日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-12 320
-日本語版Stigmatizing Attitudes-Believabilityの作成
○當房 知佳1)、北原 万莉1)、齋藤 順一1,2)、高橋 まどか1)、井上 和哉1)、熊野 宏昭3) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )日本学術振興会特別研究員、 3 )早稲田大学人間科学学術院 【目 的】 メンタルヘルス・スティグマとは, 精神疾患患者に 対する偏見や差別であり,「精神疾患を患っている」 とラベルづけすることによって個人を概念化し人間性 を 奪 う , 多 面 的 な プ ロ セ ス で あ る (M a s u d a & Latzman, 2011)。ラベルづけされた人々は区別され, “私達”と“彼ら”という線引きが行われる (Link & Phelan, 2001)。 近 年, メ ン タ ル ヘ ル ス・ ス テ ィ グ マ に 対 す る Acceptance and Commitment Therapy (ACT) の適用が 広がりつつあり, その介入効果は一貫して認められて いる (e.g., Hayes et al., 2004)。一方で, 日本に おいては, メンタルヘルス・スティグマに対するACT の適用可能性はいまだ検討されておらず, その介入効 果を測定する主観指標としての質問紙尺度の作成すら 行われていない。 本研究では, 精神疾患を持つ人々に関するネガ ティブな思考に対する確信度を測定し, ACT の介入効 果 の 測 定 に 十 分 な 感 度 を 有 す る, Stigmatizing Attitudes-Believability (SAB; Masuda & Latzman, 2011; Masuda et al., 2009) の日本語版を作成する。 【方 法】 調査対象者 首都圏の 4 年制私立大学の大学生および 大学院生266名 (男性136名, 女性121名, 無記入 9 名, 平均年齢20.55±1.47歳) を分析対象とした。な お,本調査は早稲田大学人を対象とする研究に関する 倫理審査委員会において倫理審査不要の判断がなされ た上で実施した。 調査材料 ( a ) 日本語版SAB (本研究で作成): 原版 のSABは Masuda et al. (2009) が作成し, Masuda et al. (2011) により十分な信頼性と妥当性が示されて いる。原版のSABは 2 因子で構成されている (第 1 因 子:「Exclusion」, 第 2 因子:「Course/Origin」)。 SABは,「あなたに今, 以下のような考えが生じている ことを想像してください。それぞれの考えは, どの程 度妥当で, 事実を表していると思いますか」とたず ね, 精神疾患を持つ人々へのネガティブな思考を表す 8 項目に対する確信度を「 1 : まったくそう思わな い」「 7 : とてもそう思う」で回答を求める ( 8 項目 7 件法)。得点が高いほど, 精神疾患を持つ人々に対 するネガティブな思考 (スティグマに基づく思考) の 確信度が高いことを示す。収束的妥当性を検討する目 的 で, ( b ) Linkス テ ィ グ マ 尺 度 (PDD: 下 津 他, 2006; 蓮井他, 1999): 精神疾患を持つ人々に対する ス テ ィ グ マ , ( c ) A c c e p t a n c e a n d A c t i o n Questionnaire-II (AAQ-II: 嶋他, 2013): 体験の回 避, ( d ) Three Senses of Selves Questionnaire (TSSQ: 柳原他, 2015): 概念化された自己, ( e ) 精 神健康調査票12項目版 (GHQ-12: 中川他, 1996): 精 神 的 健 康 度 , ( f ) C o g n i t i v e F u s i o n Questionnaire-13 (CFQ-13: 嶋他, 2016): 認知的 フュージョン, ( g ) 主観的幸福感尺度 (SWBS: 伊藤 他, 2003): 主観的幸福感を測定した。 項目作成 翻訳にあたり, 原版SABの作成者に電子 メールで連絡し, 尺度の翻訳許可を得た。はじめに, 臨床心理学を専門とし日本の大学院に所属する, 英語 が堪能な研究者 2 名によって, 独立して順翻訳を 行った。著者は, 二つの翻訳版を比較, 調和させ, 最 終的に一つの翻訳版を作成した。その後, 臨床心理学 を専門とする, 英語が堪能な日本人の臨床心理士 1 名 によって, 英語へ逆翻訳を行った。その際には, 逆翻 訳の前あるいは途中で尺度の原版に触れることのない よう留意した。逆翻訳された尺度は, 原版の作成者に 送付し, 項目内容に齟齬がないことの確認を得た上 で, 日本語版SABの項目を完成させた。 分析方法 スクリープロットの形状から 2 因子構造で あると仮定し, 最尤法・プロマックス回転の探索的因 子分析を行った。さらに, 信頼性を検討するために Cronbachのα係数を算出し, 内的整合性を検討した。 また, 収束的妥当性を検討するために, 並行検査との 間 でPearsonの 積 率 相 関 分 析 を 行 っ た。 解 析 に は, SPSS Statistics version 24.0, Amos version 24.0 を使用した。 【結 果】 探索的因子分析を行った結果, 2因子が抽出された (第 1 因子:「異質性」, 第 2 因子:「改善困難性」)。 2 因子構造を仮定した確証的因子分析を行なった結 果, 概ね許容される水準を満たすものの, やや低い適 合度を示した (GFI = .938, AGFI = .883, TLI = .892, CFI = .927, RMSEA = .099, SRMR = .070) (Figure 1)。Cronbachのα係数を算出した結果, α= .790と良好な値を示した。相関分析を行った結果, 日 本語版SABの合計は, PDDと有意な弱い正の相関 (r = .315, p <.01), AAQ-IIと有意傾向なごく弱い正の相日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-12 321 -関 (r = .109, p <.10) を示した。また, 第 2 因子の 「改善困難性」は, SWBSと有意なごく弱い負の相関 (r = -.133, p <.05) を示した (Table 1)。 【考 察】 探索的因子分析の結果, 日本語版SABは 2 因子構造 で解釈可能であることが明らかになった。原版のSAB とはそれぞれの因子を構成する項目が異なることか ら, 原版とは異なる 2 因子が抽出されたと考えられ る。また, モデルの適合度は概ね許容される水準を満 たした。このような結果が示された理由として, 原版 においても, 一部の項目において多重負荷と捉えうる 因子構造を示していることから (Masuda et al., 2011), SABの項目内容が持つ特有の性質が, 因子構造 およびモデルの特定を困難にしている可能性が想定さ れる。また, SABは全 8 項目, 第 2 因子は 2 項目と限 られた項目数で構成されており, Cronbachのα係数は 良好な値を示していることから, 今後SABを用いる際 には, 因子ごとの得点ではなく, 全 8 項目の合計得点 を用いることが望ましいと考えられる。収束的妥当性 に関しては, 原版よりも並行検査と弱い相関が示され たことから, さらなる検討が必要である。 以上の結果より, 日本語版SABが一部の信頼性およ び妥当性を有していることが確認された。日本語版 SABの信頼性および妥当性を十分に示すためには, 今 後の研究において, 臨床経験を有している者といっ た, さまざまな精神疾患を持つ人々との関わりがある 母集団に対して日本語版SABを使用し, 回答の分布に 関する検討を行う必要がある。また, 原版のSABは, ACTによる介入効果の測定に十分な感度を有すること が示されていることから, 本尺度においても, 同様に 介入効果への感度を有するかどうかの検討を行うこと が求められる。 【主要引用文献】
Hayes, S. C., Bissett, R., Roget, N., Padilla, M . , K o h l e n b e r g , B . S . , F i s h e r , G . , . . . Niccolls, R. (2004). The impact of acceptance and commitment training and multicultural training on the stigmatizing attitudes and p r o f e s s i o n a l b u r n o u t o f s u b s t a n c e a b u s e counselors. Behavior Therapy, 35 ( 4 ), 821-835. Masuda, A., & Latzman, R. D. (2011). Examining associations among factor-analytically derived components of mental health stigma, distress, and psychological flexibility. Personality and Individual Differences, 51 ( 4 ), 435-438.