ライフステージにおけるメンズヘルス
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(2) 694. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. TD 症例におけるテストステロン補充療法(Testosterone. 者が関与すると思われる気力低下・易疲労感を主訴とする症例. replacement therapy: 以 下,TRT) の Mets,T2DM へ の 効. も多い。これらの特徴は,我が国の Men’s Health の問題点を. 果は,依然として結論はでていない。Meta-analysis の結果で. 現しているものと思われる。つまり,①うつ病などの頻度の多. は,TRT は臨床的には脂質分画および血糖値のごくわずかな. い疾患がプライマリーケアの段階で十分なスクリーニングがな. 変化を生ずるにとどまっている。TRT は,耐糖能は改善しな. されていないことがある。我々の外来には未診断の大うつ病が. いもののインシュリン感受性や血糖値の改善が TD の T2DM. 20%程度含まれている。②多くの不定愁訴が,単に“齢のせい”. や Mets 患者において報告されている。肥満症例における体重. とされ,これまで十分な医学的着目・原因の研究がなされてい. 減少や運動などのライフスタイルの改善は血糖値の改善や糖尿. なかったことである。その結果として,自分の主訴に対して,. 病の予防のみならず,T 値の上昇も報告されており,Mets の. どこの科に受診してよいのかがわからず,また受診しても十分. 改善に有用であることが示唆される 6)。. な対応をしてもらえないなどの現状がある。. 2.骨・筋肉との関連. このような状況を踏まえ,我々は以下のような方針で診断治. 高齢者の身体機能を考える場合に,筋肉量および骨(粗鬆症). 療を行っている。①うつ病を含む症例に対する適切な鑑別診断. の問題は重要である。TD は筋肉量と脂肪量およびその分布に. を行う。②種々の不定愁訴の病因として,悪性疾患をはじめと. 有意に影響する 2)3)。特に FT は,年齢と腹腔脂肪量と逆相関し,. する基礎疾患の十分な検索を行う。③これらの鑑別診断のうえ. 低 FT は,筋肉量の低下および筋力の低下への関与が報告され. に,T 値が低く症状が合致する場合に LOH 症候の診断を行う。. ている。また TRT の結果からも,高齢者において,TD は脂. ④多くの症例では加齢・ストレス・生活習慣病の増加・男性ホ. 肪量の増加および筋肉量の低下に関与していると考えられる。. ルモンの低下など多要因の関与が推測される。そのため男性ホ. 骨代謝に関しても,TD は重要な影響がある。相反する報告. ルモン補充や phosphodiesterase type 5 阻害薬を用いた「心と. もあるものの,骨粗鬆症または骨塩量の低下している高齢者. 体のエネルギー」をあげる治療を行う。それとともに食事・睡. では TD を有する割合が,正常の bone marrow density(以. 眠・運動の生活習慣改善の指導も試み総合的男性力アップを試. 下,BMD)の高齢者と比較すると 2 倍高い。しかしながら低. みている。. Estrogen(以下,E)の症例の率がより高くなっており,骨粗 鬆症が女性で約 3 倍位多いこと,男性と女性で骨菲薄化の様式. まとめ:男性更年期外来とテストステロンの意義. が異なることなどからも,より E が大きく骨代謝に影響する. このようにテストステロンは,多様な生理作用を有し,その適. ことが推測されている。中高年男性の骨に対する TRT のメタ. 切な補充療法により,男性の各ライフステージの中で,重要な役. アナリシスでは,TRT は腰椎の BMD をプラセボに比較し有. 割を果たすことができるものと考えられる。特に高齢者において. 意に改善したが,大腿骨頭の BMD では有意な増加を認められ. は,骨・筋肉への作用は,サルコぺニア予防へのひとつの有力な. ない結果が示されている 7)8)。TRT の 70%の骨への効果は T. 介入方法と思われる。また直接的なテストステロンの関与は明ら. から変換された E2 の効果であるとの報告もある。 このように. かではないものの,40 ~ 50 代の抑うつ症状の克服は中年期にお. TD は骨粗鬆症を招き,骨折のリスクを増加させるが,E の低. ける男性のライフステージにおける重要な課題である。. 下が大きく関与していることが推測される。TRT により腰椎 での BMD の増加が報告されているが,骨折のリスク軽減への 効果は確立されていない。 このような T の多様な影響が総合された形で,TD が高齢 者におけるサルコぺニア,虚弱(フレイル)の原因となり,最 終的に生命予後に関与することが推測されている。一方で,こ れらの TD の生理機能に対する影響や各作用部位での T の作 用機序はいまだ十分なエビデンスの集積や解明がなされておら ず,多くの課題が残されているのが現状である。超高齢化社 会を迎えた現在,これらの問題の解明とともに LOH 症候群, TDS に対する TRT の効果を確立していくことは超高齢化社会 を乗り越えていくための重要な課題と思われる。. 男性更年期外来を受診する患者の実際 当院では男性更年期外来を 2002(平成 14)年に開設し,多 くの中高年男性を診断・治療してきた。受診患者の主訴には, 明らかな年代的な特徴が認められる 9)。第一は,抑うつ症状を 主訴とする精神症状が 40 ~ 50 歳代に多く認められることであ る。第二の特徴は,女性更年期に特有の症状と考えられてい た Hot flash や冷え,そしてめまい・耳鳴り・しびれなどの身 体的症状を主訴とする症例が 60 ~ 70 歳代を中心に加齢ととも に多くなることである。またこれらの精神的・身体的症状の両. 文 献 1) 「LOH 症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会:加齢男性 性腺機能低下症候群(LOH 症候群)診療の手引き.日本泌尿器科 学会 / 日本 Men’s Health 医学会「LOH 症候群診療ガイドライン」 検討ワーキング委員会(編),じほう,東京,2007,pp. 2–28. 2) Buvat J, Maggi M, et al.: Endocrine aspects of male sexual dysfunctions. J Sex Med. 2010; 7: 1627–1656. 3) Buvat J, Maggi M, et al.: Testosterone deficiency in men: systematic review and standard operating procedures for diagnosis and treatment. J Sex Med. 2013; 10: 245–284. 4) Corona G, Mannucci E, et al.: Hypogonadism, ED, metabolic syndrome and obesity: a pathological link supporting cardiovascular diseases. Int J Androl. 2009; 32: 587–598. 5) Traish AM, Saad F, et al.: The dark side of testosterone deficiency: II. Type 2 diabetes and insulin resistance. J Androl. 2009; 30: 23–32. 6) Laaksonen DE, Niskanen L, et al.: The metabolic syndrome and smoking in relation to hypogonadism in middle-aged men: a prospective cohort study. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90: 712–719. 7) Isidori AM, Giannetta E, et al.: Effects of testosterone on body composition, bone metabolism and serum lipid profile in middleaged men: a meta-analysis. Clin Endocrinol (Oxf). 2005; 63: 280–293. 8) Tracz MJ, Sideras K, et al.: Testosterone use in men and its effects on bone health. A systematic review and meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. J Clin Endocrinol Metab. 2006; 91: 2011–2016. 9) Sato Y, Tanda H, et al.: Prevalence of major depressive disorder in self-referred patients in a late onset hypogonadism clinic. Int J Impot Res. 2007; 19: 407–410..
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