ調 査と土地利用現況調査の用途区分の対応関係は以下の表のとおり とした。 (3) 「朝ピーク時」は午前8時台のトリップ数,「昼間」は午前 10時台から午後4時台までの1時間あたりの平均トリップ数で, いずれも当該ゾーンでの発生交通の発時間,集中交通の着時間が その時間帯になされたものである。 (4) 東京都土地利用現況調査における延べ床面積の値は,東京都 都市計画局によれば調査年次によって算出方法に違いがあるの で,そのまま比較することは適当でない。 (5) 表4の空室率は、資料の制約により東京都の値(ただし2001 年主要5区はその区域の値)を用いている。 (6) 事務所は課税資料(事務所+銀行)と事業所・企業統計(事務 所・営業所)より空室率補正(ビル実態調査)を行い算出。小売業全 体と百貨店は商業統計,住宅は住宅・土地統計を用いて算出。 (7) ここでは,ゾーン内の鉄道駅(新幹線駅は除く)数をゾーン 面積で割った値を鉄道駅密度とした(単位:駅数/ km22222)。駅数は 路線ごとに数え,たとえば,営団地下鉄の大手町駅は5路線ある ので5駅とした。また,終端駅は 0.5 駅と数え,ゾーン境界付近 にある駅は,各ゾーンに按分した。 (8) 東京都土地利用現況調査(1996)による延べ床面積(事務所 +官公庁)をゾーン面積で除した値。 (9) パーソントリップ調査により作成。当該ゾーンにおいて 10 時台∼16時台に発生・集中した自動車利用トリップ数の1時間当 たり平均値。 (10) 主要5区の従業者数の推移は下表のとおり(全事業所,事 業所・企業統計より作成)。なお,都心3区の従業者数は近年減少 に転じている。 単位:千人 (11) 今回筆者らは東京都区部を 様々に地域区分して原単位の 回帰分析を行ったが,その調査結果から,事務所の値について は,鉄道朝ピーク時が 220トリップ/ha・時程度,自動車昼間時間 帯が 10 トリップ /ha・時程度で,概ね安定した結果が得られてい る。 参考文献 (1) 明石達生(2003),「事務所と商業系施設を区分した用途別容 積率型誘導ゾーニングに関する研究」,都市計画論文集 NO.38-1 (都市計画学会誌 242 号添付 CD-ROM), pp.25-33 路線 地点住所 1977 1988 1999 国道1号 千.丸の内1-6 11.9 8.8 9.3 国道1号 千.丸の内3-2 14.1 12.5 14.7 国道1号 千.霞ヶ関1-1 20.8 17.0 25.3 国道1号 千.霞ヶ関2-1 23.4 11.1 16.9 国道1号 港.芝 18.3 8.4 13.2 国道4号 中.日本橋室町 8.9 8.7 18.3 国道6号 中.日本橋本町 7.9 7.4 16.4 国道15号 中.銀座 16.2 6.9 19.4 国道15号 港.浜松町 17.4 21.8 18.4 国道15号 港.高輪 22.3 24.4 20.9 国道17号 千.鍛冶町 13.1 13.9 13.9 国道20号 千.永田町 17.3 11.4 10.9 国道20号 渋.代々木 26.7 10.4 16.1 国道20号 新.四谷 11.5 14.5 23.8 国道20号 渋.初台 26.7 16.0 28.9 国道246号 港.赤坂 26.4 16.1 22.7 国道246号 港.南青山 16.9 13.3 10.0 ※印: 1980年の調査データ 資料:道路交通センサス 平日混雑時 平均旅行速度 調査項目・年次 交通量調査地点 ※ 用途区分 パーソントリップ調査 土地利用現況調査 事務所 事務所・官公庁 事務所,官公庁 店舗 スーパー・デパート,その他 商業 専用商業,住商併用 x1/3 住宅 住宅・寮 独立住宅,集合住宅,住 商併用x2/3,住居併用 工場x1/3 ホテル 宿泊施設・ホテル 宿泊・遊興 文教・厚生 文教・厚生 教育文化,厚生医療,ス ポーツ・興行 1978 1981 1986 1991 1996 2001 主要5区 2821 2971 3205 3593 3574 3493 都心3区 2123 2201 2321 2565 2549 2450 副都心2区 698 770 884 1028 1025 1043