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ハイリスクな状態にある初妊婦およびその夫の親準備性

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 30, No. 2, 300-311, 2016

資  料

*1長野県看護大学大学院看護学研究科博士後期課程(Nagano College of Nursing, Nursing Graduate School, Doctoral Course) *2島根大学医学部看護学科(School of Nursing, Shimane University Faculty of Medicine)

*3長野県看護大学(Nagano College of Nursing)

2015年10月30日受付 2016年6月15日採用

ハイリスクな状態にある初妊婦およびその夫の親準備性

—正常経過をたどる初妊婦およびその夫との比較を通して—

Readiness for parenthood in first-time pregnant women

in a high-risk state and their husbands: A comparison between couples

in normally progressing and high-risk pregnancies

松 浦 志 保(Shiho MATSUURA)

*1, 2

清 水 嘉 子(Yoshiko SHIMIZU)

*3 抄  録 目 的  妊娠期に長期入院を余儀なくされるハイリスクな状態にある妊婦と夫が,共に親として高め合える支 援のあり方を検討するための前段階として,正常な経過をたどる初妊婦とその夫とハイリスクな状態に ある初妊婦とその夫を比較し,親準備性の違いや特徴を明らかにすることである。 対象と方法  妊娠22∼28週未満,妊娠を受容し,母親・両親学級未受講の20∼40歳の妊婦と夫で,両者の第1子 妊娠中の正常経過群とハイリスク群(切迫早産,前期破水,頚管無力症,前置胎盤,PIH,FGR,多 胎妊娠,既往妊娠の異常を診断名とし,入院後1週間以上経過)それぞれ50組を対象とした。調査に は,属性,夫婦の関係性尺度(6項目),胎児愛着尺度(21項目),親になる意識(19項目),親になる自 覚およびイメージ(VAS)とそれに関連する自由記述で構成された無記名自記式質問紙を用いた。分析は, SPSS Ver.22を使用し,統計的に比較し,その解釈の裏づけとして自由記述の結果を用いた。 結 果  分析対象は,正常経過群16組(回収率32%),ハイリスク群9組(回収率18%)だった。属性で,質問 紙記載時妊娠週数と家族形態に有意差を認めた。夫婦の関係性,胎児愛着は,両群の夫・妊婦間比較で 有意差はなかった。しかし,妊婦ではリスクの有無に関係なく夫婦の関係性および胎児愛着と親になる 意識の「親になる実感・心の準備」とに強い相関がみられた。親になる意識は,両群の妊婦間比較で「生 まれてくる子どもの心配・不安」がハイリスク群で有意に高かった(p=.02)。親になる自覚は,結婚∼妊 娠までが妊婦間比較でハイリスク群が高く(p=.017),結婚∼妊娠までと現在の時間的経過で正常経過群 妊婦のみ有意に高まっていた(p=.018)。親になるイメージは,結婚∼妊娠までと現在では両群間および 時間的経過における両群内のいずれにも有意差はなかったが,妊婦・夫ともにハイリスク群ではイメー

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ジが高まらない傾向にあった。 結 論  妊娠期にハイリスクな状態にあることは,親になる意識やイメージに何らかの影響をおよぼすことが 考えられた。親になる具体的準備を行う大切な時期でのイメージの阻害は,出産後の親役割や夫婦の関 係性のギャップに戸惑う要因ともなり得ることから,夫婦共に親になるイメージが膨らむ介入の検討の 必要性が示唆された。 キーワード:親準備性,妊産婦,ハイリスク妊娠,夫,比較研究 Abstract Purpose

As a preliminary step in considering how to support pregnant women at high risk who have no choice but to undergo long-term hospitalization during pregnancy and their husbands in elevating each other as parents, we aimed to clarify the differences between, and characteristics of, readiness for parenthood in first-time pregnant women and their husbands in normally progressing and high risk pregnancies.

Subjects and Methods

Subjects were pregnant woman-husband couples (20-40 years of age, 22 to <28 weeks into pregnancy with first child, who had accepted pregnancy, and who had not yet enrolled in a maternal or parenting course). We targeted 50 couples each for the normal progression group and the high-risk group (diagnosed with imminent abortion, pre-mature rupture of the membrane, cervical incompetence, placenta previa, pregnancy induced hypertension (PIH), fetal growth restriction (FGR), multiple pregnancy, or previous problematic pregnancy; at least one week having elapsed after hospitalization). For the survey, we assessed characteristics, the marital relationship scale (6 items), the prenatal attachment inventory (21 items), realization of parenthood (19 items), and self-awareness and image of becoming a parent (visual analog scale) as well as contents of an anonymous self-completed questionnaire consist-ing of free responses related to this topic. SPSS Ver. 22 was used for statistical analysis, and as support for our inter-pretations, we adopted the results of free responses.

Results

Subjects included in the analyses were 16 couples in the normal progression group (response rate, 32%) and 9 couples in the high-risk group (response rate, 18%). Characteristics with significant differences between groups were the number of weeks into pregnancy at the time of questionnaire completion and family structure. Marital relationship and prenatal attachment were not significantly different between husbands and wives in either group, but they were strongly correlated with the item "realization and mental preparation of becoming a parent" in aware-ness of becoming a parent among wives, regardless of risk. Awareaware-ness of becoming a parent was significantly higher for the high-risk group in a comparison between the wives in each group with respect to the item "concern and anxiety about the to-be-born child" (p=.02). Self-awareness of becoming a parent was significantly higher in the high-risk group in a comparison between wives from marriage until pregnancy (p=.017); over the course of the time from marriage until pregnancy to the present, it significantly increased only for the wives of the normal progression group (p=0.18). The image of becoming a parent did not significantly differ between groups during the time from marriage until pregnancy or in the present, nor did it significantly differ within groups over time. However, it tended not to increase in the high-risk group for both wife and husband.

Conclusion

The results suggest that being in a high-risk state during pregnancy impacts the awareness and image of be-coming a parent. Given that obstruction of this image during an important period in which practical preparations are made to become a parent can potentially cause confusion regarding parental roles after delivery as well as gaps in the marital relationship, there is a need to consider interventions that expand the images of becoming a parent for both husband and wife.

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Ⅰ.緒   言

 「親準備性」は,望ましい親行動に必要なプレ親 期(青年期)における価値的・心理的態度,行動的・ 知識的側面の準備状態(岩田・秋山・井上他,1982, pp.466-467)と定義され,以降主に青年期を対象に研 究が行われてきた経緯がある。妊娠期の夫婦を対象に した「親準備性」に関する研究は少ないが,その構成 要因には,こどもイメージ・胎児愛着・性役割観の女 性性の高さ・夫婦の意見一致度が考えられると報告さ れている(豊田・澤田・久坂他,1998, pp142-146)。ま た,「親となること」の人格的発達は妊娠期から開始さ れ,そこには夫婦の関係性の中でも,特にコミュニ ケーションの良好な保持が,親になる意識や胎児と の関係に影響する(佐々木,2005, pp.62-68)など,「親 準備性」は夫婦間で要因が相互に作用するものであり, 「親となること」の人格的発達に関連する要因と一部 共通している。また妊娠期に行う,空想やイメージは 子どもをもつ予期と準備という観点からきわめて重要 とされる(Galinsky, 1987, pp.13-47; Rubin, 1997, pp.52-58)。さらに親としての自覚の芽生えは親としての成長 ・発達を促すとも報告されている(田中,布施,高野, 2011, pp71-77;行田,今関,2006, p223)。以上のこと からこの時期の「親準備性」は,夫婦の関係性を基盤 とし,親になるイメージ・意識・自覚といった認知的 側面とそれらの醸成の影響を受ける胎児への愛着によ り説明が可能であると考える。  近年,女性の晩婚化や生殖補助医療の進歩に伴う出 産年齢の高まりなどを背景に,妊娠22週以降妊娠28 週未満の早産の実数はここ20年で増加しており(母子 衛生研究会,2014, p.49),入院による妊娠管理を要す るハイリスク妊婦は増加していると推察する。ハイリ スクな状態での予期せぬ入院は,早産・胎児・育児 への不安を抱く(蓼沼,今関,2005, pp267-274)一方で, 不安への対処行動をしながら,母親としての準備時間 となること(今村,中村,跡上他,2013, pp346-353)が 報告されている。また,海外でも妊娠期に入院を要す る環境は,妊婦の胎児愛着の視点から,親になること に影響をおよぼさない(Mercer, Ferketich, May, et al., 1988, pp.83-95)とする一方で,ハイリスクな状態にあ る妊婦が満期産で健常な児を出生した場合でも,親に なることへの発達上のプロセスを阻害する可能性があ る(Priel & Kantor, 1988, pp.235-242)と報告している。 つまり,入院による親準備性への影響は,胎児への愛 着という観点からしか検討されておらず,その結果は 先行研究間で一貫した結果が得られていない。  周産期にリスクを持つ妊産婦とそれを取り巻く家族 は,リスクを持つことで生じる心理社会的な影響を受 けている人と捉え,医療のみならず心理社会的にも特 有なケアを考えていく必要がある(成田,2012, p.210)。 現在,「親になること」自体が少子化による乳幼児との 接触経験の減少,核家族化と地域社会基盤の変化によ る子育て支援体制の希薄化(堀口,2005, pp.13-20)に より困難な状況である。よって,ハイリスクな状態に ある妊婦はもとより,同時にその夫の親になる準備状 態の実態把握を進めることは,両親が親役割をどう協 同するかというコペアレンティングの視点(Feinberg, 2003, pp.95-131)で援助を検討するうえで必要な根拠 になりうると考える。

Ⅱ.研 究 目 的

 正常な経過をたどる初妊婦とその夫(以下正常経過 群,正常経過妊婦群,正常経過夫群と記す)とハイリ スクな状態にある初妊婦とその夫(以下ハイリスク群, ハイリスク妊婦群,ハイリスク夫群と記す)を比較す ることで,親準備性の違いや特徴を明らかにすること である。

Ⅲ.用語の操作的定義

親準備性:親になるイメージ,親になる意識,親にな る自覚といった妊娠期の夫婦それぞれにある認知的側 面の準備状態とする。 夫婦の関係性:親準備性醸成に関係する主要な要因と 考えられる夫婦間のコミュニケーションとする。 親になるイメージ:親になることでどのようなことが 生じ,どうそれに対応するかというイメージとする。 親になる意識:親としてこどもを世話し、育てること を自分のこととして認識することとする。 親になる自覚:親になる意識が芽生え,親として自分 の置かれている状態や価値を知ることとする。

Ⅳ.研 究 仮 説

 正常経過群では妊娠経過とともに自然と親準備性が 高まると考える。しかし,ハイリスク群は,親になる 準備を具体的にする時期に妻が入院することで,夫婦

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が生活空間を分離するという体験をすること,胎児の 生存をも左右する環境下に身を置くことから,夫婦の 関係性,親になるイメージ・意識・自覚の得点が正常 経過群に比べ低く,結果胎児への愛着も低い。

Ⅴ.研 究 方 法

1.研究施設および対象者  本研究では,少数例を用いて検出力を高めるために 主要な要因でマッチングの手法を用いた。マッチング の条件は,周産期死亡のリスクがより高いとされる妊 娠28週未満の早産児が実数,発生率ともに急速に増 加している現状(齋藤,2009, pp337-338)から妊娠週数, 年齢,妊娠期に妊婦やその夫に対して行う保健指導が 親準備性におよぼす少なからずの影響を考慮し保健指 導未受講,上の子が既にいることの親準備性への影響 を考慮し妊婦と夫にとっての第1子の4つである。よ って本研究の対象者は,A・B・C県内で産婦人科を 扱う診療所と病院で,妊娠22週以降,妊娠28週未満で, 研究協力の同意が得られ,受診施設や市町村が行う保 健指導(母親学級,両親学級など)未受講の20歳以上 40歳以下の妊婦とその夫であり,妊婦と夫両者にと っての第1子を妊娠中の正常経過群50組程度とハイリ スク群50組程度。さらに,ハイリスク群初妊婦の条 件として,切迫早産,preterm PROM(前期破水),頚 管無力症,前置胎盤,PIH(妊娠高血圧症候群),FGR, 多胎妊娠,既往妊娠(妊娠22週未満)の異常,既往を 伴う母体合併症のいずれかもしくは複数の診断名を主 訴とし,医師から入院による治療を指示され,入院 から1週間以上を経過している状態にあるものとした。 調査期間は,2014年4月∼2015年3月であった。 2.調査方法  調査は,無記名自記式質問紙にて行った。手順は, 研究計画書,調査協力依頼書,質問紙をA・B・C県 で産婦人科を扱う診療所と病院へ送付し,許可が得ら れた施設に質問紙を持参または送付した。対象者への 質問紙の配布は,正常経過群は妊婦健診時,ハイリス ク群は対象条件を満たした場合に病室にて施設職員ま たは研究者が行った。配布の際に夫がいる場合はそれ ぞれに,不在の場合は妊婦を通じて夫へ配布を依頼し た。質問紙は回答後,対象者自身が返信用封筒に入れ 厳封し,配布から2週間以内に妊婦と夫別個に郵送法 で回収した。 3.調査内容 1 ) 対象者の基礎的情報  年齢,質問紙記載時妊娠週数,職業,家族形態,結 婚から妊娠までの期間,妊娠の経緯・計画性,新生児 ・乳児との接触体験を両群に,さらにハイリスク群に は入院時主訴,入院時週数,治療内容を付加した。 2 ) 夫婦の関係性  夫婦間のコミュニケーションは,親性の発達過程 に影響をおよぼすとされる(中島・常盤,2008, pp.111-119)。本研究では,佐々木(佐々木,2006, pp581-582)が, 妊娠期のペアレンティング規定因子とし夫婦関係の評 価指標とした6項目からなる夫婦間のコミュニケーシ ョン尺度を用いた。「6:まったくその通りだ」6点から 「1:まったくそうではない」1点の6段階評価で,先行 研究におけるCronbach α係数は0.767であった。また, 妊娠経過による主観的な夫婦の関係性の変化や影響の 有無と自由記述を求めた。 3 ) 胎児への愛着  Muller(1993, p.199)が開発し,辻野・雄山・乾原他 (2000, pp.326-335)が翻訳した日本語版PAI(Prenatal Attachment Inventory)を用いた。開発者の日本人対 象の調査で妥当性と信頼性は確認されており,α=0.89 であった。21項目で構成され,「4:だいたいいつも」4 点から「1:めったにない」1点の4段階評価で,得点の 高さは愛着の強さを示す。また,主観的な胎児への愛 着を夫婦で児について話をする時間とその内容で自由 記述を求めた。 4 ) 親になる意識  小野寺・青木・小山(1998, pp.121-130)が作成した, 「親になる意識」の20項目から因子負荷量の小さい1項 目を除き,主語を夫婦それぞれに対応させた19項目 を用いた。6つの因子(制約感,人間的成長・分身感, 生まれてくる子どもの心配・不安,親になる実感・心 の準備,親になる喜び,親になる自信)からなり,「6: まったくその通りだ」6点から「1:まったくそうでは ない」1点の6段階評価である。なお,「制約感」と「生 まれてくる子どもの心配・不安」は得点が低いほど親 になる意識が低いと捉えられる。本研究における6因 子のクロンバックα係数を確認したところ,0.583∼ 0.944であり内的整合性が高いとは言えないが再検討 すべき項目はないと判断し用いた。 5 ) 親になる自覚  親になる自覚は,既存尺度がないため,主観的な指 標としてVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた。親

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になる自覚の経時的な変化をみるために,まず結婚か ら妊娠までの親になる自覚の有無と程度を,続いて同 様な内容で現在について,「あなたの親になるという 自覚は,どのくらいですか?」という質問をし,「全く ない(0)」から「非常にある(100)」までの直線上に印 をつけてもらい,その距離を測定し得点とした。また, 親になる自覚をした場面やその具体的内容の自由記述 を求め,記述からVASの値を説明する。 6 ) 親になるイメージ  親になるイメージは,心理的側面からの親準備性 (鮫島,1999, pp.23-35)ではなく,親になる自分自身の イメージを測定することを目的としたためVASを用い た。親になるイメージの経時的な変化をみるために, まず結婚から妊娠までの親になるイメージの有無と 程度を,続いて同様な内容で現在について,「あなた の現在の親になることでどのようなことが生じ,どう それに対応するのかというイメージはどのくらいです か?」という質問をし,「漠然としている(0)」から「行 動まで具体的になっている(100)」までの直線上に印 をつけてもらい,その距離を測定し得点とした。また, 親になるイメージの具体的内容の自由記述を求め,そ の記述からVASの値を説明する。 4.分析方法 1 ) 統計学的分析  正常経過群とハイリスク群を分析単位とし統計的に 比較した。統計処理には,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics 22を使用し,属性の比較にはt検定または Fisher s exact test,リスクの有無による2群間比較は 正規性を考慮しMann-WhitneyU検定,経過時間によ る群内比較はWilcoxon順位和検定を行った。親にな る意識の群間比較は,小野寺(1998, p.124)が19項目 から6つの因子(制約感,人間的成長・分身感,生ま れてくる子どもの心配・不安,親になる実感・心の準 備,親になる喜び,親になる自信)を明らかにしたこ とから,因子内の項目の得点を加算し,項目数で除し, 平均値を求めた後に行った。さらに夫婦の関係性と胎 児への愛着,親になる意識はSpearmanの順位相関係 数を用いて関連をみた。検定はすべて両側とし,統計 学的有意水準は5%としたが,相関係数の有意水準は 1%と5%に設定した。 2 ) 質的分析  自由記述の内容は,正常経過群とハイリスク群の特 徴や差異を明らかにするため,質問項目に対して記述 された全データを整理し,統計学的な検定結果の解釈 の裏づけと補完的データとして用いた。対象者の記述 した文脈をそのまま用い本文中では『 』で示した。 5.倫理的配慮  本研究は,平成25年度長野県看護大学倫理委員会 (承認番号2013-12),並びに研究協力施設の倫理委員 会の承認を得て実施した。対象者の抽出と質問紙の配 布は,研究協力施設の協力を得た。対象者には,調査 の趣旨と方法,調査協力は自由意思であること,デー タは目的以外に使用せず調査終了後に断裁等により破 棄すること,匿名性の確保や個人情報保護の方法と保 障,本研究への参加の有無により何ら不利益を被らな いこと,質問紙の返送をもって同意が得られたとみな すこと等について調査協力依頼文書に明記した。

Ⅵ.結   果

1.対象者の背景  A,B,C県内で協力の得られた病院は3施設であっ た。マッチングによる対象者選定の結果58名から回 収がみられた(回収率29.0%)。妊婦のみ回答があった 8名を除き,正常群16組(回収率32%),ハイリスク群 9組(回収率18%)を分析対象とした。年齢は,正常経 過妊婦群が平均30.2 5.5歳(20∼37歳),正常経過夫 群が平均31.8 6.7歳(20∼40歳),ハイリスク妊婦群 が平均31.3 4.7歳(24∼38歳),ハイリスク夫群が平 均34.3 4.7歳(25∼40歳)であった。アンケート記載 時妊娠週数,家族形態に統計学的有意差を認めた。ハ イリスク妊婦群の平均入院時週数は,妊娠23.1 3.5週 (妊娠14週6日∼妊娠27週0日)であり,アンケート記 載時までの平均入院期間は22.2 12.9日(8日∼48日) であった。主訴は切迫早産,多胎妊娠,頸管無力症, FGRであり,その治療は,安静と薬剤により行われて いた(表1)。 2.夫婦の関係性,胎児への愛着,親になる意識の群 間比較  夫婦の関係性は,6項目の合計得点の平均を求めリ スクの有無で比較した(表2)。両群の夫間と妊婦間の 比較でも差は見られなかったが,ハイリスク夫群の得 点が最も低く,ハイリスク妊婦群が最も高かった。ま た,今回の妊娠をきっかけに夫婦の関係性に影響や変 化があったかをリスクの有無との関係性でみたが,有

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表1 対象の背景 正常経過群(n=32) ハイリスク群(n=18) 有意確率 (p) 妊婦 (n=16) (n=16)夫 (n=9)妊婦 (n=9)夫 入院時妊娠週数(週) 23.1 3.5 質問紙記載時までの入院期間(日) 22.2 12.9 入院時主訴 切迫早産(人) 7(77.8) (複数回答) 頸管無力症 4(44.4) 多胎妊娠 2(22.2) FGR 1(11.1) 治療内容 安静治療(人) 4(44.4) 病棟内程度の歩行可能 (複数回答) 2(22.2) 病室内程度の歩行可能 2(22.2) ほとんど寝たまま 薬剤治療(人) 7(77.8) 子宮収縮抑制剤点滴 2(22.2) 子宮収縮抑制剤内服 年齢(歳) 30.2 5.5 31.8 6.7 31.3 4.7 34.3 4.7 n.s.1) 質問紙記載時妊娠週数(週) 24.8 1.6 26.2 2.0 *1) 職業(人) あり 11(68.8) 16(100) 4(44.4) 8(88.9) n.s.2) なし 5(31.3) 0 5(55.6) 1(11.1) 家族形態(組) 核家族 10 9 *2) 複合家族 6 0 妊娠の経緯(組) 自然妊娠 10 7 n.s.2) 不妊治療後妊娠 6 2 妊娠の計画性(組) あり 7 6 n.s.2) なし 3 1 無回答 6 2 結婚から妊娠までの期間(月) 自然妊娠 16.6 19.5 42.3 45.6 35.7 42.7 45.6 42.6 n.s.1) 不妊治療後妊娠 80.8 47.4 80.0 22.6 今回の妊娠による夫婦関係の変化 あり 9(56.3) 8(50.0) 4(44.4) 6(66.7) n.s.2) なし 7(43.7) 8(50.0) 4(44.4) 2(22.2) 無回答 0 0 1(11.1) 1(11.1) 胎児への会話時間 30分未満 14(87.5) 11(68.8) 4(44.4) 5(55.6) n.s.2) 30分以上 2(12.5) 5(31.3) 4(44.4) 4(44.4) 無回答 0 0 1(11.1) 0

1):t-test 2):Fisher's exact test ( )は%を示す *:p<0.05 n.s.:not significant

表2 夫婦の関係性,胎児への愛着,親になる意識の群間比較 正常経過群 (それぞれn=16) (それぞれn=9)ハイリスク群 有意確率(p) 夫婦の関係性 妊婦 29.2 5.428.1 5.3 31.3 4.626.2 4.2 n.s.n.s. 胎児への愛着 妊婦 53.6 14.147.9 11.6 57.8 12.645.9 14.2 n.s.n.s. 制約感 妊婦 2.9 1.4 3.0 1.3 3.0 1.7 3.0 1.4 n.s.n.s. 人間的成長・分身感 妊婦 3.3 1.5 3.7 1.5 3.6 1.7 3.5 1.8 n.s.n.s. 心配・不安 妊婦 4.0 1.4 4.1 1.0 4.8 1.2 4.2 1.2 n.s.実感・心の準備 妊婦 4.1 1.0 4.2 1.1 5.0 0.9 4.1 1.8 n.s.n.s. 親になる喜び 妊婦 5.4 1.0 5.2 0.9 5.3 1.4 5.4 1.0 n.s.n.s. 親になる自信 妊婦 3.8 0.5 4.2 0.8 3.8 1.1 4.2 1.6 n.s.n.s.

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意差を認めなかった。両群ともに『家事を行うように なった』,『会話が増えた』などを妊娠による夫婦関係 の変化として共通に認識していた(表3)。  胎児への愛着は,PAIの21項目それぞれとその合計 得点の平均を算出し,リスクの有無で比較した(表2)。 21項目の合計得点の平均,両群の夫と妊婦の比較お よび項目別の比較でも有意差はなかった。しかし,夫 婦の関係性と同様にハイリスク夫群の得点が最も低く, ハイリスク妊婦群が最も高かった。児に関して夫婦で 会話をする具体的内容は,頻出するものから『名前』, 表3 親準備性に関連する項目の自由記述 項目 正常経過群 妊婦 ハイリスク群 妊婦 妊娠をきっかけとした 夫婦関係の変化および影響 身体のことを気遣う 1 1 身体のことを気遣う 1 妻のことを気にかける 1 妻のことを気にかける 1 できるだけ怒らないようにしている 1 夫が心配性になった 1 夫に家事の負担を増やしてもらった 1 今まであまりやらなかった家事を行うようになった 2 家事に率先して関わるようになった 1 入院生活をきっかけに夫の家事能力があがった 1 我慢の数も増えたが喧嘩になるほどのこともない 1 些細な喧嘩がなくなった 1 1 会話が増えた 1 2人の会話が増えた 1 1 お互いのことを大切に思う気持ちが強くなった 1 よくお腹を撫でてくれるようになった 1 こどもの話をするようになった 1 こどもの話をするようになった 1 夫婦というよりも家族という認識に変化 1 一緒に過ごす時間が増えた 1 前より仲良くなった 1 児に関する話の具体的内容 名前 8 3 名前 5 4 現在のこどもの大きさや週数の話 3 3 現在のこどもの大きさや週数の話 3 2 出産準備など将来のこと 3 3 育児物品について 3 1 胎動について 4 胎動について 3 1 性別 3 3 資金 親になると自覚した場面 胎動に触れた(感じた)とき 13 1 胎動を感じるとき 6 (妻の)お腹が大きくなってきたとき 5 5 (妻の)お腹が大きくなってきたとき 3 1 (妻の)健診について行くとき 2 妊婦健診に行って初めてエコー写真を見たとき 3 身体の変化 2 つわり中 2 お腹に触り,話しかけたら反応したとき 1 既に父になっている友人を見ているとき 1 (妻の)お腹を触るとき 1 生命保険に加入したとき 1 現在2人の生活に3人目をイメージしたとき 1 エコーで赤ちゃんを診てもらっているとき 1 こどもの物をそろえるとき 1 心拍を確認したとき 1 名前を考えるとき 1 入院している現在 1 妊娠したことを最初に聞き,妻とこどもを守 っていかないとと感じたとき 1 食べ物に気をつけるようになったとき 1 エコー写真を見たとき 1 プレママなどの雑誌を読んだりしたとき 1 つわりでしんどいとき 1 赤ちゃん用品を買いに行ったとき 1 周りの気遣いを感じるとき 1 周囲からの声掛け 1 心音を初めて聞いたとき 1 親になるイメージ 妻はこどもに接するのが初めてなので,でき ることは自分が先にやる 1 優しくも厳しく対処している 1 妻の話を聞く 1 最大限(妻の)サポートをしている 1 妻が赤ちゃんと一緒で出かけられなくならな いように,時間を作ってあげる 1 自分がやれるようにやるしかない 1 関わっていけたらよい 1 出来事が生じた時に考える 1 奥さんを支える 一緒に遊ぶ 1 自分の小さい頃の写真,ビデオが少ないので たくさん撮る 1 イメージできていない 3 1 対処療法的に考えていこうと思っている 1 息詰まりそうなときは,その前に誰かの手を借りる 1 何があっても親であるという自覚をもつ 1 悩みながら頑張っている 1 妻と共に考える 1 授乳の頻度に大変だと思ってるが,夫に家事を任せたりしてちゃんとやる 1 分からないことだらけで戸惑いも多いが,一 人で悩まず相談する 1 同じ時期に出産する友人が多いので,いろい ろ聞いていく 1 どんな障害があっても何とか生きていく 1 ボロボロになっても夫が支えてくれるから大丈夫 1 分からない 1 両親・公的機関に相談している 1 困ったら母に相談している 2

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『現在のこどもの大きさや週数の話』,『出産準備(育 児物品)など将来のこと』,『胎動について』などがあ り,リスクの有無に関係なく共通していた(表3)。また, 児に関する夫婦での会話時間を30分未満とそれ以上 でリスクの有無により比較したが,有意差は認められ なかった(表1)。  親になる意識は,両群の夫間で6つの因子に有意な 差を認めなかったが,妊婦間では「生まれてくる子ど もの心配・不安」の1因子で正常経過群4.0 1.4,ハイ リスク群4.8 1.2(U=113.0, p=0.02)となりハイリスク 群が有意に高かった(表2)。「生まれてくる子どもの心 配・不安」以外の因子では「親になる実感・心の準備」 で,夫婦の関係性や胎児への愛着と同様に,ハイリス ク夫群が正常経過妊婦群と並んで最も低く,ハイリス ク妊婦群が最も高かった。 3.夫婦の関係性,胎児への愛着,親になる意識の相 関関係  夫婦の関係性と胎児への愛着,親になる意識の6つ の因子との相関関係をみた(表4)。その結果,リスク の有無と関係なく夫では,「親になる実感・心の準備」 と「親になる自信」の間に相関がみられ,妊婦では「夫 婦の関係性」と「胎児への愛着」が「親になる実感・心 の準備」と強い相関を認めた。 表4 夫婦の関係性,胎児への愛着,親になる意識の相関関係 正常経過妊婦群 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 夫婦の関係性 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 .430 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.012 .031 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ .179 .421 .213 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ .097 .097 .743** ­.108 ̶ ̶ ̶ ̶ .778** .702** ­.030 .336 ­.049 ̶ ̶ ̶ .349 .689** ­.338 .667** ­.088 .400 ̶ ̶ .662** .364 ­.305 .460 ­.285 .533* .406 ̶ 正常経過夫群 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 夫婦の関係性 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 .235 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.308 ­.325 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ .362 .279 ­.023 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ .319 ­.041 ­.268 ­.084 ̶ ̶ ̶ ̶ .526* .480 ­.421 .184 .076 ̶ ̶ ̶ .462 .229 ­.627 .215 .160 .410 ̶ ̶ .406 .519* ­.383 ­.098 .144 .630* .471 ̶ ハイリスク妊婦群 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 夫婦の関係性 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 .752* ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.090 .075 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.623 ­.076 ­.068 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.206 .325 .146 .541 ̶ ̶ ̶ ̶ .831** .971** .097 ­.222 .108 ̶ ̶ ̶ .206 .237 ­.541 .176 .272 .194 ̶ ̶  .488  .129  .104 ­.607 ­.498  .211 ­.347 ̶ ハイリスク夫群 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信 夫婦の関係性 胎児への愛着 制約感 成長・分身感 心配・不安 実感・準備 喜び 自信  .153 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.085 ­.600 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶  .121  .203 ­.203 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ­.104  .306 ­.315 ­.139 ̶ ̶ ̶ ̶  .139  .545 ­.587 ­.104 ­.135 ̶ ̶ ̶  .037  .073 ­.716*  .271  .483 ­.028 ̶ ̶  .200  .504 ­.342  .452 ­.432 .703* ­.155 ̶ *:p<0.05 **:p<0.01

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4.親になる自覚,親になるイメージの群間および群 内比較  結婚から妊娠までの得点を正常経過群とハイリスク 群で比較したところ,妊婦間でハイリスク群が有意に 高かった(p=.017)(表5)。現在の親になる自覚得点に 有意な差はなかった。結婚から妊娠までと,現在の時 間的経過による得点の比較では,正常経過妊婦群のみ に有意な上昇が認められ(p=.018),有意ではないが正 常経過夫群,ハイリスク夫群も自覚は高まっていた。 しかし,ハイリスク妊婦群では現在の親になる自覚得 点が低下していた。親になると自覚した場面は,妊婦 群ではリスクの有無に関係なく共通して『胎動を感じ るとき』,『お腹が大きくなってきたとき』が多数であ った。しかし,正常経過夫群は『(妻の)お腹が大きく なってきたとき』,『(妻の)健診について行くとき』に 自覚する一方で,ハイリスク夫群では『妊婦健診に行 って初めてエコー写真を見たとき』と時間や空間的認 識にやや違いがあるようであった(表3)。  結婚から妊娠までの親になるイメージ得点を正常経 過群とハイリスク群で比較したところ,ハイリスク夫 群と妊婦群が高い値を示したが,いずれも有意な差は 認められなかった(表5)。結婚から妊娠までと現在の 時間的経過による得点の比較では,いずれも有意差は 認められなかった。また,正常経過妊婦群・夫群がハ イリスク妊婦群・夫群と比較し,有意差はないものの 得点が高かったが,ハイリスク妊婦群・夫群に得点の 高まりは見られず,むしろ減少していた。  親になるイメージの記述では,正常経過夫群で『妻 はこどもに接するのが初めてなので,できることは自 分が先にやる』など出産後の妻を支える自分をイメー ジし述べていた。正常経過妊婦群は,『分からないこ とだらけで戸惑いも多いが,一人で悩まず相談する』 など困難な事象に対して誰かに頼る自身をイメージし 述べていた。ハイリスク夫群は,『優しくも厳しく対 処している』など親としてのイメージが多岐にわたり, ハイリスク妊婦群は,『息詰まりそうなときは,その 前に誰かの手を借りる』など大変な自分とその対処を イメージし,いずれもポジティブな内容となっていた。 その一方で,正常経過夫群以外は,どの群にも親にな るイメージについて『分からない』,『イメージできな い』と記しているものがおり,その頻度はハイリスク 妊婦群に最も多かった(表3)。

Ⅶ.考   察

1.対象者の背景について  本研究の対象者の年齢は,正常経過妊婦群が平均 30.2 5.5歳(20∼37歳),正常経過夫群が平均31.8 6.7 歳(20∼40歳),ハイリスク妊婦群が平均31.3 4.7歳 (24∼38歳),ハイリスク夫群が平均34.3 4.7歳(25∼ 40歳)であった。人口動態調査によると第1子の父親 の平均年齢は32.5歳,母親は30.4歳である(厚生労働省, 2013)ことから,ややハイリスク群の平均年齢が高め ではあるが,ほぼ一般的であるといえる。  家族形態は,正常経過群の10組(62.5%),ハイリス ク群の9組(100%)が核家族であり,平成25年国民生 活基礎調査の結果では核家族世帯が23.2%という数値 が示されている(厚生労働省,2013)ことからも一般的 な家族形態に占める核家族世帯の割合より本研究対象 者が高く,さらに比較群内でも偏りが生じている状態 であると考えられる。アンケート記載時妊娠週数のリ スクの有無による差は,対象者への倫理的配慮として 入院から1週間以上経過していることを配布条件とし たこと,そこから2週間以内の回答を求めたことによ るものであるとも考えられた。 表5 親になる自覚および親になるイメージの群間および群内比較 正常経過群 ハイリスク群 有意確率(p)群間比較 有意確率(p)群内比較 親になる自覚 結婚から妊娠まで 夫: 52.5 33.0(n=4) 夫: 60.3 19.5(n=4) n.s. 妊婦: 52.1 11.7(n=7) 妊婦: 92.7 11.0(n=3) * n.s. n.s. 現在 妊婦: 79.1 19.0(n=15) 妊婦: 82.1 22.0(n=8)夫: 76.8 20.1(n=12) 夫: 83.0 19.5(n=7) n.s. * n.s. n.s. 親になるイメージ 結婚から妊娠まで 夫: 56.3 30.8(n=6) 夫: 75.0 35.4(n=2) n.s. 妊婦: 25.6 15.7(n=4) 妊婦: 57.7 41.5(n=3) n.s. n.s. n.s. 現在 妊婦: 58.1 17.5(n=11) 妊婦: 53.9 32.2(n=7)夫: 65.4 21.6(n=9) 夫: 74.5 21.0(n=4) n.s. n.s. n.s. n.s. Mann-Whitney U test(群間比較) Wilcoxon test(群内比較) *:p<0.05 n.s.:not significant

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2.妊娠期のハイリスクな状態と夫婦の関係性や胎児 への愛着との関連  本研究における夫婦の関係性は,佐々木・植田・鈴 木他(2004, p.146)の結果より両群ともに高値を示した が,両群に有意差は認められなかった。これは,夫婦 間コミュニケーションは妊娠期にハイリスクな状態に あることや,妻が入院し夫と生活環境を異にする一般 的な妊娠環境との違いでは影響を受けにくいこと,回 収率の低さから研究にご協力いただけたご夫婦は好意 的かつ妊娠期以前より夫婦間コミュニケーションが良 好であったことが要因にあると推察される。  胎児への愛着得点も,榮(2004, p.51)が示した出産 経験のない妊婦の結果と比べても両群ともに高値を示 し,夫婦間コミュニケーションと同様に妊娠期に予期 せず強いられた環境とは関連がないことが推測された。 また,総得点で夫群より妊婦群がやや高い傾向にあっ た。これは,リスクの有無に関係なく妊婦は胎内に胎 児が存在し,関わる機会が保証されているため当然の ことと考えられた。しかし,夫でも妊婦と大きな差が なかったことは,妊婦同様予期せぬ妊娠環境の影響に 左右されないこと,受診施設や市町村が行う保健指導 が未受講であっても,妊娠中期には胎児への愛着が高 まってくることがうかがえた。  しかし,有意な差を認めなかったが夫婦の関係性, 胎児への愛着のいずれも,ハイリスク妊婦群の平均得 点が最も高く,ハイリスク夫群が最も低い傾向にあっ た。また,夫婦の関係性と胎児への愛着,親になる意 識の関連を外観してみると,リスクの有無に関係なく 特に妊婦では親になる実感・準備と夫婦の関係性およ び胎児への愛着が強く関連している可能性が示唆され た。妊娠期にある夫は,夫婦および胎児との関係の良 さが相互に好影響を及ぼし,胎児への関心の深まりが 胎児へのかかわり,胎児存在の実感を強め,妊婦では 夫婦の関係性が良好であるほど胎児との関係も良好で あると述べている(佐々木,2005, p.67)。また,妊娠 期の夫婦の関係性において,妊婦は夫の支援や信頼と 経済や生活の充実が不可欠であり,夫は経済や生活の 充実よりも妊娠・出産・育児に関する肯定的感情が関 連している(岩尾・斎藤,2012, p.47)と報告している。 よって,ハイリスク群が示した結果から,妊婦は自身 が入院し不在の家を夫が働きながら守っていることに 安堵し,自分と胎児へ集中できる環境の中で胎児への 関心が高まる一方で,夫は不慣れな家事を引き受けな がら妊婦の支援をしてはいるが,物理的に胎児への関 心や胎児存在の実感を高めづらい環境に置かれている 可能性が示唆された。 3.妊娠期のハイリスクな状態と親になる意識,自覚, イメージとの関連  親になる意識の6因子の中で「生まれてくる子ども の心配・不安」のみが正常経過妊婦群に比べ,ハイリ スク妊婦群で有意に高かった。また,有意差は認めな いが,妊婦と同様にハイリスク夫群が正常経過夫群よ り高かった。これは,ハイリスク妊婦の現在の妊娠週 数と自身の症状,児を小さく出産してしまう可能性 (松浦・吉沢,2011, pp.651-653)と胎児が胎内に存在す るか否かが影響していると考えられる。また,「親に なる実感・心の準備」でハイリスク妊婦群が最も高か ったのは,入院という環境に置かれることで胎児を意 識する時間が長くなることが考えられた。「生まれて くる子どもの心配・不安」が強いからこそ「親になる 実感・心の準備」が高まっていた,あるいは高めざる を得なかったことが推察され,それはハイリスク妊婦 特有の結果であるとも言える。親となる意識は,妊婦 では肯定的側面と否定的側面のどちらも強く意識し, 夫では肯定的側面のみを強く意識するとされ,それが 父親および母親イメージにも表れる(小泉・中山・福 丸他,2004, pp.17-18)。ハイリスク群で親になるイメー ジが結婚から妊娠までが既に高かったにも関わらず, 現在が低下傾向にあったことは,特にハイリスク妊婦 群の結果から,親になる意識の中でも持続点滴や安静 を強いられる治療や早産となった場合の児の予後への 不安など入院による否定的側面が影響しているとも考 えられた。また,夫婦の関係性,胎児への愛着,親に なる意識の中の「親になる実感・心の準備」の得点が 最も高いにも関わらず,現時点での親になるイメージ が「分からない」,「イメージできない」と答えた対象が ハイリスク妊婦に多かった。これは,結婚から妊娠ま での期間にイメージしていた親になる自己と現在の状 況が乖離していることや,記載時妊娠週数の差が示す ように,ハイリスクな状態で入院管理を余儀なくされ たことで,妊娠週数が経過しても,この先のイメージ が湧きにくいとも考えられた。イメージしにくい親と しての自己に対して自覚を持つのは困難であるため, ハイリスク群でも夫は経時的に上昇傾向が認められた が,妊婦では低下傾向にあったと推察される。イメー ジを持ちながら「親になる実感や準備」を高めるには, 限局された夫の面会に夫婦で胎児存在の実感を得るこ

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とができる援助が求められる。また,両親が親として の役割をどう一緒に行うのかに関連する要因には,家 族の特徴,性格特性,妊婦や夫が親になる以前の家族 や両親の影響など多くが示されている(加藤・黒澤・ 神谷,2014, pp.88-93)。本研究では,ハイリスク群全 員が核家族であるにも関わらず正常経過群に比べ,親 になる自覚・イメージが妊娠する以前より既に高かっ たため上昇しなかったとも考えられる。  妊婦とその夫は,妊娠という出来事を経て親になろ うとするこの時期に,将来こんな自分になるだろうと いう予想,こんな自分になりたいという希望,こんな 自分になりたくないという不安で構成される,肯定的 側面のみならず否定的側面も含めた可能自己を持つと され,それは親になってからの自己概念や子育て意識 に大きな影響を与える(Markus, Nurius, 1986, pp.417-430)と報告している。従って,親になる自己のイメー ジを阻害しているものが何かを明確にし,対象に沿っ た方法で意図的に親になるイメージを膨らませること は,親準備性を高めるうえで有効と考えられた。 4.本研究の限界と今後の課題  本研究の対象者は,両群ともに回収率が低く,調査 に協力いただけた方は好意的な方であることが推察さ れ,一般的な集団であるとはいえない。また,①妊娠 の受容について確認していない,②ハイリスク妊婦の リスクの程度までは制御できていない,③親になる自 覚およびイメージの妊娠から結婚までの期間の回答は 想起によるもので,1時点における2つのデータ比較の 結果であり,調査時の情況が影響している可能性は否 定できず,統計学的な結果の解釈には慎重を期するな どのことからも一般化には限界がある。  今後はハイリスクな状態にある妊婦と夫がその環境 の中でも相互に作用しながら親準備性が高められるよ うに,本研究で明らかになったことに加え,阻害する 因子の明確化やそれとは逆の環境における工夫,妊婦 と夫の認識の差などを明らかにし,妊婦と夫がともに 行える支援を検討していくことが課題である。

Ⅷ.結   論

 本研究において以下の違いや特徴が明らかになった。 1 . 夫婦の関係性や胎児への愛着が親準備性におよぼ す影響は,リスクの有無に関係なく,妊婦において親 になる意識の中でも特に「親になる実感・心の準備」 と強い相関があることが推察された。しかし,両群の 夫・妊婦比較の中で,いずれもハイリスク夫群の得点 が最も低く,ハイリスク妊婦群の得点が最も高い傾向 にあったことから,親になる実感を高め,心の準備を 行ううえで相互作用の機能をうまく発揮できない可能 性が考えられた。 2 . 親になる意識では,両群の夫で6つの因子に有意 な差を認めなかったが,妊婦では「生まれてくる子ど もの心配・不安」でハイリスク群が有意に高かった。 また,「親になる実感・心の準備」で,ハイリスク夫群 が正常経過妊婦群と並んで最も低く,ハイリスク妊婦 群が最も高い傾向にあった。これは,ハイリスクであ るが故の結果であるとも捉えられ,ここからも夫婦間 に開きがあることが考えられた。 3 . 親になる自覚は,ハイリスク妊婦群以外は結婚か ら妊娠までから現在に向け高まっていた。ハイリスク 群では結婚から妊娠までの自覚が既に高かったことか ら正常経過群に比べ高まりの度合いが低く,ハイリス ク妊婦群では低下傾向にあった。その要因としては, 親になる意識におよぼす入院による否定的側面や親に なるイメージの高まりにくさの影響が示唆された。 4 . 親になるイメージは,結婚から妊娠までから現在 に向け有意差を認めなかった。しかし,正常経過群が 高まっていたのに対し,ハイリスク群では時間の経過 に伴いイメージしにくい傾向にあった。その要因とし ては,結婚から妊娠までの期間にイメージしていた親 になる自己と現在の状況がかけ離れていることが考え られた。  以上から,親になる具体的な準備を行う時期におけ る夫婦の関係性,親になる意識,自覚,イメージとい った認知的側面は胎児への愛着や出産後の親役割に影 響を与える可能性が考えられた。 謝 辞  本研究にご協力くださいました対象者の皆様に深く 感謝申し上げます。また,快く研究のフィールドを提 供し,ご配慮くださいました研究協力施設の施設長, スタッフの皆様へ感謝申し上げます。なお,本研究は 2013年∼2016年文部科学省補助金若手研究(B)(課題 番号25862191)の一部であり,第17回日本母性看護学 会学術集会で発表したものに加筆したものである。 文 献 母子衛生研究会(2014).母子保健の主なる統計.49,東京:

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