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ライフステージにおけるメンズヘルス

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 693 ~ 694 頁(2015 ライフステージにおけるメンズヘルス 年). 693. 大会シンポジウム 1. ライフステージにおけるメンズヘルス* ─中高齢者における健康と QOL ─ 佐 藤 嘉 一**. はじめに. 表 1 テストステロンの生理作用 生理作用. 超高齢化社会を迎えた我が国は,2013(平成 25)年におい. 減少による症状. て日本女性の平均寿命は世界 1 位,男性は世界第 5 位の世界の. 骨密度の増加. 骨粗鬆症. 長寿国である。しかしながら平均寿命と健康寿命の差が男女と. 筋肉・筋力の増加. 肥満. も約 10 歳あり,この差を少なくしていくことは,今後の重要. 体内脂肪の減少. 糖尿病. な課題である。また性差医学の観点からは,男性が女性と比較. 代謝(脂質・糖). 動脈硬化. し短命である理由を研究し,改善していくことが求められる。. 造血作用. 貧血. 男性が女性より短命である理由としてライフスタイル,合併疾. 精神作用・認知機能. うつ. 患,社会的行動の性差などが示されている。そして最近,性差. 性機能の向上. ED. の原因ともいえる,性ホルモンの影響の解明も進んできてい. 精子形成. 乏精子症・男性不妊. る。男性においてはテストステロン(以下,T)が加齢に伴い 低下し,種々の生理機能や疾患と関連すること,そして生命 予後にも影響することが明らかになってきた。この T 低下は,. 増加のみならず,脂肪が関与したなんらかの機序で LH の分泌. late onset hypogonadism(以下,LOH)症候群と呼ばれてい. の低下をもたらすことが示されている。. る. 1). 。そこで本稿では各ライフステージにおけるメンズヘルス. の問題をテストステロン低下と関連づけながら,概説する。. T の働きと加齢に伴う T 値の変化 男性ホルモンは一般に 20 歳代でピークをむかえ,その後徐々 に低下し,50 歳以降年に 1%ずつ低下する 2)3)。欧米のデータ ではあるが 60 歳以上では約 20%が,低 T 状態と推測されて いる。しかしその低下には個人差も大きい。T は血液中では,. T は, 筋 肉・ 骨・ 脳, 生 殖 器 な ど ほ ぼ 全 身 の 臓 器 に 作 用 し,多彩な生理作用を有する(表 1)。そして加齢に伴う T の 低下によりこれらの機能に変化が生ずることが推測され,こ れらの症状群が前述した LOH 症候群,テストステロン低下 (Testosterone Deficiency:以下,TD)Syndrome と呼ばれて –3). いる 1. 。. T 値の低下の生理機能への影響. sex hormone binding globlin(以下,SHBG)とアルブミンの. TD は,性機能低下のみならず,体脂肪の増加によるメタボ. 血漿タンパク質と結合している。遊離型 T(Free T:以下,. リック症候群(以下,Mets)およびその合併症,筋肉量の低. FT)およびアルブミンに結合している T は比較的容易に分離. 下,骨塩量の低下などによる運動機能の低下,転倒・骨折の増. し,遊離型となり,FT とともに細胞内に直接移行できる。そ. 加のリスクが知られている。また精神面においては,TD は認. のため FT(Total T:TT の 1 ~ 2%)およびアルブミン結合. 知機能・記憶・抑うつ傾向と関連することが報告され,全般的. T(TT の 25 ~ 65%)は,bioavailable T(以下,BT)と呼ば. QOL,well being への関与も知られている。. れている。LOH 症候群(加齢による)における T 値の低下の. 1.Mets,糖尿病との関連. 要因として,下垂体腫瘍,外傷,薬剤などの明確な原因がない. Mets は,多くの生活習慣病と関連する重要な疾患概念であ. 場合一般に,下垂体-性腺機能の混合性の低下が考えられてい. る。多くの報告により,T と Mets 内臓脂肪,インシュリン抵. 2)3). 。さらに種々の合併症の増加も睾丸機能の低下等を通し. 抗性,2 型糖尿病(type2DM:以下,T2DM)との関連が明. T 値低下に影響を与える。加齢に伴い SHBG が増加するため. らかになっている。T 値の低下は T2DM および Mets 発現の. FT(BT)の減少が生ずる。また肥満は,低 T 値の重要な要因. 有意なリスクファクターとなっている. る. となる. *. 2). 。脂肪組織の増加は,前述した T から E への転換の. Health and QOL in Middle Age and Elderly Men 三樹会病院 院長 (〒 003–0002 北海道札幌市白石区東札幌 2 条 3–6–10) Yoshikazu Sato, MD, PhD: Sanjukai Hospital キーワード:テストステロン,メタボリック症候群,骨粗鬆症. **. 4)5). 。また逆に,T2DM. と Mets を有することが,TD の進行を示唆する要因となって いる。また内臓脂肪等の代謝機能は SHBG へも影響を与える。 そのため Mets,T2DM 等の患者では TD の状況を把握し,逆 に TD 症例においては,Mets,T2DM の検査が望ましいと考 えられる 4)5)。.

(2) 694. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. TD 症例におけるテストステロン補充療法(Testosterone. 者が関与すると思われる気力低下・易疲労感を主訴とする症例. replacement therapy: 以 下,TRT) の Mets,T2DM へ の 効. も多い。これらの特徴は,我が国の Men’s Health の問題点を. 果は,依然として結論はでていない。Meta-analysis の結果で. 現しているものと思われる。つまり,①うつ病などの頻度の多. は,TRT は臨床的には脂質分画および血糖値のごくわずかな. い疾患がプライマリーケアの段階で十分なスクリーニングがな. 変化を生ずるにとどまっている。TRT は,耐糖能は改善しな. されていないことがある。我々の外来には未診断の大うつ病が. いもののインシュリン感受性や血糖値の改善が TD の T2DM. 20%程度含まれている。②多くの不定愁訴が,単に“齢のせい”. や Mets 患者において報告されている。肥満症例における体重. とされ,これまで十分な医学的着目・原因の研究がなされてい. 減少や運動などのライフスタイルの改善は血糖値の改善や糖尿. なかったことである。その結果として,自分の主訴に対して,. 病の予防のみならず,T 値の上昇も報告されており,Mets の. どこの科に受診してよいのかがわからず,また受診しても十分. 改善に有用であることが示唆される 6)。. な対応をしてもらえないなどの現状がある。. 2.骨・筋肉との関連. このような状況を踏まえ,我々は以下のような方針で診断治. 高齢者の身体機能を考える場合に,筋肉量および骨(粗鬆症). 療を行っている。①うつ病を含む症例に対する適切な鑑別診断. の問題は重要である。TD は筋肉量と脂肪量およびその分布に. を行う。②種々の不定愁訴の病因として,悪性疾患をはじめと. 有意に影響する 2)3)。特に FT は,年齢と腹腔脂肪量と逆相関し,. する基礎疾患の十分な検索を行う。③これらの鑑別診断のうえ. 低 FT は,筋肉量の低下および筋力の低下への関与が報告され. に,T 値が低く症状が合致する場合に LOH 症候の診断を行う。. ている。また TRT の結果からも,高齢者において,TD は脂. ④多くの症例では加齢・ストレス・生活習慣病の増加・男性ホ. 肪量の増加および筋肉量の低下に関与していると考えられる。. ルモンの低下など多要因の関与が推測される。そのため男性ホ. 骨代謝に関しても,TD は重要な影響がある。相反する報告. ルモン補充や phosphodiesterase type 5 阻害薬を用いた「心と. もあるものの,骨粗鬆症または骨塩量の低下している高齢者. 体のエネルギー」をあげる治療を行う。それとともに食事・睡. では TD を有する割合が,正常の bone marrow density(以. 眠・運動の生活習慣改善の指導も試み総合的男性力アップを試. 下,BMD)の高齢者と比較すると 2 倍高い。しかしながら低. みている。. Estrogen(以下,E)の症例の率がより高くなっており,骨粗 鬆症が女性で約 3 倍位多いこと,男性と女性で骨菲薄化の様式. まとめ:男性更年期外来とテストステロンの意義. が異なることなどからも,より E が大きく骨代謝に影響する. このようにテストステロンは,多様な生理作用を有し,その適. ことが推測されている。中高年男性の骨に対する TRT のメタ. 切な補充療法により,男性の各ライフステージの中で,重要な役. アナリシスでは,TRT は腰椎の BMD をプラセボに比較し有. 割を果たすことができるものと考えられる。特に高齢者において. 意に改善したが,大腿骨頭の BMD では有意な増加を認められ. は,骨・筋肉への作用は,サルコぺニア予防へのひとつの有力な. ない結果が示されている 7)8)。TRT の 70%の骨への効果は T. 介入方法と思われる。また直接的なテストステロンの関与は明ら. から変換された E2 の効果であるとの報告もある。 このように. かではないものの,40 ~ 50 代の抑うつ症状の克服は中年期にお. TD は骨粗鬆症を招き,骨折のリスクを増加させるが,E の低. ける男性のライフステージにおける重要な課題である。. 下が大きく関与していることが推測される。TRT により腰椎 での BMD の増加が報告されているが,骨折のリスク軽減への 効果は確立されていない。 このような T の多様な影響が総合された形で,TD が高齢 者におけるサルコぺニア,虚弱(フレイル)の原因となり,最 終的に生命予後に関与することが推測されている。一方で,こ れらの TD の生理機能に対する影響や各作用部位での T の作 用機序はいまだ十分なエビデンスの集積や解明がなされておら ず,多くの課題が残されているのが現状である。超高齢化社 会を迎えた現在,これらの問題の解明とともに LOH 症候群, TDS に対する TRT の効果を確立していくことは超高齢化社会 を乗り越えていくための重要な課題と思われる。. 男性更年期外来を受診する患者の実際 当院では男性更年期外来を 2002(平成 14)年に開設し,多 くの中高年男性を診断・治療してきた。受診患者の主訴には, 明らかな年代的な特徴が認められる 9)。第一は,抑うつ症状を 主訴とする精神症状が 40 ~ 50 歳代に多く認められることであ る。第二の特徴は,女性更年期に特有の症状と考えられてい た Hot flash や冷え,そしてめまい・耳鳴り・しびれなどの身 体的症状を主訴とする症例が 60 ~ 70 歳代を中心に加齢ととも に多くなることである。またこれらの精神的・身体的症状の両. 文 献 1) 「LOH 症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会:加齢男性 性腺機能低下症候群(LOH 症候群)診療の手引き.日本泌尿器科 学会 / 日本 Men’s Health 医学会「LOH 症候群診療ガイドライン」 検討ワーキング委員会(編),じほう,東京,2007,pp. 2–28. 2) Buvat J, Maggi M, et al.: Endocrine aspects of male sexual dysfunctions. J Sex Med. 2010; 7: 1627–1656. 3) Buvat J, Maggi M, et al.: Testosterone deficiency in men: systematic review and standard operating procedures for diagnosis and treatment. J Sex Med. 2013; 10: 245–284. 4) Corona G, Mannucci E, et al.: Hypogonadism, ED, metabolic syndrome and obesity: a pathological link supporting cardiovascular diseases. Int J Androl. 2009; 32: 587–598. 5) Traish AM, Saad F, et al.: The dark side of testosterone deficiency: II. Type 2 diabetes and insulin resistance. J Androl. 2009; 30: 23–32. 6) Laaksonen DE, Niskanen L, et al.: The metabolic syndrome and smoking in relation to hypogonadism in middle-aged men: a prospective cohort study. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90: 712–719. 7) Isidori AM, Giannetta E, et al.: Effects of testosterone on body composition, bone metabolism and serum lipid profile in middleaged men: a meta-analysis. Clin Endocrinol (Oxf). 2005; 63: 280–293. 8) Tracz MJ, Sideras K, et al.: Testosterone use in men and its effects on bone health. A systematic review and meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. J Clin Endocrinol Metab. 2006; 91: 2011–2016. 9) Sato Y, Tanda H, et al.: Prevalence of major depressive disorder in self-referred patients in a late onset hypogonadism clinic. Int J Impot Res. 2007; 19: 407–410..

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参照

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