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理学療法評価のピットフォール

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Academic year: 2021

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ミスリードしない実践研究  理学療法評価の対象は広い。基礎研究における骨や細胞,臨 床における動作や活動,リハビリテーション全般に関わる生活 の満足感や社会活動など,患者や利用者(ヒト)が社会で生活 するあらゆることが評価対象となる。そのため理学療法士が扱 う情報は,顕微鏡で観察できるか否かという細かい量的なもの から,数値化しにくい質的なものまでを論理的思考による科学 的検証の材料に用いている。特に臨床現場では,前者の類いを 基礎知識として最大限利用し,角度や力,長さといったヒトの 構造や機能から数値を取りだし,動作や活動,満足感など量 的には捉えにくいものを可能な限り数値化できるように工夫 しながら比較材料としている。動作といっても,静的な寝た 状態からはじまり,立ち上がる,歩くといった一般的なもの のみでなく,走る,投げる,飛び上がるといったさらに客観 的に捉えにくいものも対象とする。いずれにしても理学療法 は,評価したふたつ以上の結果(基準値も含む)を比較対象と し,その違いを変化として検出し,最終的に理学療法の効果 であるか否かを考察する。理学療法の価値はこの比較,評価 結果の分析にかかっているといってもいい過ぎではない。そ し て,International Classifi cation Impairment, Disability and Handicap(ICIDH) や Nagi model と い た 障 害 分 類 の 利 用 に よ っ て 理 学 療 法 の 論 理 的 思 考 過 程 が 発 展 し,International Classifi cation of Function(ICF)では障害分類以上に細部まで 問題を整理している。  さて,臨床において研究を行っている理学療法士は,実践研 究者(Scientist Practitioner)として臨床結果の客観化と再現 性のある測定方法・改善方法などを報告し,それを吟味する役 割をもっている。臨床現場で正確にデータを取ることは本当に 難しい。今日の理学療法では非常に多くの検査・測定方法や臨 床評価指標が使用されている,これは理学療法を発展させよう とした先人達が,おもに医学や心理学等の熟成した領域で効果 が認められているものを上手に取り入れてきた結果であり,ひ とつの潮流といえるだろう。日本は 10 万人にもおよぶ免許保 有者を抱え,世界でも有数の理学療法大国となった。これまで は外国の評価方法を国内で使えるように翻訳して臨床に取り入 れてきたが,これからは日本がユーザーの中心となる可能性も 高い。先に述べた潮流をそろそろ軌道修正し,理学療法士によ り世界基準の理学療法について検討する時期にきているのかも しれない。しかし臨床現場で対象者を評価するには様々な壁が ある。評価者の問題のみならず対象者の問題,データの問題, そして治療の現場の環境や諸事情など,多岐にわたる。臨床現 場を実践研究の最前線として考えると,理学療法評価の蓄積に ついて,今以上に議論しなければならないだろう。 臨床データ蓄積  臨床における研究には様々な角度のものがあり,なかでも理 学療法において重要な研究の 1 領域として,評価精度の向上の ための研究がある。この研究は,大きな母集団をもとにした目 標や課題の設定,どの程度まで回復するかという予後推測な ど,対象者に正確に伝えたうえで納得づくの理学療法を行うた めに重要な価値をもつ。評価の精度向上は,理学療法の価値を 高める意味で常に意識しておかなければならない。それは,「科 学的根拠に基づいた医療」と「インフォームドコンセント」に つながり,理学療法においてまだまだ足りない点,欠けている 点といってもよいからである。一定の母集団をもつデータベー スから対象者のそのときの状況を客観的に説明し,積み重ねた データを元にした回復への期待度と努力によって変動する幅 を,患者に説明しなければならない。“納得づく”とは,ここ からはじまる。  運動療法は,薬物療法や食事療法と並んで生活習慣病におけ る重要な治療に位置づけられている。しかし,製薬会社や食品 会社が新薬や製品の研究開発をするのに対して,運動療法につ いての患者のデータを蓄積し効果検証できる会社はなく,臨床 現場の理学療法士がもっとも適した存在ということになる。理 学療法は,理学療法士によるデータの蓄積がなければ,いわゆ る一般的な健康体操や運動,レクリエーション活動との差別化 は難しい。認定理学療法士や専門理学療法士という肩書きが意 味あるものになるためにも,このデータ蓄積に関する精度を高 めることが重要であると考える。  慈恵医大の場合,2007 年から脳卒中や脊髄損傷など依頼主要 8 疾患に関する検討をはじめている。最終的に附属する 4 つの 病院(附属第三病院,附属病院,葛飾医療センター,附属柏病 院)の理学療法対象疾患の共有性を考慮し,脳卒中,変形性関

理学療法評価のピットフォール

中 山 恭 秀

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基礎理学療法研究部会

Pit of the Physical Therapy Evaluation

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東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科 (〒 201‒8601 東京都狛江市和泉本町 4‒11‒1)

Yasuhide Nakayama, PT, PhD, manager (chief): Department of Rehabiritation Medicine, Daisan Hospital, The Jikei University School of Medicine

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節症(以下,THA ならびに TKA 症例)にしぼった形で,エ ビデンスグレードに沿ってどの評価を採用するか検証してい る。それぞれ,詳細な定義や検査測定方法を確認し,信頼性等 の検証を含めた検討作業が求められるため,安定した蓄積が進 むにはどうしても時間がかかることになる。現在 THA で 800 症例を超え,他の疾患においてもデータの蓄積が進んでいる。 附属第三病院ではこれ以外に,2009(平成 21)年から地域を意 識した疾患として,高齢者の転倒転落で理学療法が欠かせない 大腿骨頸部骨折,投薬管理調整での入退院が必要となるパーキ ンソン病,算定項目としても設定された廃用症候群の 3 つを選 び,評価検討とデータ蓄積を進めている。細かい評価方法の吟 味をし,公の場でディスカッションしながらより大きな母集団 をもとにいかなる患者像でも抽出できるように,と考え進めて いる。  このような活動を通して気づかされることは,推奨されてい る検査・測定方法であるにもかかわらず,測定を行ううえでの 問題を残しているものが少なくないということである。問題点 を放置してデータ蓄積を進めると,治療効果を検証する場面で 矛盾が生じる。論理的思考によって問題点を選出し,プログラ ムに妥当性をもたせている理学療法において,これは大きな問 題である。 理学療法評価のピットフォール  臨床で共通した評価となる大きな要素は臨床的有用性,いわ ゆる利便性や効率のよさがある。エビデンスレベルや信頼性等 も重要であるが,時間がかかるものや患者による測定の限界が あるものは浸透せず,より簡便で合理的な方法には劣るだろ う。できるだけ簡便であること,方法を記憶していられること など,一般化するためにどの程度工夫して取りこみやすくする かということも重要である。もちろん信頼性も伴っていなけれ ばならない。  本稿では,臨床において利用頻度の高い理学療法評価のう ち,おもに関節可動域とそれを要素として含んでいる検査・ 測定(ダニエルの徒手筋力検査法,modifi ed Ashworth scale, Functional Reach)について,臨床における評価の落とし穴に ついて例を挙げて述べる。 1.関節可動域測定  我が国では,米国整形外科学会が発表したものを参考に日本 整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が作成・発表し た「関節可動域表示ならびに測定法」1)が使われている。すべ ての関節運動は,「ニュートラル・ゼロ・スターティンング・ ポジション」を採用しており,測定肢位,基本軸,移動軸,参 考角度の要素で定義されている。1995 年の改訂前は軸心の定 義も存在した。関節可動域は動作との繋がりや治療効果の直接 的な指標になるため,理学療法において必要不可欠な情報であ り他職種間で情報を共有しやすい優れたツールとなる。測定に は,一般的に金属式もしくはプラスティック式のゴニオメー ターが用いられるが,体幹の屈曲では,角度ではなく長さを測 定することで信頼性が確認されている schober 法2)も行われ る。ゴニオメーターを用いた測定において,未整備のものがい くつか存在することは周知の通りである。  基本軸に対してランドマークが明確なものと,必ずしも明確 でないものがある。たとえば股関節外転では,基本軸が「両側 の上前腸骨棘」をランドマークとしてこれを結んだ線,移動軸 を「上前腸骨棘」と「膝蓋骨中心」を結んだ線で,これを大腿 中央線として定義している。軸の中心は,必然的に上前腸骨棘 になるが,もちろん実際には大腿骨頭であることを常に意識し ておく必要がある。また,肩の屈曲の場合,移動軸が「上腕 骨」であるのに対して,基本軸が「肩峰を通る床への垂直線」 とされている。この定義にしたがって測定すると,円背や亀背 を呈している年配の患者の場合,床面に投影する垂線は体幹軸 より前方となるため,角度の誤差が生じることとなる(図 1)。 もちろん,臨床では療法士の判断で修正し測定されている可能 図 1 関節可動域測定にみるピットフォール(肩の屈曲の基本軸による誤差)

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性が高いものの,いわゆる実験研究などで「関節可動域表示な らびに測定法」にしたがってとする場合,矛盾となってしまう ため注意が必要である。現状では身体にランドマークを規定で きていないものが存在するため,今後可能な限り身体座標系で の規定が望まれる。加えて肩の屈曲は臥位で測定されているこ とが臨床上多い。慣例的な測定方法ではあるが,固定のうえで も座位よりは臥位での測定が臨床的には妥当であると考えられ る。理学療法評価における妥当性を高めるうえでは今後検討す る必要がある。座標系によるずれは,角度計で測定した値と動 作解析の角度でも異なる場合があるため解釈には注意が必要で ある。また,ひとりでの測定において正確性を欠く場合,数値 の正確性を優先して 2 名で測定することは,測定方法として明 確に規定することも考慮しなければならない。一方で,専門性 を追求すると目測技術も重要であり,角度計がなくても高い信 頼性があることも理学療法士の技術のひとつとなることは間違 いない。いわゆる評価技術のマスターである。医師の診察に 同行する場面や ICU など慌ただしい時間の流れの中では,多 くの臨床家がすでにその必然性を理解しているものと推察さ れる。 2.徒手筋力検査  徒手筋力検査法は歴史が古くいくつかの方法が報告されてい る。日本ではダニエルの方法が広く利用されており,グレード 3 以下の定義が病態を理解しやすく障害モデルにあてはめやす いため,臨床教育の重要なツールとしても重宝されてきた。し かし改訂に合わせて修正が加えられるため,経験のある指導者 も改訂に合わせて新たな測定手法を習得し直さなければ指導に 支障がでることとなる。また,臨床的に概念が変更されるこ とで蓄積したデータが縦断的に使えなくなるといった欠点も ある。  測定方法に目をむけると,腹臥位での測定項目が多いことが 臨床家を悩ませる問題のひとつとなっている(表 1)。代表的 なものを例にとると,第 8 版3)においては頸部伸展,体幹で は伸展,肩甲骨では内転,下制と内転,内転と下方回旋,肩 関節では伸展,外旋と内旋,水平外転,肘の伸展,股関節伸 展,膝関節屈曲,そして足関節底屈が腹臥位での体位となって いる。腹臥位での測定は「行いにくい」とダニエルもある程度 体位の違和感について示唆している。グレーディングスケール に沿った形で体位を設定するため致し方ない点ではある。しか し,腹臥位は疾患によってその体位をとることが難しいことも 事実である。発症直後や安静度が高い場面,呼吸器装着患者や 在宅などでは,背臥位でスクリーニング的にブレイクテストや メイクテスト等を用いてトレーニング内容を決定する判断材料 としている臨床家は多い筈である。  また,グレーディングスケールの不一致もいくつか存在す る。たとえば肩関節伸展のグレード 2 は,グレード 3 の課題の 一部が行えると定義されている。しかし,グレーディングス ケールの基本としてグレード 2 は除重力であるため,側臥位で の測定が検討されるべきである。また,頭部伸展でも,グレー ド 2,1,0 の確認は背臥位で,頭部の重みを考慮に入れてい る。むしろ,側臥位は推奨していない。足関節底屈では,第 8 版ではグレード 5 が 25 回以上,グレード 4 が 24 回から 10 回, グレード 3 が 9 回から 1 回で,グレード 2 がわずかにあがる程 度という基準が示されている。今春改訂されて出版された第 9 版4)では,グレード 4 が 24 回から 2 回と幅を広げ,グレード 3 が 1 回と改訂されている。徒手筋力検査における足関節底屈 測定は,踵挙げという動作を反復することで筋力を表す方法で あり,他の測定と筋力の異なる性質を見ていることも,臨床家 は考慮する必要がある。  このように,MMT にも注意しなければならない点があるた め,コホート研究等の研究デザインには利用されにくい。と はいえ,その利点は誰もが疑う余地がない。脊髄損傷の ASIA 表 1 徒手筋力検査法のピットフォール(代表的な測定とその体位) 部位・関節 運動 体位 部位・関節 運動 体位 肩甲骨 外転と上方回旋 端座位 股関節 屈曲 端座位・背臥位 拳上 端座位・背臥位 伸展 腹臥位・側臥位 内転 腹臥位 外転 側臥位・背臥位 下制と内転 腹臥位 内転 側臥位・背臥位 内転と下方回旋 腹臥位・端座位 外旋 側臥位・背臥位 肩関節 屈曲 端座位 内旋 側臥位・背臥位 肩甲骨面挙上 端座位 膝関節 屈曲 腹臥位・側臥位 外転 端座位 伸展 端座位・側臥位・背臥位 伸展 腹臥位 足関節 底屈 立位・腹臥位 外旋 腹臥位 背屈 座位 内旋 腹臥位 頸部 屈曲 背臥位 水平内転 背臥位 伸展 腹臥位 水平外転 腹臥位・端座位 体幹 屈曲 背臥位 肘関節 屈曲 端座位 伸展 腹臥位 伸展 腹臥位・端座位 回旋 背臥位

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impairment scale では MMT の概念が用いられており,急性期 のギランバレー症候群では Hand held Dynamometer(以下, HHD)より有益である。HHD は MMT3 以上の筋力を測定す る場合利用が可能である。膝伸展筋力では MMT5 が 240.6 ± 76.0 N,MMT4 が 130.3 ± 50.3 N,MMT3 が 65.5 ± 26.2 N と 報告されている5)。膝伸展筋力は立ち上がり動作や歩行パラ メーター等との相関が高いという報告6)がなされており,臨 床的指標として有用である。  しかし一方では,測定方法,体位,抵抗のかけ方(make test, brake test)などが一定してない。臨床研究ではこれらの 区別を明確にしなければ数値に意味をなさない7)。姿勢により HHD の測定に差が生じることは小林ら8)によって報告されて おり,MMT の概念をどこまで併用するかといった点を含めて 今後の検討が望まれる。また,臨床的にも標準的な測定方法に よる基準的の設定なども望まれるだろう。国際的な統一といっ た目線で考えた場合は,国内ではベルト固定による HHD の利 用が多く見られる一方で海外では徒手抵抗をベースとした利用 が主流である。病棟で手軽に筋力を個人内比較し検討するに は,徒手での利用が基本となるため,座位が安定してない患者 の測定を考慮した統一見解が望まれる。

3.modifi ed Ashworth scale(痙縮評価法)

 modifi ed Ashworth scale は,中枢神経系でもっとも利用頻 度が高い機能評価である。原典は多発性硬化症の患者に対して Ashworth ら9)が考案したもので,Bohannon ら10)が脳卒中 で測定するにあたって 1 のグレードが離散的で信頼性を下げる との見解から 1+ をつけて改定したものである。痙縮の性質で ある速度依存性を,可動させる速度,そのときに感じる抵抗量, そして角度抵抗を感じる角度をもってグレードを判断するもの である。  脳卒中診療ガイドライン11)で推奨している機能障害の評価 は,Brunnstrom Recovery Stage( 以 下,BRS) と modifi ed Ashworth scale の 2 つだけである。それ以外は 4 つの疾患特 異的包括評価と 2 つの ADL 評価が推奨されている。modifi ed Ashworth scale の利便性は高く臨床では重宝される。一方で 信頼性については意見が分かれており(表 2),5 名の検者によ る検者間信頼性を一致率から信頼性を確認した報告では,上肢 の 1 グレードの誤差範囲に収まる検者間信頼性は高いが,一致 率では 50%程度である12)。Sloan13)や Gregson14), ら15) の報告より,上下肢 4 筋群での検討では,足関節底屈筋群にお ける信頼性が低くなる要因を検者がグレードの違いを区別し にくいためであろうと説明している。なかでも大きな問題は, Bohannon らの原典で示されている測定方法が肘関節について のみであることであろう。 らの報告(2002)を参考に作成し た評価方法を設定して報告されているが,それ以降明確な基準 についての整備はされていない。

 modifi ed Ashworth scale は被動性筋緊張測定方法であるた め被動速度に大きく影響される。いわゆる痙縮の速度依存性 であり,可動域でそのグレードを判断する 1 と 1+ については 誤差が生じやすい。また,可動域測定による誤差自体が存在 すれば,1 秒で動かす速度が相対的に変化するため,検者が感 じる抵抗量に誤差が生じることとなる。速度を変えて数回デモ ンストレーションを行い,その後 1 秒間で関節運動を行った 際の抵抗感とその角度について判断しなければならない。肘 関節伸展における信頼性は高いものの,下肢において極端に 低い理由は,被動に伴う検者のパフォーマンスが大きく異な る点にあるといってよい。股関節ではてこが長いこと,逆に 足関節ではてこが短いことが大きく誤差に影響を及ぼしてい る。足関節ではこれにクローヌスが関係し,より複雑化させ る。Modifi ed Tardieu Scale16)はこのクローヌスを考慮して 紹介されている。詳細に捉えることができる一方で modifi ed Ashworth scale を超えて般化するには至っていない。そのた め,modifi ed Ashworth scale の信頼性を高める方法を検討す ることも求められているといってよいだろう。 4.Functional Reach(以下,FR)  FR は Duncan17)によって紹介された測定法であり,高齢者 を対象に開発された立位における前後方向の動的立位バランス 指標である。前方へのリーチが増えるほど,足関節トルクがよ り必要になるため,その分良好な足関節機能が必要となる,つ まり,足関節機能の評価になっている。一方で課題もあり,肩 甲帯の関与が測定値に大きく影響される。前方へリーチする際 に肩甲骨の動きを意識しなかった場合は,5 cm から 10 cm 程 度の誤差は簡単に生じてしまう(図 2)。肩甲骨を正しく規定 しなければ立位能力や足関節機能に矛盾を生じてしまう可能性 があることになる。外果をランドマークとして利用するといっ

表 2 modifi ed Ashworth scale による痙縮測定にみるピットフォール(検者間信頼性の幅)

検者数 対象 検者間信頼性 Bohannon(1986) 2 肘関節屈筋群 W = 0.85 Sloan(1992) 4 上下肢 4 筋群 W = 0.56 ∼ 0.76 Haas(1996) 2 下肢 4 筋群 k = 0.21 ∼ 0.61 Gregson(1999) 2 上下肢 4 筋群 k = 0.84 Smith(2002) 3 肘関節屈筋群 rs = 0.23 Blackburn(2002) 2 下肢 3 筋群 W = 0.57 (2002) 2 上下肢 4 筋群 χ2 = 0.51 ∼ 0.78 中山(2008) 5 肘関節屈筋群 kw = 0.53 ∼ 0.78

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た身体座標系を用いた設定や,最大まで protract させてから 測定するといった手順の規定,肩甲帯の可動を別途考慮する測 定方法,測定機器の開発についての議論も望まれる。モーショ ンキャプチャでリーチ動作を測定する際に,極座標である目標 物までのリーチを計測する場合などは注意しなければならない だろう。 理学療法士による理学療法評価の価値づけ  取り上げた評価方法は理学療法の基本となるもので,おそら く理学療法士がメインユーザーであり,臨床家によって適切な 帰結評価を導くために用いているものである。日本理学療法士 学会が 12 の分科学会で構成されるようになり,理学療法(理 学療法士)による効果を示す学術的研究がますます増えること が予想される。臨床における研究報告の場合は,今後さらに精 度が求められるだろう。精度の高い評価を追及するためにも視 点(どこを見るか),視座(どこから見るか),視野(どこまで 見るか)を意識的に変更して捉える必要がある。現場でも理学 療法士による評価を期待した依頼や意見,見解を求められる場 面は少なくない。ミスリードしない理学療法のステップアップ に貢献できるようにしたいものである。 文  献 1) 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会(編):関節 可動域表示ならびに測定法.リハビリテーション医学.1995; 32: 207‒217.

2) Willms JL, Schnederman H: Schober’s test for impaired spinal fl exion. Pocket guide to physical diagnosis. Williams & Wilkins, Baltimore, 1996, p. 259.

3) Hislop HJ, Montgomery J:新・徒手筋力検査法(原著第 8 版).津山

直一,中村耕三(訳),協同医書出版社,東京,2008,pp. 228‒235. 4) Hislop HJ, Avers D, et al.:新・徒手筋力検査法(原著第 9 版).津山

直一,中村耕三(訳)協同医書出版社,東京,2014,pp. 253‒259. 5) Bohannon RW: Measuring knee extensor muscle strength. Am J

Phys Med Rehabil. 2001; 1: 13‒18.

6) Eriksroud O, Bohannon RW: Relationship of knee extension force to independence in sit-to-stand performance in patients receiving acute rehabilitation. Phys Ther. 2003; 83(6): 544‒551.

7) 中 山 恭 秀: 臨 床 に お け る 筋 力 の 量 的・ 質 的 評 価. 理 学 療 法 学. 2013; 40(1): 59‒62.

8) 小林 武,日高みさき,他:Duchenne 型筋ジストロフィ患者にお ける HAND-HELD DYNAMOMETER を用いた筋力測定の再現性 の検討.東北理学療法学.1998; 10: 25‒29.

9) Ashworth B: Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis. The Practitioner. 1964; 192: 540‒542.

10) Bohannon RW, Smith MB: Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987; 67(2): 206‒207.

11) 脳卒中合同ガイドラインイ委員会:脳卒中治療ガイドライン.協 和企画,東京,2009,pp. 276‒280.

12) 中山恭秀,安保雅博:肘関節屈筋群における modifi ed Ashworth scale の検者 5 名による信頼性の検討.慈恵医大誌.2008; 123: 1‒5. 13) Sloan RL, Sinclair E, et al.: Inter-rater reliability of the modifi ed

Ashworth Scale for spasticity in hemiplegic patients. Int J Rehabili Res. 1992; 15(2): 158‒161.

14) Gregson JM, Leathley M, et al.: Reliability of the Tone Assesment Scale and the modified Ashworth scale as clinical tools for assessing poststroke spasticity. Arch Phys Med Rehabili. 1999; 80(9): 1013‒1016.

15)  哲也,大田哲夫,他:脳血管障害片麻痺患者における痙縮評 価 -Modifi ed Ashworth Scale(MAS)の評価者間信頼性の検討. リハ医学.2002; 39(7): 409‒415.

16) 竹内伸行,田中栄里,他:Modifi ed Tardieu Scale の臨床的有用性 の検討─脳血管障害片麻痺患者における足関節底屈筋の評価.理 学療法学.2006; 33(2): 53‒61.

17) Duncan PW, Weiner DK, et al.: Functional reach:a new clinical measure of Balance. J Gerontol. 1990; 45: 192‒197.

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